IS〜異端の者〜   作:剣舞士

27 / 34


やっとここまで来たって感じです。

では、どうぞ!




第25話 転校生

その日、IS学園の一年一組の教室は、騒然としていた。

それは、そのクラスの副担任である山田 真耶の言葉によってもたらされた事だ。

 

 

 

「ええ〜今日は皆さんに、転校生を紹介します」

 

 

 

その言葉に耳を疑う生徒達。

先月、二組に中国代表候補生である鈴が転校してきたばかりなのだ。

その事実があるためか、流石に動揺する者が多い。

隣の席の子とあれこれ話をしていると、真耶から注意を受けた。

 

 

 

「皆さん、静かに。まだ本人達の紹介を終えてません! では、お二方、入って来てください」

 

 

 

真耶の視線が、教室の入り口のドアへと向けられる。

真耶の進言の後、それに応える様にドアが開く。そこから入ってきたのは、外国人二人だった。

静寂に包まれる中、二人は教壇の前に立つとクラスの生徒達に面と向かった。

 

 

 

「えっと、シャルル・デュノアです。フランスから来ました。皆さん、よろしくお願いします!」

 

 

 

まず初めに、先頭を歩いてきた金髪が特徴の生徒。

綺麗に整えられた金髪と、どこか中性的な顔立ち、そして、大手の会社の子息と思しき気品ある雰囲気。しかし、その生徒の特徴には、もっと大きな物があった。

それは、スカートではなく、男子生徒用のズボンを履いていた事だった。

 

 

 

「えっ? 男?」

 

「あっ、はい! そうです。えっと、こちらには、僕と同じ境遇の方が二人いると聞いててーーー」

 

「き……」

 

「へ?」

 

 

 

自己紹介の途中なのだが、クラス全員の反応を見て、転校生シャルルが止まった。

そしてその瞬間に、一夏と千秋だけは、耳を塞いだ。

 

 

「「「「きゃあああああーーーー!!!!」」」」

 

「うわっ?!」

 

 

 

突然の絶叫に驚くシャルル。

何事かと目をパチパチと瞬きして見ることしか出来なかった。

 

 

 

「男子! 三人目の男子!」

 

「しかも美形! 守りたくなっちゃう感じの!」

 

「やったぁーー‼︎ 一組バンザァーイ‼︎」

 

「お母さん、産んでくれてありがとーう!!!」

 

 

 

思い思いに絶叫する面々。

本来は女子しかいなかった学園に、男が三人も入ってきたのだ。それも一組限定で、だ。

これを喜ばない者はいないだろう。

 

 

 

「み、皆さん?! 静かにして下さい! まだもう一人の生徒さんの自己紹介がまだですよ?!」

 

 

 

流石に焦った真耶も、すかさずフォローに入る。

千秋の時も、一夏の時も、必ずフォローに入った真耶。ほんと、苦労人だ。

 

 

(まぁ、俺と千秋の時も似た様なものだったしな……。山田先生、ごめんなさい)

 

 

 

一応心の中で謝っておく。

と、そうしている内に、もう一人の転校生が紹介された。

今度は金髪のシャルルとは対照的な、混じり気のない銀髪ストレートの小柄な少女。

だが、その少女に対して一番目を引く印象深いものがあった。

それは、彼女の左眼を隠している黒い眼帯の存在だ。

 

 

(この子が千冬姉の教え子か……実際に見てみると、より幼く見えるのは俺だけか?)

 

 

実際に他の生徒達よりも幼く見えた。

その体格や雰囲気からなのか、そして、隣にいるシャルルとの印象の差もあってだろう。

だが、その顔つきは現役軍人さながらの整った、凛々しい印象を与えた。

 

 

 

「自己紹介をしろ、ボーデヴィッヒ」

 

「は! 教官!」

 

「私はもう教官ではない。ここでは織斑先生と呼ぶように」

 

「は! 了解しました、織斑先生!」

 

 

 

さながら軍人と教官の挨拶と言ったところだろうか。

どこまでも規律正しく、真っ直ぐ千冬を見て、敬礼するラウラ。そしてそれを見て応える千冬。

この光景をみると、本当に教官だったのだなと思ってしまう。

そうして会話が終わると、ラウラは再び生徒達全員を見渡すラウラ。

 

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「…………」

 

「えっと、以上……ですか?」

 

「以上だ」

 

