やはり俺の学園コメディは馬鹿すぎる。   作:Mr,嶺上開花

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活動報告の通りあげました。
今回はオリジナル試験会にオリジナル設定にオリジナルイベントに…とほぼ全てがオリジナルとなっているので、原作遵守が最高っ!という方の肌には合わないかもしれません。

ではどうぞ。


小話 馬鹿と補修とテスト勉強 前編

 

 

 

「うヌぉぁぁぁァァ…」

 

「ウくァぁぁぁぉぉぉ…」

 

「てぇぇぇぇェェェェスゥゥゥゥ怒ぉぉぉぉォォォォォ…」

 

朝、少し寝坊をしてしまい朝のHR後に登校して教室に入ると、目の前には地獄絵図が広がっていた。まあいつものこと言ったらいつものことではあるが、今日は少し様子が違う。

見慣れたクラスメイト(と書いて馬鹿と読む)達が手と膝をつき、奇妙な叫び声を上げているのだ。…それとも何か、こいつら邪神でも呼び出そうとしてるのか?その割には何時もの殺気は無く代わりにヘドロの溜まった川のような空気を排出しているが。

 

 

「おう、比企谷。お前が遅刻なんて珍しい」

 

その中でも唯一の生存者(?)である坂本がこちらへと近寄ってくる。

周りを見れば、姫路や島田は平然とガールズトークに勤しんでおり、木下はお茶を飲み、ムッツリーニはカメラのレンズを布で拭いている。

吉井は…と探せばFFF団の衣装を身に纏ったクラスメイト共にやはり手と膝を床に付けていた。やばい、何がやばいってこの状況がカオスで分からなすぎてヤバい。仮にこの状況を由比ヶ浜が見たら絶対ドン引きすることは間違いないだろう。

 

 

「まあな…というかそれよりもこの惨状は何だ?」

 

現状説明を坂本に頼むと、坂本は何時もの口調でクラスメイトを見下ろしながら言う。

 

 

「来週に前期中間試験があるだろ?今日その件で鉄人がHRで話してな、各科目ごとに赤点を取った奴は今Fクラスで行っている補修とは別にその科目ごとで補修をやるらしいぞ」

 

 

その言葉を聞き俺はようやく合点がいった。まあ確かに成績底辺なせいでここまで落ちてきた奴らが大半のこのクラスでは、文月学園の共通の赤点基準に到達するのが困難な奴ばかりなはずだ。だからこの時点でここまで絶望を味わっているわけか。

…というか実は俺もやばいような、特に数学とか補修確定に一歩リーチ掛かってんじゃん…。

 

 

「…だが実際今回は3教科5科目だろ?今から頑張れば出来るだろ普通」

 

文月学園の中間テストは統一して3教科である。その分期末は科目数が大幅に増えるのだが、それは割り切るしかないだろう。

そして高校2年に与えられた5科目は現代文、古文、数学Ⅱ、数学B、英語である。文月学園は解けるだけ問題を解きその分点数も上がる方式だが、その中でどの科目も最初の150点までは、現代文や古文、英語などは授業内の教科書で取り扱った内容そのまんま、数学は学校配布の基礎問題集から少し改題されて出題されるため点数が取りやすいのだ。つまりノートを暗記し、問題集を周回すれば100点を切る…という事には殆どならないはずになっている。というかそうなってしまったのがこのクラスの生徒ではあるが。さらに言うならば俺自身も数学50点行けばいい方だが。

 

ちなみに150点以上を狙うには発展的な知識や応用力、詳細な知識が段階的に問われるようになる。特に400点を越えるとさらにレベルアップし、大学受験の2次試験レベルと差し違いないほどの問題へと変貌するためそれ以上を取れる人間はAクラス以外では余りいないそうだ。

 

 

「それがな?今までは赤点のボーダーが60点だったんだが、今回からは80点へと引き上げられた。それに加えて鉄人の条件だ、ウチの連中が心を折るには十分なものだろ?」

 

「それは確かにな」

 

因みにFクラスの1科目ごとを平均した点数は大体65点に3点程度の上がり幅と下がり幅を有している。つまりこのクラスの平均を大きく超えない限り補修にはまず引っかかるというわけだ。…俺前回数学35点で余裕で捕まったんだが…、これもう9回裏満塁ファール3つでのエース四番打者並みに積んでるじゃん。積みすぎてそろそろ帰りたい気分なまである。

