横須賀鎮守府の日常   作:イーグルアイ提督

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NO RYO 肝試し

あの空襲から一週間が経った。

鎮守府もある程度復興が進み、航空機の離発着と補給は問題ない。

ただ東京では死傷者が3000人以上、行方不明者が2000人以上だった。

羽田空港は第一滑走路とターミナルビルの一部を破壊され今は閉鎖されている。

 

「グレ-スメリア・・・か」

 

「どうしたのです?」

 

「いや、ここが今深海棲艦の巣になってるのはしってるだろ?」

 

「はい、知ってるのです」

 

「ん~・・・いつになるやら・・・」

 

「そんなに難しい作戦になるのです?」

 

「まぁ・・・難しいっちゃ難しいんだが・・・道中がな」

 

「道中?」

 

俺は海図を見ながら悩む。

グレ-スメリアまでの道には巨大な海中山脈の上を通る事になる。

山脈自体は海面下で100m以上余裕があるが、その海域が厄介だ。

膨大な地下資源のせいで通信障害が多発し、混線はもちろん、レ-ダ-やソナ-がうまく機能しない。

アメリカネバダ州にも同じような地域があり、そこはエリア「B7R」と呼ばれている。

地下に豊富な鉱物資源があり通信障害が多発する地域だ。

この二つの地域は昔から資源を求めて血を流しあった場所だ。

空のB7Rがネバダ州ならここは海のB7Rだ。

深海棲艦としてもここの資源はほしいだろう。

なにせ、鉄やボ-キサイトなどとウランがここには眠っている。

 

「この海域は今はユーク海軍が何とか占領してるんだがな・・・そろそろ深海棲艦に奪われそうなんだ。いる部隊もエ-スクラスだしな」

 

「う~ん・・・迂回はできないのです?」

 

「迂回・・・できないこともないが思いっきり深海棲艦の勢力不明海域に踏み込むことになる」

 

「ということはここしかル-トがないのですか・・・」

 

「そうだな・・・とりあえずまだ動こうにも動けんな・・・」

 

俺は参ったというポ-ズをして椅子に座りなおす。

鎮守府修理のための資金関係の書類のチェックがようやく終わった。

 

「そういやケストレルは?」

 

「えっと・・・確か東京に・・・」

 

「そっか・・・」

 

ケストレルの彼氏も東京に住んでおり、その日は空襲を受けていた。

彼は秋葉原に居り、クラスタ-爆弾の破片で負傷したらしい。

怪我自体は軽いもので今は入院している。

ケストレルはその事を知った瞬間泣きそうになりながら病院に向かっていった。

 

「まぁ・・・大事にならなくてよかった」

 

心底そう思う。

 

「よしっ、書類整理おわり!」

 

「お疲れなのです!」

 

「しっかし今日は暑いな・・・」

 

「そうですね・・・夏は苦手なのです・・・」

 

「ん~・・・」

 

ちょっと早いけど・・・涼しくなる事でもしようかね。

’’肝試し’’をな!!

 

「なぁ電、今鎮守府にはどれだけ残ってる?」

 

「んと・・・私たち第六駆逐隊といそかぜさん、うらかぜさん、ピョ-トルさん、クズネツォフさん・・・あとは・・・マイケルさんなのです!」

 

「あとは全員遠征か・・・あれ、シンファクシは?」

 

「今はユ-クトバニアに帰省しているのです」

 

「・・・帰省って・・・あいつ実家あんの・・・?」

 

「た、たぶん・・・?ところでなにするのです?」

 

「ん?そりゃお楽しみ」

 

「気になるのです・・・」

 

この鎮守府を出て少し行ったところに廃病院と家屋があり近所でも有名な心霊スポットだ。

病院が廃墟になった噂はいっぱいあるが一番有名なのは院長が経営難と借金のせいで発狂し患者や医者を猟銃で次々と殺し、自身も自殺したという話だ。

それを裏付けるように血痕のようなものがあちこちに飛び散っており、薬莢も転がっている。

噂では殺された患者や医者と一緒に散弾銃を持った院長の霊が出るそうだ。

 

