IS〜異端の者〜   作:剣舞士

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長かった……この一話作るのに凄く疲れた……( ̄◇ ̄;)


まぁ、戦闘内容は、皆さんわかると思うけど、がっつりSAOです!

楽しんで読んでくれたら嬉しいです^_^

それでは、どうぞ!


第19話 天使と龍の輪舞

IS学園にて行われたクラス対抗戦は、二組の凰 鈴音の優勝にて、幕を閉じると思われた。

が、それを優勝者である鈴からの提案により、一組の更識 一夏と対戦する事になった。

会場はどよめき、一夏も呆然となる中、生徒会長たる刀奈の権限によって、急遽開催される事になった一夏 VS 鈴の一戦。

会場に詰めかけた観客は、もう既にどちらに軍杯が上がるかを予想し始め、活気付いていた。

 

 

 

 

〜選手控え室 鈴サイド〜

 

 

 

 

「さて、これはどういうつもりなのか、説明していただけますか? 凰 鈴音候補生?」

 

 

 

控え室で準備をしている鈴の後ろから、少し苛立ちめいた声が聞こえる。

切れ目で、鋭いエッジの眼鏡を掛けた神経質そうな女性…。

 

 

 

「楊 麗々候補生管理官……説明も何も、さっき閉会式で言った通りの理由ですけど?」

 

 

どこかとぼけた調子で言う鈴に、さらに苛立つ麗々。

目がさらに鋭くなり、眉間にシワがよって、ジッと鈴の事を睨みつけている。

 

 

「あなたの技術、そして、これまでの努力は認めましょう……あなたは祖国を代表する代表候補生なのだと……」

 

 

目をつむり、たんたんと話す麗々。しかし、やはり我慢出来ないのか、普段より数段ドスの効いた声になっている。

 

 

「ですがッ! 少しばかり度が過ぎるのではないでしょうかッ? あなたの行動は、目に余るものがあります!

この学園に編入する時といい、さっきの発言といい、少しは分をわきまえてもらえないものですかねぇッ!」

 

「はいはい…すみませんでした。でも、大丈夫ですよ…勝つのは私なんで」

 

「大きく出ましたね……。はぁ……まぁいいです。しかし、一つ教えてもらえませんか?」

 

「何でしょうか?」

 

「何故にあの少年……更識 一夏にこだわるんですか?」

 

「…………」

 

 

 

麗々の質問に、鈴は一度目を閉じ、天を仰いだ。

そして、何処か懐かしむような目で話す。

 

 

 

「これは……私のエゴですよ…」

 

「エゴ…?」

 

「はい。昔一度だけした、たった一つの約束の為だけに、私はあいつを利用しただけです…」

 

「ん? ……まぁ、それは分かりました。ですが、あれだけの大口を叩いたんですから、みっともない試合は出来ませんよ?」

 

「わかっています。やるからにはあいつに勝って、正真正銘私が一年最強の座を手にしますよ!」

 

 

 

やる気充分。その鈴の目をみた麗々は、何も言わず部屋をあとにした。

 

 

 

 

 

〜四年前〜

 

 

 

 

 

「今日はこのクラスに、転校生がやってきます!」

 

 

 

五年生になった一夏たち。去年、篠ノ之 束博士によって、開発、発表されたISの出現によって、篠ノ之 箒が政府の人たちによって転校を余儀無くされ、この小学校を去った。それから一年で、世界は女尊男卑の風潮が強まり、女=偉い、男は労働力と言った具合にバランスが崩れ始めた。

そして、何より一番酷かったのが、モンド・グロッソで優勝した織斑 千冬の弟達である一夏と千秋の比較だった。

何をやるでも優秀な弟 千秋と普通の兄 一夏。

クラスでもその比較は行われ、周りは千秋を持ち上げ、一夏を蔑んだ。それを見て千秋は優越に浸り、一夏は心を虚無にしていった。

だから、転校生がどうとか正直どうでも良かった。

 

 

「それじゃあ、凰さん、入って来て!」

 

「ハイ!」

 

 

 

ガラガラッ! と音を立て、教室の扉が開かれる。そこから入って来たのは、小柄で、混じり気のない茶髪をツインテールで結んだ女の子。

 

 

「えっと、自己紹介をお願いね」

 

「ハイ……。えっト、凰 鈴音デス! 中国から来ましタ! まだ日本語がよくワカラナイですガ、よろしくお願いシマス! 鈴と呼んでクダサイ!」

 

 

精一杯練習したであろうその自己紹介に、クラスのみんなは暖かい拍手で迎え入れた。

そして、その席は一夏の隣になったのだ。

 

 

「えぇー! 何だよ、一夏の隣かよぉ〜! 一夏、俺と代われよなぁ〜!!」

 

「エッ?」

 

「何言っての? 凰さんは女の子何だから、私たち女子と一緒の方がいいに決まってるじゃない! しかも、何でよりにもよってあいつの隣なのよ……」

 

「えっと、アノ……」

 

 

確かに、自分の “凰” と言う呼び方は、ファンと読むのだから、あ行ではなく、は行の苗字の人の隣に座る筈だ。しかし、学校側が読み方を謝り、オウと読んでしまった為、織斑の前として隣に座る事になったのだ。

だが、そんな事今はどうでもいい。何故かみんな一夏を目の敵しているようだった。

 

 

「エッ? エッ?」

 

