以前魔法戦をやるとか言ってましたが……すみません! 魔法戦までいきませんでした!
第21話 海外任務
更識の家を出て数時間……。
日本の空港から出た俺と刀奈姉の両名は、ただいま中東……イスラエルに向かっていた。
とは言っても、交通の関係で、一度インドに降りて、そこからまた乗り継いでからのイスラエル行きだ。なので正直に言うと、退屈で仕方がない。
しかも席がファーストクラス‼︎ 俺自身も一度しか乗った事がなかったゆえに、妙に落ち着かない。
(これは……どう考えても場違いだろ……)
なんせファーストクラスだ。上質な革でできたソファーシート。リクライニングすると、ほとんど高級ベッドと変わらないのではないかと思う。
そして、機内食なんかも豪華だった。最高級の食材を使った機内食。普通じゃありつけない味に感動さえ覚えた。
(えっと、刀奈姉は……)
同じ室内にいる姉を探す。すると、刀奈は頭にはヘッドフォン、手には雑誌を広げ、足を組んでは堂々と振舞っていた。とても……と言うか “かなり” 様になっていた。
すると、向こうも一夏の視線に気づいたのか、右手でちょいちょいっと手招きする。
「ん? どうしたんだ?」
「いや? なんだかキョロキョロしてて可愛いからさ♪」
「いやぁ〜……ファーストなんて乗ったの人生で二回だけだからさ……」
「もっと堂々としておけばいいのよ。……あれ? 二回目ってことは、乗ったことあるの?」
「え? あぁ、ほら、モンド・グロッソの大会の時にさ。千秋と俺は、千冬姉の試合を見るために飛行機のチケットをもらってたからさ……そん時に乗ったんだよ……
でもまぁ、あの時はこんな感じでゆっくりしていた記憶がないんだけどな……」
「……そう……」
一夏の話に、顔を俯かせる刀奈。
先日、千冬とは直に話した。話したと言っても、ものの数十分程度なのだが……。
だが、わかったことならある。千冬は、一夏の事に気付いていた事、そして、一夏に対して罪の意識を持っていた事……。だからと言って、刀奈の中ではそれを許せるのかと言うと、難しい話だ。
自分にも姉妹がいる。簪と義理ではあるがマドカ。そして、一夏。自分を含め、魔法と言う特殊な異能を持っているがゆえに、固い絆で結ばれていると思うことがある。
では、千冬はどうなのか……?
思い返してみると、別段、千冬は一夏に対して蔑視していたわけでも、貶していたわけでもない。
ただ、保護者……姉のように接してやれなかっただけなのかもしれない。だからこそ、後悔ばかりが募り、一夏との接触を避けているのではないかと思ってしまうのである。
「刀奈姉? どうしたんだよ」
「ううん……なんでもないわ。それより一夏、あなた、確かうちに来る前は世界中を転々としてたんでしょう?」
「え? まぁ、世界中って言い方をすると大げさだけど、まぁ、ある程度は歩き回ったかな?」
「へぇー。じゃあ、これから行くイスラエルは言ったことある?」
「いや、ないな。俺が親父と会ったのは、中東じゃなかった。ヨーロッパ……とりわけ東欧諸国だったと思う。
トレイラーのアジトがあったのは、ドイツの辺境の地だったからな……そこから東に向かって俺は歩いていたからさ……多分ロシアまでは行かなかったと思うぞ?」
「そっかぁ〜……私も実は初めてなのよねぇ……イスラエル」
刀奈は更識家の特権にて自由国籍権を行使し、ロシアの国家代表生となった。故に、開発元のロシアには訪れたことがあるらしいが、イスラエルはないようだ。
「しかし、イスラエルとアメリカの合同開発機か……まぁ、見るからに競技用とか訓練用の機体ではないよな……」
