幼馴染がアイドルを始めたらしい   作:yskk

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前回の話の海未ちゃん視点になります

ほんのり恋愛風味?まぁ本当に微々たるもんですが
当然、内容は前話とほぼ一緒なんで
そんなんいらんって方はブラウザバックでお願い致します


EX:手紙と建前

 この扉と対峙してもう何分ほどになるでしょうか。恐らく実際の時間はさほど経過していないはずです。それでも私にとっては、ものすごく長いことのように感じられました。

 まるで永遠のように、なんて言うのはさすがに言いすぎですが、でもそれが大げさでない位には長く長く感じられました。

 

 男の子の家とはいえ見知らぬ相手というわけでもありませんし、下の階でしっかりとおば様に挨拶を済ませて、許可も頂いてきました。それでも、まるで自分が何か悪い事をしているかのように考えてしまうと、余計に身体が動きません。

 

 とはいえ、このままじっとしていても何も変わらないということも承知していました。

 

「……ふぅ」

 

 決意を固めるように大きく息を吐いてから、鉛のように重く感じられていた自分の腕を持ち上げ、そして軽く握った拳を目の前の扉へと当てて行きます。

 コンコンと乾いた音を立てる扉。自分で作り出した音だというのに、自らそれに驚いてしまいました。そんな私とは反して、部屋の中は全くの無反応。しかし、何故だかそのことにホッとしている自分が居ました。そして同時に、そのまま回れ右をして帰ってしまいたい衝動にも駆られましたが、何とか思い留まります。

 再度、今度は二度三度と扉を鳴らし続けます。やはり反応の無いそれに、今度は逆に不安になってついつい手に力が入ってしまい、音も次第に大きくなっていきました。

 

「海未?」

「お、お早うございます」

 

 突然、ガチャリという音を立てて開かれる扉。その奥から目当ての人物が顔を見せました。

 彼の部屋なのだから彼が出てくるのは当然のなのですが、不意を突かれた格好になった私はノックをする姿勢のまま暫く固まってしまいました。

 

「珍しいな」

 

 そう言った航太の顔は、起きたばっかりだったのでしょうか、まだ眠そうな顔をしていました。そんな顔を見て、素直に申し訳ない、そう思いました。

 事前に連絡もなしにお宅に訪問するなんて、不躾なことだというぐらい重々承知しています。それでも電話なり、連絡を入れようとする度に点で心が折れそうで、だからあえてこうして約束なしに押しかける、そうすることしか今の私には出来ませんでした。

 

「まぁいいや、とりあえず入れよ」

 

 そう言って航太は私を部屋の中へと入るよう促します。

 そうして案内された部屋は、なんだかいつもと違うように見えました。模様替えをした形跡があるわけでもありませんが、穂乃果やことりと訪れた時とは何処か違う景色に見えてなりませんでした。

 

「どっか適当に座っててくれ。今、お茶でも持ってくるから」

「あっ、いえ。そんなお構いなく」

 

 航太はそんな私の言葉にニコリと笑うと部屋を後にします。

 しかしそうして一人残された私は、ただ所在なげにしばらくオロオロとしていることしか出来ませんでした。

 

 

 

 

「お待たせ」

「すみません。こんなに早くに押しかけてしまって」

 

 何とか心を落ち着けて腰を下ろすと、ちょうど航太が飲み物を手に部屋へと戻って来ました。

 それにしても居心地の悪さは想像以上でした。航太が悪いわけでも、この部屋が悪いわけでもありません。彼の部屋で彼と二人きりという状況が、私にとっては平静で居られる限界をとっくに超えていたのです。

 

「まぁ良かったら飲んでくれ」

 

 そんな彼に促されるまま、運んで来てくれたグラスへと手を伸ばします。そうして口をつけてちびりと中身を飲むと、よく冷えた麦茶が喉を通り抜けていきます。

 するとほんのり身体が軽くなったような、そんな気がしました。

 

「……」

「……」

 

 いつもだったらめんどくさそうに、どうしたんだ、なんて聞いてくれる彼が今日は黙ったままでした。必然的に部屋は沈黙に包まれます。

 私が何か相談があってここに来たことは察しているはずなのに、そう彼はずっと黙ったままで。

 

「……何も聞かないですね?」

 

 そんな彼がもどかしくなって、とうとう自分から口を開いてしまいました。

 彼に落ち度なんてありませんし、彼に当たるなんてお門違いだということも分かっています。それでも穂乃果やことりが同じ状況になった時の彼の姿を思い出してしまうと、そんなことなど引っ込んでしまっていました。彼女たちの時はもっと積極的に話を聞いてあげていたはずです。そう思うと勝手に言葉が口から零れ出ていました。

 

「話してくれれば聞くけど」

 

 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、航太はしれっと私の話を促します。そんな彼にほんの少しだけムッとしながらも、私だっていっていつまでも拗ねているほど子供ではありません。

 大きく一つ深呼吸をしてから本題を切り出すことにしました。

 

「て、手紙を貰ったんです」

「手紙?」

「……はい」

 

 航太へと事情の説明をする。その最中、話しながら先日のことを思い返していました。後輩の女の子から情熱の篭った手紙を頂いたことを。嬉しさは感じた反面、それ以上にその文面を読んで恥ずかしさがこみ上げてきたことを。そしてその後にあったもっと恥ずかしいことも。

