やはり俺の学園コメディは馬鹿すぎる。   作:Mr,嶺上開花

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久々の投稿です
そろそろ来る受験に向けて本格的に動いているんですが、未だE判定で心はバキバキと折れかけています

では本編どうぞ


14話 レシピとウェイターと一回戦

 

クラス内では最終確認の作業が終わり、遂に文化祭開始時間を知らせるアナウンスが流れる。現在時刻は9:10、予定時刻は9時だったはずなので実質10分の遅れということになる。

まあ多分、実行委員会の公務で多少手間取った部分でもあったのだろう。中核である実行委員は提出される書類全てに関与するとも坂本から聞いたしな。所謂社畜である、俺もあれだけにはなりたくないものだ。

 

そうして開幕した文化祭初日、その朝は予想通りと言うべきか殆ど来客 はいなかった。

 

 

「人来ないね」

 

「まあまだ朝だしのう…」

 

吉井の言葉に木下が同調する。

実際こんな朝っぱらから来る外部の人間なんて、幾らここが進学校と言っても意識高い受験生か校内生の親くらいである。その他多勢は大体昼過ぎから夕方に掛けて来校してくる。

つまりその時間帯がピークという訳だ。

 

 

 

「いらっしゃいませー。お好きな席へどうぞ」

 

 

レールが歪んでいて開けにくいため開きっぱなしにしている扉から、初めての客がやってくる。その客は指定されたネクタイ、ブレザー、ワイシャツを着用していることから校内生だと一見して分かる。この時間に来たことからそのくらいは姿を見ずとも推測出来るが。

 

その客に対して木下は瞬時に応対して、お冷とメニュー表を渡しにテーブルへと向かい、俺や吉井含む客の座る場所で雑談していたFクラス勢は予想外の客入りに全員スタッフオンリーの隠れ家へと逃げ込む。まだ時間的にこないと思っていたから表でのんびりしていたのだが、こんな早い時間に来るとは思わなかった。

にしても流石木下、文化祭が既に始まっているとはいえ唐突な客入りに対してすぐさま接待するとは…、もう既にその演技力は本物を超えるほど実用性に富んでるんじゃないか?

本物を完璧に模倣してそれを二つ目の本物へと昇華させる。それが木下秀吉の本質なのかもしれない。

 

 

俺は見事な木下の接待を見つつ、表から見えない場所で会話を継続させる。

 

「そういやお前坂本とあの大会出るんだろ?お前らの1試合目何時なんだ?」

 

そう俺が吉井に問うと、吉井は妙に不安な面持ちでこちらを見ながら言う。

 

「10時ちょうどから…だったような気がするような気がしていてもそれが合ってるかどうかは天のみぞ知るというか……比企谷君僕の1試合目の時間知らない?」

 

「いや知るかよ」

 

なぜ毎回こいつはこんな感じなのだろうか?そんな忘れっぽいならそろそろメモ帳買うなどの対策もしてもいい頃合いだろうに。

…こいつの場合はメモ帳買ってもメモするのを忘れそうだが。

 

 

「第一試合は10時半だ、しっかりしろ明久」

 

そう言いながら仮設された簡易的な調理場に新たに入ってきたのは先ほど俺を追いかけていた坂本だった。その特徴的な真っ赤な髪の毛を確認した俺は自然と、条件反射的に足腰へと力を込める。

 

「雄二!今までどこ行ってたの?」

 

「ああ、そこの副代表に見事なまでに嵌められて鉄人の補修付き軟禁セットを食らってた」

 

そう言いギラリと俺を見る坂本。どうやら虎視眈々ならぬ刺死眈々とした視線から未だ俺を恨んでいる事が分かる。…非常にこの場に居にくい。

 

「比企谷君何かやったの?」

 

「俺は何も、それよりまた客来たから次俺行くわ」

 

そんな中丁度良く客が来たのか女子生徒の話し声が聞こえてきたので、俺はこの危険地帯から身を逃がすため利用する。俺の仕事は都合の良いことに一応ウェイターなので、辻褄も合ってるがため流石の坂本も手出しはできないだろう。

 

「あ、うん。よろしく」

 

「…また後で、な」

 

坂本のその区切られた台詞に多少の不安感が心の奥底から噴き出してくるが、それを全力で無視して客へと向かう。

 

調理場から出ると入り口に二人、女子生徒が入るのを戸惑っているのか固まっていた。その二人に全く見覚えがないので恐らくは去年のクラスメイトではないだろうと思う。

…しかし、文月学園はネクタイの色や上履きの色などで学年を判断することが出来ないから残念なことにそこまでしか分からいんだよな。お陰で後輩かと思ったら先輩だった、みたいな事も度々起きてるし。

