機動戦艦ナデシコ ~The Prince of darkness~ II ― 傀儡の見る『夢』―   作:you.

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※はじめに※
この話はセガサターンソフト【機動戦艦ナデシコ -The blank of 3years-】を主軸とした二次創作であり、過去に機動戦艦ナデシコのファンサイト『風の通り道』様で投稿させていただいておりましたものを『加筆修正&再投稿』したものです。
現状『風の通り道』様への投稿が困難である為、こちらに投稿させていただきます。

「うずもれた『恋のあかし』」シナリオの大晦日ジャンプ実験で何も起こらず(つまり、イツキ、カイトの過去はいまだ不明)そのままナデシコBに乗りこみ、木星プラントに向かった、という設定で進みます。

オリジナル設定、原作設定確認不足な箇所も多々ございますが、ご了承の上でお楽しみいただければ幸いです。


【プロローグ 前編】

「ごめん、ルリちゃん」

「……」

「僕はもうナデシコには戻れない……」

 

 

 あなたは

 うつむくわたしに

 悲しそうに

 でも

 はっきりと

 そう言った

 

 

「……カイトさん。わたしのお願いも、ひとつだけ、聞いてもらえますか?」

「……」

「わたしに、キス、してください」

「ルリちゃん……」

「そうすれば……!」

 

「わたしにも、変えることができるかも……!」

 

 

 わたしのすべてを

 あなたに捧げます

 身も

 心も

 この唇も

 流れ落ちる

 この涙でさえ

 わたしのすべては

 あなたのもの

 だから

 

 だから

 

 この言葉も

 

 あなただけのもの

 

 

「バカ……!!」

 

 

 真っ暗な宇宙

 エステバリスのコックピット

 計器が照らす僅かな明かりの中で

 もう二度と使わないであろうその言葉を

 わたしは、もう一度だけ呟いた

 

「カイトさんの……ばかぁ……!!」

 

 だんだんと遠ざかる

「彼」が眠る木星プラント

 涙というフィルターを透して見る

 その巨大な建造物は

 今まで見たものの中で

 一番悲しく見えた

 

 

 

 

   機動戦艦ナデシコ

 ~The Prince of darkness Ⅱ~

  ― 傀儡の見る夢 ―

 

  【プロローグ 前編】

 

 

 

 

「バカ……か」

 

「主」を失い、次々とその機能を停止してゆく木星プラント。徐々に静寂に近づいていくその中心部で、彼は一人呟いた。聞き取りのみに設定していたコミュニケの電源を切り、己の女々しさに苦笑する。

 

「僕にピッタリの言葉だな」

 

 ゆっくり、本当にゆっくりと光が消えていく。「彼女」の眠るカプセルに近づく。

 

「イツキ……」

 

 その名前を呼ぶ。

 

 自分を探していた彼女

 そんなことも知らなかった自分

 

 自分の対として 恋人として 一緒に創られた彼女

 突然いなくなった自分

 

 ずっと待っていた彼女

 全部忘れていた自分

 

 裏切られ 絶望した彼女

 その彼女を殺した自分

 

『ずっと、待ってたんだよ……ミカズチ』

 

 -微笑んだ 彼女-

 

 そっと、その頬をなでる。

 

「ずっと、忘れていてごめん。遅かったけど……遅すぎたかもしれないけど」

 

 愛おしそうに、でも、悲しそうに。

 

「これからは、ずっとそばにいるよ。すぐ隣にいる。ほら、もう寂しくないだろ?だから……」

 

 そして、キスを。

 

「おやすみ、イツキ……」

 

 彼の言葉に合わせるように、プラント内は闇に包まれた。

 

 プシュ……ゥ

 

 音が響き、彼女の眠るカプセルが閉まる。もう一度彼女を見つめたあと、対として並んでいたカプセルに寝転び、そっと目を閉じた。

 走馬灯だろうか。瞼の裏に思い出が映った気がした。

 

