妖精の翼 ~新たなる空で彼は舞う~   作:SSQ

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戦闘描写が続いたので今回はなしにしようかなと思ったけどやっぱり入ってしまった。
ただほのぼの展開。ぴりあま?
初の一万文字越え。


第31話 遠征(上)

1945/1

これから今日を含めて4日間、502JFWは臨時特別編成となる。

以前からたまに言われていた遠征が実施されることになり、俺たちB隊が行うことになった。

さて、B隊が遠征として前線で待機を行うことになった場所はエリアR(ロメオ)中央に位置するチェソヴォ=ネティリスキーというところになった。サンクトペテルブルグから直線距離で120km、ネウロイの巣があるノヴゴロドからは約50kmとFOB(Front operation Base  前線作戦基地)を置くにはなかなかいい位置である。

しかし、なぜこの時期に遠征があるのかというとまた“パターン”らしい。

3日以内にけっこうでかいのが来るらしい。

そんなもん、ここ最近は冬なのに一日おきくらいに来ているのだからそんな予想当たるに決まっているだろう。

しかし100%迷信とはいえないのが残念だ。

ユーティライネン少尉の未来予知なんかがいい例だ。

彼女はすぐ先の未来を視ることが出来るらしいがもしかしたら未来視が出来る奴を隠し持っているのかもしれない。

まぁ、そんな奴がいたらそいつ一人をめぐって戦争が起きるな。

・・・・可能性の話をしても仕方がない。少佐は過去のデータを元にパターンを見つけ出し、それを元に司令部が命令書をだしているのだから俺たちはそれに従うしかない。

しかし、天気予報じゃないんだからそんなのに時間をかけるならもっと別なこと、たとえばコンピューターなどを作るのに割り当てたほうがよっぽど迷信を信じるよりは確実だとは思うがね。

 

少佐から遠征に関するブリーフィングを終えて、今俺たちは荷造りをしている。

現在、チェソヴォ=ネティリスキーには人は住んでいない。

昔はそれなりに人がいたらしいが過去の撤退戦で既に住民は退去しており今はオラーシャ政府の所有地ということになっているため、東欧統合軍が臨時でそこを間借りする形をとって作戦を行う。

この町は東欧司令部の指揮下にある部隊のなかで公表されているなかでは一番近い場所にある。巣から一番近い観測所だってもっと遠い場所にある。

資料によるとしばらく駐屯する場所にある人工物といったら撤退する際においてかれたものや建物、最近設置したらしい俺たちでも使えるような簡易レーダー施設くらいしかないないらしい。そのため食料、燃料を毎回持っていかなければならない。またネウロイの活動範囲に近すぎるため空から補給物資を投下するという方法も一時は考えられたが結局却下された。

どうやら投下する機体を護衛するためのウィッチすら足りない状況のため、こうして毎回自分たちで担いでいくしかないのだ。ただ、前回の遠征の際、余った物を倉庫に保管してあるとのことなのでそれも上手く活用しながら持っていくものを選別する。

さて、突然だが敵の飛行ルートについて説明する。ノヴゴロドからサンクトペテルブルグまで侵攻する際のネウロイの飛行ルートのパターンは主に3種類ある。

まずは最短コースの一直線で飛行するルートα、次にエリアQ(クエベック)中央にあるストレチニ湖付近で北上するルートβ、エリアN(ノヴェンバー)北にあるキリシという町付近で北西方向に旋回して向かうルートγがある。

俺たちB隊が遠征で泊り込むチェソヴォ=ネティリスキーはコースαの線上にある。よって今回の任務はルートαを通るネウロイの殲滅にある。規模が大きいときは後ろに控える別のウィッチ隊と共同作戦を取る手はずになっている。

ほかの敵については、βはカールスラント空軍、γはオラーシャ空軍、その他やほかの部隊が見逃したネウロイを502が担当することになっている。

さて、大体準備が出来たみたいだな。

「よし。それじゃあ、持ち物の最終チェックを始める。伯爵」

「はいはい。弾薬と燃料。ちゃんと持ったよ。大尉も同じ弾薬をつかってくれれば楽なのに。」

「それは、兵器開発局の連中に言え。ルマール。」

「はい。衣服、各種医療品持ちました。」

「ウィルマ」

「通信機と、予備の部品。確認したよ。」

「了解。」

「隊長は?」

「食料と飲料水。確認した。」

「よろしい!それでは楽しい楽しい遠征にでも行きますか!」

「なんで、伯爵が仕切っているんですか・・・。」

格納庫の壁に立てかけてある各員の名簿の札を“出撃待機中”から“遠征中”に変える。

そして、ストライカーユニットに搭乗する。俺もメイブに乗り、エンジンの回転数を上昇させる。

チェックリスト、確認開始。

エラー

通常索敵レーダーに異常あり。

通常飛行に問題なし。

飛行可能。

なんだと?