まあ今回に限ってはそれが分かっていても接客という立場上、どっちでも敬語なのだが。

 

 

「いらっしゃいませ、2名様ですね。どうぞご自由にお席にお座り下さい」

 

俺はそれだけ言うと、調理場からお冷とメニュー表を取りに戻る。何か少しウェイターとしてはアレだが、予め自由席と決めてしまったのでこうするかしないのである。断じて楽したい訳じゃない。

 

調理場には木下が学校から借りた小型冷蔵庫から牛乳のアイスクリームを出していた。しかも少しジェラートっぽい固まり方である。…ここ本当に中華喫茶だよな?ちょっとヨーロピアン感出し過ぎではないだろうか?ほんと誰だよ中華喫茶のメニュー表にアイス入れた奴。

 

「木下、ついでに水も頼む」

 

「了解じゃ」

 

木下は手に持っていたアイスが入った容器をちゃぶ台に起きつつ水の入ったボトルを取り出す。因みにこれはスーパーで安く買った天然水で、決して学校の水道水ではない。ここはFクラスだから衛生環境が悪い、という先入観を持った客が大体なので本当に腹壊されても困るからである。ただでさえ悪評ばかりのこのクラスなのだ、更に食中毒などマイナスイメージに繋がりかねない事案を起こしてしまえばそれこそ本当に客入りが無くなってしまう。

 

 

木下が取ってくれたボトルを受け取り、俺はコップにそれを注ぎ込む。

それをお盆に乗せ、客の元へ運ぶ。コップくらい直で持っていってもいいのだが、流石に喫茶店でそれは有り得ないと島田や姫路が反対したためだ。その時は主に島田がそれについて大いに批判し、姫路は弱めに反対意見を述べていた。まあ姫路ならそうなるだろう、自分の意見をあまり押し通すイメージは無いしな。

 

 

「これお冷です。ご注文がお決まりになりましたら近くのウェイターをお呼びください」

 

お冷を客のテーブルに置いた俺はそんなファミレス常套句を口にして厨房に戻る。

入り口で木下とすれ違い、俺はふとお盆の上に乗ったものを見たら何とそこには白いアイスの上に黒いソースとイチゴ、バナナが乗ってミントが添えられた、いわゆるチョコレートパフェがあった。朝からパフェかよ、とかパフェのアイスがジェラートっておかしくね、だとか色々とツッコミたかった場所はあるのだが何より俺が感じていたのはここが本当に中華喫茶なのかどうかという不安感だった。チョコパフェ出す中華喫茶とか聞いたことない。何ならごま団子パフェを作っていた方がまだ中華喫茶っぽいまでである。パフェを作ってる時点で中華喫茶もどきにはなってしまうが今よりはきっとマシだろうし。

 

 

「…比企谷君、接客できたんだ。バイトの経験とかあるの?」

 

中に入ると吉井がそう聞いてくる。未だに何もせずぽかーんとはしているが、それもまだウェイターとしての仕事が無いからだ。どうせ昼頃になれば忙しくなるし、その時刻は俺も部活や大会で居ない。必然的に吉井1人で背負う仕事量が増えるのだ、ざまあみろ。

…といってもそれを見越して坂本はシフト表を作ってるんだろうけどな。俺一人いなくなったくらいじゃ40人クラスは崩れないのである。何か虚しくなってきた。

 

 

 

 

 

「…あ、そろそろ俺第一試合だから行くわ」

 

「おう、まあ精々頑張るんだな」

 

「…なんで上から目線なんだよ」

 

 

気づけば時間は10時半を過ぎ、少しずつ客足も増えだしたこの時間、それは同時に俺の試合開始時間が迫っていることも意味していた。

教室を出ると、今まであまり感じなかった文化祭ならではの空気が途端に溢れ出してくる。どのクラスの生徒も一生懸命に呼び込みだったりチラシ配りだったりする声がそこら中から聞こえ、また外部の客も既にそれなりに入っていた。…まあFクラスだからあまり人が来ないっていうのはあるんだろうな。チラシ配りもする余裕は金銭的に無かったし。

 

大会の第一試合はまだ非公開なので体育館で行われる。雪ノ下とは一応選手待合室で会うことを確認しているのだが、…まああいつに限って遅刻は余程なことがない限り起こることはないだろう。

