【完結】坂井悠二の恋人ヒライ=サン【転生】   作:器物転生

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【あらすじ】
平井ゆかりに斬りかかった結果、
炎髪灼眼は愛刀を失い、
坂井悠二に名前を貰えません。


屍拾いラミー

 ちょっと平井さんが席を外している間に、僕は吉田さんとデートする事になっていた。「僕は平井さんの恋人だから」と断ったものの、女子生徒陣に詰め寄られて押し切られる。話の中心である吉田さんはオロオロしていたので被害者なのだろう。でも、他の女の子とデートするなんて言ったら、平井さんは何て言うのかな? 怒るのかな? それとも――、

 

「ねえ、平井さん。じつは吉田さんと美術館へ行く事になったんだけど……」

「そうか。いいんじゃないか? タイミングが良ければ、美術館には屍拾いラミーがいる。いろいろと話を聞いてみるといい」

 

「屍拾いラミー?」

「紅世の徒だ。ラミーという名は偽名で、真名は「螺旋の風琴リャナンシー」。存在の力は徒並み……つまり、紅世の王と呼ばれるほどの力はない。だが、最高の自在師だ。封絶を開発したのも、その「火除けの指輪」の裏側に刻まれている転生の自在式を開発したのも、螺旋の風琴リャナンシーもとい屍拾いラミーだ」

 

 転生の自在式を開発した人物と聞いて、僕は驚く。封絶というのは、外部から因果を切り離す結界だ。それの開発者ということは凄い人なのだろう。その紅世の徒に聞けば「都喰らい」を起こさずとも、転生の自在式を起動する方法が見つかるかも知れない。でも、平井さんに聞いた方が早い気もするなぁ……。

 

「平井さん、転生の自在式を起動する方法ってあるのかな?」

「そうだな……ラミーが存在の力を蓄積する方法を知っている。それを使って力を溜めれば、いつか自在式を起動できるだろう。もっとも、何十年かかるか分かったものではない。まあ、そんな事をしなくても、いずれ膨大な存在の力を手に入れる機会はある」

 

「その機会って?」

「……むぅ、いや待てよ。そう考えてみるとラミーの方法は堅実か?」

 

 平井さんは「むむむ」と唸った。よく分からないけれど、「その時」が確実に来るとは言えないらしい。ならば平井さんの言うラミーさんから、存在の力を蓄積する方法を聞いておけば安心だ。でも、初めて会った徒は化け物だったから、紅世の徒と言われると人食いのイメージが強い。

 

「そんなに不安なら炎髪灼眼に「屍拾いラミーと会うから付いて来て欲しい」と言え」

「平井さんは付いて来てくれないの?」

 

「あいつはフレイムヘイズ。オレは、ただの人間だ」

 

 それは無い。ただの人間であるはずがない。紅蓮の少女の愛刀を消滅させた話は聞いている。よほど大切な刀だったらしくて、紅蓮の少女は怒り狂っていた。紅蓮の少女よりも、平井さんに付いて来てもらった方が安心できる。でも平井さんは、フレイムヘイズや紅世の徒に関わりたくないらしい。

 

 そういう訳で僕は、吉田さんと一緒に美術館を訪れていた。出発する前に声をかけたから、紅蓮の少女も近くに居ると思う。僕と吉田さんは館内を見て回る。すると、一つのトーチが消失した。その近くには老紳士がいる。その老紳士が、存在の力を奪ってトーチを消したんだ。

 その光景に寒気を覚える。もしかすると話しかけた瞬間、僕は食われるかも知れない。でも、屍拾いラミーが危険な徒ならば、「いろいろと話を聞いてみるといい」なんて平井さんは言わないだろう。それに近くに紅蓮の少女もいるはずだ。そう考えていると僕が動くよりも先に、紅蓮の少女が徒と接触した。

 

『まさか本当に居るとは……久しいな、屍拾い』

「天壌の劫火か。無用な戦いは避けられそうだ」

「アラストール、知り合い?」

 

 アラストールと徒は知り合いらしい。でも、アラストールの契約者である紅蓮の少女は、その徒を知らないようだ。少なくとも戦闘になる様子はない。それを見て、僕は安心できた。「転生の自在式」について聞きたい僕は、徒の下へ向かう。僕の後ろから、一般人の吉田さんも付いて来ていた。

