涙を流す箒を優しく撫でる俺。
「箒…落ち着いたか?」
「あ、あぁ! も、もう大丈夫だ! すまない……」
「いや、別にそれは構わないけど…」
一夏はそっと箒から離れる。
箒の表情は、どこか安堵した顔だった。
「しかし、よく俺だとわかったな…六年も前に別れて、今はこんな成りになってるって言うのに…」
「姿が変わっても、お前はお前なのだ…顔を……いや、目を見て分かった」
「流石、剣道の全国大会優勝者だな」
「なっ!? 何故そんな事知っているんだ?!」
「いや、新聞で見たから…」
「な、なんで新聞なんか読んでいるんだ…」
「いや、新聞くらい読ませてくれよ」
何気無い会話…。そんな事をしているうちに、自然と笑みがこぼれた。まるで昔みたいだったからだ。
昔、俺は千秋と共に箒の実家の剣道場で剣道と剣術を習っていた。師範は箒の父、柳韻さんが務めていて、千冬姉も中学生の頃からお世話になり、篠ノ之家とは家族ぐるみの付き合いだった。がしかし、当時から才能を余す事なく発揮していた千秋と平凡過ぎる俺。当然世間では俺と千秋、千冬姉との比較が始まった。そして、ISが発表されて以降は、篠ノ之家のみんなは政府によって引っ越しを繰り返し、散り散りになってしまった。でも、そんな事が起きる前に俺と親しく接してくれる奴がいた。それが、箒だ。箒も俺と同様、姉妹で優劣をつけられていたからだ。天才発明家の姉と普通の妹。箒もまた、世間から比べられていた。故に俺たちが仲良くなるのにそれほど時間はかからなかった。
「六年ぶりか…。俺も直ぐに箒だとわかったぞ」
「えっ?!」
「ほら、昔と髪型が一緒だったし、それにそのリボン……前に俺が誕生日にプレゼントしたやつだろ?」
「う、うむ…」
顔を赤くし、うつむく箒。昔は人見知りが激しく、いつも仏頂面だったのに、今ではそんな表情が出来ているのだ…。親友としてはとても嬉しい限りだ。
「と、ところで一夏…その…非常に聞き辛い事なのだが…」
「うん? なんだ?」
「お前は、どうして今のような成りになったのだ?」
「あぁ…」
当然聞かれるであろう質問にどう答えるべきか。俺は頭を巡られ、慎重に言葉を選ぶ。間違っても『魔法』なんて言葉を使ってはいけない。
「うん…まぁ、色々あってな。ちょっとした事故で精神的ストレスからきた状態なんだとか…。俺にもよくわからないんだ」
「そ、そうなのか。でも、お前が元気でいてくれて良かった! お前が誘拐されたって姉さんから聞いた時は、どうなったのかと…」
「そうだったのか…」
三年前のあの日。モンド・グロッソ決勝戦の日に俺が誘拐された事なんてニュースにもなっていなかった。当然犯人たちは交渉の為に色々と日本政府を脅していたのだろうが、日本政府はそれを受け入れず、俺の命よりも、日本の威信、栄光、名誉を選んだのだ。その事は、更識に引き取られてから色々と調べるうちに分かった。どうやら箒は姉である束博士から情報を受けて知っていたようだ。
少し怪しすぎたかと思った言い訳をしてみたが、箒はそれで納得してくれた。丁度予鈴もなったので、その日はこれにて解散となった。
次の授業は織斑先生が教壇に立った。とても重要な授業なのか、山田先生までノートを広げている。
「この時間は、ISの近接戦闘における内容をする!っと、その前に今度行われるクラス対抗戦のクラス代表を決めないとな。クラス代表とは、その名前の通りクラス長と考えていい。委員会の出席や各学校行事の実行委員も務める。自薦他薦は問わない! 誰かいないか?」
クラス長。聞いての通り面倒な役柄だった。ここではあまり目立ちたくないので、立候補するのはやめておこうと思う一夏だったが、周りはそれを許してはくれない。
「はい! 織斑君を推薦します!」
「えっ?!」
「私もです!」
「ぼ、僕!?」
「じゃあ、私は更識君を指名します!」
「私も〜!!!」
「あっははは……ですよねぇ…」
クラスの女子達は、俺たち二人を見せ物にしたいのか速攻で指名する。織斑は驚き、俺はもう諦めてモードだ。
「二人だけか? いないならこの二人で投票する事になるぞ?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 僕はそんなのやらなーー」
