うさぎ帝国   作:羽毛布団

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初投稿となります。初の二次創作になぜこの原作を選んだのか、よくわかりません。
まだまだ登場キャラが少ない為、地の文が多めとなっており、少々読み辛いかもしれないです。

誤字脱字報告はしてもらえると、とてもありがたいです。文法的におかしい部分や、間違った知識をそのまま載せてしまった場合の指摘もして頂けるなら幸いです。


目を覚ますと、そこは天国だった

 頬を撫でるそよ風に目を覚ますと、そこは見知らぬ公園だった。

 

「……あれ?」

 

 自分は確かに自室の布団で眠りに落ちた筈で、ならば目を開けた時に見る景色は、見慣れた天井以外に無い筈だ。

 しかし現実は、見覚えのない場所の、見覚えのないベンチの上で横になって、目線の先には青空が広がっている。夢か、とも考えたが、暖かい陽射しも、肌を撫でる風の質感も、硬いベンチで寝たことが原因であろう全身の痛みも、決して偽物と断言することのできないリアルなものだった。

 ならば自分は人為的にこの場所へ連れて来られたわけになるが、動機も方法も、ましてや犯人の見当もつかない。

 

「どうしよう……」

 

 思わず弱音が漏れる。就寝中のため勿論携帯なんて持ってないし、家の場所もてんでわからない。起き上がってよく周りを見渡せば西洋風の建築物が並んでおり、もはや日本かどうかすら怪しくなってきた。

 まあしかし、いつまでも座ってばかりはいられない。交番さえ見つかれば、家族ともどうにか連絡ができるかもしれない、と自分を鼓舞しつつ、僕は歩き出そうとして──気付く。

 

「僕、裸足じゃないか……」

 

 砂地に素足は、当然ながら痛かった。

 

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 数時間ほどこの辺りを歩き回って、気が付いたことがある。

 一つは、街並みはまるっきり海外のソレであるが、日本語が多用されていたためここが恐らく日本であること。二つ目に、ここが全く聞き覚えのない街であること。三つ目は、日本人らしからぬ髪の色をした人達が街中を闊歩していたこと。聞いてみたところ、染めたわけではないらしい。

 そして、四つ目。

 

「嗚呼、癒されるなぁー」

 

 それは、大量のうさぎが生息していること!

 まるでうさぎ好きの為に存在するかのようなパラダイス(天国)。他の動物も悪くはないが、矢張りうさぎは別格である。クリッとした目、ふさふさの耳、丸く可愛い尻尾、野菜を食むその仕草に至るまで、まさに自然界から舞い降りた天使そのもの──!

 ……現実逃避気味に計10匹のうさぎ(エンジェル)達と戯れながら、僕は再び公園のベンチに戻っていた。

 情報収集の結果得られた結論。それは、ここが日本に近しいどこかではあるが、決して日本とは限らない、という頭を抱えたくなるものだった。

 だって、ここはどこの県ですか? って聞いているのに、誰もが「ここは○○という街だよ」としか答えてくれないし、○○の部分は何故か聞き取れないし、交番はあったが住所と電話番号を検索して貰っても何も見つからなかったし、段々西洋なのか東洋なのか解らなくなってくるし、うさぎは一杯だし可愛いし……あれ、最高じゃね? もううさぎがいれば良くね?

 

「もしかして、天国とかなのかなぁ……」

 

 半ば本気でそう思いはじめてきた。うさぎで一杯な天国とはよく理解できないが、無類のウサギ好きである僕の為に用意されたとかなら割と納得できる。神様曰く一生もふもふしてろということか。ありがとうございます。

 兎も角、これからどうするかを考えねばならない。帰還はそれなりに絶望的、所持金はいざという時の為に御守りの中にねじ込んでおいた五千円。未成年で経歴不明の人間を雇ってくれる筈もない。警察に保護を求めるのは一度頭に浮かんだが、取り止めた。ここのうさぎに会えなくなる可能性がある。自身の今後とうさぎとの素晴らしい生活を天秤にかけた結果、前者を切り捨てたわけだ。客観的に見れば馬鹿だと思う。

