やはり俺の学園コメディは馬鹿すぎる。   作:Mr,嶺上開花

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受験が差し迫る中での投稿。もしかしたらこれが今年最後になる可能性があることはご了承下さい。


15話 祭と女王と販売係

 

取り敢えず一回戦が勝利で終わり一息付くのも束の間、俺と雪ノ下はそのまま部活の店番をするため部室へ向かっていた。そして店番が終われば少しの休息の後に二回戦が待っており、それに負ければ俺は転校が決定してしまう。要するにこの店番の時間は背水の陣で出撃するための一時的な休息だ、ここで精神を落ち着かせて再びあの舞台に立つ布石にしなければならないのだ。

…ところで店番ってどうやるんだ?

 

 

まともにバイト経歴が無いために想像力をフルで活用させてどんな仕事するのか考えていると、隣で歩く雪ノ下が俺の服を目を向けた。

 

「ところで比企谷君」

 

「…なんだ雪ノ下」

 

 

にしても久々に普通に呼ばれたな。遂に俺の名前で遊ぶことから卒業したのか?…んなわけないか。もはや若干の諦めさえあるまでである。

 

「今更なのだけれど貴方、ウェイターをしているの?」

 

俺の今着用しているのは確かに如何にもウェイター、と言ったような格好である。仕事してからそのまま来たしな。

 

「まあそうなるな。というかお前はクラスで何の役回りもないのか?」

 

 

雪ノ下の服装は見慣れたいつもの制服で、相違点を探そうとしても何も見つからないくらい日常のそれだ。

…まあ雪ノ下に限って文化祭で浮かれて着崩したり少しリボンの色を変えたりすることは絶対にないのは短くない付き合いから大いに理解はしてはいるが。むしろ逆に見てみたい。雪ノ下が「お帰りなさいご主人様!」とメイド服を着つつそうゲストに接するのを。…いや、逆に怖いかもしれない。冷たい目線と無感情な振る舞いとかしそうで。

 

 

「これはさっきまで私は自由時間だったからよ。奉仕部の店番が終わればすぐにクラスで仕事があるわ」

 

「…そうか」

 

 

 

そうして会話は終了。いつもの沈黙である。

 

互いに無理に会話を続けようとはせず、進んで沈黙を享受する。それは俺も雪ノ下も無理強いした会話ほど居た堪れず、疲れることを知っているからだ。

会話とはコミュニケーションの一つだ。それはいつの時代も重視されていて、それを切り捨てて社会を生きることは決してできない。互いに情報共有を図り自分の顔を広めることで弱肉強食なこの腐った世の中はより有利に生きていけるように設定されている。

 

だからだろう、そうして話すことが煩わしい作業と感じるのは。

 

ある程度繋がりがある人間とならその負担も少なく、また悪くはないと不思議に思う自分がいる。だが、見ず知らずな人間に急にフレンドリーに話しかけられても対応に困る上、どう話していいか分からない。こちら側から話したくないのに話しかけられた時もそうだ、大抵億劫に感じて負担を抱えることとなる。

 

然るに、会話とは自分たち人間の中で生きるための1番身近なツールなのだ。会話術が秀でている方が得をして、話し下手な奴は損をするのは古来よりそうである。それを現代風に言えばコミュ障がそれに該当するだろう。人との関わり方が分からず結果的に人に馴染めず孤立する。対照的にリア充は大抵のどんなところでも染色液のように溶け込め、特に葉山隼人のような真性の人間は例え自分と逆位置にいる人間とさえも相手に劣等感を感じさせることなく会話をすることが可能だ。だから会話は相手との意思確認というそれ以上にツールなのだ。

 

 

つまり俺も雪ノ下も、由比ヶ浜や材木座だろうが誰だって生きるために会話をする。だが普段のクラスメイトなどが混ざった時のそれは必ずと言っていいほど損得感情や優越感に劣等感が混ざりに混ざり、ただただ疲労するだけの行為に成り下がる。

だから、ある程度気の知れた人間との時間は会話にそこまで入れ込まないのだ。

 

 

 

奉仕部部室に着くと、そこには由比ヶ浜ともう一人、染めた金髪を靡かせて多少不機嫌そうに店を手伝う三浦の姿があった。

 

…思い出すのは召喚獣戦争の際、ムッツリーニが隠し撮りしたトイレでの音声。止まれ俺の脳内メモリー、それ以上考えたら雪ノ下辺りに直感でバレるから…!

