かなーり遅れましたが、投稿します!
今後の予定としては取り敢えず清涼祭終わるまでは投稿し続けて(投稿ペース度外視で)、とにかくエタらないように頑張ります!
ではでは、本編どうぞ
文化祭。
それは一般的にクラスで企画を準備し発表したり部活動ならではのものを用意したりする、どの高校でも普遍的に行われる一般行事だ。しかし俺にはどうにも日本各地殆どの高校で執り行われるこのイベントに少し疑問がある。
なぜなら、この文化祭を楽しみにする学内人口と消えろ失せろ無くなってしまえと思っている人口ではどう考えても後者に勝敗が上がるからだ。その理由の一端として文化祭への強制参加かつ強制労働が挙げられる。
興味の無い人物でも過酷な労働を強いられ、挙げ句の果てにはサービス残業にまで従事をしなければならない空気が形成される。それを無視してサボると翌日にはクラス内でその情報が忽ち錯綜し、クラスでの居場所が全て消えてしまう。それが真実だ。
それに基づき、文化祭消極的意見勢と文化祭の興味の持っている人口の参考割合基準であるリア充人口を比較すると大体4:1程度で消極勢の勝利のはずなのだ。更にはスクールカーストトップでは無くとも、中堅カーストのリア充の中にも否定派は少ないが多少居る。
それなのに、文化祭は消えないのだ。大多数の意見では文化祭の消失が願われているはずなのに、いつまで経ってもこの催しは消えない。
そして、その原因はやはりと言うべきかスクールカーストトップのリア充の所為である。そいつらは全員年に一回のイベントを好み、文化祭の存続を望む。そんな奴らの権力はクラス全てを把握するほどだ。万が一どこか一部のグループが反乱を起こそうとも直ぐに赤子の手を捻るが如く鎮圧してしまう。そこに慈悲も容赦も一切ない。
そんな彼らが望み続けているから文化祭はきっと日本全土で儀式のように行われ、カーペットに染み付いたシミのように憑り付いて離れないのだろう。
…ってかこれどう見ても少数意見の尊重だよな?今の日本の大多数の意見優先の法則はどこ行ったんだよ。少数意見反対ー。
「雪ノ下、これで良いのか?」
「ええ。後は椅子を二つそこに置いてくれるかしら」
「おっけー!」
早朝、奉仕部は文化祭販売に向け部室内を清涼祭ムードに染め上げていた。実際は前日から既に準備を始めていたのでほぼ終わっていたのだが、少し残っている場所や配置保留している場所があった為に日がまだ高くない時間帯からこうして集まっていた。
由比ヶ浜は作業の邪魔にならないよう脇に退けてあった椅子を販売用に借りてきた長机の近くに置く。既に長机には作られたアクセサリーがカゴの中に所狭しと置かれていた。カゴにはそこら辺で摘んできた花と共に値段が表記された紙が添えられている。
「これで終わり!」
「…のようね」
雪ノ下は生徒会への報告用紙にペンで何かを書き入れ始め、由比ヶ浜は額の汗を拭う。…お前そんな働いてないだろ。ゴミの運び出しとかの肉体労働系統は全部俺がやったんだからな?
「…んで、ローテーションどうすんだ?三人しかいないぞ?」
雪ノ下に向かいながら言う。由比ヶ浜に聞いてもどうせ何も分からないからだ。俺と雪ノ下から「アホの子」認定を受けたその能力は伊達じゃない。
「それに関しては問題ないわ」
「…何でだ?」
俺は思わず聞き返す。この人手の足りなさで問題ないとかどんな作戦立てたんだよ。パート募集でもしたのか?
そんな疑問に答えたのは雪ノ下ではなく、椅子に座りながらレモンティーを飲んでいた由比ヶ浜だった。
…そういやこいつがローテーション決めるなんて事も話して気が。不安だ。
「実は彩ちゃんとか小町ちゃんに販売係を頼んだんだ!」
「まじで!当然俺は戸塚とだよな⁉︎」
「貴方、戸塚さんの事になると直ぐに気持ち悪くなるわね…」
そんな不安もぶっ飛ぶ発言が由比ヶ浜から飛んでくる。
戸塚と一緒に販売…。そんな神がかった企画が文化祭にあったとは、…文化祭最高すぎだろ!
