ポケットモンスターW2 英雄の忘れ物   作:らむだぜろ

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更新が遅くなってしまいまして、申し訳ございません。
久々に更新させていただきました。
これからも不定期になりそうですが、よろしくお願いします。


気付いた間違い

 

 

 

 

「トウコ~? ちゃんとついてくるんだよ~?」

 お昼を食べ終えたトウコとベルは、また歩きだし、電気石の洞穴へと向かう。

「……」

 眠気がある程度なくなり、クリアになった頭。

 トウコは無言で彼女に手を引かれて、ただついて行く。

 楽しそうなベル。それを見ていると、思ったことがあった。

(私は……どう、あの男と決着をつけるべきなのだろう……? ベルとは……最後には……)

 そう、決まっていることなのだ。可能性として、彼女と道が違える事は。

 彼女が付き添うと言ったら、絶対にトウコは嫌がる。

 でも、それでも彼女はついてきたら。もし、私の復讐に巻き込んでしまったら。

 ベルの未来が、真っ暗になる。

 ふと、考えた。

 本当に、私は、正しいのだろうか? 

 復讐って、本当にやるべきなのだろうか?

『……おっ?』

『あれっ……?』

 アークとココロ、ポケモンたちは気が付いた。

 トウコの中で、未来を変えるかもしれない可能性が、今産声を上げたことに。

 過去を理由に未来を復讐に染めて、大切な幼馴染達を巻き込んでまでも、それはやるべき事なのだろうか?

 だって、こうしてベルはこんなにも私に尽くしてくれている。

 その彼女の想いを裏切り前提で、しかもそれを声に出して彼女に突きつけたのは誰だ?

(私は……もしかして……)

 裏切り。想いを切り捨てる。

 かつて、その二つを、誰にされた? そして、自分はどうなった?

 見てしまった負の連鎖から、私は自力で立ち直れたのか?

 今、ここにいられるのは誰のおかげだと思っている?

(あっ……? あ、あぁ……!?)

 そう考えると、疑問から、恐怖感へシフトし彼女を襲う。

 頭の中を、疑問が渦巻いて、どうして? 何で? と彼女に問い続ける。

 今まで一度も陥ったことのない自問自答。

 いくら問うても、答えは返ってこない。

 何を、しようとしているんだろう、私は。

 復讐? 人殺し? プラズマ団の壊滅?

 それは、何の為に? 誰のために? どうしてやるの?

 私のため? 過去を乗り越えるため? それしかないから?

 違う。それは、何かが違う。

 まさか、私のたった一人の私の自己満足の心を満たすためだけに、もしかして私は、とんでもないコトをしていたのでは?

 ちょっと待ってくれと思うが、トウコの中で生まれた一つの考えが、分裂して取り囲むようにトウコに問う。

 私は誰を裏切ろうとしている? 名前を挙げて、的確に答えられる?

 その様子に、楽しそうに手を引くベルは気付かない。

 後ろで、トウコが、本当に時間をかけて、ベルやチェレンに諭され、ようやく気付いた自分のやろうとしている過ちに、気付きかけていることに。

(……私は……何をしようとしているの……?)

 この手を血に汚すことも厭わない、ごく個人的な復讐。

 言葉で言えばとても簡単で、これさえ言えばやろうとしていることが説明できるほどシンプルで、

(……私……私……)

 ……どうしたい? と聞かれればあいつを殺したい、と今でもはっきり言える。

 でもそれは、同時に大切な幼馴染達を巻き込み、不幸にし、真っ暗な世界に招き入れる破滅の選択肢で。

 そこから先は、絶望の世界。希望も何もない。

 トウコは殺人を犯した犯罪者、ベルはそれを知りながら赦した共犯者になってしまうのでは?

 彼女の未来が、やりたいことを探しているベルの未来が、輝いてるはずの世界が、闇色に染まっていく。

 違う、こんなことは望んでいない。

 ベルの将来が壊れてしまうなんて、私は死んでも望まない。

 でも私がやろうとしていることは、その『死んでも望まない』と言ったばかりのコト。

 ほら、呆気なく矛盾しているよ? 

 ねえ、本当にこのままでいいの? 

 ベル、不幸になってしまうけれど?

 今までの自分は、どうしてこんな簡単なことにも気付かなかったんだろう?

 余裕がなかった? 必死に自分を正当化したり、まとわりつく現実を拒んだり、置いてけぼりにされた気がして、泣き言を言いながら喚くのに忙しかったから?

 今は、こうしてベルが手を引いてくれて、ふと考えを起こして、振り返るくらいの心の余裕ができたから?

 質問に、回答が追いつかない。

 質問は文字を変えて、こうトウコに告げた。

 

 もっとハッキリ指摘しようか。

 

 私は、最初から間違っていたんだよ。

 

(……あっ……あああああああぁぁぁぁああああああっ!!!!)

