IS〜異端の者〜   作:剣舞士

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久しぶりの更新!

決着後だったので、どういう展開にしていくか迷った{(-_-)}

それでは、どうぞ!


第20話 それぞれの思い

「う、う〜ん……」

 

「ようやくお目覚めですか……凰 鈴音代表候補生」

 

「楊 麗々管理官……?」

 

 

夕暮れどきの保健室の室内。夕陽の陽射しが室内に流れ込んで来ていた。

その室内には、ベッドの上に横たわる鈴と、その隣で椅子に座り、話しかけてくる麗々。

そして鈴は、「あぁ……」と言って何かを思い出したように言葉を発する。

 

 

 

「そっか……私は負けたんですよね……」

 

「えぇ。そうですね、完膚なきまでに叩ッ斬られましたね」

 

 

容赦の無い辛辣な言葉を発する麗々。その言葉に鈴は苦笑いを浮かべるが、何も反論出来ない。麗々の言った事は本当だからだ。

絶対に勝つと言っておいて、勝負に臨んだ。そして、前半は圧倒的に優位に立っていたのだ……だが、最後の最後で思いもよらぬ結末となった。

 

 

「はぁー……まさか、 ‘二刀流’ を使えるだなんて……聞いてないわよこっちは……」

 

「えぇ、そうですね。私たちが把握していたデータでも、今まで二刀流での試合は無かったですから……そして、あれ程の技量があったとは予想外です」

 

 

 

本来二刀流は、扱いがとても難しい。

一刀流ならまだしも左右交互に、確実に相手にダメージを通すことの出来る剣技だった。

左右の剣で防御と攻撃を繰り出せ、反撃のスキさえ与えない高速剣技。

あれ程の技量を持つものは、世界でもそういないだろう……。

 

 

 

「それで……私はどう言う罰則が与えられるんでしょうか?」

 

 

 

鈴はふと麗々に尋ねる。

何と言ってもあれだけ啖呵を切り、他国の専用機持ちに喧嘩を売ったのだ。

そして、返り討ちにあっているわけで……一夏は日本代表候補生では無いにしても、喧嘩を売った事には変わりはない。つまり、なんらかの処置を中国側がするということだ。

だが、麗々は……

 

 

「えぇ、そうですね。私としては非常に遺憾なのですが、罰則、また、査問会への招集はかけられませんでした」

 

「………えっ? 何でですか?」

 

 

麗々の口から、信じられない言葉が飛びたした為、鈴は思わず聞き返してしまった。

何の処置もない……。つまり、お咎めなしという事なのだ。

 

 

「え、どうして……?」

 

「なんですか? あなたは罰して欲しかったんですか?」

 

「い、いえ! そう言う事ではなく! ただ、何でなんですか?」

 

「はぁー……。今日この学園には、私を含め、各国のIS関連の組織代表たちが集いました。

その目的は、三年生のスカウト、二年生は一年の成果を、そして一年生は何と言ってもあのブリュンヒルデの弟と代表候補生である更識の人間に、それからあなたがいます………それぞれ専用機を用いての戦闘でしたから、かなりの評判でしたね」

 

「はぁ……それがどうかしたんですか?」

 

「その戦闘内容に、見ていた皆さんは感服したそうですよ。あなたの全試合を通して、かなりの評価をいただけました。

最後の試合に至っては、最も評判が良かったですね」

 

「へぇー、それはまた何でですか?」

 

 

鈴の疑問に、麗々は眼鏡をクイッと上げて言う。

 

 

「今時重火器によって成り立つ戦闘。銃や光学レーザーに、あなたが使う空気砲もそうですが、現代における戦闘スタイルは銃がメインです。それはわかりますね?」

 

「えぇ、まぁ……」

 

「ですから、あなたと更識 一夏の戦闘……完全な近接格闘型スタイルのバトルなんて、あまり見る機会がないですからね……皆さま興奮されていた様子でした」

 

 

 

そう、今時剣一本で突っ込んで行くような戦い方はほとんどない。

誰もが火器を使い、遠距離での撃ち合いになる。そして、空中と言う三次元的、空間をフルに使う戦闘術が今時普通。

剣一本による戦闘は、世界広しと言えどモンド・グロッソ優勝者である千冬くらいなものだ。

 

 