 

 

たった一言。

シャルルの様にお願いしますも無しに、たった一言で自己紹介が終わってしまった。

そしておもむろに、千秋と一夏を確認すると事前に聞いていたのか、空いている自分の席へと歩いていった。

 

 

 

「んんっ! これでホームルームは終わりだ。一、二時限は二組と合同で、ISの実習を行う。急いで着替えてグラウンドに集合する様に。では、解散!」

 

 

 

千冬の号令により、各々が立ち上がり、ISスーツへと着替えを始める。

 

 

 

「織斑、更識」

 

「はい」

「何でしょうか」

 

「デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子同士だろ?」

 

「あ、はい。わかりました」

 

「了解です」

 

 

 

千冬に促され、二人は改めて第三の男子、シャルル・デュノアと対面した。

 

 

「初めまして、僕はーー」

 

「あ〜、それはまた後でね。ほら、早く行かないと」

 

「ふえっ?」

 

 

 

シャルルの自己紹介を中断させ、手を取る千秋。

その反応で、なんだか可愛らしい声が出たのは気のせいだろうか……?

ともかく、一夏と千秋、シャルルは一組の教室を出て、アリーナの方面へと走り出した。

 

 

 

「あ、えっと……君が織斑くんでいいんだよね? えっと、もう一人の更識くんを置いてっていいの?」

 

「は? いるじゃん、そこに」

 

「えっ?!」

 

 

驚いて後ろを振り向くシャルル。

そこには薄桜色の長い髪を優雅に靡かせながら走る美しい少女がいるだけだった。

が、自分と同じ男子用の制服を着ている事に気付いた。

 

 

 

「えっ?! さ、更識 “くん” っ?!」

 

「ん……まぁ、そういう反応が当然なんだろうが……なんだろう……凄く傷つく」

 

「うわっ! ご、ごめん! 決してそういうわけじゃーー」

 

「二人とも、早くしないと捕まるよ!」

 

「ああ、そうだったな……だったら、もうそろそろ来るんじゃないか?」

 

「え? 来るって……何が?」

 

 

 

 

「いずれ分かる」という一夏の言葉に、シャルルは首を捻っていると、前方の曲がり角からもの凄い地響きに似た音と、女子生徒達の声。

そして、それは突然、正体を現した。

 

 

 

「あー!!! 織斑くんたち発見!」

 

「噂の転校生も一緒よ!」

 

「あぁ〜〜織斑くんの黒髪もいいけど、デュノアくんの金髪も映えるわねぇ〜〜!」

 

「そして、更識くんはーー」

 

 

 

一同に一夏を眺めた後、全員の意見が一致した。

 

 

 

「「「「今日も一段とお綺麗ですね!!!!」」」」

 

「それ褒めてんのかっ!? 貶してるだけだろっ‼︎」

 

 

 

男に綺麗だとか可愛いとかの言葉は、果たして褒め言葉として役立つのか……。

少なくとも、一夏にとってはあまりいい気分ではない。

 

 

 

「やばい……囲まれたね」

 

「どうするの?」

 

「敵陣突破しかないだろ……行くぞ!」

 

 

 

一夏を先頭に、三人は前方の道を塞ぐ女子生徒達の壁に突っ込んでいく。

と、思いきや、すぐ近くにあった横道に逸れて、全速力で走る。

 

 

「あー待って! せめて写真一枚!」

 

 

 

おそらく黛先輩だろう。

今日も今日とて、情報が早い。

さすがは新聞部の部長だ。だが、こちらは時間に遅れると鉄拳制裁が下される為、遅れるわけにはいかないのだ。

そうやって走ること数分。三人はようやくアリーナの更衣室へと到着する。

着いたと同時に部屋の鍵を閉める。先ほどの女子生徒達の侵入を防ぐためだ。

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「なんか、凄かったね……」

 

「悪いな、転校初日から慌ただしくて」

 

「いやいや、ありがとう助かったよ。もし僕一人だったら、間違いなく捕まってたし」

 

「そうだね。それにしても、今日は一段と多かったと思うよ」

 

「まぁ、男子三人集まってるんだからそうなるだろうな」

 

「一人は疑わしいけどね♪」

 

「うっせ」

 

「それなんだけどさ……えっと」

 

 

 

 

シャルルは一夏をおもむろに見回す。

 

 

 