「いや、ヒッキーはゆきのんとだよ?」
訂正、文化祭は今すぐ消えるべきだ。
「由比ヶ浜さん、何で私がこんな気持ち悪いのと一緒の空間で販売をしなければならないのかしら」
どうやらその件については雪ノ下も知らなかったらしい。と言うことはこれらは由比ヶ浜の独断であると推測できる。…じゃあ何で俺戸塚と販売出来ないんだよまじで。
「だってゆきのんはヒッキーと試験召喚大会に出るんでしょ?なら一緒の方が都合が良いじゃん」
「……とても遺憾ではあるけれど、筋は通っているわね……」
確かに雪ノ下の言う通り、一年に一回レベル以上で珍しい由比ヶ浜の効率論だ。俺と雪ノ下は試験召喚大会で定期的に部活から抜けざるおえないからローテーションもそれに合わせ込まなければならない。そうなるとやはり別々にしてしまうと色々な不都合が舞い込んでくる。何なら一緒にしてしまおう、みたいな理論だろう。…やっぱ信じられん。
「…まさかアホヶ浜が覚醒したのか……?」
「そこ聞こえてるし!」
そう言って俺に吠える由比ヶ浜。その姿はどこか大型犬の姿を思い起こさせる。…やっぱアホの子だな。
「そう言えばクラスの方の準備は終わったのかしら、特にドブ企谷君?」
「次から次へと俺の名字をチロルチョコの新製品みたいに生まれ変わらせんな。味が変わっちゃうだろうが」
お気に入りはきなこ餅味、個人的に次はマッカンとコラボしてより甘いチョコを作ってもらいたい。
「由比ヶ浜さんのクラスは?」
おいちょっと?話投げてそのまま暴投とか止めてもらえませんか雪ノ下さん?
そんな心の声は当然躱され、雪ノ下の質問に由比ヶ浜は答える。
「もう終わったよ?うちのクラスは演劇だから結構準備が大変だったみたいだよ。私は殆どここにいたから知らないけど」
演劇、そう言葉に出て始めに思い出すのは去年の事だ。クラスで星の王子様をやり、王子様役に戸塚が選ばれたのだ。俺はと言えば一人悲しく照明の電気をチカチカと触っていた。そうして無事過ぎ去ったのだけが唯一楽しかったことだと言える。
「そう…。それでドブノシタ君は?」
遂に俺の名字の面影が全て消えてしまった。こいつ俺を皮肉る為だけにどんだけ名字改竄したら気がすむんだよ。
…とか面と面で向かって言っても余り効果はないだろうから心の中で納めておく。うわ、俺寛容すぎ。
「名前は置いていて、まあ俺らの方も結構様になってたぞ。俺もあんまり手伝ってないからアレだが、昨日見たときは普通の清潔そうな喫茶店って感じだったな」
「そう、意外ね。汚い部屋の中に汚い畳に汚いダンボールを並べただけの汚い喫茶店になると思っていたのだけれど」
いや、確かにそうなんだけれども…。畳はただ上にカーペット的なものを敷いただけで本体はそのままだし、テーブルはダンボールに上質な布を掛けて見えなくしただけだし、窓も割れたガラスを誤魔化すために全部外してオープンカフェ装ってた上に壁だって黒ずんだ所を隠すために張り紙を貼ったりしてる。
つまり実質的にはFクラスそのものである。
にしても汚いを連呼しすぎだろ、ならせめて中古のとかに呼称変えろ。そっちの方が絶対プラスだから。
「…ってそうじゃねえよ、ローテ表見してくれよ把握してないから」
そう言うと由比ヶ浜はバッグの中から弄ってそれらしき紙を取り出す。
…そうだった、あいつがローテーション決めたんだった。先ほどの不安がまた俺の中から湧いてくる。
「はい、ヒッキーこれ」
「ありがとな、後ヒッキー止めろ」
一年間言われ続けた今更なことを返しつつもローテーション表を受け取る。確かに俺の名前は雪ノ下の名前と共に試験召喚大会の時間帯を避けて書かれていた。由比ヶ浜にしては上出来と言えるだろう。戸塚は材木座と共にやるらしい。あのコンビ大丈夫なのか、というか材木座そこ代われ。