 

 

「ユゥぅぅぅウぅぅぅジィィィ…!」

 

そんな会話をしていると吉井がムンクの叫びのような表情をして這いずりながらこちらへとよろよろ寄ってくる。

 

「なんだ明久。飴が欲しいのか?」

 

「いや絶対そうじゃないだろ…」

 

埃の溜まりきった畳からこちらに手を向けてくる吉井に対し、その手に明らか様にイチゴ味と分かるような結ばれた包み紙を渡す坂本。吉井はその包み紙を震える手を使いながら開く。

 

「って中身ないじゃないか⁉︎」

 

「まあ落ち着け明久、ちゃんと中身を確認しろ」

 

そう坂本に言われたのが気になったのか、吉井は両手を使い包みを解いた紙を大きく広げる。そこには『補修おめでとさん』と黒い文字が…

 

「雄二、ちょっと表出ようか?」

 

「お前、勉強しないつもりか?」

 

雄二はそう言いながら周りを見るよう促す。

 

「み、皆んなっ⁉︎」

 

そこには驚いたことに、全員(姫路、島田、木下、ムッツリーニは除く)が単語帳や教科書などを思い思いに開き血走った眼で凝視する光景が広がっていた。先程とは違った意味でカオスである。

 

吉井はその中の一人に駆け寄り、肩を掴んだ。

 

 

「須川君⁉︎君はつい30分前までは「勉強なんて俺の欲の足しにもなりやしねぇ…」とか言ってたよね⁉︎」

 

「…僕に触るな、吉井」

 

須川と呼ばれた人物はそう冷たく吉井の手を退ける。…こんなキャラ濃いやつこのクラスにいたか?つかこいつ一人称前まで「俺」だったよな?

 

「須川君…?」

 

呆然とした吉井に対し須川は単語帳に目を通しながらこう言う。

 

「…吉井、僕から一つ教えてやろう。クールキャラになれば…頭が良くなるんだぞ?」

 

「…………。」

 

「…………。」

 

「…………。」

 

上から俺、吉井、坂本の順の沈黙である。順番も何もないが。

まあとにかく、須川の頭の残念っぷりだけは知ることはできたのでこれから出来るだけ関わらないようにした方がいいかもしれない。本人なんて今も尚掛けてない眼鏡を押さえるふりをしつつ単語帳を睨みつけているし。こいつの脳、ウイルス入ったパソコン並みにバグってるだろ絶対に。…いや、それがこいつの日常か。

 

 

「そんなことより勉強会しようよ!」

 

「なんだ明久突然?」

 

吉井は無駄に力の篭った声で右拳を握りながら坂本の目を見る。

 

「僕は今までこの試験という2文字に何度も苦渋を飲まされ続けてきた…!しかし、それを来週が最後で汚名挽回、名誉返上、僕らの戦いを始めるんだ!!」

 

「汚名返上と名誉挽回だな」

 

「テンプレート過ぎだろそのミスは」

 

今度こそ上から吉井、坂本、俺の順である。と言うかこの宣誓だと名誉捨てすぎて戦い始まる前に負けてるんじゃねえの?それに名誉を投げ捨てて汚名を被るとかただのマゾだろ。

 

俺と坂本の訂正に一瞬吉井の体がピクッと跳ねてフリーズするが、5秒ほどしてすぐに再起動しなおす。

 

 

「ま、まあとにかく勉強会だよ勉強会、ほら、みんなで教え合うってなんか良いじゃん」

 

「どちにせよお前は教えられる側にしか立てないがな」

 

 

こればかりは坂本の言い分に賛成だ。

それにみんなで教え合うって言うが俺の経験した奉仕部メンバーでの勉強会なんて簡素なもんだったぞ?俺と雪ノ下は普通にイヤホンしながら勉強しようとしてもし由比ヶ浜が居なかったら会話は勉強会終了まで一切無かっただろう。…いやそもそも由比ヶ浜が居なかったら勉強会なんて催されなかったのか。勉強会の必要性を感じるのはあいつだけだしな。

 

 

「それで、もし仮にifとして定義しなおすとしたら誰を呼ぶんだ明久?」

 

「雄二やる気なさすぎでしょ⁉︎」

 