 美術館の最上階にある喫茶店へ移動する。そこで徒が、吉田さんを眠らせたため僕は警戒する。でも、一般人である吉田さんに、紅世に関わる話を聞かせたくなかったらしい。それは僕も同じ気持ちだったので納得した。僕は持ち歩いていた「火除けの指輪アズュール」を取り出して、徒に見せる。

 

「僕はトーチから人間に戻りたいんです。この指輪の裏側に刻まれている「転生の自在式」を開発したのは「屍拾いラミーさん」であるという話を聞いて会いに来ました。でも起動するには存在の力が足りなくて……ラミーさんが知っているという、存在の力を蓄積する方法を教えていただけませんか?」

「ふむ……つまり君達は偶然ではなく、ここに私が居ると知ったから会いに来たのかね?」

 

「はい」

「これでも身を隠していたのだがね。こうもアッサリと探り当てられると自信を失うよ。いったい誰から、ここに私が居ると聞いたのかな?」

 

「えーと……」

『我がフレイムヘイズも、そのトーチから「美術館に屍拾いラミーが居るかも知れない」と聞いて、ここを訪れたのだ』

 

 あれ? 転生の自在式について聞いたのに、逆に質問されてる? なんでアラストールまで徒に加勢してるのかな? ……うん、分かってる。屍拾いラミーさんの居場所を知っていた事に疑問を抱いてるんだ。でも、たぶん平井さんの事は言わない方がいいんだろうなぁ……。

 

「僕は、僕の友人から聞きました」

「ほう、友人か。それは人間の?」

 

「はい、人間です」

『まったく存在の力や自在法の気配を感じさせず、封絶を弾き、この世から贄殿遮那(にえとののしゃな)を消滅させた人間を、人間と呼べるのならばな』

 

 余計な事は言わないで欲しいんだけど。贄殿遮那という大切な刀を消滅させられた事を、アラストールは根に持っているらしい。「紅蓮の少女に瑕(きず)を付けられた」と思っているのかも知れない。これじゃ屍拾いラミーさんに、平井さんが怪しまれるじゃないか。

 

「話が脱線してしまったな。話を戻すが、存在の力を蓄積する方法だったか。あれを未熟な者に伝授しても、制御できずに自爆するだろう。ましてや、存在の力すら扱えない君に、教える事はできない」

「そうですか……」

 

 やっぱり平井さんの言った「膨大な存在の力を手に入れる機会」に賭けるしかないのかな。いいや、そもそも存在の力を扱えない僕では「転生の自在式」を起動できない恐れがある。できれば自分の力で、存在の力を扱えるようになりたい。でも、それを教えてくれる人がいなかった。

 

「僕が存在の力を扱えるようになるためには、どうすれば良いんですか?」

「先天的な才能があれば話は簡単だ。そういう者達は、紅世の王と契約してフレイムヘイズとなる」

 

「ダンスパーティーという宝具で埋め込まれた鼓動を、感じ取った事はありますけど……」

「私に教授を求めるのかね? 残念ながら私には目的がある。そんな余裕はない。それに君には都合のいい相手がいるじゃないか」

 

『この子には重大な使命がある』

「私は遊びでやってる訳じゃないの」

 

「僕だって、遊びでやってる訳じゃない! 僕は人間に戻りたいんだ!」

 

 気が付けば叫んでいた。喫茶店に僕の声が響き渡る。封絶を張っている訳じゃないから、他の客の視線を集める事になった。ハッと気付いた僕は押し黙る。僕は無力だった。自分の力では何も出来ない。せっかく平井さんが与えてくれたチャンスを掴めなかった。そんな僕の耳に、「危ういな」と呟いた徒の声が残った。

 

 

『本日午後5時頃、御崎市の○○区が塩に覆われ、住民数百名が行方不明になっています。警察や消防による救出作業が行われているものの、大量の塩が障害となり、作業は難航しています』

 

 