「あなたの剣の腕と操縦技術。そして、それを上回った更識 一夏の剣技。下手をすれば、モンド・グロッソ並みの試合だったのではないか……と判断されました」

 

「は、はぁ……」

 

 

 

今の説明でも、あまり納得が出来なかった。

たとえいい試合をしたところで、国際問題にまで発展しそうな問題を無しにするとは出来るとは思えない。

 

 

「それと、何より更識 一夏自身からのお願いで、あなたを不問としてくれるよう進言があったみたいです」

 

「一夏から!?」

 

「はい、それともう一つ。あなたが目を覚ましたら、また話したいと言っていました。

体調を崩していないのであれば、早々に行くべきだと私は思いますが?」

 

「あ、はい! すみません、ありがとうございますっ‼︎」

 

 

そう言うと麗々は立ち上がり、保健室を後にした。

その後、鈴は制服に着替えて、保健室を出る。

そして、一夏を探すべく、走り出した。

探すのは結構時間がかかるものだろうと思っていたのだが、思いの外早く見つかった。

一夏がいたのは、学生寮と保健室のあった管理棟との間にある中庭だった為だ。

一度深呼吸をし、そっと一夏に近づく。

 

 

 

「ごめん……待たせちゃった?」

 

「ん……いや、そんな事無いぞ」

 

 

 

後ろから声が聞こえた為、一夏はそっと振り返る。

夕陽の色と薄桜色の髪の色が混ざり合い、綺麗な茜色になっていた。

そして、その髪を優しく撫でるように海風がそっと吹く。まるで絵画の世界だ。

 

 

「ん? どうした?」

 

「えっ? う、ううん! なんでもない!」

 

「そうか? ならいいけど……」

 

 

 

一夏の姿に見惚れていた……とは流石に言えず、慌ててかぶりを振る鈴。

 

 

 

「それで? 話って何?」

 

「あぁ、改めて言うのも何だけどさ……鈴、もう俺の事は、気づいてるんだよな?」

 

 

 

俺の事……つまり、更識 一夏は、鈴の幼馴染みである織斑 一夏であるということだ。

流石にあの態度を見ていれば、一夏とて気付く。

そして、先ほど行われた異例試合。優勝者たる鈴と一夏の勝負では、異様なくらいの執念を感じられた。

『あの時の約束』鈴と交わした最初の約束。今度こそ守る為に、強くなった事を証明する為に行った試合。

それだけあれば充分わかる。

 

 

 

「うん……そのぉ、ごめんね。あんな事言っておいて、あんたにボロ負けして……何やってんだろうね、私……」

 

「いや、気にしていないよ……まぁ、なんて言うか……」

 

 

鈴が改まって謝罪し、一夏もどことなくぎこちない対応をする。

 

 

「久しぶりだな……鈴。また会えて、本当に嬉しいよ」

 

「ッ‼︎ ……一夏……一夏ァァァァァッ‼︎」

 

 

一夏の一言に感極まり、鈴の目から涙が溢れる。

一番会いたかった愛しい人が生きており、目の前にいる。

走り出して、思いっきり一夏に飛びつく。

 

 

 

「うぅ…うわあぁぁぁ〜〜〜〜ッ‼︎」

 

「ぁ……。ありがとう……ただいま、鈴…」

 

 

 

一夏もそんな鈴を優しく抱きしめる。

そんな状態が大体どれくらいたっただろうか……

優しく鈴の頭を撫でていると、やっと元の気丈に戻った鈴が、涙をぬぐって一夏から離れる。

 

 

 

「ご、ごめん……なんか、私だけ…」

 

「いいさ、気にしてないよ。しかし、まさかお前が中国で代表候補生になってるとはなぁ〜」

 

「あんたに比べたら全然だけどね。私だって、一生懸命だったのよ……。

それよりさ、ちょっと聞きたいんだけど…」

 

「ん? なんだよ?」

 

 

 

改まってまじまじと見つめる鈴。

その視線に少々たじろぐ。

 

 

 

「あんた……本当に男なのよね?」

 

「改まって聞くところがそれかよッ!?」

 

「だ、だってっ‼︎ あんたの事、学校で初めて見た時正直女としか思えなかったわよっ?!

