ではどうぞ!
バカテスト
問 607年に小野妹子は遣唐使として派遣された。日本は中国皇帝に臣属しない形を取ったために隋の皇帝である(1 )は激怒したが、当時高句麗遠征も控えていた隋は日本を無視できず、翌年、帰国する小野妹子に(2 )である(3 )を同行させた。
( )の内の適切な語句を答えなさい
比企谷八幡の答え
「1.煬帝 2.答礼使 3.裴世清」
教師からのコメント
「その通りです。よく出来ました」
土屋康太の答え
「1.ジョン 2.ジョンの友人 3.テッド」
教師からのコメント
「何でそんなにフレンドリーな関係が築かれているのか疑問なところです」
吉井明久の答え
「1.曹操 2.呉の王 3.孫権」
教師からのコメント
「時代がまず違います」
奉仕部での出し物が決まった翌々日、5・6時限を使ったHRで俺たちはこれから迫る清凉祭に向けての企画を決めていた。…四人でだが。
因みにその四人とは俺、木下、姫路、島田だ。島田の暴力さえ除けば比較的マトモな面子だと言えるだろう。
「…文化祭の出し物決めなくて良いんですか?」
俺の前の席に座る姫路がそう呟く。その姿はちょこんとしていて可愛らしい…が、戸塚や木下には及ばない。彼ら、いや彼女らは天使だ。
……いや待てあいつらは男だ。戸惑うな俺…!だが今まで俺の出会ってまともに接してきた中だと性格最高容姿端麗のハイスペック天使であって別に男であっても………あれ、何を言ってたんだっけ俺?…ああ、戸塚と木下は最高だってことか。
「…つっても外見ろよ。今ここに居る奴以外全員外でプレイボールしてるから無理だろ」
そう言って俺は外を見る。そこにはでかいグラウンドで球を打ったり追いかけたりしている見慣れたクラスメイトの姿があった。
そう、Fクラスの男子勢(俺と一応木下は除く)は全員清凉祭での企画決めをスルーし、草野球に興じていた。当然俺は入らなかったが。
…つかあいつらとスポーツやると息を吐くかの間隔でラフプレーが繰り返されそうだし、絶対あの輪に入りたくない。最後には乱闘騒動になっても可笑しくない。むしろ可能性割高であってもうこうなったら覚醒するしかないまでである。だが今日はMPが足りないようだ、助かったな。
「じゃがクラス企画が未だに決まってないのはわしらだけらしいぞ?」
「そうなの?」
「何でもAクラスはメイド喫茶をやるとか姉上が言っておった」
そう言って木下は男の娘らしくぱちくりと瞬きをする。男の娘らしく、つまり可愛いらしくと意味だ。今度広辞苑に載るから、いや載らなくても俺が載せるから覚えておけ。きっとどっかのチーム対抗でクイズバトルする番組の最後のステージで『広辞苑で男と書かれた二文字以上の言葉、5つ答えよ』とか出るから。多分。残り4つは気合で答えろ。
…まあそんな思考は一旦置いておいて…と。今は文化祭の事を考えるか。
つか、それにしても良くそんなメイド喫茶なんて通ったな。普通なら料理だとか衣装だとかの途中で資金が尽きるだろうに。料理だって練習するだろうし、衣装のメイド服なんか買うにしても作るにしてもかなり高い気もするが…。
「まあFクラスとAクラスでは使える額も変わりますしね……」
姫路が諦めたようにそう呟く。まあその気持ちは分からなくはない。寛容な心を持つ俺でもたった今そこでも差があるのかよと思ったからな。もういっそのこと不平等学園だとかカースト高校だとかに名前変えりゃいいのに。そっちの方が名前的にかっこいいし、何よりこの高校の性質を表すのに適切である。それに設備の良さと学費の安さに騙されて受験して来た中学生が可哀想でもある。具体的には3年前の俺とか俺とか。パンプレットにA・Bクラスの設備しか載ってないとか詐欺り過ぎだろ本当に。最近流行ってんのか、事実は言ってますけど少し内容省きました〜みたいな空気。だったら俺も自己紹介で短所を削って長所ばかり紹介すれば大企業に就職出来るな。専業主夫が無理だったら一考の余地があるというものである。逆か。
「そういやAクラスは15万円くらい使えるとか言ってたわよ」
