いつもよりも短いです。
変な冷やかしを受けつつ何とか終えた試験飛行。
帰ってきてからも色々な奴らに滑走路でのことを冷やかされた。
今度からはちゃんと無線が切れているか、外に会話が漏れないかを確認しないとな。
もうこんな事はこりごりだ。でもウィルマに励まされて不安も取り除けられたのもまた事実だからな・・・。
さて、試験飛行で俺の飛んでいるときのフォームや射撃時の体勢などが問題ないかの評価を行ったルマールが今、少佐と曹長を含めて3人で現場復帰してもいいかの話し合いをしているところだ。
ここで合格判定が下りれば現場復帰、不合格なら再試験まで引き続き飛行停止だ。
そして司令官室の前で俺はただひたすら待っている。
試験結果を緊張しながら待つ、というのも久しぶりだ。
自分では問題ないつもりでも何かミスでも犯していたらと思うとやはり不安だ。
中で何か話しているのか、さすが司令官室だけあって聞こえない。
今はただ、待つのみだ。
5分くらいがたった頃だろうか。
「大尉、お入りください。」
「失礼します!」
曹長が部屋の扉を開けて、入室許可をしてくれたので俺は部屋に入った。
曹長の指示の元、そのまま少佐の机の前に案内されて椅子に座る。
俺が座ったのを確認すると少佐が話を始めてくれた。
「さて。ルマール少尉が記録したデータを元に私と曹長で評価を行った。
回りくどいのは嫌いなんでね、結論から言おうか。」
そのとき俺はどんな顔をしていたのだろうか?
少佐は俺の顔を見て笑っていた。そして
「そんな顔をするな。全会一致で現場復帰を許可する。」
よかった。
これで不合格なんて判定が下りていたらどうしようかと思った。
「ありがとうございます。これからもご期待に沿えるように精進します。」
うむ、と少佐は腕を組みながらうなずく。
「少尉は君の飛び方を被弾して初の復帰飛行とは思えない綺麗な飛び方といっていたぞ。
狙撃銃を使う君が機関銃で射撃しても正確に標的に当てていたところもすばらしい。
だがな・・・。」
「なんでしょうか?」
「あれさえなければ完璧だったとさ。」
そういうと少佐は笑い、曹長はため息をつき、ルマールは少し顔を赤くした。
「これからはオープンチャンネルなんかでは絶対にしません。」
「そういう問題じゃないんですよ!」
すかさず曹長のつっこみが入る。
「まぁまぁ。彼もああ言っているようだし。それに彼女たちだって少しうらやましいんだよ。」
「うらやましい、ですか?」
「あぁ。私たちは国に身をささげた身だが軍曹は国と君に身をささげている、そんな状況がね。それにここじゃ、同世代の出会いが無いに等しいからな。程ほどにしてくれよ?」
「了解しました。」
俺は座ったまま、敬礼をして了承する。
「さて、君が以前まで使っていた銃は壊れてしまったそうだな?」
「えぇ、どうしようか考えていたのですが・・・。」
俺が今まで使っていた銃はあの時に壊れてしまった。
そのまま放置しておいたはずなのだがウィルマが後に発見、回収してくれていたおかげで無事に俺の手元に帰ってきた。ありがとう、さすがだ。
分解して修復可能か見てみたがバレルがおかしくなっていたりと到底撃てる状態じゃなかったのでとりあえずジャックに相談した上でロンドンに送りつけた。
ジャックは腕のいいガンスミスを何とか見つけて直してやるからそれまで待っていろといってくれたので俺はそれまで待つことにした。
一体何ヶ月かかるのか少し不安だ。完全に直せ、とは言わないが出来るだけ今まで通り性能を保持してもらいたいな。
でも元をたどれば壊した俺が悪いんだがな。
さて、修理が完了するまでつなぎの銃が必要となるのだが・・・。
「この基地で狙撃銃を使っている人っているんですか?」
「ポルクイーキシン大尉がたまに使っているくらいだ。後は全員機関銃だな。そもそもバーフォード大尉はなぜ癖のある狙撃銃を使うのだ?