「そうね。ある程度の情報を集めたけど、やはり実戦配備用の機体みたいね。
超音速での飛行が可能で、広域殲滅型の装備があり、スペックも現行の新型機を遥かに上回るとされているわ」
「はぁ……そんなやつとはやり合いたくはないなぁ……俺の桜舞も一応は高速機動型だけどさ、射撃装備なしで渡り合うのはしんどい……」
「でも、バレットラインがあるんだから避けることは可能でしょう?」
「いやいや、広域殲滅型ってことは、オールレンジ攻撃が可能なんだろ? バレットラインで予測してもよ、限度ってもんがあるぞ……」
「何言ってるのよ……レーザーや弾丸を斬り裂くような人が、そんな事言うもんじゃないわよ? 一夏……」
一夏の非常識な戦い方はもう見飽きたが、流石にレーザーを斬った時だけは驚いた。
まぁ、元々オートの機関銃の弾丸を剣で斬りまくってしまう子だ。もう慣れた。
「まぁともあれ、旅は長いわ。今のうちに楽しんでおきなさい……インドについてからは乗り換えだから、そのまままた飛行機に乗って行くわよ」
「了解。ふぁ〜〜あ……眠い……」
「何言ってるの? 寝かさないわよ?」
「いや、寝かせろよ!」
その後、なんだかんだで刀奈の遊び相手をしなくてはいけなくなった一夏。結局、一睡もしてない……。
〜日本・IS学園〜
「あーあ……何だって一夏はこんな時にいないのよ……」
「仕方ありませんわ。家の事情なら、外すわけにはいきませんもの……」
「先ほどマドカ達にも聞いたが、少し長引くかもしれないとは言っていたな……一体何をしに行くのだろうか…」
「「うーん」」
現在、一時間目の授業が終了し、休憩時間を各々過ごしていた。一組の教室に鈴がやってきて、一夏がいないことに気づき、不満をあらわにしていた。
「そんな事言ったってしょうがないだろ、鈴。一夏は別に遊んでるわけじゃないんだし…」
「千秋……。それでもよ! あいつに言うことがあったのに……」
ここぞとばかりに頬を膨らます鈴。そして、その頬は薄く紅を帯びていた。
(むむ……鈴のやつ、一夏に何を言う気だ? ……はっ! まさか……まさか! 告白!?)
(鈴さん……初めてお会いした時は思いつきもしていませんでしてが、やはり一夏さんの事を……?!)
鈴の表情を見て、察しがついた箒とセシリア。
互いに一夏に想いを寄せている身。また新たなライバルが出現した事が、今ここではっきりわかった。
そして、それは鈴もわかったようで、睨みつけてくる二人に対して、ふふんっと言いそうな顔で微笑む。
「「…………」」
「…………」
何故だろう。ただ睨み合っているだけなのに、彼女たちの背後には、『武士』に『龍』に『騎士』という摩訶不思議なものが見える。
「まぁ、心配しなくても一夏なら帰ってくるんじゃない?」
「……何よ千秋。随分と一夏のこと信頼してんのね」
「別に。家の事情が何なのかはわからないけど、あいつがしくじるとは思わないってだけだよ……」
そういう千秋の顔は、あまりすぐれていなかった。
(一夏は勝てたのに……僕は勝てなかった……)
先日のクラス対抗代表戦。
千秋は今自分の目の前にいる少女、鈴との対戦で敗れた。
自分でも反省すべき点はわかっている。
自身の最大の武器。雪片弐型の扱いがまだ至らない事、操縦技術、近接格闘における状況判断、射撃武器に対する戦術、そして何より剣術の熟練度だ。
雪片弐型は、通常の刀よりも少し長く、どちらかというと太刀の様な武器だ。ならば、まずはその武器の特性から知らなければならない。武器のことについて知り、己の技量を改めて見極める事が、今の千秋に必要な事だった。
「そんなことよりさ、鈴。放課後、訓練に付き合ってくれない?」
