妖精の翼 ~新たなる空で彼は舞う~   作:SSQ

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5/20がウィルマの誕生日だったのに何も上げられなかった。
ちとR-15Gが入ってます。
注意です。


第39話 帰頭2

まずは歩いてチェソヴォ=ネティリスキーを目指す。

距離にして35kmを二日間かけて歩く。

この辺りは高い山もないため邪魔となるものが少ないため本音では一直線で目的地まで向かいたいのだが、進路上に森がある。

森をそのまま踏破することも考えたが、やめた。

確かにコンパスや地図は手元にあるが森ではまっすぐ歩いているつもりでも一周していたなんて事が良くある。

そのため、森を通る近道を取るよりその周りを歩くルートを選択した。

急がば回れという奴だな。

 

それにしても、この雪用の靴は歩きやすい。

もともとオラーシャやスオムスで作られたものらしいが底に平らな板が貼り付けてあり、体重を分散させることにより雪に脚が埋まらないようになっている。その代わりいつもの靴のように歩くことが出来ないのでコツが必要だが。

しばらく歩いていると空が瑠璃色、そしてオレンジ色になってきた。

ようやく夜明けか。

 

そしてさらに時間がたつと太陽が出てきた。

やはり太陽が出てくると幾分か安心する、暗いのよりも明るいほうがいい。

さてと、ここから先はある程度開けているから誰か足跡を見つけてそのままたどってきてくれないかな?

そうしたら一発で終わりなのに。

「ま、そう簡単に上手くはいかないよな。」

 

数時間ほどひたすら森に沿って歩いていると、太陽がちょうど真南に位置したので適当な木を見つけて寄りかかる。

万が一誰かが来てくれた際、目立つリュックを空からでもわかるような広い場所に放置しておく。

ようやく休憩の時間が取れた。

いつものように雪を少し手で暖めて火で溶かす。

本当はコーヒーか紅茶が飲みたいのだが、ないものをねだっても仕方がない。

 

水分も補給できたので出発する。今日だけであと7kmは進みたい、と思い体を起こしてリュックを取る。

と、ふと視界の端の空で何かが光った気がした。

すぐに双眼鏡を使って確認してみると、黒い物体が飛んでいるのが見えた。

方角を確認すると南南東、ネウロイの巣がある方面だ。つまりあれはネウロイか。

一瞬期待した俺が馬鹿だった。

それにしても、ここ最近感じたことだが単機の偵察型が増えた気がする。

奴らもあの防衛戦を経て戦略を変えたのかも知れないな。

結局ネウロイは俺に気づくことなく視界を横切る形で北へ向かった。

このまま進めばそのうち、こちら側の哨戒網に引っかかって撃墜されるか探知されることなく巣に戻るかのどちらかだろうな。いや、さらに敵側の前線基地を作るのかもしれない。

どちらにせよ空を飛べない俺に今出来ることは何もない。

意外なネウロイの習性が見られたところで俺も出発する。

 

 

結局今日は何も問題にめぐることなく無事予定していた目的地にたどり着いた。

ここは以前飛んだとき空から確認しておりまわりに危険となるようなものは何もない。

簡単なシェルターを作り、中に入り夕食とする。

残りのレーションも半分をきった。遠征で使った場所が壊されていたり、食料が野生の動物などに荒らされてなくなっているなんて事態が起きていないといいが。

・・・レーション以外の食料を何か見つけないといけないな。

木の実でも探すか?

いや、この季節だと発見するのは至難の業だな。

あれこれ考えても結局効率よく栄養を摂取できる方法が拠点の薬という考えに行き着いた。

となると早く拠点に到着しなければならない理由がまた増えたな。

やることもやったし今日は寝よう、明日には遠征の拠点に到着できるようにしたいものだ。

 

 

 

Another view side 502JFW

 

私は昼間、夜間のほぼ24時間体制で三人のウィッチが大尉を独自に探してくれているがそれではまだ足りないと感じていた。

なので、地上からもなにか手がかりを探せないかを聞くため、ウィッチ回収班の隊長を呼び出していた。

「失礼します。」

そういってアウロラ・E・ユーティライネン中尉が部屋にはいってきた。

「用件は大尉のことでしょうか?」

「あぁ、そうだ。回収隊の意見を聞きたいと思ってな。現実問題、彼の場所を発見できたとして回収はどの辺りから出来る?」

「どこへでも、と言いたいところですが実際はそう遠くまではいけません。」

「何故だ?いつもはあんなに出動しているのに。」

私がそういうと彼女は苦い顔をしてこちらを見てきた。

なにかどうしようもない理由があるみたいだな。

「いくつかあります。まず一つ目、雪の中を踏破する雪上車はありますがあまり燃費が良くありません。そのため予備の燃料を持っていったとしても基地から50kmのところが限界だと思います。いままで雪上車の行動範囲外で撃墜という例がありませんでしたからね。

