IS〜異端の者〜   作:剣舞士

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久しぶりの更新!

今回は、頑張って魔法戦を書いてみました。
設定をもうちょっとしっかりしたほうがいいかな?

まぁ、とりあえず、楽しんで読んでください!
どうぞ!




第23話 魔法戦

「焼き尽くせ! 〈ヘルハウンド〉!!!」

 

「蒼刃ッ十文字ッ!!!」

 

 

 

研究所内の一室。

そこでは激しい戦いが行われていた。

方や綺麗な金髪をなびかせ、煉獄の炎に包まれた魔獣を操る女性。そして、もう片方は鋭く研ぎ澄まされた日本刀を片手に、並み居る魔獣を斬り伏せる水色髪の少女。

炎の魔獣がその鋭い牙と爪で襲いかかれば、たちまち少女のもつ日本刀から、蒼穹の光が溢れ出て、斬撃を飛ばしたり、いとも容易く魔獣を斬り刻んでいく。

 

 

 

「な、なんなんだお前たちは……‼︎ お前たちは、一体ーーー」

 

「だから言ってんだろうが、魔法使い! お前が作りたがってた人種だよ」

 

「ヒィッ!!!」

 

 

 

実験室の隅っこの方で、刀奈達の戦闘を見ていたマハル。

自身が望んだ存在が、今目の前に三人はいる。その事に驚きだが、その圧倒的な力が、自身の命を奪いかねない事を知った途端、その心には驚愕から恐怖へと変わっていった。

恐怖に怯え、後ずさりをしていた時、そこにはオータムが待ち構えており、マハルの進路を阻む。

 

 

 

「さて、うちらの目的は初めからテメェが持ってるそのデータだけだ……。

抵抗しない限り傷つける事はしない……さぁ、それが分かった上で、お前はどっちを選択する?」

 

「どっち……?」

 

「あぁーーー」

 

 

 

オータムは長剣を地面に突き刺す。その剣は、地面に深々と突き刺さり、まるで重機が上から落ちてきたのかと疑うほどの衝撃を放った。

 

 

 

「ーーーデータを渡して生きながらえるか、それともデータを渡さず、ここで死ぬか、二つに一つだ……!!!」

 

 

 

そう言って、オータムは長剣を振り上げて、停止させる。いつでも振り下ろせる……つまりはいつでも殺せるぞと言っているのだ。

 

 

 

「ま、待て! 貴様らはこれがどういったものかわかっているのか?! 魔法という未知のものによる世界の改変! それが我々の目指すものだ!

だが、貴様らは何のためにこのデータを欲する!?」

 

 

 

まぁ、もっともな意見だ。亡国機業がデータを欲する理由がわからない。現時点でも確認できている魔法使いは二人。この場にいるオータムとスコールだ。

この二人がどうやって魔法の力を手に入れたのかはわからない……そして、亡国機業がどれほどの規模の人材がいるのかが不明な為、彼女達以外の魔法使いの情報、人数もわからない。今ここにいる二人だけしか居ないのならば、このデータにあるように、魔法による攻撃で魔法使いの発生を促すと言う事が出るので、テロリストとしてはもってこいの代物だ。

 

 

 

 

「そんな事、あのなぁ、おっさん……」

 

 

 

オータムは再び剣の切っ先を地面に突き刺す。

今度のは、見た目通りの重さの振動が伝わってきた。

 

 

 

「うちらもその『世界の改変』ってヤツをしてぇから欲しいんだよ……!」

 

「な、何?!」

 

 

 

獰猛な獣を彷彿とさせる犬歯を見せ、ニヤッと笑うオータム。

彼女の言う世界の改変がどういったものなのか、さっぱりわからなかった。

 

 

「世界の……改変だと……? ならば、我々の目指すものと同じではないか!? 我々もそれを望み、貴様らもそれを望んでいる……完全に利害は一致しているはず!」

 

「いやいや、全然違うわぁ……。うちらが入ってるのはあんたらみたいなちっさい嫉妬や被害妄想から生まれたもんじゃねぇよ……

本物の意味で、この世界を変えるつもりなのさ……!!!」

 

「な、何を……?!」

 

「十年前、ISの登場によって世界が変わった……なら、またそれをやって世界を元に戻せばいい……この魔法という兵器でな!!!」

 

 

オータムの長剣が、持ち上がったと思いきや、勢いよくマハルの右肩を貫通する。

吹き出る真っ赤な血が迸り、マハルの絶叫が室内に響いた。

 

 

 

「があぁぁぁぁぁッ!!! 肩が! 私の肩がぁぁぁ!!!」

 