「へ? まぁ、いいけど……。珍しいわね、あんたからそんな事言うなんて……」
「別に? 一夏にもっと近づくためだ……。僕もあいつに負けてるからね……今度やるときは勝ちたいからさ」
「ふーん……♪」
一夏の存在が千秋の中でも大きな影響を及ぼしている様で、鈴も少し嬉しく思った。
身近で見ていて、この双子兄弟が話しているところなんて見たことがない。学校でもそうだが、一夏曰く家でも話したことはあまりないと言っていた。
それはもう兄弟……そもそも家族と呼べるのだろうかと思ってしまったが、今の一夏は幸せそうだからまぁいいだろう。
「良いわよ! ま、どうせ私が勝つしねぇ〜♪」
「そうはいかないよ。今度は絶対に僕が勝つ! 前みたいにはいかないからな!」
その後、予鈴とともに千冬が現れたので、鈴は急いで自分のクラスに戻る。
そして、千秋は千冬に近づくと、何やらコソコソと話した後、千冬は「はぁー」と言ってため息をつくが「わかった」と言って教壇に立つ。
「ほら席に着け。授業を始めるぞ……」
その後も変わらず、スラスラと授業を続ける千冬。いつも通りの日常を過ごしている中、一夏達はと言うと……
「はぁ〜〜! やっと着いたな……インド」
「ええ、少し時間を空けてからはまた搭乗時間になるからね? 時間忘れないでよ」
「ああ、わかってるよ」
一旦刀奈と離れ、一夏は空港内を少し散策。
刀奈は一度依頼主と連絡を取りたいらしく、空港の外へと向かった。
「ふぅー。インドか……初めてきたなぁ……」
ひと昔前までは、情報社会の頂点に立っていた国。
だが、ISの出現後は、めぼしい話題がない。インドの国家代表や代表候補生というのも聞いたことがない。
ほとんどISとは縁がない国なのだろうか……。
(一応帰りもインドに立ち寄るんだよな……。お土産の一つも買って帰らないと、マドカたち怒るしなぁ……。仕方がない、お土産コーナーを見てくるか……)
一夏は自分の荷物を持ち、お土産コーナーへ向かって歩き始めた。
(インド……仏教徒の国だから、お坊さんとかいるのかと思ったけど……流石に空港内はいないか……)
ほとんどイメージだけの世界と、現実を見比べてみる。
そんなことを考えていると、一夏の目の前に、複数の大柄な男達が六人……立ちふさがった。
「おっと……! えぇっと……何か?」
「ヒュー! 可愛いねぇお嬢ちゃん! どこから来たの?」
「綺麗な髪だねぇ〜……君って何人? ヨーロッパの人? それともアメリカ?」
「そんでもって今暇? 俺たち俺から遊び行くんだけどさぁ〜一緒にいかない?」
完全にナンパされていた。
まぁ、仕方ないのはわかっている。こんな髪だし、こんな華奢な身体してるし、見た目はどう見ても女の子の一夏。そして、さっきも言われたが、この髪の毛の色と瞳の色が珍しく、魅了させるのかもしれない。
だが残念。一夏は男だ。
「えっと、ごめん。俺、用事があるから……」
「そんなつれないこと言わないでさぁ〜? 俺たちと一緒に遊ぼうぜ? お兄さんいいとこいっぱい知ってるぜ?」
「ねぇねぇ、いいだろう? そんな事言わないでさぁーーーー」
当然一夏は断った。これからイスラエルに行くのだから……だが、一夏の肩に男の一人が手を置いて、無理やりにでも連れて行こうとする。……が、
「がッ! 痛ってぇーー‼︎ 何しゃがんだこいつ!」
手を置いた瞬間、一夏がその腕を弾き、思いっきり内側に捻る。当然人体の形状から考えて内側に捻られて、肩関節に痛みを生じ、その場にうずくまる男。
突然の行動で、他の男たちも驚き、身動きが取れないでいる。
「一つ、あんたらに謝っとかないといけないな……。こう見えても俺、男なんだ……」
