大和が来たんだからこんなことがあってもおかしくないよねと重い作りました。
何だこいつは。
目の前のネウロイは追跡を振りきるために必死に右旋回、左旋回を繰り返す。
おかげでこちらとしては狙いを付けにくい。
能力だって何回も出来るものではないのだからいい加減早く落としたい。
敵が右翼を下に、左翼を上に上げるのが見えた。
そこだ!
この戦闘で5回目となる能力を使用する。
コアの場所はわかっている。後は狙いを定めて、引き金を引くという命令を下すだけなのだが。
まるでわかっていたかのようにネウロイは旋回を中止して、コアへ向かっていた弾丸から身を守るかのように右翼を犠牲にして事なきを得る。
飛ぶのに形状は関係ないやつらにとってこの程度の被弾など、どうって事はない。
そして5発発射したことにより弾切れだ。
すぐに弾槽を交換する。
だがその瞬間、真っ黒の航空機の形をしたネウロイが消える。
一瞬だけ見えた上へ消える敵との相対速度を表す数字が-(マイナス)から+(プラス)に換わったのがわかった。
コブラ!
すぐにライフルを手放し、右足につけていた拳銃を取り出して体をひねる。
けん制になればと思い構えるもそこにはいない。
“Watch 6”
背後!?
まさか、あの後でバレルロールもこなしたって言うのか!?
そして背後に敵がいる、という警告は
“Warning!”
敵が攻撃を仕掛けてくる、という警告に変わる。
こんな状況で、どうしろと?
後ろに猛烈な光が迫ってくるのをなんとなく感じながら俺は・・・・。
0542
パイロットなら誰もが一度は見るという、“自分が敵に撃墜される“という夢。
それをただの夢、と片付ける奴もいれば予知夢だといって怖くなる奴もいる。
どちらかといえば俺は予知夢と感じてしまうほうだ。
こういう夢を見た後、たいてい悪いことが起こるなんてわかりやすいものだったらいいのだがあいにくこの夢は何もしてはくれない。
ヴェネツィアという久しぶりの空戦がこういった夢を見せたのだろうか?
いずれにせよ、今は起きるとするか。
さて、今日は国家戦略情報会議が開かれる。
今後の国の方針や軍関係の動きを決める重要な会議だけあっていくら俺の担当するところが少ないとはいえ、ミスは絶対に許されない。
資料の最終確認を行わなくては。
資料片手に食堂で軽めの朝食をとる。今日俺が行うのはヴェネツィアで自分自身が行った行動などの報告、ジャックのサポート、だ。
報告などをお偉いさんの前で行うのは以前に何度かしたことはあるが、不安なものはこればかりは不安なんだよな。
朝食を終えて執務室に入るとジャックが既にいた。
席について何かの本と紙を見比べていた。
「おはよう、気分はどうだ?」
「悪くはないな。それで、今日の会議は予定通りに行われるんだろな?」
「あぁ、もちろんだ。これが出席者リストだ。確認しろ。」
そういわれて一覧表を確認する。首相に各軍大臣、SISの情報科部長などそうそうたるメンバーが集まっている。少なくとも空軍大将ジャック直属の部下とはいえ、俺がいていいような場所ではないな。
「・・・こんな会議に本当に参加しなきゃならんのか?俺はこういう会議は苦手だからいまから考えるだけで頭が痛くなるんだが。」
「仕方ないだろう?そもそもヴェネツィアで行われたあの空戦においてブリタニア軍で戦闘に参加した人員は意外と少ない。本当だったらあの最初から最後まで戦っていた504に所属しているパトリシア・シェイド中尉にやってもらいたかったんだが彼女はいま、あそこを離れるわけにもいかない。
他のやつらも途中で負傷して情報が更新されていなかったりするんだ。
それにお前はあの1週間、常に本国に情報を送り続けただろう?それが高く評価されてこの会議への出席が認められたんだ。覚悟を決めろ。」
はぁ。思わずため息をついた後にうなずく。
ここ最近ジャックに言いように使われている気がしてならないが同時に世話にもなっている。恩を返す、という意味でもここは仕方がないだろうな。
「わかったよ、ジャック。」
「結構。0930にはここを出るから準備しておけ。いいな?」
「了解。」
・・・もう一度、確認しておこう。
