その影響で、というのは変ですが今回はバカテストがありません!代わりにと言ってはアレですが、文字数が過去最大の1万4,000文字オーバーになります!
…あんま見てないから誤字多そうだな……。
では試験召喚戦争最終話、どうぞ
「我々Aクラスは、Fクラスに対して試召戦争を申し込む!」
HRの時間になり全員が適当なちゃぶ台に座って福原先生が連絡事項を伝えていると、失礼しますという声と共に突然扉が開いて、その次の声明がこれだ。確かに予想通りではあるが、てっきりもう少し穏やかに来るのかと思っていた。
例えば休み時間とかにあまり人の居ない事を確認してからこっそり後ろの扉から入って目的の人物に用件を小声で伝えて帰ってくるとか。…ってこれはまんま小学校の時に隣のクラスの知り合いに物を借りた時の俺じゃん。
Aクラスから宣戦布告を受けた事もあり、ザワザワと教室内が騒がしくなる。それも仕方のないことだ、幾らFクラスがバカと言えども実力の差的に未来はともかく今は勝てるはずがないと分かっている。
それに上位クラスからの宣戦布告は断ることが出来るのだ、なのにAクラスは敢えてそれを承知でここへ来た。その意味が分からないと戸惑っているのも騒がしくなっている一端だろう。
そんな中、坂本は静かに立ってAクラスの使者に近寄る。
クラス中が見守る中、堂々と坂本はこう言った。
「俺はFクラス代表の坂本だ。Fクラスはその宣戦布告を受け取っても良い」
『おい坂本!』
『何勝手言ってんだよ!』
『勝てるはずないのに受ける必要はないだろ!』
瞬間、その発言を聞いたクラスメイトは啖呵を切った坂本に対し大いに非難の声を上げる。
当然それを坂本はそんなクラスの状況を見過ごすはずもなく、芯の通ったクラス中に響く声でこう言う。
「ただし!こちらとしても受けるに当たっての条件がある!そういうわけでこちらとしてはAクラス代表と交渉したいんだが良いだろうか?」
その言葉にAクラスの使者は少し悩んだ表情を見せたが、すぐに判断をした。そこら辺は流石Aクラスと評価できる頭の回転の速さだろう。
「…それは俺の一存では決められない。だから次の休み時間に可能かどうかを代表に聞いて、ここに知らせに来るので良いか?」
「ああ、問題ない」
キッパリと言い放つ坂本。恐らくこの交渉の場が実現したら、Aクラスとの試召戦争を選抜代表制に変える気だろう。そしてそれが通った上であともう2つくらい要求するんだろうなこいつ。全くもって油断も隙もない。
「じゃあ後ほどもう一回来るからな」
そう言ってFクラスの教室を出て行くAクラスの使者。扉がぴしゃりと閉まると、坂本はAクラスの使者と話した場所からそのまま移動して教卓に立つ。
「福原先生少し時間良いですか?」
「…どうぞ」
自分の担当するFクラスが進級早々騒ぎを起こして、今さっき更にその種を増やしたせいか福原先生は最早諦めの表情である。
そうして新クラス二日目だと言うのに既に演説慣れしてしまった坂本が教卓を叩く。
「ちょっと耳を貸してくれ。少し早いがこれからAクラス戦に向けての基本方針を発表する」
そう言うとクラスの注目は坂本に集まる。やはり自分の高校生活の三分の一を過ごす教室に対する認識は皆同じなのだろうか。
…ただ一つ言いたいのは、Aクラスに行ってもお前ら絶対勉強する気ないだろ。
そんな本音を思いつつも、坂本の話は続いていく。
「俺たちFクラスはこれからAクラスに挑むわけだが、
ーーー断言しよう。俺たちは今回Aクラスとの総力戦はしない!」
そう宣言した瞬間、クラス中にハテナマークが浮かぶ。
『今度は何だよ?』
『そもそも総力戦以外の方法なんてあるのかよ?』
『秀吉可愛い』
まるで関係ない言葉も聞こえては来るが、殆どは不安と戸惑いの声である。
それに応えるように坂本はこう言う。
「総力戦に代わる方法、それは代表選抜戦だ。クラスから各1名ずつ選び、その上で1対1での個人戦を行っめその勝敗数がクラスの勝敗数になる。…シンプルな方法だろ?」
そこでクラスメイトから手が挙がる。誰が挙げたのかを見てみると、木下だった。
「でも誰が出るんじゃ?」
「悪いがそれはまだ言えない。だからこのHRが終わり次第休み時間を挟んで全員次の一限目だけだが補充試験を行う。出場面子はそこで受けた得意科目の点数を参考にするからな」
そう言って周りを見回す坂本。意外にも誰も騒がずそれを聴いていた。