 

俺が一人悶々とした気分で拳を握りしめていると、接客をしていた由比ヶ浜がこちらに気づいて手を振ってくる。

 

「あ、二人ともやっはろー!」

 

「朝ぶりね由比ヶ浜さん」

 

「相変わらず元気そうだな」

 

由比ヶ浜は一旦挨拶が済むと中途半端になっていたレジの会計を終わらせ、小学生くらいの女の子に熊のキーホルダーを渡す。女の子はそれを受け取るとさっさと教室を出て何処かへと行ってしまった。

 

「…安心したぞ、お前ちゃんと会計出来たんだな」

 

「流石に四則演算くらいは高校生だしできるからね⁉︎ヒッキーちょっと私のこと馬鹿にしすぎ!」

 

…まあ馬鹿にしているのは事実だ、何せ四則演算は小学生でもできるからな。高校生でそれを基準にしてできるかできないかを決めるのは少し滑稽だと俺は思う。口に出したら面倒そうだから言わないが。

 

 

…と、俺は一つ、この場に差し当たっての問題を思い出す。

今現在、ここには俺、雪ノ下、由比ヶ浜、三浦の四人がいる。そして先程まで少しの時間とはいえ由比ヶ浜と俺は話していた。

ーーーそうすると残った2人はどうなるか。

 

 

静かに俺は隣にいる雪ノ下を見る

 

「………………。」

 

冷たくまるで存在意義を問うような視線を雪ノ下は三浦へ向け、その三浦はそれに堂々とした立ち姿で応じている。状況から察するにどうやら雪ノ下の攻撃は効いてないようだ。行け、ゆきのん、もう一回アイスビームだ!!

 

「比企谷君、何か考えたかしら?」

 

「い、いや、特に、何も、別に考えてないぞ?」

 

「ヒッキー動揺しすぎ…」

 

まさか俺の思考が由比ヶ浜に読まれる時が来るとは…それともアレか、奉仕部として活動した時間の長さに比例して俺の思考を読む能力の経験値が溜まっているのか?そのままレベルアップしたら最終的に進化して究極装備:由比ヶ浜とかになるのか?ちなみにこの究極装備の内容は対俺の思考用だったりする。うわ、使い道少ない上利便性0じゃん。

 

 

「…それで、なぜ貴方がこの店に居るのかしら?」

 

雪ノ下は三浦にそう冷たく問う。おいどうすんだよ、この2人もう臨戦態勢どころか戦闘モード移行してるぞ。目つきとかもうビームでそうなくらい睨み合ってるし、こいつらもう水と油どころか火と水素の関係じゃねえの?近付けたら間違いなく爆発する意味合いで。

 

「あーしはただ結衣に手伝い頼まれただけだし。そもそもこの部活動の部長あんたでしょ、そのくらいは知ってて当然でしょ」

 

「私は把握してないわよ。確かにシフト表は由比ヶ浜さんにお願いして、私は後から見たけど貴方の名前は載ってなかったわ」

 

 

それを日切りにまた睨み合いが始まる。ちょっと何でこの2人呼んだんですか?凄い厄介なことになってるんですけど。

 

非難の意味を込めて由比ヶ浜を見ると、体こそ動いてなかったが表情はかなり慌てて冷や汗をかいていることが分かった。…本当になぜこいつらを引き合わせた。

そうしていると由比ヶ浜は心を決めたような決死の表情を浮かべて二人に近寄る。

 

 

「…あ!もう時間だ!ほら優美子そろそろ見たいって言ってた演劇部の劇が始まっちゃうよ!」

 

「あ、結衣ちょっ、引っぱらないでよ!」

 

由比ヶ浜、三浦の右手を握りしめ炎の女王三浦を強制離脱させる。雪の女王、雪ノ下はその様子を冷たく見守る。こうして稀に見る第一次冬夏女王戦争は幕を閉じた。二度と開幕しないでほしい。

 

雪ノ下は軽くため息をつくとカウンター代わりに置いてある机の後ろ側に回り、そこに置かれてある椅子へと座る。いわゆるスタッフスペースである。

 

「…何をしてるのかしら、貴方も販売担当なのだから早く座りなさい」

 

「あ、ああ」

 

このいつもより厳しい雪ノ下の発言の裏には未だ先ほど強制ログアウトさせられた三浦の姿が脳裏に残っているからなのだろう。

戦々恐々としながら俺も雪ノ下の隣に座る。

………何これ、すごい気まづい。いつもはもう少し離れながら会話をしているからか、この至近距離で二人きりというのは妙に心臓に悪い。特に先ほどの三浦との睨み合いの空気が雪ノ下にはまだ残っているせいか、刺々しい雰囲気が俺にズバズバ刺さってくる。普通なら女子が隣にいるというドキドキする青春展開のはずなのに、なんで俺はこんな冷や汗を流しながら縮こまらなければならないんだよ…!やはり青春の神様が居たとしたら絶対に間違っている…!