そして二つ目、その雪上車ですが現在予備パーツが不足しています。

ここ最近、出動自体は少なかったのですがそのときに一部部品が破損してしまいました。

それを修理したのですがその部品の補給がまだ届いていません。そのため予備のパーツを持っていかないとなると万が一故障した際に二次災害が発生してしまう可能性があります。

そして我々回収隊の長距離回収任務を妨げている最大要因がこれです。」

そういって中尉は立ち上がって地図にしるしを付けた。

「少佐、ここに何があるかご存知ですか?」

「いや、知らない。教えてくれ。」

「ここには、地雷が埋まっているんです。撤退戦のときに連合軍が地上型ネウロイの進軍速度を出来るだけ遅らせるために埋設した地雷がいま地図を付けたところに大量に埋まっています。

正確な数はわかりませんが一万個前後といわれています。

その地雷の種類は対戦車地雷から対人地雷まで、接触式から圧感式まで様々なものが埋まっています。

これが逆に我々の行動をも制限している原因となっています。」

「つまり、彼を救助するにはその地雷原を超えてもらわなければならないということか。」

「残念ながら。この地雷原があるほとんどの空域も飛行禁止空域に指定されていますから空からの救助も不可能ですからね。」

思わずため息をしてしまった。

彼にとっては非常にまずい事態だろう、もし知らずにそこを通過してしまえば確実に死んでしまう。

扶桑で言う泣きっ面に蜂とはこのことだろう。

「わかった、ありがとう。また何かあれば呼び出させてもらう。」

「了解です、失礼します。それと、我々は命令があればいつでも出動できるようにはしております。何かあればご命令を。」

「頼もしい限りだ、了解した。」

そう言うと中尉は部屋を出て行った。

私は椅子に深くかけ、改めて地図をじっと見る。

救出隊の皆はうちのブレイクウィッチーズで救出には慣れていると思っていたが彼らにとっても彼のような長距離は想定していなかったらしい。

いままではこの距離になると旧前線基地のほうが近かったため管轄違いと割り切っていたらしい。これを機に何かしらの対策を練ってもらおう。

しかし、いざという時に役に立たないのは私も彼らも悔しいだろうな。

何のためにいるんだといわれても仕方ないな。

別の方法を探ってみるか。

そう思い、私は部屋を出た。

 

Another view end

 

 

 

墜落三日目

目が覚めて、時計を確認すると午前6時だった。

こういうイレギュラーの時でも同じ時刻に目が覚めるのは習慣の賜物だろう。

あと、自分自身のサイクルが完全には崩れていないところを見るとまだ問題はなさそうだな。

本当にまずい事態になれば起きる時間も安定しなくなる。

ただ、自分では感じ取ることの出来ない隠れた疲労は少しずつ溜まってきているだろう。なんとか解消できればいいが。

全ての身支度を終えて出発する。

忘れ物はない、今日もがんばろう。

日が沈む前に遠征先の村に到着できるようにペース配分を行わなければ。

今日は曇りだが薄く太陽の光が見えるという直射日光が当たらないにも関わらず明るいというなかなか恵まれた天候だった。

 

 