…まあどうせ自分は出ないだろう、とでも思ってるんだろうが。
「質問が無いなら俺からは以上だ」
福原先生に謝りながら自分の席に戻る坂本。再び福原先生は教壇に立つと、こう言った。
「えーっ、本日は特に連絡は無いので戦争頑張ってください」
それでいいのか担任教師。
HRが終わると、先程のAクラスの使者が坂本を呼び出していた。それに坂本は一人でついていき、10分後に普通に帰ってきた。なにやら黒い笑顔のようなものを浮かべていたような気もするが敢えてスルーしておく。危険な物には触れない、社会の基本である。
そうしてそれから何もなく4時限まで終わり、昼休みに入ると再び坂本は壇上に上がった。その姿にクラスメイトの注目が自然と集まる。
そうして本日二度目の坂本の演説が始まった。
「みんな聴いてくれ、Aクラス戦の段取りが決まった。まず日程だが、戦争は本日放課後だ」
『放課後⁉︎』
教室のあちらこちらからそんな叫びが聞こえる。かく言う俺も結構驚いている、やっても明日辺りで今日は補充試験に当てると思っていたからな。
その叫びを聞いた坂本は安心しろとばかりこう言う。
「落ち着け、少し前にAクラス代表との交渉をして試験召喚戦争を5対5の代表制にしてもらうことが出来た。科目選択権もこちらは5つ、あちらは3つだ。勝てる要素が揃っている」
「ちょっと待ってよ雄二。それで結局その戦いに誰が出るの?」
「ああ。まず代表の俺、次にオールラウンダーの姫路、保健体育でムッツリーニ、馬鹿王バカ久、そしてブラックホースの比企谷だ。」
吉井がそう聞くと、一部暴言を含みながら坂本はつらつらと人物の名前を挙げていく。というかブラックホースって何だよ、ちょっと二つ名がカッコよすぎて名前見たとき「こいつ誰?」みたいになるだろ。
「ちょっと待て雄二、何か他の人とは違う冠詞が付いた挙句名前まで間違われてる人物がいたような気がするんだけど」
「比企谷の事か?」
確かにそぐわない冠詞ではあるが、名前は間違われていない。
「僕のことだよ!なんだよ馬鹿王バカ久って!ちゃんと名前で呼べよ!」
「じゃあバカ井明久だったか?」
「だからと言って苗字にバカを付けるな!何だそのちゃんと名前で呼んだから良いだろみたいな顔は!」
やはり戦争前でもこの2人はこんなノリらしい。だがこのやり取りのおかげでクラス内の緊張した空気が少し緩和したような気もしなくもない。
ただ俺個人としては早く進めてもらって昼飯が食いたい。これがゲームとかでスキップ機能があったらBボタン連打確定でもある。
そうして傍観者として遠くから聞いていると、新たに割り込んできた人物が。赤毛の吉井を殴ることが趣味の女子だ。名前は相変わらず思い出せない、思い出す必要も無い。
「でも吉井は本当にバカなんだから仕方ないわよ」
「あー、でも島田さんだってそんなひ…って痛い痛い痛いっ!まだ僕何も言ってないのに!!」
なるほど、名前は島田と言うらしい。やったね八幡、覚えいても恐らく使わないクラスメイトの名前をまた覚えたよ!
「まだって事はこれから言うつもりだったんでしょ!」
「ま、まあ少しは……あ、やべ」
「吉井ぃぃぃ!」
「ギブギブギブ!もう未来永劫森羅万象風林火山に誓って言わないから腕の関節が本来曲がらない方向に曲がっていく…!!」
「…まあともかくそういう訳だ、出場メンバーは心していてくれ」
そんな背後で行われているバカなやりとりを無視して坂本はそう締めくくる。一応の発端は自分でやった癖に速攻で切り捨てるとか鬼かこいつ。
…まあ同じようなもんか。
坂本からの連絡も終わり、周りでは弁当を出していたり学食へ行こうとしていたりするクラスメイトの姿が見える。それに習って俺も学食へ行くためクラスから出る。乗らなければ、このビックウェーブに。
「あ、ヒッキー!やっはろー!」
学食に着き、列に並びつつ今日は何を頼むか考えを巡らせていると横からハンバーグ定食を持った由比ヶ浜に話しかけられた。にしても由比ヶ浜の持っているハンバーグ、どう見ても規定のサイズよりも大きい。
「よう、今日もサイズ大きいのな」
「何か学食のおばちゃんに多目に盛られちゃうんだよね。いやはや何でだろ?」
多分その明るい人柄じゃないか?いつも笑顔振りまいてるし……
…何て野暮な事は言わないでおく。言ったら照れ隠しかなんかで殴られそうな気がするから。俺の危険を知らせるつむじセンサーは今日も絶好調なのである。