 翌日、昨日の事件が原因で休校になった。紅蓮の少女も何処かへ出かけている。そこで、また僕は美術館を訪れていた。館内をフラフラと歩き回っていた僕は、屍拾いラミーさんと再会する。まるで偶然出会ったような言い方だけれど、僕がラミーさんを探していたのは明らかな事だ。そこで僕はラミーさんに誘われ、再び最上階の喫茶店へ入る。

 

「私は名乗った。今度は君の名を聞かせてもらいたいな。ミステスの少年」

「……僕は坂井悠二です」

 

「指輪を見てあげよう。十分な存在の力さえあれば、とある条件を満たすだけで発動できるように調整できる」

「えっ、本当ですか? でも、急に何で……?」

 

「「彼女」は封絶を弾くという話を思い出してね。おかげで厄介な相手に見つからずに済んでいる。その礼だ」

「彼女? 平井さんの事ですか?」

 

「ほう、彼女の名は平井というのか」

 

 しまった、と僕は思った。彼女と言われて、うっかり平井さんの名前を出してしまった。まさか屍拾いラミーさんは、平井さんに興味を持っているのだろうか? 命を落とすかも知れないから止めた方が良いと思う。それにしても、平井さんが封絶を弾く話が、なにか関係あるのかな?

 

「心配せずとも……炎髪灼眼をあしらう人間に、わざわざ突っ込もうという気は起きないよ」

「そうでしょうね。安心しました」

 

「よし、出来たぞ」

「こんなに早く!?」

 

 改良された指輪を受け取る。

 

「ありがとうございます。さすが最高の自在師ですね」

 

 そう言った僕の頭は、ガシリと掴まれた。

 

「妙だな……私を知る者は、そんなに多くは「生きていない」はずなのだが……!」

 

 屍拾いラミーさんが不穏な言葉を口走る。もしかして言ってはいけない言葉だったのだろうか。そういえば「屍拾いラミー」という名は偽名で、真名は「螺旋の風琴リャナンシー」と平井さんから聞いている。屍拾いラミーさんは正体を隠している? そういう事は、ちゃんと教えて欲しかった。

 

「冗談だ。だが、私がソレである事は、あまり言い触らさないでくれよ」

 

 

 心臓に悪いから止めてください。

 

 

【表】

 

 遠くから広がってきた何かが、オレの体に触れると弾かれる。弾けて、消えた。これは封絶じゃないな。時期的に考えると、探知の自在法か。おそらく「蹂躙の爪牙マルコシアスのフレイムヘイズ」だろう。とは言ってもオレには関係ない。オレに出来る事は、探知の邪魔にならないように町の外れへ向かう事だ。

 しかし探知の間隔は、だんだん短くなる。おかしいな。オレは探知から逃れるように動いているはずだ。探知の間隔が長くならないと、おかしい。まさか探知の自在法を弾く、オレを追って来ている? まあ屍拾いラミーとオレを混同している場合でも、一目見れば誤解と分かるはずだ。だってオレはフレイムヘイズでも、トーチでもないもの。そう思ってテクテクと歩いていると、青いスーツを着た女がオレの前に降り立った。

 

「邪魔をしてたのはあんたねオロロロロ」

『うわっ、きったねぇ!』

 

 いきなり目の前で、胃の中身を吐き出さないでほしい。ちなみに『うわっ、きったねぇ!』と言ったのはオレではなく、「蹂躙の爪牙マルコシアス」だ。それで「蹂躙の爪牙マルコシアスのフレイムヘイズ」もとい「弔詞の詠み手」が、何で酔っているのかと言うと……「弔詞の詠み手」は酒飲みだったな。

 

「お酒の飲み過ぎじゃないか?」

「言ってくれるじゃない……あんた何者?」

 

「ただの人間だ」

「へー、ただの人間ねぇ」

 

 そう言うと「弔詞の詠み手」は、オレに向かって炎弾を放った。オレが「あっ」と言う間に着弾したものの、当然のようにオレは無傷だ……やらかしやがった。急に現れたと思ったら、さっそくやらかしやがった。自動迎撃機能がワッショイワッショイを始める。みなぎってきたー。

 

「へえ、やるじゃない」

『だが、フレイムヘイズでも徒(ともがら)でもねぇ……』

 