歩き始めて約四時間がたった午前11時ごろ、問題が発生した。

遠くで何かが動いた気がした。

すぐにうつ伏せになり、双眼鏡をとりだして確認する。

焦点を合わせて確認するとその正体は“熊”だった。

体は意外とそこまで大きくはなかった。

この時期に?冬眠しているはずでは?というか、この地域に熊がいるのか。

おそらく冬眠しているところを何かしらの事柄が発生して目が覚めてしまい再び寝る事なく起きてしまったため、食料を探しに山を降りてしまったのだろう。

風の向きを考えても、こちらの匂いがあちらにつく事はないだろう。

・・・これはチャンスではないだろうか。

すぐに狙撃銃を組み立てて撃てるようにする。

そしてリュックを地面に置き、その上に狙撃銃を設置して固定する。

スコープはお釈迦になってしまったので双眼鏡を上手く使い狙いをあわせる。

ただ、これではスコープの代わりなどは到底不可能なので、結局狙いをあわせるのは俺の勘になるだろう。

偶然とはいえ、せっかく見つけた食料だ。無駄にしないように狙う。

奴はゆっくり動いては時々立ち止まっては辺りを見渡している。

大体の場所を見越して、固定する。

狙うのは頭。小型、場合によっては中型ネウロイですら落すことが出来るこの銃弾なら熊なら当たれば一発だろう。

のっそり歩いていた熊が止まる。

俺は息を止めて、狙撃体制に入る。

そして立ち上がったところを見計らって

-発動

どの方向に顔を動かすかを見極める

狙う位置は目の後ろの部分、頭中心部を貫けるように狙う。

-解除

発砲。

辺りに狙撃銃の発砲音が響く。

すぐさま狙撃銃で確認すると熊が横に倒れるのが見えた。

すぐにかばんを背負って熊に近づく。

万が一仕留めきれていなかった場合に備えて銃は構えたまま接近する。

・・・。

5m

4m

3m

2m

1m

辺りは真っ赤な血で雪が染まっていた。

その体を銃でつついても反応がなかったので次に足で蹴ってみた、がやはり動かなかった。

一度、その熊に頭を下げ誰かどこにいるかわからない神に感謝を伝える。

これは教えてくれた先生の言っていたことだが感謝を忘れてはいけないそうだ。実際に俺もこれで生きられそうだしな。

銃を仕舞い、ナイフを取り出して解体に入る。

血抜きをした後で上半身の皮や食べられる肉を袋に入れて、胸に残っていた血を飲んで体力を何とか回復する。

熊の血は滋養エキスとして一部の民族では重用されているらしい。

食料ということでいくらか肉が溜まったって俺も安心しきっていた。

だからだろうか、周りを囲まれていたことに近づかれるまで気がつかなかった。

 

顔を上げると中型の動物に囲まれていた。

しくじったな。

辺りを見渡すと数は6、風に乗った血の匂いに気づいてやってきたのだろう。

持っていた肉の入った袋を熊の脇に捨てて左手にナイフを、右手で腰に付けていたハンドガンを取り出してそいつらに向けて構える。

よく周りの奴らを見てみるとそいつは犬だった。

首に首輪がついているところを見るとおそらく以前は人間に飼われていたのだろう。

人間の匂いがわかるのか、そこまで威嚇はしていなかったが警戒はされていた。

そりゃそうだろう。昔、なんらかの形で捨てたはずの奴らと似たような匂いがしたら警戒するはずだ。

俺も隙を見せないように武器を犬たちに向けて無言でにらみつける。

 

お互い対峙したまま両者とも一歩も動かずに10分がたった。

これ以上、時間を延ばすのはこちらとしてもまずい。

時間がたてばたつほど目的地に到着するのが遅くなり、こちらが不利になるのは明らかだった。

ほんの思い付きだった。

試しにまだ袋に入れる前だった解体済みの肉を奴らの前に投げてみた。

・・・あ、食べてる。

それを食べ終わると犬たちはじっと俺のことを見てきた。

なんとなくもう一度肉をあげてみた。

・・・食べてるよ。

それを何回か繰り返すうちに尻尾を振りながら、いわゆるお座りの状態になった。

もしかしてなつかれた?

とにかく、敵ではなくなったので解体の続きに入る。20分ほどロスしたがまぁ許容範囲だろう。

その後、解体が終わりある程度溜まったので移動を開始した。

もちろん犬たちもついてきた。人間慣れしているせいか、食べ物をくれる人を主人とでも思っているのか?

いや、犬は頭のいい動物だ。

きっと彼らなりの思惑があって俺についてきているのだろう。

どうせ食べ物を分けてくれる食料提供者程度にしか思っていないんだろうな。

「おい」

「「ワンッ!」」

「ついてくるのか?」

「「ワンッ!」」

「食べ物はあまり分けられないぞ?」

「「?」」

「付いてきても何もいいことはないぞ?」

「「ワンッ!」」

・・・こいつら、本当にわかって反応しているのか?