そして0930にジャックに引率されながら会議場に向かう。
そこの部屋に入ると丸い円の形をした机が中央にありそれに沿ってたくさんの椅子が置かれていた。
これが噂の円卓会議、って奴か。
「どうした?」
「別に、問題ない。」ただ少し身震いがしただけだ。
ジャックが円卓の椅子に座り俺は少し後ろの椅子に座る。
すこしひそひそ声が聞こえるがほとんどの人が無言で座っている。まだ開始には時間があるが続々と人が入ってくる。
開始時刻と共に最後の出席者であり議長の首相が入ってきた。
それと同時に全員が起立。首相が着席すると後に続くように全員が座る。
全員が着席したのを確認した上で、首相が会議の開催を宣言する。
「これより、臨時国家情報戦略会議を開催する。まずはヴェネツィアでの戦闘報告を行ってもらいます。空軍所属のフレデリック・T・バーフォード大尉。よろしくお願いします。」
「了解しました。」
俺が席を立つと一斉に視線が俺に集中する。まずは、第一関門といったところか。
報告はするが全ての真実は語ってはならない。それが俺とジャックとの約束だ。
いくらこれが重要な会議だとはいえ、空軍のみで保有して取り扱いたい情報があったらしい。
「ご紹介にあがりましたブリタニア空軍所属のフレデリック・T・バーフォード大尉です。
現在502に所属しており、ヴェネツィアには空軍大将からの緊急連絡を受けて出撃しました。
まずは資料3ページをご覧ください。それでは今回の戦闘での推移経過をご説明いたします。・・・」
さて、はじめようか。
そして俺はヴェネツィアで起きた7日間を語る。
あくまで俺が話すのはそこで起きたことの事実だけで自分の考察を交えてはいけない。それを行うのは次に話す分析班の報告の仕事だからな。
15分ほどかけて報告を終えると2つほど質問が飛んできた。
・なぜあれほどの正確な状況報告を行うことができたのか?
(本当はユニット搭載の機器を使用したからであるがもちろんそんな事はいえないので)今回は戦闘空域がそれ程広いわけではなかったので無線を聞いて、事実かを確認するために実際に行って確かめることが出来たから。あくまで自分の主任務は情報収集を行い、それを本国へ報告することであって援軍として現地軍の援護を行うなどの戦闘に関する仕事は副目標だった。よってあれほど正確に出来た。
・今回、ロンドンへの報告は海軍の艦艇を中継して行うという方法を取ったがその際、何か問題点などはあったか?
技術的なことに関して特にこれといった問題は発生しなかった。だが後にロンドンに帰ってきた際、自分が報告したのと一部異なる場所があったので情報が何箇所か経由する際に問題が発生したと思われるので調査するようお願いしたい。
「・・・これ以上質問はないようですね。大尉、ありがとう。次に今回の戦闘に置ける分析、今後の戦闘に関する予測に関する報告をお願いしたい。3軍合同分析室室長、よろしくお願いします。」
3軍合同分析室。
陸、海、空、SISが集めた現地の情勢やネウロイに関する情報を一箇所に集め、解析する部門を指す。通常、情報分析はSISが行っているが今回のような緊急の場合に設置され全ての情報が一箇所に集まるようになる。
室長は首相がじきじきに指名を行っており今回はヴェネツィアで3年ほど大使館にて武官として働いていたことがある人物が指名された。
「かしこまりました。
まず、今回ヴェネツィアにおける戦闘は人類側の敗北とみて間違いないでしょう。ヴェネツィアは陥落し、そこにあるネウロイの巣の規模は以前よりもさらに大きくなりました。地中海と北アフリカ、また現在カールスラント奪還作戦に従事している部隊に対する脅威はよりいっそう増大しました。
501が再び設立され、現在欧州や一部地中海方面の防衛に当たっていますが到着までの時間やレーダー哨戒の穴を考えると今後被害が拡大する可能性も高いでしょう。
特に海上輸送を行う部隊には今後、ウィッチが艦隊に張り付いて護衛を行うなどしないと不安が残ります。
ここ最近快進撃が続いていた人類側としては痛い失点となりそうです。
