やはり俺の学園コメディは馬鹿すぎる。   作:Mr,嶺上開花

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今回は少し無駄に長いです。後、微妙に他のラノベを表す表現もあるのですが、そこはあまり気にせず読んでくれると作者的に有難いです。それではバカテストからどうぞ。



問 次の空欄を埋めなさい

「I go to the park in ( ) to watch the bird」


雪ノ下雪乃の答え
「order」

教師からのコメント
「流石雪ノ下さんですね。orderは「命令する」と言う動詞的意味もあるのでそこも一緒に覚えておきましょう」


坂本雄二の答え
「train」

教師からのコメント
「電車の中に公園はありません」


吉井明久の答え
「orz」

教師からのコメント
「スペルミスで書いたのか分からなくて書いたのか気になりますね」




6話 馬鹿と変化と私生活

 

無事対Dクラスの試召戦争は勝利に終わり、今日は他にやることが特にないと代表からお達しになった俺は現在帰路についていた。

 

 

俺の通学方法は基本的には自転車である。雨が降ろうとペダルを漕ぎ、風が強かろうがハンドルを握り、雪が降ろうと前かがみになってサドルに座る。最後ちょっと語呂悪いな。

 

 

 

今の時期は文月学園の周辺一帯が桜の見所となっており、今でもチラホラ桜を見に来る人がこの辺りで散策をしている。それを俺は横からスイスイ抜かして我が家を目指す。

 

 

 

因みに今日の予定としては家に帰った後昼飯を食い、部屋でゴロゴロして晩飯を食い、風呂入って部屋でゴロゴロしたまま就寝である。我ながら一寸の隙もない予定だ。睡眠時間を増やして明日への英気を養いつつ飯を食うことは忘れない、生活の基盤をしっかりと遵守したうえでの行動だ。

違うか?…違うな。

 

 

 

そうして5分ほどペダルを漕げば町に出る。ここ文月学園周辺の町並みは割とオシャレなことで有名で、若いカップルのデートの場として有名である。

…と言うのはどうでも良いから、せめて公然とイチャイチャしないで欲しい。景観の邪魔だ。後リア充砕け散れ。

 

そんなモダンな町も特に大きいわけではなく、周りを見ながら走っているとすぐに住宅街に入る。一軒家やアパート、マンションなどが入り乱れて並び立つ、極めて普通の住宅街である。俺の家もその中の一つとして目立たずひっそりと建っている。

 

 

 

 

 

俺は家へ着くと、自転車を家の脇に置いて鍵を掛ける。…自転車本体をそのまま盗む自転車泥棒とかもいるが、果たしてこのチェーンのみのセキリュティで大丈夫なのだろうか?少し不安ではある。

 

 

ポケットから家の鍵を出すと、ドアに差し込んで回す。

 

 

 

「ただいまー…誰もいないのかよ……」

 

 

言い損じゃん俺。

 

 

そういや今日の朝、我が妹である小町が

「あ、そういやお兄ちゃん。今日小町ちょっと友達と遊んでくるから。ちゃんと夕方までには帰ってくるからね〜あ、これ小町的にポイント高い!」

とか言ってた気もするな…。

八幡的にはポイント低いっつーの。言うなら昨日の夜に言えよ、忘れちゃうだろ。

 

 

 

玄関で靴を脱いで、二階に上がる。それにしても今日の昼飯はどうしたものか…小町も朝、昼飯は作ってなさそうだったしな。それに今日は俺もMP切れなので、自炊するという選択肢も既に俺の中では失われている。

 

…こりゃ外で買ってくるが吉だな。そう思い自分の部屋に入ると突然暇つぶし機能付き目覚まし時計、別名スマホがささやかな音を立てながらポケットの中で小刻みに震え始める。取り出して画面を見ると、【着信:由比ヶ浜結衣】と表示されていた。なんだあいつ、まさか買い物の荷物持ちに来て、とかじゃないよな?だったら俺の101の特技である着信拒否ならぬ着信無視をするまでなのだが、事情が分からない以上一応出ることにする。

これで本当に荷物持ちだったら「悪い、これから予定あるから無理だわ」とでも言って断ればいい。単純明快かつ解かりやすい策である。

 

そう心に言い聞かせた俺は通話のボタンをタップする。

 