そんな華奢な体で、背もそこまで高くないし、何よりその長い髪よッ! しかも何その髪色。昔の原色から程遠いじゃない!!!」

 

「これには事情があるんだよっ! 俺はちゃんと男だし、男として生きているんだ…。そりゃあ周りからしてみれば女の子っぽいって言われることは多いけどな……」

 

「いや、女の子っぽいじゃないって……本当に女の子なのかと思うわよ……」

 

 

 

それからやいのやいのと話し込んでいたら、すっかり陽が落ち、そろそろ寮の門限に近かった。

 

 

「すっかり話し込んじまったな……この話は、また今度な」

 

「うん、そうね……じゃあ帰ろっか」

 

 

そう言うと、鈴は一夏の腕に自分の腕を絡める。

そして、陽気に鼻歌まで歌いだした。

 

 

「お、おい、鈴!」

 

「いいじゃない! これくらい。男なんでしょ?」

 

「くっ……わかったよ。ただし、寮の中に入ったらすぐに離れろよ? 他の生徒にでも見られたら、何を言われるかわからんし」

 

「別にいいんじゃない? 他の連中が言ってる事はそんなに気にしない気にしない!」

 

「だ、だけどな……」

 

「もし変な噂をされるなら、付き合ってる事にすればいいじゃん♪」

 

「はっ?!」

 

「何よ……私じゃ不満?」

 

「いや、そういうことじゃねぇだろ……」

 

「大体、今のあんたを見て、私が男だったら絶対に恋してるし」

 

「いや、女のまま恋しろよ!」

 

「もうしてるわよ……」

 

「う……む」

 

 

 

さりげないように言う鈴に一夏は戸惑う。

 

 

 

(な、なんなんだ……? 鈴ってこんなんだったけ? こんな事を平気で言う奴だったけ?)

 

 

一夏の中での鈴は、小学6年で止まっている。

なので、小学生らしい幼さが残った印象しかなかった。

だが、今の鈴はあの時とは違い、どこか女っぽくなったような気がしてならない……。雰囲気も、姿も、どことなく色気が増したような……

 

 

 

(いかんいかんっ‼︎ 感情に流されたらアウトだっ‼︎)

 

 

咄嗟に自分の考えている事が恥ずかしくなり、かぶりを振る一夏。それを見てニヤける鈴。

 

 

「ん、まぁ、そのなんだ、ところでお前の親父さん達は、元気にしてるのか?」

 

「………」

 

 

 

話を変え、鈴の両親の話を振る。

すると、途端に顔の表情が暗くなる鈴。どうしたのかと模索していると、鈴は重々しく口を開いた。

 

 

 

 

「その、お父さんとお母さん……離婚しちゃったんだよね……」

 

「ッ!?」

 

「私が中国に帰ったのも……それが原因でさ……。ほら、今は女の方が偉いなんて世の中でしょ? だからさ、お母さんに親権は渡されて、私は中国に帰る事になったのよ……」

 

「そう、だったのか……」

 

 

 

 

驚きしかなかった。

鈴の家庭は、超がつくほど仲がいい家族だったのだ。

中華料理屋を営んでいた両親。あまりに娘を溺愛し過ぎて、店名を『鈴音』と娘と同じ名前にするほどだった。

一夏にしてみれば、それはとても羨ましいと思ったほどだ。

元々家族に縁が無かった一夏にとって、鈴の家族は自分では絶対に手に入れられないものだというのが本音だった。

なのに、そんな鈴の家族が離婚……離れ離れになってしまった……。

 

 

 

「すまん……嫌な事、思い出させてしまって……」

 

「ううん。別にいいわよ、もう昔の事だし……」

 

「でも、やっぱり信じられないな。お前の家族が、離れ離れになるのは……俺からしたら、お前の家族は、理想そのものだったからさ……」

 

「そっか……。でも、難しいよね。家族なのにさ、ケンカして、離れて……。あんたの気持ちが、少しわかったかも知れない」

 

 

そう言うと鈴の手は、小刻みに震えていた。

離れ離れになった時の事を思い出しているのか、それともその過去を振り払う為にしているのか……。

そうしていると、ふと鈴の頭に一夏の手が置かれた。

何事かと一夏の顔を見ると、そこには優しく微笑む一夏の顔が……。

 

 

 

「なぁ、鈴」

 

「な、なに?」

 

「今度、二人でどっか遊びに行こうぜ。昔みたいによ」

 