「本当に更識くんは男……なんだよね?」

 

「あぁ。このなりには……まぁ、ちょっと事情があってな。昔からなんだよ。っと、自己紹介がまだだったな。

俺は更識 一夏だ。更識は一年にあと二人、二年に一人いるから、俺のことは一夏で頼むよ。よろしくな、シャルル」

 

「僕は織斑 千秋。僕のことも千秋でよろしくね! ウチの担任も織斑だし……。これからよろしくね、シャルル」

 

「うん! よろしくね二人とも。改めまして……シャルル・デュノアです! フランスの代表候補生です!」

 

 

 

改めて互いに自己紹介を交わし、名前で呼び合うことを了承したその時、ふと千秋が室内に取り付けられていた時計に目を向ける。

 

 

 

「うわっ! やばいよ、早く着替えないと!」

 

「あっ、ほんとだな……急ぐぞ!」

 

「う、うわっ!」

 

 

 

時間が無い為、急いで制服の上着を脱ぎだした一夏と千秋に、シャルルは何故か驚き、両手で顔を覆うと、さらには反対方向へと向き直り、一夏たちに背中を見せる。

 

 

 

「ん? シャルル? どうしたの……?」

 

「いや、うん……。何でもないよ?」

 

「そう? でも、早く着替えないと、ほんとにやばいよ? 強烈な一撃が頭に落ちることになるんだから……」

 

「う、うん……着替えるよ……。うん……。だけど、あまりこっちを見ないでもらえると……嬉しい……かなぁ〜……なんて」

 

「ん? まぁ、あまりジロジロと他人の着替えを覗く趣味はないけどさ……」

 

 

 

シャルルを気遣い、一夏と千秋はシャルルとは反対方向を向いて着替え始める。

と言っても、ただ制服を脱いでISスーツへと着替えるだけなので、そうそう時間はかからない。

 

 

 

「シャルル、終わったか?」

 

「う、うん! もう、大丈夫だよ」

 

 

 

一夏が一応確認のためにシャルルに尋ね、了承を得たので向き直る。

そこには、千秋と同じ男子型のISスーツを着たシャルルの姿があった。

 

 

「着替えるの早いんだね、シャルルは……」

 

「そ、そうかな? 普通だと思うけど……」

 

「そのスーツ着やすそうだね。どこの?」

 

「ああ、デュノア社の特注品だよ」

「デュノア? 確か、シャルルもデュノアだよね? もしかして……」

 

「うん、その通り。デュノア社は、僕の父が運営してるんだよ」

 

 

 

フランスの大手のIS開発企業。第二世代型ISの量産に力を入れているデュノア社。

その開発期待『ラファール・リヴァイブ』は、高い汎用性を持ち味に、操縦者を選ばない、使い勝手のいい機体として世界中の軍や研究施設、そして、IS学園にも配備されている。

 

 

 

「なるほどねぇ〜。通りでシャルルは良いところの出だろうなって思ってたよ。納得した」

 

「良いところの出……かぁ……」

 

「…………」

 

 

 

千秋の言葉に少し眉をピクリと動かし、その後少し俯きながら、途端に声のトーンを落として話す。

その瞬間を、一夏だけが見逃さなかった。

だが、あまり掘り返すのは躊躇われたので、何もするつもりは無かった。

 

 

「ほら、着替えたんなら早く行くぞ。そろそろ時間的にも危なくなってきた」

 

「そうだね。急ごうか!」

 

「う、うん!」

 

 

 

三人は更衣室のドアを開け、急いでグラウンドへと向かい、走り出した。

 

 

 

「にしても、一夏のその髪、綺麗だね……!」

 

「そうか? 俺は男だからなぁ……あまり綺麗だとか言われてもな……」

 

「あっはは、そうだよね。ごめんごめん」

 

「そう言うなら、お前の金髪だって綺麗じゃないか」

 

「へ?! そ、そうかなぁ〜」

 

「あぁ、ウチのクラスにはもう一人金髪の子がいるけど、その子とはまた違った感じの色合いだからな……見ていて新鮮だよ」

 

「そうかなぁ〜……えへへ」

 

「俺も、この髪な長いからなぁ……いろいろと試行錯誤はしているんだけど……」

 

「だったら髪型変えてみたら?」

 

「髪型ねぇ〜」

 

