妖精の翼 ~新たなる空で彼は舞う~   作:SSQ

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まさかの8か月ぶりの更新。
遅くなりすみません。
メインとは少し離れていますので注意です。




間話-1

-ねね。なにか面白い話ない?

 

-何よ?唐突に?もうやることが無いなら寝てしまいなさいな。明日は早いんでしょ。

 

-そうは言ってもね、眠れないものは眠れないんだよー。何かない?私は面白い話をご所望します!

 

-うーん・・・。あ、そうだ!それじゃあこんな話知ってる?これはほんの数年前の話なんだけど・・・。

 

-あー無理無理。私怖い話絶対無理。

 

-そんなんじゃないよ~。もう、怖がりなんだから。これはね、妖精の話。

 

-妖精?なにそれ?おとぎ話?

 

-ううん、違うよ。これはね、私たちの先輩ウィッチから聞いた話なんだけどね。ネウロイと戦っているとき、その先輩たちの隊は四方を囲まれて本当に危ない状況だったんだって。司令部に援護を要請してもほかの部隊も同じで自分たちで精一杯。到底ほかの人たちに手を回せるような状況じゃなかったんだって。

 

-それっていつの話??

 

-えーっと確か1940年のダンケルクでの話って言っていたからたぶん1940年だと思うな。カールスラントのベルリンやガリアのパリが陥落した年。私たちはまだ入隊してなかったね。

 

-そっかー、それだと5年前になるのかな。え?あれ?妖精の話はどこいったの?

 

-ちゃんと続いているから安心して。それでえっと、どこまで話したんだっけ?

 

-助けてほしいのに、誰も人がいないってところまでだよ。

 

-そうだった、そうだった。それでね、先輩は“だれでもいいから助けて!”てもう一心不乱に、それこそ神様に祈るように叫んだんだって。その時、突然ネウロイが爆発したんだ!

 

-ふーん?それで?

 

-いったい何が起きたの?と先輩があたりを見渡すと遠くに真っ白な服を着てとんでもない速さで飛ぶ“何か“がいたんだって。その”なにか“はものすごい速さでネウロイをあっという間に撃墜してそのままどっかに行ってしまったんだってさ。

 

-なにそれ?どういうこと?

 

-え、えっと、肝心なことは先輩もよくわからなかったみたいで・・・。

 

-だめじゃん!それで、結局その“なにか”って何物だったの?

 

-それは私にもわからないや。

 

-えー。それじゃあ、全くわからないよ。

 

-う、ごめんね。

 

-ならそこからは私が話すよ。

 

-あ、先輩!お疲れ様です!前に話してくれたことをこの子にも話してあげていたんですよ。先輩、この子にも“妖精”の話、してあげてください。

 

-あの話か?カールスラントウィッチで撤退戦を経験しているウィッチならだれでも知っている話だぞ?

 

-え、そんな有名な話なんですか?

 

-あぁ。知らない人はいないだろう。前線の飛行隊の隊長クラスなら見たことがある人も多いはずだ。無論、わたしも見たからな。

 

-妖精を、ですか?

 

-そうだ。正確に言うならば私もあの妖精とやらに助けられた一人だからな。ただ・・・、あれを妖精と表現するのは少しおかしい気もするがね。とにかく、せっかく敵襲もない夜だ。私が一から話すとしよう。

 

-お、いいですね!私もまた聞きたいです!

