〜ネイサン・ジェームズ〜
ものすごく腹立つ。
私はいつにも増してイライラしながら街を歩いていた。
今私は停職という懲戒処分を食らっていた。
私があの中将に対してやり過ぎだと言うことを後から捜査のために来た警察から怒られた。
「はぁ・・・」
私は海沿いの公園にあるベンチに座ってため息を着く。
停職という処分をくらってはいるが提督はこんなの形だけの処分だから休暇だと思って外出とかしてもいいと言ってくれた。
それでも処分を食らったことに納得いかない。
「このままどっか行こうかな・・・」
なんてボケーっと思いながらベンチに座っていると突然声をかけられた。
「あ、あの・・・えっと・・・」
「ん?」
声の方を振り向くと鎮守府の中で見たことある顔がいた。
名前は知らないけど。
「どうしたの?」
「え、えっと・・・ネイサン・ジェームズさん・・・?」
「そうだよ。で、そっちは?」
「ア、アドミラル・クズネツォフです・・・」
「あー、前提督がロシア艦娘が居るって言ってたの思い出したよ。今日は休みなの?」
「は、はい、えっとジェームズさんも見かけたので一緒にお買い物とかどうかなって・・・」
クズネツォフは顔を真っ赤にして必死に話しかけてきていた。
私は何だかそれがとても可愛く思えて今までイライラしてた事もアホらしくなってきた。
「いいよ、暇だったし。それでなんでもう1人は隠れてるの?」
私が奥の自販機に隠れている艦娘の方を見た。
「うひゃぁ!?ば、バレてた・・・?」
「あんなにチラチラ見てたらすぐ分かるけど・・・どうしたの?」
「い、いやその・・・」
「ヴェリーキーもこっち来るです」
クズネツォフが手招きしていた。
「う〜・・・」
ヴェリーキーと呼ばれた子は渋々こっちに来た。
ヴェリーキー・・・どっかで聞いたような・・・
少し考えて思い出した。
キーロフ級の艦娘か。
「ぼ、僕はピョートル・ヴェリーキーです、あのキーロフ級が苦手って聞いてたから・・・」
ヴェリーキーは少し怖がっているようだった。
「あー、その話か。あはは、別にキーロフ級皆が嫌いな訳じゃないよ」
「そ、そうなの?」
「うん、まぁ昔嫌な事があってね。それで、お買い物行くんでしょ?」
「あ、そうだった!クズネツォフの私服を買いに行くんだったんだ」
「へえ、じゃあ私もついでに買おうかな」
「はい、みんなで行くです!」
そう言って3人で近くのショッピングモールに歩く。
私はいつものジーパンに上はシャツと薄手のミリタリージャケットだったからたまには女の子らしい服を買ってもいいかな。
マーフィにもせっかくだからオシャレしろって言われてたし。
「そういえばジェームズさんって、いそかぜ たちと同じで僕達とは別の世界?の船だったっけ」
「普通に呼び捨てでいいよ。私はそうだね、いそかぜ達の事をよく知らないから分からないけどね」
「もし嫌じゃなかったら聞いてもいいですか?」
「うん、いいよ」
特に面白い話でもないが・・・
何て話しながらショッピングモールに向かっていった。
〜提督〜
「大丈夫かな・・・」
「どうしました?」
「いや、ジェームズの事なんだがな・・・」
「ジェームズさんメンタル強そうですし大丈夫じゃないですか?それよりも隊長、今日はヴィンセンスさんとペリーさんの訓練日でしたよね」
「あぁ、対空戦闘訓練だな」
今日は電達は輸送船団護衛に出ていて秘書がアンドロメダだ。
「そういえば結果って出ました?」
「ん?結果?」
「この前の作戦で色々と資料とか回収したじゃないですか」
「あー、それはまだだな」
何て話をしていたらタイミング良く情報班の人員が入ってきた。
「失礼します」
「はいよ、お疲れ様。どした?」
「はい、この前の調査結果が出ましたので」
「お、ご苦労さん。ちょっと目を通して聞きたいこととかあるからそこのソファーに座っててくれるか?」
「あ、はい。ありがとうございます」
「アンドロメダはお茶か何か出してやってくれ」
「はい、了解しました」
俺は資料に目を通す。
回収されたサンプルから深海棲艦の体は人間と同じらしい。
またその生態データは人間の女性のものだった。
艦娘のデータは主に兵装などだった。
そしてその生態データの収集は各地で拉致した人間のデータを集めてより理想的な身体能力を採用しているとか。
そして俺はもう一つ気になる文章を見つけた。
深海棲艦が拉致した人間とその人間のデータから作り出した深海棲艦を入れ替える実験をしているというものだ。
「これなんの意味があるんだ・・・」
俺はボソッと呟く。
意味不明だった。
軍の上級者を入れ替えるなら理解は出来るが一般人でしかも拉致されている被害者の平均年齢は18歳から21歳程度の少女だ。