「ならこいよ。」

「「ワンッ!」」

そう吠えると、後ろをついてきた。

まぁ害にならないならいいか。

というか、犬と会話しようとしている俺もすこしおかしくなっているのかもな。

 

その後、数時間ほど歩くと人工物が見えてきた。

双眼鏡で確認すると以前使った建物が見えた。

どうやら目的地に着いたようだ。

さらに30分ほど歩き、ようやくたどり着いた。

太陽がもう低い位置にいたのでとりあえず明るいうちに行わなければならない家の中の整理や火をつけるなどの作業を行う。

暖炉に火がついて部屋がある程度明るくなることには太陽はすっかり沈んでいたので早急にしなければならないこと以外は明日に回そう。

外から雪を持ってきてお湯を作る。

お湯が沸くまでに今日取ってきた肉を同様に外の雪の中に入れて冷凍保存する。

 

ふと、今着ている服を見てみると腕や腹部などに血が付いていた。

慣れていない人が見たら卒倒するな。

お湯を飲んで体を温め、犬たちにも少し分けてやると俺と同じように飲み始めた。

しばらくすると眠気が襲ってきたので以前使ったのと同じベッドに横になる。

久しぶりの感触に安心したのかすぐ眠りに落ちることが出来た。

 

 

 

Another view side 502JFW

 

リョウが撃墜されて生死不明という突然の連絡から四日たった。

昨日帰ってきた伯爵やルマールも驚いていた。

皆、助けに行きたいのは山々だったがそこに様々な壁が邪魔していて、結局いつものスクランブル以外では禁止空域にすら近づけないのが現状。

私たちに出来る事は何もない。

ただ、サーニャ少尉や下原少尉が必死になって探してくれているのはわかっている。

帰ってくるたびに皆からどうだった?と聞かれて首を横に振るのを何回も見た気がする。

もし発見したなら帰ってからではなく発見したと同時に報告してくれるのはわかっているのに聞かずにはいられない。

そして二人がごめんなさいと私に言うたびに色々な意味を含めて心が痛む。

出撃待機しているときも空気がすこし重い気がする。

そしてみんな私に気を使って休んでもいいよ?といってきてくれる。

その心遣いは本当にうれしいけど、それじゃあ、駄目なんだ。

何かしていないと不安と悲しみで心がいっぱいになっちゃう。

そして今日もいつもの気象ブリーフィングを終えて朝食を食べる。

伯爵が気を利かせて無線機の調節をしているみたい。

ラジオも聞けるということでなぜか軍用の物がリビングにおいてある。

曹長が、彼が撃墜したあとに持ってきてくれた。

と、伯爵が本当にたまたま国際救難波にあわせたとき。

「・・・・o・・・・s・・・・」

なにか聞こえた気がした。

それに気がつかなかったのか伯爵はそのままつまみを回してしまった。

「伯爵!」

私が思いっきり叫んだのに回りがびっくりして私を見る。

「な、なんだい?」

「今の、チャンネル!もどしてください!」

「あ、あぁ。わかった。」

そういって伯爵が元の周波数に戻す。

「・・・・・・・・」

私は無線機のそばまで行って耳をスピーカーに近づけて耳を澄ませる。

「・・・こ・・・・1・・・。」

さらに細かな調節をすると聞こえてきた。

「こち・・・02・・・フレデリック・・・フォード大尉・・。」

断片だけど聞こえたその声の主にさらに驚愕する。

「リョウ!聞こえてるよ!」

「ッ!お・・・ウィルマか?よか・・・こっ・・無事・・・。」

よかった・・・・!

電波状況がかなり悪くて聞こえないが確かに彼の声だって一瞬でわかった。

「ねぇ、今どこ!」

「き・・・えない・・。もう・・一度・・・。」

「今の現在地は!?」

「・・・・だ、・・とこ・・だ。」

あぁ、本当に肝心なところが聞こえない。

「聞こえない!お願い、もう一度答えて!」

「なん・・・?いまは、・・・ない。・・・・事態だ。・・・ぞ。」

「お願い!聞こえる?」

突然口調が焦りを伴った言葉に代わったので何か起きているのかと悟る。

「どうしたの!?」

そして次の言葉を最後に通信が途絶えてしまった。

「愛してる。」

その言葉だけは本当にはっきり聞こえた。

辺りには雑音だけが響いた。

 

 

なにも考えられなくなってしまった。

ようやく生きているとわかったのに、なんで切れちゃったの?