「どうしたの?」

「いや、問題ない。」

とにかく飛ぶことは可能らしいから離陸シークエンスを続行する。

滑走路に進入し、離陸。旋回してエリアR(ロメオ)に向かう。

飛行開始から10分後グリーンランプ点灯、つまりエラーは直った。

索敵自体は空間受動レーダーやほかにもあるため、仮にレーダーが壊れても問題ないがなぜエラーが起きたのかがわからない。

すべての機器の精査を行うが問題はなし。別のプログラムでも確認するも問題なし。

内部の問題ではない?では外部?

Garudaに対しあらゆる条件を考慮して原因を探すよう命令する。

5分以上かけてGarudaが出した結論は

“情報不足”だった。

じゃあなんだ?フェアリでは常に問題なく動くはずの機械を乱すような原因となるものは。

・・・・・・・・あれか。

ふと、とある原因になりうる可能性が思いついた。

そう考えればなぜレーダーだけが影響を受けたのかうなずける。

もしかしたら敵さんにも影響が出ているかもしれない。ネウロイにも何か変わった動きがあればいつかたてなければならない進行作戦の鍵になるかもしれない。

とにかく、Garudaに可能な限りその原因を考慮に入れて対策をとるよう命令を下す。

 

しばらくして目的地が見えてきた。

もちろん滑走路なんてないから近くの広くて降りることができる牧場に着陸する。

無事着地し、牛舎を格納庫代わりに使う。ユニットから降りて全員に集合をかける。

全員が降りて俺の前に整列したので指示を出す。

「お疲れ様。さて、これから指示を出すからそれに従って行動してくれ。ウィルマ、通信機を設置しろ。ルマール、泊まる場所の掃除を頼む。伯爵、家の中を回ってしばらく過ごすのに問題があるような場所の修理を行え。ウィルマ、伯爵はそれぞれの仕事が終わったら雪かきを始めよう。解散!」

「「「了解。」」」

俺はウィルマが設置した通信機で本部に到着を報告する。

本部からの通知によるとしばらくは晴れが続くらしいが3日目の夜から最終日の朝にかけて吹雪く予想が出ているとのことだ。

屋根が落ちると怖いからとにかく雪を落とす。時々使われる程度なので修繕なんて簡単にしかされてない。どこかが壊れやすくなっているかもしれない。家が壊れるのはたまったものではないので、少しでもリスクを減らす。

しかし、先にレーダーを設置しなければならないので先にそちらを済ませる。

掃除が得意なルマールに家は任せて雪をどかす。しばらくするとウィルマと伯爵が合流した。どうやら二人とも問題なく終わったとのことだった。

「それにしても寒いね。」

「昼でこの寒さだから、夜はかなり冷えるな。ストーブが正常に動くといいが。」

「それは問題ない!」

伯爵がスコップを上に掲げて叫ぶ。

「なぜならカールスラントの科学力は世界一だからな!」

「でもこの家のストーブはオラーシャ製だよ。しかも薪ストーブ。灯油じゃない。」

「「「・・・・・・・・・・・。」」」

「・・・じゃあ何で燃料持ってきたんだよ?私の苦労は!?」

「まぁ何かには使うんじゃない?」

不安になったので持ち物リストを確認したが確かに灯油と書いてあった。

外や部屋照らすのに使えばいいか。どうせ電気なんて通ってないし。

 