「へっ?」

 

 

 

一夏の思いがけない提案。

それはつまり……。

 

 

 

「それって、もしかてデートッ!?」

 

「うぇっ?! ま、まぁ〜そうだな。デート……かな」

 

「なによ! はっきりしなさいよっ‼︎ デートなんでしょ!?」

 

「えっとだな……」

 

「デートよね……」

 

「はい……デート、です……」

 

 

 

最後のはほぼごり押しのようだったが、なんとか二人で出掛ける予定を立てた。

 

 

 

「それじゃあ一夏!」

 

「ん?」

 

「また明日ね!」

 

 

最後は飛びっきりの笑顔を見せ、一足早く寮棟に入っていく鈴。

その顔は、一夏が見た中で一番と言っていいほど輝かしいものだった。

 

 

「あぁ、また明日なっ‼︎」

 

 

また明日…………その言葉が言えるのが、とても嬉しかった。もう二度と会えるかどうかもわからず、あの日も突然離れ離れになった。ごめんもありがとうも言えず、いつの間にか三年が過ぎた。こうして奇跡的に再会し、また明日には会えるのだと思うと、正直涙ぐんでしまう……。

 

 

 

「 ‘また明日’ 、か……」

 

 

一人でつぶやいていると、ふと後ろの茂みから何やら音が聞こえてくる。

 

 

 

「はぁー……盗み聞きなんて趣味が悪んいんじゃないか? お前ら……」

 

 

 

少なくとも一夏は気づいていた。大体鈴と腕を組んで校舎の中に入ろうとしていたところあたりからだが、妙な殺気めいた視線が気になっていたためだ。

 

 

 

「ちっ、バレたか……」

 

「姉さんが殺気立つからだぞ……」

 

「だから言ったのに……」

 

 

 

その茂みから、仲良しこよしで出てくる三人。

もうわかると思うが、刀奈にマドカに簪だ。

 

 

 

「はぁ…刀奈姉、いつから見てたんだよ」

 

「そうねぇ〜、一夏が鈴ちゃんを泣かせて、抱きしめてたあたりからかしらねぇ〜」

 

「ほとんど最初っからじゃん……」

 

「私と簪はお前と鈴がデートの約束をしていた時からだ!」

 

「ま、マドカ!?」

 

「なるほど……お前らも途中参観だったのね……」

 

「そ、その、ごめんね一夏。私はやめようって言ったんだけど……」

 

「いや、別にいいよ。そこまで気にしてなかったし……ほら、早く入らないと織斑先生に怒られるぞ」

 

「あっ! 待ちなさい一夏! さっきの事をもう少し詳しく教えなさい!」

 

「それはまた後にしてくれ。今日は臨時の試合で疲れてんだよ……とりあえず腹減ったなぁ〜」

 

 

 

その後、一夏達は食堂で共に食事をとり、その後は刀奈による鈴との過去や、思い出話を一夏の部屋でするのだった。

 

 

 

「なるほどねぇ〜。鈴とはそんな事が……」

 

「昔の約束を守る為に頑張ってきた鈴って……本当にすごいと思う」

 

「それはそうと、一夏。明日は用心しておいた方がいいと思うわよ?」

 

「用心? 何に?」

 

 

 

刀奈の言葉の意味がわからず、頭を捻っているとマドカと簪は何か納得しながら、ものずごく心配そうな視線をこちらに向ける。

 

 

「えっ、と……何が大変なんだよ……」

 

「明日になればわかるわよ。それじゃ二人とも、今日はもう自分の部屋に戻りなさい。明日は大変よ」

 

「そうだな……簪、帰ろっか」

 

「うん……そうだね。一夏、明日は死なないようにね?」

 

「えっ?」

 

 

 

最後の最後で途轍もなく不審な言葉を残して部屋を後にした簪とマドカ。

死ぬほどのものなのか……?

 

 

「えっ? 死なないようにね? ど、どう言うことだよ!?」

 

「明日になればわかるって。じゃあ、お休み〜」

 

「おい! 待てって、簪! マドカ!」

 

 

 

バタン!