使い勝手のいい機関銃のほうが軍曹とロッテを組む際、いいはずなのだが。」
「最初は俺がネウロイの装甲を削った後で止めをウィルマが刺す、という戦術を取ろうと思ってこうしたのです。今では2人で分かれても問題ない状態になってしまったのですがね。」
もちろん嘘だ。協力して撃墜するという点は間違ってはいないのだがな。
「なるほど、わかった。現状対装甲ライフルがポルクイーキシン大尉の使うPTRS1941しかない以上、バーフォード大尉が使う狙撃銃の修理が完了するまで彼女が使用を許可すれば実戦で使うのを認めよう。もちろん特例だぞ、そこはきっちり理解しておいてくれよ。」
「了解です、感謝します。」
ブリタニア人がオラーシャ軍の銃を使用するんだからな、特例だろうな。
というわけで俺がしばらくお世話になる狙撃銃が決定した。
この時間は熊さん率いるA隊がスクランブル待機なので少佐の許可の下、出撃待機室に向かう。
部屋に入ると熊さんはエイラに肩をもんでもらっていた。
何と言うかすごく新鮮だ。緊急出撃待機中とはとても思えん。
「あー、そこいいですね。」
「ここ?それとももっと上のほうカ?」
「はー、最高。」
「・・・何してんだ?」
俺が声を掛けるとまずニパが返事をしてくれた。
「熊さんがイッルに肩もんでもらっているんだよ。命令ー!とかいって。」
「なぜ、そんな事になったのか逆に知りたいよ。」
「それで?バーフォード大尉はどうしたの?」
「あぁ、熊さんに用事があってな。」
おい、熊さん!と俺が声を掛けようと思い、彼女のほうを見るとなぜかニヤニヤ笑みを浮かべているエイラがいた。あの顔は何かろくでもないことを考えている顔だ。
と、その瞬間。
「てやーー!」
「ぃったーーーい!」
熊さんが椅子から転げ落ちた。
そして床に丸くなりながら肩を抑えている。
エイラはおそらく力を目いっぱい入れて熊さんの肩でも押したんだろう。あれは確かに痛いしな。
「大丈夫か、熊さん?」
「うー、痛いです。」
「熊さんが悪いんだゾ、あたしに命令で肩をもませるなんてするからだ。」
「なんでそんな事したんだ?」
「エイラさんがいつもトラブルを持ち込んでくるので仕返しにと思ったんですよー。」
なんか、熊さんも大人気ないところあるよな・・・。
っと、こんなことしている場合じゃなかった。
「熊さん、PTRS1941を貸してもらえないか?俺の狙撃銃が壊れてつなぎを探しているんだ。少佐も許可は出してくれている。」
「いいですよ。私もほとんど使っていないですし。」
よっこらしょ、とつぶやきながら熊さんは先ほどの椅子に座る。
もう肩は大丈夫なのだろうか?
「バーフォードさんもこれを機に機関銃に乗り換えたらどうですか?」
「なぜだ?」
「だって、機関銃なら弾の生産量も多いですし銃の代えもすぐ利きます。こんな面倒くさいことにもならないですし。」
まぁ、それは一度は考えたがすぐにやめた。
「それも一理あるが俺は狙撃銃を使うよ。なれた方を使いたいのは当たり前だろ?それに・・・。」
「それに?」
「もし、これから機関銃じゃ太刀打ちできないほどの装甲を持ったネウロイが現れたらどうする?そんな時対装甲ライフルならまだ応戦できるだろう。つまりはそういうことだ。」
「なるほど、バーフォードさんもしっかり考えての結論なんですね。なら私はもう口出しはしません。PTRS1941はユニット格納庫の近くにある武器庫の3番棚の一番下にあります。
詳しくはケースの中にある書類を読んでください。」
「ありがとう。大切に使わせてもらうよ。」
そういって、俺は出撃待機室を出ようとすると電話が鳴った。
曹長がすかさず受話器を取り数秒後に叫ぶ。
「スクランブル!」
A隊4人が一気に跳ね起き扉から出て行く。
「行ってきます。」「行ってくるゾ。」「・・・行く。」「じゃねー。」
「行ってらっしゃい。幸運を。」
熊さん、エイラ、管野、ニパが走って格納庫に向かって行くのを俺は敬礼をして見送った。
しばらくしないうちにユニットの始動する音が聞こえてきて滑走路に向かい始めた。
熊さんが手を振っていたので俺も振り返すと彼女は少し笑顔になった。
しかし、すぐまじめな顔に戻り滑走路に進入、一気に速度を上げてやがて4機は空に舞い上がっていった。
上昇後、進路を西に取りしばらくすると見えなくなった。
それにしても、西方面か。
カールスラントにあるネウロイの巣からバルトランド、スオムス方面に向かうネウロイの迎撃に向かったのか。
ここ最近はずっとノヴゴロド方面の迎撃ばっかりだったから珍しいな。
ま、今は狙撃銃を借りるとするか。
