やはり俺の学園コメディは馬鹿すぎる。   作:Mr,嶺上開花

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外凄い寒いですね…
まあそんな感じの第12話です

バカテスト

問 パラドックスについて説明しなさい

比企谷八幡の答え
「正しそうに見える前提と、妥当に見える推論から、受け入れがたい結論が得られる事を指す言葉」

教師からのコメント
「正解です。一字一句間違えているところがないとは恐れ入りました」


吉井明久の答え
「異世界転移の方法」

教師からのコメント
「ちゃんと答えてください」


土屋康太の答え

「高次元過重異空間を生成する際に余剰副産物として発現する一因であり、主に時間軸の加速或いは逆行、世界軸を中心とした平行移動などが可能になる」

教師からのコメント
「夢と希望の超科学理論をありがとうございます」


12話 俺と転校と楽観視

………転校とか…まじか。

 

「…あの、すみません。よく分かんないんですけど……」

 

…突然両親が転校を提案してきた。何を言ってるのか分からないが俺にも(略。

待て待て、落ち着け俺。ステイクールだ、冷静になれ。千葉県のマスコットキャラクターであるチーバ君の体の色は何色だ?そうだ赤だ、…よし、元の思考回路に戻った。

 

 

平塚先生を真っ直ぐ見据えると、その視線はきっちり俺へと返ってくる。座っている平塚先生の瞳は強く此方を見開いて、まるで俺自身の思考を読み取ろうとしているようだった。

 

…つまり、この話は恐らく本当だ。ありえんだろ普通。こっちはもう入学して1ヶ月経ってんだぞおい、幾ら小町のためと言ってもやり過ぎだろ。どんだけ小町喜ばせたいんだよ、もう小町教とか作っちゃえよあの2人。多分その後俺も小町の可愛さに惹かれて参加するから。意味ないじゃん。

 

 

「まあ突然だったからな、その気持ちは分からなくはない。

…だがこれは事実だ。今のところ君の両親は隣町にある如月高校に君を転校させる気らしい」

 

そう平塚先生は苦々しく言う。それもそうだ、今平塚先生が挙げた如月高校という全日制の普通科高校はヤンキーに不良が蔓延る、所謂底辺中のド底辺高校だ。この文月学園も確かに偏差値は55くらいと普通の高校ではあるが、如月高校は更に下をいく偏差値28だ。驚きの低さである。俺も高校受験時に情報誌で知って驚いたし、絶対入りたくないとも思った。校舎裏では毎日デュエル(物理)とかやってるんだろうな。「おい、デュエルしろよ」みたいなノリで。

…いや、それは違う世界か。

 

 

 

「…ちなみにうちの両親は他になんか言ってましたか?」

 

「それでだ、比企谷」

 

急に平塚先生が明るい顔になる。…少しかわいいと思っちゃったじゃねえか、だがその前に戸塚を呼んでくれ戸塚を。そっちの方が癒されるから。戸塚の癒しは世界一ィィィィ!

 

「比企谷、お前試験召喚大会に出ろ」

 

「…はっ?」

 

頭の中に住む戸塚を見て幸せな気分に浸っていたせいか、平塚先生の突然の発言に俺は敬語を忘れつい素で答えてしまう。

 

「…それは何でなんすか?」

 

「それはだな、私が自ら君の両親に君が試験召喚大会で良好な成績を残したら文月学園に残留させてくれと提案したのだよ。そしたら彼方も飲んでくれてね、取り敢えず景品を取れる順位だったら良いとの許可は貰った」

 

なんつう物欲精神の高い両親だ。全く誰の親なんだか。…俺か。というかこれって俺も物欲精神高いってことになんのか?凄い嫌すぎる遺伝子なんだけど、何ならフリーマーケットとかで売りたいくらいである。あるいは比企谷家秘伝の物欲精神、一壺108円で今ならもれなくもう一つ付いてくる、的な感じで売れるか?売れないな。

 

「つまり、俺が超絶的に底辺でエリートDQNの住処である如月高校行きを避けるためには試験召喚大会で景品の出始める4位以内にならなくてはいけないと」

 

「そうなるな」

 