「さて・・・みんな集めてみるかな」

 

「ここでいいですか?」

 

「おう、頼めるか?」

 

「お任せなのです!」

 

電が出ていったのを確認して俺は肝試しの用意をする。

とりあえず最上階の院長室に置いたお札をとって何かお菓子を備えていくというものだ。

ドロ-ンでお札を置いていこう。

てか・・・このお札・・・よく見たらアルファベットでOFUDAとか書かれてて効果の程が不安すぎる・・・

あと、銃を持った霊が出る可能性があるとなると一応自衛するものがいる。

二人一組にする予定なのでとりあえず拳銃を一組ずつに配ろう。

そんなこと考えてると指令室にみんなが集まりだす。

 

「いきなり司令室に集まれってどうしたの?」

 

「いや、最近暑いしイベントでもとな」

 

「イベント?」

 

「そうだ、題して・・・第一回NO RYO肝試し大会~」

 

「・・・・」

 

「おい、なぜみんなして黙る。面白いスポットだぞ?ここからすぐのところの廃病院だぞ?」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

なぜかみんなすごい顔して黙り込んでいた。

すると暁が・・・

 

「ゆ、幽霊なんていないのは知ってるけど・・・参加してあげないことないんだからね!」

 

「私は面白そうだから参加するよ」

 

「ボクも!」

 

と暁に続き全員参加すると言ってきた。

電は少し怖がってるようだが・・・

 

「あの・・・司令官さん・・・前の建物の時みたいにはならないですよね・・・?」

 

「あ~・・・大丈夫じゃね・・・?」

 

思い出したくないこと思い出した・・・

そんなわけで準備しているうちに暗くなり、出発する。

目的の建物はすぐだった。

 

「おーし!じゃあみんな最上階にお札おいてくるからそれとってお供えおいて帰ってくること!OK?」

 

「OK!」

 

ドロ-ンを飛ばし、最上階においてくる。

あとは・・・

 

「あ、そうそう、一組ずつに・・・」

 

拳銃をバックから取り出し渡す。

 

「・・・なんで?」

 

「いや、銃持った霊が出るらしいから自衛用」

 

「いやこれ・・・効くの・・・?」

 

「大丈夫じゃね?」

 

とりあえずみんなに拳銃を渡しクジでペアを決める。

俺は運がいいことに電と一緒になれた。

あとは暁、マイケルペア。響、クズネツォフペア。いそかぜ、雷ペア、うらかぜ、ピョ-トルペアだ。

 

「おーし!じゃあ順番はどうする?」

 

すると響が・・・

 

「私が行くよ」

 

「ふぇあっ!?」

 

「ダメかい?」

 

「い、いや・・・最初って・・・」

 

「グズってないで行くよ」

 

響は問答無用でクズネツォフを連れていく。

 

「や、やだあああああ!!まだ心の準備がぁぁぁ・・・!」

 

「шумный(うるさい)」

 

「да・・・(はい・・・)」

 

 

 

 

~響~

 

幽霊なんていない。

そんなのいたら見てみたい。

 

「ねぇクズネツォフ、歩きにくいんだけど」

 

「だ、だって・・・幽霊居そうじゃないですかぁ・・・怖いですよ・・・ぐすっ・・・」

 

「泣くほど怖いかな・・・」

 

私はポケットに入った司令官から受け取った拳銃を握りながら歩く。

一応人のいない廃墟だし不審者がいてもおかしくはない。

 

「響ちゃん・・・怖いよぉ・・・」

 

「仕方ないな・・・」

 

手をつなぎながら歩く。

中は埃っぽい。

 

「ここは・・・受付か」

 

ボロボロの受付の中をライトで照らす。

 

「ひやぁぁ!!」

 

「ど、どうしたんだい?」

 

「い、今人影がぁぁぁ・・・もうやだぁぁ・・・」

 

「どこ?」

 