 

 

そうして嫌な意味で緊張感を持って座っていると、俺たちが店番になって初の客が教室へと入ってきた。

二人連れの女子生徒、何年生かは分からないが身長的には高校1年だと思われる。

 

「わぁ〜、可愛い〜!」

 

「これ全部手作りですか⁉︎」

 

「…ええ、まあ、そうね」

 

…今度は違う意味で居づらい。ここ、よく考えれば世間的にはファンシーショップのようなものだしな。何とか雪ノ下が慣れない対応しながら客と話しているのを横で見ながら、俺は次の戦いに向けての作戦を練ることにした。

 

「比企谷君、お釣り取ってくれるかしら」

 

「あ、あぁ。何円だ?」

 

「…呆れた。まさか聞いてなかったのかしら。店番としての自覚は無いの?」

 

作戦を練ることは無理らしかった。

 

 

 

 

そうして雪ノ下と共に1時間ほど慣れない客商売を続け、時刻も11時半を過ぎそうな頃にようやく助っ人がやってきた。

 

「はぁぁぁちまん!我が参上したぞよ!」

 

白い髪で肥満体質の知り合い、材木座がそう言う。そういやこいつの名前は何だったけな、…全く覚えてねえや。

 

「八幡!手伝いに来たよ!」

 

まあそんなことはどうでもいい、今はその隣にいる天し…じゃなくて大天使戸塚と会話をするという重大なミッションを背負っているのだ。こんな中二病の相手をする暇などない…!

 

「よお戸塚!来てくれてありがとな!」

 

嬉しそうにこちらを見る戸塚を見ると自然と声音が上がってしまうのを感じる。白銀に輝く髪に少しあどけなさが残った可愛い顔、それに小動物のような表情。それらは全て戸塚を引き出すためのファクターでしかなく本質は大天使どころか超絶天使クラスの広い心にこそ存在していて、何が言いたいかといえば戸塚可愛いよ戸塚の一言である。

 

「貴方、本当に戸塚さんと会話をする時だけ妙にテンション高いわよね…」

 

そんな呆れた視線を雪ノ下から感じるが、多分この視線はあれだ、きっと戸塚の存在に恐れ戦いて羨望を抱いているのだ。やべぇ、久々に戸塚と会えたからか少しテンションが上がってしまっている。誰か頑張って戸塚の小説、例えば俺の戸塚がこんなに天使すぎるわけがあるとかで良いから書いてくれよ、俺全巻買うから、何ならガ○ガ文庫にも箱単位で注文するから!

 

 

「ゴホコホンッ…はちまーん!」

 

「材木座、構って欲しいのは分かったが戸塚の声真似するな気持ち悪い」

 

「グボバッ!」

 

材木座が床に倒れこむ。いや事実だろ、と言うかその容姿で猫なで声された俺の気持ちも考えろよ。今凄い背筋が寒くなったぞ。

 

「あの、材木座さん」

 

「…我にまだ何か用か?」

 

「そう言うのをやるのはあまり褒められた行為じゃないわ。当人が居る居ない関わらず真似された方は傷ついてしまうことだってあるもの。その所をよく考えた上で発言をする事を勧めるわ」

 

「グベラッ!!」

 

材木座は動かなくなった。…まあこればかりは戸塚以外だったら同情していたかもしれないな。ストレートに理路整然と注意されるのはやはり言われる側にとって心苦しいものがある。だが材木座、今回お前が真似をした相手は戸塚だ、よってそんな慈悲は当然無い。

 

 

「それで僕たちは何時までやれば良いの?」

 

「そうね…今から1時間やったら切り上げて部室に鍵をかけてくれるかしら。鍵は机の中にあるわ」

 

雪ノ下はシフト表を見ながらそう戸塚に教える。因みに1時間やった後に部室を施錠する理由は万年的な部員不足のためである。俺と雪ノ下は言わずもがな、由比ヶ浜も試験召喚大会に出場するためにあまり暇がないのだ。なぜだろうか、社畜にならないためにファンシーショップを提案したはずなのにやっぱり社畜になっている気がする。ああ、働きたくない。

 

 

「分かったぁ!此処は我に任せて先に行けぇぇぇぇぇぇ!」

 

「戸塚さん、頼んだわよ」

 

「うん、…あと八幡、明日とか一緒に回れる?」

 

「別にいいぞ。何なら予定空いてなくても無理やり開けるし」

 

「あれぇ?我完全に無視されてる?」

 

材木座、それはお前が戸塚にやってしまった罪への贖罪だ。罪には罰を、それが世の中の道理であって守られなければならない概念でもある。だから甘んじて受け入れろ材木座。

 

「本当?…八幡ありがとう!」

 

「ああ、勿論だ」

 

「あの、…八幡さん?もしもーし?」

 

「じゃあ私はクラスの方もあるからそろそろ失礼させてもらうわね」

 

「じゃあ俺もそろそろ行くわ、あとは頼んだぞ戸塚」

 

「えーっと…すいません我は?」

 

「うん!後でメール送るね!」

 

「おう、じゃあな」

 

「あの、えっと、我…は、どのようにすればいいのだろうですか?」

 

戸塚の店番の邪魔にならないところで座ってれば良いんじゃないか?

そんなことを口には出さず心の中だけで思いながら部室から出る。

 

春の暖かな光を浴びながら、ヘラと鉄板がぶつかる音やエアガンの空砲の音、スピーカーからは迷子の放送が流れ始める。

やはりまだ祭りの喧騒は終わらないらしい。

 

 

 

 




大学受験まであと10ヶ月、頑張ろう(汗)

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