武器庫の鍵は既にもらっているので鍵を開けて三番棚を探す。
比較的入り口から近くにあったのですぐに見つけられた。
だが、俺はその大きさに驚くしかなかった。
シモノフPTRS1941。全長2140mm、重量20800g、使用弾薬は14.5x114mm、銃口初速は1012m/s、有効射程400mのセミオートマチックライフルだ。
弾薬は主にオラーシャが製造している。弾頭重量は59.7g~66.5gまであり俺は鉄鋼焼夷弾を使用する。100mで射撃した場合、60度傾斜した40mm鋼板を貫通させられる。
威力は問題ないのだがでかい上に重い。近くにいた兵士を呼んで台車にケースを乗せるのを手伝ってもらったほどだ。
何とか射撃場まで運んでケースから銃を取り出してセッティング、銃弾を装填してスコープを取り付けてうつ伏せになる。
まずは撃ってみるか。
微調整を行い射撃、今までとはまた違う音が辺りに響いた。
いままでの使用弾薬が12.7mmだったのでそれよりもさらに大きい弾丸を使っているせいか、少しパワーが上がった気がした。
命中精度はこの距離なら許容範囲だろう。そもそも弾丸が大きいおかげで機関銃を使っているやつらよりもそれ程弾道がずれる心配がないので幾分らくだ。
次に飛んでいるときをイメージして立った姿勢で射撃を行う。
しかし、構えようにも腕がプルプルする。
なので魔法を発動させて身体能力を底上げした上で再び姿勢を正す。
しかし全長が2m近くあるのでなかなか怖い。
そして1発撃ってみたら予想通り、反動でひっくり返りそうになった。慌ててバランスを取って何とか銃も落さずにすんだ。
そして、目標からも少しずれていた。
その後4発ほど撃ったが・・・・、これは少し練習が必要だな。
と言うか対装甲ライフルと立って射撃すること事態が端から見れば異常だよな。
でも何とか使えそうだ。今までよりも距離を詰めて射撃すれば一撃かもしれない。
試射で使える弾がなくなったので移動時の練習を兼ねて台車を左手で押して、右手で銃を担ぐようにして移動することにした。
あれ?このポーズって・・・。
\デェェェェェェェェェェン/
格納庫に戻り銃を愛機の近くに立てかけた。
しかし、熊さんはあんな小柄な体でこんなでかい銃を一体どうやって使っていたんだろうな。
新しい弾薬箱から弾丸を取り出して詰め込んでいく。
カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ。
約半分が詰め終わったところで急に警報がなった。
顔を上げるとそこには『HOT S/C』のランプが点灯していた。
スクランブル!
A隊が緊急出撃中ということで臨時待機していたB隊の面々が走ってくるのが見えた。
弾丸は10発、弾薬の数に少し不安を覚える。
万が一敵の増援がきたら、と思うが彼女らがいれば問題ないだろうと情けないがそう思い不安を払う。
ユニットに乗ってエンジンスタート。
やれやれ、同時に2方面に対してスクランブルがかかるのは不運だが早速新しい銃を試す機会が出来たと思えば幸運か。
銃を両手でしっかり保持して予備の弾薬を持って出撃する。
先行して滑走路への誘導路に向かい、その途中で3人と合流する。
「遅いぞ。」
「ごめんね、隊長さん。それにしてもそれが新しい銃?すごく大きいね。」
「俺もこの大きさには予想外だがな。」
「私も、対装甲ライフルなんてバーフォード大尉の以前使っていたものと私の妹が使っている奴しか見たことないからね。」
そういえば、ウィルマの妹も対装甲ライフルを使っていると以前聞いたことがある。
今度話を聞いてみたいな。
全員揃ったところで滑走路に進入して出力上昇、ジェットストライカーユニット特有の爆音を響かせながら離陸する。
昔は嫌がられた音だが今は俺を識別するひとつの手段でもあり、また象徴のひとつでもある。
進路を南に取り、編隊を編成、速度と高度を上げる。
地上からの誘導の元、迎撃空域に向かい該当空域中央で敵ネウロイを発見。
小型ネウロイ6機の編隊でまっすぐペテルブルクに向かっている。
「伯爵、ルマールは右翼を。俺とウィルマが左翼を、それぞれ担当する。いいか?くれぐれも落ちるなよ。それとあとあと面倒くさいから被弾もするな。Engage!」
「「「了解!」」」
全機が敵機上空から一気に攻撃する。
すれ違いざまの攻撃後の散開。502では最もポピュラーな初撃方法だ。
一気に高度が下がる中、ネウロイからも小型のレーザーが飛んでくる。
回避しながらもコアの位置を特定して
射撃。
着弾。
少しずれてしまったがすかさずウィルマが止めを刺して、
交差。
Break.