「この学園には平等社会の概念が無いのかよ…」
「そのような物は世の中でも無かろうに……」
確かにパワハラやらセクハラやら年功序列やら成果主義やら…、資本主義社会は何かと付けて差が開いてるしな…。こうなったら社会主義を応援した方が良いのか…。
まあ、社会主義だとソ連がそうだったように、結局の所失敗に終わる未来しか見えないので無理だと思うが。これはもう社会主義に代わる新しい思想主義を考えるしかないまでである。…無理だな。無理だ。
「それでFクラスが清凉祭で使える予算はどの位なんだ?」
「わしはまだ知らんぞ?」
「すいません…私も分かりません…」
そう俺が聞いてみると、木下と姫路はやはり聞いていないらしい。まあ予想は出来ていたが…、と言うかこのクラスの担任である鉄人こと西村先生も清凉祭は自主性が大事とか言ってノータッチだから予算どころかその他の事柄もあまり聞いていない。
「多分坂本が知ってるんじゃない?クラス代表だし、それに毎週の代表集会でそういう配布物くらいは貰ってそう」
「…なるほどな」
…確かにその島田の意見は一理ある。坂本はこういう行事ごとには興味無いだろうから、恐らく学校のどこか、例えばミカン箱(※現在の机)の中にグシャグシャに放置とかあり得る。
…仕方ない、か。
そう思い、俺は立ち上がって坂本が今日座っていた場所へ行く。
「…?どうしたのよ比企谷?」
「いやちょっと坂本の所に清凉祭関連のプリントが無いかと思ってな」
「順調にFクラスに染まり始めているなお主」
いやいや、これは坂本が公的な情報を開示しないからいけないのであって、つまりは俺らのこの予算を知りたいという権利は正当な権利、批判される覚えは無いのだ。だから俺は決してこのクラス(バカ)の空気に当てられた訳じゃない。成績も落ちてないしな。…だからと言って上がったわけでもないのだが。
坂本のミカン箱を持ち上げてひっくり返してみる。そうすると物が幾つかあったようで、ガラガラと畳の上に落ちてきた。
・筆記用具
・最新の携帯ゲーム機
・漫画5冊ほど
・音楽プレイヤーとイヤホン
「…こいつ学校に何しに来てんだ?」
「まあ雄二…じゃからな」
教科書とノートはどうしたんだよホント。
「横にカバンがあるわよ?」
「そうだな、そっちも調べるか」
島田からの提案で脇に無造作に置かれていたカバンの口を開ける。そこにはちゃんと今日の科目の教科書が入っていた。
「…そこはミカン箱の中に入れとけよ」
そう小声で呟きつつも1冊1冊とチェックしていると、プリントを複数枚入れたようなファイルを見つけられたので、出して確認してみる事にした。
「…お、それっぽいのがあったぞ」
学校の配布物として配られたプリントの中に一枚、クラス代表向けのプリントが混じっていたので気になって出してみると案の定予算総計と、空欄になってはいるが恐らくここに買いたい物と値段を記録するであろうプリントが挟まっていた。
「ちょっと貸して欲しいのじゃ」
「ほいよ」
木下にプリントを渡すと島田と姫路がそのプリントを木下の横から覗き込む。そして俺は坂本関連で散らかした物を片付けながらその様子を見守る。
「…1万円ですね」
「じゃな」
そう姫路プリントを覗きながら呟き、木下はそれに同意する。一万…まあそんくらいありゃ学校の備品を借りながらなら普通に何か出来るだろう。…ただ問題はあの馬鹿どもが何を提案するかによるが。絶対会計やる奴とか胃への負担でかいだろ。
まあ俺は部活もあるし、何より数学出来ないから頑張れ。俺の出来ることはこれから誰かなるであろう未知の役職である会計に対して手を合わして線香でも焚くことである。心の中で。
「…見た感じ普通の学校の1クラスの文化祭の予算程度には取れてるみたいね」
「何でそんなこと分かるんだよ…?」
「まあうちの得意教科数学だし」
他校の文化祭の予算が分かるのと数学が得意なのは全くもって別もんじゃないのかよ、数学ってそんなサイコパスでテレパシーなオカルト科学も出来るのかよ。
…そういやここの召喚獣召喚システムも科学とオカルトが偶然マッチチングした産物だったわ、…あり得なくはないか。
