うさぎ帝国   作:羽毛布団

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お、お待たせして申し訳ないです……!
それだけ時間を掛けておきながら、この文字数。もうちょっとなんとかならなかったのか、と自分でもつくづく思います。できればこれ以上ペースを落としたくないですね。

さて、今回は原作主要キャラ四人が揃います……僕の一押しマヤちゃんはどこですか?
……じょ、冗談はさておき。そろそろオリジナルの話も考え始めなければいけませんかね。シャロちゃんが本筋に加わり次第、一考してみようかと思います。

前置きはこの辺にて。では、第七話どうぞ。


※少し修正しました。


うさぎとパンと、ときどき和菓子

「あれ? 今日から学校?」

「そうだよー!」

 

 ココアちゃんがラビットハウスに下宿を開始して一日が過ぎた早朝。

 開店準備に勤しんでいると、ココアちゃんとチノちゃんが見慣れない制服姿で現れた。どうやら、新学期が訪れたらしい。

 

「上白くんは行かないの?」

「あー、ちょっとワケありでね。今は登校してないんだ」

 

 学校の事を聞かれるのも今日で三回目。そろそろ投げやりな回答になってきたが、果たしてこれで誤魔化し通せるか?

 

「へー、そうなんだ」

 

 不思議そうに唸るココアちゃんだが、不審感は持たれなかったようだ。細かい事を気にしない性格なのか、それとも単なるアホの子なのか。彼女の名誉の為にも前者だと信じたい。

 

「それより聞いてよ上白くんっ! チノちゃんったら、今日は頭の上にティッピー乗せてなかったんだよ!? 由々しき事態だと思わない?」

「あ、あはは……僕にはなんとも……」

 

 これはやっぱり後者かもしれない。

 

「遅刻しますよココアさん」

「あ、待ってー!」

 

 そそくさとラビットハウスを出るチノちゃんと、それを追いかけるココアちゃん。それを眺めていると、突如として寂寥感が僕を襲った。

 

 ──共に登校し、休日には遊びに出掛け、暇な時にはメールのやり取りを繰り返す。そんな友達が、少なからず僕にだって居たのだ。

 彼らは今どうしているだろうか? 突然消え去った僕の事を、もしかしたら憂慮してくれているのかもしれない。そう考えると心苦しく、同時に少々嬉しくも感じた。

 

「……浮かない顔だね」

 

 いつからそこに現れたのか、隣でタカヒロさんが娘とその友達に手を振っていた。見れば、笑顔で元気に手を振り回しているココアちゃんと、控え目ではあるがしっかりと手を振るチノちゃんの姿。少し小さめに、でも確実に見えるよう僕も手を振った。

 

「思春期ですからね。多少気落ちすることもありますよ」

「学校に行きたいと、そうは言わないんだね」

「……やっぱり知ってたんですね。リゼから?」

「いいや、彼女の父親に伝手があってね。少々小耳に挟んだだけさ」

 

 無駄に男前なスマイルを浮かべるタカヒロさん。強引に僕を宿泊させたり、身元不明にも関わらず就労を許したりと不自然な箇所が幾つも見受けられたが、実は元から事情を知っていた、というわけだ。

 僕は自嘲の混じった、曖昧な笑いを浮かべた。

 

「……未練がましいってのは、解っているんですけどね」

「そう思う事に罪は無いさ」

「そうですかね……すいません、なんか愚痴みたいになっちゃって」

「子供の不満を受け止めるのも、大人の務めだよ」

 

 タカヒロさんは優しく微笑むと、店の扉を開けて言った。

 

「さて、開店まで少し時間があるね。コーヒーでもご馳走しよう」

「あはは、怒られますよ?」

 

 言葉ではそう言いつつも、僕はカウンター席の一つを陣取った。向かいでは、タカヒロさんがコーヒーを挽いており、独特の匂いが鼻腔を刺激する。

 

 ほんの少しだけ、父親が恋しくなった春の出来事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりココアちゃん。チノちゃん。学校はどうだった?」

「お願い、聞かないでっ!」

「……ココアさん、始業式の日を間違えたそうです」

「……」

 

 そして、ココアちゃんは存外ドジっ子だった。

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

「パンを作ろうよっ」

 

 明くる日の昼間。丁度学校から下校したてのココアちゃんの口から、そんな発言が飛び出した。

 

「どうしたんだろう、いきなり」

「さあ……学校で何かあったのか無かったのか」

「ココアさんの奇天烈ぶりは、今に始まったことじゃありませんよ」

 