30分くらいである程度雪をどかすことで広さが確保できたので牛舎から簡易レーダー装置を引っ張ってきて起動させよう、と思ったのだがうんともすんとも言わない。

「寒さにやられたか?」

「そうみたいだね。どこかのコードが切れちゃったのかな?」

「やっぱりオラーシャ製でも寒さにはだめなものもあるんだな!」

「1939年カールスラント陸軍納入って書いてあるよ。」

「「「・・・・・・・・・・・・。」」」

伯爵、涙拭けよ。

「もう軍曹の馬鹿!!」

伯爵がウィルマに抱きつこうとしてあわてて逃げる。そのまま家に逃げていき伯爵もそれを追いかける。

遊んでないで仕事しろ。というか、突っ込み役というのも時には自重しないとだめだな。

いや、それ以前によく屋根から飛び降りても平気だったな。

「屋根から雪降ろすから、家から絶対に出るなよ!」

「わかってるよ隊長!もう捕まえたから!」

「伯爵!?いや、放して!!」

じゃれあうワイマラナー(犬)とスコティッシュフォールド(猫)を放置して、屋根に上る。もともと尖がっていて雪が積もりにくい形にはなっているがそれなりに残っている。

それを何とか滑らないように落とす。

 

何とか降ろして暖を取ろうと部屋に戻るとルマールが二人を正座させて怒っていた。

ものすごい剣幕で怒鳴っている。

早口で何を言っているのか時々聞き取れなかったが要約するとせっかく整えたベッドや部屋をこんなに散らかして、私も働いているのになんで遊んでいるんですかうんぬん。

「それくらいにしてやれ、ルマール。」

「あ、バーフォード大尉。ですが・・・。」

「どうせ、伯爵なんていっても聞かないだろ。二人とも正座一時間な。ルマールもこれでいいだろ?」

「はい。」

それにしてもずいぶん散らかしたものだな、雪降ろしている間になにやったんだか。

「伯爵、人の嫁に何しやがる。」

「なっ!」

一瞬でウィルマの顔が赤くなる。意外なところでウブなんだな。

「いいじゃんべつに、触って減るようなもんじゃないし。」

「・・・・・お前は何をしたんだよ。まぁいい、一時間たったら部屋を元に戻せよ。」

「「はーい。」」

二人のいる部屋を離れて牛舎に行く。既にルマールによって掃除が完了しておりここでも十分寝れるんじゃないか?というくらいきれいだ。さすが502で一番の綺麗好きだな。まぁそんなことしたら凍死しそうだけど。

テーブルの上においてある通信機をストーブのある部屋の中に持ち込んで部屋の中でも通信状態が良好であることを確認した上でもし本部から指令が届いたときにすぐに反応できるように待機する。

ストーブが正常に動いているためか部屋の温度も上がってきて快適になってきた。隙間は既に伯爵のお陰かふさがれているため外から冷気が入ってくることもない。

平均最高気温が-5.1℃、平均最低気温が-10.7℃だけあって外は寒い。もちろん部屋の中でも防寒具を着ている。

4時間途中で交代しながら待機したが結局この日、ネウロイは来なかった。

日の入り後30分が経過したので本部に定時報告を済ませて、今日の業務は終了となった。

 