坂本の発言から鑑みるに相当めんどくさいらしい。もはや仮定しすぎてロト6当たるのと同じくらいのレベルなまである。

 

「でも比企谷君は来るよね?」

 

そう言ってこちらへと会話を振ってくる吉井。もちろん答えは決まってる。

 

「吉井、諦めろ」

 

「速攻否定⁉︎少しくらい考えたっていいじゃん!!」

 

「いいや明久、比企谷の言う通りだ。お前の人望じゃ人は集まらないし、諦めて豚箱(生徒指導室)に入れ。楽になるぞ?」

 

 

そんな感じで会話を続けていると、外から女子の声が聞こえてきた。

 

「あの、私は吉井くんの案に賛成です…」

 

そこに居たのはこのクラスで2人いる中で唯一女子らしい女子、姫路だった。

 

「…比企谷?今何か変なこと考えなかった?たとえば私が女子らしくないとか?」

 

「い、いやそんなわけないだろ…」

 

そしていつの間にか後ろには姫路とガールズトークをしていたはずの島田が俺に拳の標準を合わせていた。ほんといつから後ろにいたんだよ、まさか瞬間移動でもできるのか?…いやだがそれに似たことはできそうだな。島田だし。

ちなみに心を読まれるのは最早日常と化しているので今更突っ込む気力は起きない。

 

 

「ほら、姫路さんもそう言ってるじゃん?」

 

調子の良いことに吉井は姫路の言葉にそのまま乗っかろうとするようだ。

しかし坂本はその言葉を無視して姫路の方へ向き直る。

 

 

「だが良いのか、姫路。ただの落ちこぼれなら未だしも、相手は日本どころか世界中を総ナメにするレベルにある空前絶後の大馬鹿野郎だぞ?」

 

「ねえ雄二、何で息を吐くかのように友人の評価をそこまで貶めることが出来るの?」

 

「そ、それでも…例え吉井君が定期試験で毎回0点を取っていたとしても私頑張ります!!」

 

「姫路さん⁉︎流石に僕の成績そこまでは酷くないよ⁉︎」

 

 

哀れ、吉井。だが馬鹿であるのは事実であるから正直否定の仕様がないまである。毎回0点は流石にないらしいが。

 

そこで俺の耳にボソリと吉井の声が届く。

 

「………いつも最下位から5番目争いをしてるなんて絶対に言えない…!」

 

…まあ、頑張れ。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんな会話は続き、結局吉井主催の勉強会は本当に開かれることとなった。場所は吉井の家、何でも両親は共働きの上普段は家にいないらしく、姉は海外留学中だそうだ。

そして面子はいつものFクラス中心グループに加えAクラスからも霧島、工藤の2人も加わることとなった。まあ確かにこの2人はFクラスによく来るから何も不思議ではないな。…まあ来る理由が霧島は坂本を捕縛するため、工藤はムッツリーニをからかって場を血まみれにする為ではあるが。

 

そして更に驚きなのはなぜか俺も誘われたということだ。当然普段なら断る上、今回も断ろうとしたのだが正当な報酬として吉井からマッカンが一つ貰えるとのことで契約が樹立した。決して物に吊られたわけではない、これは取引だ。俺が時間と労力を提供する代わりに缶コーヒーを彼方が提供する、正にwinwinな関係を築けていると言えるだろう。絶対に言えてる。何なら5ポンド賭けてもいい。

 

 

ついでに、今日は奉仕部も試験週間というわけで休みとなっている。と言っても雪ノ下辺りは普通に部室で勉強していそうだが、まあ活動がないのだから行かなくとも特に構わないだろう。由比ヶ浜は知らんが。

 

 

 

 

 

……と、まあそんな訳で放課後を迎えた現在、俺たちは吉井の家の前に居た。

 

「…っておい、これ本当にお前の家なのか?俺は『実はこれ引っ越す前の昔の家なんです』とか言い出しても信じちゃうからな?」

 

「昔の家って何⁉︎昔の家とか無いしそもそも昔の家を友人に紹介する高校生なんて絶対いないでしょ⁉︎」

 

いやだが一軒家に吉井が一人で住んでるっていうのは少しどころかかなり意外だしな…、それに吉井なら間違えて引っ越す前の旧自宅へ帰るなんていう馬鹿げたことも悠々とやりそうな雰囲気があるというのもある。

 