「周りは気にしないでいいぞ?」

 

「う、うん……」

 

 

一夏と呼ばれる本人は、心に温度が無いような、何だか無な感じがしたのが、鈴の第一印象だった。

そんな事を思いながらも授業は進み、鈴は慣れない日本語も周りのみんなに助けてもらいながら授業を受けれたのだが、それと同時に隣にいる一夏に対するみんなの対応の仕方に異常を感じていた。

 

 

「はい、ここを一夏くん! 解いてみて」

 

「えっと……」

 

「はぁ……何であなたはこれくらいもわからないのかしら?」

 

「ごめんなさい…じゃあ千秋に解いてもらって下さい……」

 

「だそうだから、千秋くん、お願いします」

 

「はい!」

 

 

そう言って、千秋と呼ばれた少年は黒板の前に移動し、問題を解いて行く。

見事正解して、みんなから賞賛の声を受ける。

だが、今解いた問題は、初めて習った物なのだから、普通は解らず、解くのに時間が掛かってもおかしくは無いのだが……。

 

 

「すげぇ〜な千秋! 一夏全然ダメじゃん!!」

 

「千秋くんって弟なんだよね? お兄ちゃん何だからもっとしっかりしないと!」

 

「あぁ、そうだね……もっと勉強しておくよ…」

 

 

 

明らかにみんなから蔑みの言葉ばかりを掛けられている。

そして、それに対して何も反論しない一夏に鈴は不気味な雰囲気を覚えた。

 

 

 

(こいつ……本当に私たちと同い年なのかな…?)

 

 

 

小学生とは思えない冷たい感覚に身を包んだ少年に、鈴は少なからず恐怖を持っていた。

それからは周りのみんなや千秋と仲良くなり、遊びにいったり、一緒に学校にいったりして慣れない日本語にも慣れ、毎日を楽しく過ごしていた。

両親は中華料理屋を営んでおり、鈴もそんな両親の手伝いをし、時々近くの商店街へ買い物のお使いをしたりしていた。

 

 

 

「えっと、この玉ねぎと、人参下さい!!」

 

「はいよ! 鈴ちゃんは偉いねぇ〜! お使いかい?」

 

「うん! ちょっと材料が足りなくって! はい、お金」

 

「毎度!」

 

 

 

そう言って、八百屋の親父に別れを告げ、店に帰る鈴、その途中で……。

 

 

「すみません、アジを三つ下さい」

 

「あん? あぁ、お前さんかい……ほら、持っていきな…」

 

 

 

そう言って、魚屋のおじさんは適当に見繕ったアジ三匹を手渡す。よく見るとあまり上物ではなく、所々痛んでいた。

 

 

「ん…」

 

「………どうも、これお金です…」

 

「おう、そこに置いときな」

 

「なッ!? あいつ、何してんのよ!」

 

 

 

何も反論しない一夏に、痺れを切らした鈴が魚屋のおじさんに詰め寄る。

 

 

 

「ちょっとおじさん! 何でそんな状態の悪いやつをあげるのよ!」

 

「おう、鈴ちゃん! 何でって、あいつみたいなやつにはアレがお似合いだよ」

 

「は、はぁッ?!」

 

 

 

わけがわからなかった。一夏を蔑んでいる理由はもう知っている。世界最強の姉 織斑 千冬を持ち、周囲からは天才とか、神童と呼ばれる弟 織斑 千秋の間にいる平凡な兄。

当然、比較はされる。

しかし、それでもやっていい事と悪いことがある筈なのだが……

 

 

 

「でもッ!」

 

「凰、もういいよ」

 

「あっ……」

 

 

 

間違いを正そうとしていた鈴は、魚屋のおじさんに食いさがろうするが、後ろから静止を求める声が。

その声の主は、他ならない、一夏だった。

 

 

「ちょ、あんた何言ってーー」

 

「今日のはまだ状態がいいよ……あまり事を荒立てたら、今度はお前が目をつけられるぞ?」

 

 

 

ただそれだけを言って、その場を離れる一夏。鈴はそんな一夏を追いかけ、ちょっと話があるといい、近くの公園へと一夏を誘った。

 

 

「それで? 何だよ話って」

 

「はぁ?! そんなのさっきの事に決まってるじゃない! あんなことされて何黙ってんのよ! それでも男なの!?」

 

 

至極当然な反応な鈴。だが、一夏は……。

 

 

「当然、男だ。だからこんなに蔑視されてるし、比べられているんだ……まぁ、俺はそんな事どうでもいいけどな」

 

「だったら、あんなことされて何でだんまりしてんのよ! ムカつかないのッ?!」

 

それは誰だってムカつくに決まっている。だか、この少年からは、そんなの感情が一切見られなかった。

 

 

「…………反論した所で、一体どうなるってんだ?」

 

「えっ?」

 

「俺が……学校とか、今の商店街で…どんな事を思われているのか……お前は見た筈だ」

 

「それは、そうだけど……」

 

「最初はあれよりも酷かったよ……そりゃあ、俺もはじめは反論したさ…そしたらこれだからな」

 

 

そう言って、一夏は着ていたシャツを上に捲り上げ、ちょうど胸あたりまであげた時、鈴は見たのだ。所々につけられたアザや傷跡が。

 

 

「なッ! 何なの……それ……」

 