それではお手元の資料、及びこちらの地図をご覧ください。現在わかっている範囲内でブリタニア軍を含む各軍隊の最新状況をお知らせいたします。」
そして各地における最新状況が欧州地域を中心に伝えられた。
カールスラント奪還作戦は今だに膠着状態。
アフリカ戦線は戦線をさらに南へ進めてはいるが横に広いため中東辺りから飛んできたネウロイに回り込まれるなどの危険があるため進軍速度は遅め。
スエズ方面は軍事作戦どころか作戦の立案すらされていない状況。
「総合的に見ればいまだ欧州完全奪還は夢のまた夢。始まってすらいない、と表現するのが正しいでしょう。」
そう3軍合同分析室室長は言って締めくくった。
「わかりました。室長、ありがとうございました。
さて、皆様にはわが国を取り巻く状況は把握していただけたと思います。
ガリア解放と足がかりが見えたこの時期にヴェネツィアが取られたという非常に由々しき事態であります。
そして欧州各国からはわが国に対して更なる援助を要求する声が日に日に高まっています。
本来であればすぐに答えたいのですが残念ながら資源や人材には限りがあります。よってどこにどれだけを派遣するかをこの場で話し合いたいと思います。」
首相はそういうと3つのプランを提示した。
まず1つめ。カールスラント奪還及びガリア復興支援など中央司令部管轄区域を重視した戦略。
2つめ。ヴェネツィア奪還を支援し、将来のスエズ運河奪還を視野に入れ中東諸国も支援する南欧司令部及び中東を重視した戦略。
最後に、かつてブリタニアが行ってきた“光栄ある孤立”を復活させるか。
おそらく参加者の中に最後の選択肢をとる愚か者はいないだろう。もう1カ国だけでネウロイと戦っていくというのは不可能なのだから。
ガリアとカールスラントかロマーニャ公国、どちらを取るかが問題なのだ。
どちらにも同じだけ送ればいい、という最も簡単な解決方法は残念ながら出来ない。
この国を守るだけの戦力だってある程度は残しておかなければならないし、他の地域にもある程度は送らなければならない。何よりこの戦いは陸軍、海軍、空軍、が協力して戦わないと勝てない。陸軍だって空からの支援がなければ危険だし、海軍は自分の航空隊を持っているとはいえ、その装備や人員数は空軍に劣る。空軍だって滑走路を守るための陸軍が必要だ。つまり、陸軍はあっち、空軍はこちら、海軍はここ、といった別々に動くという事はもう出来ないのだ。
よってたくさんの増援を送るとなるとどちらかに重点を置かざるを得ないのが今のこの国の現状だ。
リベリオンのように物量作戦が出来る国なんてほかに扶桑くらいしかいないのだから。
さて、ジャックは今後の“恩”を含めて高い技術力をもつカールスラントの支援を行いたいらしい。もっともだ。
欧州各地で戦っているカールスラント人はかなりの数に及び特にウィッチは高い戦力を有している。もしブリタニアがカールスラント奪還に多大に寄与したとなるとそのエースたちが自分達の味方になる可能性がある。そのうま味は計り知れない。
それに関してはSISとも意見が一致しており長官も賛同してくれているそうだ。
しかし、陸軍と海軍はそれに難色を示しているらしい。
我々は移動するのに特にこれといった障害がない空を主な領域としているのに対し、海軍は海を、陸軍は陸地を主な移動、及び戦闘地域としている。
陸軍がヴェネツィア攻略を支援したいのはアフリカにいる部隊に危険が及ばないようにするためなのはわかるが海軍がそういうのは何故なのか。
カールスラントの支援に回ったとしても海軍航空隊、ウィッチ隊及び艦砲射撃、海上輸送で十分支援は出来るはず。
だが、俺は地理的な要素を1つ忘れていた。
「我か国は、この場所を取られるわけにはいかないのです。」
海軍省司令官が地図で指し示した場所は、
ジブラルタル海峡。
ヨーロッパとアフリカの境目。東西60km、幅は15~40km。大西洋から地中海へ行くためにはここを通るほかない。
この狭い海峡にはブリタニアの軍港がある。
そう、こここそがブリタニアにとって重要な場所であるのだ。
飛び地とはいえ、ここは立派なブリタニア領土。
そしてジブラルタル海峡の安全を守っているといっても過言でもない。