「「「「は……はあぁぁッ!?」」」」
「あとそれから。もうこれに懲りたら無理矢理ナンパふっかけるの、やめたほうがいいぞ……。
このご時世だ。ちょっとしたことで罪に問われて拘束されるぜ?」
「〜〜〜ッ‼︎ いい加減離しやがれっての! この女男っ‼︎」
「おおっと!」
腕を捻られていた男が、しびれを切らしたのか力任せに腕を振り抜き、一夏の手を振りほどく。
「このクソガキィー!!! 調子に乗ってんじゃねぇーぞ!!!」
「……別に調子に乗った覚えなんてないんだが……」
「黙れクソガキがぁーー!!!」
腕を捻られた男が、一夏に殴りかかる。
よく見れば、整った体をしていた。少なくともケンカ慣れしている……よくておそらくは格闘家なのだろうか。
振られた右ストレートは、真っ直ぐ顔に向かってはなたれるが……。
「遅えよ……」
「なっ!?」
一般の人ならば確実に食らう攻撃だったはずなのだが、それを余裕の表情で躱す一夏に、男は驚愕する。
「このーー! くそぉぉぉっ!!!」
「だから、見え見えなんだ……よッ!」
「ぐふぅっ!?」
それからも男は、一夏に対して攻めの姿勢を崩さない。
右ストレートに左のアッパー。もう一度右からのフック、からのそこからの裏拳、左ストレート……。
だが、一夏はその攻撃を躱して、躱して、躱しまくる。
そして、一夏は最後に放った左ストレートを右腕を添えるようにして受け流すと、一気に相手の懐に入り、男の顎めがけて強烈な平手突きを食らわせる。
突然の衝撃に脳を揺さぶられた男は、そのまま仰向けに倒れ、起き上がらない。
「なっ、てめぇ……よくも! 全員でやっちまえ!」
「うおおっらぁぁッ!!!」
「死ねっ!」
「くたばれッ!」
「……はぁ……面倒だな……」
仲間を倒され、驚きを隠せていなかったが、今度は全員で一夏を攻めるようで、一夏の周りを、残りの五人で取り囲む。
そして、一人の男の指示で、五人全員が一斉に殴りかかる。
だが、その動きそのものは、先ほどの男ほどではなく、完全に素人丸出しの動きだ。
順番に殴ってくるので、それを順番通りに躱していく。
「くそがッ!」
「舐めんなぁぁ!!!」
すると、しびれを切らしたのか二人で両サイドから挟み込むように拳が振るわれる。
「ふぅーーー!!!」
呼吸を整え、両手を振るわれる拳にそっと添える。
右手の手のひらで右からの攻撃を捌き、左手の手の甲で左からの攻撃を受け流す。
そして、最後にそのまま一夏自身も左に体を回転し、勢いそのまま右ストレートと肘鉄を両サイドの男たちのこめかみにぶち込む。
「ぐうっ!?」
「ごはぁっ!?」
決して全力ではないが、それでも一般人に対してなら効果的な威力で殴りつけた。
しばらくは気を失ったままだろう。そして、残るは三人。
「さてと、あんたらもやる? このままやっても空港内の警備員さんにしょっ引かれるだけだぜ?」
「くうッ!」
「おい、どうすんだよ?」
「お、お前が倒せよ!」
「無理に決まってんだろ! 兄貴をやった相手だぞ!?」
完全にビビりまくっている。『兄貴』というの人物は、どうやら一夏が最初に倒した人だったようだ。
まぁ、その人も一夏からすれば大したことのないレベルだったのだが……。
「コラァァァァ!!! 何をやってる貴様らぁぁぁ!!!」
「っ?!」
「やべぇっ! ずらかるぞ!」
「お、おい! 兄貴たちは?!」
「知るか! おいてけ!」
こちらに向かって、怒号が発せられる。
どうやら騒ぎを聞きつけた警備員達が駆けつけたようだ。
よく見ると、周りには野次馬が出来ており、フロントロビー内は騒然としていた。
「あらら……ちょっとやり過ぎたかな?」