 

「まあいいからバカ久、早く開けろよ」

 

「…非常に同意……」

 

「それって今から入ろうとしてる家の家主に言う言葉じゃないと思うんだ…」

 

 

そうボヤきつつも怒らずに開ける吉井は皮肉抜きで本当に良い奴だと思う。良い奴と言えば葉山も思い出すが、あいつは周りに対して常に平等に良い雰囲気というものを振りまいていて、何と言うか、あまり素の表情は見せないのだ。そこに自然的な物はなく、むしろ作為的に作られた仮面の如く『良い奴とはそういうものだ』を体現したような言動が俺には奇妙に思えて仕方ない。…まあそこまで話したことはないから確実性を持って語れることは少ないが。

 

比べて吉井は良くも悪くも単純かつ一直線、そこに世間の揺らぎも周りの価値観も一切挿入されることはない。偶に自身で考えたわけの分からない持論が暴走するのが少し傷ではあるが、それでもそれが没個性的な現代の中でも際立って目立つ吉井の個性なのだろう。

…まあ俺除くFクラス全員が何故かこの個性が消えかけた世の中で一人一人の強烈な個性を持っているというから、クラスの中だと吉井もそこまで目立っていないが。と言うかFクラス全体が目立っていると言える。ってつまりそれだと俺も包括的に目立ってるということになるな、それは可笑しいのでこれはきっと何かが間違ってるのだろう。

 

 

 

吉井の家の中に入ると、予想以上に綺麗な玄関や廊下、リビングがそこにはあった。

 

「意外だな、お前ならゲームとかした後やりっぱなしで放置してそうなのに」

 

「あはは、まさか〜。そんな小学生みたいな事をするわけ無いじゃん、週一でやってるよ(昨日偶然床にコップ落として割って、その流れで部屋汚いから2ヶ月ぶりに全部掃除しようと思って掃除したなんて言えるはずない…!)」

 

 

どこか吉井の言葉からは含みが見られるが、まあ関係ないだろう。

だか坂本はそこに横槍を刺す。

 

「そういや明久、お前先週俺が来た時はもっと散らかってよな?」

 

「いやいや、何を言ってるの雄二?僕は身の回りの家事くらいちゃんとやるよ?」

 

焦りながらも器用にも坂本に対しやれやれと言った感じで首を振る吉井。こいつ感情の表現すごい器用だなおい。

 

「じゃか明久、毎回お主は良くヨレヨレのワイシャツで登校してるじゃろう」

 

更に木下が参戦、演劇部ならではの観察眼で吉井の日常生活を射抜く。

そこでFクラスの良心、姫路からこんな言葉が出る。

 

「…吉井君家事できないんですか?なら私がーーー」

 

「いいや姫路さん!残念だけど、本当に残念だけど僕結構家事大好きで皿洗いが趣味だったりするくらいだからとても勿体無いけど遠慮するよ!!!それに怪我しても困るしね!!」

 

姫路の言葉に遮って吉井が慌てたようにそうまくしたてる。…皿洗いが趣味ってなんだよ、それに何でこいつ姫路にそこまで拒否反応を起こしてるんだ?それとも何か姫路には大きな秘密があるとか。

 

 

きっと俺の顔からはその疑問を容易く読み取ることが出来たのだろう、木下がちょんちょんと俺をつついて極力小さな声で話しかけてくる。なにこれかわいい。

 

「…実はじゃな、姫路は料理が全く出来んのじゃ」

 

「…?別に幾ら料理下手と言っても精々クッキーが木炭に化学反応を起こすだけだろ?」

 

思い出すのは未だ奉仕部初期の活動1ヶ月目だった頃。当時は奉仕部員じゃなかった由比ヶ浜がクライアントとして来て、その依頼がクッキーを教えて欲しいとの内容だったのだ。

…が、由比ヶ浜本人の調理スキルが絶望的過ぎてまさかのクッキーが黒い何かへと変貌するという事件が起き、結局はその大半を俺が処理するという俺的にはワースト5位くらいには入る悲惨な思い出だ。しかもなんの恨みがあってかクッキーの中身には砂糖と間違えて小麦粉を入れたらしく、全く甘くないどころか苦味しかないクッキーを食べさせられた時の味は今でも忘れていない。何で小麦粉に小麦粉を調味料として入れるんだよ。あいつの味覚はどうなってんの本当に。

