〜マイケル・マーフィ〜
山に響く銃声。
血だらけで岩陰に身を隠す男達。
私はその状況を上から見下ろしていた。
他の人たちが何を喋ってるのか分からないがある男の声だけは分かる。
(なんで私こんな所に・・・)
さっきまで海の上だったはずだ。
そんなことを思っていたら男に向かってRPGが発射される。
(危ない!)
叫びたいのに声が出ない。
私はただ見守るしか無かった。
(この人達は・・・SEALs・・・?相手はタリバンかしら・・・)
なぜ私がこんな夢を見ているのか不思議だった。
その間にも男は何とか山の開けた場所にたどり着く。
だが満身創痍だ。
(敵がそこまで来てるのに何してるの!仲間は・・・)
仲間達は必死にその男を守ろうとしていた。
そして男は電話をかけ始めた。
「こちらスパルタン01・・・マイケル・マーフィ大尉・・・」
男の名前を聞いた瞬間、私の心臓の鼓動が早くなった気がする。
私・・・?いえ、私と同じ名前・・・?
(どうして・・・この人の事は私知らないのに・・・)
会話の内容から男は仲間を守るために自分の身を危険に晒しながらも増援を呼ぼうとしていた。
(あれ・・・私と同じ事してる・・・)
しかし男は増援を呼んだ時に足を撃たれて電話を落としてしまう。
そして銃を杖にして何とか立ち上がり、空を見上げた。
その瞬間、背中に弾丸を受けて力尽きた。
そして私はある事を思い出した。
(そうだ・・・この人は・・・私・・・)
私の艦名の由来となった人物だった。
なんでこんな重要な事を忘れていたんだろう。
ただ私もこの人と同じ、仲間を守って倒れた。
本望だ。
(みんな・・・先に逝くけど・・・許してね)
そして夢の中にも関わらず強烈な眠気に襲われて目を閉じた。
私はもうこの目を開くことは無いだろう、そう思っていた。
だが・・・
「ん・・・う・・・」
ゆっくりと意識が覚醒していく。
また体の感覚も戻ってくる。
「う・・・ぐぁ・・・生きてるの・・・?」
また手に暖かい物を感じた。
「・・・シンビル・・・スク・・・?」
あのソ連潜水艦だ。
彼女も同じように怪我をし気を失っていた。
私は周りの状況を確認する。
「ここは・・・あの小島・・・?」
私が最初に隠れたあの小島だった。
だが周りに敵艦の姿も見えない。
それに私はいつの間にか艤装を外していた。
艤装は海岸に転がっていたがシンビルスクの艤装は見当たらない。
「あぁもう・・・痛むわね・・・」
足と腕が痛くて仕方ない。
ただ背中に関しては無傷だった。
どうやら艤装に砲撃を受けた衝撃で気を失っていたらしい。
「ちょっと・・・起きなさい」
私はまだ握っていた拳銃を彼女に向けて尋問することにした。
「ん・・・」
「おはよう、御機嫌はどうかしら」
「・・・!?」
「貴女の艤装ならどっか行ったわよ」
「・・・私をどうする気ですか」
「さぁ?お望みならどうにでもするわよ。あ、そうだ、首輪でも付けてメス犬にしてあげましょうか」
「・・・つくづくアメリカ人は下品ですね」
「何よ、面白くないわね」
「貴女こそ自分の心配をしてはどうですか?怪我、酷いことになってますよ」
「・・・このくらい・・・大丈夫よ」
強がってみせるが酷い痛みだ。
「・・・強がってるの見え見えですよ。ちょっと見せてください」
「ちょ・・・何触ろうとしてんのよ・・・」
「・・・だいぶ出血してますね・・・少し痛いかも知れないですが許してください」
「やめてって・・・ホントに、撃つわよ・・・!」
だが私の腕は上手く上がらない。
手が震えてしまう。
「拳銃すら支えられてないじゃないですか。大丈夫です、危害は加えませんから」
シンビルスクはそう言うと腰のポーチから薄い緑色をした液体が入った注射器を取り出す。
中身はきっと高速修復剤だろう
「大丈夫です。お願いだから信じてください」
「なんで・・・敵の私を・・・」
「あなたの行動に好感を抱いた・・・じゃ理由になりませんか?」
「・・・そう・・・」
変なヤツ・・・正直な感想だ。
シンビルスクはそんな事考えてるうちに注射を打ってくれた。
体が少し軽くなった。
痛みも和らいだようだ。
「終りです、これで大丈夫ですよ」
「・・・ありがとう」
シンビルスクは軽く微笑んだ。
「ねぇ・・・私は敵なのに何で?艦娘が嫌いじゃなかったの?」
「そうですね・・・元同僚の艦娘は嫌いでしたよ。皆沈みましたが」
「そんなに酷い艦娘だったの?喋りたくなかったらいいんだけど・・・」
「大丈夫です。そうですね・・・まぁ簡単に言うと皆提督に御褒美を貰いたかったらしいですね」
「御褒美?」
「エッチな事です」
「何それ・・・」
「着任と同時にそういう風に教育されましたからね、例に漏れず、私も。でも、私が壊れる前にクルスクが助けてくれました。ちょっと荒っぽかったですが」