「これは前に反論した時に受けた傷だよ……子どもじゃどう足掻いても大人に勝てない……それは力もそうだけど、それ以外でもさ……」

 

 

 

もはや声すら出せなかった。この少年は、自分たちとは全く違う世界で生きている別の生き物なのかと疑ってしまった。

 

 

「じゃあ、俺はもう帰るから……あんまり遅いと、また千秋の小言を聞かなきゃいけないし」

 

「…ぁ……」

 

 

 

振り返り、歩いて行く一夏の背中を鈴はただ見ている事しかできなかった。

それからも、一夏の辛辣な日々は続き、鈴は見ている事が出来なかった。

同じ小学生なのに、自分たちとは全く違う生き方をした少年。その小さい体に容赦無く批判の声や視線が突き刺さる。

なのに一夏は、泣く事すらしない。まるで、泣く事すら忘れてしまったかのようだ。

 

 

 

「ほら、鈴ちゃん! 移動教室一緒に行こう!」

 

「あっ、うん……」

 

 

 

周りは一夏の事を気にしない。男子の大半は千秋に集まり、女子も相手にしない。

だだみんなの後ろからついて行くだけの一夏を見ていて、鈴は複雑な気持ちになった。

だから……

 

 

「ごめん、ちょっと教室に忘れ物しちゃった。先に行ってて!」

 

「うん! わかった! もう少しで始まるから急いだ方がいいよぉ〜!」

 

「うん! わかったぁ〜!!!」

 

 

 

正直言って、忘れ物をしたのは嘘だ。

目的は、ただ一つ。

 

 

「ほら一夏! さっさといくわよ!」

 

「ん? 何だよ凰、先に行ってたんじゃないのか?」

 

「あんたが遅いから迎えにきたのよ! さっさといくわよ!」

 

「お、おい! 引っ張るな、自分で歩ける!」

 

 

 

それからというものの、鈴は極力一夏と共に過ごした。

給食も一緒に食べ、帰りも一緒に帰り、勉強で分からない所があれば、一夏に聞いたり。

それを見た周りは、当然鈴を白眼視した。鈴は気にしていなかったが、それが許せない者も居て、当然のように鈴をいじめる奴らも出てきた。

 

 

「よぉ〜リンリン! 笹食わねぇのかよぉ〜!」

 

「おーい、パンダァ〜! アッハハハッ!」

 

「うっさい! あっちいけバカ!」

 

 

 

中国人で、名前がリンだからパンダの名前みたいだとバカにされていた。

本人もこれにはムカつき、度々こうやっていい争いが勃発する事もあった。

 

 

 

「あんッ!? 何だとこのチビッ!」

 

「うぜぇーんだよ! あんな出来損ないとつるみやがって! お前も一緒にいじめられたいみたいだな……」

 

 

そう言って、男子達は鈴を校舎裏に連れ出し、三人がかりで鈴を相手に罵声を浴びれる。

 

 

「マジでムカつくぜ、こいつ……どうする?」

 

「じゃあ、最初は髪でも切っとく? そうすれば大人しくなんだろ…」

 

「そっか。あっ! ちょうどいい所にハサミが…」

 

 

 

何ともわざとらしく三人組のリーダー格の男子がおもむろに鈴の前でハサミを取り出す。

それを見て、流石の鈴も恐怖を覚えた。

 

 

「ちょ、いや! やめてよ!」

 

「ダメだ! お前はあんな奴の味方をした! だからこれは罰だ!」

 

「大人しくしてろよ!」

 

「いや! 離してよ! だ、誰かーー」

 

「大声を出すなよ!」

 

「むうッ! んんっ!!!」

 

 

一人に羽交い締めにされ、一人に口を手で閉じられ、最後の一人がハサミを持って近づいて来る。

 

 

「凰、お前が悪いんだ……だから仕方ない……自分のせいなんだからよぉ…」

 

(嫌だ…ッ! 誰か助けて! 誰かぁッ!!)

 

 

 

必死になって足掻こうとした鈴をあざ笑いながら歩み寄ってくる男子。

そして、ダメだと思ったその時だった。

突然横から大量のゴミが入った大きなゴミ袋が飛んできて、ハサミを持った男子の頭に直撃したのだ。

 

 

「痛ってぇぇぇ〜〜ッ! 誰だ……よ……」

 

「んッ!?」

 

 

飛んできた方向に目を向けると、そこに立っていたのは……一夏だった。

 

 

「なッ! 一夏……テメェッ!」

 

「何すんだ!」

 

「ケンカ売ってんのかッ!?」

 

 

三人の注意は一気に一夏へと向き、鈴は解放され、その場に座り込んでしまう。

そして、一夏はやれやれと言った感じで、その場に落ちてあった竹箒を掴む。

 

 

「ごめんごめん。ちょっと手が滑った」

 

「ああッ!? ふざけんなテメェッ!」

 

 

ゴミをぶつけられたリーダー格の男子が、拳を握り、一夏に殴りかかろうとした。

 

 

「一夏ッ!」

 

 

先ほどの恐怖で、腰が抜けてしまった鈴には、叫ぶ事しか出来ず、悲痛な表情をした。

だか、一夏は何も驚かずに、竹箒のはわく部分を足で踏み、柄の部分だけを抜くと、素早く構え、思いっきり胴に一撃をいれた。

 

 

「ぐぇッ!」

 

 

