黄金の勇者   作:fw187

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七人の海将軍
人魚姫の招待~海皇の勅使


 13年前に双子座の黄金聖闘士を操り、黄金の短剣と化した渾沌界の尖兵。

 黄金の矢と化し闘いの女神アテナの化身、城戸沙織を貫いた争いの女神エリス。

 聖域《サンクチュアリ》を崩壊に導く策謀、憑依者の布石は水泡に帰したが。

 二手に分かれた聖闘士達も一致結束を果たし、新たなる闘いに備え切磋琢磨を再開して数日後。

 七大海洋で台風《タイフーン》、烈風《ハリケーン》、旋風《サイクロン》が立て続けに頻発。

 大洋に面した各地の沿岸を未曾有の水害が直撃、広大な地域《エリア》に甚大な被害を齎した。

 城戸沙織を総帥と戴くグラード財団も総力を挙げ、原因究明を試みるが真相は杳として知れぬ。

 財団の誇る秘密研究所もフル稼働で災害の予知、対処に邁進するが悉く後手に廻る始末。

 事態打開の糸口は掴めず苦悩の色が濃い大地《ガイア》の守護者、女神の化身が佇む城戸邸。

 厳重な警戒を敷き影道館の如き侵入困難な要害の地、グラード財団の総本山を瀟洒な影が疾走。

 海の皇帝が支配する領域《テリトリー》、大洋《ポントス》の使者が姿を現し優美な唇を開く。

 

「闘いの女神アテナの化身、城戸沙織様。

 大洋の至高支配者《ファイナル・マスター》、海皇ポセイドン様から招待状を贈呈致します。

 汚れ切った地上は浄化し心正しき少数の者のみ、城塞宮アトランティスへ避難を認めるとの事。

 女神の認めし者達と共に海皇様の領域《テリトリー》、海界《シー・ワールド》へ招待します」

 流麗な海水《アクアマリン》を思わせる女高声《ソプラノ》、耳に快い響きを齎す巧みな弁舌。

 神々の大いなる意志《ビッグウィル》、雄大な小宇宙《コスモ》を抑え城戸沙織は丁重に返答。

「ポセイドンの意志は長い眠りに就き、女神の壷に施された封印の有効期限も切れていない筈。

 海皇から招待状が届くとは夢にも思いませんでしたが、貴女の御名前を教えて貰えますか?」

 艶然と微笑む海皇の使者は虹色石《オパール》、緑玉《エメラルド》を連想させる甲冑を装着。

 照明灯の光を反射する鎧は豊穣な遊色効果を励起、乳白色の地に虹色の輝彩が燦然と煌いた。

 

「申し遅れました、城戸沙織様。

 私は海皇ポセイドン様に御仕え申し上げ、人魚姫《マーメイド》を名乗る不束者。

 地上と海界を往来する海皇様の伝令使《メッセンジャー》、海闘士《マリーナ》の末席。

 テティスと申す使い女に過ぎませぬが、御見知り置き願えれば幸いです。

 海皇様は創造された異次元空間《アナザー・ディメンション》、海の聖域ポセイドン神殿の彼方。

 神々の内的宇宙《インナー・スペース》の一、海王星《アトランティス》にて御待ちしています」

 赤、橙、黄、青、緑の揺れる炎を思わせる多彩な斑が乱舞する水滴石《ウォーター・オパール》。

 伝説に謳われる海界の聖闘士、海闘士の標準装備となる鱗衣《スケイル》を纏う美女。

 海皇ポセイドンの側近テティス、人魚姫は城戸沙織に気圧される事無く艶やかに微笑。

 流れる水の如き爽やかな美声、非の打ち所の無い弁舌を駆使。

 つるつると滑る様に言質を与えず、巧みに擦り抜ける弁士の如き模範解答を実演。

 掴み処の無い社交辞令を思わせる自己紹介を受け、女神の化身は微かに眉を顰めた。

 

「海皇ポセイドンの招待に応じ海界へ赴きましょう、道案内を御願い出来ますね?

 同行者は最強の守護者《ガーディアン》、第3段階の小宇宙《コスモ》を操る黄金聖闘士10人。

 小宇宙に星の秘石《スター・ドロップ》を秘めた少年、第1段階の青銅《ブロンズ》聖闘士5人。

 海皇に従う海闘士と共闘する勇者、女神に忠誠を誓う聖闘士15名です」

 城戸沙織の間髪入れぬ応じ返し《カウンター》を受け、人魚姫テティスも僅かに眉を顰める。

 海皇の使者は不意に何処からか指令を受けたかの如く、余裕を回復し優雅に一礼。

「御見事な即断即決、流石に女神の化身なればこそと敬服し感服致しますわ。

 不敬なれど噂に聞く聖域へ同道を御許し頂き、海皇様の御許へ御案内を申し受ける所存です」

 女神の化身は財団の幹部に留守を託し、人魚姫を伴い特別専用機で日本を発ち聖域へ直行。

 海皇の使者に明言した同行者19名を緊急招集の後、無情にも他の聖闘士達を残し海界へ飛ぶ。

 白銀《シルバー》の聖衣《クロス》を纏う第2段階の聖闘士13人、青銅聖衣を纏う第1段階の6人。

 暗黒《ブラック》改め鋼鉄《スティール》聖闘士5人を含め、合計25名は女神の一行を見送った。

 