 ナデシコに現れた時のこと

 佐世保での生活のこと

 ナデシコクルーの騒々しさ

 ユリカの家が想像よりはるかに大きかったこと

 ジュンがいろいろと世話をやいてくれたこと

 ラーメン屋台でアキトと一緒にラーメンを作ったこと

 初めて「家族」を感じたこと

 大晦日のジャンプ実験の失敗

 ミナト、ユキナと一緒にナデシコBのクルーを集めたこと

 

 楽しいこと

 悲しいこと

 数え切れないくらい沢山の思い出

 全てはきっと思い出せない

 だが

 一つだけ確かに覚えている

 絶対に忘れない

 忘れることはない

 

 

 いっぱいの その思い出すべてに 「君」がいた

 

 

『そうですね。ふふ……!』

 一緒になって笑い、そばにいるだけで幸せだった。

 

『……次からは、最初から押し入れで寝てくださいね』

 オロオロして、どうやって機嫌を直してもらおうかを必死で考えた。

 

『カイトさんの……力になりたいと、思いました』

 不器用な優しさが、ただ嬉しかった。

 

『わたしにも……変えることができるかも……!』

 その唇の感触に、決心が揺らいだ。

 

 

 ……だけど……

 

 

 そこまで考えた時、静かに響いていた最後の機械音が消え、辺りは完全な静寂に包まれた。

 

 シュウゥゥ……

 

 カプセル内に冷たい気体が流れ込む。大きく息を吸い、その気体を全身に取り込んだ。

 

(ああ……眠いな……)

 

 急速に訪れた眠気、少しずつ薄れてゆく意識の中で

 僅かな間だが、この狭い世界で精一杯愛し愛された

 もう逢うことのない、一人の少女の名前を呟いた。

 

 

 

 

「……ルリ……」

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 ガ……オオォ……ン

 

 ナデシコBに、エステバリス、カイト機が着艦した。

 仕事そっちのけで格納庫に集まるクルー達。

 

「な、なんだなんだぁ~!? ブリッジのやつら全員で来やがって……大丈夫なのかよ」

 

 突如人口密度が増えたその場を見てあきれるウリバタケ。その後ろから、やや遅れてヒカルがやって来る。

 

「大丈夫だってウリピー! だーれもいなくたってナデシコは動くんだから~」

 

 ちなみに全てオモイカネ任せである。

 

「やっと帰ってきやがったな! あいつら!」

 

 心底ホッとした表情でリョーコが呟き…もとい、ちょっと興奮気味に叫びながらエステバリスに向かって走り出した。そして、皆叫びはしなくとも、リョーコと同じく安心した顔をしている。コックピットが開き、ルリが顔を見せると、皆がエステバリスの周りを取り巻いた。……ちょっと遠くから『「[バンザーイ! バンザーイ!!]」』などという大げさな掛け声も、涙声を交えつつ聞こえている。そこにウリバタケの声が混じっていたとかいないとか。

 

「おかえり! ルリルリ!」

 

 ミナトがリフトから降りてきたルリを抱きしめる。

 

「もう! 帰りは遅いわ、コミュニケは繋がらないわですっごい心配したんだから」

「……すみません……」

「ううん、帰ってきてくれればそれでいいのよ」

「はい……」

「うん。それで……カイト君は?」

 

 その言葉に俯くルリ。

 

「どうかしたの?……ルリルリ?」

「あれ~?カイト君いないよ~?」 

 

 コックピットを覗き込みに行ったヒカルがタイミングよくそんな声を上げる。その声につられ、リョーコとイズミもコックピットを覗き込む。

 

「ほ、ホントだ!カイトがいねぇ!」

「コックピットにはいないわね」

 

 腕の中のルリを見つめるミナト。その身体は小さく震え、呼吸が不安定なことに驚く。

 

「……せん」

「……え? 何? ルリルリ?」

 

 聞き取れないほどのかすれた声。

 