ドサッとその場に倒れ込む男子生徒。

それを見て残りの二人は、完全に怯えきっていた。

 

 

「な、何なんだよお前ッ!」

 

「何したんだよッ!?」

 

「なにって……ただ胴を打っただけだ……」

 

「いや、だってお前弱いって千秋が…ッ」

 

「あぁ、そういう事か…」

 

 

狼狽える男子達の声で、ようやく理解した。

普段から、千秋は剣道の大会に出て優勝するなど、輝かしい成績を持っていた。その時、ふと誰かが聞いたのだ、「一夏って弱いの?」っと。そして、千秋は当然「弱いよ…」といった。だからいつの間にか、一夏は弱いになっていたのだ。

 

 

「一つ誤解しているようだけど……確かに俺は “千秋よりも弱い” よ……あいつが優勝した大会で俺はベスト4だったし……でも、あいつが強いからって、“俺が弱い” なんて一言を言って無いぜ?」

 

 

その言葉が決め手となり、二人は走って逃げ出し、あとに残ったのは、座り込んだ鈴と、倒された男子生徒と、箒を肩に担ぐ一夏だけとなった。

 

 

 

「全く、どいつもこいつも……立てるか? 凰…」

 

「あ…う、うん……ありがとう…」

 

 

一夏は手を差し出し、鈴を立たせる。

 

 

「家まで送っていくよ…またあんな奴らにでも仕返しされたら困る……」

 

「い、いいわよッ! そんなのいらないから!」

 

「いや、ダメだ。お前が絡まれたのは、ある意味俺のせいでもあるんだ……だから家まで送る」

 

「……ふんっ! 勝手にしなさいよ…」

 

 

 

強情な一夏に、やや突っぱねるように言う鈴だったが、内心では、凄く嬉しかった。自分を助けてくれて、自分の心配をしてくれた少年……暗いイメージしかなかったその人物の違う一面が見られて、何故かドキドキしていた。

そして、その言葉通り一夏は鈴を家まで送るために、共に帰る。

 

 

「その、さ……ありがとう…」

 

「え?」

 

「だ、たからッ! ありがとうって言ったの!! その……さっき、助けてくれて……それと、ごめんなさい」

 

「ん? ありがとうはわかるけど、何でごめんなさい?」

 

「えっ? だって、私のせいであんたの事、より一層悪くなったかもしれない……」

 

「別に気にすることじゃ無いだろう。あれはあいつらが悪いんだ…それを正した。それだけだよ」

 

「でも……」

 

「心配いらねぇ〜よ。あんなのもう慣れた。逆に気にしてたら負けだ」

 

「そ、そう……」

 

 

いつもは大人しいくせに、ここぞとばかりに何故か男らしい一面が見え隠れする。

そんな一夏の横顔が、とてもかっこよく見えた。

 

 

「…………ねぇ、一夏…」

 

「ん? 何だよ…」

 

「私、頑張るね…」

 

「へ?」

 

「今より強くなって、今度は私が一夏を助けてあげるわ!!!」

 

「何だよいきなり…」

 

「もう決めたの! 私は、いつか強くなって、あんたのことを守ってあげる……とりあえず、最初はあんたと同じくらい強くならなきゃ!」

 

「いきなりだな、凰」

 

「ん……鈴よ…」

 

「えっ? 何か言ったか?」

 

「だからッ! 鈴だってば! いつまでも “凰” じゃなく “鈴” って呼びなさいよ!」

 

「えっ? あっ、あぁ……わかった。じゃあ、鈴…」

 

「うんうん! やっぱり、あんたにもそう呼んで欲しいわね…ッ!」

 

「そうか? なら、これからよろしく……鈴…」

 

「うん! よろしくね、一夏」

 

 

 

凰 鈴音 12歳、初めての恋だった。

それからは、鈴は何かと一夏と一緒に行動するようになり、その事でまた男子達から絡まれる事もあったが、一夏と一緒にいれば、どんな奴でも返り討ちにした。六年生になり、また同じクラスになって、遊びに行って、一夏が稽古している時は、見よう見真似で竹刀を振った。その竹刀は、毎日振ってあったのだろう、握りの部分は血の跡がついており、一夏の手もまめだらけだった。

そんな一夏と一緒に過ごすのが楽しくて仕方なかった。

だが、そんな幸せな日々も終わりを告げた……。

 

 

 

 

 

「千秋! 一夏はッ!? 一夏はどうしたの!?」

 

「知らない……各国の警察や軍が捜索してるみたいだけど……未だに発見出来ていないって…」

 

「そ、そんな……嘘よ……嘘よ嘘よ嘘よ!!!」

 

「あっ! 鈴!!」

 

 

 

 

 

 

小学校卒業間近で、一夏が何者かに攫われたのだ。

モンド・グロッソの決勝戦の時の事。鈴は一緒に会場には行けず、テレビ中継で千冬の試合を見ていた。そして、千冬が優勝を決めた後、表彰式が終わり、何やら急いでその場を後にした千冬の姿が写っていた。

最初は千秋や一夏に会いに行くためだと思った。だが、その翌日、一夏の行方不明の報道が流れたのだ。

その後も捜索にあたったが、発見する事は出来ず、未確認のまま死亡が決定付られた。

その瞬間、鈴の心にぽっかりと穴が空いた。悲しみも苦しみも、何もわからない。まさに虚無。

だが、周りはこれまで通り、普通に学校に通い、普通に授業を受け、普通に帰る。

鈴にはそれが耐えられなかった。中学に進学しても、一夏の事が心残りで、昔のような元気さはなかった。

 