「――先に言っておこう、オレは無実だ」

 

 オレの体から閃光が走る。次の瞬間、その光を浴びた物が崩れ落ちる。ボロボロになって崩れ去っていく。その正体は塩だ、すべてが塩になった。道路も家屋も大地も空に浮かぶ雲も、あらゆる物が純白に染まる。それは、形あるもの全てを塩に変える死の光だった。

 目の前にいたフレイムヘイズも塩の固まりと化している。いつの間にやら獣の形をした炎を身に纏っているけれど、無駄だったようだ。「蹂躙の爪牙マルコシアス」の着グルミもとい兵装ごと全身が塩と化している。それが崩れて塩粒になると、群青色の炎が散った。これは死んだな。

 そう思っていると、群青色の炎が噴き上がった。そうして巨大な獣を形作る。「蹂躙の爪牙マルコシアス」の顕現だ。契約者が死んだから、最後に一暴れするつもりなのか。しかし再び閃光が走ると、巨大な彫像となっていた。塩で出来た彫像は自重を支え切れず、ドサドサと崩れ落ちる。なんて、あっけない。風情がない。

 辺りはシーンと静まり返っていた。そりゃそうだ。さっきまでコンクリート製の建物が建ち並んでいたのに、今は辺り一面塩の平原と化している。誰もいない、誰も生き残っていない。遠くから見ると一見、雪が積もっているように見えるだろう。まさか塩が積もっているなんて誰も思わない。

 幸いだったのは、学校からもオレの自宅からも距離のある場所で起こった事だ。「弔詞の詠み手」の探知を避けるために、町の外れへ向かっていたからな。坂井悠二は吉田一美と共に、美術館へ行っている。炎髪灼眼も坂井悠二が連れて行っているはずだ。屍拾いラミーも美術館にいるはず……上手い具合に一カ所に固まってるな。

 それにしても勝手に敵意を向けて、勝手に攻撃して、勝手に死んだ。そんなに探知の邪魔だったのか……なんて事を考えながら、オレは塩の平原を走る。辺りは真っ白なので目立つ、絶対目立ってる。おまけにオレは、いつものようにジャージだ。不審者の身元特定も余裕だろう。とりあえず全部フレイムヘイズのせいにしよう。そうしよう。

 

【裏】

 

 屍拾いラミーを追って私は、この街にやってきた。探知の自在法を使って、ラミーを探す。でも、探知の自在法は何かに弾かれて消えた。その方角から何か迫ってくる。もちろん警戒はしていた。それでも私の張った防御の自在法を素通りして、それは私に直撃する。

 

「いったい何がオロロロロ」

『うわっ、きったねぇ!』

 

 急に胃の中身が逆流した。マルコシアスが非難の声を上げる。仕方ないでしょ! 気持ち悪いんだから。自在法だか何だか分からないけれど、私の探知に対して反撃されたのは明らかだ。だから吐き気が治まると私は、自在法が弾かれた方角へ向かう。本型の神器に乗って飛んだ。

 

『しっかし、悪戯なんだか、よく分からん反撃だな。ウハハ!』

「犯人を見つけたら、とっちめてやるわ!」

 

『で、我が執拗なる狩人マージョリー・ドー。その犯人はあっちか? こっちか?』

「探知の自在法を弾かれてるから、よく分からないのよ。仕方ないわね。もう一回探知の自在法を……」

 

「あっちねオロロロロ」

『うわっ、きったねぇ!』

 

 どうやら探知を撹乱(かくらん)されているらしい。右へ行ったり左へ行ったりと、余計に時間がかかる。その度に探知の自在法を使って、私の機嫌は急降下する……もう、あったまきた! この犯人に会ったら紅世の徒だろうと、そうじゃなかろうと殺す! 邪魔する奴は殺す! そして私は、そいつを見つけた。

 

「お酒の飲み過ぎじゃないか?」

「言ってくれるじゃない……あんた何者?」

 

「ただの人間だ」

「へー、ただの人間ねぇ」

 