せっかく手がとどいたと思ったのに急に離された感じがした。

ポン、と肩を誰かに叩かれた。

後ろを振り返るとそこには少佐がいた。

「軍曹、話は今聞いていた。」

「少佐・・・。」

少佐は優しく私に話しかけてくれた。

「ようやく・・・見つけたと思ったのに・・・・。」

「軍曹。」

もう一度呼ばれたので顔を上げて少佐の顔を見る。

その表情は私とは違ってまるで決心に満ち溢れているようだった。

「あきらめるのはまだ早いぞ。」

「え・・・?」

思いがけない言葉に思わず耳を疑う。

「大尉は少なくとも生きているんだ。それだけでも救いじゃないか。それにもしかしたら空を飛んでいるどこかのウィッチが場所を捕捉しているかもしれない。まだ、希望を捨てるには早すぎると思うぞ。」

「そうですが・・・。」

「軍曹!」

「はい!」

突然、怒鳴られて思わず返事をしてしまう。

「君は、彼がそんな簡単に死ぬと思っているのか?

君よりも彼と接している時間が短い私でもわかる、彼はそう簡単にはくたばるような男じゃないと。どうなんだ?」

「そんな事は!」

「ならば、信じてやりな。

そうすれば必ず帰ってくるさ。」

なんの保障もない言葉とはわかっているが、今はその言葉を信じてみようと思った。

叱咤されて目が覚めた。

そうだよ、今までは生死すらわからなかったんだから。

それに比べれば一歩前進したんだもん。

「わかり・・ました。信じてみます、いえ、信じます。」

「そうだ、その勢だ。」

少佐がそういうとみんなが励ましてくれた。

「そうだよ、隊長はずるがしこいからね。きっと大丈夫さ。」と伯爵。

「以前、かなり深い傷を負ってもけろっとしてましたからね。」とルマール。

「大尉よりも私、撃墜されているけど平気だから大丈夫!」とニパ。

「ふん、こんなんで死ぬのはだらしない奴だけだ。」と管野少尉。

「大丈夫ですよ、彼なら。」と曹長。

みんなが、リョウを信じているんだから、私も信じてあげないと。

顔をパンと叩いて気持ちを入れ替える。

「ありがとう、みんな。」

「まぁ、この借りは帰ってきたときにきっちり隊長に返してもらうから問題ないよ。」

伯爵がいうとみんな笑っていた。

「さてと、私もやれることをやるから君たちも事態が動いたら頼んだぞ。」

「了解!」

みんなあなたのこと信じているから。

いま、何が起きているかわからないけど、がんばって。

そして無事に帰ってきて。

そう私は願った。

 

Another view end side 502JFW

 

 

 

