フェンリルに勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない 作:ノシ棒
エミール襲来。
ユウ、二重の意味で焦る。
フライアは移動要塞であるというその性質上、戦力を外部委託によって補充している。
ブラッドという固有戦力が出来はしたが、それでも外からゴッドイーターを招くことが通常である。
しかし、よりにもよって極東から・・・・・・しかも、この場にもっとも来て欲しくない人材が選ばれるとは。
ユウをしても予想外であった。もしかしたら、榊の差し金なのかもしれない。スパイ活動が順調であるかどうかの監視だろうか。
それにしては人材の選出が間違ってはいるが。
余計なことを口走らないか、恐ろしすぎる。
「おお・・・・・・おお・・・・・・! 君は、君こそは我が永遠のライバル! かみかり――――――」
――――――シャオラッ!
案の定である。
よりによって不本意な二つ名を口走ろうとしたエミールへとユウがとった対応は、拳によって黙らせる、であった。
鉄拳制裁である。だが。
――――――なにぃ!?
ユウの拳は空を切る。
“いなされた”のだ。理解した瞬間、少なくないショックがユウを襲う。
極東では、前隊長・・・・・・コウタから数えれば前々隊長か、を壁際で世紀末バスケットする程度には体術の覚えがあった。
それなりの自負と自信があった拳を軽くいなされたのだ。
エミール自身の技量が優れているのではない。これは、技の“性能”だ。
尋常なる技ではない。
「フッフッフ・・・・・・僕を今までの僕と思ってくれるなよ? フェニックスは日々進化し続けるのだ!」
エミールの両の足が内側を向く。
両の手は手の甲を相手に、ユウに向けて外へ・・・・・・それは異形なる構え!
「呼ッッ!」
壁だ!
ユウの眼前に巨大な壁が出現した。それは幻覚であると解っている。しかし、理解してなお、幻視する。してしまう。せざるを得ない。
まるで幼い少女がだだをこねるが如くの姿・・・・・・ともすれば、女々しい格好にも見えるだろう。
しかしそこに弱々しさは存在しない。
これは人間が単体で成す、アラガミ防壁よりも強固な壁・・・・・・守りの型!
「あれは・・・・・・!」
「知ってるの? ロミオ先輩」
「ああ、ナナ。あれは、極東に古くから伝わるジャパニーズマーシャルアーツ・・・・・・カラテの構えだ!
呼吸のコントロールによって完成されるあの構えは、完全になされたときにはあらゆる打撃に耐えると言われている。
毎週極東広報を読んでいた俺には解る・・・・・・俺は詳しいんだ。ああ! あの技は!」
エミールの両の腕が弧を描き、空を撫でた。
新円。
手刀が描く二つの月が、出現す。
「マ・ワ・シ・受ケ――――――!」
見事である。その一言しかない。
付け焼刃とは口が裂けても言えない。
古武術とは、一朝一夕で身に付くものではない。
並々ならぬ努力と、そして才能が合致せねば辿り着けない領域。
エミール・フォン=シュトラスブルク・・・・・・不死鳥が如く。
騎士道、至る!
「さあ! 矢でも鉄砲でも火炎放射器でも持ってくるがいい!」
――――――なんで耐久の構えでカウンター狙いして防御下げんだバカチン。
「あふん!」
突然の肘。
ユウのカミソリのように薙がれた肘により、顎を擦られたエミールはその場に崩れ落ちた。
いかに古代の技を身に付けようと、純粋な技量差は覆せない。
ただそれだけの結果、見えきった結末であった。
拳を握り、じっと天井を見つめるユウ。
――――――虚しい戦いだった・・・・・・。
「そうだな、何の意味もない」
――――――うん。だからね、その、ね? その、何も意味がないってことで、無かったことに、ね?
いや、俺もどうかと思ったよ? うん、ちょっと短絡的思考すぎるかなって、ね? でもほら、エミールの顔みたらさ、ね?
やらなきゃいけないっていうか、すべきというか、ね? わかるでしょ? ねっ? しかたないよね? ねっねっ?
「そうだな。俺が今お前に感じている感情と同じなのだとすれば、それは、ああ、仕方ない。仕方ないだろうさ」
ユウの肩を掴むジュリウス。
ミシミシと骨が軋んでいる。「うわっ」とロミオとナナが半歩引いた。ギルは頬を引きつらせている。ドン引きである。
痛みよりも何よりも、ジュリウスの顔がやばかった。
いつもの涼し気な整った顔であるが、目がやばい。目が血走っていて、こめかみに太い血管が浮いている。
一言で言って、やばい。
これあかんやつや、とユウは思った。
ジュリウス、生まれて初めてのガチ切れである。
「ついこの前に、言ったな? 言ったはずだな? 暴力沙汰はやめろと・・・・・・俺は言ったはずだな? お前に、直接、呼び出して、頼み込んだはずだ。そうだな?
不思議だ・・・・・では俺の目の前で起きたこれは一体何なのか。俺は夢でも見ているのか?