 

-私も、気になります。

 

-いいだろう、話をしようか。あれはパリが陥落した1週間後の話だ。私はまだ残って戦っていた友軍を支援するためにガリアを飛んでいたのだ。私は絶対にあそこでの戦いを忘れることはないだろうな・・・。

 

 

 

 

 

 

「こちら502JFW、バーフォード少佐。現在位置エリアK南上空。転進ポイントに到着。目標到着(ETA)まであと30分。」

『確認した。進路そのまま。ボギーの存在は確認できず。報告事項がなければそのまま基地へ直行してくれ。』

「了解。進路そのまま。」

 

 

徐々に南進作戦を進めるための一環として、ウィッチや航空機によるネウロイと人類との緩衝地帯になっている場所の詳細把握のための偵察飛行がここ最近は頻繁に行われている。

さらには遠征も限定的だが再開されて、俺たちも前線基地に増援として配置されることになった。

遠征基地へ向かうその途中もあえて遠回りまでしてこのようなコースを飛行しているのはそのためだ。

殆どの部隊では敵との接触に備えてツーマンセルで今回のような偵察飛行を行うが502ではそんなことはしない。

もちろん人手が足りないということもあるが一人でも対処できるだろうと上が信頼しているからだろう。

そういう部隊なのだな、と改めて痛感する。

それほど各国の上層部に信頼されているほどの戦力を持っている奴らが集まっているんだ。

伯爵やジョゼなんていい例だ。

地上にいる時と戦っている時、彼女には明確な差がある。

何が彼女たちをそうさせているのか、俺にはよくわからないがエースってやつはそういう物なのだろうな。

閑話休題、俺は廃墟と化した街を見下ろしていた。

支給されている地図と現状が違いすぎることにうんざりしながら見たままの結果を記入していく。

ここに住んでいた人たちがいなくなってから時が止まってしまっているその町は再び人が戻ってきたとしてもすぐに元の生活を送れるようなレベルではなかった。

冬を終えて、春、夏を迎え人の手を入れることなくただ放置されていた建物など劣化しない方がおかしい。

それは舗装された道路や橋にも言えることで既にいくつかの場所は原型をとどめていなかった。

「こりゃ、進軍スピードに相当の遅れが出るだろうな。」

思わず独り言をつぶやきたくなるほど、見た目は悲惨だった。

かなり横幅あるこの川だ。

橋を再びかけない限り車両どころか人もここを渡ることができない。

迂回しようにもその迂回ルートとなるはずの別の橋も崩れかかっている。

こちらは壊れかけているのだから余計にたちが悪い。

いっそのこと完全に壊れて流されていた方が壊す手間がかからない分、より短い時間で直せただろうに。

 

『やあ隊長。今どこだい?』

「伯爵か。無事に到着しているようで何よりだ。」

目標の半分を達成したころ、無線を通じて伯爵の声が聞こえてきた。

暇を持て余してしているだろうなと思っていた矢先にこれだ。

向こうの人たちに迷惑をかけていないといいんだが・・・。

『まさか僕の心配をしてくれているなんて・・・。やっぱり隊長はやさしいなぁー。』

「いや、ユニットの話だ。到着早々代替機を貸してくれなんてそちらの隊長に行ったらこっちにまで迷惑がかかるからな。」

『ひどいなぁ。僕の心配はしてくれないのかい?』

お前さんの心配?

そんな軽口叩ける時点で無用だろうに。

「ユニットが無事という事ならお前さんも無事だっていう事だろう?」

『嬉しいな!ジュース片手に待ってるね。ほら、ジョゼも。・・・・・・・・。あの、偵察任務お疲れ様です。こちらはご厚意に甘えさせてもらって休ませていただいています。ご到着、お待ちしていますね。』

「あぁ、ジョゼもありがとう。どうだ、伯爵の様子は?」

『その、いつもと変わりません。すでに顔見知りの現地のウィッチの方とは仲良くお話しされていました。』

あいつ・・・。

お話し?ナンパの間違いじゃないのか?