時間はすこし遡る。

午前6時、いつも通り起床する。今日は昨日なんかよりも良く眠れた。

それと火が消えかかっていたので火力を強める。

部屋が少し暖かくなったところで、続々と犬たちも起き始めた。

昨日の残りの肉を焼いて分け与えるとすぐに食べた。

俺もしっかりと食事を取り、昨日できなかった装備の補給などを行う。

栄養サプリメントなどが何個かあったのでそれを摂取し、数日分を取り出して袋に入れる。

これでしばらくは欠乏症に悩まされる危険性がなくなった、この錠剤が上手く機能すればの話だが。

さて、レーションの補給などいろいろやっているうちに0700になっていた。

502だともうそろそろ朝食を終えて今日の業務を開始するために誰か通信機の前にいるかもしれない。

国際救難信波でだせば誰かしら空に飛んでいる奴にでも聞こえればいいな。

通信機の電源を入れる。

くそ、ノイズしか聞こえない。

前回使ったときは問題なかったのに。

この通信機が限界を迎えているのかそもそものコンディションが悪いのか。

とにかく、発信してみるか。それしか俺には選択肢がないからな。

「こちらは502JFW所属のフレデリック・T・バーフォード大尉だ。現在、エリアR(ロメオ)中央のチェソヴォ=ネティリスキーから発信している。救援を要請する。」

ノイズのみか。

もうしばらく続けてみよう。

その後、五回程繰り返しているとどこかにつながったようだ。

「リョウ・・・え・・・よ。」

「ウィルマか、よかった。こっちは無事だ。」

誰がこちらの呼びかけにこたえたか断片的に聞こえてきた音声からでもすぐにわかった。

「いま・・・こ?」

「聞こえない!もう一度頼む。」

「い・・どこ?」

「エリアR,以前遠征で行ったところだ。」

「聞こえ・・・・も・・度・・て!」

「なんだ?いまは・・・。」

そう答えようとした瞬間、犬が一斉に外に向かって叫びだしているのが見えた。

なんだと思い、窓の外を見た瞬間その正体に寒気がした。

「すまない、緊急事態だ。」

「・・し・・の?・・・こた・・・て」

まずいな、もしかしたら死ぬかもしれないな。

だからあの言葉だけは言っておきたかった。

「愛してる。」

その一言を言い終えた瞬間、俺は瞬時に左に思いっきり飛んだ。

わずかに遅れて地上歩行型ネウロイのレーザーが家を貫通するほどの威力で突きぬける。

受身からすぐに立ち上がり狙撃銃と予備マガジンを取り、初弾を装填、ネウロイに立ち向かう。

6本足で歩いているそいつはまるで昆虫を大きくしたようなネウロイだった。

犬たちはさっきの攻撃には巻き込まれてはいなかったようだ。

魔力を顕現させて身体能力を底上げする。

体力の消耗も激しくなるがそんな事にかまっている場合ではない。

距離にして10m、お互い向かい合ったまま相対する。

月明かりがあるとはいえ、若干暗い。敵のあらゆるサインを見失わないようにじっと見る。

先に動いたのはネウロイだった。

敵のレーザーを紙一重で回避してこちらは敵正面を攻撃、コアの露出はなし。

敵右側側面に向かって走り出す。

ネウロイもこっちに走ってきた。

すかさずその場でジャンプして右側面前方と後方を攻撃、コア露出はなし。

着地して再び走り出そうとした瞬間にネウロイが後ろ足を使ってなぎ払うように攻撃してきた。

こいつ、近接攻撃も出来るのか!

体をそらし回避するもネウロイが真ん中の足を使って今度は刺すような突き攻撃を行った。

すかさず能力を使用し、敵の足に狙いを定めて

発砲。

銃弾がとがっている部分を破壊し、その着弾の衝撃で軌道がずれて俺にそれが当たる事はなかった。

次の攻撃に移るためにさらに敵の後ろに走る、ネウロイは先ほどの攻撃で少し体勢を崩しているのでそのうちに一気に走る。

その間に素早くマガジンを交換する。

そして後ろに回りこんで

発砲。

コア露出なし。

さてと、どうしたものか。

ふと、以前にみんなと地雷と地上ネウロイの話をしたときのことを思い出した。

たしか、地雷が最も効果的に使えた信管が接触型だったらしい。

地上のネウロイのコアは胴体下部に多いから、らしい。

・・・信じてみるか。

ネウロイに向かって思いっきり走った。

敵の足による突き攻撃を避けてネウロイの下に滑り込む。

そして真ん中を狙って。

発砲。

みんな、信じてみてよかったよ。

コアを破壊する事は出来なかったが露出はできた。

転がりながら素早く立ち上がり距離をとる。

場所はわかった、後はそこを破壊するまでだ。

俺は再び走る。

最後の一押しだ。

だが敵にとっては生きるか死ぬかの危機、奴は賭けに出た。

ネウロイがいきなり後ろの修復されたばかりの2本足を使って立ち上がったのだ。

そして残りの4本を振り上げて、俺に向かって突き刺そうとしていた。

思わず、予想外の攻撃に俺は止まってしまった。

どっちに回避すればいい?右か?左か?

ほんの一瞬の出来事がなにもしていないのに能力を使っているみたいに感じられた。

敵にとってはまさに好機の一瞬、それを逃すまいとネウロイは足を振り下ろした。

と、そのとき強い衝撃を受けて俺は右に飛ばされた。

素早く左を見ると犬が俺に体当たりをしていた。

おそらく動物の勘でとっさに判断してくれたのだろうか。

現にネウロイの攻撃は左にそれて俺や犬に当たる事はなかった。

 

 

素早く受身をとり、にネウロイを狙う。

ネウロイは攻撃のスピードを緩めることが出来ずそのまま突き刺してしまってのか、足が土に埋まって身動きできていない状態だった。

次はこちらの番だ。

今度こそ、倒す!