って何で反論組もうとしたのに俺自身が俺の思考に説得されてんだよ、おかしいだろ。千葉県と茨城県を間違えられたチーバ君が激怒するレベルで。
そんな時、教室の入り口でドアを開ける音が聞こえる。あのドア、普通に開けようとするとドアのレール部分が歪んでて開きにくいから相当力込めなきゃいけないのにノータイムでやるとかどんな化けもんだよ…と思ってそちらを見ると鉄人こと西村先生だった。
「おいお前らちゃんと……ってお前ら四人だけか?」
「…まあそういう事になりますね」
「…他のバカ共は?」
「今頃土まみれ泥まみれ汗まみれで草野球に熱中していると思います」
そう言って俺は窓の外の光景を指す。この数秒だけでもボールが空中をあちらこちらと飛び交ってるのが伺える………って可笑しいだろ、何でピッチャーが一度に3つのボール投げてんの?もしかしてそろそろカーブとか極めすぎてWの字を描くように投げれるようになっちゃったとか?それで飽きたからボール3つにしようぜみたいな?
それならバッターも大根切りくらいはマスターしていて欲しいものである。…俺、どう頑張ってもあれは内野以上に飛ぶ気がしないんだけどそこはどうなんだろうか。なんで縦で振り下ろすだけでホームランとか出てるの?世の中の物理法則に喧嘩売りすぎだろ。
鉄人は頭を抱えながらも、最後には顔を少し強張らせながらこう言った。
「そうか、じゃあお前たち四人はこのまま15分くらい待機してろ。俺は今からあの馬鹿どもを連れ戻してくる」
そう言うと自身のネクタイを解きながらこちらに背を向ける。…15分でFクラス生徒の残り40人余りを制圧できるとか本当にあの先生何なの、実はラン○ーとかコマン○ーの元ネタになった人とか言われても八幡驚かないよ。寧ろ身の丈くらいあるマシンガンを楽々と操作してても違和感がないから困る。
それで保健体育の教師は別にいるっていうんだからこの学園はやはりどこか間違ってるんだと思う。いや鉄人が保体の教師になったら自衛隊宜しくひたすら調練させられそうだから現状キープで良いが。
「あ、西村先生もうグラウンドに居るわよ」
島田がそう言ったのが気になり見てみると、確かに鉄人がグラウンドで散らばって逃げるFクラスのバカ達を物凄い速度で追っているのがありありと見て取れる。…もう軍人になれよ、絶対そっちの方が天職だから、安心安全の八幡が太鼓判押すから。
そうしてその後、清凉祭の事は一旦置いておいて四人で他愛もないことを駄弁っていると鉄人が教室から出て行って15分ほど経ったとこで教室の扉がガタッと音がする。見れば吉井や坂本も含む男子生徒(俺と一応、本当に一応木下)がぞろぞろ揃いも揃って教室に入ろうとしていた。
「…西村先生って何者なのよ?」
「…さあ、じゃが一つ分かるのは恐ろしい身体能力があることぐらいじゃな」
そうして数分も経たずにFクラスの教室には全員揃った。さっきまで野球していたからか、少し、いやかなり汗臭い気がする。気分的に窓際に陣取っている俺は無言で窓を開ける。それに前に座る姫路と、その一つ飛ばした所にいる木下はそれを察したようで続けて窓を開ける。その様子を見ていた姫路の隣の吉井や、他のクラスメイトは何やらショックを受けた顔をしている。気持ちは分からんでもないが清涼剤とか吹きかけないだけマシだと思って欲しい。今この教室、例えるなら男子校の活動後の野球部部室レベルの臭さだから。
鉄人はその様子を見届けて、しっかりやれよと言ってまた教室から出て行ってしまった。おい、話は誰が進めんだよ。あ、坂本か。
そう思い、坂本の方に視線を向けるとちょうど吉井が小声で話しかけるところだった。
「…このクラスの代表は雄二なんだから早く前出て話進めてよ」
「いや、今回はクラス代表は企画責任者ってだけで議事進行は別枠なんだ。それは実行委員に任せようと思ってる」
「清凉祭って実行委員なんてあるの?」
「ああ、清凉祭の時は臨時で実行委員会が出来るらしいぞ?多分もう出来てるんじゃないか?」