「とりあえず、グラウンドはすぐそこだし、時間も大丈夫そうだから、今やってあげようか?」

 

「え? いいのか?」

 

「なら、僕は先に行ってるよ!」

 

 

そう言うと、千秋は我先にと走って行った。

一夏とシャルルは、その場に立ち止まり、シャルルが一夏の後ろに回る。

 

 

「うん、いいよ! じゃあ、少し止まっててね……」

 

 

 

 

髪をそっと触っては、丁寧な手つきで纏めていく。

手慣れたその手つきは、なんだか気持ちいいとさえ思ってしまうほどだった。

 

 

「シャルルうまいな」

 

「え? ま、まぁね……! ほら、僕も結構髪長いからさ!」

 

「まぁ、確かに……」

 

「それにしても、一夏って本当に髪綺麗だよね……男の子の髪とは思えないよ……‼︎」

 

「…………」

 

「うわっ! ごめんごめん! でも、本当に綺麗なんだって!」

 

「男に綺麗は褒め言葉なのか?」

 

「うーん……断言はできないけど、ほら! 肌が綺麗とか、鼻が高いとか、ええっと……ええっと……!」

 

「プフッ……ありがとう」

 

 

 

必死になって弁明しようとするシャルルが面白く、笑ってしまった。

それを見てシャルルも口を尖らせて抗議するが、すぐにつられて笑ってしまう。

 

 

 

「どうだ、髪型の方は?」

 

「うん、あともうちょっとで……よし! 出来たよ!」

 

 

 

完成したといい、校舎のガラス窓を見てみる。

そこには、長い髪を束ねて、シャルルと同じ髪型になっている一夏の姿があった。

 

 

「へへっ、僕とお揃いだよ」

 

「おおっ。いいな、これ! やっぱ髪型で変わるんだな! 動きやすい」

 

「あっはは……そこなんだ。でもやっぱり似合ってるよ、一夏」

 

「ありがとなシャルル」

 

「どう致しまして」

 

 

 

二人で意気投合して、いい感じの雰囲気になってきていたのだが、その雰囲気をぶち壊す様に、授業の開始を知らせるチャイムが鳴り響いた。

 

 

「「しまった!!!!」」

 

 

 

二人は急いで走っていく。

グラウンドは見えていたのだが、整列している生徒たちは、校舎のところから少し離れているため、もう遅刻は確定だ。

 

 

「悪りぃシャルル! 俺のせいで!」

 

「ううん。いいよ、これくらい! でもまぁ、叱られるのは回避出来ないよねぇ……」

 

「あぁ、出席簿アタックが来るかもな……はぁ……」

 

 

 

鉄拳制裁覚悟で整列している集団の元へと向かう。

そこには当然担任の千冬と、二組の担任と副担任が待ち構えており、なにやら千秋と千冬が話していた。

 

 

 

 

 

 

「あの二人はまだなのか?」

 

「すみません、なんかちょっと遅れてるみたいで……」

 

「それでお前だけこっちに来たと……」

 

「まぁ、そう言う感じですね……。でもそう掛からないって言ってたんですけど……」

 

「そうか……っと、噂をすればだな」

 

「おっ! 二人とも! 何やってんの! 早く早く!」

 

「おう! 悪い!」

 

「ごめんなさい! 遅れました!」

 

 

 

今尚こちらに向かってくる二人を見て、千秋以外の面々が目を見開いた。

同じ髪型の髪を揺らしながら走ってくる男子二人に、女子生徒だけではない、教師たちも目が釘付けにされてしまったのだ。

 

 

 

「「「「ぺ、ぺ、ペアルックーーーーッ!!!!!???」」」」

 

 

 

一、二組の生徒全員の声がハモった。

そして、見比べる。桜色の髪が優雅な一夏と、金色の髪が煌びやかなシャルル。

交互に見渡す女子生徒たち。

 

 

 

「ああっ……いい! いいわよ! 最ッ高ぉぉにいい絵が撮れてる‼︎」

 

「デュノアくんもいいし、更識くんがまたぁ〜〜!!」

 

「はぁ〜〜、女神だわ……っ!」

 

 

 

大絶賛の声を聞きながら、二人はこの実習を取り仕切る千冬の元へと急ぐ。

 

 

 

 

「「すみません! 遅れてしまいました!」」

 

「……理由はなんだ?」

 

