統制機構諜報部のハザマさん   作:作者さん

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すてーじ2

 六英雄に狙われるという失態を犯してから3年、いつも通り諜報活動や身体を乗っ取られ仕事が完了しているハザマです。

 なんと、今回は喜ぶべきことがありました。

 な、なんと! 苦労した甲斐があって中尉まで昇進したんです! 記憶喪失? そんなもの忘れました。

 これで部下も付けられて対人コミュニケーションも取れ、現場の仕事からおさらばできますよヒャッハー! 

 ……そう思っていた時期が私にもありました。

 なんというか……昇進して権利やらなんやらが重くなった分、自分で書類を作れるようになってしまったんですね。

 そう、今まで大して作らなかった書類の量が増加、現場の仕事はそのまま。もともとグレー企業だったのが完璧にブラック企業になった瞬間でした。

 部下? 大尉になってからですって。笑わせないでくださいよ。他の人たち普通に居るじゃないですか。なぜ私だけ……。

 それに稀に任務に同伴する少尉さんとかから、中尉がいるから指示に従えば大丈夫だろう、と期待の目で見られるのが辛いのですけど。そしてその油断した少尉Aは任務に失敗しましたしね。見事にリンチ受けてましたって言わせないでください恥ずかしい。十字切って祈っておきました。階級イコール強さって、そんなゲームじゃないんですから……。

 

「と言うか、たまに乗っ取られる方が任務達成が早いって勘弁してくださいよ……」

 

「……ハザマ、飲みすぎだ。その身体はそんなアルコールに耐え切れるようにはできていない」

 

 はい大佐ぁ、と使い慣れない敬礼をする私。

 そんな私を見て金髪のオッサンはやれやれといった様子でため息をつきました。

 あーやべ、オッサンとかいったら大佐に怒られちゃいますねぇ、あっはははははははh

 

「安心しろ、聞こえている」

 

 ぶふぁあ! 

 

 いや、思いっきり吐きました。もう目の前でお酒を出してくれる店のおじさんに吹きかける勢いで。

 ここここ声に出てたってここことですか?

 

「しししし失礼しましたクローバー中佐」

 

「かしこまるな。お前に敬語を使われるのははっきり言えば気持ちが悪い」

 

「おおおおおう、すみませんねぇ」

 

 よかった、中佐が寛大な人でよかった。酔いが回っていたのが一気に吹っ飛びましたかからね。

 この人、レリウス・クローバー大佐ですが、技術開発部の責任者のような人らしい、というか人です。

 勿論、私とは階級がひどく離れてますが、なんとか統制機構の中でまともに顔を合わせられる交友?関係がある人物です。どうやら私が色々できるように便宜を図っていただいた人ですし。

 こうして私がお酒に誘えるぐらいの人なんて他にはいませんよ! ……あ、泣きたくなってきた。どうして成人通り越した若者がオッサン誘って酒盛りしているんでしょう。

 しかも普通のオッサンならまだ良かったんですよ別に。隣にいるオッサンは遙かに階級が離れた上司でマントを纏い仮面を付けた変人ですよ? 蝶人とか言って外で露出してませんよね? 身内が泣きますよ。私は大爆笑しますけど。

 

「ハザマ、聞こえているぞ」

 

「!? うおえっっほぅ!? ゲホッ…ゲホッ…すみません。自重します」

 

「安心しろ、今度雑務を送ってやる」

 

 はい消えた私の次の休日今消えた! 

 大体技術者を誘うのは間違っていると思うんですよね、アルコールとか手がぶれるようになりますし。誘っておいてなんですけど。

 良い年していると思われる外見ですから、こうして私に付き添うより家族の下へ行った方がいいんじゃないでしょうか?

 

「家族、か」

 

「ええ。あー私も早く結婚したいんですよね。何かと苗字なしっていうのは面倒なんですよ」

 

 名前を書くたびに苗字は?って聞かれるのも結構きますね。そんな心臓に毛が生えるようなごつい心臓してませんから。ざくざくナイフを心臓に突き刺されている気分です。

 ふむ、と、意味深長そうにレリウスさんは呟くと、普段はあまり飲まないはずのお酒にゆっくり手を付けました。

 大きな手には少し小さいぐらいの東大陸系のコップに少しづつ注ぎ、一気に喉に入れてました。

 

「あークローバー大佐は家族のご様子なんかはどうです?」

 

 何と言うか、こちらから話題を振らないと反応してくれないんですよね。

 黙々と進める酒盛りなんてぼっちの時だけで十分です。

 

「……先日息子が士官学校へと入学した。」

 

 へぇ~レリウス大佐って子供が居たんですね。

 良いですよねぇ子供と言うものは。対人関係が壊滅状態の私にとっては、家族なんて素晴らしいものじゃありませんか。

 