…そうして1日目のローテ表を見終わり、そこで疑問点が湧いてきた。それはなぜか俺の名前表記が「比企谷(八)」になっていたからだ。
基本このようなカッコが使われる場合、同じ苗字の人物が2人以上いると考えて良いだろう。…しかし、この学校で比企谷なんて苗字は自慢ではないが俺くらいのものである。実際同学年の名前を名前順で綴った名簿を見たことがあるが、比企谷は俺しかいなかった。
「…あ、それ裏あるよ」
「そうなのか……」
人末の予感を感じつつも裏をひっくり返す。
書かれていたのは2日目のローテ表、そこには予想通りと言うべきか、「比企谷(小)」という名前が。恐らく、いや絶対小町のことだろう。
「おい由比ヶ浜、何でうちの妹がローテ表に組まれてんだよ。しかもペアの奴、…川崎?」
「あ、それは小町ちゃんにお願いしたら余裕でokくれたからじゃあって感じでさ〜。後その川崎大志くんの事で、川﨑沙希さんの事じゃないよ?」
つまり由比ヶ浜が小町に電話して、それで小町が了承した上で川崎の弟が巻き込まれたわけか。川崎の弟不潤すぎだろ、だが小町と一緒に店番をするお前を俺は許さない。
「比企谷君、私にもそれを見せてくれる?」
「ああ」
手に持っていたローテ表を雪ノ下へと渡す。雪ノ下はそれを見つめ全て覚える勢いで読んでいたが、何故か途中で手が震え始める。ついでにとばかりに紙も震える。雪ノ下を震源にマグニチュード1ゆきのんの地震である。訳分からない。
「…由比ヶ浜さん、何で姉さんの名前があるのかしら……?」
雪ノ下は突然立ち上がってローテ表を由比ヶ浜に見せながら、その箇所を指で指してその真意を問う。…陽乃さんが手伝いに来るとか大丈夫なのかよ。押し売りとかあの人ならやりかねないし、そもそも今気付いたが外部の人を手伝いに呼んでいいのか?
「いやー、一昨日放課後に一人でスタバってたら陽乃さんに会っちゃって、その時に私もやりたいとか言い出すもんだからつい…」
「…姉さん……」
雪ノ下はその言葉を聞き思わずといった感じで頭を抱える。俺もその気持ちが分かるので、そっと放っておく事にした。ついでに今はスタバるという由比ヶ浜発の謎過ぎる名詞の事も置いておく
「つか外部の人間が学内の催しを手伝っていいのか?」
「何か平気みたいだよー平塚先生に聞いた限りは。盛り上がれば皆だろうと一人だろうと関係ないって言ってたし」
皆だろうと一人だろうと、ていうフレーズは普通逆だろ。何で人数徐々に減らしてんの、もうそこで独り身臭が漂ってきて本人居ないの凄い痛まれないんだけど…。
「そういやその当人である平塚先生は今何してるんだろうな」
「そう言えば昨日、
生徒諸君は良いがな…、我々教員、特に担任を持っていない教師は明日は朝早くから職員会議で出勤、昼は周りが出し物だイベントだと騒いでいる中で書類仕事、夕方もまた職員会議……そろそろ私の文化祭に王子様でも来てんないかなあ…高校生でもいいから
とか愚痴ってたような…」
「もう誰か貰ってやれよまじで…」
何だよ高校生でも良いからって。遂に平塚先生からもアラフォー独身教師である数学科の船越先生みたいな雰囲気を感じとれそうなんだけど。
ちなみに意外とその独身教師二人組コンビは仲が悪かったりする。この前は職員室前で何かどちらが結婚に一歩リーチしてるかいがみ合ってたし。きっと同族嫌悪みたいなものなのだろう。あるいは年齢、船越先生が40オーバーであるのに対し平塚先生が30行ったか行ってないかである。大人の余裕なんて無かったんだな。
「…そろそろ最後の作業に入りたいのだけれど……」