「あ、優美子だ。じゃあねヒッキー」
そう言って由比ヶ浜は学食の椅子とテーブルが並ぶ一角に向かって走っていく。視線で追ってみるとそこには三浦が鎮座していた。微動だにしない。動かぬが山の如し、そんな言葉が今の三浦には相応だろうか。
…そういやあいつ、ムッツリーニに盗聴されてたよな……全力でバレないようにしないと俺は学校社会的に死んでしまうかもしれない。
無視だけとかなら良いんだが、陰湿ないじめとかストレートな暴力とかやられたら不登校になって俺は部屋に引きこもるだろう。世界で一番セーフゾーン(安全地帯)なのは自分の部屋である。
少し経つと列の先頭になり、俺は迷った果てに普通に美味いカレーを購入、空いている机を探す。
こういう時には端の方を捜すと効率が良い、なぜなら必ず一席か二席は空いている場所があるからだ。
そうして探し当てた机に持ってきたカレーの入った皿とついでに買ったMAXコーヒー、またの名をマッカンのフタを開ける。
カレーを一口、…まあ美味い。学食の料理と言うのは大抵底が知れているのだが、なぜかこの学校の学食は殆どの料理が美味い。そのせいか弁当を持ってくるかなり生徒は少ないと言える。まあ俺はただ弁当を作ってるくれる人がいないだけだが。
両親は夜遅くまで仕事、普段の家事を担っている小町も俺と同じ学生という身分からそこまでする余裕はないのである。
次にマッカンを一口、甘い。口の中に広がるコーヒーとしては行き過ぎたチープな甘さ、だがそれが良い。
…ただ一つ文句があるとしたら、分かってはいたがカレーには合わないという事だろう。
カレーを完食しきり、マッカンを飲み干すとクラスに帰る。教室の中に入ると未だに弁当を広げているクラスメイトの姿がチラホラ。他にもカードゲームや読書(漫画)、スマホを弄りまわしている者の姿も見える。
ちなみに自然と視界に飛び込んできた吉井や坂本のグループはトランプをやっていた。…一応戦争前なのになんでお前らまで寛いんでるんだよ。
自分の席に着くと、それらの喧騒をBGMにして俺はうつ伏せになる。
「次は2だぞ、明久」
どうやらやっているのはダウトらしい。トランプのダウトと言ったらやはり心理戦と記憶力の勝負だろう。大事なのは誰が何の数字を捨ててそれがダウト宣言により誰へ渡ったか、そしてもう一つに嘘だと思わせないためのポーカーフェイスだ。
この二つの要点から推測すると、まず坂本は記憶力に関しては割とあると考えて良いだろう。ポーカーフェイスにも長けている方だ、彼らの面子の中では強い方だと思われる。
次に木下…と言いたいところだが、生憎と俺は木下と、もう一人ムッツリーニのその手の情報は全くと言って持ってない。なので強いかどうかなんて判定できるはずもないので、飛ばして吉井の考察をする。
記憶力………スポンジ(穴だらけ)。
ポーカーフェイス………残念(嘘をつく度ダウトを食らっている)。
そんな俺の想像は違われず、予定調和とばかりに吉井がダウトの惜敗チャンピオンの座へ輝くのだった。
「では、これより俺たちはAクラスに乗り込む」
5限、6限と点数補充に充てた後の放課後、遂に俺たちはこの戦争の最終目標であるAクラスへと歩き始めていた。40数人がFクラスからAクラスへの長い道のりを歩くその光景はまるでどこかの戦争の遠征軍のようだ。
Aクラスの前に着き、クラス代表として坂本が始めにドアを開く。次に無理矢理クラスの副代表だからと言われた俺がそれに続く。その後もぞろぞろと列を成してクラスメイトが入室する。
中は試験召喚戦争用に少し机が退けてあり、Aクラス御用達のホワイトボードにはでかく『Aクラス VS Fクラス』と投影機で映されている。
そして、そのAクラスの多くの生徒たちは教室の後ろの方におり、手前にいるのは恐らくAクラスからの代表選手5人と思われる人物だった。
「やあヒキタニ君、久しぶりだね」
「…よお」
そこには当然のように葉山隼人の姿もあった。他にはボーイッシュな女子に、眼鏡を掛けた知性的な容姿から一見で秀才と見える男子生徒、大和撫子を体現しているかのような奴、そしてそこにはもう一人、雪ノ下雪乃の姿もあった。
「…驚いたわ、比企谷君貴方Fクラスだったのね」
「…まあな。隠していたつもりはなかったが」
「てっきり由比ヶ浜さんと同じクラスかと思ったわ」