「推薦された以上お前に拒否権があると思ったか? 更識、お前もだぞ!」
「は、はぁ…」
どうやらこのクラスはただのクラスではないらしい。軍隊かよ。まぁ、織斑先生なら鬼教官としてのポジションにはつけるけども。
「納得いきませんわ!!!」
「「ん?」」
いきなり声を荒げ、机を叩き、立った生徒がいた。その生徒とは…。
「そのような選出は認められません! クラス代表にふさわしいのはこのセシリア・オルコット以外にあり得ませんわ! 物珍しいからと言って極東の猿! しかも、男が代表だなんていい恥さらしですわ!」
そう、俺たち二人に話しかけ、相当な高飛車ぶりを見せてくれたイギリスの代表候補生のセシリア・オルコットさんだ。
「だいたい、文化としても後進的なこの国にいる事自体、私にとっては苦痛で……ッ! なのに!」
「黙れよ。言いたい事はそれだけか?」
「ッ?!」
突如、クラスの空気が一気に下がった。その冷たく、ドスの効いた声を発したのは、織斑だった。
「さっきから聞いていたらなんだ? 後進的な国? 物珍しい猿? 調子に乗るのもそこまでだ! たかが代表候補生の分際で、よくもそんな事が言えたな。それにここは日本だぞ? お前の言葉は、全部イギリスの日本に対する侮辱だ!その責任はどうやって取るつもりだい?」
「なっ、そ、それは……」
「ふんっ! だいたいイギリスだって対してお国自慢なんかないじゃないか。ただ歴史と文化が発展しているだけで、それ以外はてんでダメ! 世界一不味い料理何年覇者になっている事やら…」
「なっ⁉ あなた、よくもわたくしの祖国イギリスを侮辱しましたわね!!」
「先に日本を侮辱したのはそっちじゃないか!!!」
お互いに譲らない意地の張り合い。一応俺も侮辱されている身なのだから反抗はできる。が、それでも口を挟まない。
「ストップだ、織斑! それにオルコットさんも! こんな事したって何もならないだろ」
「何言ってんだよ、更識! こいつは僕たちを侮辱してるんだぞ? 許されるわけがない!」
「そうですわ! 全くこれだから男は…ッ!」
仲裁に入って二人を止めようとするが、それでも聞かない二人。それを見て、織斑先生が…。
「では、こうしよう。一週間後、お前達三人には、ISでの模擬戦をやってもらう! それで勝率が高い奴がクラス代表だ。それで構わんだろう?」
「えぇ、それで結構ですわ!」
「僕もそれで構いません」
「はぁ、いいですよ。それで」
「では、一週間後、第二アリーナでクラス代表戦を行う。それまでに準備をしておけよ」
そう言って締めくくる織斑先生。
「ふん! さっさと終わらせてさしあげますわ!」
「上等だよ。絶対に叩き潰してやる!」
「はぁーー」
やる気満々の二人とため息をつく俺。あまり目立ちたくなかったのだがな。
「で? 当日はお二人ともどうしますの? 訓練機で相手するならば手加減くらいは致しますわよ?」
「何ッ?!」
「あぁ、それなら心配ないよ。俺も君と同じように専用機を持ってるから」
「「えっ!?」」
俺の爆弾発言に二人は驚く。俺はそんな二人に見えるように俺の専用機を見せる。剣と鞘が交差したような形をしたネックレスを。
「なっ、なんでお前が専用機を持ってるんだよ!」
「そうですわ! 専用機は国家代表かその候補生、企業に所属した者しか与えられませんわ! なのにどうして…ッ!」
「あぁ、俺のは動かしたやつをそのまま専用機にしてもらったってわけなんだ…どのみち俺も織斑と同じようにデータを取ると言う目的があるんだからあったって問題ないだろう? それに、この専用機を共同開発した倉持技研所属のテストパイロットも併用してるから問題はない」
「うぅっ、まぁ、確かに一理ありますわね…」
「確かに。それが本当なら僕にも専用機がくるはずなんじゃあ…」
そう言って織斑は担任の顔を見る。
「あぁ、今急ピッチでお前の専用機を作っているようだ。だが、来るのにはまだまだ時間がかかるがな…」
これで状況はフェアに保たれた。三人共専用機での模擬戦を行う事になるのだから。その後、授業は終わり、時間がすぎて今は昼休み。俺は食堂に向かい、簪とマドカを探す。
「あっ! 一夏!」
「おぉ、こっちだこっち!」
俺を見つけ、手をあげる簪とマドカ。俺は即座にメニューを決め、二人のところへと向かう。
「悪りぃ、待たせたな」