 

 

 

ーーーーごめんね、一夏。約束、守れなくて……本当に……ごめんなさい……

 

 

 

 

 

あの日約束した事ですら守れなかった。自分の無力さに鈴は絶望した。

 

それからというものの、中学二年の時に両親が離婚。母方についた鈴は、中国へと帰った。

そこで、IS適性が高い事がわかり、「代表候補生として頑張ってみないか」と誘われた。

最初は興味なかったが、代表候補生には専用機が与えられ、国際的に優位に立てる。

ならば、ある程度の情報網を設けて、一夏に関する手がかりを掴めるかもしれないと思い、中国の代表候補生へとなった。

それからは、毎日訓練と、一夏誘拐事件の資料を漁ったりなど、毎日忙しく、IS学園の編入も断ったが、ある新聞記事が鈴の目に止まった。

 

 

 

 

『日本に現れた、二人の男性操縦者。ブリュンヒルデの弟 織斑 千秋と最年少ロシア国家代表生の弟 更識 一夏』

 

 

 

 

「……えっ? 一……夏…?」

 

 

 

呆然と記事を読み続ける鈴。写真を確認すると、そこに写ってたのは、男とは思えないほどの、“可愛い女の子” 。

最初は疑ったが、鈴は動いた。軍上層部に直談判、脅しを使って、強制的にIS学園への編入を決めた。

そして、あれから三年経って、久しぶりにあった。

写真ではなく、本人に、一夏と言う人物に。

そこでわかった。この人物は、紛れもない織斑 一夏本人だと……。

容姿や性格は変わっていたが、何気ない仕草、しゃべり方、左手をグーパーする癖、全てが鈴の記憶の中にある一夏のものと一致したのだ……。

そして、今度こそ誓う…… “一夏を守る” と。

 

 

 

 

 

 

〜そして、現在〜

 

 

 

「一夏、これは私のエゴ……あんたの事は、私が守ってあげるから……あんたはもう、苦しまなくていい……この決闘に勝って、あたしが強くなった事を、あんたに見せつけてあげるわ……ッ!」

 

 

 

鈴は確固たる思いを胸に、戦いに挑むのであった。

 

 

 

 

 

 

〜Ichika Side〜

 

 

 

「はぁ……」

 

「一夏、仕方ないよ。お姉ちゃんは決めたら聞かないもん…」

 

「まぁ、そんなんだけど……」

 

「ただいまぁ〜〜!」

 

 

一夏と簪は刀奈の宣言の後、準備の為にカタパルトデッキへと移動していた。そこに、侵入者迎撃の任務を終えて帰ってきたマドカとも合流する。

 

 

「おかえり、マドカ…」

 

「うん、ただいま。しかし、何か面白い事になってるじゃないか……なぁ、一夏?」

 

「……知らん」

 

「ふてくされるな……お前のスカイラブ・ハリケーンが起こした事故だろ?」

 

「意味がわからん…。まぁ、とりあえずは準備しないとな……決闘受けちまったし」

 

 

 

考えるのは後にして、急いでデッキに向かっていると、どこからか話し声が……

 

 

 

「どっちが勝つと思う?」

 

「凰さんじゃない? 流石に専用機の稼働時間が長い方が勝つに決まってるよ…」

 

「でも、更識くんはセシリアさんに勝ったんだよね?」

 

「あれは遠距離射撃型と近距離格闘型って分かれてたし、今度はどっちも近距離格闘型。

同じ土俵で戦うんだから、パワーと燃費がいい凰さんの勝ちね」

 

「「なるほどぉ〜!!!」」

 

 

 

早速どちらが勝つか、論破が起こっていた。どうやら鈴が勝つに大多数の生徒が賛成しているようだ。

 

 

 

「旗色悪いなぁ〜」

 

「だったら、色仕掛けで良くしたらどうだ?」

 

「色仕掛けって……男が女にか?」

 

「逆色仕掛けだよ! 一夏なら余裕だろ?」

 

「マドカ……お前何か楽しんでないか?」

 

「いや? ……そんな訳無いだろう? ………プフッ…ククク……」

 

「笑ってんの聞こえてるぞッ!!!」

 

 

 

 

つい大声で怒鳴ってしまったため、コソコソ話していた女生徒達が、一斉にこちらを向いている。

 

 

 

「わあッ! さ、更識くん?!」

 

「あわわッ! ご、ごめんなさい! な、何も言ってないから!!!」

 

「……ど、どうしよう…」

 

 

一生懸命誤解を解こうと必死になるみんな。

なので、「気にしてない」と言って、みんな横を通り過ぎたのだが、やっぱりどこか怯えてるような感じだったので、つい……。

 

 

 

「…………君たち…」

 

「「「「は、はいッ!!!!」」」」

 

 

 

通り過ぎた所で立ち止まり、振り向いたのと同時に、右手と左足を上げて、最後にトドメのウインク。

 

 

 

「応☆援☆し☆て☆ね♡」

 

「「「「ぐはあぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜ッ!!!!」」」」

 

「あっ……」

 

「プフッ! ククク…アァ〜〜ハハハハッ!!!! お、面白すぎるゥゥ〜〜〜ッ!」

 