1900

夜ご飯の時間となった。皆で食べるといっても502でいつも食べているような物ではなく、長期保存の利く軍用携行食や缶詰といったものだ。

ただ、せっかく火があるので使わない手はない。本当はコンロを使うのが正しいのだがガスも通ってないからこちらも使うことができない。

フライパンの上に乗せて火に近づけていためたりして調理する。

明日、一度煙突を掃除しないとだめだな。

食器を洗ったり何かと水が必要なので雪の塊をなべの中に入れて火にかける。70℃以上の温度で10分やれば殺菌できる。薪ストーブの火力なら十分だろう。

お湯も出来たのでコーヒーや紅茶を淹れる。

「ふぅ。今日もお疲れ様でした。」

持ってきたらしいクッキーを皆にどうぞと差し出しながら言ってきた。ルマールの手作りだそうだ。

「ルマールが今日は一番働いてくれたから。助かった。」

「いえ、私は元々掃除が好きなのでこれくらい・・・。」

「それでもいいんだよ。それで、そこにいるお二方は今日何をしてくれた?」

ビクと二人の方が動く。

そして伯爵がビシッと手を挙げて宣言する。

「部屋にあった様々な物の位置を変えました!」

要は散らかしたというわけか。

「明日、煙突掃除な。」

「はっはっは!冗談がきついよ、大尉!」

「・・・朝食抜きにしてやろうか?」

「ごめんなさい。ちなみに軍曹は?」

「ウィルマは執行猶予だろ。先に手を出したのは伯爵だろ?」

「まぁそうだけどさ。でも軍曹には甘いね!」

「悪いか。」

「そっか、なるほどなるほど。バーフォード大尉はお嫁さんの尻にひかれるタイプか。」

そんなことはない、そんなことはないはずだがどうだろうな。

「そういえばさっきお嫁さんとか言ってましたもんね。」

ニヤニヤしながらルマールが言ってくる。

こいつら十代女子はやっぱり食いついてくるものなのか。

「まぁ、言ったな。」

「将来は結婚とかするんですか?」

「「へ?」」

 

思わずウィルマと同時に声を上げてしまう。

返答しようと思ったがなんと言えばいいのか思い浮かばない、というか今まで考えたこともなかった。いつ死ぬかわからない身だからとお互い言えなかったのだ。

いや、それ以上踏み込みたくなかったのかもしれない。

なんせ、どちらかを残して片方がいなくなる可能性だって十分あるから。

だが・・・・

 

「リョウはさ、私と結婚したい?」

思考はその言葉で遮られる。いつの間にかウィルマは俺の気づかないうちに目の前に来ていた。

今、俺はどう答えるべきか。将来を見据えて考えるならするべきではないだろう。するとしても退役後だ。

だが、そんな考えは彼女の目を見た瞬間消え去ってしまった。

まっすぐ、あなたの気持ちを答えてほしい、そんな風に言っているように見えた。

なら、俺が言うべき言葉は一つだ、覚悟を決めろ。

もう失わない、必ず守るとあの時彼女に誓ったはずだ。

だから俺は、

「あぁ。」

肯定した。彼女は微笑みながら"良かった"と呟き

「なら私はその言葉で十分だよ。リョウのことだから将来のことを考えてなんて思っていたんでしょ?だからいつ?なんて聞かない。そのときが来るまで私は待っているから。」

額と額をあわせながらそういってくれた。

「ね?」

 

かなわないな、彼女には。それに俺もずいぶん変わった。ジャックに以前、指摘されたがその通りだ。他人のことを優先事項に含められるようになったし、性格がずいぶん丸くなったと思う。

「ありがとう。」

「うん。」

 

 

 

 

「あのー。すみません。お二人の世界に入るのはいいんですけどそろそろ戻ってきてほしいです。」

「あっ、え、えっと・・・。ごめんなさい!」

ばっ!と俺から離れて近くにあった毛布に包まって顔まで隠してしまった。

「それにしても大尉と軍曹か~。階級を超えた上司と部下の恋模様か~。これだけでも小説かけちゃいそうだね。」

「伯爵、茶化すな。それと、それやったら絶対に許さないからな。銃殺刑ものだぞ。」

「えーどうしようかな?」

「・・・・・すこし外に出てくる。」

「寒さ対策はきちんとしてくださいね。」

「わかった。」

 

外に出てさっきのことをもう一度考える。まだ一ヶ月もたってないんだな。彼女とこういう関係になってから。

ここ最近は、命令があれば飛んで交戦し、撃墜したりネウロイの習性について調べたりする日々がずっと続いたからな。考える暇がなかったとは言わないが意識的に無視していたのは事実だろう。

結婚しなければ仮にどちらかが死んでも若気の至りとか何とか言って忘れることが出来るだろう。しかし、もしその一線を越えてしまえばどうなってしまう?

俺にはそれがわからない。そのときも同様に忘れることが出来るのか?