テクテクと文化祭を見ながら歩いていると、遂に体育館に辿り着く。当然ここら辺になると出し物は無いので人気はそこまでなく、代わりに出場選手が緊張感を漂わせてピリピリしていたり負けたであろう生徒が泣いていたりしていた。…なんかここだけ文化祭とは違う空気を放ってない?体育系の部活のノリみたいの感じるんだけど。

 

 

中に入ると既に雪ノ下が待合室に備え付けられたイスに座って待っていた。当然なのか、雪ノ下は他が緊張感を露わにしている中で至極当然とばかり堂々と座っておりそれを見ると少し他の生徒とは相違的に感じてしまうのか、存在感が他よりかなり太くあるように思える。

 

「…よう、早かったな」

 

そう雪ノ下に言って近づくと、こちらを見上げた雪ノ下は少し不機嫌そうにこう口を開いた。

 

「ええ、早かったわよ。少なくとも貴方の亀並みの行動の遅さよりは誰でも早いんじゃないかしら」

 

やはりの毒舌、しかも今日は舌が調子が良いのか侮蔑感しか感じられない。これでも敵同士とかでなく一応パートナーである。

 

「だが亀でも徒競走じゃ兎に勝ってるだろ、つまり俺が仮に鈍行だとしてもペース配分を守れる鈍行なんだ、最近の時間に厳しい鈍行列車と同じだ」

 

「貴方の計画性はともかく自分の事鈍行とか言ってる時点で自ら弱点を作り出していることに気づかないのかしら」

 

「どこが弱点なんだよ、遅くたってちゃんと来れれば問題ないだろ?」

 

「不測の事態が発生した場合の遅刻、または立てた計画がそもそも土台から間違っていた、弱点は他にもあるわ。不思議ね、遅刻ガヤ君の悪い点は考えれば考えるほど出てくるわ。もうこの弱点を唯一の強みにした方が良いんじゃないのかしら?」

 

遅刻と比企谷を掛け合わせるなよ。

つーか弱点が簡単に考え出せるのが強みっておかしいだろ。普通はそれも弱点だろうが。何、それとも人より劣ってるってことは長所じゃんとか言い出すのかこいつ。どこのワールドエンドだよ。畜生、言ってることは矛盾してる癖に歌は良いんだよなあのグループ。CD持ってないけど。

 

そんな事を考えているとアナウンスで俺と雪ノ下の名前が呼び出される。時計を見れば既に試合予定時刻3分前になっていた。

 

「まあ、行くか」

 

「そうね、行きましょうかヒキガエル君」

 

「だから何で俺の小4の頃のあだ名知ってるんだよ、怖いし恐いんだけど」

 

そんな軽口を叩きながら歩みを進める。試合会場に入ると既に対戦相手と立ち会いの教師はスタンバイ済みだった。ついでに最後に来てしまった申し訳なさを感じるのは日本人独特の感性だからだろうか。

 

 

教師は俺と雪ノ下が来たことを確認すると開始宣言をするために口を開く

 

「では、これよりBブロック第1回戦4試合目を始めます。両者、召喚獣を召喚して下さい」

 

「「「「サモン!」」」」

 

教師の声を聞いた俺たちは召喚獣を呼ぶためのキーワードを口にする。

対戦相手はどうやら三年のCクラスの男子生徒のようで、多分友達同士で組んだとかそんなところだろう。だがこちらには俺はともかく、何と言っても二年Aクラスのトップクラスである雪ノ下がいる。俺が相当足を引っ張らない限り負けはあり得ないだろう。

 

しかし俺は、この時一つの見落としをしてしまった。

 

 

 

 

…一回戦の科目って何だったっけ。

 

 

 

 

複数の召喚獣のデータを同時に処理したためか、いつもよりコンマ何秒か遅れて表示される俺の召喚獣の点数。

 

【2−F 比企谷八幡 数学 75点】

【2−A 雪ノ下雪乃 数学 482点】

 

【3−B 高塚健也 数学 162点】

【3−B 飯浜智人 数学 191点】

 

 

 

ーーーーそこにはあまりにも絶望的な数字が刻まれていた。仕方ないよ、だって数学だもの、はちまん。

 

「…これはどういう事かしら?渡したテキストはちゃんとやったわよね?」

 

雪ノ下は不機嫌そうな表示を隠さず俺を睨む。まあ確かに転校宣告された後、雪ノ下に数学の問題集をたっぷり渡されたし仕方のないことかもしれない。

 

「あ、ああ。確かに全部解いたぞ」

 

「じゃあこの点は何?まさか手を抜いて受けたとかかしら?」

 

怒り心頭。それが今の雪ノ下の表情を察するのに適切な表現だと俺は感じる。だが実際俺は割と真面目に問題解いたんだけどな…。

 