 地中海ならぬ異世界《アナザー・ワールド》、次元回廊の彼方に位置する十五の次元界の一。

 海皇の統べる海の領域、海界の中心に位置する七角形の城塞宮アトランティス。

 人魚姫テティスに先導され女神の化身、城戸沙織と男女の聖闘士18名が姿を現す。

 待ち受けるは海竜《シー・ドラゴン》の鱗衣を纏う海闘士、ならぬ氷の衣を纏う謎の男。

 嘗て太古の昔に氷の大地《ブルー・グラード》、北極を中心に覇を唱えた最強の軍団。

 氷戦士《ブルー・ウォリアー》の総帥、帝位を奪った僭王アレクサーが挑戦状を叩き付けた。

「海皇ポセイドンの意志は俺の裡に降臨を果たし、汚れ切った地上を一掃せよと命令を下された。

 嘗て北極の地に海皇の意志を封じた聖闘士8名の後継者は全て、海闘士を統率する我が同志。

 地上を襲う水害を喰い止めたくば、女神の化身を大黒柱《メイン・ブレドヴィナ》へ捧げよ。

 人柱を拒むとあれば最早、問答無用と判断し力付くで連行するまで。

 七大海洋を統べる最強の海闘士、七人の海将軍《ジェネラル》を指揮する新世界の指導者。

 海皇の次席指揮官《セカンド・マスター》、氷戦士の正統なる末裔が挑戦を申し込むぞ!」

 

「問答無用、とは何とも芸の無い論説ですね。

 私は大黒柱《メイン・ブレドヴィナ》へ入り、ポセイドンと話合いの場を持つ為に来たのです。

 無用な脅迫はおやめなさい、時間の無駄です。

 一刻も早く、私を大黒柱《メイン・ブレドヴィナ》の中へ案内なさい」

 挑発を重ねる海皇の代弁者、海商王ジュリアン・ソロならぬ冷酷《クール》な簒奪者。

 氷戦士アレクサーは意表を突く女神の詞に絶句し、人魚姫と共に銀色の瞳を宙に泳がせた。

「大黒柱《メイン・ブレドヴィナ》の中へ入室した者は、2度と出られぬが覚悟の上か?

 神殿の支柱7本を悉く砕けば話は別だが、例え黄金聖闘士10人が揃った所で不可能な事よ。

 海将軍が装着するは只の鱗衣に非ず、嘗て神話の時代に海皇の魂を封じた勇者達の遺せし聖衣。

 悠久の刻を経て第7感覚の具象化を達成し、更なる進化を遂げ第3段階の黄金聖衣を超えた。

 新段階の小宇宙に対応する未知の形態、既成の聖衣を超えた異形の新生聖衣《ニュー・タイプ》。

 緑玉《エメラルド》の聖衣と同調する我等に、旧型《オールド・マン》の貴様達は通用せぬぞ」

 黄金聖衣とは異なる音色で共鳴する氷戦士の甲冑、鱗衣の謎が解けた。

 

「貴様達の挑戦を受けるぞ、真の邪悪を退ける為に避けては通れぬ試練なのだからな。

 大黒柱の中へ入室された女神が水面の鏡を通じ、海皇の影と話をされる間に決着を付ける。

 我等の聖衣と緑玉《エメラルド》の聖衣、何れが上か確かめさせて貰おうか。

 納得が行く様に1対1で勝負してやる、七人の海将軍とやらを此の場に出すが良い」

 総勢19名の随行者を代表して神の化身、教皇に任命された双子座の黄金聖闘士が宣戦を布告。

「海底神殿は七芳星《ヘプタグラム》の結界、大黒柱を支える柱が星型七角形の頂点に在る。

 七大海洋の象徴《シンボル》となる支柱、7本の守護者《ガーディアン》が七人の海将軍よ。

 数を頼まず尋常に1対1の勝負を挑む心意気、流石に黄金聖闘士と尊称される勇者に相応しい。

 俺は1対3でも良いが見上げたものよ、無謀極まりない試みと悟り集団戦法を用いても構わぬぞ」

 城戸沙織は口の減らぬ氷戦士を完璧に無視、大黒柱《メイン・ブレドヴィナ》の中へ姿を消す。

 同時に黄金聖闘士7人の姿も失せ、同僚3名と青銅聖闘士5名は城塞宮の中心《センター》に残る。

 七大洋を統べる海将軍の領域《テリトリー》、七芳星《セブン・スター》の頂点へ飛んだ。


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