彼らは長い間、抵抗していた。
何日も、何日も、何日も。
外部からズブズブと音を立てて入ってくる一方的な悪意。
それに二度と屈してなるものか、と。
人は神ではない。決して、万能でもなければ無敵でもない。
だから、勝ち目はなくても刃向かうことはできる。
彼らは、ひと度の決意と共に抗っていた。
『嫌だ……もう一度、あいつを裏切るなんてッ……!!』
『あたしは、絶対に、もう!』
『わたくしはもう、負けはしませんわ!』
『オラたちを、舐めるんじゃねえべ!』
『チールは、逃げないって決めたもん!』
彼らを科学の力が襲う。
魔の囁きが、耳朶に染み込む。
――あいつは敵だ――
――あいつは敵だ――
――あいつは敵だ――
『違うッ! あいつは、敵じゃねえェッ!!』
『何を知ったふうな口をっ……!』
『マスターを愚弄することは、許しませんわ!』
『オラだってそれぐらいのことは分かるべさ!』
『チールは、絶対、負けない!』
――あいつは敵だ――
――あいつは敵だ――
――あいつは敵だ――
洗脳と否定。
脳内を駆け巡る毒に抗いながら、彼らは徐々に消耗していった。
生き物と、疲れを知らない機械では持久戦ではあまりにも分が悪かった。
飲まず食わずで機械にぶち込まれ、よくも分からない電気信号で脳みそを掻き回され、今までの全てを壊されそうになる。
それは、想像を絶する地獄だった。
止むことのない、敵という言葉。
思い出を書き換える、命令。
その全てに抵抗しようとして、強くなる一方の猛毒。
気持ちだけで、何とか堪えている状態だった。
「ふむ……意外に時間が掛かりますねぇ……」
堪えるだけしかできない地獄の中。
その声を聞いたとき、堪えていた感情が爆発した。
隻眼が見つめる先で、狂ったように吠え声を上げて暴れだすポケモンたち。
細胞という細胞が憎んでいるかのように、牙をむいて、あるいは爪を出して吼える。
「おや? ワタクシの顔を覚えているのですか? 道具の分際で生意気な」
声の主が嘲笑う。それが怒りを加速させる。
『このクソッタレがァ!! 殺す、テメェだけは殺すッ!!』
声が届くNが聞いていれば、目を背けるだろう。
彼らのむき出しの敵意に、飄々としている男。
「感情もないくせに、暴れる時だけは一人前ですか。恐ろしいですねえ、やれやれ」
皮肉げに唇を釣り上げて嗤う。
比例して、ポケモンの声も強くなる。
近くにいた白衣の研究者たちは青くなってそそくさと退席していった。
これは、彼女の知らないところでのお話。
嘗ての彼らは、過ちを繰り返す。一度はオノレの意思で。今度は、他人の意思で。
それをまだ、彼女は知るよしもない……。