イカルガ内戦も終わり、適当な命令を受けながら過ごしている私ハザマです。
イカルガ内戦はイカルガの方々をボロボロにして国が崩壊し、残った人達はどうやら第十三階層都市カグツチへと行ったようです。と、そうなればそこがイカルガのお店や文化が広がり、むしろその都市は豊かになるかもしれません。戦争の利益の一つですね。人が多く死んだのは笑えませんが。
さて、その時の新聞の一面と言えば、なんと言っても英雄ジン=キサラギ少佐。どうやらテンジョウさんはこの人にやられたようで、民衆ではなく統制機構に英雄と奉られています。なんという自作自演。まあ情報操作に諜報部も一役買わされましたが。
英雄扱いのついでに少佐になったジン少佐は、師団長にまで出世しました。因みに少佐には秘書官まで付くらしいですね。キサラギ少佐マジもげろこの若造が。七年程下請やって大尉まで行けた私への当てつけですか?
テンジョウさんは戦争の責任として死んだ姿を出されてませんから捕まっただけかもしれません。そしてその氏族の人もどうなったかは知りません。
とにかく私の任務は失敗、憂鬱な気分で技術開発部に行きますと、『データは送信されてるので問題ありませんよ』ですって。どや顔で言われましたよ。殴りたくなりました。
と、まあ一応任務は成功のため評価も上がりましてですね……なななななんと! 私大尉に昇格しました!
卒業者を取るため少し遅れますが、部下が入ってくるんですよ!これでようやく書類仕事メインの楽な仕事になれそうです。
部下を何人も地方の現場に派遣して、私は書類を作って部下のサポート。現地だと命懸けでしたけど私はのんびり部屋で仕事の合間を縫ってプライベートなことに回せそうです。いやーもう楽しみで仕方ありません! 長年の夢がようやく叶いますよ!
……そう思っていた時が私にもありました。あれ、なにこのデジャv(略
人数一名。
ま、まあー思ったより少ないですけど、部下ができるだけ有りがたいですよ?ええ、それだけならまだしも命令が来たんですよ。
『新任衛士のサポートのため、任務で現場へと派遣するさい上官一名を付けるように』。……ええ、完璧にイジメですよね。上官も何も私しか居ないじゃないですか。人数が少ない理由はそれですか。
イカルガとの戦争でだいぶ衛士が少なくなったので、新任衛士を大切に育てませしょうと、今年からの導入になったそうです。
要するに私は階級アップで書類仕事が増えて、その上に現場まで行って働いてこいと。責任者出てきて下さい。……いや責任者は帝でした。やっぱりいいです。
いかんいかん、と私は首を振り、制服の乱れを直して資料に目を通しました。
そう、何も悪いことばかりではありません。なんと今日は初めての部下が来る日ですから!
もう何度も資料に目を通しました。ワクワクして気分は高揚、どんな風に接しようか考え中です。
フレンドリー? それとも厳格に? やっぱり私らしくひょうひょうとした感じでしょうか?
と、そこまで考えた時にドアを叩く音が聞こえました。
『ハザマ大尉。き、今日からハザマ大尉の指揮下に配属されました、マコト=ナナヤ少尉です。ご、ご入室しても構いませんか?』
と、それと同時に聞こえてきたのは聞き覚えの無い女性の声。だいぶ声が上擦いているのは、おそらく緊張しているからでしょう。
……ふむ、ならその緊張を解くのも上司の役目でしょうか。あ、なんか良い響きですね。
ふむ……『入室どうぞ→ガチャ→あれ居ない?→後ろからこんにちは→ひゃう!』完璧ですね。
取り出したるはお決まりのナイフとワイヤー。鋭く強化したナイフにワイヤーをくくりつけて、と。その後ドアの上に位置する天井付近の壁へ投げる!
「あーはい、構いませんよー」
一言答えてから術式でワイヤーを縮小すれば、私の身体はドアの上に位置する天井へと移動します。あらま部屋には一見だれも居ませんね。
ガチャ「失礼しまー……あれ?」
そしてドアノブを回し入ってくるナナヤ少尉。ですが当然そこに私の姿は無く、首を傾げていますね。
普通部屋に誰か居たら気配で分かるでしょう。だがしかし、私の諜報員として培った年数は伊達ではありません。
新任ほやほやの少尉に対して見つかるほど、気配の消方は下手じゃないんですよ!
