聖域《サンクチュアリ》十二宮の一角を占める第4の関門、巨蟹宮。
偽教皇の同志が待ち受ける砦に、異次元空間《アナザー・ディメンション》が接続。
黒い渦が生起し中心から膨大な光が溢れ、無数の怨念が立ち籠める闇の空間を浄化。
竜の星座と異なる守護星座、ドラゴン紫龍とは比較を絶する第3段階の小宇宙《コスモ》。
黄金《ゴールド》の聖衣《クロス》を纏う十二宮の同僚、同格の聖闘士《セイント》。
蟹座《キャンサー》の聖衣を纏う死の仮面、巨蟹宮の守護者デスマスクが口笛を吹いた。
「こいつぁ光栄だな、てっきり辛気臭いジャミールの隠者が来るもんだと思ったがね。
俺としちゃあ誰でも構わねぇが、奴さんは臆病風を吹かせて逃げちまったって訳かい?
全聖闘士の判断基準、五老峰の老師ライブラ童虎が本気を出した所で楽勝だがよ。
おっとっと、神に近い男と1対1で戦えるたぁ光栄至極と言わなきゃいけねぇな!
御釈迦様の実力を見せて貰えるたぁ有難え、お前さんを拝まなきゃ天罰が下るってか?
相手に取って不足は無ぇってもんさ、じっくり遊んでやるから楽しむとしようぜ!」
敵地《アウェイ》にて五老峰の老師、牡羊座ムウと対峙した際は風の様に去ったが。
本拠地《ホーム》が闘場の故か自信満々、余裕を見せ挑発を繰り返す巨蟹宮の守護者。
第3段階の小宇宙と同調、究極とされる黄金の形態へ進化を遂げた蟹座の聖衣が共鳴。
天地の差を遙かに凌ぎ、青銅《ブロンズ》の形態とは比較を絶する力《パワー》を放出。
第7感覚《セズンセンシズ》を高める為に視覚を遮断、瞳を閉じた儘で平然と無視。
乙女座《バルゴ》の聖衣を纏う処女宮の守護者、神に近い男シャカの唇が動いた。
「私が見た教皇は正義だ、従来の主張を撤回する心算は無い。
幼い女神は真の邪悪に抗う術を持たず、己自身の力のみで地上を護る者が必要不可欠であった。
裏切り者と反逆者の汚名を覚悟の上で、真の邪悪と闘う決意を固めた心意気は賞賛に値する。
13年に渡り教皇を詐称する偽者と云えども、地上を狙う神々の野望を阻止し続けたのは彼だ。
第3段階の小宇宙に覚醒前の幼子、当時の私を含め十二宮の守護者5人は君達に借りが有る。
最後まで反対を貫いた射手座アイオロスを倒し、聖域を護ると誓った君達5人にね。
アイオロスの精神遮蔽《サイコ・シールド》は解除され、女神は無事に覚醒を果たした。
城戸沙織の裡なる小宇宙は充分に成長を遂げ、神々の領域《テリトリー》へ到達するを得た。
彼女の小宇宙から溢れる光の波動、大いなる意志《ビッグウィル》は偽物に非ず。
全聖闘士の判断基準となる天秤座、五老峰の老師も真に城戸沙織を女神の転生と認めている。
師を殺された牡羊座ムウ、兄を喪った獅子座アイオリアの怒りと悲しみは良く分かるが。
今こそ全聖闘士が一丸となり、光溢れる地上を狙う真の邪悪を祓う為の戦いを始める刻。
偽教皇を演じ続けた双子座《ジェミニ》、双児宮の守護者サガ。
射手座アイオロスに致命傷を負わせた山羊座《カプリコーン》、磨羯宮の守護者シュラ。
人格者ケフェウス座ダイダロスを倒した魚座《ビスケス》、双魚宮の守護者アフロディーテ。
冷酷《クール》な仮面を貫き優しい心を隠す水瓶座《アクエリアス》、宝瓶宮の守護者カミュ。
偽教皇の命に服し抹殺者に徹する蟹座《キャンサー》、巨蟹宮の守護者デスマスクよ。
ムウとアイオリアは私が説得する故、黄金聖闘士の同士討ちを回避する為に協力を要請する」
諸行無常の理を理解し敵対する同僚の立場を汲み、情理を尽くした和解の申し出を提案。
乙女座シャカは小宇宙を抑え瞳を閉じた儘、微動だにもせず戦端を開く心算は無いと証明。
多数の幼児も含め無辜の民を手に掛けた冷酷な暗殺者は沈黙を守り、反応を見せぬ。
神に近い男が話を終えた瞬間に死の仮面は豹変、両者の小宇宙が瞬間的に接触し思考が閃く。
光速の思念が交換され火花を散らし、小宇宙の接触面に激烈な反応が生じる。
一瞬のみ生じた共鳴が断たれ互いに第7感覚を遮り、戦闘に備え小宇宙が増幅され爆発する。
「甘いぜ、シャカさんよ!