 そいつは人間だった。フレイムヘイズでも紅世の徒でもない。それなのに私を、ここまで「おちょくる」なんて、やってくれるじゃない。とりあえず様子を見るために炎弾を放つものの、人間の表情は変わらない。そのまま指一本すら動かす事なく、炎弾は掻き消された。

 

「へえ、やるじゃない」

『だが、フレイムヘイズでも徒(ともがら)でもねぇ……』

 

「――先に言っておこう、オレは無実だ」

 

 光が走る。白過ぎる光が――迫り来る不吉を直感した私は、その場に炎の衣「トーガ」を残して地面に潜った。砕けた道路の欠片が肌を派手に削ったけれど、そんな事を気にしている余裕はない。地上に残した炎の衣が、塩に変わっていると分かった。おそらく辺り一面が塩と化しているのだろう。存在の力を感じ取る限り、もはや地上には「何も残っていない」と分かった。

 バカげている。とんだ化け物だ。この私が、戦闘狂と呼ばれる私が、逃げ隠れる事しかできない。子供のように震えて、穴の中に隠れる事しかできない。さっきまでの怒りは消え去って、早く化け物が立ち去ってくれる事を私は願っていた。早く! 早く! 早く! 早く!

 

『それで良いのか? 我が愛しのマージョリー・ドー。

 ネズミみてぇに巣穴に潜り込んで満足か?

 怯えて震えて命乞いをして、それで命を繋いで、お前の心は満たされるのか?」

 

「満足な――満足な訳がない。

 からっぽなのだから。

 せめて、あいつだけでもいい。

 あいつだけでも……」

 

『言ってみな、その先を。

 おまえは空っぽの器。

 群青の映える綺麗な器だ』

 

『俺を呼べ!

 ぶち殺しの雄叫びをあげて、俺を呼べ!』

 

『俺はおまえの器を満たし、おまえは俺の求めを満たす。

 そうだ! 呼べ!

 我が麗しのゴブレット!』

 

 群青色の衣を身に纏い、私は再び大地に立つ。安全な寝床から飛び出して「蹂躙の爪牙マルコシアス」の顕現を……憎いあん畜生を打っ飛ばすために、私は再び戦場に立った。そんな私を「人間」が見上げる。不気味で不可解で、おぞましく汚らわしい、そんな「ただの人間」から

 

――閃光が走った

 

 

「バカマルコ、あんだけ格好付けておいて一撃だったじゃない」

『生きてるだろ? 死ななかっただけでも健闘賞だ』

 

 ハラハラと塩が散る。私の体から零れ落ちる。まるで癌(がん)のように広がって、全身を塩と化していく。立ち上がる事すらできず、私は塩の平原に寝転んでいた。ハラハラと雪が降る。塩で出来た雪だ。空で塩になった雲が、塩の平原に降り注いでいる。しょっぱかった。

 

「ぎっこん、ばったん、マージョリー・ドー。ベットを売って、わらに寝た……」

 

 静かだった。生き物の声が聞こえない。なにもかも死に尽くされていた。不気味なほど白くて白すぎる、死の世界。まるで世界の終わりのように。その純白で世界は染め上げられて、汚れている物は生き残れない。塩を吸った喉が痛み、私はケホケホと咳をする。皮が塩に変わって血が流れ出た。純白に赤い色が混じる。

 

『蹂躙の爪牙マルコシアス。それに弔詞の詠み手マージョリー・ドー。ここで何があった?』

『犬だと思って、ちょっかいかけたら、どでかい狼だったってなぁ。うはは、久しぶりだな。天壌の劫火』

 

 この街にいたフレイムヘイズが来たらしい。バカみたいにトーチが増えるまで、放って置いた役立たずだ。「あんなもの」が居るのに放って置いたのだから、今代の炎髪灼眼は、よっぽどの間抜けなのだろう。まあ、仕方ない。こんな奴でもフレイムヘイズだ。不本意だけれど、他に伝言を頼める奴がいない。

 

「ジャージの女に……」

 

 

 そこまで言って私は、純白の塩になった。本当に、最後まで締まらない女。




間違い探しコーナー 提供:あんころ(餅)さん
自在式を開発した人物と効いて→自在式を開発した人物と聞いて
ダンスパーティーという宝具→ダンスーパーティーという宝具

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