「ハザマ大尉ぃー、何処にいるんですかー? ……おっかしいなぁ、確かにさっき返事したと思ったんだけど……」
くくくく、悩んでますねぇ。
そして私はと言うと、帽子を押さえつつ逆さ向きに成りながら吊る下がっています。なんというスパイダー男。
部屋の中央近くまで足を踏み入れるナナヤ少尉、それを見て私はゆっくり逆さ向きのままワイヤーを伸ばし下降しました。
さあぁーて、どんな反応するでしょうかねぇ! ゆっくり、ゆっくり、ワイヤーを伸ばして行って…………
「……ハッ! くせ者ォーーっ!!」
飛んできたのは悲鳴でなくて拳。
腹部へと到達したそれによって私はサンドバックのごとく打ち込まれドアへと叩きつけられました。
勿論、その記憶を最後に私の視界はブラックアウトしました。
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「本っっ当に、申し訳ありませんでしたっ!!」
「あーいえほら、確かに危害を加えたのはナナヤ少尉ですけど、脅かそうとしたのは私ですから」
目の前で腰を九十度に曲げて礼をするナナヤ少尉。正直被害は私ですけど原因も私ですから、自業自得なんですけどね。
そして机を挟んで対面するようにして座る私。術式でも適性があれば骨のヒビ程度なら治せるので、ブラックアウトしてから数分たって気がついてからすぐ治しました。なぜか『治療の術式は効きやすいんですよね、私の身体。再生能力に優れているようです。』
ドアは直せてませんけど。視界の奥には未だに変な形に凹んだドアが見えます。
と、私の視線に気がついたのでしょう。ナナヤ少尉はふと後ろを向くと、頑張らなければ開けられなくなったドア一つ。あちゃー、と呟き頭を押さえるナナヤ少尉。心中を察するなら新任の薄い給料でドアの修理は痛いのでしょう。
「まあ新任だと色々物入りも有りますから、修理費はいいですよ。あと敬語も」
「ホントですかハザマ大尉!? いやーよかったぁ、実地訓練とか勿論したんですけど、やっぱ固い敬語だけはくすぐったかったんですよねー」
「え、そっちですか?」
やば、言葉間違えたかもしれません。
一応私が上司とあって半分丁寧語は混ざってますけど、意外というか見かけ通り明朗な人ですね。
しかしまあ今回は仕方ないとして、何回も私がこうしてサポートしてくれると思わせてはいけません。きちんと対価として何か負担をさせなければ……
ふむ……ではどうしましょう。
相手は女性で許したあとですから体罰なんてナンセンス、それに私のキャラじゃありません。
だとしたらどこかに出かけるのは?
私はぼっちで行けない場所に行きたいと言う願望もありますが、年頃の女性が男と一緒に居て妙な噂を立てられたら大変です。
そうだ、居酒屋はどうでしょう?
私はスーツで行けば仕事帰りの上司と部下にしか見えませんし、なにより私がしたかった事の一つじゃありませんか。
私は多分ニヤリッと口元を歪めていました。と、それを見たナナヤ少尉はビクッと身体を震わせていました。
あーちょっと見すぎましたか。
「そうですねぇ……その変わりと言っては何ですけど、今夜は一晩(酒盛りに)付き合ってくれませんか?」
「え……!!? えぇっ!?」
え、そこは驚く所なんですか?
遠慮することは有りませんよ。いかがわしい店に行くわけでも無いですから。まあ人が二人集まって夜にすることなんて、決まってるじゃないですか。
「い、あ、で、でも私、そういうのはちょっとその……。ほら、初めてですしムードとかの問題もありますから。って、言わせないでください! セクハラですよ!」
「なんと」
あー成る程、確かに初めてのお酒は怖いですよね。
一応立場上私は上官ですから、悪酔いして迷惑をかけるかもしれないのは、確かにいただけません。
ですが今回は私が誘いましたし、それぐらいで怒るほど私は短気じゃないですから。
「初めてでしたか。なら尚更行くべきですよ。大丈夫です。始めは馴れませんけど後から良くなってきますから。こういうモノは回数ですよ」
「うう……」
んーやっぱり遠慮しているんでしょうか?