 

 

無情にも響き渡る部屋のドア。

明日は何かが起こる……その不安を抱いたまま、一夏はベッドに横たわる。

 

 

「あ〜〜……マジで何が起こるってんだよ……」

 

「そのくらいの困難を乗り越えてこそ、男ってものなのよ……一夏」

 

 

 

考えても仕方ないと判断し、とりあえず明日の為に体力をつけておこう。

睡眠は大事だ。

 

 

 

 

 

翌朝。

重く沈んだ気持ちで起床する。

いつものように髪を梳かして、歯を磨き、刀奈姉を起こす。

そして、部屋を出た後いつものようにマドカと簪の二人と合流し、朝食を取るために食堂へと向かう。

ここまでは普通だった。

だが、食堂に近づくにつれ、何やら騒がしくなっているのが、目に見えてわかった。

 

 

 

「何だ? なんか騒がしいな……」

 

 

『落ちろおぉぉぉぉぉっ!!!』

 

 

 

「んっ?!」

 

 

 

突如鈴の声……いや、正確に言うならばモニター越しと言うか、本人のではなく電子的に通した声が聞こえてくる。

それも聞き覚えがありまくるセリフを。

 

 

 

『くっ! ふうっ‼︎』

 

『くっ、ぁああっ!!!』

 

 

うん。聞き覚えがあるどころの騒ぎではない。

いざ食堂に入ってみると、そこには大きな空間ディスプレーが表示され、みんなその映像に釘付けになっていた。

ある子は目を輝かせ、別の子はうっとりとした表情でその映像を見ており、さらに別の場所では数人が立ち上がり、興奮した状態で身振り手振りを交えて、熱く観戦していた。

 

 

 

『くうっ! ぅぅつ!ああああぁぁぁっ!!』

 

『ちぃっ‼︎…… はあっ! せいっ!』

 

 

そして、その映像はクライマックスを迎える。

二機のISの内、蒼い翼のISが赤いISの剣を弾き飛ばし、振り上げた左の剣を、思いっきり振り下ろした。

 

 

『うおぉぉぉああああぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!!』

 

『きゃああぁぁぁぁっ!!!!』

 

 

 

ドオカァーーーンっ!!!!

 

 

 

「きゃああぁぁぁーー!!! 更識くん、かっこいいぃ〜〜っ!!!」

 

「可愛くて、強くて、かっこいいってーーっ‼︎ もう最強よっ‼︎」

 

「はあ〜ん❤︎ 一夏様ぁぁぁ〜〜❤︎」

 

「えっ……と……何だこれ?」

 

「何だも何もないわよ。昨日の私とあんたの試合でしょ?」

 

「あぁ、鈴。おはよう」

 

「うん、おはよう一夏。はぁ……全く、これ見るのはいいけど、私負けてるからさぁ〜あまり見られたくないんだけど……」

 

 

 

そうこうしている内に鈴が一夏の隣にやってきて、事態の説明をしてくれた。

元々、男の娘体質の一夏。この学園に入って以来、少なからずファンの子がいたのだが、それが昨日の試合を見て急増し、今では一夏非公認のファンクラブがあるとかないとか……

 

 

「それにほら、今朝の新聞部がだした新聞なんだけど……」

 

「ええっと、なになに……?」

 

 

鈴からもらった新聞。

今朝新聞部が発行したものらしいのだが、その一番初めの一面には大きな文字でデカデカと書かれていた。

 

 

 

「『白い騎士をも圧倒した紅き暴龍。それを撃破した二刀流使いの蒼の女天使ッ!! 窮地から一転! 怒濤の50連撃っ‼︎』………って、俺は女天使でも無いし、50連撃も放ってねぇーよッ!!!!」

 

「でもまぁ、みんなそんな事どうでもいいのよ、きっと。新聞部の戦略としては、中々だと思うけどねぇ〜」

 

「尾ひれがつくにもほどがあるだろ……」

 

 

 

一夏がその場で項垂れていると、一夏の存在に気付いた生徒たちが、一様に一夏に迫ってきた。

 

 

「更識く〜〜んッ!!! あの、良かったらサインくださいっ‼︎」

 

「はぁ? サイン?」

 

「じゃ、じゃあ、私は握手して下さい! お願いします!」

 

「え、ええっ!?」

 

 

 

あっと言う間に囲まれる。

とりあえず朝食を取りたいと思っていると、ふとみんなが鎮まりかえった。

 

 

 

「何を騒いでいるっ‼︎ 朝食は迅速に効率よく取れっ!!!! 遅刻した者はIS装着でグラウンドを10周させるぞ!」

 