「そういや、前に同じことあったけど何か新しい情報とかあるのか?」
「いえ、特には。ただ、この前の艦娘誘拐グループの連中はまだ捕まっていないそうで」
「まだ逃走中か・・・」
「はい、特殊作戦群が現在追跡中です」
「了解、とりあえず何か新しい情報があったら頼む」
「了解しました」
そう言って敬礼して出ていった。
そういえばジェームズとあとクズネツォフ達が外出中だったが・・・大丈夫かな。
ジェームズはたぶん捕まりそうになったら逆に相手をボコボコにしてソイツ攫って身代金要求しそうな勢いだが・・・
「隊長なんか今ものすごく失礼な事思ってませんでした?」
「そんな事はない」
「ジェームズさんなら相手をボコボコにして逆に誘拐して身代金要求しそうって思ってそうでしたけど」
「なんで分かるの!?」
「付き合いの長さだけでいえば電さんより長いですから」
「思えばそうだな・・・それをいえばこの中で俺と付き合いが一番長いのはケストレルだな、アイツの就役の時も上で援護に回ってたからな」
なんて思い出話に浸っていた。
〜ネイサン・ジェームズ〜
「え、えっと・・・それを着るの・・・?」
クズネツォフが自信満々で出してきた服はまさに女の子って感じのフリフリの服。
「ジェームズさんなら似合うです!」
「クズネツォフってこういう時元気だよねぇ・・・」
しかしここで断るのも申し訳ない。
私は苦笑いで試着室に入った。
「私のキャラじゃないよね・・・」
「何を言うですか!ジェームズさん、茶髪でセミロングなんて私が襲いたいくらい可愛いです!」
「そういえばクズネツォフは髪フェチだったね・・・あはは・・・」
外ではヴェリーキーの苦笑いする声が聞こえる。
「切るの面倒くさくてほったらかしてるんだけどね・・・」
自分の髪を触りながら呟く。
正直、ショートにしたいがマーフィが物凄い形相で断固拒否してくる。
黙って切ったら何があるやら分からない・・・
なんて思いながら服を着た。
「・・・・・・タバコ・・・やめようかな」
自分でもビックリするくらい似合っていると思った。
ただしそこにタバコが無ければだが。
薄めの紺色のスカートに紫色の内着、やたらフリフリのカーディガン。
「私も何も無ければ・・・こうやって普通の女の子みたいに楽しめてたかな・・・」
私はたぶんアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦の中でも実戦経験豊富なほうだろう。
それに核攻撃を間接的に受けた事すらある。
「着ましたか?」
「え、あ、うん。着たよ」
するとカーテンが開けられる。
「ふぁぁぁぁ!可愛いです!ジェームズさん可愛いです!」
「か、可愛いって2回も言わなくていいから・・・」
たぶん少し顔が赤くなってるかも知れない。
言われ慣れてないから・・・。
「ク、クズネツォフが見たことないくらい生き生きしてる・・・」
「このまま買って着て帰りましょう!」
「え!?このまま!?」
「ここのお店、店員さんに言ったら大丈夫らしいですよ」
「え、えぇ・・・」
クズネツォフはキラキラした目でこっちを見てくる。
やめろ。私をそんな目で見るな。このまま拒否することに良心が痛むから。
「わ、分かったよ・・・」
「じゃあ店員さん呼んでくるです!」
そう言ってクズネツォフは店員を呼びに行った。
「クズネツォフっていつもあんな感じなの?」
「い、いや・・・・今日ほど生き生きしてたの見たのは僕も初めてかも・・・」
「そうなんだ・・・」
ヴェリーキーは苦笑いで店員を連れてきているクズネツォフを見ていた。
店員はそのまま服のタグを切ってくれ、値段を書いた紙を渡してきた。
私達はそれを持ってレジに並ぶ。
「そういえば、クズネツォフ達も買ったの?」
「僕は付き添いだから何も買ってないよ、クズネツォフは何か買ったの?」
「うへへへ・・・今日はもう可愛いジェームズさん見れたので私は満足です・・・」
「・・・・・この子やっぱいつもこうなの?」
「・・・今日が特別だと思う・・・」
クズネツォフは何も買ってないがとりあえず幸せそうな顔をしていた。
「それで、この次はどうする?」
「お腹空いたしどこかでご飯とかどう?」
「私も同じです!ジェームズさんはどうです?」
「じゃあご飯にしようかな、今日はこうやって服も選んでくれたしご飯奢るよ」
「え、わ、悪いよ」
「いいよ、私そこそこお金持ってるし」
「じゃあお言葉に甘えて・・・」
「イタリアンなご飯が食べたいですお姉様!」
「お姉様!?」
私とヴェリーキーがハモった。
「ジェームズさん可愛くてカッコイイので私の理想のお姉様です!」
「ぼ、僕はダメなのか・・・」