ドアを壊したりしていますから、これ以上醜態を見せると評価が下がるのではないか、そう考えているに違いありません。
簡単に敬語がくすぐったいと言うような性格ですから、すぐ乗ってくるかと思ったんですが……。
仕方ありません、最終兵器を出しましょう。
「じゃあ……上官命令です。今夜は(酒盛りに)付き合ってください」
ふ……決まりました。私が大尉になった理由の一つを今達成できましたよ。
上官命令、なんて良い響きでしょうか?いつも命令を書かれた紙切れ一枚でやらされていましたが、この響きは素晴らしい。
これでナナヤ少尉……面倒臭いのでナナヤさんも遠慮は無いでしょう。
「あううぅ」ジワッ
ゑ!?
「うぇええん……」
あ、有りのままに今起こっている事を話しますと、ナナヤさんが大きな目にいっぱいの涙を溜めて泣いてしまいました。
真珠のような大きな涙が頬を伝って零れ、床に……ってポエムやってり暇はありません!?
現状把握しますと……………ええぇぇ!?
え、ど、どうして?どうして? どうしてこうなったどうしてこうなったどうしてこうなったぁ!!?
そこまで酒盛りが嫌だったんですか!?いや私は『今夜どーよ』『いいっすね』みたいなノリを期待していたのに、どうしてこうなっちゃったんですか!?
く……短い間の行動を思い浮かべてみても、セクハラに当たることなんてしてません。はっ!?まさかまた貴方ですかテルミぃ!?(今回は勘違い)
ガチャ「おいハザマこのドアはなん…………」
そして空気を読まない蝶人上司、クローバー大佐が部屋にログインしました。
さて、現状では私の目の前には号泣しているナナヤさん。そして運悪くドアの方を向いてしまったため、クローバー大佐はナナヤさんのその表情はバッチリ見えているでしょう。
……空気を読んで状況を見てください、別に私が何かしたわけじゃないですよ?
「……フッ……すまんな、日を改めよう」
クローバー大佐がログアウトしました。
ってクローバー大佐ーっ!? 何ですかその合間のフッて!? 勘違いですって!?ああもうナナヤさんも泣き止んでくださいよ!
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「なーんだ、付き合うってただの酒盛りだったんだぁ」
「なんだと思っ……いえ、まあ確かにそう聞こえなくもなかったですし」
所は変わり、現在私とナナヤさんは居酒屋へと来ています。
どうやらナナヤさんは思春期の人専有のピンクな妄想をしてしまっていたらしく、誤解を解くことで一日の大半を費やしてしまいましたね。もう貴方二十歳ぐらいじゃありませんでしたっけ?
とはいえ誤解は解けたので、お酒を飲むのは大丈夫だと教えてくれました。
「そうですよ! もう心は蛇に睨まれたリス! 任官早々失敗してしまった小リスは鬼畜な蛇の上官に弱みを握られ……ああなんと言うことだろう、小リスの身も心も鬼畜な蛇に丸呑みにされてしまうなんて……って、マジな話そんな気分でした」
「これは酷い」
成る程、私の対話を思い出してみれば、確かに上官から命令で『やらないか?』と言われたら怖いですね。
「うう、でも怖かったんですよ!? 任官早々貞操の危機だなんて……頭から尻尾の先まで丸呑みされるかと思いましたよー、うん」
「一種のトラウマですね……あーでも尻尾は確かにいいですね。冬は暖かそうですし」
「!? ほーうハザマ大尉もお目が高い! なんとこの尻尾、寝るときは天然の抱きまくらに早変わりするのだ!」
「な、なんと!?」
「勿論毛並みは最高、生きてる私の尻尾ですから保温は完璧! 至高の抱き心地を味わえるのですよ! どうですかぁ、触りたくなりましたか?」
「く……腕が、勝手に……」
「だが残念! 私のこの尻尾に触れて良いのは私の大親友であるノエるんとツバキだけなのだァー!!」
「なんですって!? なら私は……私はこの持ち上げた腕を何処に置けばいいんでしょうか!?」
「触りたい? 触りたい? なら一触り5000pdで」
「あ、じゃあ払います」
「えーハザマ大尉セクハラですよ。慰謝料として10000pdお願いします」
「なんでですかっ!?」
あー何と言う馬鹿な会話でしょうか。
ですが私が求めていたのはこのグダグダな空気なのです!