「えっと、俺がシャルルに髪型をセットしてもらってて……。なので、悪いのは俺です! シャルルは見逃してもらえませんか?」

 

「一夏?! それはダメだよ!僕が提案したことだし……!」

 

「元々俺の勝手でこうなったんだから、シャルルは何も悪くないよ」

 

「で、でも……」

 

「織斑先生。シャルルは見逃してもらえませんか?」

 

 

 

一夏は真っ直ぐ千冬の目を見て請願した。

あまり期待は出来なかったのだが、転校初日の生徒であるシャルルをいきなり鉄拳制裁はしないだろうと、勝手な思想での判断だ。

それは千冬の心情で変わって来るが、一夏はなんとか賭けてみたのだ。

 

 

 

「…………」

 

 

 

ただジィーっと見つめる千冬。

やはり無理なのかと思ったその時、一瞬だけ、千冬が視線を逸らし、明後日の方へと向き、咳払いを一つした。

 

 

「更識。次回からはこの様なことがない様、自分で髪を手入れできる様にしておけ。いいな」

 

「え? ……あ、はい……」

 

「デュノアもだ。今回は大目に見るが、次はないぞ? 分かったか」

 

「は、はい!」

 

「では急いで整列しろ」

 

 

 

何もなく整列させられ、少し驚きを隠せない二人……いや、生徒たち全員が驚いていただろう。

そのせいか、生徒たちの間でざわざわと話し声がちらほら聞こえてくる。

 

 

 

「静かにしろ! これより、一、二組合同でISの稼働実習を行う! 生徒諸君は気を引き締めてかかれよ。でなければ、怪我するだけだぞ。いいな」

 

「「「「はい‼︎」」」」

 

 

 

無駄に動揺することなく、千冬の一喝で再び緊張感MAXの状態になる。

その後、今日やる実習内容を少し説明した後、まずは戦闘の実演をしてもらうべく、先生たちに指示を出していた。

 

 

 

(あそこで更識を殴っては……私の方が悪者になってしまうな……)

 

 

 

先生たちに指示を出した後、ほんの少しだけ、自分の心の中でそう呟き、視線を一夏に向けた。

が、すぐさま心を入れ替え、教師と言う立場の自分に戻る。

 

 

「では、ISの戦闘実習をやってもらう。凰、オルコット!」

 

「「はい‼︎」」

 

「専用機持ちなら、すぐにやれるな? 前に出ろ!」

 

「はぁ〜。なんで私が……面倒くさいなぁ〜」

 

「こう言うのは見せ物みたいであまり気が進みませんわね……」

 

 

 

ぶつくさと文句を言いながらも、千冬の指名である為、前に出てくる二人。

千冬はそんな二人の様子を見て、ため息を一つつくと……。

 

 

 

「お前達、ちょっとはやる気を出せ……。“あいつ” に良いところを見せられるチャンスじゃないのか?」

 

「「はっ‼︎」」

 

 

その言葉。“あいつ” という言葉が指し示すものは、当然 “一夏” のことであった。

 

 

 

「そ、そうよね〜! せっかく専用機持ってるんだし、やってやらないこともないわねぇ〜!」

 

「そうですわね。わたくしの華麗な操縦技術を、お見せしますわ!」

 

 

 

 

突然豹変した二人。

千冬が何を言ったのかは聞こえなかったが、それでもいきなり変わった二人を見て、女子達は分かった。

一夏か千秋、どちらかぎだしに使われたと。

そして、肝心の一夏たちは……。

 

 

 

 

「ねぇ、今、織斑先生なんて言ったの?」

 

「さぁ、僕は聞こえなかったけど……一夏は?」

 

「いや……俺もわからん」

 

 

 

千冬の口を読もうとしたが、ふと千冬の視線と目が合ってしまい、口を読むのを躊躇ってしまったのだ。

故に、一夏にも何を言ったのかは分からなかった。

 

 

 

「それで? 私たちは誰とやるの? もしかしてセシリア?」

 

「ふんっ、上等ですわ。返り討ちにして差し上げます」

 

「ほぉ〜? 言うじゃない」

 

「えぇ。何度でも言って差し上げますわ……‼︎」

 

 

 

 

見えない火花が互いの視線でぶつかり合い、弾ける。

 

 

 

 

「慌てるな馬鹿者。対戦相手なら……」

 

 

 

上を見上げる千冬。

それとほぼ同時に空から悲鳴の様な声が聞こえてきた。

 

 

 

(んっ?! これは……っ!)