『あ、ヒッキー!今どこにいるの!』

いきなりでかい声で話してくる由比ヶ浜。マジやめろ、耳が聞こえなくなったらどうするつもりだよ。

そんな不満を飲み込んで、俺は返答を返す。

 

「…はっ?普通に家だぞ?」

『なんで家にいるんだし!?』

いやなんでと言われても放課後だからに決まってんだろ。

 

「お前は始業式の放課後になっても学校に残るのか?むしろ俺としてはお前が今どこにいるのか気になるんだが」

 

そう俺は言い放つと、由比ヶ浜はへっ?と疑問の声を出す。

そして少し間をあけてこう言った。

 

 

 

『…もしかしてヒッキーって今日部活あるの知らないの?』

 

…は?

 

「少なくとも俺は知らんぞ。今日まで奉仕部の誰からもそんな連絡はなかったしな」

 

余談だが春休み期間中は奉仕部間で一切の連絡を取らなかった。その理由は、由比ヶ浜が春休み中に家庭内の用事で忙しかったからだ。この部活内で唯一能動的な由比ヶ浜が連絡を取らないと、連動して受動的な俺と雪ノ下は連絡を取り合わない。そうして本当に春休み中は何もなかったのである。

だが驚くなかれ、そんな奉仕部の状況とは関係無しに俺の携帯履歴は進化していた!何と俺の中の天使である戸塚から遊びのお誘いが電話で来たのである!そして日程を決めて、その日は俺と戸塚、そしてどこからか湧いてきた材木座と共にテニスを楽しんだ。ホントあいつ、どこから嗅ぎ付けてくるんだよ。そろそろマジで怖いんだが…。

 

…と、そんなこともあって俺は意外と充実した春休みを送ったのだ。ああ戸塚かわいい、戸塚教とかあったら俺絶対入会するわ。

 

 

『…ちょっとヒッキー!聞いてるの!!』

 

「あ、…ああ。聞いてるぞ?」

 

そんな色鮮やかな時間を考えていたせいか、少し返答が遅れてしまう。

 

『…なにゆきのん?…あ、うん分かった。ごめんヒッキー、ちょっと待ってて』

 

電話の向こうからそんな会話が聞こえてくる。多分雪ノ下が由比ヶ浜に何か言ったのだろう、会話の内容は声が小さすぎて聞こえないが。

待ってと言われ十秒ほど固まっていると、凛とした声が聞こえてきた。

 

『久しぶりね比企谷君。一か月ぶり…かしら』

 

それは間違えることもない、雪ノ下雪乃本人の声だった。

 

「そうだな。会ったのは終業式1日前の部活だからな、それで合ってると思うぞ」

 

『そうね。まあそれは良いわ、早速本題に入りましょう。貴方、今どこにいるのかしら?』

 

その会話さっき由比ヶ浜ともしたんだが。お前ら結構仲良いし意思疎通とか出来るんじゃないの?視線だけで会話とか出来ちゃうんじゃないの?

 

「さっきも言ったが家にいるぞ。あと俺は今日部活あるのは知らなかったからな、俺のこの行動は間違ってないと胸を張って言える」

 

『…私貴方に今月の活動について書いたメールを送ってなかったかしら?』

 

そう言われ、一応ホームボタンで押してそこからメールを開いて確認する。受信トレイをスワイプして目を通すがそれらしきメールは一通も無い。

 

「…いや、確認したが来てないな」

 

『そう、という事は一括にして送ったはずが由比ヶ浜さんにだけ届いてたのね…迂闊だったわ」

 

そう言って少し黙り込んでしまう雪ノ下。恐らくこれからどうするかでも考えているのだろう。そう俺は察して、同様に沈黙を守る。

 

 

『…そうね、仕方ないわ。今日の部活はかなり早いのだけどこれで終わりにするわ。だから貴方も今日の所は来なくていいわよ。それと後で今月の活動予定をメールで送るからそれに目を通してくれないかしら』

 

「ああ、分かった」

 

『ええ、それじゃあ切るわね』

 

「おう。…また明日な」

 

『…また明日……』

 

 

そこでプツリと通話が切れる。と言うか自分で言っておいてなんだが、明日も部活あるんだな。

…前から考えてはいたが、奉仕部とは結構ハードな部活らしい。いや、ホントに今更だが…。

 

 

不意にスマホの時計が目に入る。12時50分、普段ならお気に入りの場所で飯を食い始めている時間である。しかし、今日は家に飯がない為に買いに行かなければならない。そして、その為にまず俺がしなければならないことは何か?