「ううん。私たちも今来たところだから」
「一夏、聞いたぞ。クラス代表を決める為に模擬戦するんだろ?」
流石は女子校。もう朝の話が広まっていた。そして、俺が専用機を持っている事も広まり、女子達からは好奇の目で見られている。
「そうなんだよ。はぁ、全く、なるべく目立ちたくはなかったのになぁ〜」
「大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だよ簪。ありがとう」
俺は簪の隣に座り、選んだ焼きサバ定食を食べる。う〜ん、ここの食堂のおばちゃん達はいい仕事をしている。とても美味だ。
「んで? 一夏は勝算があるのか?」
「まぁ、無くは無いな。今まで通りでいくさ。あとは、織斑の専用機がどんな物で来るか、だが……」
「でも、一夏なら大丈夫だよ! 私が保証する!」
「ははッ、簪からの保証付きなら大丈夫かな」
そういいながら三人で昼食を取っていく。一方刀奈姉は……。
〜生徒会室〜
刀奈は今現在、虚さんと一緒に必要書類にハンコを押し続けていた。
「うう……。虚ちゃ〜〜ん……」
「ダメですよお嬢様。 この書類にも目を通しておいてくれないと」
「うう、一夏とご飯……一夏とご飯……一夏とご飯…」
「はいはい。わかりましたから、これを早く終わらせて下さい…」
「うえ〜ん…。一夏ぁぁ〜〜〜ッ!!!」
自分の机に山のように乗せられた書類。これすべてを生徒会長である刀奈が承認のハンコを押さなければならないのだ。
「もう…ダメ…。イチカニウムが足りない…」
「なんですか? イチカニウムって…」
「一夏から放出される私の、私だけの、私の為のエネルギー……一夏から直接摂取しなきゃダメな成分…」
「はあぁ……」
机の上にべったりと頭をくっつけ弱っている刀奈。とても人にお見せできない生徒会長である。虚さんがため息をもらすのも無理もない。
そして、時は過ぎて放課後。みんな思い思いに過ごす。勉強に部活見学、おしゃべりしたり、寮に帰って行く者もいる。その頃、一夏は教室にいた。
「うーん…遅いなぁ山田先生」
山田先生から話があると言う事で、教室に待機しているのだが、一行に来ない。
(なんだろ話って? 早く終わらせないとモノレールに乗る時間がないなぁ)
「あぁ!! まだ残っていてくれたんですね更識君‼」
「山田先生⁉」
はぁ、はぁ、っと呼吸を荒げながら教室に入って来る山田先生。とりあえず深呼吸して落ち着くと俺に面と向かって……。
「更識君の部屋が決まったので鍵を渡そうと思ったんです!」
「部屋? 部屋って寮のですか?」
「はい、そうですよ」
ニコッと笑って俺に部屋の番号が書かれた鍵を渡す山田先生。しかし、俺や織斑は一週間は自宅からの通学となっていたのに何故だろう?
「先生、俺や織斑は一週間は自宅からの通学と聞いていましたけど?」
「あぁ、そうだったんですけど政府の通達で初日から学校の寮に住まわせろとの事だったので…急遽、お二人には寮に入ってもらいます」
「えっ⁉ でも、俺、荷物なんて持って来てないですよ?」
当然だ。持ってきた物と言えば、教科書にペンケース、ノート、携帯くらいなものだ。
「それなら既にお姉さんである楯無さんが業者に手配して荷物を持ってきてもらってますよ?」
(何つぅ仕事の早さだよ!? って言うかこうなる事を分かっていやがったな!!)
「それで、こちらが更識君の部屋になります」
そう言って、山田先生は俺に部屋の鍵を渡してくる。部屋の番号は『1333号室』と書いてある。
「俺は織斑と同室ですか?」
「いえ、織斑君は『1025号室』ですので一緒ではありません」
「って事は俺らは女子と一緒って事ですか?」
「えっ⁉ あぁ、まぁ、そうなりますね…。でも! 部屋が用意出来るまでの短い時間ですからすぐに一人部屋になるか、織斑君と同室になるかですけど……それまではすみませんが我慢して下さい」
「まぁ、急遽って言ってましたし、仕方ないですね」
そう言って俺は山田先生と別れ、寮に向かう。途中でクラスの女子達と出くわし、色々としゃべりながら寮まで一緒に帰った。
「えぇ〜と、1333……1333……あっ! ここか」
早速自分の部屋となる1333号室を見つける。そして、同居人がいると困るので、一応ノックをする。
コンコン!