「じゃあ実行委員を早く決めなきゃね」
「確か二人決めるんだが…そうだな。じゃあこの件は全てお前に託す大丈夫だ責任は俺が取るし全権はお前に委ねるからじゃ、少し寝るわ」
「おい待て寝るな全部僕に放り投げんなてか何か起きても責任取る気ないだろ!」
そう小声で叫ぶという器用な真似をしつつ吉井はうつ伏せている坂本の肩を揺らす。そうして起きた坂本は見るからにして不機嫌そのものだった。
「…次起こしてみろ、お前を社会的に消してやるから」
「上等だ、表行こうか」
ねえ何で?何であそこはあんなに物凄く殺気立ってるの?短気は損気って言葉知らないのか?八幡気になるー(棒)。
…ってこれじゃあ本当に文化祭の企画進まねえよ。どうすんだよ。肝心のクラス代表は何か誰にもバレない程度に静かに吉井と殴り合ってるし。
「…ウチが実行委員やっても良い…よ?」
「「…へっ?」」
そこで島田が突然坂本と吉井にそう言う。ナイスだ島田、こないだの戦争中ずっと"あれが暴力女か"とか思ってたじゃん。良かったな島田、八幡ポイントが50ポイントだ、これでようやくマイナスからプラマイゼロになったぞ。ついでに二つ名としてバイオレンスの名を授けるまでだ。
「島田、良いのか?」
「まあ、…少し条件があるけど」
「何だ?…小声で言ってみろ」
何かを察した坂本は条件を小声で言えと言い、それに吉井はクエッションマークを浮かべる。ああ、また吉井関係か。
実は何気なく吉井に向けられている好意は多い、というか知ってる限りだと姫路と島田だ。良く姫路が恋愛的にアタックしているところや島田が物理的にアタックしている所を放課後の教室では見かけ、前者はその後確実にFFF団に裁かれる。後者はそのまま関節逆パキである。
…やばい、何故だろう、リア充とか俺の敵そのものなのに吉井は何か違う気がする。具体的に、何か良いことがあるとその分マイナスな出来事が絶対的な確率で起こる。更に言うなら良いことがなくとも起きる。吉井の場合だとFFF団による紐なしバンジーとか中世風火炙りの刑とか…、あいつの人生ハードモードなんじゃないの?イージーモードが許されるのは小学生までだよねーってか?
……今度学食でなんか奢ってやろう、何か可哀想になってきた。
島田が坂本の耳元で何やらゴソゴソ言うと、坂本は納得したようにうなづいてこう言った
「分かった、協力しよう。じゃあ頼んだぞ、島田、それに明久」
「任せておいて!」
「…ん?へ⁉︎なんで僕⁉︎」
「お前もやるんだ」
島田の出した条件が大体分かった気がする。
そして巻き込まれて強制的に文化委員になってしまった吉井に合掌。彼には人柱になってもらおう。…いや、これはギブアンドテイクだ。島田は吉井と一緒に作業でき、坂本は楽ができ、俺たちは委員決めのギスギスした空気を味わなくて済む。吉井は……まあ、アレだ。人生経験の一部になるじゃないか多分。
「ほらアキ!早く前行って進めるわよ!」
「まさか雄二、僕を売ったな⁉︎」
「そんな訳ないだろ、俺は友人を売りはしない」
「雄二…そんな事を……」
「ーーーおう、売ってないぞ、無期限で貸しただけだ」
「それを売るって言うんだよ⁉︎それに僕はお前のもんじゃないから!」
「アキ!ブツブツ言ってないで早く行くわよ!」
「あっ⁉︎ちょっと襟元引っ張んないで首元締まるから……‼︎」
そう言って吉井は島田に引きずられていく。それでも引きづられた吉井が全く注目されずに各自思い思いの時間を過ごしていることからFクラスの異常性を感じる。
…いや、待てよ?俺も今バックから本を出そうとしてた………いやいや違う違う、俺は決してFクラスに染まってない。
「はいはーい!みんな注目して!今から文化祭の企画決めるから!」
そんな事を考えていると島田はクラス全体に掛け声をかける。それに従いクラスの連中は渋々ゲーム機や漫画をバックの中やみかんの箱の中にしまっていく。
「…とそういや坂本、お前議事進行役を勝手に決めて良かったのか?」
ふと思い付き、気になったので質問してみる。実際問題クラスの同意を得られてないのだが良いのだろうか?
