機動戦艦ナデシコ ~The Prince of darkness~ II ― 傀儡の見る『夢』―   作:you.

5 / 8
第二話【Nightmare 『Black』】

《ラピス、準備はいいか……》

「いつでもいける」

《よし、もう一度確認する》

 

 ネルガル重工地下ドック。低い音を響かせ起動するブラックサレナ。

 その様子を、ユーチャリスの中から確認するラピス。

 

《俺が先にアマテラスに跳ぶ。そこで足の速い機動兵器を引きつけ、一旦引く》

「……」

《このタイミングでお前は敵の懐へ跳び、鈍亀どもを一掃してくれ》

「わかった」

《俺はそれに合わせて再突入する》

「ん」

《よし、いい子だ》

「……」

 

 いい子、という言葉にラピスの頬が少し緩む。

 

《それにはまず……》

「うん。アマテラス、コネクト」

 

 アマテラスへのハッキングを開始するラピス。その顔に幾重にも分かれた光がはしる。ユーチャリスのシステムとネルガルのバックアップをフルに利用し、次々とセキュリティーブロックを突破。システムの深層に辿り着く。

 

「ここはけっこう頑丈。でも、どんなに厚い壁でも隙間はある。だから」

 

 ウィンドウ越し、アキトの顔を見つめる。

 

「アキト、呼びかけて。きっと答える」

《……ああ》

 

 アキトの顔が薄く発光する。きっと色々な想いが巡っているのだろう。恨み、辛み、憎しみ。そして、『愛しさ』も。

 一度だけ、アキトの部屋で見たことのある『彼女』の姿に思いを馳せる。

 

(……ゆりか)

 

 確か、そんな名前だった。

 アキトの部屋で見たのは、アキトとユリカと、あと二人……四人が並んだ写真。ラピスは何故かその写真に懐かしさを覚え、鮮明に記憶していた。写真の中の『彼女』は、四人の中でも一際楽しそうに笑っていた。

 

《隙間を発見》

 

 ネルガルのバックアップから報告が入る。遠くへ旅立とうとしていた意識を戻し、すかさずアマテラスのシステムに侵入するラピス。ユリカの『意識』にハッキングを仕掛ける。

 瞬間、溢れだした『想い』がウィンドウとなり、ラピスの周りを囲む。

 

(OTIKA……AKITO。そう)

 

 ハッキングの成功と同時に、ブラックサレナのボソンジャンプカウントが始まる。俄に騒がしくなるドック。

 

「アキト」

《先に行く、後詰を頼む》

「アキト」

《……?》

「死なないで。『彼女』が悲しむ」

《……ああ》

 

 漆黒は答え、ボソンの光を残して消えた。

 

 

 

 

    機動戦艦ナデシコ

 ~The Prince of darkness Ⅱ~

   ― 傀儡の見る夢 ―

 

       第二話

  【 Nightmare 『Black』】

 

 

 

 

「システム復旧はまだか!! 早くしろ!! こんなとこ敵に襲われたらどうするつもりだ!!!」

 

 返答を無視し、机をぶっ叩き、一方的に内線を切る。

 アマテラス司令室。その部屋でアズマ准将がイラついているのには、二つの理由があった。

 一つは事故調査と称して探りを入れてきた宇宙軍の小娘。いや、こちらはもうどうでもいいのだ。問題はもう一方。

 

「オチカとは何なのだ全く!」

 

 『OTIKA』

 そう表示されたウインドウがアマテラス内部を埋め尽くしている。システムの故障なのか、敵のハッキングなのか。とにかく大量のそれにより、アマテラスのシステムのほとんどが停止してしまっていた。

 

「ぬうううう……!! 今日は厄日だ!!」

 

 そしてもう一度机を叩くと、先ほどまで食べていた煎餅の入った容器をひっくり返し、鼻息荒く部屋を出て行った。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「落ち着いて!みなさん落ち着いてください!」

「……ハーリー君、ドジッた?」

「二列に並んでください!」

 

 周りに浮かぶウインドウ、それにじゃれて遊ぶ子供たちとそれを注意する引率の女性を見ながらルリはつぶやいた。

 

「ほら、静かに!」

《僕じゃないです!アマテラスのコンピュータ同士のけんかです!》

「静かにせんかァ!!落ち着けオラァ!!!」

「けんか?」

「……さぁ~、ならんでくださいねぇ~」

《そうなんです!そうなんですよぉ!》

 

 女性の剣幕に驚き、素直に二列に並ぶ子供たち。ウインドウに写る文字を見つめるルリ。

 

《アマテラスには非公式なシステムが存在します》

 

 ハーリーの話を聞きながら、文字をじっと見る。何かが引っかかる。

 

(OTIKA……)

《今の騒ぎはまるでそいつが自分の存在をみんなに教えてると言うか、たんにケラケラ笑ってるっていうか……》

(AKITO……!?)