「さっさとデータを渡せ……じゃないと順番突き刺してやるぞ。

次は左肩、その次は右脚、左脚……さぁて、お前はどこまで耐えられる?」

 

 

 

狂気の笑みを浮かべ、再び剣を構える。

 

 

 

「やめなさい!!!」

 

「っ!」

 

 

剣を振り下ろそうとした途端、オータムがいた場所に、蒼い閃光が放たれた。

もちろん咄嗟にバックステップで回避したので、直撃はしなかったが、もしも直撃していたのなら、軽く腕一本は吹っ飛ばされていたであろう威力の斬光だった。

 

 

 

「おいおい、あぶねぇだろ!」

 

「人一人殺す事をなんとも思わないような人間のくせして、意外と繊細なのね?」

 

「バァカ……余計殺したくなるからだ、よッ!」

 

 

 

オータムが刀奈に斬りかかる。

剣を軽くニ、三度振って、勢いよく上段から振り下ろす。

それに合わせて、刀奈もアスペクトである刀《蒼月》で受け止めようとするが……

 

 

 

「…っ!」

 

「おらぁ!!! 死ねぇぇぇッ!!!」

 

 

 

咄嗟に反応し、右にステップして躱す。

そして、振り下ろされた剣によって、刀奈のいた地面は、とてつもない衝撃と共に、ひび割れ、直径1メートルの大穴が開いた。

 

 

 

「な、何よその馬鹿力……!」

 

「これがオータム様の魔法! 〈ブラスト・ポインター〉だよッ!!!」

 

 

 

 

振られることによって剣の重量は加算され、最大10トンの重さにまで膨れ上がる破壊魔法〈ブラスト・ポインター〉。

戦闘を行っている今も、オータムは長剣を振り下ろす。その度にまた重量が加算されていっている。

 

 

 

「くっ! 単純だけど厄介ね……!」

 

「あら、もう私とは遊んでくれないのかしらぁ?」

 

「チッ!」

 

 

背後から殺気を感じ、その場を飛び退く。

すると、そこに煉獄の炎が通り、壁を焼く。

当然、その炎を放った人物は、スコールだ……。カツッ、カツッ、とヒールの音を立てて、あろうことかマハルのところへと向かっていた。

 

 

 

「待ちなさい!!!」

 

「おらぁ! よそ見すんじゃねぇーよ!」

 

「くっ! マハル所長! 早く逃げて!」

 

 

 

スコールとオータムの二人を相手にしなくてはならない状況で、マハルをも守らなければならないのだ……いくら刀奈でもそれは無理に等しい。

だが、当のマハルは、完全に腰を抜かしてしまったのか、全く動けないでいた。やがてスコールがマハルの前に立ち止まり、右手を差し出す。

 

 

 

「では所長さん? もうこれ以上時間を割くわけにはいかないの……早くデータを渡してくれないかしら?」

 

「ま、まま待ってくれ! 貴様らはこのデータが、このデータの内容が欲しいとだろ? ならば、私も連れて行け」

 

「あら? それはどうして?」

 

「私は三年前からISの研究をしつつ、この魔法についての研究もしていた! だからこそ、このデータが出来たのだ! 私の研究成果、私の頭脳は、貴様らにとっても有意義なものになる筈だ。

だから、私も貴様らと同じ亡国機業へと行こう……さすれば、データだけじゃない、貴様らの野望にも一歩近づくとは思わんか!?」

 

 

 

必死の抵抗。ましてやテロリストの一員になると来た。何とも救いようのない男の発言に、正直なところうんざりな気分になっていた刀奈。

もはやマハルの事は二の次にし、そのデータだけでも亡国機業に渡さないようにしなければならない。

 

 

 

「そうね。あなたはこれまで三年かけてそのデータを生み出した……。そんなあなたの頭脳を無駄にするのも、確かに惜しいわね……」

 

「そ、そうだろう、そうだろう! では、私も仲間にーーー」

 

「でもごめんなさい」

 

「えっ?」

 

 

 

スコールの言葉の意味がわからず、聞き返す。だが、その答えすら聞かず、スコールは右手をかざすと、そこから炎が吹き出て、やがてそれは剣の形をとる。

 

 

 

「そのデータの解析は私たちだけで充分賄えるのよね……だから、あなたには用は無いの……」

 

「い、嫌だ! やめてくれ! 殺さないでくれぇぇぇ!!!」

 

 

 

炎の剣が振り下ろされ、マハルを焼くかと思われたその時だった。

 

 

 

ギィン!!!

