【完結】坂井悠二の恋人ヒライ=サン【転生】   作:器物転生

2 / 7
【あらすじ】
転生者の平井ゆかりは、
トラブルに対する盾とするために、
坂井悠二と恋人になりました。


狩人フリアグネ (上)

――無限の時が鼓動を止め

――人は音もなく炎上する

――誰ひとり気付く者はなく

――世界は外れ

――紅世の炎に包まれる

 

「平井さん」

「なんだ?」

 

「それって何の詩?」

 

 アニメ版『灼眼のシャナ』のアバンタイトルで、オープニングが始まる前の前口上だ。あの歯車が組み合わさった奇怪な物体が例のアレだとは、本編中で演出されるまで気付かなかった……なんて事は坂井悠二に言えない。華麗にスルーしよう。そうしよう。どうせ本編が始まれば、この詩の意味は理解できる。

 

「坂井悠二、化け物に食われたくなければ人の多い場所は避けろ。特に、学校帰りの商店街は危険だ」

 

「?」

 

「いや、もう手遅れかもしれないが」

 

 オレの警告に坂井悠二はキョトンとしている。近い内に坂井悠二は、化け物と出会う。そこで炎髪灼眼と出会って、すでに自身が死んでいる事を知るだろう。とは言っても、今オレの目の前にいる坂井悠二が、死んでいるのか否かは分からない。チートを使えば分かると思うものの、ただ調べるだけでは済まず、坂井悠二の内蔵が裏返って変死体となる恐れがあった。

 

「化け物は人を食べる。そして効率的に多くの人を食べるために、商店街などの人の集まる場所へ現れる。むしろ人気の少ない場所の方が安全だ」

「うん、分かった。気をつけるよ」

 

「そうか。では、さよならだ坂井悠二」

「うん、さよなら平井さん」

 

 学校からの帰り道、オレは坂井悠二に別れを告げる。もしも坂井悠二が化け物と出会わず、炎髪灼眼とも会わなければ、どうなる? 化け物の策に気付けず、御崎市終了のお知らせだ……あれ? やばくね? 余計なこと言っちゃった? 慌てて振り返ると、まだ坂井悠二の背中が見えた。おk、まだ間に合う。オレは坂井悠二を追いかけた。

 

「どうしたの、平井さん?」

「お前の中には宝が隠されている。世界の真実を知りたければ、自ら向かうのも手だ」

 

「?」

「今は分からなくてもいい。いずれ分かる」

 

 我ながら意味不明だ。坂井悠二もハテナマークを浮かべている。困った事に、急な事で上手いセリフを思いつけなかった。まあ、原作のある世界は、なぜか知らん原作沿いに展開するものだ。因果とか世界線とか、難しい事は分からない。そんな事を素人が考えても仕方のないことだろう。オレは魂の専門家(技術屋)であっても、科学者じゃない。

 

【表】

 

 平井さんは不思議な人だった。学校からの帰り道で、平井さんは聞いた事のない詩を呟く。何の詩か聞いた僕だったけれど、教えてもらえなかった。その代わりとして「化け物が出る」だなんて、そんな事を平井さんは言う。平井さんの無表情もあって、冗談か本気か分からなかった。

 でも、その時の僕は冗談だと思っていた。平井さんの言葉を軽く受け止めて、いつもの通学路である商店街を通った。その先にある交差点で、僕の日常は崩壊する。地面に火線が走り、世界が薄白い炎に包まれた。そこへ2体の化け物が現れて、人から立ち昇る炎を食べている。

 

――無限の時が鼓動を止め

――人は音もなく炎上する

 

 僕以外の人々は、時を止められていた。歩き出そうとして足を上げたまま、空中に不自然に足を止めて、そのまま地面へ下ろされる事がない。そんな止まった人々から立ち昇る炎は、化け物の口へ吸い込まれて行く。その光景に得体の知れない恐怖を感じて、僕は吐き気を覚えた。

 

――誰ひとり気付く者はなく

――世界は外れ

――グゼの炎に包まれる

 

 平井さんの詩が思い起こされる。グゼ? グゼとは何だろう? どうして僕は、平井さんに詳しく話を聞かなかったのか。グゼとは、あの化け物の事なのか。そもそも、なぜ時が止まっているのか分からない。時を止めるなんて、そんなに簡単に出来るものなのか。ありえない。