おい、流石にあのワンコと同レベルの学力として見られてたとか物凄く遺憾の意なんだが。
「つかそもそもお前俺の文系教科の点数の高さ知ってるだろ」
「………そう、だったわね」
何だよその知りたくないけど知ってしまったみたいな反応。文系教科でも殆どの教科はお前の方が高いだろうが。
「……もう始めて良いか?」
「ああ、そうだったね。高橋先生、お願いします」
坂本が話の進行を促すと、それに気付いた葉山がそう返す。相変わらずの爽やかスマイル、殴りたいその笑顔。
「分かりました。…これよりAクラス対Fクラスの一対一での試験召喚戦争を執り行います。それでは、先鋒は前へ」
葉山の言葉を聞いた高橋先生はそう宣言した。これは、遂にFクラス念願のラスボス戦が始まった事を意味している。
その為なのか、Fクラスの代表メンバーだけで無く、控えで応援しているクラスメイトからも緊張感を感じられる。
そんな中でAクラス側から歩み出たのは、奉仕部の部長である雪ノ下雪乃だ。俺はあいつの詳しい成績はあまり知らないが、本人曰く高校入学時は霧島に次いで学年2位で入試を通ったらしい。
因みに俺は大体100位前後だった。私立高校の入試は数学を撤廃すべきだと思うのは俺だけだろうか。…俺だけか。
「明久、行ってくれ」
「えっ?僕?」
そんなかなりの強豪の相手に坂本が指名したのは吉井だった。数秒間ポカンとした顔をしていたが、頭の中のスイッチが切り替わったのか突然吉井はキリッとした顔立ちになった
「…ああ、なんだ、雄二は僕にアレをやれと言うんだね」
「ああ、お前の本気を見せてみろ」
そんなやり取りをすると吉井は決戦の場である教室中央に歩き始める。
「…あんまり使いたくはないんだけどな…雄二の指示じゃ仕方ない」
「…貴方、観察処分者よね?ならそこまで成績は良くないと思うんだけれど……」
「雪ノ下さん、君はまだ僕の本気を分かっていない。…何も分かっていないんだ……」
何故か声のトーンを下げて意味深にそう言う吉井。しかもいつもの吉井と空気が一変して、とてもシリアスな雰囲気を漂わせている。
「…まさか貴方、この為に何かしらの点数調整を行っていたとでも言うの?」
「…さあ、ね。選択教科は雪ノ下さんが選んで構わないよ」
…とても真剣な感じなはずなのに何故だろうか、茶番を見ているような気分に陥るんだが。それに吉井も雪ノ下もそんなキャラじゃなかっただろ。試召戦争と言う状況が自分自身を酔わせているのか?
…俺はいつも通りで行こう。必ず、絶対。
「…なら私は数学を選ぶわ。高橋先生、お願いします」
「分かりました。それでは先鋒戦開始!」
「「試験召喚獣、サモン!」」
高橋先生の開始の合図と共に召喚獣を召喚する先鋒二人。
先に召喚獣を召喚したのは凛とした声で場を制している雪ノ下だった。
[Aクラス 雪ノ下雪乃 数学 487点]
そこに現れたのは、まるで姫騎士という言葉が似合いそうな甲冑と日本刀を持った召喚獣だ。召喚者の点数と召喚獣の装備が統合で結ばれるらしいというのは本当らしい。
「…流石は学年でトップ争いをしているランカーだな」
坂本はそう呟く。確かに毎回学年では一桁に入ってる気がするしな。それに確かあいつの志望、この近くの国立理系だったはずだから数学が得意でもどこもおかしくはない。
「つかお前何で吉井を雪ノ下に当てたんだ?やっぱアレか、捨て駒か?」
「いいや。ほれ、アレを見ろ」
そう坂本に言われて俺は吉井のいる方を見る。吉井の召喚獣はまだ召喚途中らしく、吉井の前でそれが光り輝いていた。
吉井はそれを見つつ笑い始める。
『吉井の奴、あまりの点差でおかしくなったのが?』
『いや、もう幻覚とか見てるのかもしれないぞ』
『ゆきたん可愛い』
Aクラス、Fクラスの枠を超えて観衆は疑問の声を上げる。最後の声はともかくだが。
そして、その理由は当然だが吉井明久は観察処分者だ、つまりはそれなりに低い点数を所持しているはずなのである。観察処分者になる条件として、学習意欲が低くかつ成績不振と言うものもあるくらいだしな。
そんな周囲の疑問を気にもせず吉井は雪ノ下にこう話す。
「雪ノ下さん、僕の本気を見せてあげるよ」
「吉井君、貴方は………」
そこで吉井の召喚獣の召喚エフェクトが段々晴れてくる。
「実は僕ーーーー」
【Fクラス 吉井明久 数学 57点】
「ーーーー左利きなんだ」