 

 

 

「っ!」

 

「ごめん、遅くなった」

 

 

 

炎の剣を受け止めたもう一つの剣。

混じり気の全く無い白銀の刀身に、漆黒の柄。鍔はなく、そこには魔法陣が描かれていた。

 

 

 

「一夏‼︎」

 

 

刀奈が叫ぶ。

白い戦闘服を纏った長い薄桜色の髪の少年。世界で初めての魔法使い、更識 一夏がそこにいた。

 

 

「大丈夫か、姉さん」

 

「ええ、問題無いわ!」

 

「さてと、悪いがここから先は、俺たちのペースで行かせてもらうぜ……!!!」

 

 

一夏がスコールに斬り込む。

スコールは瞬時に炎の密度を上げて、迫り来る一夏の剣撃を正面から受けて立つ。

 

 

 

「あらあら、せっかくなんだし挨拶くらいしたらどうなの?」

 

「あいにく、テロリストと仲良しごっこする気は無い、ねっ‼︎」

 

「おっと! 危ないわねぇ……そう邪険にしないでもらえるかしら、“織斑 一夏” くん?」

 

「っ……悪いが、俺はもう “織斑” じゃない……俺は “更識 一夏” だ‼︎」

 

 

 

スコールの呼んだ名前に、少なからず嫌悪の表情で斬り返す一夏。

別にその名前に恨みがあるわけではない……だが、その名前に愛着も未練もない……。その名前によって縛られていた自分を思い出してしまう。

 

 

 

「でもあなたが “織斑” であったことに嘘偽りはないでしょ? そして、世界で初の魔法使いとなった事もね」

 

「…………どこかで調べたか? まぁ、あんたらも魔法を使ってるみたいだし……一体どこでその力を得た……魔法を使えるようなるには、魔法による攻撃を受けなければなら無い筈だ」

 

「ええ、だから受けたのよ……魔法を」

 

「っ!? 一体どこで!」

 

「それはまたの機会にね? 私たちの目的はあなた達と事をかまえる気はないの。

そこの叔父様が持っているデータに興味があるだけ」

 

「データ?」

 

「ダメよ一夏! マハル所長の持っているそのデータは、魔法の研究をした記録が残ってる。

私たちでも知らない事が記されていたとしたらーーー」

 

「マズイなそれ!」

 

 

鍔迫り合いの状態になっていた一夏とスコール。

そこから一夏はスコールを突き放し、マハルの前に移動し、背を向ける形で前に立つ。

 

 

 

「マハル所長。いろいろと聞きたい事がありますが、その前にあなたの持っているそのデータ……出してください」

 

「な、何をする気だ?」

 

「早く! 死にたいんですか!」

 

「…………」

 

 

マハルは何も答えない。

渡しても渡さなくても死ぬこの状況で、何も言えなかったのだ。

腕だけが動き、そのデータを取り出す。

一夏はそれを奪うと、左手に持ったまま、スコールに向けてかざした。

 

 

 

「あら? くれるのかしら?」

 

「んなわけねぇーだろ。こんなもの、あっちゃいけないもんなんだから、よ!」

 

 

 

データを上に投げ、そのまま一夏の頭上へと落ちてくる。

あとは簡単だった……そのデータに向かって、トワイライトの刀身がデータが入ったディスクを斬り裂き、真っ二つに割れた。

それと同時に、スコールは驚き、マハルは絶叫した。

 

 

 

「き、きき貴様ぁぁぁぁ!!! な、何て事をッ! 貴様は今、何をしたのか分かっているのかぁぁぁぁ!!!」

 

「そうね……せっかくのデータだったのに。別にあなた達が持っていても有用に活用出来たでしょう」

 

「その必要はない。もとより魔法使いを増やそうなんて思っちゃいない……これもISと同じだ、また人間の私利私欲のために、戦争の道具と成り果てるだけだ……。

だったら、いっその事、この世にあっちゃいけない……そんな物は、ここで破壊しておいた方が建設的だと思うんだが」

 

 

 

もとより世界は既に変わった。

ISと言う超兵器の登場により、軍事バランスは崩れ、女尊男卑の世界へと変貌した。

その中で生きるには、あまりにも理不尽な物が多すぎる。

だが、だからと言って、再び世界を塗り替える為に、関係の無い人間を巻き込むわけにはいかない……。

血を流し、命を賭けるのは……覚悟を決めた者だけで充分だ。

 

 

 

「そう言う訳だ……。今回は諦めて帰ってくれないか、亡国機業さん?