 その有り得ない光景を見ているのは僕一人だ。どうして僕に限って動けるのか分からない……ああ、そうか。僕は外れてしまったんだ。世界から外れてしまった。そこに優越感はなく、あるのは孤独感だった。世界に一人、残されてしまった。今すぐ、みんなに会いたくてたまらない。

 

『坂井悠二、化け物に食われたくなければ人の多い場所は避けろ。特に、学校帰りの商店街は危険だ』

『化け物は人を食べる。そして効率的に多くの人を食べるために、商店街などの人の集まる場所へ現れる。むしろ人気の少ない場所の方が安全だ』

 

 なぜ僕は平井さんの言った事を。もっと真剣に考えなかったのだろう。なんて思っても手遅れだ。こんな事になるなんて誰にも予測できなかった……いいや、平井さんに警告されたじゃないか。僕は商店街を避けて遠回りするという選択も出来たけれど選ばず、こんな世界に踏み込んでしまった――こんな非日常に。

 

『こいつ、「ミステス」!』

『ミステス? あの宝物が入っている「トーチ」?』

『えぇ。それも飛びっきりの変り種。久しぶりのお土産ね。ご主人様もお喜びになるわ』

 

 巨大な赤ん坊のような、赤ちゃん人形のような化け物が、その大きな手を僕に伸ばす。あまりの恐怖に、僕は身動きできなかった。でも、僕を掴もうとしていた化け物の手は、紅蓮の少女によって切り落とされる。化け物は、その少女をフレイムヘイズと呼んだ。グゼ、ミステス、トーチ、フレイムヘイズ……分からない言葉ばかりだ。

 

「お前は人じゃない。お前だけじゃなく、体の中に灯りが見えるヤツは皆そう。紅世の徒(ともがら)に存在を食われて消えた人間の代替物。「トーチ」なの」

 

 化け物を追い払った後、紅蓮の少女は僕に言った。つまり、すでに本当の僕は死んでいる。今ではなく、さっきの化け物に会うより以前に、人間の僕は食われていた。その証拠に、食われた人の体に灯火が見える。その灯火が燃え尽きると、その人は誰にも気付かれる事なく、この世から跡形もなく消えてしまった。

 僕は人ではなく、物だ。坂井悠二の代替物であって、人ではない。僕も他の代替物と同じように、いずれ消え去る。そんな事をした化け物を退治するのが、紅蓮の少女の仕事らしい。とても信じられない話だけれど、信じられない話じゃなかった。だって僕は事前に、平井さんに警告されていたのだから。

 

「平井さんは、知っていた……?」

 

 そうとしか考えられない。でも、不思議な事がある。平井さんの警告は偶然だったのだろうか? 平井さんは化け物の存在を知っていたから、僕に警告してくれたのだろう。「人の多い場所=学校帰りの商店街」と言ったのも分かる。今日、僕に警告してくれたのは、僕が平井さんの恋人になったからだと思う。

 

『お前の中には宝が隠されている。世界の真実を知りたければ、自ら向かうのも手だ』

『今は分からなくてもいい。いずれ分かる』

 

 もしも僕が平井さんに話しかけていなければ、平井さんに告白されていなければ、平井さんの告白を受け入れていなければ、平井さんが僕に警告する事はなかったのかも知れない。そう、偶然だ。最初に平井さんに話しかけたのは僕で、そこに僕の意思があった事は間違いない。

 

『先に言っておくが、これは冗談じゃない。本気(マジ)だ。本気でオレと恋人にならないか?』

『オレと結婚しよう』

 

 ただ一つ思う事があって、平井さんの告白は突然のものだった。「どうしてそうなった」と思うほど唐突だった。あの時は僕の意図していない言葉が原因なのかと思ったけれど、そうじゃなかったとしたら? あの告白の状況が平井さんによって作られたものだとしたら? そう思った僕は、どうして平井さんが僕に告白したのか尋ねたくなった。

 

『もちろん、それだけが理由じゃない。お前を好きな気持ちは本当だ。たった今ではなく、ずっと前から、この世界に生まれる前から、お前に好意を抱いていた、これはウソじゃない』

 

 生まれる前から僕の事を好きだなんて、ありえない。きっと平井さんの過剰表現だ。そう思いたい。けど、分からない。分からなかった。僕は平井さんを信じたい。僕の気持ちが分からなかった……僕は疲れているのだろう。明日は学校で平井さんと会う。その時、僕は如何すればいいのだろうか?