側から見れば、服装は男でも女の子にしか見えない一夏。それも男にしては小柄で、華奢ななりをしているのにもかかわらず、大男三人を一瞬にしてノックアウトにしたのだ。これが騒ぎの種にならない筈はない。
「全く! おい、そこで伸びてる奴らを連れて行け!」
「「「はっ!!!」」」
警備員の中でも、上司と思われる男性が指示し、一夏が倒した男たちを連行して行く。
「お嬢ちゃん、怪我はないかい?」
「え、ええ……大丈夫です……」
「そうか……いやぁー良かった! しかし凄いなお嬢ちゃん! あんな一瞬で倒す奴なんて、生まれて初めて見たよ!」
「あはは……どうも……」
一応褒められてるのだが、どうにもこの『お嬢ちゃん』に反応して、うまく喜べないでいる。
「そ、それじゃ自分はこれで……そろそろ時間なので」
「おぉ、そうか! ではお気をつけて! 良い旅を!」
「はい。ありがとうございます」
本当なら色々と事情聴取を取らないといけないと思うのだが、面倒だったので飛行機の時間という切り札を使って逃れる。まぁ、周りには野次馬がいたから、そこから聞きだせるだろう。
「はぁ……参ったなぁ……お土産見る暇なくなったぞ……」
よく見ると、残り時間が少なくなっている。ゆっくり見て回っていたのと、先ほどのケンカで、時間を使ってしまったようだ。
「さてと、刀奈姉を探さないとーーー」
「その心配はいらないわよ」
「うおっ!?」
フロントロビーにはいると思い、歩き回って探しに行っていると、すぐ後ろから声が聞こえ、振り向くと、扇子を片手に微笑む刀奈姉が。
「まぁーた厄介ごとに巻き込まれてたわね?」
「知るかよ。向こうから突っかかってきたんだから……」
「にしても、見事な腕だったわね。流石は私の一夏だわ♪」
「見てたのかよ……。助けてくれたっていいだろう?」
「そんな事しなくても余裕だったでしょう?」
「まぁ、そうだけど……」
「なら問題無いじゃない♪ それと……はいこれ! 一夏の分のチケットね? 出発はあと一時間後らしいから、それまではゆっくりしておきましょう」
「あぁ、そうだーーーん?」
ふと背後からの視線を感じ、一夏は振り返る。だが、そこには誰もおらず、ロビー内を歩き回る人達しかいなかった。
「どうしたの?」
「ん、いや、なんでもないよ」
「そう? なら良いんだけど……。それよりもほら、あそこ! スタバ行くわよ! スタバ!」
「おいおい、引っ張らないでくれよ……!」
そのまま引っ張られて、カフェショップの中に入っていく二人。
そして、それを遠くから眺める影が二つ。
「へぇ〜……あれが更識 一夏ねぇ……見た目は可愛い女の子にしか見えないようだけど……」
「だが、奴が一番の難敵なんだぜ? うちらをも凌駕する魔力の持ち主だ……それに、トレイラー仕込みの生粋の殺人術も持っている」
「分かっているわ。さぁ、いきましょう “オータム” 」
「オーライ、 “スコール” 」
金髪の髪が緩やかなウェーブを描き、赤い瞳と見事なまでのプロモーションを兼ね備えた女性と黒いタンクトップにジーンズ生地の短パン。オレンジ色の長髪はストレートに伸ばされている少しがさつそうな女性。二人はともにその場を離れ、出発ロビーまで歩いていく。
その行き先は……インド発ーイスラエル着の便だった。
〜IS学園・剣道場〜
「さて、時間も押している……始めるぞ」
「うん! お願いします、姉さん!」
「学校では織斑先生だ!」
昼休み。丁度みんな食事を終え、各々自由に行動している時間帯に、無人の剣道場には二つの影があった。