このまま戦った所で、無意味だと思うんだけど……」

 

「ふぅ〜ん……やはりあなた、面白いわね」

 

 

 

妖艶な笑みを浮かべ、舌を出し、ペロリと下唇を舐めるような仕草を取る。

その姿に少なからず悪寒が走ったが、向き合う一夏。

その隣では、怒り狂ったマハルと、今でも尚戦闘中の刀奈とオータムの姿がある。

 

 

 

「うーん……でもそうなのよねぇ〜。そのデータが元々目的だったから……。

そうね、ここは引かせて貰いましょうか……。オータム! 撤退よ……すぐに支度してちょうだい」

 

「ええっ!? マジかよぉ……ちっとは楽しめると思ったのによぉ〜……もうちょっとダメか?」

 

「ダメよ。ここにいても何も得る物は無いわ……いえ、得る物ならあったかしら……」

 

 

 

スコールはじっと一夏の事を見据えて微笑む。

その妖艶な笑みに、一夏も少しばかりドキッとしていた。

 

 

 

「それじゃあ、私たちはここでさよならね。また会いましょう? 織斑……じゃあないわね、更識 一夏くん♪」

 

 

 

そう言い残すと、スコールの足場から炎が吹き出す。

その炎は、スコールとオータムの二人を包み込み、やがて消失した。

そして、その場に二人の姿は無く、代わりにあったのは、巨大な穴だった。

 

 

 

「なるほど……床を炎でくり抜いたって訳ね……。器用な真似するわね」

 

「あぁ、あともう一人の……オータムだったっけ? あいつの魔法も相当な熟練度だったよな……」

 

「一体どこで手に入れたのかしら?」

 

「姉さんと簪の場合は、マドカによる攻撃で魔法使いになった……そして俺は実験体……もし、奴らも同じだったとしたら……」

 

 

 

一瞬頭によぎった可能性。

あの二人か、どちらか一人が……それとも、第三者がいたとして、その者が一夏と同じ実験体だったとしたら……もしくは、あの実験に携わっていたとしたら……。

未だ謎に包まれている亡国機業の内部、メンバーの中に、元トレイラーのメンバーだった人物がいたとしたら……。

 

 

 

(あれほどの熟練度から行って、ここ二、三日で習得できるほど魔法は甘くない……。

だとしたら、少なくとも一年、二年前から習得してなければおかしい……だったら、考えられるのは、俺と同じ実験体か、携わっていた人間が、魔法を移植したか……)

 

 

 

そこまで考えていた時、不意にその考えを払拭させられた。

何故なら、一夏の顔を覆い隠すように、“なにやら柔らかい物” が当てられていたからだ……。

 

 

 

「え、えっ、と……姉さん?」

 

「まぁーた難しい顔して……。大丈夫よ、あなたには私たち家族がいるんだから……。

なにも心配は要らない……だからそんな顔しないで、ね?」

 

 

超がつくほどのブラコン……いや、それを通り越した度の過ぎるほどのスキンシップ。

刀奈の豊満な胸に、埋められる一夏。

だが、それでも一夏の事を一番に心配してくれているのは、やっぱりこの人なのだと感じる。

 

 

「……うん、分かった……分かったから、早く離してくれ」

 

「いや」

 

「なんで?」

 

「だって可愛いから」

 

「いや、俺は恥ずかしい……」

 

 

 

第三者から見れば恥ずかしい体制で恥ずかしい会話をしているのだが、そこは御構い無しだ。

だが、そんな甘い時間もそうは長く続かない。

 

 

 

 

「何を呑気にイチャコラしとるんだ貴様らはぁぁぁぁ!!! 仕事をしろ! あいつらを逃がすな! 絶対にだぁぁぁぁ!!!」

 

「……はぁー……。なんだか一気にシラけちゃったわね……」

 

「ふぅー……。まぁ、しょうがないだろ? ほら、早く行こうぜ……。

外にいる敵だってまだいたみたいだし……」

 

「そうね……ではマハル所長。言われた通り、任務を遂行致します……ですが、先ほどの件……魔法に関する話、詳しく教えて頂きますので……あらかじめご容赦を……」

 

「……くっ!」

 

「さてと、それじゃ行きましょっか♪」

 

「オーライ。マハル所長、それから皆さんも、急いでここから脱出を……。

あと少しで制圧出来るとはいえ、予断を許しませんので……」

 

 

 

共に部屋を出て行く一夏と刀奈。

その後ろでは、血眼の目で睨みつけているマハルと、安堵と恐怖の境目で、硬直してしまっている生き残った研究員達がいた。

部屋を出てすぐ、一夏たちは走り出し、外への通路へと入る。

真っ直ぐに突っ走って行き、研究所を出た途端、大きな爆発音が鳴り響いた。

 