 

 

 翌朝、紅蓮の少女が僕を待ち受けていた。僕はトーチだけど、そのトーチの中でも特殊なミステスと聞かされる。ミステスは不思議な力を持つ宝具を内包しているらしい。いずれ僕の灯火が燃え尽きる前に、敵が襲ってくるだろうという話だ。そんな訳で僕は、紅蓮の少女に監視されている。

 

「ねえ、紅世と関わってる人間っているの? 封絶の中じゃ動けないでしょ?」

「フレイムヘイズや徒(ともがら)の協力があれば可能よ。外界宿(アウトロー)に人間の構成員もいると聞いた事があるわ」

 

 僕は宿している宝具のおかげで、封絶の中でも動き回れる。でも、普通の宝具を宿したミステスでは動けない。そして封絶の中でも動き回れる宝具は、とても珍しい宝具だ。それと、紅蓮の少女によると外界宿という所は、フレイムヘイズの支援を行っているという。その組織の中には少ないけれど、人間の構成員もいるらしい。

 平井さんは、その関係者なのだろうか? でも、そうと決まった訳じゃないから平井さんの事は、紅蓮の少女に話さない。もしも僕の予想と違って、平井さんがフレイムヘイズに目を付けられたら大変だ。怪しい点はあるけれど、まだ僕にとって平井さんは「日常」の側だった。

 教室に入ると、まずはクラスメイトを見回す。その中に僕のように、トーチとなっている人はいなかった。もしかすると平井さんはトーチなのではないかと思っていたけれど、平井さんにも灯火は見えない。僕と同じトーチではない。その事に安心すると同時に、少し寂しくなった。

 

「坂井悠二、そんなにオレの胸が気になるのか? お前とオレは、すでに恋人だ。だから遠慮せず、触ってもいいぞ」

「そんな邪(よこしま)な理由じゃないよ!?」

 

 立ち上がった平井さんの両腕によって、僕は捕獲される。そして僕の顔はジャージに押し付けられた。幸いな事に平井さんの胸は滑らかで、呼吸が出来ないまま窒息するという事はない。でも、ここは教室だ。恥ずかしかった僕は脱出しようと足掻いたものの、平井さんの体はピクリとも動かなかった……平井さんって力持ちなんだ。

 

「その様子だと、化け物と会ったな?」

 

 僕にだけ聞こえる声で、平井さんは言った。ドキリと僕の心臓は跳ねる。足掻いていた僕は、その言葉に気を取られて動きを止めた。すると平井さんは僕を解放する。やはり平井さんは「この世の本当のこと」を知っているのだろう。いったい平井さんは何者なのだろうか?

 

「じゃあ、オレは早退する」

「えぇ、なんで!?」

 

「お前を狙って、ここに化け物が来るからだ」

 

 僕は絶句する。非情で冷酷だけれど、平井さんの言葉は正しかった。平井さんはクラスメイトを見捨てるつもりだ。昨日のような事が、教室で起こるかも知れない。僕のせいでクラスメイトもトーチにされるかも知れない。僕は学校になんて行かず、人気のない場所にいるべきだった。

 

「平井さんが学校を休む必要なんてないよ。僕が居なくなればいい」

「そうか。では、そうしよう」

 

 近い内にトーチの僕は消える。これからの生活がある人間の平井さんよりも、僕が学校を休めばいい。それにしても平井さんは、あっさりと納得した。平井さんは僕が消えても構わないのだろうか? 恋人になったばかりだけど、その扱いは酷いと思う。まさかトーチが消滅すると、平井さんは知らないのかな?