「別に大丈夫だろ。何しろこの役回りは面倒くさいことばかりだしな、進んでやろうなんて思う気概のある奴はうちのクラスにはいない」
…普通そういう言い回しの使い方は逆だよな。例えば、うちのクラスにやる気のない奴は一人もいないんだ、みたいな。ソースは俺、中学二年の合唱コンクールでそんな台詞を担任の教師が宣っていた。実際は俺含め男子の殆どはやる気の欠片すらなく地声で歌っていたが。
まあそれはともかく、これに関しては確かに坂本の言う通りだ。そもそもやる意欲に欠けているからFクラスに来たのであって、もしそれがスズメの涙ほどでも有ったら幾ら馬鹿でもEクラス以上に行っているだろう。
「まず一つ、実行委員はウチ、副実行委員はアキでやろうと思うけど良い?」
『特に問題ないな』
『姫路さん結婚しよう』
『吉井が馬鹿で少し不安だな』
おい、外野酷すぎだろ。特に2人目、なんでプロポーズを今する?つかプロポーズの前に普通に付き合えよ、プロセスを踏めプロセスを。
「…って僕は全く良くないよ⁉︎」
そんな中、吉井は実行委員になるのに余り良い心情では無いらしい。まあ無理矢理坂本に押し付けられたようなものなので気持ちは分かるが。
「…仕方ないな、ならここはクラス代表として俺が明久の代用人員を決定する司会をやってやろう」
そう言って坂本は立ち上がる。清涼祭に関して無関心な坂本が立ち上がったのは恐らくはさっきの島田の条件に関することだろうが、吉井の代わりなんて居るのか…?
そう思っていると坂本は、じゃあ皆副実行委員として適切な人間だと思う奴を挙げてくれ、とクラス中に問いかけた。
『俺は別に吉井で良いと思う』
『いや須川でも良いんじゃないか』
『ここはクラス代表の坂本が一番良いだろ』
『姫路さん、来年には絶対結婚しようね』
各人で意外にもばらつきがあるようで、数人候補が挙げられる。ただ一つ言いたいのは、さっきから結婚願望丸出しにしてる奴誰だよ、しかもさっきより具体的になってるし。お前は大人になったら結婚しようねって言い合う幼馴染の小学生か。幼馴染とか居なかったから分からないけど。敢えて言うなら小町くらいである、…妹は幼馴染に入るのか?因みに八幡的には全然OKだったりする。
「じゃあ島田、今挙がった連中から2人選んで黒板に書いてくれ」
「そうね〜、それじゃあ……」
そう言って少し悩むと、使い込まれて短くなった白いチョークを握り傷だらけの黒板に名前を書いていく。
そうして書き終わると、島田はチョークで汚れた手をパンパンとはたき落し、前を向いた。
そして黒板には坂本の指示通り、2つ名前が書き記されていた。
①吉井
…これは馬鹿の吉井の事だな。
②吉井明久
…これも馬鹿の吉井の事だ。
…っておい、同じ人物名を苗字とフルネームで書き殴っただけじゃねーか。確かに坂本の言う通り2つ名前は挙げてるから理屈通りではあるけど何か違う。
「じゃあ皆、この中からどちらか選んでくれ」
「ねぇ雄二、この候補の挙げ方に美波の悪意を感じるんだけど」
坂本の一声でFクラス一同が悩みだす。いや悩む要素ないだろ。
『うーん、どちらにするべきか…』
『……どちらもトップレベルの馬鹿には相違ない……』
『そうだなぁ…。どっちもクズには変わりないんだが…』
「こらぁっ!真面目に悩んでいるフリをするんじゃない!後、平然とクラスメイトをクズ呼ばわりするなんて、君らは人間のクズだ!」
なあ吉井、それって俺や木下や姫路も含まれるのか?…確かに雪ノ下からは散々目が腐ってるだの社会性が壊滅的だの言われてるが。
…つーかなんか最近クラスメイトに限らず周りからのdisりを聞きなれてしまった気がする。まあ毎日聞いてりゃそりゃ確かに聞き慣れるけどな、ただ何か自分で自分自身が汚れてしまった感覚に陥るのはどうしてだろうか?八幡ワカンナイヨ?