よりによって直接言い置いた隊員が、隊長の目の前で、極東からの協力者を殴り飛ばした・・・・・・これが現実なのだとしたら、さてどうしようか?」
――――――いや、これはその、極東じゃ挨拶っていうか。
「そうか、わかった。そんなに暴れたいなら話は早い。ここじゃ物が壊れる・・・・・・屋上へ行こうか」
久しぶりにキレちまったぜ、と副音声が聞こえてくるかのような顔面描写である。
さわやかな笑みであった。ビキビキと浮かび上がる額の血管を除けば。
「あ、あーっと! そうだ! ミッションの人員選ぶとかじゃなかったっけー!」
「おーそだねそだね! そうだったね! 二班に分けるんだったよね!」
「そうそう! 先行班がフライア進路上にいるアラガミを先行して露払い、そんでフライアが予定ポイントに到達したら、後続が迎えに行って帰還っていう! どうよ俺、ちゃんと聞いてたんだぜ!」
「フライアの行く先をがんばるぞ組が守って、その帰りをお留守番組が守るんだよね! 迎えに行って、お帰りなさいでミッション終了!」
「で、どっちにするかっていう・・・・・・げっ、ギルがいたよな・・・・・・ええと」
「ちょっと、先輩?」
「じゃあそんなら新人二人を組ませるのもアレだし、俺がナナと残るよ!うん」
「へっ!?」
「留守は任せろー。ミッション期間終わったらエンゲージポイントまでちゃんと迎えにいってやるからさ!」
「えっと・・・・・・じゃ、がんばってね!」
ナチュラルに見捨てやがった。
途中まで空気を変えようとしたのだろうが、その空気を読んで手に負えないと思ったのだろう。
そりゃ俺も自業自得なところあるけどさ、とユウは心中で悪態を吐いた。口にするには肩に置かれた手が怖い。
じゃあね! と手を振って去っていくナナとロミオ。
残された男共。
ユウは遠い目をして現実逃避をし、ジュリウスはにこやかにビキビキし、ギルバートはとばっちりを食らったと帽子を被り直し、エミールは白目を剥いて痙攣している。
「では、このメンバーでミッションを受注します。任務期間が長いのでサバイバルミッションとなります。各員、出撃準備をお願いします」
ミッションカウンターから一部始終を見ていたフランが、冷静な様子でコンソールを叩きながら告げた。
告げた後、手を口元に当てて微動だにしなくなるフラン。
「耐えるのよフラン・・・・・・だめもうむりうぶふう!」とくぐもった声と噴出した吐息が指の隙間から漏れていた。
空気が重い。
サバイバルミッション、開始である。
■ □ ■
「来い、ユウ・・・・・・模擬銃なんか捨てて、かかってこい! 神機で勝負だ! どうした、来い、ユウ・・・・・・怖いのか?」
――――――ハジキなんか必要ねぇや。へ、へへへっ・・・・・・誰がてめぇなんか、てめぇなんか怖かねぇ! 野朗、ぶっこぉしてやるぅぁ!!
「イヤーッ!」
――――――グワーッ!
こてんぱんという言葉がこれほどふさわしい場面もないだろう。
手足を揃えてコの字型に空を吹き飛んでいくユウ。
ミッション時間外の実技訓練中の一幕である。
実技訓練とはいっても、一方的すぎる展開であったが。
「おお美しきかな・・・・・・二人のゴッドイーターが高め合っている・・・・・・声は遠くて聞こえないが、きっとお互いを鼓舞する言葉を、世界について語らっているに違いない!」
「何やってんだかあいつらは・・・・・・神機での対人演習は禁止されてんだろうが。ミッションの真っ最中だってのに」
「賑やかでいいじゃないか! 僕は好きだ、実に好ましい! それがゴッドイーターの使命なのだとしても、殺伐とした荒野にただ息をするだけでは気が滅入ってしまう。潤いがなくては。極東でこういう言葉がある。喧嘩するほど仲が良い、と!」
「ふん・・・・・・俺を見て言うなよ。ロミオに言え、ロミオに。しかし、元気だなあいつら」
「ははは、こんなもの任務の内に入らないぞ! 行って帰って、その途中で任務が入って・・・・・・一度の出撃で最低3回は任務が入るのが極東のスタンダードだからな! うん・・・・・・それが極東のスタンダードなんだ・・・・・・」
おかしいだろ極東、と帽子を被りなおすギルバートの表情は精彩を欠いていた。
フライア進路上の露払いということで、感知したアラガミを手当たり次第に駆除ないしは追い払うことが任務目的だ。
始めは新しい神機の調子を見ようと、意気揚々とチャージスピアを担いでいたギルである。
その瞳には獰猛で危険な光が宿り、『チャージグライド』の稼動ハッチからはオラクルの輝きが溢れ出ていた。
戦意高揚。一意専心。
さすがは第三世代機である。これまで使用していた第二世代と機能は同じといえ、反応感度が段違いである。
これならば常のスコアを容易く塗りかえることが出来よう。
1戦、2戦、調子がいい。3戦、4戦・・・・・・そして大型アラガミとの連戦回数が7回を超えたあたりから、ギルの目から光が消えた。
途中、ヴァジュラまで出現しこれと交戦した。他支部では出てきただけで大騒動、死を覚悟せねばならないアラガミである。
通信機から流れる、ヴァジュラの存在を知らせるフランの声に焦りが混じる。通信に出たギルバートは大声で皆に知らせた。
間が悪いことに、その時ジュリウスは離脱した『ヤクシャ』を追いかけて予測戦闘区域外で交戦中であった。
ギルバートの脳裏に最悪のシナリオが過ぎる。
つまり、経験の浅いエミールと、ほぼ新兵も同然のユウ、そして自分の三名でヴァジュラと戦わねばならないということ。
誰かが、死ぬかもしれない。
苦い思いがギルバートの胸中に湧き上がる。
覚悟はしておけ、とギルバートは二人に告げた。
問題はそのユウとエミールである。
エミールは「いついかなる時も、このエミール、覚悟は出来ている」などと嘯きつつ、紅茶の香りを楽しんでいた。
ユウに至っては携帯ゲーム機をカチャカチャとやりつつ、――――――デイリー終わってからでいい? などと舐めきった態度。
これは胸倉を掴み上げても仕方がないだろう。
宙吊りになったユウはそれでも解っていないようで、――――――え、だってヴァジュラでしょ? 禁忌種でもないし、そんなピリピリしなくても・・・・・・。と的外れな発言を繰り返す。