 

「これで会うのは最後かも知れないし、言っておくぞ。化け物共の目的は、トーチに仕込んだ爆弾を爆発させて、御崎市を崩壊させる事だ。その起点となるハンドベル型の宝具を破壊すれば発動は止められる。あとは作戦が失敗した化け物に、拳銃型の宝具でフレイムヘイズを攻撃させれば自動的に勝てる。火除けの効果がある指輪型の宝具は、人間に戻るために必要な転生の自在式が仕込まれているから確保しておけ」

 

「ごめん。ちょっと意味が分からない」

「そうか。こんな事もあろうとメモに纏めておいた」

 

 そうして平井さんから渡された紙は、とんでもない危険物に見えた。本当に、平井さんは何者なんだろう。僕がトーチと知っていて、平井さんは恋人になったのかな。化け物と会ってから、僕はトーチの灯火が見えるようになった。平井さんには、ずっと前から、僕の灯火が見えていたのかも知れない。

 

「ただし、フレイムヘイズにオレの事は話すな。絶対に話すなよ。面倒な事になるから。チビジャリの世話は、お前に任せる」

 

 どうやら平井さんは、フレイムヘイズな紅蓮の少女に会いたくないらしい。チビジャリと呼んでいるあたり、あの赤い少女を嫌っているのかも知れない。あのトーチを物扱いする赤い少女は僕も苦手だけれど、化け物から助けてもらった事に違いはない。その赤い少女を悪く言って欲しくはなかった。

 

「平井さんは、どうして僕に告白したの?」

「どうして、と言われてもな……秘密だ」

 

「じゃあ、一つだけ聞かせてくれる? 平井さんはフレイムヘイズの協力者なの?」

「いいやオレは、お前の協力者だ」

 

「でも僕はトーチで、本当の坂井悠二じゃないよ」

「オレが告白したのは、お前だ。灯火(トーチ)の坂井悠二だ」

 

 そう言われて戸惑ったけれど、僕は嬉しかった。平井さんは僕がトーチと知った上で、僕に告白してくれたんだ。僕が持っている他人との思い出は、僕のものではなく坂井悠二のものだ。でも僕をトーチと知った上で好きになってくれる人がいて、僕は救われた気がした。たとえ、僕に残された時間が残り少なくても。

 

【裏】

 

 炎髪灼眼と坂井悠二が出会ったようだ。近い内に化け物が、学校を襲撃するだろう。なので早退するつもりでいたら、坂井悠二は「自分が出て行く」と言った。なるほど、それは好都合だ。強制するつもりはないものの、当人の坂井悠二が言ったのだから問題はない。なんだか坂井悠二がショボーンとしているけれど、今さら撤回する機会は与えない。

 

「平井さんは、どうして僕に告白したの?」

「どうして、と言われてもな……秘密だ」

 

 お前を盾にするためです。坂井悠二ガンバレ超ガンバレ。御崎市の未来は、お前にかかっている。オレの日常を守るためならば、オレも知識の提供は惜しまない。でも、フレイムヘイズにオレの事は話すなよ! 絶対だぞ! あの脳ミソ筋肉女は何の考えもなしに、怪しいという理由でオレに刃を向ける恐れがある。

 

「じゃあ、一つだけ聞かせてくれる? 平井さんはフレイムヘイズの協力者なの?」

「いいやオレは、お前の協力者だ」

 

「でも僕はトーチで、本当の坂井悠二じゃないよ」

「オレが告白したのは、お前だ。灯火(トーチ)の坂井悠二だ」

 

 とオレはキメ顔で、そう言った。この後に「だって人間の坂井悠二じゃ役に立たないから」という言葉が続くものの、オレの胸の中に仕舞っておこう。例の宝具を宿していない人間の坂井悠二なんて何の役にも立たない。でも、そんな事を言ったら台無しだ。世の中には知らなければ良かった事もある。

 

【表】

 

 学校から早退した僕は、人気のない公園にいた。そこで平井さんのメモを、改めて確認する。平井さんのメモによると、人間に戻る方法があるらしい。そっけない所もあるけれど、ちゃんと平井さんは僕の事を考えてくれていた。文面からは分かり難いけれど、転生の自在式が仕込まれているという「火除けの効果がある指輪型の宝具」は化け物が持っているのだろう。

 僕は人間に戻れる。そう考えて、期待に胸を膨らませた。でも、そのためには指輪を手に入れなければならない。制限時間は僕の灯火が燃え尽きるまでだ。それは危険を冒してでも手に入れるべき物だった。少なくとも、多少の怪我は覚悟しなければならない。しかし焦って失敗すれば後はない。

 化け物共の目的は、トーチに仕込んだ爆弾を爆発させて、御崎市を崩壊させる事らしい。その起点となるハンドベル型の宝具を破壊すれば発動は止められる。あとは作戦が失敗した化け物に、拳銃型の宝具でフレイムヘイズを攻撃させれば自動的に勝てる……と書いてあるけれど、その文章に僕は疑問を覚えた。なぜ拳銃で攻撃されると「自動的に勝てる」のだろう? なんだか引っ掛け問題のような悪意を感じる。