 そういうチノちゃんの毒舌は今日も冴えているようだ。

 

「で? どうしてパンなんだ?」

 

 代表してリゼが問うと、ココアちゃんは得意げに鼻を鳴らして言った。

 

「ふふん! 実は私の実家はベーカリーをやってたんだ!」

「ほう。それで?」

「焼きたくなったから焼いていい?」

「放火魔か!?」

 

 うん、リゼの突っ込みも健在だ。本日も異常なしである。

 

「まあ、大きいオーブンならありますよ。昔おじいちゃんが調子乗って買ったやつが」

 

 どうしてだろうか。頭上のティッピーの威圧感が増した気がする。

 

「それなら、みんなで作ろうよっ。焼き立てのパンを看板メニューにして出せばきっとお客さんも喜んでくれるよ!」

「ふうん。ま、いいんじゃないか?」

 

 リゼは賛同したようだ。隣のチノちゃんはティッピーと相談している。

 

「パンを売る喫茶店も悪くないんじゃないかな? コーヒーと一緒に出せば客受けも悪くなさそうだよ」

「……そうですね。まずはやってみましょう」

 

 僕が意見を述べると、ようやくチノちゃんも納得してくれた。それを受け、飛び跳ねて喜びを表現するココアちゃん。よっぽどパン作りがしたかったのか。

 

「それじゃあ、早速準備しましょう」

 

 

 

 

 

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「お友達を連れてきたよっ」

 

 買い物をココアちゃんに任せ、一度荷物を取りに行って以降はラビットハウスで待機していた僕たち三人。帰宅したココアちゃんの背後には、黒髪長髪の純和風な雰囲気を纏った女の子──。

 

「って、千夜ちゃん?」

「あら? もしかして、上白君?」

 

 ココアちゃんと同伴していたのは喫茶《甘兎庵》の看板娘にして、この街へ住み着いてから実質二人目の知り合い、千夜ちゃんだった。

 

「あれ? 上白くんと千夜ちゃん、知り合い?」

「私も彼のサーカスのファンなのよ」

「毎度ご贔屓にどうも」

 

 この面子の中では、千夜ちゃんが最も頻繁にサーカスを見に来てくれている。言わば常連様だ。

 リゼもしばしば足を運んでくれるが、千夜ちゃん程ではない。

 ……ぶっちゃけ、そんなに長時間店を空けていていいものか非常に不安なのだが。

 

「いいな〜! 私もサーカス見てみたい! ねえ、今からやらない?」

「パンはどうした、パンは」

「いいから着替えてきて下さい」

 

 リゼとチノちゃんの冷たい視線に晒され、ぶーたれながらも更衣室へ向かうココアちゃんと、それを追う千夜ちゃん。チノちゃんをよく妹扱いするココアちゃんだが、傍目には寧ろ彼女の方が妹っぽく見える。

 

「ところで……あいつ、本当にパンの焼き方を知っているんだろうな?」

「「…………」」

 

 急激に増してきた不安感に、沈黙する僕たち三人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では始めましょう」

「「「おー!」」」

 

 チノちゃんの合図で一斉に手を突き上げる皆。ちなみに、ココアちゃんはしっかりパン作りが出来るらしい……杞憂で本当に良かった。

 

「ふふふ、みんな。パン作りを舐めちゃいけないよ! 少しのミスが、完成度を左右する……言わば、これも一つの戦いなんだよっ!」

 

 真剣な顔で叫ぶココアちゃんに、揃って気圧される僕とチノちゃん。千夜ちゃんは真に受けたようで、顔つきが変わった。

 そして、リゼは──。

 

「今日はお前に教官を託す! よろしく頼むぞ!」

 

 あ、ダメなスイッチが入った。

 

「わ、私も仲間に……!」

「千夜ちゃん、無理しなくていいよ」

「暑苦しいです」

「「うっ」」

 

 チノちゃんの言葉がクリーンヒットし、二人の暴走が止まった。

 

「気迫が違うわ……! これがラビットハウスの力なの……!? 私も負けてられないわ!」

 

 千夜ちゃんの方もスイッチが入った(入れて良かったのかは定かでない)ようだ。

 

「それじゃあ、各自パンに入れたい材料を提出してー!」

 

 いち早く復活したココアちゃんの指示に従い、僕らはそれぞれ用意しておいたものを並べる。

 