「一夏……可愛い……♡」

 

 

 

マドカの言う逆色仕掛けを試みたのだが、次々と鼻血を放出して、バタバタと倒れて行く女生徒達。

まさかの展開に、一夏は引き、マドカは爆笑、簪はヘブン状態になり、気持ちは天に召されているようだった。

 

 

 

「衛生兵ェ〜!! 衛生兵ェ〜!!!」

 

 

 

一夏の声が、会場の一部分で響き渡った。

 

 

 

 

〜Side Out〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衛生兵に倒れた生徒達を任せ、一夏はやっとの思いでデッキにたどり着いた。

 

 

 

「さて、行くか……来い、桜舞ッ!」

 

 

 

ネックレスが輝き、瞬時にISが展開される。白い装甲に、蒼い翼。一夏の専用機 飛天桜舞。鈴が龍ならば、こちらはそれを討ち破る天使。

そして、射出口に足を乗せ、一気に加速し、アリーナ上空へと飛び立った。

 

 

 

 

「来たわね……」

 

 

既にアリーナ上空にて待機していた鈴と、その専用機 甲龍。

その圧倒的な存在感を見せつけ、一夏の迎えていた。

 

 

 

「よお、待たせたな」

 

「別に、待ってなんかいないわよ……。私としてはもう少し遅く来ると思ってたけど……」

 

「お招きとあらば、参上しない訳にはいかないだろう?」

 

「へぇ〜、随分と余裕じゃない…………それじゃ、始めよっか…」

 

「あぁ、そうだな……」

 

 

 

カウントダウンの開始を待たずして、互いに構える。

大型の青龍刀〈双天牙月〉と黒塗りの大剣、一夏が、簪の魔力をトワイライトに譲渡した時に発現した形態。重力剣〈ガイアグラビティ〉。

 

 

 

「へぇー、大型の武器同士で私と張り合おうって事?」

 

「好きに受け取ってくれ。俺だって、はなから負けるつもりでここに立っているわけじゃないんでな……」

 

「あっそ、まぁ私も負けるつもりがないからこんな舞台を用意してもらったんだし……。

せっかくだから、チャンスをあげようか?」

 

「チャンス?」

 

「私の攻撃を三十秒耐え切ったら、あんたの事を認めてあげるわ……ッ!」

 

「ほう、随分と気前がいいな……」

 

 

 

準備は万端。士気は上々。

カウントダウンも始まり、周りが静寂に包まれる。

そして、二人の集中力が一気に高まる。

 

 

 

 

3……2……1……Battel Start!!!

 

 

 

「はああぁぁぁぁッ!!!!」

 

「ッ!」

 

 

 

 

スタートと同時に先制で攻撃してきたのは、鈴の方だった。青龍刀を振りかぶり、上段から思いっきり振り下ろす。しかも、“両手” で。

 

 

 

「くッ!?」

 

「うううりいぃぃやあぁぁぁぁぁッ!!!!!!!」

 

「ぐうぉわああッ!!?」

 

 

 

鍔迫り合いにすらならず、両手で降り抜かれた青龍刀の一撃で、一夏がアリーナの地面まで吹き飛ばされてしまった。

ドカァァァン!!! と言う豪音の後、立ち込める土煙。

そして、その衝撃で生じる地鳴りで、観客が驚きの声をあげる。

 

 

 

「う、嘘ッ!? 機体ごと吹っ飛ばしちゃった‼」

 

「更識くん、大丈夫かなぁ?」

 

「あのパワーは反則だよぉ〜…」

 

 

 

そして、管制室でこの試合を見ていた一同……刀奈、箒、セシリア……そして、そこに簪とマドカ、鈴に敗れた千秋もまた、今の一撃に舌を巻いていた。

 

 

 

「な、なんという剛剣……ッ!」

 

「やはりパワー勝負では、一夏さんに勝ち目はありませんわ……」

 

「僕でさえ押し負けたんだ……僕の白式よりも高速機動型の一夏の機体で、鈴に勝つのは無理があるよ…」

 

 

 

みんな一様に同じ見解だった。

それでも、簪とマドカ。そして、刀奈だけは、一夏を信じる。

 

 

 

 

 

 

 

「チィッ!」

 

 

土煙からロケットの様に飛び出し、鈴に斬りかかる一夏。

だが、鈴もそれを読んでいたのか、直ぐに防御態勢を取り、一夏の攻撃を受け止める。

 

 

 

「あら? よく生きてたわね…」

 

「何だよ…その馬鹿力はッ!」

 

「馬鹿力言うなッ!」

 

 

 

そこからは超接近戦。

一夏が斬り込み、鈴はそれを流れる様に回避し、大振りに左薙を放った斬撃を体を剣に対して平行に回転する事で躱し、そのままの勢いで、一夏に一撃を入れる。

だが、一夏とてその攻撃を受け、後退する。が、それを許さないとばかりに、鈴はイグニッション・ブーストで肉薄すると、先ほどの一夏と同じように、大振りに右薙を振り、一夏もまた、先ほどの鈴と同じ回避行動を取り、斬撃を凌ぐが、すぐさま鈴の二撃目、首元を狙った刺突を放つ。

 

 

 

「くぅッ!」

 

 

 

