今回から、代表戦開始です。っと言っても、出てくるキャラ以外の戦闘は割愛するかも知れません……。
時が流れ、今日はクラス代表戦だ。
あの夜から度々同じ悪夢を見る。黒く大きなISが現れ、鈴と千秋が戦っている姿。そして、逃げていた箒に大きな銃口を向ける侵入者。あれがなんだったのか、今でもわからない。
あれから、この事を刀奈姉に話し、簪とマドカにも話しておいた。刀奈姉は生徒会長であるから当然、簪は四組の代表としてこの大会に参加するので、話しておいた。そして、マドカは俺と同じく自由に動ける上に、専用機も持っている。なので、もしもの時は、俺とマドカの二人で出撃してもよかったからだ。
ちなみに、織斑先生には伝えてない。それはもちろん魔法の事を知られてはまずいからだ。その後は、刀奈姉が虚さんに頼んで、更識独自の索敵機をIS学園に設置。侵入者のデータを即時転送及び、広範囲索敵が可能なので侵入を防げるという万全の状態に持ち込んだ。
「お嬢様、設置が完了致しました」
「ご苦労様、ありがとう。でも、ここで “お嬢様” はやめてね?」
「失礼しました。会長」
「あとは、私が出れば大丈夫ね。簪ちゃんと一夏、マドカちゃんには、絶対に手を出させないわ…ッ!」
「えぇ、こちらでも細心の注意をはらって監視致します」
「うん、よろしくね。虚ちゃん」
「かしこまりました」
そう言って、二人は生徒会室を出て、今回の対抗戦が行われる会場へと向かったのだった。
〜第一アリーナ〜
「うおぉ……ッ! すごい人だなぁ…」
「そりゃそうだろう……。三年生にはスカウト、二年生は一年の成果を、一年生は自分の実力を示す場だ……学校の生徒だけでなく、各国の研究者たちやお偉いさん方も来ているんだし」
「まぁ、そうだよなぁ〜」
アリーナの観客席に入り、見たままの感想を言う一夏とそれに付け加える様に解説するマドカ。生徒たちだけでも超満員のアリーナ観客席が、それプラス各国の重要人物達まで視察に来ているのだ。それだけでも緊張してしまう。
「やっぱり注目株は、千秋なんだろ?」
「あぁ、もちろんそうだが、他にも四組の代表である簪と、二組の代表である鈴もな……。あの二人だって他国の代表候補生なんだ。専用機だって持ってるし、データの収集や参考にはしたいだろう」
「それもそうか……。確か中国のIS開発は、火力と安定性を重視した機体で、なんと言っても衝撃砲の存在は見逃せなさそうだし、簪の機体は第二世代型とはいえ、マルチロックオン・システムを導入した機体だからな……。そりゃ注目されるか……」
今大会に参加する六人のクラス代表の内、三人が専用機持ちだ。三組と五組と六組のクラス代表は専用機を持っていないとはいえ、クラスではトップの成績らしいが、三人には遠く及ばないだろう。だから簪が初戦で敗退するとは思えない。
そして、開会式を終え、前日に発表された対戦表に目を向けると、次の通りになった。
一組 織斑 千秋 VS 二組 凰 鈴音
三組 篠崎 綾乃 VS 五組 田中 めぐる
四組 更識 簪 VS 六組 佐々木 唯
「簪は六組の佐々木って子と対戦かぁ……まぁ勝つだろうな」
「まぁ、そうだろう。代表候補生だし、専用機の稼働も問題なかったからな……。やはりここの注目は……」
「千秋 対 鈴……だな。まさか初戦から当たるとはな……」
これは神の悪戯か……初戦から番狂わせが起きそうな好カード。中国の甲龍か、日本の白式か。
「とにかく、俺たちは何かあった時の為に備えとかないとな……」
「一夏の言ってた悪夢か?」
「あぁ、間違いなく今日この日に起こるだろう……。姉さんは自分が出ると言っていたが……」
「流石に生徒会長が出張るのは、マズイだろ。なら、動けるのは、私ぐらいだな」
「ん? 俺もいけるが?」
「お前はダメだろ? お前がいなくなったら、それでこそ不審に思う奴がでてくるだろ……箒にセシリアに簪に鈴に千秋に……」
「ああ、もうわかった。俺が悪かったよ。……なら、もしもの時はマドカ、頼むな?」
「ふんっ、まぁ任せとけ。もし来ても、私とサイレント・ゼフィルスで圧倒してやるさ!」
「ふっ、頼もしいな」
そう言って、俺たちは別々の場所に歩いていく。俺は一組が確保した一番前の席に、マドカはいつでも動ける様に通路階段側に。まぁ、もし敵になんらかの裏技的なものがない限り、マドカが負ける事はないだろう。
そして、時間となり、第一試合。千秋と鈴の試合が始まった。