 

ーーー視線を下げると、校章が入った黒いブレザー、それに少し灰色に近いズボンを着ている自分。

 

 

「…着替えるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10分後、何事もなく私服に着替え終えた俺は春を感じせる朗らかな日差しの下で悠々と歩いていた。目的地は学校とは反対方向にある、小さなスーパーである。

 

何でもこのスーパー、俺は行ったことはないのだが、調べたところ昼を少し過ぎた時間帯へ行くと昼に作られた全ての弁当が半額になっているらしいのだ。大手スーパー驚きの懐の広さである。

 

近くに住んでいるとはいえあまり近所を出歩かないために、少し迷いながらも道を進むとその目的のスーパーは見えてきた。第一印象ではこじんまりとしてはいるが、外面はしっかりとスーパーとしての存在感を発揮している感じだ。

 

 

自動ドアを通り、スーパーの店内に入るとそこには外観からの推測よりも幾分か大きい売り場があった。スーパーのテーマソングらしきものも流れていることから、ここは意外と大きい所のチェーン店なのかもしれない。

 

 

来たことはないが、長年の荷物持ちの勘から俺はスーパーの奥へ進む。弁当や総菜などの売り場は大体入り口からすぐ見える場所か、あるいは一番奥の脇の方にあると俺の中では決まっているのだ。

 

そんな俺の考えは当たったようで、奥へ奥へと進むと直ぐに弁当売り場が見えてきた。弁当コーナーに着くと、取り敢えず何個か残っているそれらを見極める。

 

 

見える限りで今この時点であるのは、左からハンバーグ弁当、アジの塩焼き弁当、からあげ弁当、春の沖縄実感弁当、極秘!スペシャル弁当の5種類だ。

……と言うか最後の2つなんだよ。春の沖縄実感弁当は別に春なんて冠詞要らないだろ。沖縄はどちらかと言えば夏のイメージの方があるし。

それに極秘!スペシャル弁当とか大層に書かれてる弁当もオモテ面のカバーに貼ってある成分表見れば大体想像付くんだが。貼るのは良いがせめて裏に貼れよ、極秘が公開されてんぞおい。

 

 

そんな風に品定めしているとあることに気づく。それは今この場にあるのは半額では無く30%引きの弁当だと言うことだ。

後もう一つ、なんか周囲に人が群がってきたような気がするのだが気のせいだろうか?しかもその視線はどうにも全て、こちらを抉るように見ているような気がしなくもない…。

 

 

そう思っていると、左側にあった【staff only】と書かれた扉が音を立てて開く。出て来たのはガタイの大きい中年のおっさんだった。エプロンをしている事から恐らくこの店の店員だと言うことは容易に分かる。

 

そんな事を楽天的に考えていた瞬間、俺は周りの視線がどこか刺々しくなっていることに気づく。周囲を見回しても人影はあまりない、はずなのにだ。

 

ーーーまさか俺は警戒されている?

 

そんな考えが頭によぎる。…いやいや、普通スーパーで見た目も中身もただの高校生が警戒される理由なんてないだろ。

 

改めて店員のおっさんを見ると、右手に何か持っているのが分かる。よく注視すると、その形と文字がくっきりと映った。

 

【半額 50%引き】

 

ーーーそれは、このたった7文字だけ書かれてたシールだ。…いや、ちょっとおい、まさかとは思うがここでおっ始めるとか無いよな?さっきから薄々まさかまさかとは思考の端で考えてはいたが、半額になった弁当を巡って戦うなんていう何処かで見たような展開にならないよな…?