一人は言わずもしれた織斑 千冬。ここIS学園の教員で一夏たちのクラスの担任。そしてもう一人は、その弟である織斑 千秋……。互いに剣道の防具をつけ、手にした竹刀を互いに向け合い、対峙していた。
「しかし驚いたな……。お前から指南してくれと言って来るとは……何かあったか?」
「別に……。ただ、このまま負けていくのがしょうに合わないってだけだよ」
「ふん。まぁ、それも人を成長させるいいきっかけだったのかも知れんな……。更識兄と凰の一戦……いや、更識兄との対戦が、お前を動かしたか……」
「まぁ、両方だよ。ただただあいつは強かった……。僕は自分より強い奴を知らなかった……。姉さん以外に負けた事も無かった……けど負けた。鈴にも、一夏にもね」
「そうだな……」
今遡ってもあの二人の試合には舌を巻くしかない。
第三世代兵器である衝撃砲と己の操縦技術、近接格闘能力を駆使し、その他の生徒を圧倒した幼馴染みである鈴。
千冬も古くからの付き合いの為、昔の鈴しか知らなかったが、たった一年足らずであそこまで成長しているのには驚いた。
そして、一夏。今までの戦績は全戦全勝。やはり驚異だと思ったのは、セシリア戦に見せた『レーザー斬り』と鈴戦に見せた『二刀流』。
超高速で撃たれたレーザーの弾道を正確に読み取り、その全てをことごとく斬り裂いた……。そして、最後の一撃。スナイパーライフルの射程距離で、必中距離に入り込んだにも関わらず、それすらも斬った……ただでさえ斬るのは千冬にも無理に思えた。
そして、この間の試合で見せた驚異の二刀流。
千冬自身も二刀流が使えなくはないが、それでも片方を防御用に使ったり、相手に間合いに入られない用に展開させている事で使ったことならあるが、一夏のように洗練された様な攻撃速度で相手の反撃をさせないほどの高速剣技は、千冬には出来ないと思った。
「まぁいい……生徒の希望を聞くのも教師の務めだ……さぁ、かかってこいーーー‼︎」
「ッ!!!! 行きます! はあぁぁぁぁっ!!!!」
その剣道場では、休み時間のギリギリまで竹刀のぶつけ合う音が鳴り響いていたらしい……。
〜イスラエル上空〜
『お客様に申し上げます。当機は、間も無く着陸態勢に入ります。シートに着席の上、シートベルトをしっかり締めてくださいーーーーーー』
まぁ、日本語に直すと、こう言う事を言っているのであろうと、一夏は頭の中で考える。
インドを発ち、イスラエルの上空に差し掛かって来た。日本の反対側にある国なので、外はまだ暗い。これから朝になるのではないかと思うが……。
「はぁー長かったなぁ……」
「そうね……。とりあえず、飛行場に着いたら軍の人と落ちあうわよ……」
「了解だ」
飛行場に降り立った俺たちは、軍関係者の手配で呼ばれていたヘリに乗り、軍の研究所まで送ってもらった。
「今回の警備に参加してもらう協力者の方たちですね!? お待ちしておりました! こちらへどうぞ‼︎」
ヘリから降りると、その研究所を守っているのであろう兵士がこちらへとやってきた。
轟々と鳴るヘリのプロペラの音に負けじと大きな声を出す。そして、そのまま導かれるように施設内へと足を踏み入れた。
「これはどう言う事ですかな? 楯無殿?」
『どうというのは?』
研究所所長室……と書かれた所で、たった今、所長らしい男が国際電話をかけ、文句を言っていた……。
電話の相手は、どうやら一夏と刀奈の父……更識 刀矢のようだ。
「日本で有名な暗部の家系……更識家に協力を仰いだのは確かに我々ですが、その協力者がたったの二人というのはどういうことですかな?!」
『まあまあ、そんなに怒らないで……。こう言っては身びいきだと思われますが、あの二人は家の精鋭です……その実力は他者を圧倒すると思いますよ?