 

 

 

一夏の《ストライク・ビジョン》に映った光景。

上からISを装着した真耶が、回転しながら落ちてくる光景が。

 

 

 

「うわあああああーーーー!!!! どいてくださあぁぁぁい!!!!」

 

「やばい! こっち来たよ!」

 

「みんな逃げろぉぉぉぉ!!!!」

 

「「「わあぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 

 

 

慌てふためく女子生徒たちと千秋、シャルル。

だが、一夏だけはただ一人冷静で、その場に佇んでいた。

 

 

 

「来い、桜舞!」

 

 

 

瞬時に一夏の体が光に包まれ、その身に蒼い天使が現れる。

羽根を開き、蒼いブースターの光りが吹き出る。

一気に上昇した一夏は、回転しながら落ちてくる真耶の腕を掴んで、ブースターを吹かせて、回転の勢いを中和すると、今度は両手で真耶をしっかり掴み、空中で停止させた。

 

 

 

「あうう……」

 

「ったく……先生って確か、代表候補まで行ったんじゃないんですか?」

 

「は、はい……よくわかりましたね」

 

「まぁ、俺も更識の者ですので……」

 

「あっ、そうでしたね。まぁ、確かに更識くんの言う通りなんですげど……そうなんですけど……」

 

「けど?」

 

「いや、織斑くんたちがいる目の前で、初めての実習だったので、その……舞い上がっちゃって……」

 

「は、はぁ……。だけどしっかりして下さいね。あのまま突っ込んでたら、一人二人の怪我人が出ていたんですから」

 

「は、はい……気をつけます」

 

 

 

生徒である一夏に注意をされ、落ち込む真耶。

そんなこといざ知らず、一夏は真耶を掴んだまま、地上に降りていく。

地上に降りた後は、一夏は桜舞を解除し、再び生徒たちの中に入っていった。

 

 

「えっと、ちふ……織斑先生? もしかして相手って……」

 

「あぁ、山田先生だが?」

 

「もしかして二対一で、ですの?」

 

「いや、流石にそれは……」

 

「心配するな。山田先生はああ見えて、元代表候補だ。先ほど更識も言っていただろう……。それに、今のお前たちならすぐに負けるさ」

 

「「むっ!」」

 

 

 

 

千冬の言葉にカチンとくる二人。

仮にも二人も代表候補生である為、そのプライドが許さなかったのだ。

 

 

「上等じゃない! やってやるわよ!」

 

「よろしいですわ! このセシリア・オルコットとブルー・ティアーズの輪舞を見せて差し上げますわ!」

 

「ふんっ、口だけは一人前だな。それでは上空へ飛翔。その後、安全空域に到着次第、模擬戦を開始する。では、飛べ!」

 

 

 

鈴の専用機『甲龍』とセシリアの専用機『ブルー・ティアーズ』、そして、学園の訓練機である緑色の『ラファール・リヴァイブ』を展開した真耶が上空へと飛翔。

ある程度の高さまで登ると、その場で停止し、鈴とセシリアは真耶を、真耶鈴とセシリアの二人を互いの目で捕捉する。

 

 

「言っておきますが、手加減は致しませんわよ」

 

「ほいほいやられてちゃ、代表候補生の名折れだしね……全力で行くわ!」

 

「い、行きます!」

 

 

 

 

インカムで三人の会話を聞いていた千冬。

右手を上げ、天辺まで持ってくると一気下へと振り下ろす。

 

 

 

「始め‼︎」

 

 

 

千冬の言葉を聞いて、三機が動き出す。

セシリアは得意な遠距離射撃を。鈴は一旦距離を取り、中距離からの衝撃砲で真耶を狙う。

真耶もまた、リヴァイブの得意な距離である中距離を保ちつつ、セシリアの狙撃を躱し、鈴の衝撃砲をリヴァイブに取り付けられている盾を呼び出し、受け切る。

 

 

 

 

「デュノア、山田先生が乗っている機体の説明をしてみろ」

 

「は、はい!」

 

 

 

三人の戦闘を見ながら、千冬はシャルルを指名し、山田先生が乗る機体、『ラファール・リヴァイブ』の説明を要求した。

 

 

 