「私は焼きそばパンならぬ、焼きうどんパンを作るよっ」

「自家製のあずきと梅、海苔を持ってきたのだけれど、どうかしら?」

「冷蔵庫にいくら、鮭、納豆とごま昆布があったので持ってきました」

「……イチゴジャムとマーマレードを持ってきた私がおかしいのか?」

 

 リゼは決して間違ってないと思う。

 

「上白くんは何を持ってきたの?」

 

 ココアちゃんに聞かれ、僕は鞄の中からいそいそとソレを取り出し、公開する。

 

 ──そう、うさぎ用ペットフードを。

 

「「「「………………」」」」

「あ、間違えた」

 

 ペットフードを仕舞い、今度は袋に入った色とりどりの野菜を持ち上げる。途端、皆に伝播する安堵の表情。

 

「……お前のことだから、本気でペットフードを入れるのかと思ったぞ」

 

 失礼な。ちょっとボケただけじゃないか。

 

 

「気を取り直して、じゃん! 今日はドライイーストを使うよ!」

 

 ココアちゃんが掲げるのは、ドライイーストと呼ばれる酵母菌の一種だ。それなりに有名なので、パン作りに携わった事が無くとも、誰もが一度は耳にしているだろう。

 

「ドライイースト!? 食べて大丈夫なんですか!?」

 

 訂正。誰もが耳にしているわけじゃないみたいだ。

 

「チノちゃん。ドライイーストは酵母菌だから小麦で作るふっくらしたパンには必須な材料だよ」

「あー! それ私が言いたかったのに!」

「ええー……」

 

 頬を膨らませるココアちゃん。その怒りは理不尽じゃなかろうか。

 

「こ、攻歩菌……!」

 

 ブツブツと何やら呟いているチノちゃん。兎も角、これでチノちゃんの誤解も解けただろう。僕は彼女の様子を窺った。

 

「そんな危険な菌を入れるならパサパサのパンで我慢します!」

 

 …………あれ?

 

 

 

 

 

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「「ぜぇ……ぜぇ……」」

「大丈夫、二人とも?」

 

 パンをこね続け、20分程経過。流石に堪えたようで、チノちゃんと千夜ちゃんは突っ伏している。

 ココアちゃんは慣れているのか、疲弊した様子は見受けられない。成る程、パン屋の娘と豪語するだけのことはある。

 ……リゼ?怪力だし大丈夫だろうきっと。

 

「おっと手が滑ったぁ!」

「うわああああっ!?」

 

 瞬間、僕の頭部に向かって棍棒が飛来してきた。咄嗟の判断で首を捻り、間一髪危機を免れる。

 恐る恐る見回すと、投擲モーションを終えたリゼが僕を睨んでいた。

 

「すまない、手からすっぽ抜けた。あたらなくて良かったな……チッ」

「したよね!? 今舌打ちしたよねぇ!?」

 

 今のは確実に殺りにきていた……今後邪念は控えるようにしよう。

 

「ご、ゴホン……リゼはどんな形にするの?」

「わ、私か?」

 

 誤魔化すように話題を変えると、何故か今度はリゼが動揺し始める。

 丁度その時、リゼの背後で様子を見ていた千夜ちゃんが声を上げた。

 

「あら、リゼちゃんはうさぎの形かしら?」

 

 ──発言が耳朶を打ったその瞬間、僕はリゼの肩をがっしり掴んでいた。

 

「流石だ我が盟友よ!」

「誰が盟友か!」

 

 スパンッ、と頭を叩かれた。ちなみに僕のパンも当然うさぎである。

 よろめきながら後退すると、なにやら興味深いものが目に入る。チノちゃんの前に置いてあるし、彼女の作品だろうか。

 

「チノちゃん、これは何?」

 

 ココアちゃんも同じものに目を付けたようで、チノちゃんに質問している。

 

「おじいちゃんです」

 

 ……成る程。僕は改めて奇妙な形に整えられたソレを見つめる。確かに人の形に見えなくもない。

 

「小さい頃、おじいちゃんにはよく遊んでもらっていたので……」

「おじいちゃん子だったのね」

 

 千夜ちゃんが微笑ましそうに呟く。チノちゃんは誇らしげな様子で続けた。

 

「コーヒーを淹れるおじいちゃんの姿は今でも尊敬しています」

 

 ほんわかとした雰囲気が場を包む。何故か頭上のティッピーが赤くなっているのだが、今更突っ込むまい。おじいちゃんが憑依してる、なんてオチじゃないだろうな。

 

