問 「エコロジー」の意味を答えなさい
比企谷八幡の答え
「生態学」
教師からのコメント
「正解です。他にも【自然環境との共生を目指す思想】という意味もあるので注意しましょう」
坂本雄二の答え
「資源の削減」
教師からのコメント
「少し惜しいです。資源の削減は自然環境との共生を図るための手段ではあって、エコロジーの意味にはなりません」
吉井明久の答え
「ecology」
教師からのコメント
「なぜ英訳したのか10分ほど問い詰めたい気分です」
翌朝、相変わらず見慣れないFクラスの教室に入ると既に殆どのクラスメイトが登校を終えていた。
「おはよう比企谷君」
「おはようなのじゃ、比企谷」
「…おう、吉井」
人生で数える程の回数しか交わしたことのない学校での朝の挨拶をし、俺は空いている席に座る。左右には坂本と姫路がいる席である。ちなみに姫路の隣には吉井、坂本の前には木下、その隣にはムッツリーニがいる。つまり、ちょうど昨日の戦争で重役を務めた奴が固まっている感じだ。
ただ吉井の前に、俺の脳裏から名前が消えた赤毛のポニーテールの女子がいるのが気になる。…何だっけかこの女子の名前。
確か、【吉井を殴ることが趣味です♫】みたいな事を宣っていた事だけは覚えているのだが…いかんせん、やはり名前が思い出せない。
…まあ関わらなければ問題無いか。
「そういや雄二、次は何処に戦争を仕掛けるの?」
まだ朝のHRの時間ではない事もあり、吉井は雄二の席で話をしていた。と言うか木下もムッツリーニもそこにいた。ちゃぶ台を囲んで話をしている。
…なるほど、こいつらグループだったのか。
グループと言うと思い出すのは、去年の俺のクラスに居た超絶リア充かつ、みんなで仲良く主義の葉山を中心とした葉山グループである。
中心の葉山と言う人物は顔は文句無しのイケメン、性格もイケメン、更に紡ぐ言葉は全て人道主義で非道な面は決して外殻には出さない完璧人間である。しかし、俺はそれ故の歪みがある事を去年一年を通して知った。あんまり関わりは無かったためにその詳細やら心情やらは全く分からんが。
ただ、その歪みは雪ノ下に似るところがある事だけは想像出来た。だが少なくない差異が葉山と雪ノ下にあるのだと俺は思う。これも想像なのだが、雪ノ下と違うところは感情を溜め込んでる訳ではなく別の形にして吐き出している。それは他人の反対があっても自分の意思で動いたり、許容できない事はしっかりと拒否したりと、そんな感じだ。
しかし葉山の場合はそれを溜め込んで溜め込んで、そしてそれ故に己が生み出してしまった負の感情と葛藤しているのだろう。しかし外面を保つためには自分は正しくあらなければならない、まるでデフレスパイラルのような構造図だ。
そしてきっとそんな葉山は、今でもそれを脱せずにAクラスに居るのだろう。自分の意思ではなく、他人の期待に応えるためだけに。
「…比企谷、おい比企谷。聞いてんのか?」
そんな思考を重ねていると、突然坂本の声が聞こえてきた。
「…あ、ああ。すまん、聞いてなかった」
どうやら思考の海に浸っていたせいで坂本の声を無意識にカットしていたらしい。意外と自分でも分からないほど深いところまで考えていたようだ。
「お前もこっち来い、ちょっとした作戦会議やるから」
「…おう」
そう言って俺は四人でちゃぶ台を囲んでいる間に5人目として割って入る。やったね八幡、遂にグループに所属出来たよ!ぼっち歴=年齢ともお別れだ!