これはもう駄目だ。ギルバートは諦めと、一握の寂しさとともに襟首を離す。
こいつは、見込みがあると思ったのに。
入隊早々にいざこざを起こした自分に、臆さずに接してきたこと。ギルバートは言葉には出さなかったが、ユウの人柄を好ましく思っていた。
まるであの人のようだ。そうも思った。
つっぱっていた自分を、優しく支えてくれた、あの人のようだ・・・・・・と。
そう思っていたのに。
――――――失敗しても、諦めなきゃそのうち成功するでしょ。しくったら支えてやるから。そのための仲間でしょ? ま、なんとかなるよ。前向いていこう。
奥歯がぎりりと鳴った。やめろ、と叫びたかった。
あの人と同じ台詞を言うな。お願いだから、言わないでくれ。
振り上げかけた拳は、力なく降ろされた。
出撃直前、「足を引っ張るなよ」と一番戦闘経験が浅いであろうユウに、ギルなりの皮肉を織り交ぜた激励を飛ばした。最終通達のつもりで。
これで駄目なら、もうこいつはそこまでの男だったのだと諦めよう。
勝手に期待して、希望を持ちつつあった自分が馬鹿だったのだと。
そして出撃の時が来た。
ヴァジュラ、来たる。
向かうはユウ、そしてギルバート。侵入予測地点からエミールは離れ、小型アラガミ相手に手間取っていた。
まずは自分が相手だと、ヴァジュラへと踏み込んだギルバート。
小パンチからの起き攻めからの電撃からの小パンチからの突進からの雷撃からの回転尻尾からの猫パンチからの電撃からの飛び掛りからの範囲電撃からの猫パンチからの起き攻めからの――――――。
ユウにリンクエイドをされること4回。5回目から放置するスタイルに入られたギルバートは考えることをやめた。
ヴァジュラは結局、ユウがほぼ一人で倒した。
新人だとか経験が浅いとか、絶対に虚偽情報であるとギルバートが確信した瞬間である。
第三世代だとかスキルだとかそんなチャチなものでは断じてない。もっと恐ろしいものの片鱗を味わった気分だった。
その横では、エミールが「我々の勝利だ!」といい汗をかきながら雄叫びを上げていた。コクーンメイデンとしか戦っていなかったのに。
極東人はスゴイ。色んな意味で。
ギルは改めてそう思った。
――――――ぬおおああああ! 何で勝てないんだしい! 神機様やねんぞ!
「これが血の力だ・・・・・・これが血の力だ!」
――――――ドヤ顔でもっかい言うんじゃないし! なんだよ血の力とかあ!
「俺の血の力は『統制』という。周囲のオラクル細胞を制御し、力を与えるという能力だ・・・・・・が、しかし、使い方を工夫すれば、こんなこともできるぞ?」
――――――おい無理矢理バースト状態にもってかれるとかおかしいだろ。え、てことはそれ、つまり、神機に“干渉”できるってこと? “ハッキング”したってことなの?
「そこまでじゃないさ。真似事は出来るが、それも感応現象で“パス”が繋がった相手に限る」
――――――オラクル細胞に一斉に前倣えって命令できるてことは、神機にいらんところで“力ませられる”ってことで・・・・・・そりゃつまり、“神機に”フェイントを仕掛けたってこと?
「賢い奴は好きだぞ。ほとんど正解だ。外部からお前の神機を統制の支配下に置いた。
お前の力の流れに乗せて、さらなる力を上乗せする・・・・・・極東でいう所の“合気道”の技術だ。結果、お前は自爆したんだ」
――――――なにそのチートスキル! どうりで神機からのフィードバックがおかしくなって体が思うように・・・・・・ハッ、お前、神機での勝負持ちかけたのこのためか!
「ははは、これは訓練だ。わかるか? 訓練だ。血の力を体で覚えるんだ。さあ、続きをやるぞ、隊長命令だ」
――――――職権乱用だろがい! 素手なら俺の方が上だからってお前ずるいぞふざきんあがががが! 痛っイイ・・・・・・お、折れるう~。
ジュリウスとユウの体術レベルは、実に同等なものであった。
純粋な体術のみであるならばゴッドイーター史上類を見ない程、過去に存在した達人の域であると言っても過言ではないだろう。
人外の領域に踏み出しつつあるユウ。それにくらいつき、あるいは抜きん出ることもあるジュリウス。
驚愕に値する両名である。同じ時代に、この二人が同時に生まれたこと。そしてその二人が出会い、ともに肩を並べていること。運命的なものを感じずにはいられない。
本来であればこの両者の間に優劣は無い。だが、実際には一方が・・・・・・ユウが地を舐める事となっている。
これは相性の問題である。
『血の力』――――――。
地力は互角。ならば神機では・・・・・・その限りではなかった。
ゴッドイーターであれば、決してジュリウスには勝てぬ理由がそこにある。
「あれを見ているとあいつは強いのか弱いのか、よく解らなくなるな・・・・・・間違いなく強いんだろうが、ジュリウス相手じゃあな」
「どうも手加減しているようには見えるがね。それとも、実力を全部出しきっていないのか」
「どうみてもガチンコじゃないのか、あれは?」
「いや、まだりょ・・・・・・ユウは使っていない。そう――――――ジツを!」
「ジツ? ジツって・・・・・・なんだ?」
「君は極東に縁があると見た。ならば聞いたことがあるだろう? ニンジャの存在を」
「いや、ニンジャのことはそりゃ聞いたことくらいはあるが・・・・・・あいつが? いや、そんな・・・・・・まさか、だろう?」
「ニンジャは極東の歴史の影に潜むもの。闇から人々を守り、支え続けてきた。己が闇に染まりながらも・・・・・・。ゴッドイーターをしていても何もおかしくはあるまい? いや、むしろゴッドイーターをしていることが自然だ。そうだろう?」
「馬鹿な・・・・・・いや、しかしあの身のこなしは・・・・・・そんなことが・・・・・・たしかにそう考えればおかしくは・・・・・・じゃああいつは・・・・・・!」
「アイェェェ! それ以上はいけない! 消されるぞ! フライアで殴られた後、もう一度腹に拳をぐりぐりされながら黙っていろと言われたんだ! あれは本気の目だった!」
「は、はッ・・・・・・馬鹿馬鹿しい、ロミオじゃあるまいし、そんなもんいてたまるか」
「そう思うならそれでいい。ギル、君に頼みがある」
「なんだ」