 さて、警察に頼れないとなれば、もう僕にとれる選択肢は一つ。

 

「ダンボール生活しかないっ!」

 

 佐藤(さとう) 上白(かみしろ)、男十六歳独身。

 

 ホームレス始めます。

 

 

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

「あぁー……」

 

 ホームレス生活を始めて早三日が過ぎた。もう帰りたい。

 所持していた五千円様は早々に衣類へつぎ込み、余ったお金で野菜を買った。ホームレスの分際で何を言っているのかという感じではあるが、同じ服をずっと着ているのも不衛生だし、なにより滅茶苦茶毛が付着する。換えは用意しておきたい。

 幸い公園には水道が設置してあるし、そう遠くない場所に川や噴水もある。水洗いには困らないだろう。

 

 問題は、金も食料も早速尽きたことだ。

 

 ……野菜を買ったのが間違いだったのか正解だったのか、適当に買った野菜を食べているとうさぎ達が僕に群がり、食べ物を要求し始めた。

 それが予想以上に愛らしく、手持ちの野菜を全て与えてしまい──結果、完食される。

 当然そんなペースではお金も保つ筈なく、二日目には既に一文無しだ。

 そして迎えた三日目。どうにかして路銀を調達せねばならなくなった僕は、今こうして深いため息を漏らしている。

 

 ──だが、なにも失ってばかりではない。逆に得たものも大きかった。

 

 まず、単純に仲良くなったうさぎが増えた。初日は10匹だったのが、三日目には30匹に増えていた。ベンチで昼寝した後目覚め、見知らぬ大量のうさぎが僕に身を寄せて眠っているのを見た時は思わず可愛さの余り叫び出しそうになった。

 そしてもう一つ。ある事実が判明したのだ。

 

 ──どういう理屈か全くわからないが、なんとなくうさぎの気持ちや思考が読めたり、逆に僕の言葉をうさぎたちがある程度理解していたり、互いに意思疎通を図ることが出来るのだ!

 

 これには大いに驚愕し、感動した。なんせ、あの天使たちと会話が可能なのだ! チートってレベルじゃない。神様は僕を殺しに掛かってやがる……!

 さて、そんな素敵能力が発掘されたわけだが、それでも生きる為にはお金が必要だ。なにかいい方法はないだろうか……?

 

 30匹弱のうさぎたちを、頭の上に、膝の上に、肩に、足元に、至る所に侍らせながら思考に耽っていると、僕はうさぎのうちの一匹からこんなお声(僕以外には聞こえない上に多少脚色済み)を頂いた。

『誰かこっちに近づいてるよ、お兄ちゃん』と。

 

 頭の回転を止め、ベンチから辺りをグルリと見回す。

 するとどうだろう。ブレザーを着用し、黒く長い髪をツインテールに纏めた女の子が僕の方へと一直線に向かって来ている。

 女の子は僕が座っているベンチの数メートル前までやって来ると、やや目を見開きながら言った。

 

「……近くまで来ると、改めて凄い数だな。なあ、私も触っていいか?」

「うん、勿論」

 

 僕が答えると、彼女はしゃがんで、足元へ擦り寄ってきたうさぎたちの頭を撫でる。随分絵になる光景だ。

 一頻り撫でられて満足したのか、うさぎは僕の膝の上へ飛び乗ってきた。元から居たうさぎの上に重なって垂れている。超可愛い。

 

「随分懐いているな。よくここには来るのか?」

 

 女の子がベンチの端に座りながら聞いてきた。

 

「いや、三日前に来たばっかりだよ」

「三日前!? それだけでもうこんなに懐いているのか?」

「昔からうさぎには好かれるんだ」

「そうなのか。羨ましいな」

 

 他愛もない話をしながら、僕達はひたすらうさぎを撫でる。最高の贅沢だ。

 ふと横を見ると、女の子が僕の膝を注視している。というか、その上に乗っかかってるうさぎを、だが。

 