「まあ、あれだ。これが私文志望の全力だ」

 

その言葉に呆れて溜息を吐き出す雪ノ下。おい待て、前回の数学9点よりは十分マシだろうが。むしろやっとクラスの平均点に乗ったんだから喜ばせろよ。

 

「…まあいいわ。じゃあ貴方は右をお願い」

 

「分かった」

 

召喚獣を操りこっちに斬りかかってくる右側の召喚獣の剣に俺はクナイを合わせる。

相手の装備はさながら冒険者だ。西洋風の直剣を右手に持ち、軽いプレートを着込んで頭には鉄の兜をかぶっている。何故だろう、俺の方が総合得点は上なのに装備としてはあっちの方が優秀な気がする。

 

チラッと右を見ると雪ノ下は槍を持った召喚獣と剣を交えていた。…まああいつなら心配要らないな。まずは目の前の相手を叩くことに専念した方が良さそうだ。

 

 

一度クナイを思い切り振りかぶり、バックステップで相手との距離を取る。今回は点数が無いため能力も使うことはできない。本当に何で数学なんて教科があるんだか世の中に問いたいまでである。

 

「…こんの…!」

 

相手の召喚獣は再度こちらへと走って斬りかかってくる、それを俺はクナイで受け流しながら様子を見る。

一撃、二撃、三撃とクナイで剣を弾いたり避けたりしながら相手の立ち振る舞いを見るが、どうやら動き的には彼は県の初心者なのだろう。先ほどからフェイントもない単調な横斬りかあるいは縦斬り、そして斜め斬りくらいしか使ってこない。

 

…もし武道の修練者ならやばかったが、これならいけるかもしれない。

 

俺は相手が剣を縦斬りで振るってきたのに合わせてクナイで防御する。所詮鍔迫り合いもどりのような感じだ。

そこから俺はクナイを滑らせワザと剣を縦に空振りさせる。その大きな隙を狙って先ほど右で扱っていたクナイを相手の胴体に投げ込む。

 

【2−C 高塚健也 162点→125点】

 

どうやらクリーンヒットだったお陰で俺のような低い点数でもかなり相手の持ち点を削ることができた。

その事を確認すると俺は召喚獣に付いているポケットからクナイをまた一本取り出す。

 

 

「細かく動きやがって…!ささっと消えちまえよ!」

 

そんな乱暴な相手の台詞を軽くスルーしつつ相手の剣をまたクナイで止める。そしてもう一度弾き、そのクナイを相手の体へと流し込むように投げる。

 

【2−C 高塚健也 125点→99点】

 

 

二回目の投擲で何とか100点を切ることに俺は成功する。先ほどの点数の減りようから、俺は後これを約4回成功させれば勝てるというわけだ。

だが多分これからはこの方法は通用しない可能性がある。またこの召喚獣の新しい技を考えなければすぐに負けてしまうだろう。

 

 

「…まじかよ」

そんな対戦相手の声が室内に響く。

 

【2−C 高塚健也 21点→0点】

 

5分ほどして俺らの戦いはようやく終わった。長引いた理由の一つは俺の点数が低く、満足に戦うことができなかったからだろう。後は俺の熟練度や武器のリーチの問題などもある。まあこれはすぐには解決できるような問題ではないので放っておくことしかできない。

 

【2−C 飯浜智人 51点→0点】

 

 

横を見れば雪ノ下も相手に剣を突き刺しトドメを刺すところだった。雪ノ下にしては時間が掛かったが、まあそこは単純に相手の獲物が槍だったからだろう。諸説はあるが剣で槍に挑むのは3倍の力量が必要と言われるしな。

 

 

「これで取り敢えず一回戦は突破だな」

 

無事戦闘も終わったので横にいる雪ノ下に声をかける。

 

「ええ、何処かの誰かも低い点数ながら頑張ったようね」

 

「何だそりゃ。褒めてるのか貶してるのかどっちかにしてくんないか、どう反応していいか分からんから」

 

「そうね、まあどっちもよ」

 

「…そうか」

 

 

 

何とか切り抜けた一回戦。だがまだこれは学園祭の始まりに過ぎない。未だ学園祭は1日目の午前である。俺にとっての学園祭は未だ始まっているのかも定かではない。

しかし、俺は気づかなかった。この学園祭のクライマックスが1日目にして既に近づいている事を。




Ps.もしかしたら学園祭の終わりで別の小説として第一部と第二部に区切るかもしれません。その場合コメディー要素が薄れる可能性有りです。
…もしそうなっても随分先の話ではあるんですけどね…。

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