 

言い表せない予感にブワと鳥肌が立ち、ルリは走りだした。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「あ…艦長! どこ行くんですか!? 艦長ー! 待ってください! か~んちょおぉ!」

 

 ナデシコB艦橋。突然走り出したルリを追いかけるハーリー。といっても本人は座っているだけで、追いかけているのはコミュニケのウインドウだ。

 

「艦長! ちょっと待ってください! どこ行くんですかぁ~!?」

《ナデシコに戻ります》

「え?」

《敵が来ますよ》

「え゛?」

 

 ウインドウにへばりつき、器用にルリの背中を追いかけるハーリー。

 それを隣で見ているサブロウタ。

 

(すげぇ、どうやってんだコイツ……これも愛のなせる業なのか)

 

 などとくだらないことを考えていたが、オペレーターが告げた言葉で我に返った。

 

「ボース粒子の増大反応です!!」

「なに!? マジかよ!!」

「ほ、ホントに来た……幽霊!?」

 

 ナデシコB、響く警報。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 宇宙に一機の機動兵器が姿を現す。

 その色、漆黒。

 

「ラピス、これから行動に移る。状況の報告を頼む」

《わかった》

 

 まだ遠くに見えるアマテラス。ユリカの奪還。奴等への復讐。その甘美な響きがアキトの口元を歪ませる。

 加速するブラックサレナ。

 

《フィールド出力最大。まだ加速できる》

 

 凄まじいスピードで迎撃ミサイルを潜り抜け、一息にアマテラスに接近する。

 

(まずは一番厄介な奴らを引き付ける)

 

 途中、ステルンクーゲルの部隊と交戦、撃破。

 純正、そして上級のエステバリスパイロットにとって、IFSを使用せず、僅かに機体に命令が遅れるステルンクーゲルなど敵ではない。

 

(違う……違う……そこか!)

 

 アキトの予測に一歩遅れて、レーダーに十二機の敵影が突如表示される。

 十一機のエステバリスⅡ……そして、一機の赤いエステバリスカスタム。

 

(ステルスシートか)

 

 敵の数、機体、武器射程、そして『スバル・リョーコ』の存在。OSが出した結論は『回避』。

 

(もとよりそのつもりだ……!)

 

 急旋回、コロニー外部へと一気に遠ざかる。この間、コンマ一秒。アキトは、およそ尋常ではない速度でその場を切り替えしてみせた。

 しかしこの時、スバル・リョーコはそれを超える素晴らしい反応を見せつける。

 

 ブラックサレナ、被弾。

 

 エステバリスカスタムが放ったレールガンが直撃する。コックピットに衝撃、フィールド出力低下。

 

(相変わらず流石……だが!)

 

 ブラックサレナ、アマテラス第二ライン上まで後退。追撃してくるエステバリス、ステルンクーゲル部隊。

 

(作戦通りだ)

「……ラピス!!」

 

 

 アキトの声と同時にアマテラスの懐、守備隊側面にグラビティブラスト。多数の爆炎が巻き起こり、ユーチャリスがその姿を現す。それにより、追撃してきた機動兵器部隊の動きが一瞬止まる。

 

(よし、突入する!)