「ん? どうしたんだ?…おーい! ちょっと静かにしろぉー!」

 

 後ろで整備班と一緒に騒いでいたウリバタケも様子に気付いたようで、皆を黙らせる。

 

「カイトさんは……」

 

 三人娘もエステバリスから降り、ミナトのそばまで来る。その場は怖いほど静まりかえっていた。皆、ルリの次の言葉を待つ。そっとミナトの腕を外し、一歩前に出るルリ。

 

 そして皆に告げた。彼との、おわかれの言葉を。

 

 

 

 

「カイトさんは、帰ってきません」

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 ドタドタドタ!

 古いアパートに騒音が響く。

 

「アキトアキトー!これはどこに置くー??」

「あー、もう狭いんだから走るなよ……ってまだ何か飾るのか!?」

 

 アキトの部屋。四畳半のスペースでなにやら作業をしている二人。部屋の主は狭いキッチンで料理を作り、騒音の主は走っている。どうやら何かの飾り付けをしているらしい。

 

「当然だよ! やっとルリちゃんとカイト君が帰ってくるんだから!」

 

 ユリカがクリスマスツリーを部屋の隅に置く。

 

「うーーんと豪華にしないとね!」

 

 ユリカが笹の葉を押入れに飾る。

 

「うわ~! もう外まっくら~!」 

 

 ユリカが窓に屋台の暖簾をかける。

 

「……はぁ」

 

 アキトは愛すべきパートナーの本日の行動を思い起こしてみた。

 

 ナデシコBの帰艦日が今日だと聞くやいなや『ルリちゃんカイト君おかえりなさいパーティを開催する』と、御統家から大量に四季折々の色々なモノを持ち出してきた。おかげで彼の狭い城は今やミスマル家の領地と化しており、乱雑に置かれたモノのせいで歩くのも困難な状態である。

 

(ユリカは加減を知らないんだよなぁ)

 

 しかしそうは思っていても、惚れた弱み。そこも可愛く見えてきてしまう。

 

(なんにでも一生懸命なんだよな!そこがユリカのいいところだし)

「ん? どうしたの? アキト?」

「いや、そうだな。やっと家族が帰ってくるんだ、とことん豪勢にいかないとな!」

「さっすがアキト! わかってる!」

 

 四畳半の新たな領主は嬉しそうにうなずくと、新たなモノを抱え外に向かった。

 

「門松飾ってくるね!」

「おう! どーんと飾ってやれ!」

 

 アキトは調理に使っていたおたまをかざして、笑ってユリカに答えた。

 

 きいぃぃ……がちゃん

 木の軋む音を立てて、ゆっくりと戸が閉まる。

 

 ぐつぐつぐつ……

 鍋の音が狭い部屋に響く。

 

 ぱーー……ふーー……

 豆腐屋のラッパの音が遠くから聞こえる。

 

 ビービービー!!!

 

「おぉ!?」

 

 ビクン!

 

 突然の大きな音におたまを落とす。素早くそれを拾い直すと、この場所に不釣合いなその音の元凶を探った。

 

(! あれか)

 

 鳴り続けている音の元凶が、ユリカのコミュニケだと気付くのにそう時間はかからなかった。着信が昔馴染みの仲間だった為、躊躇わず応答する。

 

 

 

 

「はいはい、こちらテンカワ。ユリカなら……」

 

『―――――! ―――――…』

 

「うん……えっ……?」

 

 

 

 

 再度床に落ちたおたまが音を立て、回って、止まった。

 

 

 

 

 To Be Continued




※あとがき※
こんにちは。youと申します。
今更ですがなんとか完結できればいい、と思い立った次第でございます。
加筆修正に予想よりも時間がかかった為、少しずつ投稿させていただきたいと思います。
誤字・脱字は申し訳ございません。脳内変換お願い致します。
感想・問題がございましたら、ご一報いただけると幸いです。

これからよろしくお願い致します。

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