 

 

段々現実味を帯びてきたそんな想像が遂に俺の体を弁当売り場から近くにあった菓子売り場に身を隠す。もし仮に、仮にだが、そんな熱いバトル展開が始まってしまったら到底俺には敵うまい。理由もなく痛いのはゴメンである。

 

 

店員のおっさんは半額シールをペタペタと残り少ない弁当に貼り付けていく。そしてその作業が終わると再びスタッフしか入れない扉へ歩き出す。

 

店員のおっさんはドアを開き、その身を中へ進める。そして店員のおっさんの姿は背中しか見えなくなり、ドアが遂に閉まり終わりーーー

 

 

 

「…あれ?比企谷…君だよね?」

 

「うおぁ⁉︎」

 

…突然後ろから声を掛けられ、変な声を出してしまった。

大急ぎで後ろを振り向くと、そこには今日見知った顔があった。

 

 

「ええっと……吉井、だったよな?」

 

それを肯定するように吉井は頷く。

 

「うん。…それよりも今何してたの?すごい怪しかったけど」

 

「…あ、あれはだな、…半額弁当を買おうとしてたんだがまだ半額じゃなかったから少し身を潜めて待ってたんだ、うん」

 

「へぇー、それは奇遇だね。僕もあんまりお金が無いから良くここに来るんだ」

 

…あれ、意外とバレないんだな。まあ嘘は言ってないしな、嘘は。少し意図的に省いた部分はあるが。

 

「そういやお前は誰かに昼飯を作ってもらわないのか?家族とか」

 

「僕の両親どっちも海外赴任してるし、姉も海外留学してるから実家で一人暮らしなんだよ」

 

 

親が海外赴任とかどこのラノベの主人公だよ。まあ俺も夜しか親が居ないからほぼ妹と二人暮らしという点では似ているが。

 

ただ圧倒的に違うのはぼっちとしての格だ。ラノベの主人公とかは友人やらヒロインが沢山いるのに対し、こちらは友人関係0に加えて登録してる電話帳の人数も数えるのに10の指すら要らない。なのでこっちの方がある意味では上である。誰がなんと言ったって上である。…上…であると思いたい。

 

 

「まあそれはともかく、早くしないと貴重なカロリー源が奪われちゃうから残りはどこかで食べながら話そう!」

 

「あ、ああ」

 

弁当の事をカロリー源とか言うな、なんか固形栄養食品みたいに聞こえるだろうが。

 

 

あ、後一つ。

…良い子のみんなは現実とラノベの区別をしっかりしようね、八幡との約束だよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後に俺は唐揚げ弁当、吉井は極秘!スペシャル弁当を購入してスーパーを後にした。何故それにしたのか聴くと、曰く「偶にアワビとかウニとかが入ってるんだ!」らしい。吉井には残念だが成分表を見た限りだと今日はそれはないと思う。

つか何回か買ってるんならそろそろ成分表に気づけよ。

 

 

そして現在、俺と吉井は何処にいるかというと近くの公園のベンチである。二人きりで腰を掛けて…とかいう表現をすると少しは青春ラブコメっぽい雰囲気は出るが、実のところは男二人で並んで弁当を食べているだけなので極めて普通の光景である。

 

 

「比企谷君って普段何してんの?」

 

今回はザンギ弁当だった…と言いながら食べていた吉井が唐突にそんなことを聞いてくる。つかザンギとか…また随分マニアックな物を突っ込んで来るんだなあのスーパー。

 

 

「そうだな…、大体はゲームと読書と勉強と睡眠と昼寝とうたた寝だな」

「普段の半分は睡眠に費やしてるの⁉︎」

「いや、冗談だ。実はこっちが本命だ」

「…一応聞くけど、何?」

「スリープも結構な頻度でしている」

「結局寝てんじゃん⁉︎」

「…お前、英語出来たんだな。正直見直した」

「ここまで嬉しくない見直され方初めてだよ⁉︎」

 

 

弁当を片手で持ちながらツッコミを入れ続ける吉井。やっぱこいつ、奉仕部に入って俺の代わりに雪ノ下の毒舌を受け止めて欲しいんだが…。

そうすれば俺の精神的な負担はかなり減るし、吉井は吉井で…ツッコミが出来る。これでギブアンドテイクの関係だろ、多分。

 

 

そんな事を腹の中では考えつつも、弁当を食いながらの吉井との会話は意外にもよく弾んだ。

話題としてはお互いの過去やら現状、やっている携帯ゲームの話やらテレビゲームの話、携帯のアプリの話にも……。

 

 

「なあ吉井」

「何比企谷君?」

「お前の金の無い理由、もしかしなくともゲーム関連だろ」

「…な、…ナンノコトダカサッパリ」

「動揺しすぎて片言になってるぞ」

 