そう雪ノ下は割って発言する。最後の作業というとあれか、早くに設置すると誰かが壊しかけないという理由から、作った後も今日の朝に自由開放されていた木工室から運び出した物の設置か。
「…そだな。サッサと済ませて帰ろうぜ」
「まだ文化祭始まってもいないうちから帰るなし!」
どうでもいい会話を重ねがら廊下側の奉仕部の入り口に立つ。
そして目の前の廊下の端には木工室で雪ノ下が文字を書き、由比ヶ浜がデコレーションして俺が運んだ宣伝用の看板が安置されていた。
そう、看板である。縦長でA字状をした立て掛ける奴だ。
この看板自体は学校の備品という分類で貸し出されており、奉仕部ではそれに黒で企画名を書いた模造紙を貼り付けて、看板の周りをデコっている。そしてそれを俺が木工室から運んだ。
…俺なんもしてねえな。
「じゃあ立て掛けるぞ」
何となく何もしていないという自責の念に駆られたので、率先して設置する。立て掛けるだけだが。
当然看板の脚を開いて部室の前に立てるだけなので直ぐに終わる。そうして出来た奉仕部の模擬店を少し離れて見ると、まあまあ様にはなっていた。学祭の枠組みからは抜け出せていないのがまた良い、Aクラスとか一回だけ準備中に通りかかった時外から覗いたがもう学校行事でやるそれじゃなかったしな。高級そうなカーペットから食器まで、もうチェーン展開すればいいんじゃないだろうか?
そんな至極脇にそれたことを考えていると雪ノ下は部室のドアの方へ近づき、鍵を掛けた。鍵がかかったことを確かめてから俺たちの方へ向き直る。
「…まあ、これで一旦解散ね。後最初の販売担当は由比ヶ浜さんよね?」
「そだよー」
そう言って奉仕部とか書かれたタグプレート付きの鍵を由比ヶ浜に渡す。由比ヶ浜はそれをスカートのポケットに無造作に入れる。…無くすなよ?
「…そうだ。雪ノ下、召喚大会までに何かあったら連絡すっから携帯の電源付けっぱなしにしておいてくれるか?」
俺はFクラス、雪ノ下はAクラス、更にクラスで動き回ることも考えると携帯以外での連絡手段は無いと言ってもいいからな。
「……そうね。比企谷君の頼みを了承するのは少し癪だけれど、まあいいわ。じゃあ私はクラスの方も今からあるからもう行くわ」
それじゃ、と言って雪ノ下は新校舎の方へ向かう。それをきっかけに俺も由比ヶ浜に切り出す。
「俺もクラスがあるから後はよろしくな由比ヶ浜」
「うん!……って部室に鍵掛かってるから宜しくも何もないじゃん!」
ヒッキーありえない、マジありえないーとシャウトしながら追いかけてくる由比ヶ浜。清涼祭開幕はもうすぐである。
教室へ行ってみると、すでにそこには何人かのクラスメイトが登校していた。
「…あ、おはようなのじゃ比企谷」
「あ、ああ。おはよう…」
その1人ーーー木下秀吉から朝の挨拶を受け、ついどもってしまう。最近朝の挨拶をやっとする相手が増えたからできると思ったんだがな…、想像以上に朝の挨拶の世界は奥が広いようだ。
「…ん?比企谷来てたのか?」
「ああ、今来た…つーかお前、その格好は…?」
Fクラスに簡易的に出来た仕切り壁、というのは当然スタッフが調理したりサボったりする場所として増設された場所で、その向こう側から今姿を現したのは普段とは違って無造作な赤い髪をワックスでまとめ、更にウェイターの格好をした坂本だった。
「見てわかる通り、ムッツリーニ作のウェイターの制服だ」
「これムッツリーニが作ったのか⁉︎」
改めて坂本のウェイターの制服、特に上着部分を見る。縫った場所にほつれは見られないし、毛玉が乱雑な様子もなく外にも着ていけそうな出来上がりだった。つか売れる、絶対売れる。もうあいつ洋服デザイナーになればいいんじゃないの?