 

 アキトは再度加速した。

 愛しい人のもとへ。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 カツカツと、長い廊下に複数の足音が響く。

 

「今度はジャンプする戦艦かい?」

 

 ヤマサキはスーツの上に白衣を羽織ながら、隣にいるカトウに視線を向けた。ヤマサキに訪ねるカトウ。

 

「ネルガルでしょうか?」

「さぁ?連中は?」

「5分で行く……と」

 

 カトウとは逆隣にいた黒服が答える。

 

「はぁ、大変だぁ」

 

 小さな音を立て、研究室の扉が開く。その部屋にヤマサキの声が響き渡った。

 

「緊急発令! 五分で撤収ゥ!」

 

 一瞬の沈黙の後、慌ただしくなる室内。

 上げていた右手を下ろし、カトウに耳打ちする。

 

「『彼』……もうイけるよねぇ」

「はい、声明があればいつでも」

《!! 十三番ゲート、遺跡専用搬入口オープン!! 敵のハッキングです!!》

「あ~らら……見つかっちゃったみたいだねぇ」

「シンジョウ中佐より打電! プラン乙発動!!」

「いよいよですね……ヤマサキ博士」

「うーん、楽しくなってきた」

 

 目の前のディスプレイにシンジョウの姿が映し出される。

 

《地球の敵、木連の敵、宇宙のあらゆる腐敗の敵……》

 

 統合軍の制服を剥ぎ取ると、下から別の服が現れる。

 

《我々は、火星の後継者だ!》

 

 そして、火星の後継者は動き出した。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 巨大な対極紋の壁。アキトの行く手を阻むように聳え立つ。

 

(……)

 

 静かに壁のコントロールハッチに近付き、パスワード解析を試みる。その瞬間、赤いエステバリスが天井を突き破り侵入、ワイヤー伝いに強制通信を行ってきた。開くウインドウ。

 

《オレは頼まれただけでね、この子が話をしたいんだとさ》

《こんにちは。私は連合宇宙軍少佐、ホシノ・ルリです》

 

 目の前に懐かしい顔が二つ浮かび上がる。身体の発光をこらえ、ラピスに指示を出した。

 

《あの、教えてください。あなたは、誰ですか?あなたは……》

「ラピス、パスワード解析」

 

 ラピスの導き出したパスワードは『SNOW WHITE』。白雪姫は待っていたのだ。王子のキスによって目覚める日を。

 大きな音を立てて壁が開く。

 

「時間がない。見るのは勝手だ」

 

 そう、時間はない。奴らが来る前にユリカを奪還しなければならない。

 

《!! なにぃ!?》

 

 リョーコのエステバリスが壁の中へと飛び込んでゆく。

 

(できるなら……君たちを巻き込みたくなかった)

 

 そこにあったのは、あの遺跡ユニットと初代ナデシコ。そして……

 

《これじゃあいつらがうかばれねーよ……》

《リョーコさん……》

《なんでこいつらがこんなところにあるんだよ……》

 

リョーコの悲痛な声が、ブラックサレナのコックピットに響く。アキトが口を開こうとした、その時。

 

《それは! 人類の未来の為!!》

 

 二機の機動兵器と遺跡ユニットを挟むように巨大なウインドウが開く。そこに映った人物。

 その男の名、クサカベ・ハルキ。

 

《クサカベ……中将!?》

 

 そう洩らしたリョーコの右にジャンプフィールドが形成される!

 

《アキト、あいつらが来る》

「! リョーコちゃん! 右ィ!」

《な! うわ! あっ! ああああ!!》

 

 突如姿を現した鬼達の機体、六連。その奇襲にリョーコは翻弄される。

 

「ちっ!」

 

 即座にブースターを起動するブラックサレナ。六連に突っ込み、リョーコのエステバリスから引き離す。しかし間髪入れず、第二・第三の鬼が現れる。接近戦は不利と判断、距離をとりハンドカノンを放つ。体勢を崩す六連。アキトはその隙を見逃さず追撃、鬼の一匹にダメージを与える。

 

《アキト、上》

 

 ラピスの声に反応。大雑把にスラスターを吹かし、瞬時にその場を離脱、さらに真下に向かって射撃を行う。一歩遅れてアキトのいた場所を通過する六連。そのまま吸い込まれるように、先ほど真下に放たれたカノン砲に着弾する。更に攻めてくる六連の攻撃を紙一重でかわしつつ、牽制射撃。リョーコのエステバリスをかばうように着地する。

 

「お前は関係ない、早く逃げろ」

《今やってるよ!》

 

 リョーコがエステバリスの破損部分をパージした瞬間、突然辺りに大きな爆発音が響き渡った。

 

《な、なんだぁ!?》

 

 遠くで次々と起こる爆発。増える轟音。

 

(アマテラスを放棄する気か……!?)

