妖精の翼 ~新たなる空で彼は舞う~   作:SSQ

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第41話 到着

坂道を一気に下り、5日ぶりにサンクトペテルブルクに戻ってきた。

落ちる前までは当たり前のように見ていた景色も懐かしい。

同時にいつもは空から見ていた風景も地上から眺めてみると意外と大きいと感じた。

 

町に入る直前に犬ぞりから下りて徒歩で移動を開始する。

まだ街中は輸送用トラックを含めてかなりの車が走行しているためそれの邪魔にならないようにするための配慮だ。

それに犬ぞりで車道や歩道を走ると事故がおきそうだからな。

今までお世話になってきたサバイバル用品が入ったリュックはここで放棄する。

 

昨晩回収した遺留品が入ったかばんを背負って502JFWがある基地の入り口までの約5kmを歩く。目的地がもう目に見える場所まで見えているためか今まで散々蓄積していた疲労は感じなくなっていた。

「お疲れ様、助かったよ。それじゃあ、あと少しだ。」

「「「ワフ。」」」

「あそこに行けば食べ物とかをきっともらえるはずだから、そこまでがんばろう。」

「「「ワン!」」」

食べ物の話になると突然元気になるのは動物も人間もあまり変わらないんだな。

深夜の道を犬6頭連れてみすぼらしい服を着ながら歩いているのは我ながらなかなかすごい光景だと思う。

まだ1900で人通りも多い。時々驚いた顔でこちらを見てくる人もいる。

まぁ、こんな怪しさ100%で歩いていれば当然声をかけられるわけで。

「おい!」

「あ?」

振り向くと二人の警察官と思わしき人がいた。

「こんなところで何をしている!」

「帰宅しようとしているだけだ。疲れているんだ。早く解放してくれないか?」

「そういうわけにもいかない。ここは貴様のような浮浪者は認められない都市なんでな。」

まぁそう勘違いされても仕方がない格好をしている俺も悪いよな。

というかいつの間にか犬がいなくなっている。殺気を感じて先に逃げたのか?

「この国は見た目で人を判断するのか。まったく・・・。」

「なんだと?」

警官の一人が俺をつかもうとしたので思わず払いのける。

「公務執行妨害だ!貴様を逮捕する!」

まったく、こんなテンプレみたいなことしやがって。

今のやり取りで腹が立った。

振り上げられた右手を左手でつかみ右手で奴の頭を思いっきりこちらに引き寄せて鼻に膝蹴りを食らわせる。

今の一撃が効いたのか鼻血を出しながら気絶した。

もう一人が既に警棒を振り上げていたので、すかさず回避振り下ろした右手をつかみそのまま関節をまげて動かないようにしてから頭を壁に叩きつける。

こちらは気絶しなかったので敵が落した警棒で頭を思いっきり叩くと今度はちゃんと気絶してくれた。

だがちょっと回りに気を配るのを忘れていて目撃者がいたようだ。

さらに応援を呼んでいたのですぐに逃げる。

「まったくこの町は忙しいな!」

「ワン!」

いつの間にか俺の後ろを犬達が走っていた。

こいつら、俺を置いて逃げやがって。

路地裏に逃げ込み着ていた防寒具を脱ぎ捨てる。さっきは防寒具やフードをかぶっていた。

そしてあの暗さだから顔もわかんないだろうし犬は喧嘩を始めたときはいなかったからばれないだろう。たぶん。

少し寒くなったがこの下にはまだ上着がある。まぁ、何とかなるだろう。

サイレンが聞こえてきたのでこのまま走って基地まで向かった。

 

基地の入り口までひたすら走っていたのでもう疲労が限界に近かった。

さっきまではハイになっていたのに今のでどこかに消え去ってしまった結果、反動も加わって一気に襲ってきたのだろう。

2100で人の出入り口は閉鎖されるはずだからまだ時間的には大丈夫だろう。

入り口に近づくと守衛がいた。門番が一人、小さな小屋に一人か。

「止まれ!」

「ここの基地の者だ。身分証もある。」

あるよな?ポケットをあさるとちゃんといつもの場所から出てきた。

なくしたかと思った。

「確認する。」

守衛が俺と写真を交互に見る。

「了解、確認した。どうぞ。」

「ありがとう。」

身文書を返してもらい、俺は基地に入る。

久しぶりの基地に懐かしさを憶えながら俺は格納庫を目指した。

 