こりゃ、ついたらあちらの隊長から文句を言われることも覚悟しないとだめかもな。

「ジョゼの方は?」

『私、ですか?はい、皆さんのおかげでうまくやらしていただいています。』

「そうか、よかった。もしなにかやらかしているようだったら到着したときにまとめて報告してくれ。」

『わかりました。それではお待ちしていますね。』

「あぁ、頼んだ。通信終了。」

伯爵と二人だとあのジョゼも結構大変だろうな。

きっと事あるごとにちょっかいを出す伯爵とそれを嫌がるジョゼがいるんだろうな。

 

遠征に従事するメンバーは前とほとんど変わらなかった。

ほとんどというのはウィルマがいなくなったという点だ。

彼女はペテルブルクに残りほかの人たちの手助けをしている。

今回も熊さんたちが居残り、俺たち3人が遠征組になった。

ただ今日は俺がサンクトペテルブルクの基地にいる間にしなければならない仕事があったため伯爵たちには先に向かってもらっていた。

だから俺は今一人で遠征先の仮設基地に向かってその途中で偵察任務についているのだ。

伯爵が“僕は現地の部隊の子たちや指揮官と面識があるから打ち合わせとかは全部任せてよ!”なんて言っていたから半信半疑で全部任せてみたがジョゼの話を聞く限りはうまくやっているようだ。

やっているよな?じゃないと困る。

面識があるというのがかつての仲間だったのか、それともユニットを壊した時に世話になったのかどちらなのかわからなかったが今回は前者だったらしく部隊間交流もスムーズに行きそうだ。

俺たち待機時間が長くなるがその分、夜間哨戒の時間も短くなりだいぶ楽になった。

前線部隊もこの時期になると太陽が出ている時間が長くなりその分活動時間が長くなり負担が多くなってきていたため今回の遠征もかなり喜ばれているらしい。

俺たちの“現状の“敵であるネウロイもまたその日照時間の増加に比例して出現数、活動時間が先月や先々月と比べて確実に増えてきている。

つまりネウロイも冬眠から目覚めて活動を再開し始めたってことか。

夜間哨戒の時間が減るのはありがたいがその分、激しい戦闘の回数が増えるというのは少し憂鬱だった。

 

 

 

基地まで残り15分というところでそれは突然起きた。

・・・何かがおかしい。

鋭敏に働いていた俺の勘が唐突に自分にそう呟いてきた。

まず初めに気がついたのは周りの気配だ。

先ほどまでは明るかったのに急に暗くなってきた。

それと肌で感じる空気が重いように感じた。

よく見てみると自分の周りを霧が覆い尽くそうとしていた。

下の偵察に気を取られていつの間にか霧の中に突っ込んでしまったのか?

いいや、そんなはずはあるまい。

朝のブリーフィングでは今日の天気は晴れで、濃霧が発生するようなコンディションではなかったはずだ。

だがそれでも目の前にはだんだんと濃くなっていく霧が発生していた。

それに伴い、地面が霧で隠されていった。これでVFR(有視界飛行方式)での飛行ができなくなってしまった。

明らかに霧ができるスピードが速すぎた。

こんな経験は雲に突っ込んだ時くらいにしか経験できない。

それほどに周りが見えなくなる速度が速かった。

「コントロール、こちらバーフォード少佐。濃霧発生により視界不良。そちらに何か濃霧にかんする情報は入ってきているか?」

『こちらコントロール。周辺空域はいたって快晴。予報でも霧が発生するとの報告はあがっていないぞ。報告も同様だ。10分前に飛行したパイロットからもそういった危険気象に関する報告は来ていない。』

「了解。ならいま報告だ。グリッド056158にてVFRが困難なレベルの濃霧が発生。任務を一時中断して高度を上げる。」

『・・・・・・・。』

「コントロール?聞こえているか?任務中断、高度を上げるぞ。」

『・・・・・・・・。』

「おい!聞こえないのか?」

突然、コントロールと連絡が取れなくなった。

無線途絶時のマニュアルに沿って通信回復試みるがあちらとの通信を再開することはできなかった。

何故だ?

何が起こっている?