「それじゃあ、そろそろオーブンに入れるよー!」

 

 ココアちゃんの元気な声が響き渡る。どうやら準備が整ったようだ。

 

「では……」

 

 すると、既にオーブンの近くに立っていたチノちゃんが妙に真剣な表情で言い放った。

 

「今からおじいちゃんを焼きます」

「いきなり猟奇的になったぞ!?」

 

 僕もその言い方はどうかと思う。

 

 

 

 

 

 

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「みんなーっ。パンが焼けたよー!」

 

 作業をベテランのココアちゃんに任せて少々寛いでいた僕たちの元へ、たった今焼き上がりの報せが届いた。

 

「おー、結構いい出来じゃん」

「なかなかいいんじゃないか?」

「どれも美味しそうねー」

「おじいちゃんもしっかり焼けてます」

 

 最後で台無しである。

 

「早速みんなで食べようよ!」

「焼き立てだから、火傷しないようにな」

「わかったよお母さん」

「お母さん言うなっ!!」

 

 いや、リゼは十分お母さんしていると思う。世話焼きなところとか。

 

「それじゃ、いただきます」

 

 僕が作ったうさぎパンを一つ手に取る。デフォルメしてあっても流石はうさぎ、その愛らしさは一片たりとも変化していない……!

 

「なんか食べるのが惜しくなってきたんだけど」

「いいから食え」

 

 お母……リゼに怒られた。仕方ないので、耳の部分を口に運び、咀嚼する。

 

「──うん、もっちりしておいしい」

 

 焼き立てという点もそうだが、自らの手で作り上げたという達成感がパンの味をより美味なものへと昇華させてくれているのだろう。

 皆も概ね満足しているようで、美味しそうに頬張っている。これなら、当初の目的であるメニュー入りも実現しそうだ。

 

「おいしいね! この焼きうどんパン!」

「あら、おいしいわね。この梅干しパン」

「イクラパンも結構いけます」

 

 やっぱり駄目かもしれない。

 

「おい、そんな食欲をそそらないラインナップで一体どうするんだ?」

「ふっふっふ……!」

 

 常識人(ツッコミ役)のリゼの問いかけに、ココアちゃんは不敵に笑った。

 おもむろに席を立つと、再び厨房へ歩いていくココアちゃん。数分もしないうちに戻ってきた彼女の手には、銀色のトレイ。その上に鎮座しているのは──。

 

「じゃーん! ティッピーパン作ってみたんだ!」

「よくやったココアちゃん超グッジョブッ!!!」

「上白くん……私は当然の事をやったまでだよ!」

「先生……! いや、師匠と呼ばせて下さいっ!」

 

 ガッチリと握手を交わす僕とココアちゃん。リゼが白い目で僕を見ているが、知ったこっちゃない。

 

「わ、私も師事してみようかしらっ」

「やめとけ千夜。感染するぞ」

 

 感染ってなんだ、感染って。

 

「ティッピーパン、すごくよく出来てます……!」

「みんな食べてみてよ!おいしく出来てるといいんだけど」

 

 ココアちゃんの勧めに従い、それぞれティッピーパンに手を伸ばす僕たち。一口齧れば、ふんわりとした甘さともちもちとした歯応えが口の中に広がった。

 

「おいしいわ! ココアちゃんにこんな才能があったなんて」

「……意外です」

 

 千夜ちゃんに続き、チノちゃんまで素直に賞賛した。確かに美味い。パン屋のオススメ品で出されても全く違和感がない程の出来だ。

 

「中は真っ赤なイチゴジャムね!」

 

 ……血の色みたいだと思ったが、敢えて口に出すのはやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 後日、ティッピーパンはラビットハウスのメニューに加えられることが決定した。当の本人であるティッピーは、なんとも言えない表情していた。

 




リゼちゃんはお母さん(確信)

読了有難うございます。原作のどこを残してどこを飛ばすか、結構悩みました。結局ラテアートはやりませんでしたね。ですが、いつかまた本編で触れたいと思います。
あ、今更ですけど、この小説は原作(又はアニメ)読破推奨です。なるべく初見でも読めるように努力はしますが、矢張り私の腕が未熟なせいで、どうにも原作を知らなければ解せない流れが出てきます。未読破の方には大変申し訳ございません。

では今回の後書きはこの辺りで。また次回お会いいたしましょう。

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