今は人類が共闘しているからあまり問題はないがネウロイとの戦いが終わったあと、仮にどこかの国と戦争になったときここを抑えているのとないのとでは状況が一変する恐れがある。
なんせここを抑えておけば海からの支援は行えなくなるのだから。
インド洋からこっちに来ようとしても今は失ってはいるがスエズ運河はブリタニアとガリアで保有していることになっている。
ネウロイの攻撃によって壊れているとなると黒海に船で物資を輸送するとなるとこのジブラルタル海峡を通らざるを得ないから。
だからヴェネツィアからネウロイが飛んできたとしてこの軍港が破壊されるとドサクサにまぎれてどこかの国に取られる、なんてことになると溜まったものではない。
だから海軍はその脅威をまず排除したいと考えているのだ。
恩か、地理的有利か、どちらを取るかが今の焦点になっている。
海軍の説明に他の部署もそちらの意見に傾き始き始めた。
―技術だって譲ってくれるとは限らないしな。
―それに今の政府は南リベリオンにあるんだろ?ここに戻ってくる確証なんてあるのか?
―いまだってこう着状態なんだ。先にやりやすそうな方を仕留めておくべきだ。
確かに荒廃したカールスラントなんかよりもロマーニャ方面に賭けたほうが安全な気がするしな。
「なるほど。確かにそうですね。我が国としてもジブラルタルを失うのは痛手だ。そこを含めて空軍はどう考えているか、お願いできますか?」
「了解です。」
入れ替わりで海軍代表が座り、ジャックが立ち上がる。
「空軍としては陸軍、海軍の提案に一部反対です。」
「ほう、一部と言うのは?」
「仮にカールスラントではなく、ロマーニャを取ったとなると我が国にいるカールスラント人からの強い反発が予想されます。
ネウロイから逃れて来た彼らは陸、海、空軍だけでなくあらゆる分野において我が国の技術力の向上に寄与しました。」
「では、彼らに恩を報いるためにもカールスラント奪還をすべきだと?」
「本来ならば。しかし、国は恩だけで動かせるものではありません。私はこう考えています。
国内にいる多数のカールスラント人のためにもカールスラント奪還には我が国は積極的に関わっていくべき、しかし同時に今現在進行形で発生しているヴェネツィアのネウロイの巣もどうにかしなければならない。」
「いかにも。」
そこでです。と一旦区切ったあとでジャックが周りを見渡した後で話す。
「この両方を同時にこなすための作戦を立案しました。」
「作戦ですか。具体的には?」
ジャックが合図したので俺は足元においてあった作戦概要を参加者全員に配布する。
「それでは、“ノヴドロゴ方面奪還作戦”の概要について説明いたします。」
さて、これがジャックと空軍への援護射撃となればいいが。
アイディアだけとはいえ、自分が考えた作戦だ。上手くいってほしいものだ。
「さて、先ほど陸軍や海軍がご指摘になったジブラルタル海峡の件も確かにわかります。しかしジブラルタル海峡とヴェネツィアはいままでのネウロイの行動半径を考えると限界ぎりぎりの距離です。さらに仮に巣から直線的に進むとすると必ず501の警戒空域を通らざるを得ませんし南から迂回するとなると現在地中海で行動中の海軍や統合軍アフリカの警戒網に引っかかります。よって“早急に”ヴェネツィアを攻略する必要はないと思われます。だが、確かに両軍の意見も尊重したいと思っています。」
ジャックが何を言いたいのかわからない参加者はとにかく、彼から何が語られるのかをただ聞くしかない。
「現にネウロイの性能は年を追うごとに上がっており、開戦時と現在では限界高度、最高速度など含めてほとんどの分野において上昇しております。先ほど挙げた警戒網を突破されるのも時間の問題かもしれません。またジブラルタルには我が空軍の基地がありここを経由地や活動拠点としているウィッチや航空機も多数います。
ゆえに私も陸軍、海軍をヴェネツィアに送りこむのは賛成です。よって空軍としてはこの作戦、第4の選択肢を提示したいと思います。」
「第四の選択肢?」
「えぇ。先ほど述べた両方の問題を同時に解決させるのです。」
―そんな上手い話があるのか?