 

 

「っ! ってなんだよ……まだ敵さんピンピンしてるじゃんか」

 

「あらあら、増援が来たみたいね……仕方ない、あの二人の捜索も大事だけど、こちらも放ってはおけないしね……」

 

「だな。それじゃ、行きますかね!!!」

 

 

 

 

再び抜刀。

勢いよく走り出す二人の姿は、さながら疾風の如き速さ。

敵部隊の戦力は、確認できるだけでも100人強……一夏と刀奈の二人で一人50人は倒さなくてはならない。

だが、二人にとって、そんな事はもはや問題ではない。

 

 

 

「一夏! 手加減はいらないわよ。“全開で行きなさい” ‼︎」

 

「ーーーー了解した!!!」

 

 

 

 

全開で行け……その言葉は、一夏にとって手加減する必要なし……全力で敵を屠れと言っているのだ。

普段から全力で戦う事を禁じてきた二人……いや、魔法を扱う更識家の四人。

故に、その全力を許されたからには、徹底的に敵を殲滅する許可が下りたという事だ。

 

 

 

 

「「リベレイトッ!!!!」」

 

 

 

蒼色と濃紫色の粒子を解き放ち、魔法陣が形成されていく。

瞬く間に二人の姿が光となり、敵陣に斬り込んでいく。

 

 

 

「はああぁぁぁぁっ!!!!」

「おおおぉぉぉぉっ!!!!」

 

 

二人の剣撃が炸裂する。

蒼い剣撃と薄紫の剣撃……。向かいくる敵をことごとく斬り裂いていく。

 

 

 

「く、くそっ! 怯むなぁ! 相手は二人だぞ!」

 

「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」

 

 

 

相手も相手で銃器を使って応戦するも、素早い動きに翻弄され、片や剣で銃弾を弾くといった神業に驚愕しかなかった。

 

 

「な、なんなんだあいつら……ば、化け物だ……っ‼︎」

 

 

 

敵の誰かが言った……いや、もしくは味方の警備隊の人間かもしれない……。

とにかく、それほどまでに二人の戦力は馬鹿デカイものだったのだ。

たった一振りの剣で、並み居る敵をことごとく打ち倒していく二人の姿は、化け物……と呼ばれてもおかしくはなかった……。

 

 

 

「姉さん、右だ!!!」

 

「一夏、後ろ! 油断禁物よ‼︎」

 

 

 

神速の刀が敵の隙を素早く突いては斬り刻んでいき、華麗な剣が、銃弾を弾き、圧倒的物量すらも跳ね除けて、敵を斬る。

魔法を使い込んでいるたった二人に、100人強が翻弄されているのだ。

 

 

 

「うおぉぉぉっ!」

 

「っ!」

 

 

 

突如、一夏の目の前に、大きな両手斧を振り回し、振り下ろしてきた大男が現れる。

男の攻撃で、一夏のいた地面には、大きな亀裂が入り、土煙が舞い上がっていた。が、その土煙が晴れた頃には、一夏の姿はなかった。

 

 

 

「なにっ!?」

 

「こっちだよ!」

 

「はっ!?」

 

 

 

空を見上げる。そこから降りてくる美青年。

体を左回転させ、そこから繰り出された剣閃が、大男の首を跳ねた。

首が吹き飛んだ大男は、そのまま力尽きて倒れる。その首から吹き出た血の雨は、その場にいた一夏と、敵兵たちを静かに濡らしていく……。

 

 

 

「ヒッ!」

 

「な、なんだよ……なんなんだよこいつはぁッ!!!!」

 

「く、来るなぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

今の彼らには、一夏は悪魔に見えていることだろう。

敵を斬り裂いた一夏は、地に膝をつけていた。そこからゆっくりと立ち上がる。上から落ちてくる血の雨は、ゆっくりと一夏の髪、服を濡らして、その色を真紅に染めていく。

 

 

「あーあ……服が台無しだ……」

 

 

 

特に驚く様子もなく、軽く言う一夏。

元々トレイラーの殺人術を学んでいた一夏。それ故にこの手の事は、他のどんな事よりも容易くこなして来た。

血の付いたトワイライトを上から下へと一振り……付いた血を落す。

そこから視線を移動し、別の敵を見定める。

見られた敵は恐怖に煽られ、立ち尽くし、あるいは腰を抜かし倒れ、あるいは逃げ惑う者もいる。

その者たち以外は、無謀にも一夏に特攻を仕掛けるが、魔法を発動させている一夏は、すべての動きが予知できている為、一切の攻撃が当たらず、逆に一夏の攻撃は面白いように当たる。