「「「………………」」」

 

 

鎮まりかえった食堂内。

みんな急いで自分の席に戻り、そそくさと朝食を取る。

 

 

 

「更識」

 

「は、はい! 何でしょう?!」

 

「別に、今回はお前が起こした騒ぎではないから、あまりとやかく言うつもりはないが……こういった騒動は起こしてくれるなよ? 騒ぎを治めるのが面倒なんでな……」

 

「あ、はい……」

 

「まぁ、それから……」

 

「ん?」

 

 

 

何やら改まって、咳払いをする千冬。

そして、再び一夏を見直してこう言った。

 

 

 

 

「昨日の試合、中々のものだった。もっと精進すると良い……」

 

「あ……」

 

 

 

 

そう言って、千冬は食堂を後にした。

今の言葉は、俺、更識 一夏に対して言ったものなのか、それとも…………。

だが、褒められて悪い気は起きなかった。だだその後姿を見ながら頭を下げた。

 

 

 

「…………ごめん一夏、ちょっと部屋に忘れ物してきちゃった。取ってくるから、先にみんなでごはん食べてて?」

 

「えっ? ああ、わかった。じゃあ姉さんの分も頼んでおこうか? 何がいい?」

 

「えーっと、じゃあ〜一夏と同じのでいいわ」

 

「そうか? なら、よく和風御膳でいいか?」

 

「うん! じゃあよろしく〜♪」

 

「早く戻ってこいよぉ〜!」

 

「はーい♪」

 

 

 

刀奈は急いで食堂を出て、走り出した。

行き先は、ある教員の部屋へとつながる道。

 

 

 

「織斑先生…」

 

「…………何だ、更識姉。たとえ生徒会長のお前でも、遅刻すればあいつらと同じ罰を与える事になるぞ?」

 

「いつまでも……こうしているつもりですか……」

 

「…………」

 

 

 

刀奈の問いかけに、千冬は黙る。

刀奈が何を言いたいのか、千冬にはわかり、それと同時に千冬の顔がより一層鋭くなった。

 

 

 

「どういう意味だ?」

 

「織斑先生も……気付いているのではないですか? 箒ちゃんに鈴ちゃんだって ”一夏” の事は一発で見抜いた……でしたら、お姉さんであるあなたが、気づかないわけがないですよね? 織斑 千冬さん……」

 

「…………」

 

 

そう、恐らくだが、千冬は一夏の存在に気付いている節がある。初めてクラスに入った時、セシリアと試合をした時、弟である千秋と試合をした時、そして、昨日鈴と試合をした時。

全てにおいて千冬はその現場に居座った。

それ故に、一夏の癖も、一夏の動きも、一夏の言葉の一つ一つも、全て見聞きしている筈だ。

そして、鈴は一年、箒は六年ぶりに一夏に会った……にも関わらず、一夏が ”織斑 一夏” である事を見抜いたのだ。

一夏が生まれてから約十二年もの間を共に過ごした千冬が分からない筈はない。

 

 

 

「例え私が、あいつの事を知っていたとして……それでどうなると言うのだ?」

 

「っ‼︎ あなたは、自分の弟の事をどこか甘く考えていませんかっ!?」

 

「別にそんな事を言っているつもりはないさ……」

 

「じゃあなんで一夏に一言を謝らないんですか‼︎ あなたが何も知らなかったこと、千秋くんが一夏にしてきた仕打ちのことを! そして周りの人間達も、一夏を蔑み、苦しめてきた‼︎ 一夏はずっとそれに耐えて、戦ってきたというのにーーッ!」

 

「…………」

 

 

 

普段の刀奈らしからぬ罵声。

本当に一夏の事を大切に思っているからこそ、我慢がならなかった。

本当は気付いているはずなのに、何もしない千冬を見て、本当は最初から問い詰めようとしたが、それで一夏と千冬に間に変な意識を挟みたくなかった。

これまでもいうチャンスはあったが、我慢してきた。

でも、もう限界だ。

普段は抑えていた感情が、一気に噴き出した。

 

そんな罵声を、静かに受ける千冬。

反論しようにも、出来ない。する資格が自分にはないとわかっているからだ。

 

 

「更識……私は姉失格なんだよ……」

 

「…………」

 