「彼を・・・・・・ユウを支えてやってくれないか。彼はどうも、背負い込みすぎるところがある。フライアへ行くことになった時も、ギリギリまで何も言わなかったんだ。
極東の皆が彼のことを心配している。彼はね、人のことを助けるあまり、自分のことが救えない人間なんだ。君もすぐにわかる。彼の近くにいればね」
「・・・・・・あいつがどうかは、俺にはわからない。でも、背負い込んじまう奴がどうなっちまうかは、よくわかってるつもりだ。ああ、よく知ってるよ」
「うん。ならば安心だ。君にだけ明かすが、彼の極東での名前と、こちらでの名前は違うんだ。ニンジャネームだ、理解してやってくれ。ちなみに僕にも騎士道ネームがある」
「言えない事情ってやつか。あいつも“たんこぶ”持ちってことかよ」
「スネに矢を受けた、と言うらしいよ極東では。膝にだったかな? まあいい。見たまえ、彼らの姿を。必死だ。必死になって、今を生きている。どうだい、美しいだろう?」
「ふん・・・・・・」
「僕には拳を交え合う彼らの姿が、光り輝いて見える。その裏に計り知れぬ苦悩をひた隠しにしているのも。君も、な」
「どいつもこいつも・・・・・・」
「言えない事情という、それを汲んでやってほしい。それだけさ。なあに、悪いことにはならないよ。この僕が保障しよう! この、エミールが! 我が騎士道にかけて!」
「うるせえ。おおい、お前ら! いつまでじゃれ合ってる! 飯の時間だぞ!」
おいすー、とやる気の無い返事をしながら、もそもそと携帯ガスコンロの周りに集まるユウとジュリウス。
ユウは泥まみれの隊服を脱いで、黒いタンクトップ一枚に汗だくの格好。
ジュリウスは気品のあった私服を脱ぎ腰に巻きつけて縛り、白の肌着一枚に。頭には手ぬぐいを巻きつけて汗が目に入らないようにしていた。
決してフライアのジュリウスファンクラブの婦女子の面々には見せられぬ格好であった。
――――――ひーこらどっこいせ。ひどい目にあった、と。
「邪魔をするぞ」
「おう・・・・・・おいユウ、不衛生だぞ。また何か拾ってきたのか」
――――――いやあ、割れたCDとかさ、拾ってきて繋げたりするのが趣味なんだよね。こればっかりはやめらんなくて・・・・・・。こう、昔の、平和だったころのこと想像できてさ。
「お前も俺も、平和なんて知らないだろうが。趣味の悪い奴だ・・・・・・まったく」
「感傷に浸ることは嫌いじゃない。過去に囚われなければ、いい趣味だと思うぞ」
――――――いやー、ほら見てよ、今日は大収穫だったんだよ。ほら、のこじん!
「のこじん・・・・・・?」
「遺された神機、の略か?」
――――――そうそれそれ。いやほら、俺達の神機って結構派手にぶっ壊れて、部品吹っ飛ばしたりするじゃん? シールドとかよく欠けるしブレードは折れるしで。破損したパーツは基本放置だし。
「そういえば、他のゴッドイーターの戦闘痕によく神機のパーツが転がってるな」
「回収班に任せないのか?」
――――――うん、本当はそうした方がいいんだろうけどね。でも回収されたらされたで、どうせ砕かれて何に使うかわかんない資材倉庫送りでしょ?
そう考えるとなんか、ほっとけなくてさ。余裕あるとき見かけたら拾うようにしてるんだ。中には本当に、持ち主が死んじゃった神機もあるからさ。いや、そっちの方が多いのかな・・・・・・。
「まあ、そうだろうな・・・・・・遺された神機、か・・・・・・」
――――――そんで俺、自分の神機の補修に使ってもらうことにしてるんだよね。感傷って言ったら、うん、そうなんだろうなあ。
「供養のつもりか?」
――――――リサイクルだよ。エコでしょ? 何かのこじんの持ち主のパワーが宿って、強くなれるような気がするし。こう、持ち主から離れて放置されてる間に、オラクル細胞の不思議パワーで進化してて、複合スキルが宿ってたりとかしそうじゃん。
「複合スキルってなんだよ・・・・・・神機で俺達のやれることが増えたり減ったりするのか? ホラーだろ」
「いや、その発想は理解できる」
――――――ゲーム脳乙。
「よしわかった、表へ出ろ。訓練の続きをやるぞ」
――――――お? 今度は素手でやっか? ステゴロなら負けねえぞ、お?
「やめろ馬鹿共。なんだお前達は、仲がいいのか悪いのか、セットになると馬鹿な方向に性格変わるぞ。自覚あるのか! まったく・・・・・・今日の飯はシチューだ。さっさと食え!」
――――――おー、ギルが作ったの? じゃ今日は当たりだな。
「そうだな。俺やユウではそこそこ止まりだからな」
「褒めても何もでないぞ」
――――――とかなんとか言っちゃって、ちょっと大き目の具をよそってくれるギル大好き。
「黙って食ってろ」
――――――うめぇうめぇ。
「・・・・・・ハシ、か。それ」
――――――うん、マイ箸もってきてんの。見たことある? 極東以外じゃ箸文化ないからさ。
「上手いものだな。俺も今度ハシの使い方を練習しよう。フライアは移動拠点だ。極東に赴くこともあるだろう」
――――――ま、こんぐらい極東人なら普通だって。でも、あー・・・・・・またエミールみたいなことが起きるのか・・・・・・気が重すぎる。何か変な勘違いしてくれたから助かったけどごにょごにょ。
「グリンピースを縦に5個はさむの普通じゃないだろ・・・・・・やはりニンジャなのか、こいつ」
「シチュー、美味いな。ありがとう、ギル。体が温まる」
「ジュリウス、お前は顔を拭け、泥だらけで飯を食うな。タオルよこせ、ここが汚れて・・・・・・ユウ! 勝手におかわりはするな! 物資は限られてるんだぞ、ったく!」
「ぐぬぬ、なんだかずるいぞう! 僕もまぜたまえ! まぜたまえ!」
「お、おう」
「僕も語らい合いたいんだ! そう、未来について! 我らゴッドイーターが如何様に闇の権化たるアラガミを根滅するか、その方法を話し合おうじゃないか! 僕を中心にして!」
全身を使っての猛アピール。
うへえ、という面倒臭さを前面に押し出した顔で、ユウがスプーンを口に加えて上下させつつ答えた。
――――――うんそれ無理。この話は終わり。はい、やめやめ。ギルーそっちの芋よそってーお願い。
「作っておいてなんだが、この芋そんなに美味くないぞ」
――――――マヨマヨファンタジーすればだいたいいけるやん?