そこからは、向かってくる者のみを斬り捨てた一夏……だがそれでも、一夏によって斬られた者たちの死体とその者たちの血で大地は大いに濡らされていた。

 

 

 

 

 

一方、刀奈の方は……。

 

 

 

 

「くそっ! ちょこまかと……!」

 

「ちぃ! 何故だ、何故当たらない……‼︎」

 

 

銃を持った相手に、刀一本で相手する刀奈。

側から見れば、無謀な対戦であるが、先ほどから銃弾が一発も当たっていない。

銃弾はまるで、刀奈がいないところへ吸い込まれるように飛んでいっている様に見える。

 

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

数撃てば当たる……ある意味この状況には適した戦い方だが、それを刀奈は妖艶な笑みを浮かべながら、ことごとく躱していく。

 

 

「ちゃんと狙いなさい……じゃないと弾の無駄よ?」

 

「くっ!」

 

 

連射可能なマシンガンで撃っているものの、素早く動く刀奈の動きに翻弄されている。

そして、とうとう懐に入られ、刀奈はマシンガンを自身のアスペクトである刀〈蒼月〉で斬り上げ、真っ二つに斬り裂き、そのまま刀を返して、袈裟斬り一閃。

斬られた相手は鮮血をぶち撒け、仰向けに倒れる。

 

 

 

「さぁ、次に斬られたい人……かかってきなさいーーっ!!!」

 

 

 

蒼月の切っ先を向ける。

ほんの少し蒼みがかった刀身は、見るものを魅了する。

一睨みしただけでざわめきがあがる。

銃相手だと躱されると思い、今度は接近戦を仕掛ける。

と言っても、持ち合わせているのはサバイバルナイフなので、かなり接近しなければならない……。

つまりそれは、刀奈の領域に入る事になる。

 

 

 

 

「おおぉぉぉぉ!!!」

「はあぁぁぁぁ!!!」

「ぬうぅんっ!!!!」

 

 

次々にナイフに持ち替えて攻めてくる男たち。

だが、それでも刀奈の勢いは緩まない。

ナイフで突いてきた男の攻撃を躱し、体を左へと移したところで右薙一閃。一人目。

続いてきた相手は、ナイフを上段から振り下ろして来たので、それに蒼月の刃をナイフの刃に合わせて一緒に振り下ろす、そこから蒼月を振り上げると逆袈裟斬り。二人目。

その後は再び突きで特攻してきた相手の股の間をスライディングして潜り抜けると、立ち上がり、蒼月を逆手に持って背中を一刺し。三人目

今度は二人で攻めてきたので、左右に動いて敵を撹乱、動きが鈍ったところを左薙に一閃した後、後続の敵を下段逆風で振り上げ、斬り倒す。一気に二人で、五人目。

 

留めることを知らない刀奈の剣技。

その後も撃ってくる敵、接近してくる敵を各個撃破していく刀奈。

これこそが刀奈の魔法《ソード・ダンサー》の能力の一つ。

相手の動きに合わせて、一斬必殺の剣を見舞う魔法『ダンスタイム』。敵が襲って来れば来るほどに相手は自身の死地へと足を踏み入れてしまうのだ。

 

 

 

「さぁ、まだよ……。もう少し私と踊りましょう……死の舞踏会をーーーー!!!」

 

 

 

駆け出す刀奈。逃げ惑う敵兵。

だが、行く先にも一夏と言う化け物がいる。たった二人を相手に、残った兵力の半分を殺られていた。

このまま殲滅しようとしていたその時だった。

 

 

 

バババババッ!!!!

 

 

 

「「っ!?」」

 

 

 

大きなプロペラ音。しかも一つではなく、何十機とある。

その正体は、研究所が持っているヘリコプターだ。よく見ると、警備隊のメンバーが、次々に乗り込んで行っているのが見えた。

 

 

 

「おいおい、俺たちを残して自分たちは撤退する気か?!」

 

「そうみたいね……でもまぁ、私たち二人でもここは乗り切れるから大丈夫だけど……」

 

「だけど責任転嫁っていうか、元々はあいつらの仕事だろ?! あいつらが戦わないで、なんで俺たちが……‼︎」

 

「愚痴をこぼさないの。私たちにはISがあるんだから……もしもの時にはISで離脱すればーーーー」

 

『…楯……殿……! た……無殿……!』

 

「っ! ヴィレイ隊長?!」

 

 

 