平塚先生は如何にもという感じで頷く。何コレ難易度高過ぎだろ。

しかも試験召喚大会ってペアで出場する大会だったよな?即ちペア探しから俺の大会は始まるとか笑えない。笑えな過ぎて福笑い検定とかあったら10級で落第するレベル。あと10級は小学一年生レベルな、今決めた。

 

「…そうだ、平塚先生、ペア組みませんか?」

 

「全く君は…さも当然のように教員とペアを組もうとするんじゃない。それにペア候補なら既に君の周りに居るじゃないか、聡明な雪ノ下にコミュニケーション能力の高い由比ヶ浜とか」

 

「由比ヶ浜はバカ過ぎるので無理です」

 

あいつともしペアを組もうものなら即座に負けが確定してしまう。そんなものは火を見るよりも明らかだ。しかもコミュ力はテストの点とは何の関係無いから、絶対平塚先生由比ヶ浜の頭脳の評価できる点がないからってその部分だけ抜粋して取り上げただろ。

 

「それに俺の理数教科を補うことが出来るくらい成績の良い人が良いんです」

 

「なら雪ノ下で良いじゃないか。あいつは総合科目で学年2位だぞ?」

 

確かに雪ノ下は理数教科も出来るどころか文系教科も出来るオールラウンダーだ。俺の理想的なペアに一致する…が、一つ問題が存在する。

 

「あいつに何か頼んだら倍返しを要求されそうな気がするんですけど…」

 

頭の中では本を膝の上に置きながら冷たい目線と口調で等価交換を要求する雪ノ下がいとも容易に再生される。等価交換なんて錬金する時だけで十分である。

 

「いや、案外快く引き受けてくれるかもしれんぞ?」

 

それは絶対にない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

じゃあ頑張ってペア見つけるんだぞ比企谷、と言うと平塚先生は奉仕部とは真逆の職員室の方向へ歩いていく。その様子を確認し、俺はゆっくりと無人の廊下を一歩一歩踏みしめて歩く。

 

そもそも俺としては吉井から姫路の現状についての相談も受けたのに、俺自身まで問題が出来るとかもう正直キャパオーバーである。しかも俺はただ試験召喚大会で良い結果を残せるようにすれば良い、だが姫路は違う。彼女の両親はFクラスの総合的な負の部分を実際に知り、その上で転校を持ち出してきた。つまり俺みたいな単純かつ明快な解は彼女には存在せず、ただ両親の意思次第で全てが決定ずけられてしまう。

 

この相談を放棄してしまう、そんな一つの未来も確かに用意されてはいる。だが、その未来は選択した瞬間に今の俺が過ごしている割と居やすい空間は崩壊してしまう可能性は大いにある。それに、FFF団にそんなことを知られでもしたら冗談でもなく俺は死ぬだろう。火炙りとか紐なしバンジーとか画面の中で我慢しろよまじで。法治国家舐めすぎだろ。

 

確かに俺だって姫路のことは唯のクラスメイトで他人だが、可哀想だなと思うくらいの善性はある。だが表立って助ける義理はないし、やる気も無い。

……まあ吉井と坂本、ついでに島田がどうにかしてくれるだろう。多分。

 

だから俺は俺らしく、裏から目立たず気づかれずに手を回してやるとしよう。ついてはその清涼祭を無事終える為にまずは部活の企画の準備からだな。

 

そう結論を出し、俺は奉仕部の扉を開けた。

 

 

 

 

「ヒッキー遅い!」

 

何かデジャブを感じる由比ヶ浜の言葉を聞きながら俺は部室に入る。

 

「あれ、由比ヶ浜だけか?」

 

室内には雪ノ下の姿は無く、由比ヶ浜がのんびりと紅茶を飲んでいる姿だけ確認できる。

 

「うん、買い出しに行ってくるんだって」

 

「買い出し…ねぇ」

 

買い出し、なんてものは碌なことではない。高一の時の文化祭、クラスでの準備の際に俺へ買い出しの役目が回ってきたのだが、無理矢理もう一人付けられてその相手が…何だっけ?…確か戸へとかトイレとかそんな名前の葉山といつも一緒にいる奴で、そいつと行かされて気まずい思いした挙句に話すと◯◯だべ!とか◯◯っしょ!とか語尾が超うるさくやかましいかったのを今でも俺は覚えている。もしかして俺の知らないうちに新しく千葉弁とか出来たの?じゃあ俺も使ってみるとするべ。