分かりやすい奴である。

 

「にしても最低一ヶ月は暮らせる金くらいは親から振り込まれてるんだろ?お前どんだけゲーム買ってんだよ?」

 

「い、いやー。そこまで買ってるわけじゃないよ?…大体このくらい……」

 

そう言って吉井は指を一本立てる。

 

「ゲーム一本?それなら普通にーーー」

 

そこまで言うと、次は片方の手で五本指を立てる。1本と5本、…まさかとは思うが……

 

「…15本?」

「…大体、だよ?」

 

瞬時に俺の脳内で計算がされる。

 

15本×5000円(一本あたりのおおよその値段)=7万5000円

 

さらに実際のゲームの値段はもう少し高いので、

 

吉井のゲーム支出≧7万5000円

 

 

 

…ゲーム買わなきゃ普通の生活なんて簡単にできるだろ。

 

それとももしかしてアレか、ゲームの縛りプレイみたいに人生で縛りプレイをしてるのか?

最低何円で学校に通いながら生活できるか?みたいな感じで。

 

…そう考えてると、もうそれしか考えられなくなったんだが。俺は、こいつは確かに馬鹿だがFクラスの他の連中と比べて純粋でまだまともな感性があると思ったんだが…。

 

そう感慨に耽りながら俺は体を動かす。

 

 

「…いや、ちょっとなんで突然引いてるの?しかも何でベンチの間の距離を広げてるのさ?あと視線合わせないようにそっぽ向いてるのも何故?」

 

「吉井、お前がゲームを買ってる理由がようやく分かった」

 

「へっ?」

 

「お前は人生を楽しみたくて、だからそんなに沢山のゲームを買い占めてわざと生活を苦しくしたんだな。つまりお前ってーーーー」

 

 

 

 

一呼吸置いて、俺はこう口に出す。

 

 

 

「ーーーお前って、マゾヒストなんだな」

 

「ちがぁぁぁああう!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなやり取りもあり、俺と吉井はやっと長かった昼飯を終えて帰路につこうとしていた。

 

 

「ねえ、少しゲームセンター寄ってかない?」

「…まあ別にいいぞ」

 

帰路につけなかった。

 

 

 

そんな吉井の提案を日切りに、俺と吉井はこの辺りで一番大きなゲームセンターを目指して歩き始めた。ちなみに俺、こいつと会ってまだ半日経ってないからな。普段の俺ならあのスーパーで互いに無視しあって終わるはずだったまででもある。

…やっぱコミュ力を持ってる人間は俺たちみたいなインドア派とは違うのだろうか?

 

 

「確かあのゲーセンって駅近だったよね」

 

「多分そうだったはずだぞ」

 

合間合間にそんな短い会話を交わしながらも歩い続ける。そこには気まづい空気は全く流れておらず、むしろ奉仕部には劣るが居心地の良い雰囲気が流れていた。

 

 

歩き続けること約20分、俺たちはようやく目的のゲーセンへ着くことに成功する。

 

ゲーセンに入るとまだ夏でもないのに冷んやりした冷房の空気が肌を刺激する。あんま考えたことないけどこういう所の電気代ってバカ高そうだよな。ゲーム機の稼働台数によってはそこら辺の少し大きいスーパーに匹敵するのかもしれない。

 

 

「比企谷君は何がやりたいの?」

 

「いや、俺はあんまりこういうとこ来ないから適当に麻雀でも打ってるわ」

 

 

一応ルールは分かるぞ麻雀。いつもはCPUを相手に嶺上無双…とまではいかなくとも、それなりには勝ってはいるので、こういうオンラインとかできる場所で打つのは少し楽しかったりする。それでもそこまで真面目にやっているわけではないので、普通に対人だと負けまくるが。

 

 

「…麻雀?何それ?」

 

「簡単に言えばボードゲームの一種だ」

 

まああんまり知名度が高いゲームでも無いし、知らない人がいてもおかしくはないだろう。日本の麻雀競技人口1億人とかふざけた漫画もあるが、そうなる可能性は未来永劫0に極めて近いと思われる。

 

 

「じゃああっちの格ゲーやらない?」

 

そう言って吉井が指をさしたのは、テレビCMも出している国民的に有名な格闘ゲームだった。幸い今日はまだ午後の早い時間だからか、普通に席は空いていた。

 