〜アリーナ上空〜
「ふ〜ん……。それがあんたの専用機ねぇ〜。データで見せてもらったけど、相当ピーキーな機体なんでしょう?」
「まぁね。でも、それを僕は使いこなしてるんだから、心配はいらないよ?」
自信満々のその顔がなんだか腹立だしかったが、気にしない。本当なら、一夏とやり合ってみたかったのだが。それでも、千秋も千秋でいきなり代表で専用機を扱うのだがら、その技量は褒めるべきか……。などと思う鈴であった。
一夏に負けたとはいえ、イギリス代表候補生のセシリアと互角の戦いをした千秋だ……油断は出来ない。そして、なんと言ってもその千秋が使う武器。雪片弐型の存在だ。エネルギーを消滅させるその能力は、現行のISの中で最も破壊力のある武器だろう……。
だが、負けるわけにはいかない。 “負けない” と誓った。そして、 “護る” と誓ったのだ。他の誰でもない、自分自身に……
「まぁ、いいわ。言っておくけど、私をセシリアと同じと思わない事ね……向こうは完全な “遠距離射撃型” だったのに対して、私は “近接格闘型” ……つまり、あんたと同じ土俵で戦うんだから……」
不敵な笑みが千秋を見つめる。確かに一筋縄ではいかないようだ。
「いいよ。その代わり、僕だってセシリアの時よりも本気で行けるんだ……鈴こそ、覚悟しておいてね?」
同じ土俵ならば、難しく考える事はない。自分だって近接格闘型だ。同じ剣を振るうものならば、引けをとる道理はないだろう。
そして、カウントダウンが始まり、それぞれ得物を展開する。
千秋は雪片弐型を。鈴は大型の青龍刀……双天牙月を。
そして、カウントがゼロになった瞬間、二つの機体がぶつかった。
「はあぁぁぁッ!!!」
「うぅぅりぃやあぁぁぁぁ!!!!」
「ぐうッ!?」
鈴の体全体の回転を利用した重い一撃を、なんとか受け止める千秋。
(くッ! 重すぎるッ!!!)
「ほらほらッ! 一撃だけじゃないわよ!!」
「ちぃッ!」
まるで舞を踊っているかの様に青龍刀を振るう鈴。その昔、中国には気功などで固めた筋肉によって、攻撃力を上げる拳法があったとか……それは、拳法にとどまらず、剣技にまで活かされている。鈴の戦い方は、まるでその気功を自在に操る一人の剣法家のようだ。
「さっきまでの威勢はどうしたの千秋? ただ受けてるだけじゃ面白くないわよッ!?」
「くそッ! 馬鹿にしてッ! はあぁぁぁぁッ!」
一旦距離をおいた千秋が、今度は反撃に移る。雪片弐型による攻撃を幾度となく放つ。
だが、それすらも大型の青龍刀を盾にして攻撃を防ぐ鈴。その巨大さ故に、攻撃だけでなく、防御にも使っているのだ。
「ぬるいッ!」
「がぁッ!?」
千秋の攻撃を弾き返し、吹き飛ばす。そして、左手にもう一本の双天牙月を展開し、柄の部分を連結させると、まるでそれをバトンの様に回して見せる鈴。
そして、一気に千秋へと肉薄し、仕掛ける。
「まだまだ行くわよッ!」
〜アリーナ観客席〜
「ふむ………」
「おお〜! いっちぃ〜だぁ〜! 隣いい?」
「ん? あぁ、本音か……いいぞ」
観客席で試合を見ていた一夏の隣に、見るからにダボダボの制服を着たのほほんとした少女が現れる。
彼女の名前は、布仏 本音。虚さんの妹で、簪の専属メイドだ……。まぁ、ほとんどメイドらしい仕事はしていないのだが……。
「いやぁ〜それにしても凄いねぇ〜リンリンは〜!!」
「リ、リンリン? ああ、鈴の事か? 確かに凄いよなぁ。たった数ヶ月で代表候補生になって、専用機を与えられ、それであんだけ使いこなしてるんだから……」
そうな事を言いながら試合を見ていると、別の女の子達が現れた。
「あっ! 更識くん、ここにいたんだ! ねぇねぇ、一緒に見てもいい?」
「私も私も!」
「それじゃあ私も!」
「えッ? あ、あぁ、どうぞ」
あっと言う間に周りがクラスの女の子達で埋め尽くされた。クラス代表決定戦以降、妙に一夏とお近づきになりたいと思っている女の子達が増えてきた。さて、どうしたものか……。っと、考えていると妙な殺気が襲う。
「ッ! んッ!?」
「どおしたのぉ〜? いっちぃ〜」
「い、いや、なんでもない……」
〜アリーナ管制室〜
そこには、アリーナのシステム制御を行っている生徒と、山田先生。そして、有事の際に指示を下す織斑先生が試合を眺めていたのだが、
(一夏……何女の子に囲まれてデレデレしてるのよッ!?)