後ろで3機が一気に爆散した。伯爵とルマールとウィルマが撃墜か。駄目じゃん、俺。
あれがネウロイではなく普通の航空機だったら俺の一撃で翼を破壊したので間違いなく撃墜だったのだが、と言い訳じみたことを考えてしまった。
反転、上昇。
敵も同様に散開し、そのうち1機がウィルマに張り付いた。残りの2機は伯爵、ルマールに向かった。彼女たちなら小型1機程度なら問題なく落すだろう。
「ウィルマ、出来るだけ同高度で回避運動してくれ。」
「了解!」
俺はウィルマが引き付けている高度よりもさらに上から攻撃を行うことにした。
ネウロイよりすこし上から狙いを定める。
まだ、敵はウィルマに集中しているためかこちらには気づいていない。
今がチャンスだ。彼女の安全のためにもここで撃墜する!
さっきは狙ったところよりも上にずれた。
射撃時の反動が予想よりも大きかったからだろう。
それを考慮して狙いを普通よりも下にする。
ゆっくり体が動き、自分が調節した上で完璧だと思うところにクロスをあわせる。
だがさすがは21kg。敵の機動に対して、思うように狙いが定められない。
すこし振り回されてしまう。
何とか狙いを定めて
-能力発動。
世界が遅くなる。
そして一番先頭にあるコアに狙いを定め、
-解除。
射撃。
そして弾丸は上手い具合に吸い込まれていき、しかし少しのずれを含みながら
着弾。
一気にコアを貫いた。
撃墜は出来たが狙いは正確に中央を狙ったはずなのに右にずれた。
ま、これは慣れの問題だからな。
と、思った矢先すぐ下のほうで続けざまに爆発音。
最後の2機が散っていった。
伯爵とルマールもやってくれたか。
しかし、今までよりも敵さんの機動性が悪くなった気がする。以前ならもう少し手こずるはずなんだがな。
ま、いいか。今の状態じゃろくに敵のことも調べられない。
PTRS1941も使えることがわかっただけでもいいとするか、伯爵も何も壊していないみたいだし。
こんな風にすぐ終わるような展開がこれからも続いたほうが俺としても安心なのだがどうせ続くわけがない。
またすぐにネウロイの性能も上がるだろう、そこからが勝負だ。
そんな事を思いながら俺は集合の号令を掛けて編隊を組み、帰頭するのだった。
基地への帰頭後、報告書を書いていると伝令が来た。
「バーフォード大尉。ロンドンのブリタニア空軍司令部からお手紙です。司令部のブリアニア課に届いておりますので至急お受け取りに向かってください。」
「あぁ、了解した。」
届けてくれないところを見ると、そして俺に直接取りに来いなんていわなかったところも見るともしかしたら重要な案件なのかもしれないな。
なぜなら、どこかで誰かに中身を見られる、という時代が起きないように本国の人間のみが扱えるルートで届けられたのだから、そして俺が直接取りに行くなんてしたらそれこそ怪しまれるからな。
すぐに少佐の元に行き、外出許可と車両使用許可を取り付けて司令部に向かう。
司令部、ブリタニア課。
本国より派遣された人が東欧司令部管轄内で作戦行動中の軍人が本国と連絡を取る際、ここが中継地点となる。
まぁ、俺は直接連絡と取る手段を持っているからあまり利用した事はないがな。
受付に話をつけて封筒を受け取りすぐに帰る。
たまたま入り口近くで電話を終えたばかりの少佐がいたので帰ったことを伝え、部屋に戻り封筒を開封する。ジャックからの報告書と、もう数枚のTOP SEACLETと押されている作戦書を読み進める。
そして、そこに書いてあったことに俺は驚きを隠せなかった。
確かに、この書類はこのルートじゃないとまずいな。
ガリア解放後、ペテルブルクを除く全てのネウロイの活動が沈静化した。
そのため連合軍司令部の中にネウロイとの戦いを避ける派閥、穏健派が勢力を強めてきた。
その派閥が立案したのがネウロイとのコミュニケーション実験作戦。
同時に攻勢派も反抗作戦を立案、こちらは既に実行されている。
506が出来たのもこの反抗作戦に投入するためだと思われる。
だが、開始して間もないがあまり戦果を上げられずにいる。
そのため穏健派が次第に発言力を増しつつあるのだ。
同時にヴェネチア方面でも人型ネウロイが数回確認されていることも穏健派の勢力拡大につながった。
結果としてコミュニケーション実験作戦が立案され実行されることとなった。
実行は今年4月X日。
作戦名は “トラヤヌス作戦”。
こうして、世界は休むまもなく再び大きく動き始める。