俺ぁ、てめぇ等と馴れ合う気なんざ無ぇ!!
この世で力と頼むものは、己自身の戦闘力のみ!
敵が汚ぇ手で来やがるなら、それ以上のド汚ぇ手でブッ潰すまでさ!!
有難ぇ話だが正義も悪も関係無ぇ、そんな御託は俺にゃ一片の価値も無ぇ!
残念だったな、顔を洗って出直して来るが良いぜ!!」
「出来れば事を荒立てず極力、穏便に済ませる心算であったが已むを得まい!
説得が無効と判明した以上、望み通り決着を付けるまで!!
他の宮と教皇の間へ飛び足止めを図る同僚、女神神殿へ向かった者達を援護せねばならぬ。
視覚を封じる事で第7感覚を研ぎ澄ませ、高めた小宇宙に蓄積されし力《パワー》を解放する。
千日戦争《ワンサウザント・ウォーズ》に陥る愚を避け、一気に決着を付けるぞ!
天魔降伏!」
合掌するかと見えたシャカの両掌が左右に留まり、中間に物質化現象を生起した小宇宙が燃焼。
神に近い男に同調する乙女座の聖衣が閃き、先制第一撃《ファースト・ストライク》を繰り出す。
小宇宙の衝撃波が巨蟹宮を貫き天界の天使《エンジェル》、魔界の妖魔も降伏させる一撃が炸裂。
膨大な光の奔流が放射され、避ける間も無く蟹座の聖衣へ直撃《ダイレクト・ヒット》。
第3段階の小宇宙に同調する黄金聖衣は青銅聖衣、白銀聖衣と隔絶する強靭な防御力を実証。
青銅聖闘士数人を同時に打ち倒す一撃にも動じず、無傷《ノー・ダメージ》で術者へ弾き返す。
「何だぁ、そんなモンが本気な訳ぁ無ぇだろう?
今度は俺の番かよ、積尸気冥界波を喰らいな!」
死の仮面が第3段階の小宇宙を燃焼、物質化させ大量の燐気が台風《タイフーン》に変化。
視界を閉ざす靄が渦巻き白い闇の濁流、濃霧の竜巻《トルネード》と化し神に近い男へ殺到。
「挨拶は済んだな、行き先は自分で決め給え!
六道輪廻!!」
地獄界、餓鬼界、畜生界、修羅界、人界、天界が空間転移し巨蟹宮に回廊を接続。
明滅する光の輪が次元の壁を歪め異次元の色彩、六道界の風景が走馬灯の如くに移り変わる。
蟹座デスマスクは纏い付く無数の亡霊に引き込まれ、地獄界へ堕ちたかに見えたが。
何事も無かったかの様に涼しい顔で、己の本拠地《ホーム・グラウンド》へ姿を現した。
「フッ、てめぇの力はそんなモンか?
最も神に近い男たぁ笑わせるぜ、俺様の足許にも及ばねぇとはな。
次元間テレポートが可能な聖闘士は、お前だけじゃねぇんだよ。
俺様だって積尸気を自在に操り冥界の入口、黄泉比良坂へ自由に出入り出来るんだぜ?