「えっと、山田先生の機体は、デュノア社製『ラファール・リヴァイブ』。フランスの量産機として、デュノア社が開発した機体で、その特徴は高い汎用性にあります。

その特徴の通り、どんな操縦者の癖にも対応し、またバックパックも選べることから、様々な戦闘スタイルを展開できることから世界でも多く配備されています」

 

「うむ。それくらいでいいだろう……さて、勝負はどうなったか……」

 

 

 

 

シャルルの充分な説明を受け、千冬も納得した様で、そこで説明を区切り、視線を再び上空へと向ける。

そこでは、いまもなお戦闘が行われていた。

 

 

 

 

「くっ! なんと言う操縦技術!? 全く当たりませんわ!」

 

「セシリア、あんたは援護だけでいいわ! 私が落とす!」

 

「ちょっ、鈴さん!?」

 

 

 

鈴は衝撃砲での射撃を中断し、双天牙月を両手に展開する。

自身の得意な接近戦に持ち込む為に。

 

 

 

「正直、射撃はあんまり得意じゃないのよねっ‼︎」

 

「くうっ……私はあんまり接近戦はしたくないんですけどね……」

 

 

そう言いながらも、真耶の両手には小銃とショットガンが握られる。

近接戦に特化した銃の型『ガン・カタ』だ。

 

 

 

「くっ、やっぱりそうくるわよね……っ‼︎」

 

「行きます!」

 

 

 

真耶の操縦者としての技量は、先ほどから戦っている鈴たちにはもうわかっている。

それに加え、射撃技術もまたセシリアの長距離狙撃には及ばないにしても、今の鈴と真耶の距離ならば、絶対的な真耶の領域になっている。

小銃で牽制し、鈴の行く手を阻むだけではなく、更にそれを誘導に使い、あえて自身から鈴の間合いに入ると、近距離からのショットガン。

炸裂する弾雨が、鈴を襲う。

 

 

 

「だあぁぁぁ、もうっ‼︎ かったるいわねっ‼︎」

 

 

 

鈴はそれに対し避けることはせず、双天牙月を盾に使い、突っ込んでいく。

そして、もう一つの双天牙月を振りかぶり、横薙ぎに一閃。しかし、この攻撃は、いとも簡単に躱されてしまう。

追撃しようにも、小銃からサブマシンガンに切り替えた真耶の攻撃は増すばかり……。

これには鈴も耐えきれず後退し、回避するしかなかった。

その一方で、セシリアはビットを操作し、真耶との射撃戦に入った。

 

 

 

「射撃はわたくしの独壇場でしてよ!」

 

「負けませんよぉ〜〜!!!」

 

 

 

真耶の実弾とセシリアのレーザー光弾が飛び交う。

ビットでの包囲攻撃も、真耶はISの飛行技術を駆使して凌ぎきる。

対してセシリアは、飛び交う実弾の雨に苦戦を強いられていた。

 

 

 

「ああもうっ! これだから実弾はーーー」

 

 

 

悪態をついている途中、セシリアのISから、危険信号が出される。

 

 

 

「へぇ?」

 

「えっ?!」

 

 

セシリアが回避をした先には、どうにか間合いに入ろうとして、戦線に入ってきた鈴がいた。

 

 

「り、鈴さん?!」

 

「ちょ、ちょ、ちょっ!!?」

 

 

 

二機が徐々に近づいていき、やがて派手に衝突した。

 

 

 

「鈴さん?! そこで何をしてますの!」

 

「それはこっちのセルフよ! 何簡単に誘導されてんのよ、あんたは‼︎」

 

 

 

派手に衝突した二人はその場に言い争いになり、その隙を見逃す真耶ではなかった。

サブマシンガンとショットガンを収納した後、右手に展開したグレネードランチャーの照準を今まさに固まっている二人に向ける。

 

 

 

「チェックメイト、です!」

 

 

 

ニコッと笑い、かけていた眼鏡がキラリと光る。

放たれたグレネードランチャーの砲弾は、真っ直ぐ、狂うことなく言い争っている二人の下へと飛翔する。

 

 

 

「あ……」

「へ……」

 

 

 

最後の最後で間の抜けた声を発し、その後は、大きな爆発を浴びせられ、地面へと真っ直ぐに落ちて行くしかなかった。

 

 

 

「「きゃあぁぁぁ!!!!」」

 

 

 