「まあ、マヨネーズは強いからな」
「カレー粉が最強だな。ギル、おかわりを」
「どれくらいだ?」
「大盛りで」
「了解」
「ところでこの前ナナからおでんパンを貰ったんだが、中々いけるな。欲しいと言ったら驚かれたが。どうも俺がああいうジャンクフード系列のものは口にしないと思われていたらしい。解せん」
「ナナか。あいつにも悪いことしたな。俺も差し出されたんだが、断ったら泣きそうになってた。今度は食ってやるか・・・・・・あの串をどうするか悩むな」
――――――フンフンフー、まよまよファーンタジー、フーフフーンフーフー。
「やめたまえ! 僕を無視するのはやめたまえ!」
――――――えー、だって実際無理じゃん?
「怖気づいたのか! 見損なったぞ、ユウ! 君はそれでも極東にその人ありと謳われたかみか」
――――――カーッ! ほんっとめんどくっせえなオメェはよお! おらよく聞けよ、知ってるか? 地球上の大気の成分、旧時代とほとんど変わってないんだよ。
窒素が79%に、酸素が21%・・・・・・他も同じだ。ありえないだろ、世界中の樹木が20数年前の三割少しまで減少してるっていうのに。海の生態系だってめっちゃくちゃだぞ。
俺たちが吸って吐いてるこれ、空気、酸素、その出処はどこだかわかるか?
「まさか・・・・・・アラガミだというのかい!?」
――――――正解。基礎教練で習っただろ。
エミールを指差してからユウは食事を再開する。
ジュリウスが引き継いで口を開いた。スプーンを教鞭に見立てピンと立てる。
「正確には自然環境に成り代わったオラクル細胞だな。これから先、オラクル細胞を除去できるような技術が開発されたとしても、アラガミを絶滅させることは出来ない・・・・・・否、してはいけない。
自然環境=オラクル細胞=アラガミの構図が成り立ってしまっているからだ。アラガミの発生要因は未だ解明には至っていないが、アラガミが“どこから来るか”は解っている。オラクル細胞の貯蔵庫である自然環境、すなわち地球そのものからだ。
故にアラガミの駆逐は、すなわち自然破壊に通じると言えよう。
ゴッドイーターが行う捕喰は、世界的にみればオラクル細胞の総量は変わらない。捕喰して使用し、自然に還元している。自然保護の観点からも、ゴッドイーターがやるしかない。そういうことだ」
「それは・・・・・・それは、しかし・・・・・・ぐぬう!」
「環境保全の観点からのゴッドイーター必要論か。初めて聞いたな」
――――――だから同じ理由で大量破壊兵器も使えない、と。汚染がどうとかいうよりも、環境破壊・・・・・・破壊された環境の“補修作用”がヤバイ。
大量破壊兵器はそりゃすごいさ。大量破壊兵器なんだもの。アラガミだって問答無用で吹き飛ばしちゃうんだ。そこの環境もろともね。で、ぶっ壊された後の自然がオラクルの“スポット”になるんだな。
穴がぽんと開いて、そこにオラクル細胞が一斉にわっと流入するんだ。逆もあるな。そうなると当然、周囲のオラクル総量が激変することになる。濃度がさ、変わるんだ。
とにかくこれがヤバイ。もうどうにもならないくらい不味い。マヨファンした芋とは大違いだ。
「どう不味いというのだね?」
――――――オラクル総量が増減するってことは、アラガミの分布も変わるってこと。破壊兵器を使うと、アラガミの生態が乱れるんだよ。
ここがオラクル細胞の本領発揮だな。通常の生物なら減少するか、異常固体になって短命化するかのどちらかになる。でもアラガミはそんなの関係ないだろ。あいつらは進化するからな。
旧人類最後の反抗、聞いたことくらいあるだろ? 最後の足掻きなんて言ってた人もいたけど、アラガミの群れを核融合炉で吹っ飛ばしたアレさ。
衝撃と放射能はアラガミが“喰った”んだけど、それで周辺のオラクルのバランスが崩れたらしいんだ。
あの後かなりの範囲でアラガミの分布がめちゃくちゃになるわ、出現数がやたら増えるわ、細胞の結合強度が跳ね上がって異様に強い固体がデフォになるわで大変だったらしいぜ。
「当時の記録によれば、それ以前に現れてたボルグ・カムランは、盾を旧型神機で一撃で壊せるくらいには弱かったらしい。だが核爆発を後にして強化され、通常兵器では歯が立たなくなったという。細胞の結合が強化された顕著な例だ」
――――――強い固体が現れたら、より強い固体も増えていく。そのせいでロシアはめちゃくちゃになって、人の生活圏に禁機種が平気で出入りするような状況になったんだと。
アリサ・・・・・・あー、俺の元同僚もその被害者で、あの当時はそれこそ極東かってくらいアラガミ被害が多発してたらしい。
「馬鹿な・・・・・・そんなことが・・・・・・」
「やっぱり極東はおかしい。ハルさんもよくよく考えたらおかしかった・・・・・・どうなってるんだ極東」
――――――たまらんでしょ。大量破壊兵器使ったら“極東化”するかもしれないとか。
一時的に掃除できるからって、考えなしに大量破壊兵器なんて使ってたら、それこそ人類は絶滅しちゃうじゃん。ゴッドイーターがやるしかないでしょ。“とてもクリーン”なアラガミ駆除装置がさ。
「うむむ、同じ理由で神機兵も必要ということか・・・・・・。すまない、弱気になっていたのは僕の方だったようだ。アラガミの根絶、対抗策を論じることで、ゴッドイーターの価値を再確認したかったのだ、僕は。
どうも最近よく見かける神機兵のCMに、皆がゴッドイーターはもはや用済みになるのかと不安になってしまっていてな。僕も影響されてしまっていたらしい。このエミール、一生の不覚! くっ・・・・・・より一層、騎士道に励まねば!」
――――――お前さん一生の不覚多そうだなあ。まあ、住み分けが行われるだろうしいいんじゃない?