「それはそれは。おめでとうございます。あ、因みにどこの学校なんですか?」

 

「ああ……」

 

 ボソりと口から出た言葉はやはり有名な士官学校のところでした。丸々都市が学校になっているところですね。私行った記憶ありませんけど。

 士官学校ですから、術式に関していえばエリートだらけでしょう。

 やはりクローバー大佐も大佐という地位に着けるぐらい有能な人ですから、息子さんも凄いのかもしれませんね。

 そういえば私の出身って何なんでしょう。謎ですね。自分の事ですけど。

 どこであろうと電話一つ来ないということは、過去の私の学生時代の友達は、一人も居なかったんでしょうか?……電話に出んわ。……精神的に心臓に来ますね。

 

「あー、良いですよねぇ家族。私も家族とは行かなくても恋人……いえそこまで高望みせずに、せめて友人…いや仕事仲間ぐらいの関係にはなりたいものです」

 

「果てしなく低い繋がりになっているが?」

 

 いやそれさえも不足しているこの身でして……

 友人というか同僚は基本的顔を合わせませんし、情報の管理はしっかりしないといけないので友人とか作れませんし。あ、お酒が眼にしみる……。

 いっそ脱統制機構しますか? ……あー引き継ぎとかしてもらえる人が居ません。うん、私泣いて良いでしょうか?

 一応恩もありますし、私が諜報員であることによって犯罪を減らすことができるので、統制機構も悪くは無いんですよ。…人間関係以外は。一つにして最大のネックですけどね!

 レリウスさんも友人が多い方ではないですけど、部下は結構居ます。

 

「それに比べて私は……この前なんてテルミが勝手に経費で買った飲食代に私が怒られましたし……なんですか究極のゆで卵一個1000pdて、高すぎなんですけど。しかも店の全部買い占めないでくださいよ、ついでに言うなら一個ぐらい取っておいてくれても良いじゃないですか。なんで気が付いたらダストボックスの中身が卵の殻だらけで、その後上司に怒られるのは私なんですか」

 

 ……うん? 諜報員生命は途絶えていませんが、結構問題起こしてますよね。揚句の果てには六英雄から狙われてますし。……あー酒盛り中には考えないようにしてたのに。

 六英雄に狙われるって黒き獣ぐらいじゃないんですか? そりゃあ恋人殺されたら英雄だってキレますよ。

 えーとナイ…ナイ…ナイフさん……でしたっけ? はい現実逃避。ナインさんですよね。なんだって今や老婆であろう昔の大魔導師を殺すようなことをしたんでしょうか。

 というかこれで統制機構から抜けるなんて考えはオシャカになりました。組織の後ろ盾に今日だけは感謝します。

 とはいえそれも『私』ではありますから。受け入れるしか無いんですよねぇ…………

 

 あぁ~何だか眠くなってきました。

 願うなら、目覚めた瞬間獣兵衛様のどアップに対面するような状況になって居ませんように。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 レリウスは自分の帽子をアイマスクにして眠るハザマを見て、……特に何もしなかった。

 ただ思った事は、不思議な存在だ、とただ一言考えただけだ。

 魂という存在が何処に有るのか。

 一つの説として精神的な魂、肉体の魂と、一つの人間には二つの魂が存在するという考え。観測されている魂自体に種類は無い。抗体という存在もあるが、あれは魂という括りには除外されるだろう。 抗体が魂の形態をとっていたというのが正しい。

 肉体を失っても精神的な魂は暫く漂い続けて消滅には時間がかかる。

だ が……例えば精神的な魂を消滅させたとしても、肉体さえあれば魂はまた再生するのではないか。

 まだレリウスは知る余地ないが、恐らく未来で死神が出会う悪魔は正にその一例。

 そしてそれがほんの細胞の一片だったとしても、有機質の集合体だった身体は意思を見せた。

 だから例え作り物の身体であったとしても、魂を自ら作り出す事は可能ではないか。

 

「実に興味深いな」

 

 いざとなればまた新しい器に移し替えれば問題はない。目の前にいる男の魂が本当に『生み出されたもの』だとするのなら。

 テルミの計画には多少の誤差が出るにしても、その辺りに関与するつもりも無い。所詮は自分本位の計画だ、どちらに転んだとしても自分は眺めているだけだろう。

 だからハザマと言う男を今暫く観察する。何を意識して創った訳でも無い。

 だが一つの器に中身は二つ、それをして尚両者の魂は溢れず混ざらない。いや、混ざろうとしていないだけか。

 成功品でもあり、失敗作でもある。完全ではなく不完全である物は、予想できぬ何らかの結果を残す。それは、見ていて面白い物には違いない。

 レリウスはカウンターから立ち上がり、チップの意を込めて多めに支払うとそのまま出口へと向かった。

 

 ……爆睡するハザマを放置して。

 


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