 ――考えられたのは、そこまでだった。

『お姉ちゃん!?』

『トウコ!?』

 自分の疑問に、トウコの意識が崩壊した。

 ポケモンたちが焦り出す。

 トウコが、自問自答で自滅した。

 たった今、彼女を今まで支えていたハズの自己正当化の言い分が脆くも崩れ去った。

 目を逸らしていたはずの弱点をつついて、彼女の心の砦が陥落した瞬間だった。

 アイデンティティを失った人間というのは、大体精神状態がおかしくなる。

(うあああああああああああああああ!!)

 全身から、血の気が引いた。生きている心地が、一瞬で消えた。

 私、本当に、イッシュに帰ってきてから、何をしていたんだろう。

 今更ながら、トウコは気付いてしまった。

 復讐。それは誰も肯定しない、自己満の行い。

 分かっていた。否、分かったフリをして、全力で目を背けていた。

 大体が、ゲーチスを殺したあとに辿る末路なんてひとつしかない。

 牢獄行きだ。それ以外に何になる?

 生命は平等で、時間は残酷で、法律は公平だ。

 悪だろうが、正義だろうが、必要悪だろうが。

 英雄だろうが、悪党だろうが、裁くものは、裁く。

 法律は、誰の味方でもないのだから。

 そんな当たり前すら忘れて、何をのたまっていたんだ私は?

(あ、ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!)

 自己嫌悪、後悔、自責。

 あらゆる自分を責める感情が溢れ出して、トウコを飲み込んだ。

『トウコッ!! 落ち着け!! トウコッ!!』

『お姉ちゃんっ!!』

 アークとココロが心の近郊が壊れた彼女に呼びかける。

 返ってくる言葉は、意味を成さない自分を痛みつける怨嗟。

 現実では、

「……あっ、あああああああああ……っ!」

 トウコが手を振り払い、耳を塞ぎ、しゃがみこんでしまった。

「えっ?」

 呆気に取られたベルが振り返ると、トウコが突然泣き出した。

 耳を塞ぎ、顔を俯かせ、震える声で、泣いていた。

「えっ!? と、トウコ!? どうしたの!? トウコッ!?」

 慌てて寄り添うベル。訳が分からない。

 今までずっと眠そうにしていただけのトウコが、突然泣き出した。

 何か、嫌なことでも思い出したのだろうかと周囲を見るが、あるのはありふれた自然の景色で、何が彼女の琴線に触れたのか、サッパリだった。

 彼女は知らない。その原因が、トウコ自身が引き起こしたことに。

「うああああああ……っ」

 泣きじゃくるトウコ。ベルの声が、全く聞こえていなかった。

「よしよしトウコ、落ち着けよ……。分かった。分かったから……」

 ボールから勝手に出てきたアークが、人間の姿で彼女に寄り添い、宥める。

「い、一体何が起きたの……?」

 アークに問うと、彼は過去トウコの姿で苦笑いして、言った。

「いや、まあ……。心に余裕ができた途端、考え出した答えが思わぬ方向に転がっちまって、本人もどうすればいいのかわかんなくなっちまった。それだけの話」

「……?」

 アークの説明は曖昧で、ベルにはイマイチ理解できなかった。

 しばらく背中をさすっていたが、トウコは一向に泣き止まない。

 アークの中には、ココロが転送してくるトウコの内部の変化がよくわかる。

 今までの行いが、ベル達のおかげで間違っていたと気付き、悔やみ、嘆き、苦しみ出したトウコ。

 音を立てて壊れていた正しい倫理観が、のちに再生するために、今この破壊は必要なものだと、アークにも理解できた。

 トウコが一番。トウコが何をしようが気にせず、ただ彼らはついていくだけ。

 もしも、トウコが今までの事を反省し、方向転換をするのならば、黙って付き添う。

 それが彼らの中にある絆だった。

「やれやれ……必要経費とはいえ、これは結構来るな」

 思ったよりもトウコの自滅によるショックは大きい。

 そう簡単には、元には戻りそうにない。

 仕方なく、後はベルに任せるとボールに戻っていくアーク。

『お姉ちゃん……』

『やめろココロ。今だけは……。あいつは二本の足で、自分の足で今立ち上がろうとしているんだ。そっとしておこうぜ』

『……うん』

 ココロがトウコに何かを告げようとして、アークは止めた。

 余計な手出しは、しなくてもいいと判断した。

 だってトウコはそこまで弱くない。

 彼らの主は、間違いに気付けば、ちゃんと受け止められる強さがある。

「うあああああああぁぁぁぁ……っ」

 トウコは、まるで縋り付くように、ベルに抱きついた。

 そのまま胸の中で、ずっと泣き続ける。

「トウコ、トウコ、大丈夫だよ。あたしはここにいるから……」

 背中をやさしく撫でて、抱きしめる。

 こうすることでしか、今の彼女を支えることができない。

 一体何があったのかベルにはやはり、分からない。

 トウコもまた、自壊した心を整理するまで、暴走する感情を落ち着かせるために、必死になっていた。

 彼女が平常心を取り戻すまで、かなりの時間を要してしまったのだった。


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