どっちにしろ補填戦力の投入しなきゃいけないわけで、使える新人なんてそんな簡単に見つからないし育たないし。機械化で楽できるんならそれに越したことはないでしょ。人死になんて少ない方がいいに決まってる。
「まったくだな。神機兵はゴッドイーターにとっても待ち焦がれる、人類の希望となり得る発明だ。当然旧態以前からのゴッドイーターからは不満が出るだろうが」
「待て、俺たちブラッドは教導・・・・・・旧世代とこれから先の世代の神機使い達を教導することが最終目的なんだろう? 神機兵が増えればゴッドイーターが減る。
俺たちの存在意義も揺らぐんじゃないか? エミールが言っていたことは何も間違ったことじゃないだろう」
――――――そこんとこがゴッドイーターの抱えてる“歪み”だよなあ。
「歪みとな?」
「人類の生存圏拡大は急務だ。これは絶対に必要なことだが・・・・・・」
「ああ、なるほどな。そういうことか」
「むむむ、僕にわかるように教えてくれないかね」
――――――何か俺、説明役になってない? いいけど・・・・・・ほら、今の戦線ってさ、ゴッドイーターによって保たれてるでしょ?
「そうだが、それのどこに歪みがあると?」
――――――限りある自然の“リソース”を食いつぶして生き延びてるのが今の人類だ。だから、戦線を拡げないとやってけないんだ。新しい資源を見つけないとな。
戦線を押し上げること。それは“一部のエース級”のゴッドイーターにしかできないことだ。最前線だな。で、そいつらが広げた戦線を保持しないといけなくなるわけだ。
そこに中堅以下のゴッドイーターを“大量投入”する。そんで、大量に死ぬ。で、ゴッドイーターの総量が減って、結果ジリ貧になる、と。この負の連鎖が始まってる。
つまり、戦線の拡大しなきゃいけない、でも広げた戦線を保つことが出来ない・・・・・・ってこと。歪んでるよな。どうにもならないけど。
「それを解決するのが神機兵だ。戦線拡大ではなく、維持のための戦力を期待され開発された。
そして俺たちブラッドが、ゴッドイーターの最前線に立ち指揮を執る。ユウの言う通り、住み分けが行われるんだ。
いずれ、ゴッドイーターとは星の開拓者としてその名の意味を変えることとなるだろう」
そうか、とエミールが静かに呟いた。
防護テントにつるされたランタンを見上げている。
どこか、遠い・・・・・・北極星を見るかのような瞳だった。
「ゴッドイーターの戦いは、ただの戦いではない・・・・・・。この絶望の世に於いて、神機使いは、人々の希望の依り代だ。正義が勝つから民は明日を信じ、正義が負けぬから皆、前を向いて生きていける。
故に僕は・・・・・・騎士は、絶対に倒れるわけにはいかないんだ」
それは戦士の誓いだった。
ギルバートが、口に入れようとしていたスプーンを、しかし咥えられずに皿へと戻した。
噛み締めたのはエミールの言葉。
胸焼けがしそうだ、と吐かれた皮肉は、しかし穏やかに緩む口元で台無しになっていた。
――――――立派だな。
「ああ、立派だ。きっとゴッドイーターのあるべき姿とは、彼のことを言うのだろう」
それがエミールの本心からの言葉であることは、疑いようもない。
ゴッドイーターは、ゴッドイーターの誓いを否定しない。
そこに経験の差、実力の差など存在しない。
ただ、深い憧憬がそこにあった。
「星の開拓者か・・・・・・素晴らしい! そうか、我々ゴッドイーターは須らく目指さねばならんのだな。あの空に燦然と輝く北極星を!」
「うるさいのが玉に瑕だな」
神機兵が正式投入されることになったとしても、中堅以下のゴッドイーターの仕事が無くなるわけもない。遊ばせておける人員などいないのだ。
機械化兵の利点はその数であると言えよう。しかし数の利をアラガミは覆す。ここでエース級GEの力が必要とされるのである。
よって、今後GEの在り方は、“研修期間”を長くとることで人材育成と発掘を同時に行うように変容していくだろう。
現在のGEの教練はお世辞にも満足であるものとは言えない。正味、“インスタント”ソルジャーである。
十二分に教育を施せば、中堅と呼ばれるGEの実力は誰にでも身に付けることが可能なはずだ。GEの秘めるポテンシャルは並々ならぬものがある。
途中で立ち枯れとなったらしいが、ゴッドイーターを育成する学園を各地に建設するという計画もあったらしい。
だが在籍生徒が行方不明となった事件を発端にして、閉鎖されてしまった。
殉職した神機使いを無断で土葬にしていたり、非適合者の適合係数を人為的に跳ね上げる薬が作成されていたり、その副作用が寿命を縮めることであったりと、フェンリル本社の陰謀を臭わせるものであった。
カノンの妹もその学園生であり、ユウの教え子の一人であった。
姉に似ずしっかりとしていて、瞬間記憶という他に類を見ない能力の持ち主だった彼女。
ゴッドイーター候補正としてユウ指導の教練へやって来たのが出会いであった。風の噂では独り立ちし立派にやっているらしい。姉に似ず。
彼女の友人達はコウタの教練へ参加した。極東を離れた今では懐かしい思い出である。
ユウが受け持った生徒が、台場コトミ以外全て死亡したことも。
コトミと共に、スコップでクアドリガのキャタピラに挽肉にされた生徒達を“より分けた”ことも。
――――――でも技術って裏切るんだよね。道具だって大事にしてやらないとすぐそっぽ向くし。安全性はわかんないぞ。
「それについては安心していい。基礎設計から制御機構はレア博士が主導となって開発が進められている。安全性が確保されるまで世には出ないさ」
――――――お前それ、オラクル技術って諸刃の剣っていうか、安全性って言葉の対極にあるようなもんじゃん。
やだよ俺、制御失敗して中の人ミンチになりましたーとか。オラクル技術の先駆けってだいたいぐちょぐちょになるのが定番だし。
安全性確保って、“確保されるまで”はどうなのよ。胎児に因子ぶち込む実験がどうなったか知ってる? 聞きたい?