「一夏の事も、千秋の事も……一様に見てきたつもりだった。あいつらがいてくれたなら、私はどんな事でも頑張れると思っていた……。

一夏と千秋、あの二人が仲が悪かったのも知っていたが、それは時間が解決するものだと思っていた……だが…」

 

 

 

先ほどの鋭き顔はどこかへと消えて無くなっていた。

今にも泣き出しそうで、消えてしまうような……世界最強のブリュンヒルデと呼ばれた千冬の顔は、そこにはなかった。

 

 

 

「結局、私は何も出来ない女だったという事さ……。一夏を守れず、誘拐されておきながら、世界最強ブリュンヒルデと言う貰ってもちっとも嬉しくない称号だけを手にした…………」

 

「………だったら、尚更あなたは一夏と話すべきではないのですか? 一夏は強いし、優しい……。でも、中はまだ子供なんです! あの子が苦しんで、辛い思いをするのは、私は見たくない。

私に出来ることは、ほんの限られた手助けだけ。あとはあなた達姉弟がちゃんと決着をつけるべき事です!」

 

「………今更会って何を話せと? お前を見捨ててすまなかったとでも言えと言うのか? 私にそんな事言う資格はないだよ更識。

私はもう、一夏の姉でもなんでもない。私たちを捨てていった両親たちと同じ、ただの人間のクズでしかないよ……」

 

「織斑先生……」

 

「更識、一夏の事を頼んだ……。私には守れなかったが、お前ならば……お前たち姉妹ならば、一夏を幸せに出来るだろう。だから……」

 

 

 

そして、刀奈は見てしまった。

両目から流れ落ちる涙を……それが両頬を伝い、やがて床へと落ちる。

一滴、また一滴と静かに落ちていく。

 

 

 

「これは命令ではなく、私自身、心からのお願いだ。更識! 一夏の事を……頼む‼︎ 私では……! 私ではもう……あいつを幸せになんか出来ないんだ……っ! だから、頼む‼︎」

 

 

頭を下げ、懇願する千冬に、刀奈は何も言えなかった。

ここで返事をしていいものか、迷っていると、千冬は頭を上げて、そそくさと自分の部屋に向かって歩き出し、やがて部屋に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 

部屋に入るなり、急いでドアを閉める千冬。

部屋の中は服やら書類やらで散らかっており、とても人にお見せできるような部屋ではなかった。

が、たった一箇所だけ、綺麗に整頓されていた場所があり、千冬もまた、その場所へと歩み寄る。

自身のパソコンが置いてある机の上。その隣に飾ってある一枚の写真を手にし、見つめる。

 

 

「一夏……」

 

 

 

その写真の中には、千冬と千秋、そして一夏の三人で撮った物があった。

その昔、第一回モンド・グロッソで優勝した時の写真だ。

右側に優勝トロフィーを握る千秋と中央に立つ千冬。そして、左側に立つ一夏。

千秋と千冬は笑顔なのだが、肝心の一夏はどこかぎこちなく笑っていた。

当時は全く気に留めなかった一夏の表情も、今となっては納得がいく。

この頃から、それかもっと前から、一夏は苦しみ続けていたのだと……。

 

 

 

「すまない…一夏……! ごめん……ごめんなさい……!」

 

 

ただ静かに涙をこぼし、泣き崩れる千冬。

その写真を、強く握りしめる。そして、本人には言えなかった言葉を、ここでずっと言い続ける。

 

 

 

(最低だな……私は……。何も出来ない、何もしてやれない、ただの女だ……世界最強が聞いて呆れる……)

 

 

 

ただただ後悔ばかりが残る。

だが、そうやって立ち止まることさえ、世界は許してくれない。

自分は教師である。生徒達を守り、成長させていくことが自分達の使命だ。

 

 

 

「さて、そろそろ行かねばな……授業に遅れてしまう」

 

 

 

涙で真っ赤になった目は、この際気にしてられない。

涙を拭い、いつもの千冬に戻る。

そして、握りしめた写真を、また額縁に入れ直して、再び部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

一方、刀奈はその後食堂へと赴き、一夏達が食べている席へと向かっていった。

 

 

 

「遅かったな。何かあったのか?」

 

「ううん。何でもないわ……さぁ、食べましょう!」

 

「ん、あ、あぁ……」

 

 