こちらの通信機器を使用しているのにも関わらずあちらに通信が届かない、なんてことは今までなかっただけに一抹の不安を覚えた。

俺は高度を上げて、とにかくこの霧から離脱することにした。

先ほどまで通じていた無線が急に通じなくなったのはこいつの無線機器の故障が原因とは考えにくいのでこの霧の可能性が高い。

地上と衝突するリスクを考えても現状は周りを見ることができないので高度を取っておくことに越したことはない。

偵察任務の中断はあちらに聞こえていないかもしれないがこの際、緊急事態なので仕方がない。

足のユニット出力向きを変え、太陽を目指して一気に高度を上げる。

3000、5000、8000、10000と高度計の数字が目まぐるしく増加していきそれに伴って空気が軽くなるような感覚を感じた。

だがそれなのにも関わらず、霧が晴れることはなかった。

普通、成層圏まで霧が多い隠すことなんてあるのだろうか?そんなことは聞いたことがない。

なら今、目の前で起きているこの現象はいったい何なんだ?

そんなことを考えて上昇をしている間も霧は濃くなっていく。

まるで俺を包むかのように見える先が10m5m、3mと消えてゆきやがて自分の指先すら見えなくなったとき

 

“あぁ、まるでフェアリ星とをつなぐ星間通路に入るときのようだ”

 

俺はふとそんなことを考えていた。

 

 

 

 

その霧が一瞬にして晴れた。

急に差し込んでくる太陽光に思わず腕でおおい隠す。

どうやら霧を抜けたようだ。

Garudaが指し示す現在の高度は12000m。

いつの間にか1万を超えるところまで来ていたようだ。

周りを見ても先ほどまで俺を覆っていたはずの霧はどこにもなかった。

俺の混乱は下の景色を見てさらに大きくなった。右手には海が、眼下に海岸線があり左手には平野が広がっていたのだ。

先ほどまでオラーシャの領空を飛んでいたはずなのになぜ、そこに海岸線が広がっているのだ?

霧に覆われていた間にまさかそこまで移動した?

いや、先ほどの場所から一番近い海岸線なんてサンクトペテルブルク付近のあそこだ。

それにしたって、いろいろ辻褄が合わなすぎる。

仮に現在位置がサンクトペテルブルク周辺空域だとしても、右手に海しかないのがおかしい。

あそこを飛んでいるときは左手にカールスラント、右手に遠くながらバルトランドが見える。

つまりこの高度から海しか見えないのがありえない。

そうなるとさらに遠い場所を飛んでいることになるはずだが、霧に覆われていた時間が5分以下だったことを考慮するとその時間でかつ通常推力で行ける該当場所なんて“存在しない”。

なら、俺は今どこを飛んでいる?

パイロットとして自分の飛んでいる場所を把握できていないのは最悪な事態だ。

一旦、ユニットの出力方向を下に向け、その場にとどまり辺りを見渡す。

海岸線があるということは大まかに場所が絞られてくる。

それと現在時刻と太陽の位置から方角を測定することから海岸線の向きがわかるためさらに絞り込むことができる。

俺はポケットから地図を取り出し、似ている場所がないかを探し始めた。

最初はつい先ほどまで飛んでいた場所の近くを探してみたが該当する場所が見当たらない。

念のために数回確認してみたがやはり一致しなかったので今度はさらに範囲を広げて探してみた。

山、町の地形、海岸線の形、遠くに見える何か特徴のある建物、いずれも周辺空域と地図が合致する場所はない。

つまり、いま俺はこの地図に書かれている場所の外にいる事になる。

スーッと首筋を汗が一筋、流れていくのが分かる。

冷静になれ、焦るとわかるものもわからないぞ、そう自分に言い聞かせてみるがいつもよりも鼓動が早いのが分かった。

このまま地図をにらんでいても絶対に現在位置はわからない。

とにかくこの緊張状態を押さえるために俺はもう少し飛んで周りを確認してみようと思った直後、あらゆる周波数を探り、情報を集めていたGarudaが何かをつかんだ。

自動で調節された周波数から聞こえてくるその声に俺は耳を澄ますのだった。

 

 

-????/??/??/??:??-

OOOOO上空

 