…無いわ。

 

 

「そういやお前は何してんだ?」

 

「…ゆきのんがぬいぐるみの材料を買ってくるまでの休憩?」

 

「なんで疑問系なんだよ…」

 

 

そんな話をしつつ俺も適当なイスに座り本を開く。無言ではある、だがそれなり居心地の良い空間。それが今の奉仕部に対する評価だ。それに無言だから仲が悪いわけではないし、無言だと居心地が悪くなるというのも偏見論である。リア充グループの無言の空間は確かに空気が重い、なぜならそれは決められた役割を全うすることしかないからこそ、キャラの崩壊が起こるとそのグループの人間はどう接して良いのか分からなくなるからだ。それは逆説的に素面でそれなりに気を許しあっているから、きっと無言であっても互いに居心地が良いのだろう。

 

 

 

 

 

「…ただいま」

 

雪ノ下が帰ってきたのはその30分後ほどだった。俺が平塚先生に連行された時間も加算するなら大体1時間といったところだろうか。

 

「お帰りゆきのん!」

 

そう言って由比ヶ浜が雪ノ下に飛びつく、というか抱きつく。思うんだがあいつ事あるごとに雪ノ下に抱きついてるよな。もうハグヶ浜とかに改名した方がいいんじゃないの?

 

「由比ヶ浜さん、暑苦しいのだけれど」

 

そりゃ五月の初旬、気温も徐々に上がっていく季節だしな。その上人間カイロとかやられたら尚更だろう。

 

雪ノ下は嫌がりながら離そうとするも、由比ヶ浜の力が予想以上に強いのかなかなか離すことが出来ない。そうしているうちに由比ヶ浜は抱きつきを止めて、逃れた雪ノ下は一歩後ろに下がった。

 

「…どしたのゆきのん?そんな険しい顔をして?」

 

「それはあなたが抱きついて離れ…もういいわ」

 

雪ノ下は由比ヶ浜が話を全く聞いてないのに呆れ、溜息をつく。…諦めろ雪ノ下、あれの普段はああいう生き物だと思っておけ。そうすれば必然的にそれとなく受け入れられるからな。

 

「それでもう材料は全部買ってきたのか?」

 

取り敢えず変な空気になったから話題を変える、流石エアーリディング検定皆伝所持者の俺である。しかしその言葉が気に入らなかったのか、雪ノ下はこちらを冷たい目線で射てくる。

 

「貴方は平塚先生と進級相談の会話は終わったの?」

 

「おい、ナチュナルに俺が進級危ないみたいに言うな。言っておくが俺は理数系以外の科目ならほとんどAクラス並みには点数有るんだぞ」

 

「でも数学で学年最下位を毎回定期試験で競ってるわよね?」

 

「…否定はしない…、つかだから俺は進級相談なんてやってないからな?」

 

何で俺そんなに留年のホープみたいに言われてんの?一応文系科目だけで俺はAクラス入りが期待されてたんだぞ、そこら辺を考慮して物を言ってほしものだ。

 

「じゃあヒッキーは何を平塚先生と話していたの?」

 

そうぼんやりとした様子で聞いてくる由比ヶ浜。何でこいつはいつも間が抜けてるような感じがするのだろうか、もしかするとそこら辺に天性の才能とかがあるのだろうか。…その癖にはギャルだが。

というか時々こいつがギャルなのか疑わしくなるんだが、それは俺のギャルの知識が間違ってるからなのだろうか?因みに俺にとって一番ギャルっぽいギャルは今のところ三浦だったりする。

 

 

「まあ何かと言われりゃ…進路相談…だろうな」

 

すると雪ノ下は軽く口を押さえて驚いた表現をする。ただむっちゃ白々しいが。絶対口元歪んでるのを隠してんだろ。八幡知ってるよ、雪ノ下は嫌味を言う時一番輝くって。

 

「あら、もうそこまで落ちていたのね。どうせ貴方のことだから現状の理数系の成績のせいで転校なりするんでしょう?」

 

そうして口を開いた雪ノ下の発言にはやはり毒がたくさん塗りたくられていた。しかも転校の話なんで知ってんだよ、何?テレパシー?それ俺も欲しいわ、電話代節約出来るし。

 

