後今回バカテストはありません…。ネタが無かったので…。
楽しみになさっていた方は申し訳ありません…。
では、どうぞ!
9話 俺と奉仕部と清凉祭
逃亡という言葉の本質を知っているだろうか?
それは良くマイナスな意味に取られがちだが、「自由への逃亡」という言葉もある通り使い方によってはプラスに変化することもある。だが、やはり負の面は墨のように濃厚で、場合によらずとも逃亡を戦略的撤退と無理矢理プラスな方面へ換言される事の方がよっぽど多い。
なぜなら、逃亡を2語に分解して考えると、逃亡の「逃」は逃げる、逃れるであり、「亡」は亡くす、亡くなるとどちらも負の意味だからだ。マイナスは合わせてもマイナスである。
ーーーしかし、掛け合わせたらそれはプラスになり得るのではないだろうか?「逃げる」も「亡くす」もマイナスな意味だが、捉えようによってはそれらを掛け合わせれればプラスの境地に昇華することも出来るのでないだろうか?
例えば逃亡する事で何かしらのプラスが得られる、または客観的にプラスに見られるとかならば「逃亡」という事はプラスな意味に忽ち変質するだろう。それでも依然として何故か「逃亡」はマイナスの括りから逃れることはできない。多くの人間が「逃亡」をマイナス方面で認識しているからだ。
テレビでもよく言われるように、昔の意味と今の意味が違う言葉がある。それは世間に住む多くの若い人間が間違った意味を正しいと誤認して鵜呑みにしているためである。それは「逃亡」にも言えるだろう。
つまり、世間にこれを広めない限りはこの認識は俺の方が間違った認識とされるだろう。
「おい比企谷!てめえ待ちやがれ!」
「今なら紐なしバンジーから火炙りに減刑してやるから大人しく捕まれ!」
そして、今現在とある集団から逃亡している俺も、きっとマイナスな逃亡だと思われるのだろう。俺的には自由への逃亡だが。
旧校舎の廊下をバタバタと走る俺と、背後の黒いマントと仮面で個人を認識できなくしている最早不審者と言える集団。彼らは自分たちを「FFF団」と呼んでいる。
何でも吉井の話では、女子と話していたり女子と手を繋いでいたり女子に告白しようとしている男子生徒をクラス学年関係無く、自らの惨めさをものさしに測り刑を決め、制裁する組織らしい。傍迷惑を通り越して哀れとも言える。しかもこの組織、根源はうちのクラス(2−F)らしい。馬鹿過ぎて、言葉も出ないとはこの事だろう。
これらには鉄人こと西村教諭も曰く、「ここまで馬鹿でアホなクラスは俺の教師人生でも初めてだ」と、奉仕部に自分の担当クラスを相談しに来た際に語っていた。まさかそんな相談されるとも思わなかった俺と雪ノ下はフォローすることしか出来なかった。由比ヶ浜は何も理解していなかった。
「比企谷君!早く覚悟して刑を受けなよ!今ならそんなには重くならないから!」
「減刑しても火炙りとか言ってる時点で死亡確定だろうが…!」
そんな集団の中から吉井の声が聞こえる。つか何であいつはあちら側なんだ?坂本もそうだが、吉井なんか2人の女子生徒から想いを寄せられてるのに…。
普通なら入ろうとした時点で他のFFF団の団員にボコられるだろ。…まさか他の団員も吉井が想いを寄せられている事に気が付いていないのか?
そんな中、俺は一つの策を思い付く。吉井には悪いが、見事俺のために使われてくれ…。いや、今追いかけてきてる中に吉井居るし、つまり敵な訳だから俺は悪くないか、うん。
俺は走りながらさも電話がきたかのようにおもむろにスマホをポケットから出し、耳元に当てる。そして、大声で会話しているように話し声を上げる。
「おう島田か。
…何?吉井が姫路に告白した?」
因みに当然だが島田と電話帳は交換していない。
しかし、それにしっかりと騙されたようでピタリと背後の足音が止む。振り向けば、1人の団員に全員の視線が集まっていた。おそらく視線を集めてるのは、姿は見えないが吉井だろう。
「え?何?僕が何だって…?」
「吉井ぃぃぃ…、貴様は我々の同盟上記に反したよって貴様は比企谷八幡より先決に鮮血に処さなければならないぃぃぃぃぃ!!」
「いやちょっ、みんなぁぁ⁉︎
……逃げるが勝ち!」
「待ちやがれぇぇぇ!」
「サーチアンドデストロォイィィ!!」
……………………。
…ようやく全員巻いたか……。
ふいに覗かれた廊下の窓ガラスからは新緑に包まれた木の葉が風で靡かれていた。季節は既に春と夏の間、5月である。
「…遅い。何をやっていたのかしら?既に部活の開始時間を45分ほど過ぎてるのだけれど」
「不可効力だろあれは。つか一応言っておくがあの集団お前ら、特に由比ヶ浜が原因で追ってきたようなもんだからな?」
それから程なくして俺は、既に1年の時と共に過ごしている場所である奉仕部に居た。新入部員は入らず、相も変わらず俺と雪ノ下と由比ヶ浜の三人である。ただ、今年度に入って一階から二階に空き教室の移動はあったが。
「あたしが原因の主犯なの⁉︎…何かやったっけ?」
「そりゃお前、幾ら俺が来るのが遅いっつってもあんなクラスの前で待ち伏せしてるからだろ。マジでその制度今度から廃止しろよな」
絶対に、絶対にだぞと心の中では100回くらい念を押すが由比ヶ浜は首を傾げるばかりである。何、どうすりゃこいつにでも分かるよう説明が出来るの?犬の気持ちでも買ってくればいいの?