たわいの無い会話で盛り上がる事ができる、それはぼっちの時と蝶人上司と一緒の時には不可能な事ですから。なるほど、『案外楽しいものですね』。
大尉になり部下と共にコミュニケーションをとる……現場仕事を全て部下に任せてサボることはできませんでしたが、人生の目標の半分はクリアできましたよ。
ゴール? 勿論普通に結婚して普通の家庭を築ければまあ最高ですよね。『たぶんそれが幸せですし』。まあ、こんな仕事就いといてアレですけど。
「へー、ハザマ大尉もそんな風に笑うんですね」
と、そんな良いこと尽くしの大尉に成れたから、どうやら私は笑っていたようです。
「おかしいですねぇ、始めから笑顔を崩した記憶はあんまり無いのですが」
「でも全然違うよ? 初対面の時は『頭から食ってやんよ小リスちゃんよぅ!ニヤリッ』っていうのだけど、今は『頭から食べさせてもらいますね小リスさん?ニコッ』っていう感じ」
「リスさんの運命がどちらにしても変わっていませんよ!?」
というか前者の笑い方は私じゃなくてテルミさんの方ですから。そしてお酒も入って少しテンションが上がっているのは確かなようです。
「まあー……こんな仕事ですからねぇ。仲良くお酒を飲める人もいませんから、つい嬉しくて」
私は多分笑っていたでしょう。
諜報員としての仕事は現場も上も殺伐とし過ぎて息が詰まります。
愉悦、快楽、戦慄、恐怖、慟哭、憎悪。なんだってあふれるこの場所は、自分の感覚が訳が分からなくなりそうでした。
テルミさんを理由にして現場だった場所へともう一度戻るのも、ストレスを発散するのが理由ですから。
ふと視線をお酒を入れたコップから前へと移しますと、そこにはポカンとした表情のナナヤさんが居ます。
ふむ、少し辛気臭い話でしたね。ですがナナヤさんはどんな言葉をかけてくれるのかと思い、
「へー、ハザマさんって友達居ないんですねー」
「ハイ!マコトさん貴女は言ってはいけないことを口にしたあぁぁ!」
予想外でした。
思った以上に『空気?なにそれ美味しいの?』というエアーブレイカーの持ち主だったようです。
「ふふふふふ、でも私には大親友のノエるんとツバキが居る! 士官学校の友人達も! 勝った! ぼっちのハザマさんに勝ったよ二人とも!」
「人の地雷をタップダンスするように踏みまくらないでください!」
そしてマコトさんによる更なる地雷の踏破により私のダメージは加速しました。
く……なんで彼女に敬語無しを許したんだ数時間前の私……。いや、でも寧ろ気を使われる方が私としては辛い。
良しとするしか無いのでしょうか……。
「と、まあー私も親友と呼べるのはその二人ぐらいだしねー。あ、勿論友人は要るけれど、あんまりハザマさんの事言えないかな?」
「へ? そうなんですか?」
それは意外だと思いました。マコトさんは明朗な人物ですし、私がこうして話しても面白い人です。
多分教室ではムードメーカーに成りうる人物ではないでしょうか。学校の事私覚えてませんけど。
「意外……かなぁ? ほら、私ってこんなナリでしょ? やっぱり視線とか悪口とか……まあ色々有って」
こんなナリ……まじまじとマコトさんの身体を見ます。
新任であるためスーツ姿のマコトさん。頬杖をつきながらチビチビとお酒を飲んでいますが、それより先に見えるのは身体を乗り出しているため、テーブルの上に乗る身体の双山。形が服の上でもはっきりわかるぐらいの大きさで、成る程学生が持てるようなモノではありません。
……つまり、学生にはあまりにも大きすぎるそれは女子生徒の恨みを買い、それが広がってしまった、と。
「ハザマさーん? それ以上はセクハラになりますけど?」
と、そんなことを考えていると、鋭い視線がこっちに来ていました。
「……あー何と言うか凄いモノをお持ちで……触ってもいいですか?」
「やってみてください。その瞬間、私の弾丸のような拳があなたの顔面を潰す、それでも良いのなら!」