パリ陥落。そのニュースは私たちにとって衝撃だった。いくら何でも敵の進軍スピードが速すぎる。

先月、カールスラントの首都ベルリンが落ちたというニュースを聞いたばかりだったのに。

距離にして約870km、もちろんウィッチや地上部隊も必死に抵抗しただろう。

それをわずか一か月で敵は突破した。

私たち最前線にいる人たちだってショックだったのに司令部じゃきっと真上に爆弾を落とされたくらいの衝撃だったはずだ。

戦力が各地でバラバラになっている現状ではネウロイに各個撃破されてしまうのは目に見えていた。

だから戦力を一か所に集中させて再編成する必要がある。

そのためにこの撤退作戦が立案され、いま目下実行されている。

私たちに与えられた任務は民間人及びそれを護衛する味方地上部隊の撤退支援だった。

護衛任務、私はそれが一番嫌いだった。

いつ来るかわからないネウロイに常に気を張っていなければならない。そしていざ戦うときは決まって奇襲の場合がほとんどだ。

むしろこんな任務が好きな人はよっぽど忍耐力がある人か物好きな人に違いない。

年齢が低い私たちに気を配ってくれているのか2時間ごとに場所を変えて集中力を維持させるという上の判断には嬉しくて涙が出る。

もちろん皮肉だけど。

だけれど今回の護衛戦闘は同じ護衛でもいつもの作戦とは状況が全く違う。

好き嫌い言っている場合ではないのだ。

ここはそう、ダンケルク。

いま、私たちの目の前では人類史上最大の撤退作戦が行われている。

周りをネウロイに包囲されている今、残された唯一の脱出路は海から船を使うしかなかった。

今足元にいる40万人の命は私たちにかかっている。

そしてその人たちを助けようと数え切れぬほどの船がここに集結して撤退を支援していた。

軍艦や輸送船だけではない。

ドーバー海峡を渡って民間の漁船までもが救出に駆けつけていた。

そうでもしなければここにいる人々を全員助け出す事なんて不可能だった。

何とか船の数はそろった、しかし逆に考えればあれだけの資材や人が集まっている場所となればネウロイにとってみれば格好の標的でしかない。

だから私たちは絶対にここから先へネウロイを通してはならないのだ。

あの中には私の家族だっているんだ。絶対にネウロイなんかにやらせはしない。

みんなでブリーフィングの時にそう誓って今も空の上で必死に戦っている。

だけれど、ネウロイはそんな覚悟をあざ笑うかのように人類側のすべての航空戦力をはるかに上回るほどの量を投入してきた。

地上のレーダーではネウロイの機影は観測主が皆故障かと勘違いしてしまうほどだったらしい。

私はあの光景を一生忘れることはないだろう。

地平線の先から黒い集団が一つ二つとだんだん増えていったあの光景を。

百から先は怖くなって数えることはやめてしまったが勘ではその数倍はいただろう。

ここ数日はネウロイの襲撃が全くと言っていいほどなかった。

来たとしてもせいぜい小型機数機程度でウィッチが近づくだけですぐ引き返していった。

中にはネウロイはここに気が付いていないのでは?ここにはいない別の部隊が健闘してここの周辺には近づくことすらできないのでは?と楽観視していた人もいた。

私も少しはそれに期待していた。だって戦わずに済むのであればそれに越したことはないもの。

しかし現実は甘くなく、むしろ状況は最悪だった。

ネウロイはこの日のために戦力を温存して一気に私たちを殲滅するつもりだったのだ。

そして現状、ネウロイの思惑通りに戦況は動いている。

敵は私が防衛している空域にも押し寄せ、遠回りして海からも来ているらしい。

ブリタニア本土からも応援が来ているらしいが圧倒的に数が足りない。

私たちはそんな数でも戦闘力でも勝っている敵と互角以上の戦いを強いられていたのだ。

 