 

一夏には適当に理由をつけておこうと思いながら、一夏が注文していた和風御膳を食べる。

すると、いきなり刀奈の携帯が鳴り出した。

刀奈は、「ちょっとごめん…」っと言って、席を離れて電話に応答する。

 

 

 

「ええ……そうなの………わかったわ、すぐに向かうから」

 

 

会話を終えると神妙な顔つきになって戻ってきた。

 

 

 

「どうしたんだ?」

 

「うん……あまり大きい声では言えないんだけど、この間、ここに侵入者が来ようとして、それをマドカちゃんが撃退したでしょう?」

 

「あぁ、聞いた。なんでも、魔法を使ったとか……」

 

 

 

そう言って、一夏は視線をマドカに向ける。その視線に気づいたのか、マドカは箸を置き、その会話の中に入る。

 

 

 

「あぁ、姉さんと同じ神速魔法を使っていたな。雷系の力を使っていたよ」

 

「ねぇ、お姉ちゃん。それで、いったい何があったの?」

 

 

電話の内容的に、あまりいい話ではないと察した簪が刀奈に聞く。

 

 

「実は、その魔法を使ったIS……仮称として、ゴーレムと名付けるわね。そのゴーレムが、この間中東地域で発見されたらしくてね」

 

「はぁ? なんで中東に?」

 

「そこに、何かあったのか?」

 

「確か中東っていったら、アメリカとイスラエルが共同開発している軍事用ISの試験実験場があったところじゃない?」

 

「そう、簪ちゃんの言う通りよ。そして、その施設が、昨晩襲われそうになったらしいんだけどね、あそこにも警備としてISが数十機は置いてあるから、なんとか退けたらしいけど……」

 

「なるほど。つまり、俺たちもその防衛に加われと……」

 

「そういうことよ一夏」

 

 

 

 

ISの軍事施設を狙うあたり、テロリストである事は間違いない。そして、これほどまでに大掛かりな事をやってのける組織も、自ずと答えが出てくる。

 

 

 

「亡国機業か……」

 

「ええそうよ。第二次世界大戦後、創設された組織……。裏の世界で、その名を知らない者はいない筈よ。

そして、私たちが保有する異端の力も、所持している可能性が高い……」

 

「まさか! トレイラーの技術までも奪ったって事か?!」

 

 

 

もしそうならば、一夏達以外にも異端の力……魔法を使える可能性が高い……。それならば、先日のゴーレムが魔法を使えたことにも納得がいく。

 

 

 

「ゴーレムについては、まだわからないことが多いわ。無人機であった事、魔法が使えた事、どうやってISのコアを入手できたか……いろいろあるけど、とりあえずは、捜してみるしかないわね」

 

「わかった……そうしよう。んで? 今回は、誰がいくんだ?」

 

「そうねぇ〜。とりあえずは私と、あと一人……」

 

「なら、今回は俺がいくよ」

 

「えっ? 一夏がいくの?」

 

「なんだよ。ダメなのか?」

 

「ううん、大丈夫だけれど……行ってもいいの? 昨日の今日で」

 

「大丈夫だよ。この程度でバテるような体はしてないさ」

 

「体つきは深窓の令嬢みたいだけどな…」

 

「うるせぇぞ〜マドカ……。とりあえず、今回は俺も気になるんでな。悪いが姉さん、俺も同行させてもらうぞ?」

 

「わかったわ。まぁ、正直一夏がいてくれて助かるわ。学園には、私から言っておくから安心して、理由はそうねぇ〜家の事情と専用機のメンテって事にしとけばいいかしら?」

 

「あぁ、そんなんでいいだろ」

 

「じゃあ、すぐに支度しておいて一夏。それと、簪ちゃんとマドカちゃんも、お留守番頼んだわね」

 

「了解だ」

「任せてお姉ちゃん。一夏も、気をつけてね」

 

「おう」

 

 

 

 

 

その後、一夏と刀奈は学園側に任務の要請があった為、公欠するよう申請し、自室へ戻った後、更識家の用意した車に乗り込み、空港へと直行したのだった……。

 

 

 




次回は、魔法戦でもやろうかと思います!

なんか、最近思ったのが、この作品で、魔法戦は最初の一夏 VS マドカしかなってないなぁ〜と思ったので、次回は魔法戦にします!

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