「それで今までどこにいたの?かなり疲れてるようだけれど……」
「まあそうだな、人の中草の中物の中トイレの中…ってところだな」
「…本当に何があったの?」
そんな中、グラウンドを覗くことができる窓から黒いマントの怪しいカルト集団とそれから逃げる金髪で馬鹿そうな顔をした男子生徒の姿が見える。
「…敢えていうならアレから逃げてて、途中で集団の中に居た奴に変わり身を押し付けたってところだな」
そう言って俺はグラウンドでチキンレースを展開している集団の方を指差す。今回は、今日持ち物検査があったおかげで各自が武器を持っていなかったのに救われた。
「…ヒッキーごめん………」
「良いんだ、分かれば……」
「…何で働き疲れた中年サラリーマンのような雰囲気を醸し出しているのかしら……………」
Fクラスで一ヶ月生活してみろ、絶対にそんな事言えなくなるから。
ーーーそんな一言も今は口に出す気力は俺には無かった。
「…あの、そろそろ今日の議案に入りたいのだけれど…」
5分ほど俺はただただ項垂れて座っていると、雪ノ下がそんな一言を放ってきた。
「…いつも議論する事なんて何もないんだが……」
「それは違うぞ比企谷!」
突然、パリーンと何かが割れたような音がしそうな発言が、いつの間にか開いた扉の方から聞こえてきた。見ると見慣れた白衣姿で腕を組む平塚先生の姿が。まあ確かに、好きそうだしな平塚先生は。弾丸で論破的なあれ。
「平塚先生、入る時はノックを……」
「まあまあ落ち着け雪ノ下、実は私もこれが楽しみ…ゴホンッ!
……じゃなくて上に報告する義務があってだな、ここに来る必要があったのだよ」
…無理矢理な話題転換すぎるだろ。つか平塚先生の性格だと誰も義務とか言われても信じないだろ。平塚先生は最後の最後まで嫌な事は放置するタイプだしな。
「…それで、何の用すか平塚先生」
「ああ、それはだな…コレだ!」
そう言ってポケットから二つ折りにされた紙を取り出して俺たちに見せてくる。
「…清凉祭における各文化部の出し物について…何これ?」
「由比ヶ浜、それはだな、我々奉仕部は創立1周年を迎え、部員も二人から三人と増員したこともあって今年度からこの文月学園の文化祭の出し物にも参加することに決めたのだ!」
のだ!…のだ…のだ……。
そんなエコーが何故か平塚先生のボイスに掛かったように聞こえる。つか思ったんだが、部員が2人から3人に増員って由比ヶ浜はほぼ最初から居たよな?…確か去年の5月にはもう由比ヶ浜はいた気がするんだが。ねえ、誰もツッコまないの?ねえ、ねえったら。
そんな意気揚々な平塚先生に雪ノ下が手を挙げる。
「何だ質問か?雪ノ下」
「…あの、そのプリントは既に生徒会の方から貰っているのですけど…」
おい止めろ雪ノ下、事実でもそれは言うな。
ーーーと、雪ノ下の思考が分かるならばそう注意した事だろうが、当然俺には心を覗き見る能力なんてある訳も無く、その雪ノ下の言葉は弾丸となって平塚先生の心を容赦なくブレイクした。
「…まあ、なんだ、予備はあったほうが良いだろ?」
「いえ、二枚生徒会の方から貰っているので結構です」
「うぐ……!」
ブレイクを通り越して身体的にダメージが平塚先生の胃を襲う…!