いや、もう今の時点で既に忘れるなんて不可能だろうな。

ならいっそのこと進むしかないだろう。

だが・・・・、だめだ、またループを繰り返す羽目になりそうだ。さっきは覚悟なんて言ったが深くその事について考えれば考えるほど雑念が入ってきて覚悟が揺らぎそうになる。

そういえば、FAFではヒュー・オドンネル大尉とかがそうだったな。

テストフライトは見ていたがまさかあんな結果になるとは。特殊戦のとは違って明るくていい奴だがそういう奴に限って死んでいく。

一度ジャックにでも相談してみるか。あいつはもう子持ちだし。

結局星空を30分くらい見てから部屋に戻った。

 

 

「・・・って言ってくれたんだよ。」

「へー、意外と隊長もいいこと言うんだね。」

部屋に戻るとウィルマは毛布から抜け出し三人で話していた。女子会、ガールズトークってやつか。

「お帰り。寒くない?」

「平気だ。」

「さっき、どう告白してくれたかを聞いてたんだよ。意外といいこと言うんだね。」

「やかましいわ、伯爵。」

「年が変わった直後にプロポーズなんてまるで映画みたいで羨ましいです。私もいつかこういう風になれるんですかね?」

ルマールがため息をつきながらそうつぶやいた。

「まぁ、がんばれ!」

「ウィルマさんがそういうと、勝者の言葉にしか聞こえないんですよ!」

「そうだそうだ!」

あいかわらず伯爵はあおるな。こいつらだってネウロイがいなければ普通に青春を謳歌していたのに、いや結局人類同士の戦争に巻き込まれていたか。ウィッチとして全線に出るか軍人の補佐役にでもついていたのだろうか。

 

「そういえば、軍曹って20歳超えているのに魔力はぜんぜん問題ないのかい?」

「去年の暮れまではシールドも張れないくらい弱まっちゃったんだけど今年に入ってからなんかわからないけど改善してネウロイのビームにも耐え切れる位にまで回復したよ。」

「そんなことってあるんですか?魔力が回復とか。」

「一時的なスランプとか?それなら前例が幾つかあるみたいだけど。隊長は何かわかる?」

・・・・・心当たりは確かにあるがいや待て、ゲームじゃあるまいし。

そんなことがあってたまるか、いや実際起きているんだから、どうしたものか。

まぁ、考えないことにするか。冷や汗が少し出てきたが。

「わからない。」

「そっかー、まぁウィッチのこと自体も詳しくはわかってないこともあるから仕方ないかもね。」

「そうですね。あっ、なんかもうこんな時間なのでそろそろ寝ましょうか。」

「そうか、じゃあ私はベッドをこっちに持ってくるね。」

「いったん換気しますね。」

ここで寝るのかよ。まぁ、暖房効率を考えれば納得だな。

しかし、驚いたことに別の部屋からベッドごと持ってきやがった。二つのシングルに一つのダブル。

「じゃあ、俺はソファに寝るから・・・・。」

「「駄目だよ(です)!」」

「何故だ!?」

なぜ、伯爵ならともかくルマールまで?

「バーフォード大尉が隊長なのに寒い思いをするのはいけないと思います。」

「というか、二人に何かあった方が面白いし。」

「本音が駄々漏れだぞ。」

「まぁ、バーフォードも諦めて。一緒に寝ようよ。」

ベッドをバンバン叩いてウィルマが言ってくる。さすが行動力の塊だな。

まぁ別に嫌なわけではないし。

「はぁ、わかったよ。ほら、ランプ消すぞ。」

「「おやすみー。」」

「お休みなさい。」

パチン。ランプは消えたがストーブの火が意外と明るい。

自分が寝るベッドに入る。ちょっと暖かい。

 

10分くらいして他の人の寝息が聞こえてきた頃ウィルマが小声で話しかけてきた。

「起きてる?」

「一応な。」

そういうと、体をこっちに向けていきなり抱きついてきた。こうして彼女の体温が直に伝わってくるとなんとも言えない気持ちになる。俺はどうしたらいいのか、何をすべきか、いろんな考えが頭をよぎる。

そんな俺を見て、何かを思ったのか話しかけてきた。

「さっきはありがとうね。いつか結婚してくれるっていってくれて嬉しかった。」

「いいのか?俺でも?」

もしかしたら、一番聞きたかった質問かもしれない。

「もちろん、他に誰がいるの?」

「いるのか?」

冗談で聞いてみる。

「まさか。リョウは?」

「いないな、君が一番だと思う。」

そういうと、彼女は笑顔になった。よかったと思ったがその一方で少し安心している自分がいると思うと情けなくなる。

「明日も早いからもう寝よう。おやすみ。」

「うん、おやすみ。今日はいい夢が見れそう。」

「それは良かった。」

 

こうして、初日は無事終わった。

 

 