―不可能だ、どちらも失敗するに決まっている。
―だから他のどちらか一方に絞り込もうとしているんじゃないか。
そんな声が多数聞こえてくる。資料を読めといっているのだからさっさと読めよ、なんて思いながら俺はジャックのほうを見る。ジャックのほうはというと周りの雑音を気にせず話を進める。
「確かに皆様が危惧していることは良くわかります。ですがまずは作戦概要をご確認ください。」
そして、ジャックはこの作戦の地理的、政治的な効果を話し出す。
「まず、作戦の概要について説明します。
この作戦は空軍の精鋭をもって最新鋭爆撃機を使用してネウロイが来ることが出来ない高高度から爆弾を投下してネウロイの巣を破壊する、というものです。
使用機材は現在空軍で試作機が完成し、初飛行を済ませてばかりのイングリッシュ・エレクトリック・キャンベラ。作戦開始数ヶ月までに当作戦に改修を完了させる計画です。
この作戦のもっとも重要な点はまず1つ、いままで行うことが出来なかった大型爆弾の搭載とウィッチの誘導があるとはいえ精密爆撃が可能になったという点です。
これにより威力のある爆弾を同じ場所に連続で攻撃し、ネウロイの巣の硬い城壁を突破することが可能と考えています。
そして、もうひとつが今までに一度もない陸地に存在しているネウロイの巣への初めての攻撃の例を作ることが出来ます。もし成功すれば今後の内陸地にある巣への攻略も可能になりますし、陸軍は破壊後の戦力としてある程度は必要になりますが海軍の支援を必要としないので他に回せます。
地理的利点としてはノヴドロゴを攻略できれば扶桑からの支援物資をサンクトペテルブルクに送る際のルートがここを通る輸送経路を構築できるようになるので単純計算運ぶことの出来る物資の量が2倍になります。
また502もさらに南進することが出来るので東からは502、西からはカールスラント軍による挟み撃ちが可能になり、よりカールスラント奪還が現実的になります。これは間接的にカールスラントを支援することになりますし、後のベルリンのネウロイの巣破壊作戦が行われる際に、必ずやこのノヴドロゴの巣が破壊されているというのは有利に働くはずです。
私は海軍、陸軍をヴェネツィア、アフリカ方面に空軍をこの作戦に投入することでこの問題を解決できると考えています。
ただ、いくつか問題点があります。
今すぐ結果を出したいと考えているカールスラントをいかにして抑えて込むこと。
オラーシャが、ブリタニアが奪還作戦を主導することに理解を示してくれるか。
この2つだけでもかなり説得が必要となりますが、ここは外務省、そして首相にお願いしたいと思います。
以上、空軍が提唱する第4の選択肢となります。なにか質問はございますか?」
すかさず、海軍代表が手を挙げる。
「つまり、我々海軍と陸軍はヴェネツィアに行き、そこを援護することが可能、という解釈でいいのかな?」
「はい。ですが本当であれば海軍と陸軍の航空戦力を少しでもお借りしたいところですが。」
それならば、と両者はお互い顔を見合わせ、少し会話をすると
「規模にもよるがある程度は出せるはずだ。」
「ありがとうございます。それは心強い。」
他に質問する声が上がらないのを見計らって首相が空軍大将に質問を投げかける。
「確かにその案は実行可能であると思われます。
私自身も今まで考えていたどちらかをとる、ということをせずに済む。両国とも良好な関係を築いたままでいる、というのは非常に喜ばしい。しかし、具体的にはどの部隊をノヴドロゴ攻略作戦に送り込もうと考えているのでしょうか?空軍もあまりに多くの人員を送り込む余裕はないと思いますが。」
「首相、我が軍には少ない人員で多大な戦果を挙げられる精鋭部隊が存在します。私はこの部隊を活用したいと思っています。」
「特殊戦術航空隊、ですか?」
首相の問いかけに、ジャックは自信をもってうなずく。
「他の国では優秀な人員を集めた専門の部隊を創設する、という動きは実は余りありませんでした。しかし私が率先して結成を進めた501がそれを示したように日に日にその必要性が高まっていた事はあきらかでした。
ゆえに我が軍でも専門のSTAFという部隊を設立しました。