「……その程度、素材さえあれば造作もない…」
気付くとムッツリーニがすぐ俺の横に立っていた。何、瞬間移動の忍術でも使ったの?そんなことしてるとどっかの里の火影的な何かに若年就職するから気をつけろよな。
「よう、居たのかムッツリーニ」
「……さっき来たばかり」
坂本もムッツリーニがそこに居たことに気づかなかったらしいが、それも慣れたもので最早動揺どころか身じろぎひとつしない。それは俺も同じだが。ムッツリーニのお陰でまた心が一段階強くなった気がする。
「ムッツリーニー!何か僕にくれた上着の名前部分の刺繍に【吉井バカ久】とか書いてあるんだけどなにか知らない⁉︎そいつ殴るからーーー
ーーーあ、おはよう比企谷君」
「お、おう。よう……」
またもや仮設されたスタッフオンリーの出入り口から、笑顔で殺気を振りまく誰かが現れた。吉井だった。
吉井も坂本と同じウェイターの制服を着ており、一見するといつものバカ顏はなりを潜めてどこかのホストクラブに居そうな誰かに見える。ただ、一つ欠点を挙げるとするならば只ならぬバカな気配がすることだろうか。これだけはどれだけ衣装で上書きしようとも永久的に保存されるらしい。さながらどこかのゲームでは基本の技マシンは売れないのと理屈は同じようだ。
「明久、安心しろ」
「雄二何か知ってるの⁉︎」
「ーーーお前はバカだ」
「ちょっと表に出ようかゴラ」
「上等だ、叩き返してやる」
この感じだと吉井の上着の刺繍にバカと書いたのは坂本で間違いないだろうな。その上で吉井を煽る、流石坂本汚い、考えていることが知恵の回るチンピラ並みである」
「ああん?比企谷、今なんか言ったか?」
………あ。
「いや特に、何も、別に言ってないぞ…⁉︎」
やばい、口が滑った。これが雪ノ下なら冷たい目線と罵声のみで済むのだが、坂本となると恐らくは肉体言語…どうすんだよ、俺肉体言語なんていう語学は修学してねえぞ。そもそも肉体で喋るとか器用すぎるだろ、何だよ右ストレートにも一つのコミュニケーション的な意味があるのか?
「…まあそれなら良いが」
その言葉を聞き、思わず肩の荷を下ろす。だが何故か俺の警戒心は油断してはならないとばかりに警報音を鳴らしていた。長年培われたこの八幡危険察知アラームは伊達ではない、なんなら毎回頼りにしていたりする。例えば親に外行けと言われた時とかクラスメイトからハブられそうになった時とか。
「じゃ、じゃあ俺ちょっと部活あるから…」
「いやいや、まだ来たばっかだろ?ゆっくりしてけよ?」
勘に従って嘘をついてこの場から去ろうとすると坂本に呼び止められる。声こそ温和な雰囲気を醸し出してはいるが、どこか闘気のようなものが含まれている気がする。暴力反対、絶対に。
「い、いや、早く行かないと不味いんだよ本当に…」
「…そうか、なら仕方ない」
そう言って坂本は何故か手や足を入念にほぐし始める。ちょっと?何をする気なんですか?かなり怖いんだけど…。
そして坂本は身体中をほぐし終えるとこう言った。
「ーーーちょっと時間良いな?ここでお前への用(制裁)を済ませるから」
「…じゃあな!」
そう言い残し俺はドアを思い切り開けて走り出て、ついでにドアを閉める。そして全力ダッシュ。俺よ、体力測定で帰宅部ながらAランクを取った力を遺憾無く発揮するんだ……!