「んじゃっ、これで副は明久に決定だな。あとは任せたぞ〜。ふあ〜、ねみぃ……」
そんな事を言いつつ坂本は自分の席に戻り、すぐにうつ伏せになる。
その様子を見送り、島田が議事進行をする。そして吉井は黒板のチョークを右手で持つからにして、どうやら板書らしい。
「それじゃあちゃっちゃと決めるから、クラスの出し物でやりたいものがあれば挙手してもらえる?…一応言っておくけど余りにコストが掛かるのは無しだからね」
そう島田が聞くと、クラス内で数名手を挙げる。全員が全員文化祭に興味が無いわけじゃないらしい。
「はい、土屋」
ムッツリーニは名前を呼ばれるとスッと立ち上がった。どうしよう、絶対ロクでもないのを上げるだろこいつは。
「………………写真館」
そんな俺の予想はやはり当たったらしい、つか何を展示する気だ何を。
「…土屋の言う写真館って、かなり危険な気がするんだけど」
島田は嫌そうに顔を歪める。まあ気持ちは分からなくはない、何しろ女子の盗撮写真に加え、果てには女子トイレに盗聴器を仕掛けた前科もあるくらいだ。きっとこのクラスの企画が写真館になったら文化祭中ここに来るのは男子だけだろう。ついでに俺は雪ノ下に罵られ見下されると…、何それ俺にメリット一個もないじゃん、却下だ却下。
「アキ、一応意見だから黒板に書いてもらえる?」
「あいよー」
そんな俺の心の声に対し、無情にも吉井のチョークは黒板に白く文字を刻んでいく。
【候補① 写真館『秘密の覗き部屋』】
…嫌な企画名だな。完全にそっち系の写真しか展示する気ない名前である。
「次。はい、横溝」
そうして立ち上がったのは見覚えのないクラスメイトだった。まあまだ同じクラスの殆どのやつと話した事ないしな。追いかけられたことはあるが。
「メイド喫茶ーーーと言いたいけど、さすがに使い古されてると思うんで、ここは斬新にウェディング喫茶を提案します」
なんかまた異次元的な案が来ちゃったよ。もうこのクラスにまともな案が出ない事確信できちゃうんだけど。俺雪ノ下に罵れるの確定なの?確変タイムとか無いの?
そんな事を考えているうちに話はどんどん進む。どうやらウェディング喫茶とは普通の喫茶店に付属要素としてウェイトレスにウェディングドレスを着せるらしい。ただどうすんだよ衣装代、一万じゃウェディングなんか買えんぞ?
どうやら出た案は全部書くらしく、吉井は短いせいで書きにくいチョークを巧みに操りウェディング喫茶の文字を書いていく。
【候補② ウェディング喫茶『人生の墓場』】
ただ一つ言うならばそのネーミングセンスをどうにかしろよ、それじゃ出会い系の変な店だと思われるだろうが。
「他に意見はーーはい、須川」
確か…あいつは知ってる気がする。多分だが、FFF団の会長だったはずだ。良く休み時間とか放課後に会長って呼ばれてたしな。
須川は今までの2人と同じく立ち上がりつつ話し始める。
「俺は中華喫茶を提案する」
中華喫茶?…というと烏龍茶とかゴマ団子とか出すのだろうか?