通信で入ってきた声。それは警備隊の隊長であるヴィレイのものだった。

だが、その声は、何やら慌てているようだった。

 

 

 

「どうしたんですか? 後少しで鎮圧完了するんですが……」

 

『今すぐに撤退を!』

 

「えっ、えっ?」

 

「どうしたんだ、刀奈姉?」

 

 

 

突然狼狽える刀奈を心配して、一夏が近づいくる。

刀奈は通信機をスピーカーモードにし、一夏にも聞こえるようにする。そこで、ヴィレイ隊長の放った言葉に耳を疑った。

 

 

 

『早く撤退を! 急がなければ、爆発に巻き込まれます!!!』

 

「ば、爆発?!」

 

「えっ? なにが?!」

 

 

爆発と言う単語に驚きを隠せない。

あの研究所は……マハル所長は、一体何をしようとしているのか……。

 

 

 

 

「一体どういうことですか?! 爆発って……」

 

『マハル所長からさっき通信が入りまして、数分後、研究所の破棄も兼ねて、サイクロップスを発動させると……発動すれば、半径五キロは熔鉱炉になるような代物が……!!!』

 

「っ! おいおい……サイクロップスって核爆弾のことじゃなかったか?! 半径五キロって……余裕で俺たちも巻き込まれるぞ……‼︎」

 

「撤退って言っても……!」

 

 

 

刀奈は視線を別の方に向ける。

その先には、まだ残っている敵兵力の部隊。

大半を殲滅したと言え、まだ大分残っている……。

強制撤退もすることはできるが、敵兵に囲まれてるこの状況では、中々に難しい。

 

 

 

 

「ちくしょう……‼︎ 一体どうすればいいんだよ!」

 

 

 

 

一夏と刀奈が苦心しているその頃……

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 

 

 

傷ついた体を引きずりながら、警備室の一番奥の部屋へと入っていく人影が一つ。

その部屋はとても薄暗く、わずかに灯されているPCの光だけが、唯一その人物を灯していた。

その人物こそ、この研究所の長であるマハル所長に他ならない。

その場にいるのは、マハルだけ。その他は人っ子ひとりおらず、マハルの指示によって撤退していった。

では、何故ひとりだけここにいるのか……。それは目の前にある『強制自爆装置』と大々的に記された装置をみて、わかるだろう……。

 

 

 

「はぁ……はぁ……許さん……許さんぞ、餓鬼ども……! 亡国機業……‼︎ 私の、私の崇高な研究を邪魔した報いは、貴様らの死をもって贖って貰おうかっ‼︎」

 

 

 

動かせることのできる左腕で作業を始める。

パスコードを入力し、自爆装置の発動シークエンスを立ち上げる。

その目は狂気に満ち、ただ黙々と作業を続ける。

 

 

 

「おのれ……おのれおのれおのれおのれおのれぇぇぇっ!!!! 貴様らさえいなければっ‼︎」

 

 

 

そして、ついにシステムが完了し、所長しか持たないIDカードを差し込み、自爆ボタンがせり出す。

亡国機業のメンバー、スコールとオータムもまだそう遠くへは行っていないはず……。ならば、このサイクロップスの爆破範囲内に入る為、皆殺しに出来る。

 

 

 

「死ねぇ…………化け物どもめぇぇぇっ!!!!」

 

 

 

 

ドンっ! と殴りつけるようにボタンを叩く。

それによって発動したサイクロップス。研究所を中心に、眩しい光が発生した。

その光に真っ先に飲み込まれたマハルは、最後まで狂気の笑みを崩さず、そのまま蒸発していった。

そして、研究所がサイクロップスの爆破に飲み込まれた時、外で戦っていた一夏たちもまた、危機を感じ、即座に撤退する。

 

 

 

「くそっ! マジで発動させやがったのか‼︎」

 

「一夏、離脱するわよ!!!」

 

「ああ!」

 

 

 

一夏は飛天桜舞を、刀奈はミステリアス・レイディを展開し、急速離脱を図る。

だが、その爆発は、二人も飲み込もうとその勢いを広げる。地上にいた敵兵力は、跡形もなく蒸発していく。

残ったのは、一夏たち二人と、もう一組……。一夏たちとは正反対の位置にいた、軍用飛行機。

その飛行機の開いた後方格納庫。そこから研究所を眺めていたスコールとオータム。

 

 

 

 

「おいおい、ありゃサイクロップスじゃねぇか? スコール……」

 

「うーん……そうみたいね……。これだと、どんなに急いだとしても、私たちも巻き込まれるわね……」

 