「おい待ちやがれ比企谷!今なら許してやるから!」
後ろから俺を追いかけて思い切りドアを開け、走ってくる影が一つ。坂本だった。当然だが。
「それ絶対嘘だろうが!」
「なら腹パン一回で許してやる!」
「何で罰が増えてんだよ!誰もそれで止まる奴は居ねえよ!」
そんな軽口を叩きながらもかなり本気で走っていく。というか坂本も帰宅部の癖になんであんな速いんだよ!初めは10mは空いてたのがまだ追いかけられて20秒程なのに5mくらいに縮んでるぞおい!
そんな事を考えているうちにも坂本は俺との距離を縮めていく。更に言うなら俺はもう少しで体力が切れ始めて全力で走れなくなると思われる。どちにしても真っ当に逃げては先に負けるのは俺だろう。
俺と坂本はFクラスから走り出して早くも旧校舎から抜け出し、新校舎で人間カーチェイスをしていた。今現在Bクラス前、坂本との距離は足音からおよそ3m強だろう。…そろそろ何か策を案じなければ、真面目に殴られてしまう。
……そうだ、あれを利用しよう。
思い付いたら即実行、俺はそのまま廊下を突き抜けると思わせて脇にあった階段で一階へと三段飛ばしで降り始める。後ろの坂本はフェイントに上手くかかり、少しもたついてから俺に追随する。これで大体1.5秒は稼いだ。
階段を着地し終わるとその着地の力を使い右へ曲がる。スタートダッシュの要領だ。それを追いかけて坂本の着地する音が聞こえる。やっぱ速い、もっと遅く走って欲しい。
「…おい!もう走るのをやめたらどうなんだ…⁉︎」
そう俺は自然に言う。そろそろ目的地も目の前なので、ここら辺で揺さぶりをかけた方がいいと思ったからだ。
「断る!なら捕まって腹を殴られろ!」
そう言いつつラストスパートとばかりにスピードを上げ始める坂本。だが、これでもう終わりだ。
俺はわざと止まり、廊下の脇へと寄る。学園祭とは言え朝早いため、廊下に生徒の姿は見えない。
荒い息を整える振りをしつつ、追いついた坂本の方を見る。
「やっと観念したようだな比企谷…」
「いや、ちょっ、痛っ!!」
坂本の声は無視し、大声で俺は殴られる声を出しながら思い切り壁にぶつかる。その後2回ほどガッ!!やらゔ…‼︎などの悶絶する声を出しつつ頭を壁にぶつける。はたから見たら只の精神異常者である。
今まで俺を追いかけてきた坂本は突然の俺の奇行に多少混乱しているようだが、もう遅い。
「おい!なんの騒ぎだ坂本に比企谷!」
ーーーなぜならここは職員室前だからだ。
「もしかしてお前それが狙いで」
「いや、実は坂本君がさっき俺のことを追いかけてきてここで殴ってきたんです」
坂本が余計なことを呟きかけていたので大きく声を張り上げて俺は嘘で塗り固めた発言をする。これでもう王手、いやチェックメイトだろう。
それでも坂本はどうにか冤罪を撤回しようと釈明を始める。
「おい!…鉄人聞いてくれ、そいつの言葉は虚実の」
「西村先生と呼べ」
「今はそれどころじゃないんだ!」
それからもあれこれ坂本は言うが、被疑者がそれを言っても信用も信憑性も一切無く、平行線が続く。なので最後の一言を火に注ぎ入れる事にした。
「西村先生、俺坂本に壁際に追い詰められてタコ殴りにされました」
「坂本…指導室に行くぞ」
「いや!誤解だ!俺はやってない!」
「心配するな、清涼祭が始まる時間までには帰してやる」
「それまだ一時間半はあるぞ!」
そんなやりとりをしながら坂本は鉄人…西村先生に担がれて職員室前を去っていった。まあ打ち合わせは全部終わってるらしいし大丈夫だろう。俺は知らん、クラスの店番は大して無いしな。
…さて、クラス戻るか。
かくして二度目の清涼祭は騒がしく幕を開ける。
徐々に文が荒くなっていくこの作品。大学合格したらリメイクしようかな
PS.筆者は未だに年賀状を出していません(届いているのにも関わらず)
忙しくても後回しにせずなるべく早く出しましょう(今更感