「こちら第13飛行隊中隊長です。第二防衛ラインαに多数のネウロイを確認!現状では抑えきれません!早く増援をこちらに送ってください!すでに消耗多数。このままでは全滅です!」

私は本部にそう叫ぶ。ダンケルクに投入されている航空戦力は現状ここの司令部がもつ全戦力だ。

撤退が完了すればここは放棄されることから予備戦力は作戦立案当初から考えられていなかった。

初めから全戦力を当てて味方に被害を及ぼさないようにすることが第一だったからだ。

それの意味するところは緊急時の補充ができないという事。

緊急オプションとして用意していたはずのブリタニアからの応援も海上での戦闘で精一杯らしい。

『無理だ。これ以上の戦力は回せない。なんとしてでも現状の戦線を維持せよ。』

「わかっています!ですが戦力差は・・・!」

『すまない。ほかに回せる戦力は本当にどこにも無いんだ!既に撤退は半分が完了した。もう少し耐えてくれ!』

「ッ・・・・!了解!」

ようやく半分?冗談じゃない。

このまま撤退が完了するまで待っていたら私たちは全滅だ。

この空で死んでしまうのか、それとも地上部隊が撤退を完了し私たちに撤退命令がくだるのか、どちらが先に起きるのか私にはわからなかった。

いや、考えたくもなかった。

「全機!弾薬と魔力は極力節約して!何としても撤退命令が出るまで・・・キャ!」

『隊長!!』

みんなに指示を出すためにそちらに注意を向けたせいで周りのネウロイが攻撃態勢になっているのに気が付かなった。

運がよかったのかそのレーザーは直撃することなく体のすぐ脇を貫いていった。

すぐに体勢を整えて背後にいる私を落とそうとしたネウロイに反撃する。

 

ダ!ダ!ガッ!

 

2発撃っただけで嫌な音と共に銃は突然発砲を止めてしまった。慌てて確認すると空薬莢が排莢口で詰まっていた。

ジャム!?こんな時に!?

距離が近くこれくらいであれば撃墜できると思った矢先の玉詰まりだ

。しまった、と思った頃にはもうネウロイは射程圏外にまで離脱していた。

戦闘中に気を抜くという油断とジャムという運が悪かった結果、せっかくのチャンスを逃してしまった。

『隊長!お怪我は!?』

「平気、問題はないよ。」

口ではそういったが心はすでにボロボロだった。

援軍は来ない、味方も数をどんどん減らしてきている。

それなのに敵の数は撃墜しても撃墜しても一向に減らない。

私は手動で詰まった弾薬を排莢して無駄になった弾が落ちていく様をただ見つめることしかできない。

玉詰まりは直した。

さぁ銃を手に取れ!戦え!ネウロイを落とせ!家族を守れ!

頭の中の自分がそう叫ぶがもう一人の自分がそれを聞こうとしない。

まるで虚無感が頭をすべて支配してしまったような感覚に陥ってしまった。

もうだめかもしれない。

撤退命令が下りるまで耐えられないかもしれない。

そしてそんなつらい思いが胸の中で沸き始めた。

また視界の端で誰かが落ちていくのが見えた。

きっと私ももうすぐあぁいう風に落ちていくのかな。それとも何も残らないのかな・・・?

一度生まれると止めることは難しいこの感情が胸の中に一気に広がる。

嫌だ、なんで、なんで私が?運が悪かったの・・・?

視界が急ににじみ始めて止めたくても止まらない涙があふれてきた。

皆の隊長になってからはこんな涙は見せないと心に決めていたのに、もう限界だった。

援軍はこない。味方は疲労困憊。それなのに敵は健在。

これを絶望と呼ばずしてなんという?