「すみませ〜ん! 誰かいますか?」
「……………」
「ん? 誰もいないのか? ……開けますよ?」
ノックと声をかけても返事が返ってこなかったので、鍵を差し込み、鍵を開け、中に入る。部屋はどこぞのビジネスホテルなんか目じゃないくらい綺麗に整えられており、何だかもったいないくらいだった。
「おおッ‼ 凄いなぁ〜 流石は国立高校。金かかってんだろうなぁ〜」
とりあえずカバンを机に起き、部屋の中におかれていた段ボール箱を見てみる。
「あっ、やっぱり俺の荷物だな。着替えに下着に歯ブラシセット、寝巻き、携帯の充電器。って、戦闘服まであんじゃねぇか!」
荷物をロッカーに直していき、制服を着替え、部屋着姿になる。普通にどこにでもある男物の半袖シャツにハーフパンツだが、どうしても男っぽく見えない。
「はぁぁ。やっと一日が終わったぁぁ……。このまま寝てもいいんだけど、それじゃあもったいないもんなぁ〜」
ベットに腰掛けて、この後どうするか逡巡していると…。
コンコン!
「ん? 誰だろ……? はぁーい! 開いてますよ!」
ノックをされたので、一応応答してみると、勢いよくその扉が開いた。
「いぃ〜ちぃ〜かぁ〜〜〜ッ!!!!」
「刀奈姉!? のわぁぁぁ!!!!」
勢いそのまま一夏に飛びつき、ベットへと共にダイブする刀奈。
「一夏‼ 一夏一夏一夏一夏ぁぁぁぁ!!!!!!」
「ちょ、ちょッ! どうしたんだよ刀奈姉?!」
一夏の胸当たりで自分の顔を埋めてスリスリする刀奈。相当一夏が恋しかったと見える。
「はぁぁ〜〜〜ん♪ 一夏の匂い…一夏の感触…一夏の温もりだぁ〜〜♪ うふふっ♪」
「おいおい……。まぁ、今日は朝にしか会ってなかったからなぁ」
「そうよ! だから私は今イチカニウムが少ないの!」
「なんだよその変な鉱物の名前みたいなのは…。って言うかなんでここに刀奈姉が? それにその荷物は……」
刀奈のすぐ近くには、何やら大きなカバンが置いてある。
「あぁ、これ? 私の私物よ。私も今日からここに住むから♪」
「えぇっ!? じゃ、じゃあ俺の同居人って……」
「そう、あ・た・し♪」
「マジで?」
「マジマジ♪」
「すぅー、はぁー…」
とりあえず、俺は大量の空気を吸い込み、盛大なため息をつくのだった。
「うふふ♪」
「あ、あのぉ刀奈姉?」
「何?一夏」
「俺、シャワー浴びたいんだけど…」
「あら、そう言えばまだ入ってなかったわね。じゃあ準備して、ちゃっちゃと入っちゃいましょう?」
「あぁ……って、うん? 入っちゃおう? えっ?一緒に入る気なのか?!」
「もちろん♪ 一夏が嫌でも入っちゃうから♪」
眩しいくらいにいい笑顔を見せながら、とんでもない事を言う刀奈に流石の一夏も慌てた。
「なっ?! そ、そそそれはダメだって!!」
「なんで?」
「な、なんでって、俺たち姉弟だけど一応男と女なんだぞ?!」
「………うふふ。嬉しいわ。一夏は私を『女』としても意識してくれてるのね?」
「そ、それは……」
「隠さなくていいわよ? 私もちゃんと一夏を『男』として見ているから♪」
「ううっ………」
面と向かって言ってくる刀奈の顔を一夏は直視出来なかった。今の刀奈は姉としてでの顔ではなく、一人の女としての顔で、一夏を見ていたからだ。
「さぁあ、一夏、入りましょう?」
「なっ! ちょ、ちょっと待って! こ、心の準備が……」
「ダァ〜メ!! 今日は絶対に逃がさないから♪」
笑顔で俺の服を脱がせ、風呂場へと連行する刀奈姉。その後、俺は体の隅々まで刀奈姉に洗われ、強引に俺のベットへと忍びこんで来て、一緒に寝てしまった。
明日はもっと平和な日常がある事を信じて、俺は夢の世界に逃げた。
ちょっと最近、刀奈が一夏に対して暴走気味…。
でも、なんか面白いからいいかな? いいですよね?
感想を待ってます^o^
PS: 2014、10月2日、12:55にこの回の一部を改変しました。ご指摘を頂いた皆様、ありがとうございます^_^