 

二日目、早朝

ガサッ

何かを踏む音がして一瞬で目が覚めた。

条件反射でウィルマの拘束から抜け出して右足につけてあるホルスターからFN GP M1935を抜き、初弾を装填して安全装置を解除、音のした方面にある壁に張り付く。

近くに鏡がないか探すが特に見当たらない。代わりに小物入れが置いてあったので音のしたほうに投げる。どこかにあたったのか割れる音が響いた、その瞬間再び雪を踏む規則的な音が聞こえた。

やがて聞こえなくなったが10分ほど時間を置いて外を確認する。

見える限りでは異常は見当たらなかったので左手にランプを、右手に拳銃を持って外に出る。あたりを警戒しながら家の周りを一周する。結局確認できたのは小さな足跡が複数あるのだけだった。いたのは鹿あたりか。

家に戻りランプを消し、初弾を薬室から取り出して安全装置をかけて消えかかっている薪ストーブの火をもう一度つける。まだ真っ暗だがもう0523だ。0600には本部から気象情報の通達が行われるから全員おきなければならない時間なのにまだ寝てやがる。まぁ、ぎりぎりまで寝かせておいてあげるか。

今日は走ることが出来ないので体を伸ばしたりといったストレッチ程度にとどめておく。

誰も起きなかったから0545に全員を起こしてすぐに支度をさせる。

0600からの気象ブリーフィングでは今日の天気、及び一週間の天気に関して特に変更がないことが通達され、引き続き待機を命じられた。

今日は一日中快晴で気温も少し上がるらしい、がよく見たら“真冬日”だった。

最高気温が氷点下なので防寒対策をしっかりと行うようにだそうだ。

昨日の晩御飯とそれほど変わらない内容の朝食を済まし、出撃待機状態となる。

しかし、本部のように待機室があるわけではないので先ほどと変わらずリビングで待機する。

出撃の際、ストーブはそのままらしい。放置しても問題ないのか疑問があるがいいならそれに越したことはない。なんせ巣から50kmしか離れていないからな。ストーブを消している間に距離を詰められ、地上にいる間に攻撃されるなんて事態が起こる可能性があるためだろう。

ただ、ネウロイが来るまでは暇なわけで、ついにわが隊の盛り上げ担当の伯爵が

「暇だ!」

ギブアップした。

「雪合戦しよう!」

「却下。」

「なんで!?」

「万が一ネウロイが襲来したらどうする?」

「誰かがここに残ればいいじゃん。」

まぁ、そうか。

「じゃあ、お前ら言ってこいよ。俺が待っているから。」

「やったね!さすが隊長!」

いつぞやぶりに伯爵にウインクされる。だからそれされるとどう返せばいいのかわからんのだよ。

「私がここに残りますからバーフォード大尉が行っていいですよ。」

「いや、しかしだな。」

「行ってください。だってほら、バーフォードさん、502に来てからウィルマさんと遊ぶ時間なんて取れてないでしょ?こういう時にしないと次はいつになるかわかりませんよ。」

ルマールはこういうときに気が利く。

「・・・助かる。だが、警報が出たらすぐに呼べ。なんだったら銃声で知らせてくれてもいいからな。ただ、撃つときは上を向けろよ。」

「わかりました。」

「30分で戻る。」

「了解です。」

手袋をつけて、外用の靴に履き替えて外に出る。

扉を開けた瞬間二つの雪玉が飛んできたのであわててしゃがんで回避する。

「ほう、伯爵、軍曹。余程戦争がしたいと見える。」

「大尉さんには前回の緊急発進のとき撃墜数で負けているからここで取り返す!」

「まぁ、どうせなら勝ちたいからね。バーフォードに当てられるようがんばるよ!」

二対一の劣勢だが能力も考えれば十分勝てる。

「よろしい、ならば相手になってやる。二人とも雪球の貯蔵は十分か?」

とは言うもののまだ一個も手元に武器がないから近くの遮蔽物に身を隠しすばやく雪玉を作る。

「軍曹!援護してくれ!私が一気に攻め込む!」

「了解!」

どっちから来る?右か?左か?

勘で右に出るとウィルマが遠くに見えた。すぐ左を見ても伯爵はいない。

どこだ?