 

「……来た!」

 

 火線が地を走る。一度しか見た事はないけれど、見間違えるはずのない光景だった。薄白い炎が世界に舞い散る。人形が宙に浮き、無数のトランプが舞い、紅蓮の少女が刀を振った。難なく人形を捕らえた紅蓮の少女だったけれど、そこへ化け物のボスが現れる。その白いスーツを着た男の指には、指輪があった。

 あの指輪とは限らない。でも奪ってみなければ分からない。ならば化け物のボスから指輪を奪えるのかと言うと、限りなく不可能に近かった。僕には、紅蓮の少女と化け物の戦場に立てる力がない。あの紅蓮の少女が、ボスを倒してくれる事を期待するしかなかった。しかし、化け物のボスは余裕の表情のまま立ち去ってしまう。

 

 僕には時間がない。化け物と紅蓮の少女の決着を待っていれば、それよりも先に僕は消滅する。紅蓮の少女にとって僕は、化け物を誘き寄せるための囮だ。だから宝具を内包したまま消えても構わないのだろう。でも、人間に戻れると分かった今、僕は消滅する事を恐れていた。焦っていた。

 

「あいつらはトーチに仕込んだ爆弾を爆発させて、御崎市を崩壊させる気なんだろ? 待ってるだけじゃダメなんじゃない?」

 

「……お前、なにを言ってるの?」

『……まさか、奴の真の狙いは「都喰らい」か?』

 

 僕の言葉を聞いても、紅蓮の少女は疑問に思うだけだった。でも紅蓮の少女と契約している「紅世の王」は何かに気付いたようだ。その「紅世の王」によると、「都喰らい」は周囲一帯を存在の力に変換する自在法らしい。この街に数え切れないほど配置されているトーチが一斉に消えれば「都喰らい」が起こる恐れがあるという。

 

「……それで、お前は何で、そんな事を知っているのかしら?」

「え?」

 

 紅蓮の少女が僕に刃を向ける。どうやら紅蓮の少女は「都喰らい」に気付いていなかったらしい。そのプライドを僕が傷付けてしまったのは明らかで、紅蓮の少女は納得できる理由を僕に求めていた。僕は平井さんから聞いたけれど、平井さんから「フレイムヘイズにオレの事は話すな」と言われている。ようやく僕は、失言だった事に気付いた。

 僕は言い訳を探す。トーチの灯火は鼓動しているけれど、特に変わった事ではないだろう。それが異常ならば、まっさきにフレイムヘイズである紅蓮の少女が気付いているはずだ。でも、いくら考えても、昨日まで紅世の事を知らなかった僕が、化け物の目的に気付いた理由は説明できなかった。

 

「どうする、アラストール?」

『ふむ、敵と通じている可能性を否定できぬ。この場で斬り捨てるべきか……』

 

「ちょっと待って!」

 

 不穏な言葉を、僕は慌てて遮る。そして平井さんのメモを取り出した。とりあえず誤摩化そう。「平井さんに渡された」と言わなければ時間は稼げる。後で平井さんには謝ろう。そんな言い訳を考えつつ差し出すと、そのメモは紅蓮の少女に奪い取られた。そうしてメモを読み終わった紅蓮の少女は、呆れた声を出す。

 

「「トーチに仕込んだ爆弾」や「ハンドベル型の宝具」や「火除けの指輪」は兎も角、「拳銃型の宝具でフレイムヘイズを攻撃させれば自動的に勝てる」なんて罠に引っかかる間抜けがいると本気で思ってるの?」

 

 ああ、うん……それは、ちょっと僕も疑問に思ってた。やっぱり、おかしいよね。そう思って、平井さんに対する疑惑が涌き上がる。もしかして平井さん、この紅蓮の少女が嫌いだから、そんな事を書いたのかな? それにしては冗談が過ぎている。平井さんが何を考えているのか、僕は分からなくなった。

 

「誰に渡されたの?」

「それは……言えない。言わない約束なんだ」

『昨日から我等は貴様を見張っていた。何者かの接触があったとすれば、自宅か学び舎であろう』

 

 

 ごめん、平井さん。すぐにバレそう。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。