私は拳銃を抜き、構える。

 

「無駄な抵抗はやめて出てくるんだ」

 

「絶対幽霊です!人じゃないですぅぅ!!!」

 

私は指さす方向を見ていた。

すると・・・

 

「にゃー」

 

「猫か・・・」

 

「ねこ・・・?」

 

「ほら、猫だったよ」

 

猫が一匹机の裏から顔を出した。

 

「ほら、先に行くよ」

 

「もうやだぁ・・・行きたくないです・・・」

 

問答無用で引っ張る。

階段を上っていくと病室のエリアについた。

 

「ここは病室だね。上に上る階段はここでもいいけど・・・」

 

「ここ!ここから上りましょ!ね、そうしましょ!」

 

私はたぶんすごいゲスい顔をしていると思う。

そんなこと思いながら・・・

 

「面白そうだから向こうの階段を使おう」

 

その言葉を聞いたクズネツォフは・・・

 

「も、もうやらぁぁぁぁぁ!!うええええんん!!!」

 

号泣してしまった。

 

「ご、ごめん、ちょっとからかいすぎたよ」

 

「うぇっ・・・ひぐっ・・・もうやら・・・怖いぃ・・・」

 

「ごめんって・・・ほら、ここから上るよ」

 

「ま、まだ上るんですかぁ・・・?」

 

「任務完了してないよ」

 

「うわあああああああん!!!やらああああ!!」

 

泣き叫ぶクズネツォフを無理やり引っ張り階段を上った。

病室エリアを抜け最上階の4階につく。

私はこの時ちょっと違和感を覚えた。

空気が少し冷たい。

 

「空気が冷たい・・・警戒しよう」

 

拳銃を取り出し構えながら進む。

 

「空気が重いです・・・」

 

「そうだね」

 

「なんでそんなに冷静何ですかぁぁぁ!!」

 

「いやだって・・・幽霊なんていないから」

 

「います!絶対います!ほら!ア・・・レ・・・・・?」

 

「アレ?」

 

クズネツォフが指さす方向に・・・

 

 

 

 

 

 

 

・・・・半透明の子供がいた。

明らかに眉間に銃創がある。

 

 

「ひやああああああああああああああああ!!!」

 

「・・・・・・・・」

 

私は無言でトリガ-を引く。

というか近寄りながら全弾叩き込む。

 

「・・・・・」

 

「で、出た・・・出たぁぁぁ・・・・」

 

だが半透明の子供は姿を消した。

血も死体もない。

 

「おかしいな、どこに・・・」

 

「ひ、響・・・ちゃん・・・」

 

「ん?」

 

私は後ろを振り向く。

すると・・・

 

「・・・・добрый вечер(こんばんわ)」

 

後ろにさっきの子供がいた。

私の両肩をがっしりつかんでいる。

子供はニヤっと笑い大きな口を開けた。

 

「・・・・・・・ひっ・・・・」

 

「ひ、響ちゃあああああんん!!!」

 

気が付くと外に出てた。

 

「うえっ・・・ぐすっ・・・うええええん・・・」

 

「よしよし・・・何があったんだい・・・」

 

「ピョ-トル・・・あそこ出るよぉ・・・」

 

どうやら気絶した私をクズネツォフが外まで運び出していてくれたようだった。

とりあえず私の結論。

幽霊なんて居ない、あれは妖怪の仕業。

 

「よっしゃ!次は俺らだな!」

 

「し、司令官さん・・・帰りたいのです・・・」

 

「んな事いうなって、出たら守ってやるよ」

 

「やだかっこいい・・・というとでも思いますか?!怖いのです!ふつうに怖いのです!それより響お姉ちゃん気絶して出てきた事には突っ込みないのです!?」

 

「うんまぁ・・・大丈夫じゃね?」

 

「大丈夫じゃないのですううううううう!!」

 

そんな叫びを上げながら電と司令官が病院に入っていった。




銃持った幽霊ってSIRENかなと書いてる途中に思った。

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