たとえ並みのテロリストが束になってかかってきたところで、家の娘と息子がやられるとは思えませんがね……?』
よほどの自信があるのか、断言する刀矢に少しばかり呆れる。
『それと、もう私は “楯無” ではないのですよ。私はもう去年に隠居しました。現在の楯無は、そちらにいる水色の髪の娘が受け継いでますので、どうぞご指示は彼女にお願いします。
それから、ピンク髪の方は私の息子なんですがね? こいつは相当頭が切れるので、もし何かあれば、息子を頼ってください。
それでは、二人をよろしくお願いします。マハル所長……』
ガチャ! という受話器を置く音が聞こえ、通話が終わる。
だが、研究所の所長、マハル所長は体をプルプルと震わせ、強引に受話器を投げつける。
やり場のない怒りをぶつけているようだ。
「あんな小娘達にこの研究所を守護させるだと? ふざけおって‼︎」
「所長、そろそろお時間です」
「わかっている。警備隊を全員、会議室に集めろ。あの二人も呼んで、早速ブリーフィングを行う」
「かしこまりました」
その場にいた副所長らしき男に指示を出し、イスにどかっと座るマハル所長。
「なに、もしもの時にはデータとパイロット、機体だけでも避難させればそれでいい……。
それ以外がどうなろうと知ったことではないわ……!」
怪しく微笑むその笑みをこぼしながら、机の引き出しを開け、何かを手に取った。
〜会議室〜
「ええ〜本会議では、先日のテロリストによる襲撃に基づき、対策強化と迎撃作戦について、話し合いたいと思う。では、今回の作戦から参加する二名の助っ人を紹介する……入ってきたまえ……」
会議室にて、先ほどの所長が進行していく。
そして、今回から警備に参加するメンバーとして一夏たちのことが話されていた。そこで、改めて自己紹介として呼ばれる。
「失礼します」
「お邪魔しまーす」
一夏は通常に入り、刀奈に至っては友人の家に入るかのように軽くあいさつする。
「どうも、今回から警備に参加します、更識家当主、更識 楯無と申します……。
IS戦、白兵戦共にこなしていこうと思いますので、どうぞよろしくお願いします!」
無難な挨拶をしたと思うのであるが、どうやら刀奈の軽い感じが気に障ったのか、ほとんどの者が若干きつい視線を向ける。
「どうも、姉が失礼をいたしました。今回の作戦に参加させていただきます、楯無の弟、更識 一夏と申します。
姉同様、IS、肉弾戦共に対処させていただきます。何卒、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」
一夏の自己紹介に、驚きを隠せない一同。
それもそのはずだ。世界でたったの二人しかいない男性IS操縦者の片割れが、今目の前にいるのだから。
姉の刀奈はもちろんの事、一夏と千秋のことを知らない人物は、世界でもそういないであろう。
「なるほど、君があの一夏くんか……。是非とも我が研究所の研究に協力してもらいたいものなのだが……」
突然目の色を変えて接してくる所長に、刀奈も一夏も危機感を覚えた。
まぁ、所長からしてみれば、喉から手が出るほど貴重な研究材料が目の前にあるのだから、餌をチラつかされて、待てを食らってよだれを垂らして待っている犬も同然だ。
「せっかくのお誘いですが、お断りさせていただきます。実験動物になる趣味はないので……」
「…………」
一夏の発言に、少し黙り込んだ後、警備部隊長に司会が入れ替わり、作戦内容を通達される。
どうやら、この間の襲撃は、IS単体だけではなく、武装した集団までもが襲ってきたらしい。
なので、こちらも軍の主力を使い、IS、戦車、迎撃部隊として、二千人以上の兵隊を集めたそうだ。
まぁ、そのほとんどが、ISの前では無力になるのだが……。
「そして、お二人には遊撃士として、各部隊を加勢していただきたい。ISはもちろん銃撃戦にもなると思われますが……よろしいですか?」
「もちろん。そのつもりでいるわ」
「右に同じく。そちらの方が、俺たちも動きやすいので……」
二人の了解を得たところで、話は進み、IS部隊は、最終防衛ラインと定め、一番後方……つまり研究所の警備を最優先とするようで、そして、中継として戦車部隊、最前線は兵隊による圧倒的物量戦に持ち込むようだ。
「では、20:00時において、本作戦を開始する! 全員、所定の位置につけ!」
「「「「イエッサー!!!!!!」」」」
会議室に集められた、それぞれの部隊長たちの敬礼と共に、一夏達も会議室を後にする。
「刀奈姉、この作戦、どう思う?」
「うん? まぁ、悪くはないんじゃないかしら……でも、いくら人数を集めて前線固めたところで、ISに前線張られたら一網打尽でしょうね……。
無駄に人が死ぬ可能性だってあるわ……!」
「やっぱりそう思うか……。なら、俺たちは初めて前線に赴いて、IS部隊をできる限り食い止め、後々他の部隊の援護に回る……ってな感じいいかな?」
「ええ、そうね。それがベストだと私も思うわ……! じゃあ、張り切って行きますか!」
「了解!」
その後、二人は用意された部屋に一度戻り、戦闘服に着替えた後で、武器を手に作戦部隊と合流するのであった。
次回はちゃんと魔法戦をやりますので…………たぶん……(ーー;)
感想よろしくお願いします^o^