瞬間、空気が凍る音がした。いや、空気が凍る時に音なんて立たないはずだが。そもそもの問題、一説には空気を凍らせるには氷点下220度を下回らなければいけないらしい。テレビからの受け売りだが。
…なんて、下らない思考が走ってしまうほど本当に場が凍った。あれほど空間が凍った事は、多分俺のぼっち体験の中でも一つとしてないと思われる。
「さあ、次鋒戦を気張っていこうか」
「おい雄二!何で僕の試合を諦めるんだよ!さては全く僕を信用してなかったな!てかその前にまだ試合は殆ど始まってすら…って雪ノ下さんちょっとタンマタンマその振り被った日本刀でフィードバックで僕の左腕がーっ!!」
【Aクラス WIN Fクラス LOSE】
その後の事は語るまでもないだろう。ただ試合後に島田に関節を極められてしかばねと成り果てた吉井の姿はとても哀れだった。残念、吉井明久の冒険はここで終わってしまった。
「では、次の方どうぞ」
そんな姿を気にもせず高橋先生は淡々と物事を進める。まあ確かに今も尚クラスメイトに関節技を掛けられている奴と関わりたくないよな。俺もその口だし。
「ムッツリーニ、頼んだ」
「…承知した」
二回戦の行く末を坂本はムッツリーニに託した。恐らく科目選択権の使用も許可しているのだろう。
「じゃ、僕が行くよ」
そう言ってAクラス側からボーイッシュな女子が出てくる。ムッツリーニの保健体育の得意さは俺でも知るくらい学園ではポピュラーな情報だし、あの女子も保健体育がとくいなのだろう。
「一年の終わりに転入してきた工藤愛子です。よろしくね」
もしシルエットだけを見たら活発な少年に見えるだろう。
「科目選択権は何にしますか?」
「………保健体育」
当然、ムッツリーニは超得意教科である保健体育を選択する。俺は直接ムッツリーニのその点数を見たことはないが、かなりの高得点であることは予想出来る。ほんと、記述が他科目に比べて多い保健体育を得点源にするとか末恐ろしい奴である。
「土屋君……だっけ?君って保健体育が得意らしいね?」
工藤もムッツリーニの点数について具体的な数字を知らないらしい。
「だけど、ボクもとっても保健体育は得意なんだよ?
………君とは違って、実技で、ね♪」
……それで良いのか、Aクラス代表メンバー。高橋先生もやれやれと言った感じで眼鏡を抑えている。ある意味レアな表情だ、少なくとも滅多に見れる表情ではない。…需要があるかどうかは分からないが。
「そっちの…吉井君だっけ?君、勉強苦手そうだし、保健体育で良かったら教えてあげようか?もちろん実技で」
そんなことを考えていると、戦闘前の意味不明の会話は吉井にまで飛び火していた。俺は安全策をとってガタイのある坂本の後ろへ一歩下がる。こんな面倒くさい会話に入るなんてご免だしな。ここは馬鹿な吉井に押し付けるに限る。
「………サモン」
「サモン!」
そんな風に会話を聞き流していると、やっと戦闘が始まったようで二人の試験召喚獣が呼ばれる。
工藤の召喚獣が先に呼び出される。そして、その召喚獣の手には巨大な斧が握られていた。更に、良く見ると400点以上取った事で能力を得た証である腕輪をしている事から、保健体育を得意と豪語しているのも分かる。
一方ムッツリーニは小太刀の二刀流だ。その事から手数と速度はムッツリーニの方が上であるが予想される。だが一発の破壊力的には工藤の方が数倍強いだろう。
「じゃあ、バイバイだねムッツリーニ君」
「……加速」
勝負は一瞬だった。多分注視してなかったら見えなかっただろう。
ブレつつも見えたムッツリーニの姿は工藤の召喚獣を斬りつけ、そのまますれ違った。
「…加速、終了」
一言、そう呟く。
少しして斬りつけられた工藤の召喚獣は消えた。
【Fクラス WIN Aクラス LOSE】
【Aクラス 工藤愛子 保健体育 446点】
【Fクラス 土屋康太 保健体育 572点】
遅れて点数表示がされる。その差は126点、かなりの大差だ。
と言うかその前に572点とか本当にこいつFクラスかよ。実際にそうなら他教科の点数の低さが心配される。
「…つ、強い…!強いとは聞いていたけどここまでとはね……!」
そう言って工藤は膝をつく。Fクラスのムッツリーニに倒されたことはやはりショックなのだろう。
「それでは三人目の方、前へ」
「じゃあ姫路、…少し辛いとは思うが宜しくな」
「は、はい。分かりましたっ」