先ほどの攻撃で少しコアが出ているのでそこを狙い速やかに

発砲。

銃弾がコアを貫いてネウロイが爆発した。

喜ぶのもつかの間その爆発の衝撃で俺は吹き飛ばされ、思わず銃を手放してしまった。

しばらくの浮遊感ののちにまず右腕に衝撃を受け、その直後に背中に痛みが走った。

同時に頭もどこかにぶつけて一瞬星が見えた。

しばらくしてふらつきも収まってくると自分の状況が見えてきた。

どうやらまず飛ばされて、右腕に木の幹が当たった後に体が地面に叩きつけられたようだ。

しかも雪の上ならまだしも先ほどの攻撃で雪がなくなっており俺は頭を木の根にぶつけたようだった。

痛みをこらえ立ち上がり、戦果を確認する。

ネウロイは無事に撃破できたようだ。

だが、銃が木にぶつかったためか壊れてしまった。

これじゃあ、もう撃てないな。

荷物になるからこのまま捨てておくか。

銃をその場に捨てる。

よく考えたらこいつとはこの世界にきてずっと使ってきていたんだよな。

何体もこいつを使って倒したんだよな。

もう一度銃を取って改めて木に立てかけて敬礼する。

「ありがとう。」

思わず、つぶやいていた。

ずいぶんと俺も感傷深くなったものだな。

敬礼した際に痛みが走った右腕が熱を持ち始めたので、裾をめくると紫色に変色していた。

そこらへんの雪を拾って、押し付け冷却する。

他を確認すると左足のすねも打ち身をしていたようだ。

同様に雪を押し付ける。足の怪我は今後の進軍に影響が出そうだな。

とりあえず、拠点に戻るか。

 

 

拠点の家は半壊していた。

暖炉もなくなっていたし、そもそも家の半分がなくなっている。

残っている家も一部に着火しており近いうちに全焼してしまうだろう。

もうここに住む事はかなわないだろうな。

持ち主には悪いことをした。

「移動するか。」

「ワン!」

ここまでネウロイが来たという事はまた来る可能性がある。三十六計逃げるに如かず。

速やかに昨日冷凍した肉を回収し、その他装備を揃える。

本当はもう少し休みたかったので不満があった。

たが、ネウロイが破壊してくれたおかげでいいものが見つかりその不満もどこかへ吹き飛んだ。

スキー板が見つかったのだ。

これで移動速度も速くなるし、なにより歩くよりも足への負担も軽くなる。

すぐに靴を履き替えて、板に固定。

問題なく固定され、試しに移動してみるとスムーズに移動できた。

後ろを見ると犬たちも走っていた。

あいつらも走りたかったのかも知れない。

いままでゆっくりだったから犬も不満だっただろう。

だが、武器があとハンドガンだけというのが少々心細かった。

刀持ってくればよかったかも。

それにしても食料と、燃料はあと4日分か。

燃料はこれから先、補給できないだろうからかなり節約しないとだめだな。

 

地図を見て次の目的地を探す。

このままP41を使ってE105まで出られれば後はサンクトペテルブルクまで一直線か。

だいぶゴールが見えてきた。

「さてと、行くぞ!」

「「ワン!」」

掛け声をすると返事をしてくれる存在がいるのはありがたいものだな。

俺が滑り始めると全頭が走ってきた。

まだ、行程は半分も終わっていないがゴールがゆっくりだが見えてきた。

待っていろよ、必ず戻ってやるからな。

 

 

 

Another view side shimohara

 

私は飛行禁止空域ぎりぎりのラインを沿うように飛んでいました。

今日も特に発見できないまま任務終了時刻の0745が近づいていて少し焦りが出始めた気がします。

0700ごろ、遠くを見ていると一瞬何かが光ったような気がしました。

すかさず能力の遠視を使って何かを確認します。

もうひとつの能力の夜間視を使ってもさすがに直接正体は確認できませんでしたが、シルエットやその後光ったあの特有の発行色から地上型ネウロイと断定しました。

私はそれを監視していたのですがその10分後、突如としてそのシルエットが消えてしまいました。

周りに何かが飛んでいるのが見えたのですがわからずじまいでした。

とにかく、今確実にわかっていることは地上型ネウロイが先ほどまでは確かに存在していたのに突如として消滅してしまったということのみです。

なぜ消滅してしまったのかわからない今、この案件は早急に報告すべきだと判断しました。

「こちら502JFW所属の下原少尉です。あ、少佐。ええっと、・・はい。・・・いえ、少々問題が。・・・・はい。エリアR(ロメオ)です。・・・・・はい。よろしくお願いします。」

私は報告を終えて基地へと進路を取った。

この情報がなにか役に立てばいいのだけれど。

 

 

Another view end side shimohara

 

 




執筆以来、一番長くなりそうです。
ご指摘、ご感想があればお願いします。

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