六道界の何処に落ちようが、何時でも気の向いた時に還って来れんのさ。
どうした、もうお終いかよ?」
大胆にも処女宮の守護者に明白な嘲笑を浴びせ、失礼千万な愚弄を重ねる蟹座の男。
遂に堪忍袋の緒も切れたと見え神に近い男、乙女座シャカの眼が開いた。
「言わせて置けば、調子に乗りおって!
罵詈雑言の数々、断固として許せぬ!!
一切の手加減はせぬ、自業自得と心得よ!
天舞宝輪!!」
処女宮の守護者は閉ざしていた両眼を見開き、蓄積された膨大な小宇宙を解放。
究極の第7感覚を更に上回る伝説の阿頼耶識、第8感覚《エイトセンシズ》を覚醒させた。
一気に決着を図り昇格を遂げた小宇宙に応じ、聖衣もまた超第3段階の形態へ変貌を遂げる。
燦爛たる白光を放つ乙女座の黄金聖衣、伝説の白金《プラチナ》聖衣が現出し小宇宙を増幅。
乙女座シャカ最大の奥義、相手の五感を断つ攻防一体の戦陣が現出。
視覚を遮断する事で増幅され蓄積された小宇宙が堰を切り、膨大な光の破砕流と化す。
第3段階の小宇宙を自在に操る黄金聖闘士にも防御不可能、と畏怖される神に近い男の代名詞。
双子座、水瓶座、山羊座の聖闘士も対抗し得ぬであろう究極の秘技。
死の仮面を自称する蟹座の聖闘士デスマスクは、避ける素振りを見せず防御の構えも取らぬ。
触覚、嗅覚、味覚、視覚、聴覚、第六感までも破壊する必殺技が炸裂するかと見えたが。
格段に強化された白金聖衣の助力、第8感覚の波動を上乗せした必殺の一撃。
最も神に近い男の代名詞、天舞宝輪が死を司る男に無効化された。
「宇宙の調和を体現する攻防一体の戦陣、我が最大の奥義が効かぬとは!?
蟹座デスマスクに秘められた真の実力とは信じられぬ、何者かの加護を得ているな!
天舞宝輪を無効化する際、瞬間的に発揮された小宇宙は断じて第3段階の第7感覚に非ず!
一体どうやって神々の領域へ踏み込み、大いなる意志《ビッグウィル》を発動させた!?」
驚愕に顔を歪める神に近い男の唇から、悲鳴の響きを潜めた詰問が迸る。
小宇宙の裡に潜む異形の存在、死《タナトス》の仮面が哄笑を響かせる。
「失礼な言い草だが大当たりだぜ、流石に鋭いじゃねぇか?
神に近い男ってなぁ伊達じゃねぇと認めてやるが、神なんざ巨大な力を持った只の駄々っ子よ!
吹けよ風、呼べよ嵐、血沸き肉踊る大戦乱時代の到来だぜ!
風の唸りに血が叫び、力の限りブチ当たるとくらぁ!!」
巨蟹宮を預かり嵐を呼ぶ男の額に五芳星が輝き、髪と瞳が銀一色に染まる。
大いなる意志《ビッグウィル》が小宇宙から溢れ、聖衣も変形《トランスフォーム》を開始。
冥王ハデスを操り星の光も遮る絶対暗黒の夜、無限に拡がる永劫の闇を力の源とする黒幕の影。
2流の神を装い死を司る者の哄笑が、超心理物質《エクトプラズム》を操る男の小宇宙に反響。
身に纏う蟹座《キャンサー》も名状し難い咆哮を轟かせ、神聖衣《ゴッド・クロス》へ進化。
神々の纏う神衣《カムイ》に限り無く近い究極の形態、とも称される伝説の聖衣が実力を発揮。
第3段階の小宇宙を越える超感覚、大いなる意志《ビッグウィル》が天舞宝輪を完璧に弾き返す。
神聖衣の力《パワー》が共鳴相乗効果を発揮、乙女座シャカの第8感覚を遮り小宇宙が消えた。