…次にアポ…とか言い出して千本ノックし始めたら雪ノ下、お前のせいだからな。俺と由比ヶ浜は何も関与してないからな。
そんな俺の健気な無実の証明は要らなかったようで、平塚先生はかなり落ち込んだ様子のまま「…職員室、戻る」と言って部室を出て行ってしまった。流石雪ノ下、黒い。
「ねえねえゆきのん、何で平塚先生は職員室戻っちゃったの?」
「…何故かしら?私の振る舞いに何か問題があったとは考えにくいし」
由比ヶ浜、お前はまず話を理解してから質問をしろ。雪ノ下は数学だけじゃなくてもっと物事をオブラートに包んで話す方法を学んだ方が良いと俺は思う。
「…まあそれは良いから早く議題を上げてくれ」
「…まあ、時間もそろそろ良い頃合いだし、そうしましょう」
そう言うと雪ノ下はバックから一枚のプリントを取り出した。さっき平塚先生の持っていものと同じプリントだろう。
「…と言っても議題はこの文化祭、奉仕部では何をやるか、というものなんだけど……」
「なんか楽しそうだね…!」
「いや、全くそうもいかんぞ?経費に人員に予算書作成、更に教室利用図から備品利用許可証までの全てをこの3人で練って実行とか…粗方言ってみたがこれ無理じゃね?」
せめてもうちょいどうにかならないものか…。このままだとこの清凉祭期間はずっと働き詰めの社畜生活に……。
「…ところで写真展示とかは無理なのか?」
取り敢えず思い付いた事を言ってみる。写真展示を提案した理由、それ当然楽だからだ。
「無理ね。そもそも展示する写真なんて一枚もないじゃない」
「じゃあ休憩室とかどうだ?この教室を開放して、イスと机並べれば10席程度出来るだろ?後はお湯入れた魔法瓶と紅茶のパックでも各席に置いとけば完璧」
「比企谷君……」
「ヒッキー……」
…何でそんな残念そうな目で見る?
確かに文化祭という一大イベントの中ではかなり異質で素っ気ないとは思うが、周りは全部派手で気合が入ってるんだ。一個くらいそういうのが有っても何も不自然じゃないはずだろう。
「それにこの世話辛い世の中適当に息抜きすることは大事だろ…?」
「まあそれはそうだけれど…」
「ええ⁉︎ゆきのん⁉︎」
前回の文化祭の生徒会で働き詰めた雪ノ下はそれに反論出来ない。逆に由比ヶ浜は反論を出そうとしているのか、唸りながらあーでもないこーでもないとブツブツ呟いている。
「…喫茶店とかはどう…かな?」
「…却下ね。人員の問題があるわ」
「じゃあ射的とかボーリングとかは?」
「それだとこのスペース、特に奥行きが足りないと思うわ」
「うーん、他かー…なんかあるかなー?」
2人が意見に対し言い合ってるのを俺は黙って聞き入る。…休憩室がダメなら、そこまで楽ではないが販売系が良いのかもしれないな。ハンドメイドと言うのは最近では一種のブランドだしな。
だがこの意見だけだとあの2人にスムーズ通すことが出来ないだろう。最悪何を作らされるのか分からんし。
だから何を売るかも決めてから提案した方がいいな。
あの2人が好きそうな物………人形?ぬいぐるみ?アクセサリー?
…アクセサリーショップとかで良いか。
頭の中で意見が纏まったところで俺も二人の会話に入る事を決意する。
「おい、ちょっと俺もいいか」
「何かしら?比企ムリ君」
何その名前、暗に俺の意見はダメだと示唆してんのか?
「まあ聞けよ。それらがダメならだ、アクセサリーショップとかどうだ?販売企画だから備品は借りずに済むし、何より人員だってそこまで必要無いだろ?」
「ヒッキーそれ良いね!やれば出来るじゃん!」
意見を言うと直ぐさま食いついてきたのは由比ヶ浜だった。どうやらこの提案は正解らしい。これなら文化祭中、ある程度楽が出来る。人形作りもきっとそんな本格的なものはやらないと思うので安いものだ。それに俺は中学・高校と家庭科の成績はオール5だ、伊達に主夫志望を舐めてもらっては困る。
「比企谷君にしては随分マトモな意見ね…何かあったのかしら?」
「おいおい俺をあんまり見縊るなよ?いつも俺は相手の要望と自分の要望の均衡点を見極めて出してるんだぞ?」
まあこの方法は自分の意見が通る場合に関してのみ通用する手段だが。つまりはあまり多くないという事だ。クラスではまだやっていないが、恐らく男子の馬鹿な方の集団が色々と意見出すだろうし。それに坂本は今日見たところあまり清凉祭には興味無さそうだったしな。真っ当な意見は出にくいと思われる。
「…まあ比企谷君の下らない要望は置いといて、」
「おい」
それ結構重要だぞマジで。
「アクセサリーショップという案は文化祭という体裁的にも理に適っていると思うのだけれど、由比ヶ浜さんはどうかしら?」
「私も良いと思う!寧ろそれが良い!」
偉い好かれようだな俺の提案。あまり俺の意見ってこういうイベントごとで採用されたことなかったから何か不思議な気分になるな。
…いや、採用されなかったわけじゃなくて言えなかったんだった。忘れてたわ。テヘペロ。
「じゃあこれで決定ね。もうそろそろ下校時間だから細かい事は明日以降でいいかしら?」
「うん、全然オーケーだよ」
「俺も別に構わん」
「じゃあ、これで今日は解散ね」
そうして俺の高校2回目の文化祭は大した波乱もなく、静かに始まろうとしていた。
次回も不定期になると思います。修学旅行が近くて鬱だ…………(←クラスに友達居ない)