 

 しゃらん、と。

 その爆発に紛れ、この場にはまるで不釣合いな透き通った音が響く。遺跡ユニットの真上に開くジャンプフィールド。その周りに次々と集まる六連。

 そして。

 

『一夜にて、天津国まで伸び行くは。瓢の如き宇宙の螺旋』

 

 「奴」が、姿を現す。赤い衣をまとった「鬼神」が。

 鬼神は爬虫類のような瞳をギラつかせ、アキトに問いかける。

 

《女の前で死ぬか?》

「!!!!」

 

 その光景を見た瞬間、アキトの体のありとあらゆる箇所が発光した。

 目の前で花開く遺跡、その中心に「彼女」はいた。

 ずっと探し続けた、愛しい女が。

 

《アキトぉ!! アキトなんだろ!? だからリョーコちゃんって……おい!!!》

 

 リョーコの声が響く。答えたくなる気持ちを抑え、鬼神『北辰』の機体、『夜天光』を睨みつける。

 

《滅》

 

 北辰の声と同時に再び襲い来る六連。その瞬間天井が爆発し、これ以上ないタイミングでサブロウタのスーパーエステバリスが突入する。そのまま素早くリョーコの機体を回収すると、爆炎の向こうへと消えてゆく。

 

(よし……)

 

 このブロックを巻き込む爆発はすぐそこまで来ている。そんな中激突する、漆黒と、鬼神達。一対七、多勢に無勢。しかし、この圧倒的不利な状況にして、アキトの感覚は限界まで研ぎ澄まされていた。そこにラピスの戦闘補助・ブラックサレナのスペックが手伝い、互角の戦いを演じる。

 

「ユリカを返してもらおう」

《ククク……》

「……」

《いいのか? こんなところにいて》

「なに……?」

《女に執着しすぎたな、それが同胞を殺すことになる》

「……!?」

 

 六連が攻撃を止め、夜天光の後ろに下がる。爆炎の中、真正面に対峙するアキトと北辰。

 

《人形は踊り出す。操りの糸と、黄金の鎧を纏い》

「なにを言っている!!」

 

 北辰の顔が醜く歪んだ。

 

《ゆけよ傀儡、ミカズチ》

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

《ばかばか!! 引き返せ!! ユリカと、アキトが!!》

《艦長命令だ、わりぃな》

《ルリー!! 応答しろー!! 聞いてんだろ!! 見てんだろ!!!》

 

 アマテラスを脱出したサブロウタ。青い機体の腕には、半壊したリョーコのエステバリスが抱きかかえられている。

 ルリの戻ったナデシコBに、リョーコの叫びが響く。

 

《生きてたんだよあいつら! 生きてたんだよルリー!! 今度も見殺しかよ……ちくしょう……畜生!!》

 

 戻りたい。

 戻って確かめたい。

 

 本当にアキトなのか、ユリカなのか。その気持ちはルリも同じだ。でもそれ以上に、クルーと収容している避難者の命を危険にさらすわけにはいかなかった。

 ルリは、ナデシコBの艦長なのだから。

 目を閉じて深呼吸。そして指示を出した、その時だった。

 

「……戦闘モード解除」

「!? 前方、ボース粒子の増大反応!!」

「!?」

「レーダー・センサー・その他諸々反応なし!! 識別不能! 相手、応答ありません!!!」

「ええええ~!? またですかぁ~!?」

 

 オペレーターの声、ハーリーの声、様々な声がブリッジに響く。

 

「ボソン反応消失!! 相手の反応、完全に消え去りました!!」

「スキャン開始! だめです! やはり反応ありません! センサー、切り替えます!」

「まさか、もう一体の……」

 

「……幽霊……?」

 

 ルリのつぶやきは、とたんに慌ただしくなったブリッジの喧騒に飲み込まれた。

 

(カイトさん……)

 

 何故かはわからないが。

 あの青年の笑顔がルリの頭に浮かんで、消えた。

 

 

 

 

 To Be Continued




※あとがき※
こんにちは、youです。
素人知識ですので色々おかしい所あると思いますが、それはそれとしましょう。楽しんだもの勝ちです。でも教えてくださったらアリガタヤー。
ではでは。

※誤字・脱字報告、感想お待ち致しております※

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。