だからだろうか、絶対言わないと心に決めていたつらい思いを叫んでしまった。

 

「もう誰でもいい!!誰でもいいから私たちを助けてよ!!!」

 

もちろん、返答はない。

こんなことを言ってもなんの解決にもならない事なんてもちろんわかっている。

けれど、叫ばずにはいられなかった。

それはまるでここで戦っているウィッチすべての気持ちを代弁したかのような言葉だった。

これを聞いている通信士やその上官ですら規則違反の無線を咎めることすら忘れてしまう、それほどに悲痛に満ちた叫び声だった。

 

「は、はは・・・。」

涙と共に笑い声まで漏れてきた。

あぁ、私ってもうだめなんだろうな。

急に先ほどまであったはずと戦う気力が抜けていく感じが自分でも分かった。

「何やっているんだろうな、私ってば。」

視界の右上から先ほど取り逃がしたネウロイが再び近づいてきた。

耳元で誰かが叫んできているがもう聞こえない。

いや、きっと脳が聞くことを拒否しているのだろう。

右手に持っている銃は垂れ下がりもはや引き金に力を込める事すらできない。

ただそれを手放さなかったのは脳に残っていたわずかな理性がそうさせていたのだろう。

“ごめんね。こんな隊長で。”

今戦っている皆へ、そしてもうこの場にいない仲間へ、そうつぶやいた。

もう目の前にまで迫ってきているネウロイを見つめ、私は目を閉じようとした。

 

 

それゆえ、ネウロイが鈍い音を響かせた直後に爆発して落ちていくという光景が目の前で起きたことをすぐに受け入れることができなかった。

 

「え?」

目の前にいるのは真っ白の服を着て見られないユニットを付けた私たちより一回り大きいウィッチ。

手には大型の対物狙撃銃を持ち、背中をこちらに向けながら鋭い目でこちらを振り返りながら見つめてきた。

 

 

 

時間は15分ほど遡る。

Garudaがとらえた周波数から聞こえるのは増援要請とそれを許可できない通信士の声、それとわずかな悲鳴だった。

先ほどの無線からもう一刻の余裕がないことはわかっていた。

ダンケルクの撤退作戦。あちらとこちらでの両方の撤退作戦については資料で読んだ。

一つ共通しているのは両方とも俺がいた頃ではすでに過去に起きた出来事と記されていることだ。

なんとなくだが今自分が置かれている状況は理解できた。

そして今、目の間でその戦いが起きている。無線を聞く限り状況は最悪。

このままでは残っている地上部隊やウィッチは甚大な被害を受けてしまうことになる。

傲慢なんかではない、だが今俺が行けばもしかしたら助けられるかもしれない。

ならためらう理由などない。

502の奴らがもしここにいたとしたら助けに行くことを即決するだろう。なら俺も、そうするしかないだろうな。

「Garuda、現在地から発信ポイントまでの飛行ルートを。」

3秒ほどするとすぐに発信ポイントが割り出された。Garudaも現在位置は把握できてはいないが発信方向であれば捕捉することはできる。それさえわかれば後はそこに向かって一直線で飛ぶだけだ。

そしてかつて初めてウィルマたちと会った時のように彼女たちにピンポイントで通信を送る。

「3分耐えろ。必ず助ける。」

俺はそう言うとストライカーユニットの出力を最大にまで上げ、彼女たちのもとへ飛んだ。

ブリタニアの精鋭、が彼女たちのもとへ飛ぶ。

 




改めて、遅くなりすみません。
前回の最後の最後であんなこと言っておきながらまさかの別世界。
というのもこの話自体案が思いついたのは去年の5月の事です。
英語の本を読んでいるときに何を隠そう自分がアイリーンをイレーネと読み間違えていたところからスタートしました。
そこから並行して進めていましたが数か月のブランクののち、先にこちらでリハビリやと思って始めたら結構進みこちらが先になりそうです。
量が量なので今回から読みやすさも重視し始めたということで、分割して投稿します。予定では5,6話くらいで終わります。そんなに時間をかけづに完結させて本篇に行きたいのでよろしくお願いします。
ちなみに最初の場所をダンケルクにしたのももちろんあの映画の影響です。

ご指摘、ご感想、誤字訂正があればよろしくお願い致します。

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