こちらから出るのは姫路だ。彼女の成績はAクラスと同等以上である。
ーーーしかし実は、姫路瑞希には大きな弱点がある。それも大きな、そこを突かれた負け確定の弱点だ。
それは、今現在姫路の受けた補充試験の回数を見れば必然的に分かることだ。
まず初めに昨日のDクラスとの試験召喚戦争の際に受けた補充試験で一回、次に今日受けた一限目と五・六限目の3回、合わせて計4回である。そして受けた科目は昨日は現国、今日は一限目から英語、数学、保健体育だ。ここまで言えば吉井レベルの脳でも理解出来るだろう。
…そう、姫路は今回の戦いでは科目選択権は持っていないのだ。確かに姫路は一科目ずつの点数は平均400点台ととても水準が高い。…が、それではAクラス相手だと全く決め手とは言えない。
しかも今回姫路は補充試験で受けた4科目以外0点だ。それはつまりそれ以外の教科、または総合科目で挑まれると姫路に勝ち目は無いに等しい事を意味する。
「じゃあ僕が出よう」
そう言って前へ出たのはかなりの知性を感じさせる男子生徒だった。
「科目は何にしますか?」
「では総合科目でお願いします」
「…え?姫路さんは科目選択権無いの?」
驚いた風に呟く吉井に坂本はこう補足する。
「ああ。本来なら全科目の補充試験を受けて完全な姿で戦ってもらおうと思ったんだがな、予定を縮めすぎた影響がここで出た。姫路は補充試験を受けた4科目以外の点数は無い。しかも相手の久保は総合科目を選択ときたもんだ、この勝負の勝ちは薄いと俺は思う」
流石に坂本もそれを理解して、それで姫路を送り出したのだろう。相手が姫路の点数のある科目を選択することを祈って。
だがそれは既に失敗に終わっているが。
「でもどこで稼ぐんだよ…今僕たちは1勝1敗だよね?それで姫路さんが負けるとしたら1勝2敗、雄二が必ず勝つとしても後1勝は必要でしょ?」
「珍しく理解してるじゃないか明久。安心しろ、ここで科目選択権を残した事が活かされるんだからな。それにこのクラスには姫路の影にもう一つジョーカーがある、ここでやっとそれが発揮されるってことだな」
そう言って坂本は隣にいる俺に視線を向ける。俺はそれに軽く頷く。
「え⁉︎ジョーカーってまだあるの⁉︎」
「むしろ下手に知名度が無い分、こっちが真打ちだがな」
「「サモン!!」
そんな二人の会話を聞いていると、いつの間にか中堅戦が始まっていた。
暫くすると、点数表示がなされた。
【Aクラス 久保利光 総合科目 3997点】
【Fクラス 姫路瑞希 総合科目 1710点】
姫路の総合科目の点数は4科目の合計点のはずなのに1700点戻っているのは流石としか言いようがない。
「…何があったのかは知らないけど、容赦はしないよ姫路さん」
現れた久保の召喚獣の武器は、一言で表すならデスサイズと呼ぶのが適切だろう。あるいは死神の鎌と言っても良い。
一方姫路の召喚獣の武器はまるで西洋の騎士剣だ。それにしてはサイズは点数に比例しているのか大きいが、見た目だけだとそうにしか見えない。
「…じゃあ行かせてもらうよ!」
久保はそう言いつつ召喚獣を操り、姫路の召喚獣へ鎌を振り被る。
姫路は剣でそれを受け止めるが、背後に吹き飛ばされる。それを逃す久保ではなく直ぐさま追撃、吹き飛ばされて無防備な姫路の召喚獣を止めとばかりに二回斬りつける。
…にしても恐ろしい素早さである、流石はニア4000点台だ。
とどめの斬撃を受けた姫路の召喚獣は0点になって消滅し、フィールドには久保の召喚獣が残った。
【Aクラス WIN Fクラス LOSE】
高橋先生がパソコンでカタカタと打つと、そのような結果が表示される。これでAクラス側が2勝、こちら側はもう後がない状況だ。
「どうすんだよ雄二!後は比企谷君(馬鹿)しか残ってないよ!」
おい、お前だけには言われたくは無いんだが。そもそも俺の点数を知らないとしても失礼過ぎるだろ。
「大丈夫だ。…副代表、勝ってくれよ」
「…了解」
俺は渋々Aクラスの中央へ歩いて向かう。あんまりこういう場に立ちたくないんだが、立ったからには真面目にやるしか無いだろう。やらなかったらやらなかったで設備は下がるしクラスからの風は冷たくなるしでメリットが一つもないのだ。それに、俺自身が決めたことでもあるしな、今回くらいはやってやろう。
「じゃあ僕がヒキタニ君と戦うよ」