 

Another view

 

「あれ?」

「どうされました?フォーリー曹長?」

「伍長。バーフォード大尉って5、6日前に撃墜されて行方不明になった人じゃないか?」

「あー、そんな話聞きましたね。それがどうかしたのですか?」

「いやさ、さっきの奴の身分証にその名前が書いてあったから。」

二人は彼が歩いていった方向を見た。だがそのどちらもいるはずの人影を確認する事が出来なかった。

「おい、あの人が通ったのってほんの少し前だよな?」

「はい。」

「あそこに隠れられる場所なんてあるか?」

「ありません、防犯上の理由とかでそういうものをあえて何も設置していないと聞いたことあります。」

「じゃあ、なんでいないんだ?犬もいたよな?」

「・・・いませんね。」

「まさか・・・。」

「曹長?」

彼は真っ青になりながらよく噂に聞く亡霊の話をする。

「ほら、よく聞かないか?

故郷に帰れなかった魂が天に召されることなくこの世にさまよっている話とか。

これは大尉が基地に帰りたいと思ったまま死んでしまった結果幽霊になったとかじゃないか?」

「まさか!」

「でも、戦場じゃよく聞く話じゃないか。」

と、突然小屋の電球が切れた。

「「ギャーーー!!」」

きっと呪いだ。

もうそうとしか考えられなかった。

「ほら!間違いないじゃなか!」

「た、た、たしかに、そ、そう、曹長の、い、言うとおりかも、しれ、しれません!」

「とにかく、飲んで忘れちまおう!」

「そ、そうで、そうですね!」

そういって俺たちはすかさずウォッカを取り出して、それを飲んで忘れることにした。

今日は厄日だ。きっとそうに決まってる。

 

Another view end

 

 

 

 

ふらふら歩いていたら何かにつまずいて転んでしまった。

顔面に雪が当たって冷たい。

ふと横をみたら俺が転んだのを何かの命令と勘違いしたのか全頭伏せの状態になっていた。

立つのがだるい。

あー、何も考えたくない。

すこしこのままでいようかな。

と、思った瞬間後ろで叫び声が聞こえた。

うるさいな・・・。

さっきの叫び声でなんか気分が削がれたし、起きるか。

ゆっくり立ち上がって格納庫へ歩き始めた。

 

夜の時間になり、もう離着陸する機体がいないためか滑走路はかなり暗かった。

なんとか格納庫の入り口に灯っている明かりを頼りに俺の愛機がいる格納庫へ向かう。

 

格納庫を見つけて入り口を開けて入る、犬たちもついてきた。

格納庫には誰もいなかった。正確には俺のユニットを守ってくれている人がいるが。

先に確認するか。

「止まれ!ここから先は立ち入り禁止だ!」

「俺はその認められているうちの一人なんだが。」

「はっ?って大尉!?」

「おう、そうだ。通してくれないか?」

さすがに、こんな格好じゃ本人だってわからないか。

身分証を見せたらわかってくれたようだから何よりだ。

「失礼しました!いつお帰りに?」

「ついさっきだ。」

「はぁ、とにかくここには5日前にビショップ軍曹をお通しして以降、誰も入らせていません。」

「ご苦労さん。」

「ハッ!」

二人は敬礼して通してくれた。

そうか、ウィルマはちゃんとやってくれたのか。

久しぶりにみる愛機は確かに何も変わっていなかった、ただ少しだけ埃が積もっていた。

少しあけて確認したところ何もいじられた痕跡がなかった。

よかった。

『あれ、君たちどこから来たの?』

あの声は・・・下原か。

『さっきあけたときに入ってきちゃったのか?』

犬たちにでも話しているのだろうか?