(一夏…貴様ァッ! 何デレデレしておるかッ!)
(一夏さんッ! 何デレデレしてますのッ!?)
少なくとも、試合を見ていない三人。刀奈と箒とセシリアは、今まさに一夏に対して猛烈な殺気の雨を浴びせていた。
もう、三人の中では、千秋と鈴の試合はどうでもいいのか、ずっとこの調子だ。
箒とセシリアは、千秋をカタパルトデッキから見送ったあと、この管制室にやって来て、試合を観戦しにきた。そこには、先ほどの開会式を終え、お付きの虚と共に試合を観戦しようと来ていた刀奈とばったり会い、織斑先生の許可を得て、一緒に観戦していたのだが……。
「「「ぐぬぬぬッ……」」」
「おいっお前達! 観戦しないなら、退室してもらうぞッ!?」
「「「い、いえ、すみません! ちゃんと観戦させて頂きます!!!!」」」
千冬に怒鳴られて、我に帰る三人。今更ここを出て観客席に行ったとしても、一夏の周りには、たくさんの女の子達がいるので、座る事は不可能。遠く離れた場所からわいわいッ!きゃっきゃっ! と騒いでる一夏を見るのは腹立だしいので、やめておく。
再び視線は今行われている千秋と鈴の試合に。
だが、刀奈だけは虚に耳打ちをすると、虚は一礼して退室した。そして、ミステリアス・レイディのプライベート・チャネルで、一夏、簪、マドカにそれぞれ通信を送る。
「一夏、簪ちゃん、マドカちゃん。聞いて、これから虚ちゃんが広範囲索敵機を使って周りを索敵するわ。簪は試合に集中してもらって構わないわ……一夏とマドカちゃんはアリーナ内の警備に専念して。侵入者は私がやるわ……」
三人同時に送信すると、三人から同時に返信か帰ってきた。
「刀奈姉は動くな」
「姉さんは動かなくていい」
「お姉ちゃんはそこにいて」
「うえッ!?」
三人から動くなと言われ、焦る刀奈。いきなり変な声を上げた刀奈を千冬や箒達が見る。気まずくなった刀奈は、苦笑いをしながら管制室を出て、アリーナの通じる通路にあった階段下に入り、再び三人に通信をいれる。
「ちょっと! なんでみんな同意見なの!?」
「いや、生徒会長が動いたら、それでこそ学園が慌ただしくなるだろう……言っておくが、ただ護られるなんてごめんだぜ?」
っと一夏が、
「それはお前も同じだぞぉ〜一夏ぁ〜。まぁ、そう言うことだ姉さん。もし、侵入者が来てもそん時は、私が迎撃するよ」
っとマドカが、
「お姉ちゃん……私たちは家族でしょう? 一人でなんでも解決しようとするのは無しにしよ? 私も代表戦頑張るから、お姉ちゃんはそこで見てて!」
っと簪が、といった順で刀奈に返事が返される。まぁ、簪の事は信頼しているし、マドカだって代表候補生だ。負けるとは思わない。そして、一夏。この中では、ISでの戦闘経験が一番少ないが、それでもそれを補うほどの戦闘能力を有している。そして、何と言っても護られるだけでわなく、自分たちも護る側に立っている……そう言いたそうな声をしていた。
「みんな……わかったわよ……もう、少しは長女らしいことしたかったのに……」
などと拗ね始めたので、みんなで「今さら?」っといったら、怒られた。
「それじゃあ、頼んだわよマドカちゃん。虚ちゃんから連絡があり次第、通信を送るわ」
「了解した……まぁ、負ける気しないから大丈夫だよ。簪も今は試合に集中しておけよ? もうそろそろ決着つきそうだし……次の試合は簪だろう?」
「うん! 絶対に決勝までは行くから。多分、最後にくるのは鈴だと思うから頑張るね!」
「あぁ、その意気だ。頑張れよ、簪」
「うん!」
「あぁ、あと一夏? 後で女の子達に囲まれて鼻の下伸ばしてた事について話があるからよろしくね♪」
「はあッ!? ちょ、ちょっと待てって!! 別に俺は鼻の下伸ばしてなんかーー」
「じゃあ、みんなよろしくね♪」
「「了解!!」」
「だから、ちょっと待ーーッ!」
ブッ‼ っと言う音と共に通信を切られ、呆然とする一夏。周りから「どうしたの?」と聞かれるも、「何でもないよ」と答えるしかなかった。今頃刀奈は何を着させて撮影しようか考えているのだろうか……。