「いや、食事中はやめておく」
――――――ほら、言わんこっちゃない。無人制御もまた別の博士が研究してるんだっけ。あれもいまいち不安っていうか。大事な場面でしくじるような気がしてならないんだけど。
神機兵前線に連れてったらいきなり暴走し始めて襲い掛かってきたーとか。制御失敗して暴走して野生化してからの新種のアラガミになっちゃいましたーとか。
批判するつもりはないけど、何かあった時に尻拭いするのって、たぶん俺達になるんでしょ? オラクルに絶対なんてないんだし、ちょっとくらいは想定しとかないと。
「オラクル細胞の制御はOSやAIで行われる訳ではないからな・・・・・・物理的な破損が原因で、何か不具合が起きるかもしれない。それも、破滅的な」
――――――そこらへんがレア博士の担当なんでしょ? 聞いたところによると、だいぶ昔から博士の実家が主体になってる研究だとか。
ずっと自分達が推し進めてきた家業だから、とか悲願だから、とかそういうのはさ、油断でしょ。
いや、レア博士の腕を疑うわけじゃないけどさ・・・・・・でも何ていうか、あの人なんか残念な臭いがするっていうか、騙されて知らないうちに神機兵の制御機構、魔改造とかされたりしそうじゃん?
設計段階から“いじりやすく”操作されてたりして。
「大丈夫だ・・・・・・大丈夫、のはずだ。うん・・・・・・」
――――――大丈夫! レア博士の設計だよ! って言える?
「レア博士だからな・・・・・・強く出られたら、折れてしまうかもしれない・・・・・・」
――――――やっぱあの人そんな扱いなのか。悪女系なエロイねーちゃんだと思ってたけど、なんだかなあ。
うなだれるジュリウスに、レア博士のおおよその評価を察したユウであった。
お前の人物評もたいがいじゃないか、とはギルバートは言わなかった。
ゴッドイーターの中では“極東上がり”が一種のステータスとなっている。
一応新人という扱いであっても、そのステータスはある種の畏怖を持ってして受け入れられていた。
地獄を見てきた男、として。
出撃前にギルバートはユウの訓練記録を見たが、あれは誤記とばかり思っていた。
正直なところ、実戦よりもつらいトレーニングメニューだった。
フライアの科学班が面白がって上限を上げ続けたのだろう。それを、ユウは鼻歌混じりにこなしていたとか。
極東人って怖い。
フライアの意識が一つになりつつある。
――――――なー、電子ボードゲームあるんだけど、やる?
「ほう? 何というゲームなんだ?」
「嬉しそうだなジュリウス」
「いや、そんなことは・・・・・・」
「ゲームか・・・・・・このエミール、例えゲームであっても手は抜かん! さあ、かかってくるがいい!」
――――――ドガポンっていうやつ。俺もやったことないんだけどさ、なんでも人生ゲームに似てるとかなんとか。
「人生ゲームか! 僕の得意なゲームだな! ふふふ、いつも気づいたら富豪になっているのだ。これは天運が導いてくれているに違いない!」
「まあ、時間もあるし少しくらいならいいか。おう、ゲーム機貸してくれ」
「はは・・・・・・あ、いや、失敬」
「楽しけりゃ笑ってればいい。気にすることじゃないさ」
「そうか、そうだな・・・・・・そうしよう。良い事が続いているからかな。また新しく隊員が増えるのだと連絡があったんだ」
「ああ、そういえば俺と同時期にもう一人来る予定だったか。アラガミの妨害でインフラが断絶して、到着が遅れていると聞いたが」
「もうすぐ到着するらしい。ラケル博士からは、どんな人員かは着いてからのお楽しみだと、情報をふせられていてな。ああ、こういうのも、いいな。うん、楽しみだ」
「面倒な奴じゃなければいいがな」
「楽しみだ、うん、だめだな、自然と笑ってしまうな。ふふ・・・・・・なあ、ギル、お前も楽しければ笑ってもいいんだぞ」
「ふん・・・・・・お前達の頭が愉快で笑いそうだよ」
――――――よーし、全員電源は入れたなー。それじゃ、ゲームスタートだ!
ゴッドイーター達の夜が更けていく。
――――――テメェーッ! デスコンボやめろっつったろうがこんちきしょんんんん!