俺は仕切りからでて辺りを見渡すと6頭の犬に囲まれながら彼らに話しかけている下原がいた。

「よお、これから哨戒任務か?ご苦労さん。」

「へ?」

狐につままれたような顔をしていた。

「えーーーーー!?」

そう叫ぶと下原は尻餅をついてしまった。

「うるさいぞ、下原。」

「え、だって、なんで、いるんですか?」

「その言いようはひどくないか?」

せっかく帰ってきたのに最初の言葉がそれか。

てっきり守衛が報告しているもんだと思っていたが。

「あ、申し訳ありません。あの失礼ですけどひとつ聞いてもよろしいですか?」

「いいぞ、許可する。」

「本物ですか。」

「あぁ、間違いない。少なくとも俺が認識しているなかではな。」

そういいながら、俺は手を差し出して下原を立ち上がらせる。

「あ、本物ですね。」

「だろ?」

服についた汚れをはたいてこちらを向いた。

「とっても、心配したんですよ?」

「それは悪かったと思ってる。」

「ウィルマさんにも謝ったほうがいいですよ?」

「もちろん。」

すると下原は笑顔になってこういってくれた。

「おかえりなさい。」

「あぁ。ただいま。」

下原が次の言葉をつむごうとした瞬間

「しーもーはーらー!どうしたんダ?そんな大声だしテ?」

エイラがはいってきた。そしてこいつも例に漏れず俺の顔を見るなり数秒こっちをじっと見た上で

「ンギャーーーーー!幽霊ダ!!!」

叫んだ。

「どうしたの、エイラ?そんな大声出して?」

「さ、サーニャ!幽霊ダ!」

俺を指差しながらそういってきた。

続いて入ってきたサーニャの反応といえば

「なに幽霊って?え?・・・・・・・・・。」

サーニャは特に叫ぶことなくフリーズしてくれた。

まぁ、予想通りの反応だな。サーニャが叫ぶ姿も見ては見たかったが。

「サーニャ、エイラ。俺だ。バーフォードだ。忘れたか?」

エイラのほを数回叩くと落ち着いてくれた。

「え?あ、ほ、本当ダ!」

「大尉・・・?」

サーニャは落ち着き、エイラは再び動き出したことでようやく俺を認識してくれた。

「サーニャ、あの時は君の荷物を俺のところに投げてくれてありがとうな。おかげで無事に生き延びることが出来たよ。」

「でも、大尉・・・。私はあなたを・・・。」

「あれはしかたなかったさ。それにちゃんとするべき事はしてくれたんだろう?サーニャは君の出来る事はちゃんとやったんだ、それで十分だ。」

「はい・・・。ありがとうございます。でも・・・。」

「俺は無事に帰ってこれたんだ。もういいじゃないか。」

「わかりました・・・。」

うっすらと涙を浮かべているところを見ると結構責任を背負わせてしまったのかもしれない。

「ごめんな、でもありがとう。」

「はい!」

頭をなでてあげるとようやく笑顔になってくれた。

「大尉!何してんダ!」

「エイラ!」

サーニャも思わず怒ってしまったみたいだ。まぁ、こいつは平常運転で安心した。

「何事だ!?」

廊下を走る音が大きくなり格納庫に少佐が入ってきた。

「いったいなにが・・・・。」

「よう、少佐。」

「・・・バーフォード大尉?」

さすが、少佐。いつでも冷静沈着。

「ブリタニア空軍、フレデリック・T・バーフォード大尉。ただいま帰頭しました。承認お願いします。」

「あ、あぁ。承認する。」

俺が敬礼すると少佐もちゃんと返してくれた。

「いつ戻った?」

「今です。」

「怪我は?」

「まぁ、死に直結するような怪我は何も。」

少佐は俺をみて、よううやく帰ってきたか、なんて独り言をつぶやいた上でねぎらってくれた。

「そうか、ご苦労だったな。」

「はい、本当に疲れました。」

そういった直後熊さんや伯爵、ルマール、曹長そしてウィルマが入ってきた。

「リョウ!」

そう叫ぶと俺に抱きついてきた。

「本物?」

「失礼な、本物だぞ。」