「何でお前はさっきから俺の文系の輝かしい成績を無視して谷底の理数系の成績ばっか掘り起こすんだよ。…確かに転校の話は当たってるが、それも成績関係無いっつうの」

 

「…へっ?」

「…えっ?」

 

由比ヶ浜は持っていた携帯を落とし、雪ノ下は目を見開く。どうやら今度は本当に驚いているようだった。

 

「…ああ、勘違いするなよ?今のままだと転校せざるおえないだけで、俺の両親が出した条件を満たせさえすれば俺は転校しなくて済む」

 

そう俺は付け足すがあまり意味はないようだった。未だに由比ヶ浜は呆然としているし、雪ノ下も何か俯いて考えている素振りを見せる。

 

「…それで、その条件というのは何なのかしら?」

 

「平塚先生曰く、試験召喚大会で4位以内に入る事らしい」

 

まずその為にはまずペアの相手を探さなければいけないが。…そうだ、戸塚なんてどうだろうか?戸塚だったらCクラスだから成績もそれなりに取ってるうえ、何より隣で戦う俺が癒される。

 

「でも試験召喚大会ってペアで出場しなきゃいけないんだよね?」

 

「そうだ。…まあ宛は一方的にではあるが一応あるしな」

 

「因みに誰か聞いてもいいかしら?」

 

何故か雪ノ下の目がスッと突然鋭くなる。怖い、怖いから。

 

「天…戸塚だ」

 

思わず噛んだじゃねえか。

ホント、同じ部活の部員に圧力かけるとか何?鬼部長なの?やる気がないなら辞めろみたいなあの体育会的なノリなの?

 

「…ヒッキーほんと彩ちゃんの事好きだよね」

 

「それどころか戸塚団とか有ったらすぐさま会員になるレベルだぞ。寧ろ誇っていい」

 

…いや、いっそ作ってしまおうか。そもそも今までなかったのが可笑しいんだ。戸塚を影で見守り、癒される。それはとても神聖なことである。

……いや待て、現時点で俺は戸塚の近くにいるのにそんな集団作ってしまったら会う時間が少なくなってしまう。そうか、会員は俺だけなれば良いのか。戸塚団会長兼会員ナンバー00みたいな感じで。

 

そんな思考に浸っていると雪ノ下は本をパンッと閉じた。閉じた音が空間を支配し、室内に響き渡る。

 

「…少し聞きたいのだけれど、なぜ戸塚さんなの?」

 

「いや、何故と言われても…仲良いし、成績もなかなか取ってるし、それなりに話してるしな」

 

「一つ目と三つ目の理由は同じじゃん……」

 

 

ばっかお前、仲が良いのとそれなりに話をするのは全く別もんだぞ。仲が良くても話をあまりしない奴もいれば、話をよくしていても仲が悪い奴らもいる。例えばクラス関係、上っ面だけ見ると普通に話をしているように見えても裏では陰口を叩いていたりする。しかしクラス内ではキャラを壊さないために絶対にそれを口に出したりはしない。それなりに平和は保たれている、だが両方の面を知っている人間からしてみれば戦々恐々である。例えそれがクラスでの日常に見えても何故かギスギスした空気を感じる。まあ俺はそのクラスの中に居ないから何も被害は無いのだが。

 

 

 

 

 

「でも4位以内に入れないければ転校せざる得ないのでしょう?」

 

「そうだな」

 

「でもヒッキーもしそうなっちゃったらどこの高校に転校するの?」

 

由比ヶ浜がそう聞く。にしても真面目な由比ヶ浜の顔を見たのは久しぶりである、それだけ俺の転校の件について同情心を持ってくれているのだろうか。

 

「如月高校」

 

そう答えると雪ノ下の顔が強張る。今日は本当に珍しい事が多い、雪ノ下は中々感情が顕著には現れない性格なのだが今は分かりやすいほど表情が動いている。

 

「…確かそこは県内でも荒れている学校と有名よね?」

 

「ああ、そうだな。にしてもお前がそんな底辺高校の事を知っている事自体に俺は驚いたぞ」

 

「茶化さないで。…それで貴方はどうしたいのかしら?」

 