「く……ですが私には顔面など潰しても良い理由(ロマン)がある!」
「……と、冗談はさておいて」
「ですね」
ついお酒が入ったせいで悪乗りしましたが、本当は何となく見当は付きます。
後ろにある大きな尻尾と頭に有る耳、オマケに人より少し大きめの瞳。普通の人、というには些か語弊があるその特徴を表しているのは、マコトさんが亜人で有ることを示しているようです。
亜人……と、すらすらと説明できたら格好良いのですが、興味が無いのであまり知りません。
精々差別の対象になるんじゃないか、と。その程度は予想できますが。私諜報員ですし。
「だって酷いんだよねー、人のこと指差して獣臭いだなんだって……私の匂いは草原の香りの高級石鹸だっつーの!!」
「成る程……まあ学生ですからよくある悪口ですか」
「だけどそんな私の尻尾をプリティとさえ言ってのけたのが我が親友ノエるんで、そして私になんの隔てもなく接してくれたのがツバキ。うーんやっぱり二人が居なかったらつまんなかっただろうなー」
「そうですか……それは良い友人を持ったんですね。ちなみになぜその話を私に?」
「ぼっちのハザマさんへの当てつけです!」
「はははははは、いい加減ににしないと本当に頭からガブリと行きますよ小リスさん?」
親指を立てて素晴らしい笑顔を見せるマコトさんに、思わず青筋が浮かばずにはいられませんでした。
私としては友人の自慢をされて胸やけしそうなのですが。
「ふ…殆どは冗談ですから! それにもうハザマさんはぼっちじゃないから大丈夫!」
ですよね。
私がぼっちなのは変わらない事実であることは確かですけど。
というかお酒のせいで妙なテンションになっているので仕方ない。顔にうっすらと朱を注しているのですから、そこそこ出来上がっているようです。
ん? だけど現在進行形でぼっちの私ですがぼっちじゃない?
「と、言うワケで、仕事オフの時に限りこの私、マコト=ナナヤがハザマさんの一番目の友達になりましょう!!」
「…………へ?」
ああ確かにこの時の私は呆けた顔をしていたのでしょう。
そんな様子の私に、むっと目を据えるマコトさん。視線だけで『何か問題ありますか?』という声が聞こえてきそうです。
私はといえば、ただ驚いていました。
友人、友達、フレンド。聞きなれない言葉であってついどう言えば良いのか分らなくなっていたのでしょう。
「えーとですねぇ……あーえー、よ、宜しくお願いします?」
だから疑問系になりながらもそう答えました。
マコトさんはそれを聞いてニカッと笑みを浮かべると、チビチビと飲んでいたお酒を一気に呑みました。
「それなら今からは無礼講です! よーしママ名酒獣五朗とおつまみ頼んじゃうぞ!」
「やめて! おつまみは良いですけど給料が吹き飛ぶようなお酒を頼まないでくださ……って空けるの早っ!?」
先程のしんみりした状況はあっという間に吹き飛び、再度馬鹿な空間が辺りに蔓延しだしました。
名酒をいっき飲みさせられたり、マコトさんの友人の話しで盛り上がったりと、普段私が感じないような感情が立ち込めて来たような気がします。
そうだ。これが『楽しい』、ですね。
外へ出ての気晴らしとはまた違ったベクトルの楽しさ。
それが今この空間に有ることが本当に嬉しいと、これまたリアルに感じる感情が溢れています。
……それで余談とするなら、完全に二人とも酔い潰れてしまい、店のテーブルから顔を上げた時には小鳥のさえずりが聞こえる時刻になっていたことでしょう。
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思うなら、この日の出会いこそが『ハザマ』という存在が観測され、世界の一部へと変貌した日だったのかもしれません。
だからこそ私/『俺』は『俺』/私ではなく私/『俺』自身である。
そう、私は考えます。