 

そんな俺の料理に関する悲惨な思い出を思い返していると、木下はそれ対し首を振った。

 

「…そんなもんじゃないのじゃ」

 

「へ?」

 

「簡単に言うなら肉じゃがを作るために鍋を一つ溶かして作っているのじゃよ…!」

 

「何そのバイオレンス」

 

肉じゃがを作る過程で鍋を溶かすなんて聞いたことがない。そもそも料理で調理器具を溶かすってどういうことだよ…。

 

「…しかもその味がのう…少し独特で……」

 

「いいや、良いんだ、木下。もう十二分に分かった、だからそんな泣きそうな顔で無理して話そうとするな…!」

 

思い出しただけで泣ける料理…では決してないだろう。むしろどちらかと言えば思い出しただけでその苦行さが目に浮かんで恐怖に怯えているような表情だった。何?リアル食戟だったりするの?美味しいものを作るんじゃなくて本当に相手を殺すもの作る的な意味で。

 

 

「その!…吉井、…ウチも手伝ってあげても良いよ?」

 

今度は勇気を出したように吉井に話しかける島田。何というか、いつもなら青春爆発しろと言いたいところではあるがこの馬鹿(吉井)に限ってそれはないので安心して見られる。

 

「あ、じゃあ後で島田さんは夕飯作るの手伝ってよ。今日は少し量が多いし、何と言っても島田さんなら包丁で皮膚切ってもすぐに直りそうだし何か腕が逆方へと曲がって関節から有らぬ音が聞こえてくる…って痛い痛い痛いっ!」

 

「吉井はもうそこで骨抜かれて調理されれば良いのよ!!」

 

「ちょ、ギブ、ギブワンタッチィィィ!!」

 

 

意味分からないことを叫びつつ島田に腕ひしぎをされながら床をひたすらバンバン叩く吉井。ほらな、こいつらの青春って見てるともうダメな方の爆発してるし俺としても安心して見れるまである。

 

 

「雄二、めっ」

 

「うがぁぁぁ…!!突然目に指突き出すんじゃねえ!!」

 

突然の目潰しに対し痛みに喚きながら霧島にそう言う坂本。…何か最近こんな光景も見慣れたなおい。初めは結構混乱してたのを覚えてるし、成長した…というよりは適応だなこりゃ、うん。

 

「…だって雄二が瑞希の方を見てたから」

 

「誤解だぁぁ!!」

 

 

…俺本当に良かった、バイオレンスな幼馴染が居なくて本当に良かった。

 

なんて思ってると後ろからもこんな声が。

 

「ほらほらムッツリーニ君?」

 

「…このくらい、何でも…ない…!」

 

「えいっ」

 

「っ!!」

 

鼻血を出しながら背後へと倒れつつも何とか立ち続けるムッツリーニ。何故だろうか、彼の鼻からは洪水のように鼻血が流れ続けている。…これ大丈夫か?血液量とか。

 

「ってあっ……」

 

…そう思ってると案の定ムッツリーニはその体勢を崩さず足を伸ばしながら後ろに倒れる。足元には既に血の池が作られるほど量がある。

 

「ムッツリーニ!今すぐ輸血するからの待っておるんじゃ!」

 

「吉井ぃぃぃ!」

 

「左まで関節が逆パキされそうにって痛ってぇぇぇぇ!」

 

「雄二、パンツ見ようとした(目潰ししながら)」

 

「だから誤解だっつってるだろぉぉぉ!!!」

 

「ムッツリーニ君⁉︎大丈夫⁉︎……心臓が動いてない…」

 

「LEDを探すのじゃ八幡!」

 

「それ言うならAEDだろうが!分かった探してくるから島田!取り敢えず緊急事態だから吉井を起こせ!」

 

「分かったわ!吉井!」

 

「痛っ!…ってここは…僕は何を…?」

 

 

本来の目的はテストに向けた普通の勉強会だったはずである。だが今の現状は既にカオス、時間も5月の日差しが傾きつつある頃合いだ。…何でいつもこうなるんだろうか。

 

俺はこの血まみれで凄惨なリビングでムッツリーニのバックの中に入っていたAEDを取り出し、ムッツリーニの体に付けながらしみじみとそう思った。

 

 

 

 





さて、次はいつになるのやら…

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