結果は皆様が知っての通りです。バーフォード大尉の撃墜数は100機を越えて、ヴェネツィアでは1人で遊撃隊としての任務をこなし昼夜問わず出撃し、いかなる状況下でも戦闘を行える優秀なウィッチ、いやウィザードとなりました。
他にも、プロバート大尉率いる第3飛行小隊は今だ奪還の計画どころかいまどのような状態になっているのかすらわかっていないスエズ運河へ海軍と協力して強行偵察を行い、これを成功させました。私はこの短期間でこれほどの戦果を挙げられた彼と彼女らならば、必ずや成功させられると思っています。」
ふむ、とつぶやくと首相は黙り込んだ。
そしてもう一度資料を読み始めた。
そして5分ほどたち、ようやく考えがまとまったのだろうか。首相が口を開いた。
「なるほど、わかりました。私としても空軍の提案は実に魅力的だと思います。陸軍、海軍の意見を取り入れた上で空軍の一部戦力を解放作戦に使いながら残りの余剰戦力を南欧に送る。全ての要求を満たす現状最高の案だと思います。
他の方はどうお考えで?」
首相の問いかけに各軍、大臣が賛同を示した。
現状ではこれが一番に思えるからな。
「わかりました、では全会一致でブリタニアはヴェネツィア方面の支援を重視した上で空軍の特殊部隊が間接的にカールスラントを支援していく、という方針で行きたいと思います。」
こうして、臨時国家安全保障会議は終了した。
その後は、特にやることもなかったので航空省の中にある休憩室で軽く睡眠を取った。どうせ、帰るのは明日だし。
なんでも今日の夜、各軍の関係者を含めて今後のヴェネツィアにおける軍の展開についての会議があるらしい。
その場で国家情報戦略会議にて言った作戦のもう少し詳しい概要を話すことになっているので、どうせ長引く会議に向けて今から休憩を取っておこうと思った次第だ。
だが、国際情勢と言うのはめまぐるしく変わるものである。
少し遅れただけで、間に合わなかった、戦争に発展したというのはよくある話だろう。
「・・・つまりヴェネツィア公国とロマーニャ公国は我がブリタニアの支援を必要としない、とおっしゃられるわけですか?」
「左様。ヴェネツィアの奪還は我々の手で行う故、貴国の支援は必要としていないのでな。」
そういうと両国の大使は我々ブリタニア外務省の外交官を突き放した。
「何故です?3日前にはなんとしてでも出してほしい、と申していたはずでは?」
「状況が変わった。とにかく貴国の首相に伝えてくれ。我々は貴国を必要とはしない。ヴェネツィアの奪還は“我々“で行う。まぁ、多少の軍隊の支援は認めるがな。」
この高圧的な態度に外交官は怒りを覚えた。
だが、これでも国の名前を背負っているのだ。感情をあらわにすることなくとりあえずこの事実を政府にもっていくことにして、面会が行われたロマーニャ大使館を後にした。
「はぁ?ヴェネツィアの軍事支援案が断られた?」
その一方的な高圧的な態度は外務省だけでなく首相官邸、各軍の上層部を混乱させる結果となった。
なぜなら俺は知らなかったが、ヴェネツィア防衛戦が行われている際、多数のロマーニャ人が情報収集の名の下にブリタニアの各省庁に訪れてわが国を助けてほしいといってきていたのは既に多くの人が知っていたからだ。
だから今夜行われる会議だってまさか、両国が支援を断るなんて考えもしなかったから開催が決定されたのだったから。
そして、首相はこの件を受けて外務省、SIS、各軍に対してなぜこのような事態になったのかの情報収集を命じた。
まず、ロマーニャ、ヴェネツィア公国だけの力ではヴェネツィアを奪還する事は不可能なのは明らかだった。つまり、他の国からの援助を受けられることになったのだろう。
となると援助できる国なんて限られてくる。
最初に候補が上がったのはリベリオンだった。
理由は、前に述べたとおり自身の影響を広げるためだろう。だがリベリオンにある大使館からは特に大規模な軍隊の移動が確認させる、などはなかった。
既に出港させた可能性がある、ということを踏まえて更なる調査を命令しようとしたとき、扶桑の大使館から連絡が入った。
“横須賀に停泊していた大和、及び随伴艦隊に動きあり。”
大和はここ最近まで改修が行われており、先日航海から帰ってきたばっかりだった。
そのため、演習に出た可能性は低い。
扶桑国が動いた?
