「よし、午前中のノルマは達成だな」
今日は電は遠征で出かけていていない。
背伸びしながら何気なく外を見る。
海を見ながら堤防に腰かけている少女の姿が見えた。
「アイツ・・・またか」
メビウスの隊長だ。
オメガが落ちてからずっとあの調子だな・・・
「どれ、ちょっくら行ってくるか」
俺も昔は隊長機だった。
仲間が落ちる気持ちは痛いほどわかる。
司令部を抜けて、隊長の元に向かう。
ちなみに非番時の妖精は人間と同じサイズになっている。
「よ、隊長」
「・・・司令官」
「オメガの事か」
「・・・・・」
目の下にはクマが出来ていて完全に憔悴しきっている。
「お前、最近寝てないだろ」
「関係ないよ・・・」
「そりゃお前が寝ようが寝まいが俺には関係ないけどな・・・」
「じゃあ何・・・気休めみたいな慰めならよしてよ!」
突然怒鳴る。
相当精神的に来てるな。
「なぁ、俺が元パイロットだったの知ってるか?」
「知ってるけど・・・」
「じゃあ、俺がお前と同じ名前の隊にいたことは?」
「知ってる・・・」
「じゃあ・・・僚機をもう2人失ってるのは?」
「・・・・」
まぁ、誰にも話してないし知らんわな。
知ってるのはケストレル、アンドロメダくらいか。
「あれは・・・ベルカ戦争の時だったか・・・やっと戦争に終止符を打てそうな時だったよ。俺は二機編隊で飛んでたんだ」
メビウスは黙って聞いている。
つーかよく考えたら俺、コイツの名前知らねーや・・・
「めちゃくちゃな任務だったよ、ダムに飛び込んでミサイルの制御装置ぶっ壊して来いって・・・んで、そん時の僚機はなんて言ったと思う?」
「・・・なんて言ったの・・・?」
「俺のファルコンならちっさいから余裕だ!ってな」
「それで・・・落ちちゃった・・・?」
「いや、まぁ見事にダムに飛び込んで制御装置をぶっ壊したよ」
「じゃあ、なんで・・・落ちちゃったの?その人は・・・」
「ダムを飛びぬけて上空に上がった時さ。まぁ・・・彼女が待ってるだとか何とか言ってたら目の前からレ-ザ-が飛んできてな」
「レ、レ-ザ-・・・?」
予想外の攻撃方法にメビウスは目を丸くしていた。
そりゃ・・・ふつうレ-ザ-なんか飛んできませんわな・・・
「そのレ-ザ-は俺を狙ってた。だけど・・・そいつは急旋回で俺の目の前に出てきて盾になったんだ」
「・・・オメガも・・・」
「ああ・・・アイツと一緒だよ」
仲間を護るために自らを犠牲にした。
PJもそうだったな・・・
「しかし・・・その僚機を撃ったのは俺の元相棒・・・ひどく混乱したよ」
「なんでその相棒は敵になったの・・・?」
「国境がどうたらって言ってたな・・・まぁ・・・今となっては国境なんてもう意味のない線だが」
今は深海棲艦の影響で大抵の国家は孤立してしまっている。
艦娘や深海棲艦に対抗できる物を持っているなら別だが・・・
「ねぇ・・・もう一人は・・・どうして落ちたの・・・?」
「ああ・・・アイツの時は・・・お前と同じ状態になったなぁ・・・」
「え?」
「今度は環太平洋戦争の時だ。オ-シアのスタジアム上空で展示飛行をしてた」
あの戦争が・・・今思えば一番クソッタレだったな・・・
「そしたら、いきなり敵機が襲撃してきて上空は大騒ぎさ」
「なんで敵はスタジアムを?」
「そりゃ、そこに副大統領が居たからさ」
「大統領は?」
「それの話はあとで出てくるよ。そんで俺の僚機・・・TACネーム「チョッパー」ってヤツが被弾したんだ」
「チョッパ-・・・」
「おしゃべりなロックロ-ルオタクでさ、いつも俺の部屋に来てはロックンロ-ル祭だったよ」
「にぎやかだね」
「いや・・・にぎやかって騒ぎじゃかったけどな・・・」
何回壁ドンされたか・・・
「んで、被弾したんだけど損傷は大したことなかったんだ。でも安全のため離脱が必要だった」
「その時味方は来なかったの?」