…まあそんな訳はあるはずないのだが。
「じゃあこれからAクラス戦に関しての説明を始める」
「Aクラス戦じゃと?それでは何故Dクラスを倒した時に要求としてBクラスの室外機を壊させたんじゃ?何に使うかは知らんのじゃが、どっちにしろBクラスに対しての一手じゃなかったのか?」
木下がそう言う。確かにそれは俺も疑問に思う点だ。折角Dクラスを倒したというのに、それではあんまりにもあの戦争に勝利した意味が無くなってしまう。
そんな俺たちの疑問に坂本は少し歯切れ悪く答えた。
「いや、そりゃ俺だって次はBクラスと戦争を始める気だったんだが、事情が変わった。…ムッツリーニ、例のアレを出してくれ」
「……了解」
そう言ってブレザーの懐から何か機械のようなものを取り出した。
「…これは昨日の朝早く、Aクラス内に仕掛けたものを回収したICレコーダー」
なぜお前はそんなものを持ってるんだ。しかも昨日ってことは、進級初日早々に仕掛けたのかよ。
「でもどうしてAクラスの中なんて盗聴したの?女子トイレとかならともかく」
いやその発想も十分危ないだろ、何だよ女子トイレに仕掛けるって。犯罪臭しかしないんだが。
…だがある意味では正論だ。坂本に情報収集の依頼をされたのは朝早く、と言うほどの時間帯でもないのでそれは理由にはならない。つまり他に何らかの訳があるはずだ。
「それはAクラスに在籍する女子の人ず……Aクラスに居る女子の名前をかくに…………何でもない」
そうだった。こいつは変態だった。
「まあ理由なんてどうでも良いだろ。ムッツリーニ、アレを流してくれ」
どうでも良くないと思うぞ俺は。
クラス内から犯罪者とか勘弁である。
だが俺に出来ることはムッツリーニが本当に女子トイレにそういった類いの物を仕掛けないよう祈ることばかりである。頼むから。まじで。
「…了解した」
そう言ってICレコーダーのボタンを押し始める。そして多少のノイズと共に音が流れ出した。
『そーいや姫菜ってAクラスだよね?』
『うんうん!本当ーーーっに勉強してて良かった!何と言っても葉山君と久保君の絡みが生で………!』
『ちょっ、幾らここが女子トイレっつっても擬態しろし!…ほら鼻血鼻血』
『……うん、ありがと』
ーーーそこまで会話が流れると、ムッツリーニは閃光の速さで一時停止ボタンを押す。
何か、俺には去年同じクラスだった葉山ラブの女王様と、ずっと俺と葉山を絡ませようと画作していた腐女子の海老名さんの声が聞こえてきたんだが…。
「…ちょっとした手違い」
「女子トイレとか聞こえたんだけど…」
吉井から鋭いツッコミが入る。
「…アレは演劇」
「わしの所属する演劇部は昨日何もやっとらんのじゃけど…」
呆れ顔でそう論破する木下。
そうして確実に追い詰められていくムッツリーニ。それは、俺に出来ることがムッツリーニがそんな事をしないよう祈る事からこの事実が教師に、または警察にばれないように祈ること変化した。やっぱり祈ることしか出来ないのかよ俺。
「…ムッツリーニ…………頼むから止めてくれ………」
「…………了解」
坂本がそうムッツリーニへ懇願する。まあ確かに、こればかりはちょっと度が過ぎてるからな。それに坂本にとってムッツリーニは友達のはずだ、それを考えると友達が女子トイレ盗聴常習犯とか嫌すぎる。こいつの場合既に前科ありだが。
「ともかくだ、今度こそ頼むムッツリーニ」
気を取り直した坂本は、念押しを忘れずに再度件のICレコーダーの再生を依頼する。
「了解」
そう言ってムッツリーニはボタンを押し始める。そうして流れ出してきたのは、去年の間でそれなりに聞きなれた声だった。
『みんな!俺はAクラスの副代表として一つ思うんだけどいいかな?
…今、Fクラスは試験召喚戦争をDクラスとしている。そして代表の霧島さんによると、目標はここらしい。多分だけど、今Dクラスと戦争しているのは僕たちを倒す為に試験召喚獣の扱いに慣れようという試みか、或いは何らかの策略の為だと思う。
ーーーだから、敵がその準備を達成する前に俺たちでFクラスを倒さないか?』
…どう聞いても、ICレコーダーから聞こえるこれは葉山の声だった。やはりあいつはAクラスに居たのか。
そんな葉山の問いかけに、そうだそれが良い!とばかりにAクラス生の声が聞こえてくる。多分葉山効果だろうな、普通の人間じゃあそこまで大人数の賛成意見を引き出せんだろうし。
そんな賛成の声に応えるように葉山は声を張り上げる。
『みんなありがとう!じゃあ僕たちは明日、宣戦布告をしようと思う!それじゃあみんな、頑張ろうな!』
そこでムッツリーニが停止ボタンをプッシュする。