「ああ、良いぞ」

 

 

そうして俺は吉井と共に格ゲーやらレースゲーやらで1時間ほど遊び続けた。もう一度言うが、まだこいつと会って半日経ってない。どうしてこうなったと言いたい。

 

 

 

 

 

 

 

そうしていると、時間は午後の4時を過ぎ、辺りはそろそろ夕日が差しこもうと時間になっていた。

 

俺と吉井も既にゲーセンから出て帰路についていた。

 

「…そういや比企谷君とメルアド交換してなかったね、交換しようよ」

 

「ああ、じゃあこれ頼む」

 

そう言っておれはスマホを吉井に投げ渡す。それを受け取って自分のメールアドレスを入力する。

 

 

「うん、終わった!」

 

 

そう言うと俺にスマホを渡し返す。そして自分のポケットから携帯を取り出して、ぽちぽちと操作し始める。

 

「これでよし!今メール送ったから後で電話帳に登録しといて」

 

「ああ、分かった」

 

 

その数秒後に俺の手のひらのスマホが振動し始める。俺はロックを解除し、吉井を電話帳に登録する。

 

 

「…まあ、何かあったら好きにメールしていいぞ」

 

「うん、こちらこそ」

 

そんなやり取りをしつつ歩いていくと、俺の家付近の十字路に行き着く。

 

「じゃあ僕はこっちだから」

 

そう言って吉井が向いた方向は俺の家と真反対の方向だった。

 

「そうか、俺は逆だからここで解散だな」

 

「そうだね。じゃあ比企谷君、また明日!」

 

 

そう告げて歩いて行く吉井。きっとあいつは明るくて誰よりも純粋で馬鹿正直で、だからこそあいつの周りには色んな人がたくさん集まるのだろう。

今日学校で見た限りでも、殆どの人と打ち解けてすぐに仲良くなれている。ならばそれはもう一種の才能だ。例えるなら緑輝く草原に咲く一輪の向日葵と言ったところだろうか。明るく目立ち、大きく受け入れるその心に惹かれ、皆寄って来る。

 

きっとあいつはこの間違った世界と汚れだらけの世の中に大人になって乗り込むことになっても、その心を忘れずに、いや無自覚に突っ込んでいくのだろうなと俺は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、お兄ちゃんお帰りー。普段は暇な時は家でごろ寝してるかゲームしてるのに今日は珍しいね、どこほっつき歩いてたの?」

 

家に帰ってきて、リビングに入って妹に掛けられた一言目がこれである。

 

「おい、俺を遊び人みたいに言うな。学校以外だと家に閉じこもってる回数の方が10倍以上は多いんだぞ、寧ろそこら辺の事情を考慮してから言ってくれ」

 

「うわぁー、流石にその返しはないよ…。流石ごみいちゃん……」

 

 

おい、そんな哀れみと軽蔑の眼差しで見るな、新しい境地とか開拓しちゃったらどうするつもりだよ。フロンティアゲートとか俺は絶対に開きたくないんだけど。

 

 

「…まあいいや!とにかく小町は夜ご飯作るからお兄ちゃんは風呂入れておいて!」

 

「りょーかい」

 

 

そう言葉を返して風呂場に向かう。

高校二年はまだ始まって初日だと言うのに、とても濃厚な時間を過ごしたような気分に陥る。きっとそれだけFクラスと言う環境が俺に影響を与えているのだろう。

 

つまり、慣れればまた今まで通り。あの去年みたいに教室の机の上でイヤホンを付けながら寝ていた時間と同じ時間の過ぎ方をしていくのだろう。

 

ーーーただ、あの馬鹿みたいに騒がしい面子を見ていると、その時期は当分未来のことになるだろうな。

 

 

 

 

そう考えつつ、せっせっと浴槽をスポンジで洗って汚れを落とす新クラス初日の夜だった。

 

 

 

 

 

 

 




サブタイは悩んだ挙句の投げやりな感じです…。

ついでに一つ、言い訳を…。

…ただ作者は日常回がやってみたかっただけなんだ!
だから頼むから「こんなんやるなら早く本編進めろ」とか言わないでくれ!(懇願


…それでは、次回こそ進むので楽しみにしてください。
ではでは!

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