その可能性が急浮上してきたことに上層部は驚きを隠せなかった。そしてその可能性を確信に変えさせるような情報が入ってきた。
“南欧司令部に対して扶桑海軍が地中海における護衛要請をだしていた。“
艦船は不明だが、仮にこのまま補給を含めて通常の航海を進めたとすると大和を含む艦隊が護衛を行ってほしい日にちの開始日とほぼ一致する。
赤城はヨーロッパから帰ったばかりのはずだからくるはずはない。そう考えるとこの艦隊でほぼ間違いないだろう。
ロマーニャは扶桑についた。
別に信じていたわけではないが、ロマーニャがこちら側からいなくなった事実に政府は衝撃的だった。
こうして、先ほどの会議は全て振り出しに戻ってしまった。
近いうちにもう一度行うらしいが、きっと混乱の嵐だろうな。
と、考えていたらジャックが俺を呼んだ。
「なんだ?」
「面倒くさいことになったが、お前はとりあえずサンクトペテルブルクに帰れ。本当だったら今後の戦略会議に出てもらおうと思っていたが今日はそれもキャンセルだ。
次がいつ開かれるかわからないからこれ以上お前を引き止めておく理由もない。これからは俺達本国勤務のやつらの仕事だ。お前は速やかに帰投しろ。これが命令書だ、いいな?」
「了解。」
そうジャックは俺に一気にまくし立てると他の場所に行ってしまった。
先週までヴェネツィアの件で忙しかったのでようやく落ち着いたと思ったらこの騒ぎでジャックも大変だろうな。
命令書をかばんに入れて俺は基地に向かった。
ハイウィッカム基地に向かう士官達の乗るバスに一緒に乗せてもらい基地に到着、速やかに窓口に命令書と一緒に渡された飛行計画書を提出し、格納庫に向かう。
エンジンをスタートさせ、管制塔の離陸許可を待っていると格納庫に入ってきたオウレット中尉らVFA-13の連中に会った。
「もうお帰りですか?」
「あぁ、仕事が終わったからな。中尉は?」
「整備を、と思ったんですけどね。ジェットストライカーユニット特有の音が聞こえたのでやるべきこと後回しでこっちに来ちゃいました。」
後ろの2人は不思議そうな顔で俺と、自分たちの使っているのとはかなり形が異なる俺のユニットを眺めていた。
ただ、既にエンジンが始動しているためか遠くからしか見ていない。
「昨日の昼に来て、今日の夜にはペテルブルクですか。忙しいにしても、よく魔力がもちますね。」
「あぁ、気合だよ、気合。」
―気合の問題ですか?
声は聞こえなかったが彼女の口がそう動いていた気がした。
『ガルーダ、誘導路への進入を許可する。滑走路22へ向かえ。』
「了解、滑走路22へ向かう。というわけだ。それじゃあ、またな。」
「えぇ、またどこかで。」
俺がそういうと彼女たちは敬礼して俺を見送ってくれた。
そのまま誘導路へむかい滑走路に進入、離陸してブリタニアを俺は離れた。
502を離れるときも、ロンドンを離れるときもどたばたしまくった遠征だったな、そんな事を考えながら北海へ針路を取ったのだった。
いつの間にかお気に入り200越えてて本当にありがとうございます。
今年中にノヴゴロド編を終わらせたいと考えています。
相変わらずの鈍足と文才ですが2016年もよろしくお願いします。
ご指摘、ご感想があればよろしくお願いします。