「呑気過ぎねぇか? あんなもん、うちの魔法じゃ元より、スコールでも打ち消せねぇだろ……」

 

「大丈夫よ。“彼” がいるもの……さぁ、出番よ」

 

 

 

そう言って、スコールが飛行機の中を見渡す。

すると、格納庫の一番奥から、黒いローブに身を包み、大きなフードで顔を隠した一人の人間が現れた。

そのローブ人間は、指揮棒のようなものを出すと、静かに唱えた。

 

 

 

 

「リベレイト!!!」

 

 

 

 

唱えた言葉……それは魔法使いにとっての馴染みの言葉。自身の魔法を使うにあたって、使用する解除の魔法。

 

 

 

「来れ、暗黒の闇よ 時の欠片を集め 包み、穿ち、押し潰せーーーー!!!」

 

 

 

魔法の詠唱。

それと同時に、指揮棒から真っ黒の魔法陣が形成される。その形は闇黒魔法。

魔力が高まり、その名を叫んだ。

 

 

 

「飲み込めーーーー黒柩(くろひつぎ)っ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ、ダメだ! 飲み込まれる!」

 

「一夏!」

 

 

 

ISを展開し、フルスロットルで逃げていた一夏と刀奈。

だが、それもそこまで……核の爆発によって発生した熱と爆風が、一夏たちを飲み込もうとしていた。

刀奈はとっさに、一夏を守るように抱きつき、ミステリアス・レイディの特徴的な装備であるアクア・ナノマシンによって生成された水の障壁を自身と一夏の周りに展開した。

これで守りきれるとは、思ってもいない……だが、せめてこれくらいはと、意地になって展開した。

そして、その爆風と熱の奔流が、二人を飲み込もうとした……その時だった。

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴっ!!!!!

 

 

 

 

「はっ……!」

 

「なっ!?」

 

 

 

突如現れた “真っ黒で大きな柩のような物体” に驚く。

それは爆破の全てを飲み込み、ぎゅうぎゅうに押し詰めていくように縮まっていく。

そしてやがて、それが小さくなると、一気に何処かへと消え去った。

その後から、とてつもない爆音と爆風、衝撃波のようなものが辺りを駆け走った。

 

 

 

「ぬおっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

 

 

吹き荒れた衝撃になんとか耐えた二人。

辺りを見渡し、その光景に絶句した。

辺り一面を抉るように切り取られた研究所があった場所。そして、その周りを覆い囲むように亀裂が入った地面。

先ほどの黒い柩のようなものが現れた地点だった。

 

 

 

「なんだったんだ……? さっきのは……」

 

「あれほどの爆発を飲み込んだ……あんなの、どうやって……?!」

 

 

 

想像を絶する光景を目の当たりにした二人。しかし、もう答えは分かっていた。あれが、魔法による攻撃だったと……。

そして、そんな二人がいた場所から、少し離れたところを飛ぶ軍用機。

それに気づいた一夏と刀奈は、ISの望遠機能を使って、覗いてみた。

そこには、こちらをみていたスコールとオータム。そして、もう一人、真っ黒のローブに身を隠した人影。

おそらく、あの黒ローブが、あの魔法を使ったものだと思っていた時、ふと吹いた突風が、人影の被っていたフードを煽り、その姿を晒した。

 

 

 

「…………え?」

 

 

 

そう呟いたのは、一夏だった。

なぜなら、そこにいた人物の容姿が、目は真紅の瞳をしていて、髪は銀髪と言うよりも、白髪に近い色をしていたが、間違いなく、彼だったからだ。

 

 

 

「……千秋…………?!」

 

 

 

 

自分で言っていて、あり得ないと思った。

だが、どう見ても千秋に似ている。目と髪の色が違うだけで、顔立ちも背格好も全てが千秋と酷似していた。

そして、向こうにいる千秋らしき人物も、こちらの視線に気づいたのか、フッと笑った後に呟いた……。

声は聞こえなかったが、一夏は唇の動きを読んで、理解した。彼が言った言葉は…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーバイバイ、またね……兄さん。

 

 

 

 

 

 

 

ただ呆然と見送ることしか出来なかった一夏。

彼が何者なのか、さっぱりわからなかった……そして、“兄さん” とはどういう意味なのか……。

その場に残された一夏と刀奈は、ただただその場でジッとしていることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 






いかがでしょうか?
次回は、やっとですね……シャルとラウラの回!

後は、ISヒロインズが、魔法を覚えたとして……何魔法を発動させるか……悩んでおります。
それもいつにするか……あぁ、どうしようかな……本当に。


感想よろしくお願いします(≧∇≦)


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