何故かヴェリーキーがダメージを負っていた。
「えっと・・・お姉様・・・か」
私はちょっと艦だった時の事を思い出す。
私はアメリカ海軍のミサイル駆逐艦。
彼女はソ連の重航空巡洋艦。
何だか複雑な気持ちだが、彼女は無邪気な目でこっちを見てきていた。
「うん、いいよお姉様で」
「いいの!?」
「悪い気はしないからね」
「えへへー、お姉様ー!」
「・・・何だこれ」
側でヴェリーキーは微妙そうな顔をしていた。
とりあえずやたらとクズネツォフに懐かれた。
私達はレストランを探した。
「ねぇヴェリーキー、クズネツォフって艤装を付けると性格変わるって聞いたけど」
「うーん・・・そうだね、なんか本当に機械みたいになるよ」
「・・・それが今じゃこれか・・・」
私の右腕にべっとりとくっつき、お姉様〜とか言いながら頬ずりしてきている。
なんだこの可愛い生き物は。
「あ、こことかいいんじゃない?」
ヴェリーキーがある店の看板を指さす。
そこは1000円でピザ食べ放題の店だった。
「ここいいね、ここにしようか」
そう言って店内に入る。
「みんな食べ放題でいい?」
「ごめんね、奢らせちゃって」
「いいよ、私も今日は楽しませてもらったお礼だよ」
「お姉様ー、今度また3人で外出したいです!」
「うん、また今度ね」
「あはは、すっかり懐かれてるね」
「慣れてみると結構可愛いよ」
「うー・・・僕にはこんなに懐かないのに・・・」
「へへ、アメリカ駆逐艦に負けた気分はどう?」
「あー!なにそれ酷いなー!」
「あはは、冗談だよ。とりあえずドリンクバーも頼んだし何か飲み物取りに行こう」
「お姉様のは私が行くです!」
「え、いいよ、自分で行くから」
「私じゃダメですか・・・?」
何故かクズネツォフは涙目で見てくる。
「そ、そんなに行きたいの・・・?じゃ、じゃあコーヒーお願い」
「かしこまりです!」
「クズネツォフ、行こっか」
ヴェリーキーに連れられてドリンクバーに向かっていった。
「小動物か何かかなあの子・・・」
私も身長が高い方では無いが、ヴェリーキーが160cmくらいでクズネツォフは150もないくらいに見える。
「全く提督もこんな子達に囲まれて幸せだねぇ・・・」
私はそんな独り言を呟いて2人を待っていたら1分もしないくらいで帰ってきた。
「ありがと」
「いえ!お姉様のためです!」
「一瞬で物凄い懐かれてるね・・・」
「自分でもビックリだよ」
私はコーヒーを飲みながら一息ついた。
「そういえば、お姉様に聞きたいことあるです」
「ん?なに?」
「その、前に言ってたジェームズの知ってる世界とここの世界が違うって話聞きたいです」
「あー、それね。うん、いいけど面白い話じゃないし特にヴェリーキーには辛い話もあるかもだけど」
「僕は大丈夫だよ」
「そっか、じゃあどこから話そうかな・・・」
私はまず、私が世界で最後の希望だったという話から始めた。
「ウイルスが蔓延、世界は世紀末・・・でも私にはその病気を治す手段を作れる希望があったんだよね」
「希望です?」
「うん、その病気を研究するウイルス学者とそのウイルスの原子株って言うのが手に入ってね。そのせいなのか私自身、医療とかはお手の物って感じなんだけどね」
「ということはお姉様はお医者さんです?」
「まぁそんな感じかなー、免許もないから簡単な治療とかしか出来ないだろうけど・・・」
そして私はキーロフ級に襲われた話やイギリス潜水艦に襲われた話などをした。
「まぁこんな感じかな」
「お姉様・・・結構大変だったんですね・・・」
「うーん・・・まぁね」
「そういえば僕の姉妹にヴェルニなんて居ないからちょっと安心かな」
「もしこの鎮守府に居たら喧嘩してるかもね」
私は笑いながらそんな事を言った。
そんなことをしてるうちに頼んだ一枚目のピザが来た。
「本格的だね」
「おいしそうです!」
「じゃあジェームズさん、いただきます」
「うん、クズネツォフも言ってるしまた3人で出掛けよっか。あ、でも今度はマーフィも連れてきたいな」
「僕は大歓迎だよ」
「マーフィさんはお姉様のお姉様ですよね、挨拶するです!」
「いやクズネツォフ・・・結婚するわけじゃないんだから・・・」
「結婚ダメですか・・・」
「本気なの!?」
私もピザを吹き出す所だった。
たぶんその話を聞いたら提督はこれ以上レズカップル増やすのやめてくれって泣きながら言ってきそうだ。
「でも私はお姉様と結ばれる為ならどんな障害も乗り越えるです!」
「・・・ヤバイ、本気だこの子・・・」
ヴェリーキーは真正面で頭を抱えていた。
「あ、あははは・・・」
私は何かもうどうにでもなれという感じの笑いが出ていた。
こういうほのぼのを久々に書いた気がする(