「中華喫茶?チャイナドレスでも着せようっていうの?」
そう島田は言うと少しキツイ目つきになる。まあ今までが写真館やらウェディングやらと異次元的な発想ばかりだったもんな、そう疑いにかかるのも無理はない。
そう言うと須川は否定し、自分の意見を語り始める。気持ち半分で聞いていたが、須川の長い語りを要約すると、つまりは本格的な中国茶や簡単な中華軽食を出す店らしい。意外も意外、今までと比べたらかなりマトモである。もうこれでいいんじゃないか、
そう思いつつ前を見ると吉井の頭がパンクしていた。というか目が回っていた。確かに須川の言葉は少し専門的かつ長かったがそれでも日本語だぞ…?
「アキ?どうしたのよ?早く書いてよ」
「りょ、了解」
そう島田が急かすと、焦りながらも吉井はこれまでと同じように白い文字を書いていく。
【候補③ 中華喫茶『ヨーロピアン』】
おい何があった。中華喫茶なのにヨーロピアンって矛盾してるだろ。
当然そんな指摘をする人間はこのクラスには居なく、島田は意見がある人ー?と呼びかけている。
ーーーさて 、俺もそろそろ楽させてもらうか
そう思いながら俺は右手を上に挙げる。思えば自分で意見を言うなんて奉仕部以外だと初めてかもしれない。ただ理由が楽したいというしょうもない物なのだが。
「はい、比企谷」
呼ばれたのでこれまでの3人に習って俺も立ち上がる。そうして意見を言うことにした。
「俺は革新的な提案をする。それはーー有人販売所付き自由休憩室だ!」
因みにこれは先日奉仕部で即却下された案と同じものである。だがこのクラスでなら希望はある…!
『休憩室だと…⁉︎』
『だがそれでは先生に駄目出しされるじゃ』
「安心しろ、ちゃんと生徒会配布のプリントを見て規定に引っかからないよう工夫してある。何しろそのための有人販売だからな」
「でもそれじゃあ文化祭が詰まらなくなるわよ?」
そう島田が問いかける。しかし、こちらとてそのくらいの反論は既に用意済みだ。
「考えてもみろよ、確かに文化祭は自分たちでやるのも楽しいが、何より一番楽しいのは他クラスを巡ることだろ?それにその方が一緒に巡りたい相手と長い時間廻ることが出来る」
「……それに客入りもある程度期待はできる……」
「その通りだムッツリーニ。この学園の文化祭は毎年注目されていて人混みで混雑する。そんな中で休みたいと思ってもどのクラスの喫茶店やレストランも大体満席だったりするわけだ。そこで俺たちはこの限りあるスペースを最大限使って椅子と机を並べ、端に有人販売所を作り休憩スペースを提供する。つまりはここを疲労人のオアシスにする訳だ。更には将棋や囲碁とかのボードゲームも置いておくといいかもしれないな、いい感じに交流の場になるだろうし、それに偶には混雑とか騒音とかの俗世間からの解放を味わってほしいしな」
多分これを雪ノ下に言ったら無茶苦茶言われるだろう。雪ノ下が体調崩してFクラス入りしなくて本当に良かったと思える一瞬である。
「…なんか納得できるような納得出来なような…まあいいけど。アキ、書いといて」
「う、うん。分かったよ」
そう言って吉井は俺の案を書き始める。
【案④ 休憩室『俗世間からの解放』】
待て吉井、その名前じゃ絶対人来ないからな。もしこの案になったら変えるからな。
そう決意したところで教室の扉がガラガラと音を立てて開き、ゴリマッチョを体現したかのような人物が現れた。鉄人こと西村先生だった。
「皆、清涼祭の出し物は決まったか?」
「今のところ、候補は黒板に書いてある4つです」
それに丁寧に対応するのは島田だ。西村先生はその言葉を聞き、ゆっくりと黒板の文字を眺め始める。
【候補① 写真館『秘密の覗き部屋』】
【候補② ウェディング喫茶『人生の墓場』】
【候補③ 中華喫茶『ヨーロピアン』】
【候補④ 休憩室『俗世間からの解放』】