「生きてる?」

「もちろん。約束しただろ?かならず戻るって。」

本当に守れてよかった。

改めてそう思えた。

「うん。なんかすごいにおいする。」

「悪かったな。ここ数日野宿だったからな。」

「でも、あったかい。ようやく帰ってきてくれたね。」

「本当に、疲れたよ。ウィルマ。」

「ん?」

「ちゃんと手紙読んでおいてくれたんだな。」

「もちろん、だから信じられたんだよ。」

そうか、なら万が一に備えて作っておいて良かった。

これから先またこの手紙が必要になる機会が起きないように、俺もちゃんとしないとな。

「少佐。」

「なんだ?」

抱きつかれたまま少佐を呼ぶ。

「ここの手帳に書かれている者の親族がいるかどうか調べてもらえないか?」

そういって俺は手帳を渡す。

「?わかった。」

「それと、そこのかばんの中身は漁らないでもらえないか?」

「中には何が入っているんだ?」

「それは後で教える。今は無理だ。」

うっすらと意識が薄れていく。安心しきってどっと疲れが襲ってきたのだろうか。

「ウィルマ、すまん。少し眠るぞ。」

「うん、わかった。後は任せて。」

「頼んだ。」

最後、落ちる寸前にウィルマの声が聞こえた。

「おかえり。」

あぁ、ただいま。

 

 

次の日、0630

目が覚めたらベッドで寝かされていた。

あたりを見て置いてある荷物の配置から自分の部屋だとわかった。

誰かが運んできてくれたんだな。

それに服がずっと着ていた物ではなく洗い立ての物に変わっていた。

ただ俺の物ではなく病院で支給されているものなのだろう、アルコールの匂いが少しする。

しばらくするとB隊のみんなと曹長がお見舞い兼食事を持って来てくれた。

「起きた?調子はどう?」

「悪くはないな。」

「これ、朝ごはん。どうぞ。」

「ありがとう。」

俺が食べ始めると曹長が机に座ってなにやら書類を広げ始めた。

「それは?」

「2つあります。1つは昨日大尉が少佐に頼んだものですよ。私は見ることが出来ないので後でご確認ください。もうひとつは聴取です。かなり疲れていると思いますが撃墜されてから帰ってくるまでの間に何があったのか話してください。」

「最初からか?」

「全部です。大尉は撤退戦後初めて地上からここまで帰ってきた事例なんです。なので貴重な情報をほしいということで聴取することになりました。」

ま、当然だろうな。

そういえば・・・、

「ブレイクウィッチーズの皆は違うのか?」

あいつらもしょっちゅう落ちているからてっきりこういうのは行わないものだと思っていた。

「あの人たちは比較的近距離なんですよ。大尉ほどの距離からだとほとんど資料がないのでわからないので、おそらく初めてかと。」

「まぁ、わかった。話すよ。」

「よろしくお願いします。」

そして俺は最初から全てを話した。

撃墜されたこと。

何とかシェルターを作ったこと。

そしてひたすら帰るために移動したこと。

途中、敵とも交戦したこと。

全てだ。

・・・・・。

 

「・・・というわけだ。」

「話を簡単にまとめますね。まず撃墜された日はシェルターを作って退避、遭難1日目は救援を待って待機、次の日から移動を開始、2日かけて遠征で行ったところに到着。

次の日の朝に通信を試みるも途中にネウロイに遭遇。それからチュドボに移動、さらに2日かけてここに帰ってきた。間違いないですね?」

「そうだ。」

そう間違いがないと認めたはずなのに曹長はため息をついた。

「どうした?」

俺がそういうともう一回ため息をしてこちらを見てきた。

「だって、信じられませんよ。160kmを動物の力を借りたとはいえ踏破したんですよ?それもこのオラーシャの極寒の中をですよ?さらに熊や鹿を狩って食糧を確保したり挙句の果てには行方不明になっていた人たちを発見するとか・・・。