寸での所で、大剣を首元と青龍刀と間に割り込ませ、鈴の攻撃を受け流す。

刃と刃が擦れ、火花を散らし、鋼独特のジャリジャリ‼ と言う音を間近で感じる。

そして、それを完全に受け流した後、逆さまになった状態で体を捻り、鈴にもう一度左薙を打つ。

が、これですら鈴は青龍刀を盾の様にして防ぎ、逆に一夏に一撃を入れた。

 

 

 

「ぐあッ!! ……チィッ!」

 

 

 

一旦距離を置き、身構える一夏。

会場は白熱した近接戦にボルテージは上がりまくり、鈴と一夏に声援を送る。

 

 

 

 

「くそ……効くなぁ……。おい! もう三十秒経ってんじゃないのかよッ?!」

 

「あぁ〜ごめん。やっぱり斬りたくなっちゃった。 “首をとるまで” に変更ね♪」

 

 

 

わざとらしくウインク付きで微笑む鈴に、一夏は苦笑いしか出来なかった。

 

 

 

「こんにゃろう……。絶対泣かせなてやるッ!」

 

 

 

鈴の挑発にのり、一夏は再び接近戦を仕掛ける。

重い一撃を入れる度に、派手な鋼がぶつかる音と火花が大空に四散する。

 

 

一方、管制室では……。

 

 

 

 

「織斑先生……更識くんは大丈夫でしょうか…」

 

 

心配になった山田先生が、近接戦を得意とする千冬に聞く。

 

 

 

「一言で言うなら、厳しいでしょうね……操縦者の技術と近接戦における腕は互角と言えますが、機体の性能が違い過ぎます……ッ」

 

「一夏……」

 

 

 

流石にここまで黙っていた刀奈でさえ、少し心配になり、弟の名前を口ずさむ。

だが、千冬の言うとおり、一夏が一方的に仕掛けるが、鈴はそれを軽く受け流し、逆に一撃一撃をしっかり入れる。

 

 

 

「クソッ!」

 

「はああッ!」

 

「ッ!!!」

 

 

 

流石にこれ以上は受け切れないのか、一夏はバック・イグニッションを使い、後退すると、鈴から距離を置くように、飛び去る。

 

 

 

「逃げんじゃないわよッ!!!!」

 

 

 

鈴は一夏を逃がさないとばかりに、龍砲を乱射し、一夏を狙う。

 

 

「くッ!……フンッ!!」

 

 

龍砲が直撃するかに思えたその時、一夏はあろう事か大剣を放たれた龍砲に向け、投げる。そして、左手にはベレッタを展開し、鈴に向け発砲する。

投げた大剣は見事龍砲に当たり、爆散してしまう。そして、発砲したベレッタの弾丸は、甲龍の左のアンロック・ユニットを貫通し、ユニットを爆破した。

 

 

 

「なっ!? ……このッ…! きゃっ!」

 

 

 

大剣の爆発と、ユニットの爆発が重なり、鈴の半径15メートルの範囲は爆煙に包まれ、一夏の姿を見失う。

観客も突然の爆発音に驚き、鈴の安否と一夏の行方を追う。

 

 

 

「このぉ……ッ! 時間稼ぎのつもりかッ!!」

 

 

鈴は青龍刀を振り払い、それによって起こった剣圧で爆煙は振り払われた。

が、そこに一夏の姿は無く、あたりを見渡しても影すら無かった。

 

 

「チィッ、どこに行ったのよ!?」

 

 

 

観客のみんなも鈴と同様に一夏を捜すが、アリーナ上空にも、地面にも一夏の姿がない。

 

 

 

「き、消えた?」

 

「あれ? 更識くんは?」

 

「どこに行っちゃったんだろう……」

 

 

 

周りは困惑し、管制室でも一夏の姿を捉えられず、困惑していた。

 

 

 

 

「一夏はどこに行ったのだ……?」

 

「逃げたんじゃない?」

 

「まさかッ!?」

 

 

 

千秋の言葉に、セシリアが反応する。いや、セシリアだけではない。箒も簪もマドカも同様だ。

 

 

「そ、そんな訳ないッ! 一夏は、絶対に逃げたりしない!」

 

 

怒鳴ったのは、以外や以外。簪だった。

 

 

「じゃあ、あいつはどこに行ったんだよ? しかも、唯一対抗しうる武器だった大剣も失った……。

これじゃあ、戦いようがないだろ!」

 

「それでも……一夏は逃げないもん‼」

 

「あのなぁーー」

 

「私もそう思うな」

 

「はあっ?」

 

 

 

会話の間に入って、簪の意見に賛同した者は……マドカだった。

 

 

「いくら身内だからって……」

 

「まぁ確かに、身内であるからそう思われても仕方ないが、私自身もそう思うんだよ……。あいつが、こんな所で逃げる様な奴ではないと」

 

「そうね……マドカちゃんの言うとおりだわ」

 

 

そして、今までモニターを見ていた刀奈も、振り返って二人を肯定する。

 

 

 

「まぁ、見ていなさい……。一夏の本当の実力は……ここからだもの…」

 

 

 

不敵に笑う刀奈の後ろで、レーダーが何かを捉えた。

 

 

 

「こ、これはッ!」

 

「どうした、山田先生?」

 

「上空から接近する機影が一。まっすぐ凰さんに向かって突っ込んで行きます!」

 

「まさか……ッ!」

 

 

 

 