「隙あり!!」

後ろで殺気を感じたのですぐ横に飛ぶ。

元いた場所を雪玉が着弾する。遮蔽物を乗り越えてきたか。

すかさず持っていた雪球を投げるが伯爵が遮蔽物から偶然滑って転がり落ちたことで回避される。

視界の端で何か動いたのですぐその場に伏せると連続で二個飛んできた。

ウィルマからの援護射撃か。お互い手の内をよく知っているので厄介だ。

さらに一個伯爵から飛んできた。

馬鹿な、もう彼女は雪球を持っていないはずなのに!?

よく見たらさっき俺が作った奴だった。拠点が制圧された。仕方ない、次の場所まで移動するか。

一番近い遮蔽物まで30m。全力で走る。その間も攻撃を受ける。

「軍曹!地点225313に対地攻撃要請!」

「了解、攻撃します!」

上から雪球が降ってきた、迫撃砲かよ。まぁ、かなりずれているから当たらないがな。

だが、そうやって身を隠している間にも伯爵がどんどん近づいてくる。ここが勝負所だ、今作った二つの雪球に全てを賭ける。

左から全力で飛び出して敵の位置を確認、二時方向、距離8m。その後ろ、俺から10mにウィルマか。

伯爵がすでに投げるモーションを取っていたのでその場で急停止する。そして俺の前を雪球が通過する。

まず左に持っていた雪球を伯爵に投げる。イナバウアーをして回避しようとしていたが失敗してそのまま仰向けで倒れていった。

次に右手にある雪球をウィルマに投げる。直球、ストレートで投げられた雪球は完全にノーマークだったウィルマの顔面に直撃して、彼女も仰向けに倒れていった。

伯爵が投げて回避した雪球を取って、近くまで歩いていく。

「最期に、何か言い残すことは?」

「ヘッ、田舎の母ちゃんによろしく言っといてくれ。」

「了解した。」

そういって、俺は彼女に雪球をぶつけた。とりあえずは勝利した。

「ブヘ。隊長、どうだった?私の演技?」

「60点。」

「61点満点で?」

「1300点満点でだ。」

「なんだよー。」

手を差し出して彼女を立たせる。

「お、さすがブリタニア紳士だね。」

「やかましいわ。」

ウィルマの近くに行くとまだ倒れていた。

「大丈夫か?」

「立てない。手、貸して。」

そういって手を差し出した瞬間、彼女が右手に隠していた雪球を投げてきた。

とっさに反応できなくて、何とか回避しようとしたが右肩にぶつかった。やられた。

「リョウなら絶対手を差し出してくれると思ったよ。だから油断していると思った。」

「・・・さすが、何でも知ってるな。」

「でしょ?」

その後投げに投げて被弾3、撃墜7(伯爵4、ウィルマ3)だった。

 

「ルマール、時間を取ってくれてありがとうな。」

「いえ、とんでもないです。楽しめましたか?」

「おかげさまで、あの二人はまだ外にいるからルマールもいくといい。」

「いいんですか?」

「もちろん。」

「ありがとうございます、それでは失礼します。」

スキップしながら出て行ったところを見ると彼女も遊びたかったのかもな。よく考えれば本部での勤務は午前のみとかの場合がほとんどのため休日がない。月月火水木金金状態だ。だから少しは遊びたかったのかもしれないな。

 

 

結局今日も襲来はなかった。

あの後遊びつかれた三人は待機中もうとうとしてたくらいだからよっぽど体を動かしたんだな。まぁ、こいつらのことだから緊急出撃になったら一瞬で気持ちも切り替えてくれるだろうからそこは安心している。

来るとしたら明日だろう。

今日はしっかりと体を休めて明日来るかもしれないネウロイに備えるとしよう。

 




最近話数が増えるたびに文字数が増えていく。
今回も5000いったらいいほうかなとか思ってたら倍近くにまでなり書き終わったところで右下の文字数みてびっくり。
スマホで投稿するよりwOrdつかったほうがやっぱりラク。
校正もしてくれるし。
ちなみに、主人公の呼称について
ウィルマはバーフォード、二人の時はリョウ(例外も)
伯爵は隊長
ルマールはバーフォード大尉、隊長
です。
ほかの人は『大尉』です

間違いがあればご指摘願います。

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