そう言って出てきたのは予想通り、葉山隼人だった。周り、と言うかAクラスからの応援もピークとばかりに盛り上がる。
「リア充爆滅しろ!」
「……デッドオアダイ、どっちを選ぶ…」
「そいつをぶっ殺せ同胞!」
対照的にFクラスの声援はかなり物騒かつバイオレンスだった。つか最後のお前、勝手に俺を同胞にするな。
「それにしても本当に久しぶりだねヒキタニ君」
「1ヶ月程度で久しぶりはないだろ」
つか何でそんな俺のことを構ってくるんだよ気持ち悪い、高一の時もあんま話したことないだろ。
…何て言葉が浮かび上がったが、心の奥に飲み込む。そんなことを言えば俺の明日は葉山教の手により無くなりそうだからだ。葉山教、またの名を葉山ファンクラブとも言う。何でもそのファンクラブはムッツリーニのムッツリ商会と葉山の写真に関する専売契約を結んでいるらしいと噂で聞いたことがある。ガチ過ぎて怖い、もう全部合わせて葉山ストーカーファンクラブ教で良いんじゃないの、本当。
「それでは始めて下さい」
そんな俺たちを交互に見た高橋先生は開始可能と見て戦闘開始の宣言をする。
「サモン!」
「…サモン」
数秒もせずに俺と葉山の召喚獣は現れる。
【Aクラス 葉山隼人 現代国語 384点】
葉山の方を見ると、召喚獣は西洋の鎧を着ていた。剣は柄の部分に宝石が埋め込まれていて、その全体像は例えるならおとぎ話の勇者を連想させる。
点数もAクラス平均より上をキープしている辺り、全体的な点数でもAクラスの中で5番の指には入るのかもしれない。
ーーーだが、読み違えたな葉山。
【Fクラス 比企谷八幡 現代国語 584点】
「…これは…少し予想外だね……」
何故俺が理系科目が全滅しているのにも関わらず、補習教師兼奉仕部顧問の平塚先生にAクラス入りを有望視されたのか?それは簡単だ、文系科目の点数だけで理系科目の点数を補えるからである。
特に現代国語は600点越えも視野に入れることの出来る俺の唯一の必殺科目だ、この為に振り替え試験の予習勉強をどんだけ頑張ったのか…。
…肝心の試験は日程を間違えてしまったが。
ともかくその努力の結晶と言っても過言ではない結果が、この葉山隼人との点差ぴったり200点として顕著に現れた。
「…じゃあ、早いとこ終わらせるか」
ぼそりと俺は呟くと、召喚獣を操って葉山の元へ突進する。
俺の召喚獣の装備は、かなりムッツリーニと似ている。それはさながら忍者である、だがムッツリーニのような小刀は一本も所持していない。
俺は召喚獣の腰に付いているケースの中を探らせる。そうして中から出てくるのはクナイだ。そう、俺は刀を持って真っ向から戦うムッツリーニとは違って本格的に隠密を得意にした忍者なのだ。
「く……!」
俺は右手で持ったクナイを葉山の召喚獣の首筋へ当てようとするが、葉山は間一髪剣を割り込ませることでそれを防御する。俺はそれを見て鍔迫り合いは不利と判断し、剣とぶつかった衝動を生かし直ぐに距離を取る。
……まあ、葉山には悪いがこれで終わりだ。
「…細工は流々、仕上を御覧じろってな」
瞬間、葉山の召喚獣が大きな音を上げて爆発する。これが本当のリア充爆発しろか…あんま面白くないな。
当然何も無しに葉山の召喚獣が爆発したわけではない。原因は一つ、俺の腕輪の能力だ。
テロリスト、それがこの能力の名前だ。この能力は自分の持っている武器、つまりクナイや手裏剣であればいつでも爆発させることが出来るというかなり強力な力だ。ただ、一回爆発させるごとに50点の点数を消費する上に範囲が狭いのがこの能力の弱点だが、それを補うほどの威力は有している。何しろ当たれば200点以上は削ってくれるのだ、中堅以下のクラス相手とだったら一発である。
しかし今回の相手である葉山は384点というAクラス上位並みの点数を持っていた。到底一発では敵わない、なのでシンプルに俺は二回爆発させた。
あの鍔迫り合いの直前、俺は召喚獣に右手でクナイを持たせると同時に左手で手裏剣を持たせていた。そして右手のクナイで葉山の剣を受け止めると同じタイミングで左手で手裏剣を隠すように二個葉山の足元へ投げつけたのだ。そして俺は離脱してその後すぐ爆発させる、それが真相である。
【Fクラス WIN Aクラス LOSE】
「いやー、ナイスファイトだったよヒキタニ君」
「…どうも」
しかしこいつは試合に負けても普通に対戦相手と話せるとか、本当にどういうメンタルしてるんだよ。俺だったら無言を貫くまでである。