雪ノ下はこちらの真意を確かめるように目を向ける。その澄んだ瞳にはきっと俺の汚れきった瞳が映っているのだろう。

 

 

…確かに俺は少し巫山戯すぎたのかもしれない。突然の転校に加え、その転校を止める条件が試験召喚大会なんていう催しに参加して上位4組の中に入らなければいけないなんていう、それまた巫山戯たものだったせいで思考は冷静でも冷静を保とうとして敢えて俺自身がどうするかを真面目に考えていなかったのかもしれない。実際雪ノ下や由比ヶ浜が真剣に俺の現状を探ろうとしている中でその当人である俺は下らなく、つまらない思考を永遠と続け、その現実から目を背けていた。

 

さっき奉仕部に入る前に考えていたのもそうだ、自分の事を考えようとして、だが姫路より軽薄な俺の境遇に気付いたからこそ俺は論点をすり替えた。あの時俺は自分自身で結論を出さなくてはいけなかったはずなのに、先ほど都合よく吉井に頼まれた姫路の件をダシに使って結論付けるのを避けた。これを現実逃避と言わずに何と言うか、おかげで雪ノ下と由比ヶ浜に迷惑を掛けてしまった。

 

ならば俺がするべきケジメの態度は一つ、情けない上、この償いになる事は無いがそれは後回しで良い。先んずるは現状打破である。

 

 

 

 

「…頼む雪ノ下、俺とペアを組んで試験召喚大会に出てくれ」

 

俺はそう雪ノ下に言い放ち、頭を下げる。こうするのは慣れっこだ、それに親しき仲でも礼儀ありという言葉の通りでもある。そもそも何かを頼むのに頭を下げないのは常識的にはどうかとも感じる、ということもある。

 

 

「…分かったわ。ただしこれは貸し1つ、と言うことにしておくわ」

 

頭をゆっくりと上げ雪ノ下の顔を見ると、何故か嬉しそうというか喜ぶような表情が薄っすらと浮かんでいた。本当に差異は少ないが、俺にはそう見える。

 

「…了解」

 

その表情を認識してしまった俺は、そう答える事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、自室。

 

俺の転校騒動の後、文化祭の準備に入った俺たちはぬいぐるみやアクセサリー作りに励み、完全下校時刻までに目標の約5%を完成させた。…全くもって道のりは長いものである。

当然このままのペースでは間に合わないので各自家に帰って縫うことにしたのだが、俺だけはその普遍例から漏れていた。

 

なぜなら俺の目の前に現在あるものは針ではなくシャーペン、糸ではなく数学の問題集とノートである。

 

それにはもちろん訳があり、それは試験召喚大会を勝ち登るためである。未だトーナメント表の科目は決まってないとは言え、俺の数学の点数は数多い理系科目の中でも大きな欠点である。それを克服…は出来ないだろうがある程度マシにするために雪ノ下から学校の問題集を使っての数学の勉強を命じられたのである。その範囲何と100p強、今週中にやれと言われたのだがとても終わる量じゃない。やっぱりあいつ厳しすぎだろ、もうあだ名は鬼のんで良いと思う。

 

 

 

《You got a mail!You got a mail!》

 

雪ノ下が指定したページと悪戦苦闘していると、突然隣に置いてあったスマートフォンが小刻みに揺れ出しながら受信を知らせる。既に数学に辟易していた俺は迷わずそれを取り、メールを開く。

 

 

【To 比企谷八幡

From 雪ノ下

 

数学の問題集に関して、先程言い忘れていたページを思い出したのでメールで送るわね】

 

そう本文に記され、下にはページ数が書かれている。やっぱおにのんでいいだろあいつ。これでももう精一杯どころか精二杯は頑張ってるっつーのに。

 

何となくもう一度メールをスワイプすると、続きはまだあったようでこう書かれていた。

 

 

【じゃあ、また明日学校で会いましょう】

 

以前のあいつなら絶対にそんな文を付けなかっただろう。この変化が良いことなのか悪いことなのか俺にははっきし分からない…が、出来れば良い方向である事を俺は願う。

 

そう思い、俺はMaxコーヒーを一口含んだ後にシャーペンを持ち直して再度数学の問題集に向き合った。

 




感想は出来るだけ早くに返します、すいません…。

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