 そんなことを思い出しながらも、これから来るであろう一世一代の大勝負の為に、何とか平静を保つよう心がけていました。そして私は意を決してその言葉を口にしました。

 

「だ、だからその……もし予定が無いのでしたら、今日一日、私に付き合っていただけませんか?」

 

 それは恐らく、今まで生きてきた中で一番緊張したであろう瞬間でした。弓道の大会なんていうのは目ではなく、穂乃果とことりの三人でμ'sとして始めて舞台へと向かうあの時よりも遥かに落ち着かないそんな瞬間。心臓は早鐘のように打ち、手は汗で濡れていました。

 何とか搾り出した声も擦れていて、消え去りそうなほど小さいのが自分でも分かりました。私の言葉が相手に伝わっているのかすら不安になりましたが、それを確認する為に視線を上げる勇気すら私には残っていませんでした。

 

「いいよ。特に予定もないし。何より海未の頼みだしね」

 

 それでも航太は拍子抜けする位あっさりと、快諾の返答をくれます。

 そもそも女の子から手紙を貰ったから、休日に一緒に出かけて欲しいなんて支離滅裂もいいところです。それでも深く考えていないのか、あえて気にしなかったのかは分かりませんが、とにかく航太は私にとっては最良の一言をくれました。

 

「いいけど、ちゃんと計画は練ってあるのか?」

「へ? ……あっ」

 

 そんな安堵感に包まれていた私を、航太の言葉が現実に戻します。そして自分の無鉄砲さ、無計画さに顔を赤らめることになるのでした。

 

 

 

 

 夕暮れに染まる喫茶店の片隅。先程まで見ていた映画について話す自分が、やたらと饒舌であることを自分でも感じていました。

 実際ふたりで取った昼食も、その後に見たその映画も楽しかったのは事実です。ですがそれ以上に、何か話していないと間が持たないというか、この状況を直視させられるようでなりませんでした。

 

 何しろ今までのことを振り返ると、それは紛れもなく俗に言う、その、で、デートというやつでして。それを今自分がしているという現実を受け入れるには、私のキャパシティーでは到底無理なことでした。

 

「喜んでもらえたようで何より」

「……ええ。おかげで、とても楽しめました」

 

 そんな私とは対照的に、航太はいつもとは変わらない様子で私の目の前でコーヒーなんか口にしています。

 考えてみれば、それも当たり前のことで。穂乃果やことりから、ふたりで遊びに行っただの、あれを食べてきただのと彼女たちからよく話は聞かされていました。それどころかμ'sの他のメンバーとも昔から面識があるらしいですから、当然そういった機会もあったのでしょう。

 だから彼にとって、今日のことも特に意識する程の事でもないのでしょう。そう納得すると共に、そのことがなんだか面白くないと思ってしまっている自分が居ました。

 

「……それで、どうするかは大体決めたのか?」

「どう、とは?」

「だから、ほらあれだ。付き合うとか付き合わないだとか、そんなあれだよ」

 

 付き合う?

 初めは正直航太が何を言っているのか分かりませんでした。しかし彼の話しを受けてようやく理解が追いつき、必死でそれを否定します。

 

「紛らわしいわ、まったく。だったら男の俺と来てもしょうがないんだろ」

 

 全く持って彼の言う通りです。自分がおかしなことを言っていたという自覚は大いにあります。それに説明不足であったことも否めません。ただ、全てを説明するなんていうのは私にはとても出来そうもないことだったのです。

 

 だって、そうでしょう?

 あの手紙を頂いて、家に帰って読んだ後。想像してしまったのです。もしこの手紙が航太から送られたものだったらと。

 そうなってしまえば後は想像の輪が広がっていく一方で。それでも今までの私だったら、かぶりを振って無かった事にしていたかもしれません。

 ただ、今回はそんな想像を楽しんでいる、それどころか実現して欲しいとすら思っている自分がいました。

 そんなことがあったなんてことを、どう説明しろというのでしょうか。

 

「……あ、あの。怒りましたか?」

 

 黙ってしまった航太のことを覗き込むようにして、恐る恐る口を開きました。

 私が今日一日、彼のことを振り回してしまったことは事実で、怒られたとしても仕方がないことです。それでも都合のいい話ではありますが、彼にだけは嫌われたくない、そう思いました。

 

「別に。どっちかって言うと安心した」

「え?」

「まぁ、あれだ。俺もなんだかんだで楽しめたからさ、だから怒ってなんかいないよ」

「……そうですか」

 

 安心した。その航太の言葉の意味は私には分かりませんでしたが、いつもの様に穏やかに笑う彼の顔を見て、心底救われたような、そんな気持ちになりました。

 そして、もし叶うのであれば今一度こんな機会を、そんな願いが心の底で生まれていました。

 




息抜きに変化球も投げてみたくなった、そんな気分
もう海未ちゃんがメインヒロインでいいんじゃないかな(適当


こんなもんいらんわと言われそうな感じはヒシヒシとしているのですが
需要とか気にしてたら二次小説書けないよね
まあ、そもそもこの小説自体の需要がそんなに(ry

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