「来たよ・・・すべてが終わった後だったけど・・・」
8492・・・
「それで味方を呼んだ。だけど・・・あいつ等演習だって言って撤退しやがった」
「え?でもレ-ダ-で・・・」
「ああ、見えてたよ。だけど増援って言うのがな・・・」
「増援が?」
「まぁ、続きだ。それでチョッパ-の損傷が時間がたつごとに酷くなっていった。ベイルアウトが必要になったんだ」
「脱出できなかった・・・?」
「いや・・・しなかった」
「しなかった?」
「アイツは機体を落とせる場所がないか探していた。一般市民の頭の上に戦闘機を落とすわけにもいかないからな・・・それで・・・スタジアムを見つけた」
「そのスタジアムに・・・」
「ああ・・・じゃあ脱出しようって話なった時には遅かった・・・電気系統の破損で射出座席が反応しなかったんだ」
「・・・・」
「着水って手もあった。緊急着陸だってできただろうに・・・だけど、もし爆発を起こせば罪のない市民が死ぬ。チョッパ-はそう考えて最小限の犠牲で済ませようとしたんだ」
「それで・・・落ちたの・・・?」
「そうだ、まっすぐスタジアムに降下して・・・ど真ん中に機体を落とした・・・自分も一緒に・・・あの日の空中管制指揮官の声が耳に残ってるよ」
「なんて・・・言ってたの?」
「普段は石頭のつまらないヤツがさ・・・諦めるなチョッパ-!頑張るんだ、チョッパ-!!って叫んでた。普段はTACネームなんて言わなかったのに」
そのあとのアイツの声だって・・・忘れたことがない。
いや、忘れるなんてできない。
「それで・・・アイツは「へへっ・・・いい声だぜ・・・」って最期の言葉を残して・・・落ちた」
「オメガも・・・」
「ん?」
「オメガもそう言ってた・・・私の事・・・いい声って言って・・・ごめんなさいって・・・」
メビウスは泣き出す。
「司令官・・・私どうすればいいの・・・?もう飛べないよ・・・」
「・・・割り切るしかない」
「割り切る!?仲間を!?やだよ!そんなの・・・やだよ・・・!」
「俺はこう考えたんだ。アイツのおかげで10人・・・いや100人・・・いや1000人・・・それ以上の人命が救われたんだって」
「オメガは・・・」
「アイツは空母を最期に撃沈した。その空母がどこを攻撃するかなんて分からない。だがそいつはもしかすると、首都を空爆したかも知れない。名前も分からない町を襲ったかも知れない。お前たちを襲ったかも知れない。でもそれをオメガが阻止した」
「・・・あの子・・・無駄死になんかじゃない・・・?」
「あたりまえだ。まぁ・・・人が死んでいて・・・こんなこと言うのも何だが・・・アイツの事を誇りに思え。アイツのおかげで何千いや、何万の人命が救われたんだって」
「でも・・・」
「どういっても、どう思っても帰ってこないんだ」
「そんな事・・・言ったって・・・」
「じゃあお前がもしその調子で飛んで落されたらオメガはどう思う?アイツはお前に生きて欲しくて助けたんだ、それを忘れたらダメだ」
「・・・オメガ・・・」
「何も忘れろってわけじゃない、アイツの事を隊の誇りだって思ってやれ」
「うん・・・分かった・・・」
「どうだ、少し元気出たか?」
「何とかね・・・もうちょっとかかるけど・・・」
「そりゃ、すぐに治るわけないさ、まぁゆっくり休んでアイツとの思い出を心に刻んとくんだぞ」
「うん・・・分かった・・・ありがと・・・司令官!」
「ああ、さて・・・俺も昼飯食いに行くかな・・・」
気付けば一時間くらい話してたな。
今日は電の手料理食えないし・・・
司令室にまだ缶飯があったしそれでもいいか。
「あと仕事何残ってたっけな・・・」
考えたくもない・・・
そんな事思いながら司令室へと戻った。
今回はまぁまぁだと思・・・う!
そんな事は置いといて、エスコン5を久々にプレイして泣いた俺氏でござる。