かくして、二対一で行われた模擬戦は、真耶の完全勝利で幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

「あんたねぇ……なに回避先を読まれてんのよ……っ!」

 

「鈴さんこそ、あんなに馬鹿みたいに突っ込んで行くからそうなるんですのよ!」

 

「何よ!」

 

「何ですの!」

 

 

 

そして、二人の言い争いは、まだまだ続いたのだった。

 

 

 

 

「山田先生、ご苦労様でした」

 

「いえいえ、これくらいなんとも無いですよ」

 

「諸君を見たと思うが、この学園の教師もまた、ISの操縦技術に関しては諸君らよりも群を抜いている……。

今後は敬意をもって接するように。いいな?」

 

「「「はい‼︎」」」

 

 

 

 

目の前で見せられたIS学園の教師による戦闘。

現役の代表候補生二人をたった一人で打ちのめした……そしてその人物は、山田先生。

今までフレンドリーに接してきた生徒たちも、こらばっかりは敬意を持ったことだろう。

その後、学園にある訓練機四機をグラウンドへと持ち込み、ISの稼働訓練へと入る。

その補佐として、すでに専用機を持っている代表候補生四人と、男子二人、千冬の計七人でグループに分かれて担当することとなった……のだが……。

 

 

 

 

「織斑くん、よろしくね!」

 

「優しく教えてね!」

 

「よろしくお願いします!」

 

「デュノアくんの操縦技術を見たいなぁ〜」

 

「デュノアくん、お願いします!」

 

「やっぱりデュノアくんがいい!」

 

 

 

 

と、女子生徒たちが集まるのは、男子が担当するグループ。

当然一夏のところにも来たのだが……。

 

 

 

「更識くん! 結婚してください!」

 

「私と付き合ってぇ〜!」

 

「好きです! 私を抱きしめて!」

 

「なんか俺だけ違うんだけどッ!?」

 

 

 

超ド級のストレート告白だった。

こんな簡単に言えるこの子達って凄いなぁと感心してしまった。

 

 

 

「ちゃんと分かれんか馬鹿ども‼︎ IS装備のままグラウンドを十周したいか! 出席番号順に並べ!」

 

 

そこに響き渡るのは千冬の怒号。

その一言だけで、集まっていた生徒たちは蜘蛛の子を散らしたように七グループにきちんと分かれた。

鬼教師たる千冬の言うことは絶対だ。

その後は、なんの問題もなく実習をやっていき、そのまま解散となった。実習終了後、男子はISの片付けを命じられたのだが、一夏とシャルルだけは、何故か女子も手伝うと言い出し、二人の運ぶISハンガーには女子達でごった返しになっていた。

 

 

 

 

 

 

実習終了後の女子更衣室。

そこで、着替えを済ませた転校生、ラウラ・ボーデヴィッヒは早々に更衣室を後にすると、校舎を抜け、中庭へと続く通路に入った。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

次の授業もあるため、ほとんどの生徒が教室、または移動先の実習室へと向かっているので、そこにいる生徒たちの姿は皆無。……のハズだったのだが、校舎を支えている柱から、人影が一つ伸びてきて、やがてラウラの前で止まる。

 

 

 

 

「やぁ、転校生」

 

「っ………貴様は」

 

 

 

目の前の人物に驚くラウラ。

それもそのはずだ。なにせ、“自分が最も尊敬している人物の顔にそっくりだったのだから”。

一つ違うといえば、見た目は本人よりも若々しく、自分たちと同じ、IS学園の制服をまとっていることだろうか。

 

 

 

 

「貴様、何者だ?」

 

「そう警戒するなよ……。お前と私は同じ人種だろ?」

 

「…………。意味がわからんな」

 

「そんなこと無いはずだ。お前も、私と同じで色々と混じって、壊れているような匂いがするからな……。それにドイツからの転校と来たもんだ。考えられるのは一つだけだ」

 

 

 

 

そう言って、目の前の人物。更識 マドカは言った。

 

 

 

 

「私と同じ、遺伝子強化試験体……通称アドヴァンスドの、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

「っ!」

 

 

 

 

ラウラの射抜くような鋭い視線と、マドカの悠然とした笑みが日常を感じさせる校舎の中で、激しくぶつかり合ったのだった。

 

 

 

 

 






次回はIS編の他にも、もう一度魔法戦を入れようかなと思っています!

感想、よろしくお願いします^_^


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。