「行っておいで」

 

 僕が呟くと、うさぎは僕の膝を離れ、女の子の膝の上へと飛び乗った。羨ましい──勿論女の子が。

 

「うわ、可愛い……!」

 

 女の子は目を輝かせながら、うさぎの背中を撫でた。なんとなく、うさぎが喜んでいるのが僕へも伝わってくる。

 暫くすると、女の子はうさぎを抱き上げ、ベンチの上へと置いた。

 

「そろそろバイトの時間なんだ。今日はありがとう、前来たときはこんなに長く触らせて貰えなかったからさ。十分堪能できたよ」

「それはよかった。この子達も喜んでたよ」

「……うさぎの気持ちが解るのか?」

「なんとなく、だけどね。うさぎたちが何を伝えたいか、わかるんだ」

「本当なのか!?」

「この子達も僕の言葉が漠然とだけど伝わってるようでさ。だからこんなにうさぎが集まってきてるんだよ」

「それは……すごいな」

 

 女の子はポカンと口を開けたままでいたが、やがて真剣な表情へと変化していく。

 

「……なあ。バイト先の子に動物が懐かない奴がいるんだが、お前ならなんとかできるか?」

「動物が懐かない、かぁ」

 

 ……まるで僕の対極に位置するような体質である。そんなものを持って生まれてしまったのなら、さぞかし悲しい思いをしただろう。目の前でうさぎに避けられるなんて、僕なら想像しただけで死にそうだ。

 

「うーん、原因がわからないからなんとも言えないけどさ、僕の近くならこの子達もだいぶ人懐こくなるし、大丈夫じゃないかな。もしダメなら僕からこの子達を説得してみるよ」

「……説得って、そんなことまでできるのか?」

「……多分ね」

 

 多大な犠牲(野菜)が必要になるかもしれないけど。

 

「そうか、ありがとう」

「今度一緒に連れてきなよ。野菜も用意してくれると嬉しいな、僕が」

「おいおい、食べるのはうさぎたちだろう?」

 

 ごめんなさい、僕もちょっと食べると思います。

 

「じゃあ、そろそろ行くよ……おっと忘れていた、名前はなんて言うんだ?」

「僕? 佐藤 上白だよ。どっちも苗字みたいだけど、上白が名前だからね」

「佐藤か。私は天々座 リゼだ。天々座は言いづらいだろうから、リゼでいいぞ」

「そう? じゃあ僕も上白でいいよ」

「わかった。また会いに行くよ、上白」

「またね、リゼ」

 

 女の子──リゼは手を振りながら、街の奥へと消えていった。

 

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

 日も落ちて、辺りは深い闇に包まれている。ベンチに横になりながら、僕はリゼとの会話を思い返していた。

 

「すごい、ねえ……」

 

 うさぎと意思疎通ができると知った彼女の言葉は、それだった。改めて思い返せば、確かにすごい。もし他のある一人だけがその力を持っていたなら、僕は死ぬほど羨んでいただろう。

 思考する。この力をどう使えば、今後生きていけるかを。

 

「僕にしかない力で、僕が出来ること……そうだ!」

 

 僕自身は一人だし、出来ることは大したものじゃない。

 だけど、僕にはうさぎたち(・・・・・)がついている。この子たちにも協力して貰えば、お小遣い程度は稼げるかもしれない。

 だが、これには仕込みが必要だ。僕もそうだが、うさぎたちにも練習が必要になる。まあ、ご褒美に野菜が買えるとわかればやる気になってくれるだろうから大丈夫だろう。食い尽くされないかだけが心配だ。

 

「……おやすみ」

 

 寄り添ってくるうさぎたちの体温を感じながら、僕は眠りについた。

 

 

 

 

 

 




読了ありがとうございます!

文字数が少な目かな?と感じたので、できればもっと沢山詰め込んでみたいと思います。7000字くらいにしたいですね。

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