大尉って、いったいどんなびっくり超人ですか?」

「・・・それほめてるの?貶しているの?」

曹長はもう一度ため息をして俺をじっと見つめた後に続けてくれた。

「ほめているんですよ。本当に何者なのですか?どこでそんな知識を身につけたんですか?」

「本国で訓練の一環で収得したとしか・・・。」

「誤魔化さないでください。」

「本当なんだが・・・。」

「ブリタニアの航空歩兵の訓練では熊の狩り方を学ぶんですか?」

次に曹長はウィルマの方を向いて聞いた。

「少なくとも私はそんなのしなかったよ?」

「ですよね、安心しました。」

「というか、熊って食べられるんだ。知らなかった。」

「私もです。」

そうなのか・・・。

そうか、熊を食べるなんて文化があるのは意外と少ないのかもな。

「味は悪くはないぞ。」

「「「「へー。」」」」

その後もいろいろな体験談を興味深そうに聞いてくれた。

昼ごろになり、一旦皆が部屋から出て行った。

どうせ、今日は体が動かせない。

暇つぶしにと、俺はウィルマたちが持ってきてくれた新聞を広げた。

五日間、世間から離されていたが特に劇的に変わったことなどなく安心した。

戦況が変わっていたらどうしようかと思ったが特に東部戦線変化なし、か。

リベリオンで新型爆撃機が試験飛行に成功。

ガリア復興事業が本格的に始動、エリゼ宮にて統一政府初代大統領が宣言。

しかし、依然として難民問題、財政問題など課題が残る。

世界はゆっくりとだが動いている、それがネウロイに対抗できる決定打となる動きが現れるのはいつになるのやら。

結局、今日はただゆっくり体を休めるためだけに費やしたのだった。

 

次の日もベッドで横になりながら引き続き調書を作る曹長の質問に答えたり、遊びに来たみんなと話して終わった。

 

帰ってきて3日目。

「リョウ、外出しない?許可は取ったよ。」

いつも通り病院食を食べ終わるとウィルマが話しかけてきた。

外出か、今まで散々外にいたから帰ったらしばらくはゆっくりしたいと思っていたのにいざゆっくりしていると今度は外が恋しくなる。

そんな状況だったから本来はその提案には賛成だったのだが・・・。

「すまんが足の凍傷の関係で出来るだけ歩くな、と医者から言われているんだ。」

「知ってるよ、だから車椅子も用意したよ。」

ウィルマが一旦外に出て車椅子を持ってきた。

それは準備がいい事で。

そういえば、少佐から渡された資料の中にペテルブルクに住んでいる遺族もいたはずだ。

彼らの荷物を渡しにでも行くか。

「わかった。少し手伝ってくれるか?」

「了解。」

ベッドから降りて車椅子に乗り、かばんを取る。

車椅子ってどうやって前進するんだっけか?と戸惑っていたらウィルマが押してくれた。

どうやら今日は彼女の手助けなしでは外に出られないらしい。

「気になってたんだけど、そのかばんの中身は?」

「前に話しただろう?回収した遺留品だ。ここの町に何人か住んでいるみたいだから渡しに行こうと思ってな。」

「そっか、今日はぶらぶら基地の外を行こうと思ったんだけどそれを優先したほうがいいみたいだね。」

ちょうど、入り口辺りまで来ていたのでウィルマはそのまま車両担当のところまで行って車の鍵を借りてきた。

車の前まで押してもらい助手席に座り後ろに車椅子を載せる。

「俺は運転できないぞ?」

「病人に運転させるわけないじゃん。」

じゃあ誰が・・・、と思っていたら当たり前のようにウィルマが運転席に座る。

「・・・ウィルマって運転できたんだ。」

「うん、ここ最近はしてなかったけど。」

そういって車のエンジンを掛けた。

「それじゃあ、いくよ?」

「了解。」

・・・・・・。

?動かない?