管制室の全員が、いや、この試合を見ていた全員が遥か上空を見た。

そして、それはアリーナの上空で停滞していた鈴にも見えた。

太陽をバックに、右手に持った片刃の直剣の切っ先を鈴に向け、降下してくる……薄桜色の髪をなびかせ、蒼い翼から蒼い光を放ちながら向かってくる一夏の姿を。

 

 

 

 

「一夏ッ!? ……チィッ! はああぁぁぁッ!!」

 

「てぇぇやあぁぁぁぁッ!!!!!!」

 

 

 

鈴は迎え撃ち、一夏に向かってイグニッション・ブーストで接近する。

そして、勢いに乗り、全身のバネを使った突進技で、一夏に斬りかかる。

一夏もそれを迎え撃つが、ウエイトの大きい鈴の青龍刀の威力に負け、弾かれる。

そして、そのまま青龍刀が一夏の首筋を狙って振るわれる。

 

 

 

「くッ! ううッ!……」

 

(もらったわッ!!!!)

 

 

 

誰もが鈴の勝利を感じた。

それは鈴ですら思った。だが、鈴の目の前では、あり得ない事が起きていた。

 

 

 

「はッ!!」

 

「なっ!?」

 

 

 

突然、青龍刀が弾かれる。

だが、一夏の剣は今しがた鈴が弾いた。つまり、一夏には、打つ術がない…………その筈だった。

が、鈴はしっかりと視界に捉えていた。真横から、もう一つの剣閃が現れた事を……。

一夏の “左手に持たれた、もう一つの剣” をーーー‼

 

 

 

「せいやッ!!」

 

 

折りたたんだ左手を振り抜き、青龍刀を完全に弾き飛ばした。

鈴は驚愕の目で一夏を見る。

大型の武器で力任せにぶつかるのでは無く、超高速で振るわれる剣戟……。その型はーー。

 

 

 

「二刀流ーーッ!!?」

 

「せぇぇやあああぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!」

 

 

 

一夏の怒号と共に振るわれ、幾度となく鈴の体を切り刻む両手の剣閃は、丸腰になり、懐が空いた甲龍の絶対防御を発動させ、シールドエネルギーを約半分にまで減らした。

 

 

 

「こんのぉぉぉぉッ!」

 

 

 

だが、ただでやられる鈴ではない。

甲龍に残された右のユニットを使い、空間を圧縮し、自分と一夏の間に空気の壁を作り出し、一夏の猛攻を止めた。

 

 

「はああッ!!」

 

「チィッ!」

 

 

ドオォォォンッ!!!!

 

 

 

鈴の気迫と共に、空気の壁が爆発する。

だが、一夏はそれを読み、バック・イグニッションで回避し、鈴もまた爆風の衝撃を利用して退避する。

そして、まだ残されていたもう一つの青龍刀を呼び出し、爆煙の中を突っ切って、もう一度一夏に斬りかかる。

 

 

 

「落ちろおぉぉぉぉぉッ!!!!」

 

「くッ、ふうッ!!」

 

「くっああッ!!?」

 

 

 

 

だが、鈴の放った渾身の一撃も、一夏は躱して、逆に両刀を鈴の体に突き刺し、アリーナの地面に向かって急降下して行く。シールドエネルギーもどんどん減っていき、残り一割。

 

 

 

「くううッ! ぅぅくっ、あああぁぁぁぁッ!!!!」

 

 

 

鈴は一夏の顔を掴み、何とか剥がし攻撃を入れようとするが、時すでに遅し。

一夏は剣を引き抜き、右の剣で右薙に斬り裂き、左の剣を斬り上げて鈴の持つ最後の武器を弾き飛ばす。

そして、そのまま左の剣を高々と振り上げる。

 

 

 

「うおぉぉぉあああぁぁぁぁぁッ〜〜〜!!!!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

 

ドオォォォンッ!!!!

 

 

 

 

 

振り上げた剣を一気に振り下ろし、右のユニットごと鈴の体を斬り裂いた。

斬り裂かれたユニットは、大爆発を起こし、鈴は爆炎に包まれながら、地面に落ちていった。

 

 

誰もがこの光景に口を開く事が出来ず、目を見開き、口を開け、ただ見ていることしかできなかった……。そして、シールドエネルギーがゼロになり、アラーム警報が鳴る。

その瞬間、静寂を破ったのは、誰よりも一夏の勝利を信じていた、更識三姉妹だった。

 

 

『試合終ぅぅ了ぉぉぉぉッ!』

 

『この試合! 勝者はッ!ーー』

 

『更識 一夏ッ!!!!』

 

 

 

 

刀奈、マドカ、簪の三人の声により、この試合の勝者が呼ばれた。

会場は、先ほどと打って変わって大歓声とファンファーレで埋め尽くされる。

 

 

 

「お見事ッ! 天晴れッ! 日本一ぃぃぃッ!!」

 

「すっご〜いッ!!!! ナイスファイトだよッ!」

 

「更識く〜んッ! かっこいいぃぃぃッ!」

 

 

 

 

周りの歓声に包まれながら、ゆっくりと右の剣を上から下へと振り抜き一夏。

風でなびく薄桜色の髪。蒼い光を放出するその翼。

誰もがその姿を見ていった。

 

 

 

一年最強の “蒼の天使” だと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






次回は鈴のと和解あたりにになると思います。


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