この娘・・・本当に酷い所に配属されちゃったのね・・・
クルスクも出来れば沈めたくないんだけど・・・
「で、周りの艦娘達はその御褒美のためなら何でもするって感じでした。だから・・・私達が逃げようとした瞬間にも・・・」
「攻撃してきた・・・のね」
「そうです。失敗すれば御褒美はお預け、それが嫌だったみたいですね。別に殴る蹴られるの暴力を振るわれるわけでもないのに・・・」
「・・・ねぇ、あなたはこれからどうしたいの?クルスクと行動したい?」
「・・・どうですかね・・・彼女は私以外の艦娘を憎んでいます。それに、私は日本に核ミサイルを撃った犯罪者です。今更戻るなんて・・・」
「私達の提督はそれでも迎え入れたいって言ってたけど」
「信じれるわけ・・・ないじゃないですか。例え本当だとしてもどんなお人好しなんですか。私は罪のない人を核ミサイルで・・・」
「でもあなたはその事を悔いているの?ならいいじゃない」
「良くないです!分かりますか?!私は本来であれば守るべき人を殺したんですよ!」
シンビルスクは大声で叫び出した。
「おかしいですよね・・・攻撃しておいて・・・」
「いいわよ。あなたの意思で攻撃したんじゃないって分かったから」
「え・・・?」
「本当の事教えて。あなたは自分の意思で撃ったの?それとも命令されて?」
「・・・」
シンビルスクは考え込んでいた。
だがすぐに覚悟を決めたような顔をする。
「私は・・・核ミサイルを撃つつもりは無かったんです・・・それよりも日本に恨みなんて・・・でも・・・クルスクが・・・」
「やれ・・・って言ったのね」
「私は最初は拒否しました。でも・・・撃たないなら沈めるって・・・」
「・・・」
「私はトラック島のあの鎮守府になら撃ちました。あそこだけは・・・許せないから・・・」
「その気持ちは分かるわよ、でも日本に撃つつもりなんて無かったのね」
「はい・・・言ってしまえば貴女達を攻撃するつもりだってありませんでした・・・」
シンビルスクはだんだんと涙声になってきた。
最初は機械みたいで冷酷な子かと思ったけど・・・
「もういいわ、大丈夫」
私は何とか動く体でシンビルスクを抱きしめる。
「私より・・・小さいですね」
「はぁ!?」
「抱きしめられてサイズが分かりました。私のほうが大きいです」
「あんたそのケツ穴溶接して眉間に新しいケツ穴作るわよ!?」
「・・・やっぱりアメリカ人は下品です」
「うるっさいわね!!」
〜提督〜
「マーフィの場所は分かるか!?」
《ダメ!見つからない!》
「隊長・・・やっぱり・・・」
「縁起でも無い事はやめろアンドロメダ」
「すみません・・・」
マーフィと音信不通になって数時間、現場海域には深海棲艦が出現し始めていた。
あの2隻はまだ息を潜めているんだろう。
「せめてあの潜水艦の位置さえ特定できれば・・・」
その時、執務室に明石と夕張、いそかぜが飛び込んできた。
「提督!やりました!」
「後にしてくれ」
「後とかじゃないのよ!いそかぜの艤装が何とかなりそうなの!」
「艤装?あれ修復出来ないんじゃなかったのか?」
「兵装までは不可能でした。でも素体となる部分の修復が出来ました!」
兵装が修復出来ないんじゃ意味ないだろ・・・
そう言おうとした時だった。
「司令官、私の艦種覚えてますか?」
「イージス艦だろ・・・」
「違います。ブイ・ウェッブ艦です」
「ブイ・ウェッブ艦・・・そうか!」
「あとレーダー、ソナーについては無事でしたので回収できました。」
ブイ・ウェッブ艦・・・自分の好きなように兵装、機関などを載せ変えれる艦。
つまり、船体さえあれば何とかなる船だ。
「システムリマも生きていました。これなら敵潜水艦も・・・」
「明石!夕張!よくやったぞ!いそかぜ、今すぐ艦娘に再就役だ!」
「了解しました。護衛艦いそかぜ、再着任します」
あのシステムがあれば敵潜水艦を捜索する事が簡単になる。
あとはマーフィだけか・・・
「アンドロメダ、引き続きマーフィの捜索だ」
「了解しました。」
〜いそかぜ〜
「12.7cm連装砲に酸素魚雷、10cm高角砲、アスロックVLS・・・あとはシステムリマですか」
「今残ってる装備はこれだけですね・・・」
「明石さん、ありがとうございます。ミサイルの迎撃までは出来ませんがこれなら」
「あ、そうそう。これも持って行って!」
「チャフと・・・フレア発射機ですか」
「これも何とか直せたから!」
夕張さんは笑顔で親指を立ててくる。
本当に頼りになる。
「じゃあ、頑張ってね」
「ありがとうございます、行ってきます!」
私は鎮守府を出発する。
久々の海だ。
マーフィさんを撃ったあの2隻の潜水艦・・・絶対に見つける!
若干めちゃくちゃな気がするけど許してね(゜∀。)