「クサマガァ! クサマガムンナオオオオ!」
「貴様何をするだァーッ! 許さんんんん!」
「歯喰いしばれ! 修正してやるぅああああ!」
ゴッドイーター達の夜は、まだこれからだ。
□ ■ □
翌日のことである。
ロミオとナナと合流し、帰還することとなった4人。
帰還準備中、作戦エリア内にデータに無いアラガミと遭遇。交戦する。
巨大な狼を模した新種だった。
体躯はガルム神族に酷似しているが、決定的に異なる点があった。
エミールの神機が突然に停止する。感応波による動作不良・・・・・・感応種との交戦中に頻繁に発生する現象である。
新種のアラガミは、感応種だった。
動きの鈍いエミールを獲物と定めた新種は、狼もかくや、奔る焔のようにして踊りかかる。
あわやエミール死す、と思われた瞬間のことである。
ユウ、血の力――――――覚醒。
ブラッドアーツ、開眼。
ユウのブラッドアーツは新種アラガミの左眼球を抉り抜き、これを撤退させる。
後に『マルドゥーク』と名付けられる、因縁のアラガミとの邂逅であった――――――。
□ ■ □
鏡を見てリボンを付ける時、いつも不思議に思うことがある。
当時の神機兵は現在よりもずっと安全性が確保されていない、危険なものだった。
今でさえ、ゴッドイーターですらその搭乗には命の危険が伴う。
ゴッドイーターでも何でもない子供が、旧型の神機兵に乗るということは、すなわち死を意味するものだった。
最初に、部屋の中には自分を含めて10人の子供達がいた。
その頃の自分はもう笑えなくなっていて、人とどう関わればよいのか、まるで解らぬような有様だった。
有難かったのが、自分以外の子供達もまた、同じようなものであったこと。
お互いに不干渉を貫いていて・・・・・・否、そこにいたたった一人だけが、皆と仲良くなろうと奔走していた。
いつもニコニコとしていて、力なく部屋の隅に座り込む子供達一人一人の手を握りながら、返答がなくとも諦めずに話しかけてきた、あの女の子。
淡い緑のリボンと、フリルが多用された服を好んで着ていた。
一人、また一人と子供たちが部屋から消えていく度に、彼女だけがその大きな瞳一杯に涙を浮かべていた。
彼女とてわかっていたのだろう。消えていってしまった彼等が、二度とこの部屋に戻ってくることはないのだと。
部屋に待機を命じられた子供達も、ただ待ち時間を過ごすだけではなかった。
身体が欠損するレベルの軍事訓練をそこで全員に施されていた。訓練だけで数人が死亡した程の過酷さだった。
彼女が一番才能があったのだろう。目立った負傷もなく、その他の子供たちに気配りをするほどの余裕があり・・・・・・だから神機兵の搭乗者として選ばれてしまったのだろうか。
自分は情けないことに、初期段階の訓練でドロップアウト。ベッドの上で治療を受け、訓練で失敗し負傷するの繰り返しを続けていた。“テスト”用としては妥当な人選であったと言える。
おそらく、あの部屋に集められた子供達のほとんどが本命ではなかったのだろう。
子供の数が半分を切ったあたりから捨て置かれていたのは、幸運であったか、不運であったか。
最後は自分一人になってしまった。
彼女が廃棄されるはずだった自分をかばい、部屋に留めてくれていたことを知ったのは、ずっと後のことだった。
神機兵のテスト搭乗は、最後とするよう、交渉をしていたことも。
なぜ彼女は、こんな何も価値の無い自分を、生かそうとしてくれたのだろうか。
あの子の名前を、顔を、声を、手の暖かさをもう、忘れてしまった程の恩知らずだというのに。
ああ、でも、あの子はずっと笑っていた、という、記号だけが頭にこびりついて離れない。
「本日付けで極地化技術開発局所属となりました、『シエル・アランソン』と申します」
何も感じない。
何も、もう何も、感じない――――――。
「ジュリウス隊長と同じく、児童養護施設マグノリア=コンパスにて、ラケル先生の薫陶を賜りました。
基本戦闘術に特化した訓練を受けてまいりましたので、今後は戦術戦略の研究に勤しみたいと思います――――――以上です」
なぜあの子は、明日神機兵に乗せられて死ぬとわかっていながら、笑みを絶やすことがなかったのか。
□ ■ □
――――――暑苦しい奴が極東に帰ったと思ったら、今度はツンドラがやってきましたよ、と。
それにしてもでかいな・・・・・・あーでも手をだしちゃったらなー、16歳だしなー、犯罪だよなー。その歳であの胸部装甲、うん、ムーブメント。
「ユウ」
――――――なんだよ、ジュリウス。
「シエルだった」
――――――はあ? ああ、同じマグノリアなんとか出身だっけ。なに、面識あるの?
「頼みがある」
――――――は、はあ? ちょっ、何、その手は・・・・・・やめろ肩から手を離せェ!
「副隊長、やってくれるな?」
――――――嫌だし! なんなん!?
「俺はもう、限界かもしれない」
――――――俺の方が限界だわこの野郎! これ以上はロミオがやばい・・・・・・あ、ちょっ、待てこらジュリウスゥウウウウウ!
設定つめつめ。
お、おかしい。
ナナとかシエルとかフランとかで野郎共そっちのけでイチャコラハーレムさせるつもりが
気づいたら野郎共が夜中イチャコラしてる場面ばかり書いていた。
な、なにを言っているかわからねーと思うがry
あんまり長くなりすぎたので、ドラム缶風呂とかで自分達の神機で競い合ったりしてるシーンはカットしたりしてます。
僕のポーラシュターンは二つある!とかさせなくてよかった・・・・・・。
いやでもゲーム本編でサバイバルとか特務ばっかりやってると、女の子達は当然としてですが、男キャラが可愛く思えてくるのはなんででしょうか。
RBで一番よかった所は、これはもう、サバイバルミッション中の休憩シーンでしょう。
間違いない。
あれだけでGERBは神ゲー認定です。すべての価値が上がっている。
なんかみんなでほのぼのしてるシーンや遊んだりしてるシーン見ると、こう、なんでかな。じわっときて泣けてくる。
台場妹ちらっとだけ登場。モバイル版のネタ拾いなので、もう出てきません。
ゴッドイーターモバイルって覚えてる人いるんだろうか・・・。
モバイル版に話の中で触れられて満足です。やったぜ!
あれ、そういえば今回の投稿、地味に過去最長の文量なんじゃ・・・。
よ、よみづらい・・・。
次回は半分くらいに収まるように工夫してみます。それでは!
※
うちのギルはヴァジュラ系列相手だと速攻でリンクエイド待ちになります。
高難易度だと1戦で2~5回は普通・・・・・・なぜだし・・・・・・。
※
活動報告追加は後日にて