〜アリーナ上空〜
試合はほとんど鈴のワンサイドゲームへとなっていた。
千秋もバリアー無効化攻撃で、なんとかシールドを削ってはいたが、そもそも機体が燃費の安定性を重視している甲龍と超攻撃特化になっている白式では、分が悪すぎる。
それに、操縦者の技術の違いが一番大きな要因となっているようだ。
「くっそッ! こんなところで……ッ!」
「これで……終わりよッ‼」
甲龍のアンロック・ユニットが展開し、何やら駆動音が聞こえる。すると、周りの空気を吸い上げ、次の瞬間……見えない何かが、白式を襲った。
「ぐぅッ!?」
「『龍砲』…最大火力ッ‼ いっけぇ〜〜ッ!!!!」
一撃目で放たれた龍砲により、千秋は雪片を弾かれ、バランスを大きく崩した。そして、最後一撃が今、白式にクリティカルヒットし、千秋は一直線でアリーナのグラウンドに叩きつけられた。
「ぐあぁぁぁぁッ!!!!」
「はあ……はあ……ごめんね千秋……私はもう負けたくないの……私の……勝ちよ…ッ!」
息を整えながら、そうつぶやく鈴。そして、この試合の勝者が決定した。
【試合終了 勝者 凰 鈴音】
〜アリーナ観客席〜
(流石だな、鈴。まさか、ここまでやるとは思っていなかったぜ……。約束……か……)
たった今勝った少女を見上げる一夏。以前学校の屋上で話した鈴の顔を思い出す。たった一回、何気無い約束だった……それを護る為に、ここまで強くなったのだ。感服するほかなかった。
「ッ!?」
まだ、アリーナ全体が歓喜で沸き立っている時、一夏のストライク・ビジョンが反応した。
(まさかッ‼ このタイミングでッ!? まずい、鈴達はもうエネルギーが無い)
危機を察知した一夏が、すぐさまマドカにプライベート・チャネルを開く。
「マドカ、俺だ」
「どうした? 侵入者でも見たのか?」
「あぁ、俺のストライク・ビジョンが反応した。今ほっとけば、鈴と千秋がやばい!」
「オーケー……。丁度虚さんからのデータも届いたところだ。はあ〜……いっちょ派手にやりあってくるか……」
面倒そうに言うマドカだが、その声はどこか楽しそうだった。
「まぁ、心配はしてないが、魔法は極力使うなよ?」
「わかってるって! それじゃいってくる」
マドカは席を立つと、急いでアリーナの出口へと向かう。
そして、入場ゲートを抜けると、直ぐにISを展開し、フルブーストで虚の送ってくれたデータに従って、目標と対峙する。
そこは、IS学園から遠く離れた海の上。敵は全身黒すくめの大きな腕をしたISだった。
「お前か……IS学園を襲おうとしている奴は……」
「…………」
しゃべりかけてみたが、何の反応も無い。それを見たマドカもまた、無言で武装を展開する。サイレント・ゼフィルスの主武装 スター・ブレイカー。
セシリアのブルー・ティアーズと同じBT兵器搭載型の機体であり、更識のIS整備士によって、ブルー・ティアーズよりも実戦仕様にカスタム化した機体だ。
マドカは、何も答えない侵入者に対して、BT兵器の真骨頂であるビット兵器を展開し、瞬時に包囲する。
「……ッ!?」
素早いビット展開に、反応した黒いISは咄嗟に身構える。
そして、それを展開したマドカは、サイレント・ゼフィルスに搭載されているバイザーを呼び出し、被る。そして、この上ない笑みを浮かべ、敵を見つめる。
「さぁ〜て、久しぶりの実戦だな……。悪いが、ここから先は通行止めだからよろしく」
「…………ッ!」
マドカの行動を攻撃行動だと察知した敵ISは、臨戦態勢に入り、マドカもまた同じ様に臨戦態勢に入る。
「さぁッ! 行くぞ! ゼフィルスッ‼」
白熱としたIS学園とは別の場所で、IS同士による、命をかけた戦いが、今始まった。
どうでしたでしょうか。
次回は、マドカの圧倒的戦闘シーンと、鈴 VS 簪戦をやろうかなと思います。
感想よろしくお願いします!