「……補修の時間倍にした方が良いかもしれんな」
…そう思われても仕方ないと思ってしまう自分がいる。
『せ、先生!それは違うんです!』
『全部吉井が勝手に書いたんです!』
『僕らは何も悪くないです!』
クラス内からそんな言い分が西村先生に飛ぶ。確かに全部名前は吉井が独断で決めているがその吉井を選んだのはFクラスの全員だから少し無理があるだろう。
「馬鹿者!みっともない言い訳をするな!」
そんな予想は大当たりのようで、クラスメイト一同思わず背筋がピンとなる。背筋ピンッていうと少し前にそんなランドセルのCMやってたよな、天使のなんちゃら…的な感じの。小町が小6の時はランドセルそれだったな、小町が天使で天使が小町だった。ランドセル関係ないじゃん。
それにしても西村先生が吉井を庇うとは少し予想外である。基本吉井が悪いスタンツで言うのに。
そう思っていると西村先生が口を開く。
「先生は、馬鹿な吉井を選んだこと自体が頭の悪い行動だと言っているんだ!」
瞬間、すごい納得した。やっぱり西村先生は西村先生だと。
「全くお前たちは……。少しは真面目にやったらどうだ?利潤を出してクラスの設備を向上させようとか、そういった気持ちすらないのか?」
西村先生がそう呆れたように言うと、突然クラス内の活気が溢れ出した。
『そうか!その手があったか!』
『いい加減この設備にも我慢の限界だ!』
そう言って口々にアレじゃない、これじゃないと清涼祭の出し物について論議し合う。それを普段に活かせればまだ賢く見えるんだがな…。最近なんか俺、このクラスのせいで雪ノ下に【えふ谷君】とか言われたんだぞ?もうちょっと本来ならAクラス入り出来た俺の気持ち慰めるとかないの?次試験召喚戦争で勝ったら俺雪ノ下の事を【えふノ下】って呼んでいいよね?…殴られそうだから止めておくか。これはビビった訳じゃない、戦略的撤回だ、…この言葉便利だから覚えておくといいぞ。
「とにかく静かにして!決まりそうにないから店はさっき挙がった候補の中から選ぶからね!」
思ったより時間が経っていたようで、ざわざわしていた教室を島田が一喝して静かにする。もしかしたら坂本はこれも見越して島田の実行委員を認めたのかもしれない。
「とにかく多数決取るから一人一票ね!まず写真館の人!」
そう言うと島田は挙げられた手の数を数え始める。見た所4・5人程度だったので直ぐにそれは終わる。ムッツリーニが何やら「…俺の…文月学園女子写真展……」と呟いてバタッとうつ伏せになっていたが見なかったことにする。
「次、ウェディング喫茶!」
これもやはり少数だった。先程のざわざわしていた時間でウェディングドレスに掛かるコストについて気付いたのだろう、それに加えメニューの材料代を差し引くと利潤が残るかどうか怪しいしな。
「次、中華喫茶!」
そこで半数程度が挙手する。まあ一番まともで安全なのはこれだからな、ついでに俺もここに手を挙げておく。どうせ最後の俺の案に挙手する奴なんてあんまいないだろうし。
「最後、休憩室!」
ーーー意外にもそんな俺の予想は外れ、これまた半数程度が手を挙げる。これは利潤よりも楽を優先したいグループなのだろう。…くっ、一人だけ挙げてしまって【何あいつ?マジでなんなの?】みたいになる可能性があるからといって妥協するじゃなかった…!
そんな風に後悔していると、統計が終わったようで島田がこう宣言する。
「Fクラスの出し物は一票差で中華喫茶にします!全員、協力するように!」
そうしてFクラスの出し物は中華喫茶に決まった。
……妥協しなければ、一番楽なのだったのにな…エアーリーディングなんてするんじゃなかった……!
久々に原作見ながら書いた…………
…これ原作から引用し過ぎとか言われないよね?少し不安なんだけど……?
運営さん、どうか見逃してください( )