「あ、アクセルとブレーキ間違えてた。」

不安だ。

 

 

 

その後は何とか急ブレーキ、急発進を繰り返しながら何とか事故を起こさずに全ての家を回ることが出来た。

遺族の方も数年ぶりに帰ってきた私物を見て発見者が自分だと伝えると皆、感謝してくれた。

本来であれば専門の人が軍にいるのだろうけど、今回はどうしても自分が渡したかった。

近いうちに回収隊がそこに向かい、全部持って帰ってくるつもりらしい。

それまでは何とか待っていてもらいたいな。

全ての家を回り基地に変えると曹長と伯爵たちがいたので彼女たちにも託されたドックタグを渡した。

最初は夢で会ったなんていったら疑われたが何とか説明して伝言を言うと、どこかに行ってしまった。

彼女にも思うところがあったのだろうか。

そんなこんなで今日一日が終わった。

 

 

そして・・・・。

「よし、怪我もだいぶ治っているみたいだね。体調面も問題なし。

試験飛行の許可を出すよ。」

帰頭4日目、実質9日ぶりに空を飛ぶ許可がでた。

ただ、いきなり実戦には出せないのでまず試験飛行ということになった。

評価はルマールとウィルマが行う。伯爵は基地待機だ。

いつも通りのブリーフィングをどこか懐かしさを感じながら受けて、格納庫に向かい愛機に搭乗する。

チェックリスト、問題なし。

滑走路への進入許可が下り、ルマールを先頭にして滑走路へ向かう。

いままで通り、何の問題もないはずなのに。どこかで不安を感じていた。

撃墜されたのだってあれが初めてというわけではないのに。

ただ一撃でも食らえばそれが即、死につながることを改めて感じさせられた。

そんな俺を見かねてかウィルマが俺の手を握ってきた。

「大丈夫?」

「問題ない、と言いたいところだが正直言うと不安だな。」

「手、震えているもんね。撃墜されて怖くなっちゃった?」

「ま、そんなところだ。」

そういうと彼女は器用に俺の正面に回ってきて額をつけてきた。

数秒か、数十秒、じっと目を閉じてあわせてくれた。

たったそれだけなのに、不安が少し和らぐ。

「大丈夫。私もいるから。それに今日は戦いは、なし。ネウロイが来たらすぐ逃げて。」

「そんな事しろと?何のために武器を持ってきたと思ってるんだ?」

一応、試験飛行いうことで小銃、ペイント弾搭載の機関銃、近接武器の刀を装備していた。

「今日は余裕があったら模擬戦闘やるって話でしょ。リョウは病み上がりなんだから今回は絶対に戦っちゃ駄目。上からの命令でしょ?」

「それは男としては情けないよな。」

そういうとウィルマはため息をついて俺の胸をつついてくる。

「今日は特別だから。これからは私を守ってほしいけど、今日だけは私に守らせて。たまには守ってもらう人の気持ちも味わってみるといいよ。」

俺としては守るというより、攻撃されないように少しでも早く敵を倒そうとしていただけだったんだがな。結果としてウィルマを守ることにつながっていたか。

「それはさぞかしいもどかしいだろうな。だが、わかったよ。今日だけは甘えるとする。」

「うん。それがいいと思う。」

そういうとお互い黙ってしまう。

「あの・・!」「えっと・・・。」

今度は同時にしゃべってしまった。

「ウィルマから先でいいよ。」

「リョウからでいいよ。」

こんなときでもお互い譲っていたらルマールが割り込んできた。

『あのー。』

「「ん?」」

『周りに言いふらすようにいちゃいちゃするのはやめてもらえますか?』

「「え?」」

どうやら通信機を通じてもれていたらしい。

ウィルマは顔を真っ赤にして慌てて離れていった。

別に、関係なんてばれているんだしそんな恥ずかしがらなくても・・・。

『B隊へ、離陸を許可する。風は微風、問題なしだ。』

管制塔からの離陸許可の通信が入ってきた。

「了解、離陸する。」

『それじゃあ、デートフライトでも楽しんでこいよ。大尉。』

「・・・了解。」

前言撤回。やっぱり、いじられるのは苦手だ。

そう思いながら俺はユニットの出力を上げ、空へ上がったのだった。

 




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