坂本はムッツリーニが停止ボタンを押すのを待っていたかのように話し始めた。
「ーーーとまあAクラス内部の状況はこんな感じだ。対して俺たちはと言えばDクラス戦に勝ったばかりで点数を大分消耗している上に、それを補うことの出来る召喚獣の操作もまだ一回の戦争でしか体験してない為に明久以外は俺を含めて全然下手くそだ。ある意味ピンチと言ってもいい」
その言葉に吉井は悲観の声で坂本に言った。
「じゃあ僕たちはもう玉砕くらいしか出来ない…っていうこと?」
…確かに普通に考えればそうかもしれない。だが吉井。坂本の顔を見てみろ、どう見てもあれは諦めている奴の顔じゃない。寧ろ悪巧みしている奴の顔だ。
そんな予想通り、坂本はこう声を大にして言った。
「そこでだ、俺たちはAクラスから宣戦布告を条件付きで受けようと思う!」
「…でも条件ってなんじゃ?」
木下の問いに口元の歪みをそのまま維持しつつこう答えた。
「それは簡単だ。まずはこの試召戦争を代表選抜制にして、Fクラスの代表である俺とAクラスの代表である翔子との一騎打ちの戦い、あるいは最低でもそれを含めた5対5の戦争にする事を提案する」
その坂本の作戦になるほど、と俺は思った。それならば優遇し過ぎずされ過ぎずのちょうどいい条件だ。それは質問した木下も同じように、納得がいったような顔をしていた。
そんな希望の光が見えた中、次にムッツリーニがそれを追求するように問いを重ねる。
「……でもAクラスがその条件を呑まなかった場合は…?」
「それこそシンプルだ。俺たち下位クラスは上位クラスからの宣戦布告を蹴れる権利がある。それなら宣戦布告を蹴った後にAクラスが俺らに宣戦布告すると分かる前に立てていた通常の策で戦うまでだ。ただその場合、Aクラスから何らかの形で妨害工作が行われるのは目に見えているが、それは俺が何とかするから安心してくれ」
坂本はそんな頼もしい言葉をかける。その様子を見たおかげか、不利な状況展開にも関わらず吉井と木下、ムッツリーニの表情には諦めの表情は無く、それよりも坂本に続いて勝利への渇望の道を探っているように見える。
「…聞きたいことがあるんだが」
「何だ比企谷?」
全くもってこんなのはガラじゃない。もしこの光景を小町や雪ノ下、由比ヶ浜見ていたら「らしくない」と評するのだろう。
だが別に俺は今更失望した青春を取り戻そうだとか、俺自身が持つ青春に対する思想を変えようだとかは一切思っていない。むしろ俺の中の青春は中学の時に色々と会ってからは全く変わってない。更に言うなら、それは高一の時に接した葉山グループによって確信的な意味合いを持ってしまった。変えることは出来ないし、変える必要も無い。
ーーーだが、その真似事なら良いのではないか?
完全に真似る必要はない、完全に近く真似れば真似るほどに人間関係は疎遠になり、希薄になる。ある意味では雪ノ下と由比ヶ浜との関係も「青春の真似事」と称することだって出来る。その関係を今でも維持出来ているということは、逆説的に似たような関係を他の人間とも出来る得るという事になる。
「もし五人の一騎打ち担った場合、誰がAクラスとの一騎打ちに出るんだ?」
ーーーそれならば、俺も少しくらいは能動的に動いても良いはずだ。
これだって青春の真似事に過ぎない。それにそもそもの話、青春と言う言葉は複数の意味を持っていて、その意味合いは必ずしも万人が万人一緒のはずがない。
過去の俺みたいに青春に幻想を抱くやつが居れば、青春とはただ真っ当に学生生活をしているだけと認識している奴もいるだろう。辞書に載っている青春という意味もその複数個ある意味の中の一つだ。そもそも辞書を作っているのだって人間なのだ、その人の考えが少なからず反映されてしまう点はあるだろう。
「ああ。俺と明久、秀吉にムッツリーニにお前だ」
つまりは、俺のこの青春の真似事と言うのももしかしたら青春の一つの形なのかもしれない。なら、俺は俺の青春に従って動くのみだ。世間的な青春には心底期待して心底失望したが、俺の中で意味合いを持った青春はまだ始まって一年余りだ。そして未だ失望する理由は無いし、失望する要素も見つかってない。
…ならば、期待してもいいのではないか?
「…じゃあ、一つ頼む。俺をAクラス副代表と戦わせてくれ」
そうして俺は青春の二文字をトリガーに、特に深い意味もなく葉山と戦うことになった。
これから一週間ほどテスト期間なので、勉強に専念するために更新をストップさせて頂きます!
ご了承下さい……。
あ、後更新はテスト期間を終えた後に書き始めるので、もしかしたら二週間後くらいになるかもしれません。