「比企谷君ってあんな点数高かったの⁉︎」
Fクラス陣営に戻ると、吉井がそんなことを言ってきた。まあ坂本以外のFクラスの面子には何も言わなかったからな。前回の戦争にも俺は出てないし。
「良くやった副代表」
「何で上からなんだよ…まあ、後はご自由にしてくれクラス代表さん」
そんな会話を交わすと、坂本は俺とすれ違う形でクラス中央へ歩き始める。俺はその様子をFクラス陣営から見届ける。次は最終決戦、しかも科目選択権は坂本の手にある。これで負けたら坂本はかなりの批判を受けるだろうな。
Aクラスからは最後まで残った霧島が出てくる。彼女はAクラスのクラス代表、うまり今年度振り分け試験の学年主席だ。
「科目は何にしますか?」
「上限100点満点での小学生レベルの歴史テストだ」
その後、坂本と霧島は別室へ向かい、その様子を俺たちはAクラスの巨大ディスプレイで鑑賞する。試験前のその様子を固唾を飲んで見守る両クラス。
『それでは始めてください。試験時間は10分です』
そう高橋先生は合図すると勢いよく裏になっていたプリントを表にめくる。画面にはその様子と同時に下の方に問題内容がスクロールして流される。
そして、俺たちFクラスはある問題が流される事を祈る。
大化の改新、この年号はとても有名なもので当然起きたのは645年だ。しかし霧島の幼なじみの坂本曰く、当時大化の改新を間違えて625年で覚えていた坂本はその情報をそのまま霧島に言ってしまったらしい。更に霧島は完全記憶能力とかいうチートな能力を持っている為に当時のそれを今でも覚えてしまっている、との事だ。
ディスプレイに表示される問題内容は17条の憲法の年号、遣隋使が初めて行われた年号、と映り移っていく。試験時間がどうにも短いとは思ったが、どうやらこれは年号のみのテストらしい。まあその方が簡単だし蹴りが付きやすいから俺としては良いが。
そして5問目くらいだろうか、遂に大化の改新の年号を問う問題が流れてきた。
「……やった…やったー!」
堪え切れないとばかりに吉井は叫びだし、それに呼応するようにFクラスメンバーは全員で喜びだす。それを怪奇な物を見るような目でAクラスは見る。まあ確かにAクラスはそのことを知らないはずだし、それもそうだろう。これでFクラスの設備はボロ教室からエアコンに個人ノートパソコン、更にリクライニングシートが付いた超絶豪華教室にーーー
ーーーふと、ある推測が思い浮かぶ。俺のそれは、人が成功に近づけば近づくほど不安な要素を浮かべるのと同じだ。
そう、一つ。
………坂本って、成績Fクラス並みの癖に1問ミスったくらいの霧島に勝てるのか……?
そして、その答えはすぐに出た。
【小学生レベル歴史 Aクラス 霧島翔子 97点 VS Fクラス 坂本雄二 53点】
【試験召喚戦争 Aクラス WIN Fクラス LOSE】
一瞬で大化の改新の出題に沸いていたFクラスは静まる。そしてジワジワと何か、殺気のようなものをFクラスを中心として坂本の方へ向かう。
「悪い、負けた」
ドアをガラッと開けて現れたのは先程大敗を喫した雄二だった。後ろに霧島もいる。殺気が濃くなるのを感じた。
「雄二!90点とかならまだしも何であそこまで酷い点を取った!」
「如何にもこれが俺の実力だからだ」
「何故にそんな白々しいのじゃ…」
「……油断大敵…」
「と言うか吉井がやっても坂本以上に点数を取れないでしょ!」
「それはそうだけどさ…」
「坂本くんだって頑張ったんだからそんな責めないでください!」
「姫路さんまで……」
青春とは嘘であり、悪である。どれだけ頑張ったとしても青春として大功を結ぶ訳ではなく、例え途中経過が良くても最終段階で爪が甘ければサヨナラ逆転ホームランとして相手に青春経験値が入ってしまう。
しかし、例えその青春が嘘で悪でも、その過ごした時は真実で実在したものなのだから、何れはプラスとして返ってくるのだろう。
……その結果で、教室の卓袱台がみかん箱になったとしてもだ。いや、確かにかなり不満でもはや勉学に励むとは対極的な位置に存在する用具だとは思うが、それでもまあ三ヶ月で元どおりだから良いかとかそんな感じだ。
進級二日目、俺はこのバカで仕方ないクラスに少なくも希望のような物を見出した気がした。
現在文化祭準備真っ只中なので、また更新が開きます…。
ご了承下さいm(_ _)m