咲-Saki- もし咲が家族麻雀で覚醒してたら 作:サイレン
別にリアルは嬉しくもなんとも…………
オマケもあるよ(≧∇≦)
全国大会が開催する前、清澄高校は県予選決勝で当たった三校と合同合宿をしていた。
目的は主に咲以外の自力の向上。そのためには多くの相手と対局を積む必要があった。この四校合宿はまさに打ってつけであったのだ。
強豪校として全国に名を馳せている風越、去年彗星の如く現れた龍門渕、今年初出場にして県予選決勝まで勝ち進んだ鶴賀。対局相手として不足なく、かつ清澄に親身になってくれるとなれば有難い以外の言葉がなかった。
清澄はあの合宿でかなり強くなっただろう。特に優希は咲と衣にしごかれたので面白いことになっている。
「咲。前から気になっていたことがあるんだが、聞いてもいいか?」
「ん? 何、衣ちゃん」
月明かりの下、温泉に浸かっていた衣は咲と二人だけの時に質問をぶつけていた。
「県予選決勝の後半戦、咲は衣の海底牌から直撃をとっただろう? あれは一体どうやったんだ?」
「……あぁ、あれ?」
言われたことを思い出したのだろう。咲はそれを隠すこともなく、衣に教える。
「あれはね、私の『槓材を操れる』っていう能力の応用だよ」
「ん? どういうことだ?」
「うん。だから、私は槓材をある程度自由に操れるんだ。そして、それを相手に掴ませることも出来る。これを利用して、海底牌に槓材を仕込んだんだよ」
「……それはおかしくないか? だってあの時はカンじゃなくロンだったぞ? それに海底牌はカン出来ないではないか?」
衣の疑問も最もだ。
だが、咲はその疑問を予想していたのだろう。途絶えることなく質問に答える。
「衣ちゃん、槓材は必ずカンしないといけないわけじゃないんだよ? 槓材である四つ目の牌が、
「あぁ、なるほど! そういうことか!」
疑問が解消されて、衣は笑顔を浮かべた。
そして衣は思う。咲のこの能力、やり方次第では何でも出来るぞ、と。
「やっぱり咲は凄いな!」
「ありがと、衣ちゃん」
「あと咲、これは衣個人のお願いなんだが、いいか?」
「私に出来るんだったら、構わないよ?」
「それはどうか分からないが、咲には全国でも衣を驚かせてほしんだ!」
「驚く? 例えば?」
「そうだな……」
衣は少し考える。
しばらく顎に手を寄せ考え込んでいたが、突如何か閃いたのだろう。咲に向けて飛びっきりの笑顔を見せた。
「やはり前代未聞なこと、とかがいいぞ!」
「なるほど、前代未聞なことね。……うん、分かった。約束するよ。前代未聞なことをして、衣ちゃんを驚かせてあげる」
「ホントか! それは楽しみだ!」
──魔物二人の秘密の約束。
これを知っている者は、この段階ではこの二人だけだった。
****
「調子は……いつも通りのようですね……」
「ん? 分かる?」
「はい、プラマイゼロでしたから……」
飲み物を持って来てくれた和の目は、俗に言うジト目というやつだった。
勝つことだけなら何よりも咲を信頼している和だが、この点においてだけ、プラマイゼロを平気でする点だけは、和は咲を全く信用していない。
「んー、衣ちゃんとの約束でね。全国大会では前代未聞なことをして、って言われてるんだ」
「それがどぉーして、プラマイゼロになるんですか⁉︎」
「違う違う。プラマイゼロはついやっちゃったの。本番は後半戦だから、まぁ見ててよ」
「……分かりましたよ」
和にも嫌な慣れが生まれてきていた。
以前までの和なら、すぐさま「そんなオカルトありえません!」くらいのことは言ってのけただろうが、長い間、咲という人外と触れ合ったために毒されているようだ。
『後半戦が間も無く開始されます。選手の皆さんは対局室に集まって下さい』
「あ」
「そろそろですね」
「じゃあ、行ってくるね」
「はい。咲さん、油断は禁物ですよ」
「うん、分かってる」
咲にも白糸台を、照を倒すという目標がある。勝つためだったら油断なんてものはしない。邪魔する相手は叩き潰すくらいの気持ちを持っていた。
そのために必要なのは情報の整理。あの場を支配出来るよう、自身が有利になる展開に持っていくのが不可欠であった。
対局室に辿り着くまでに、咲は前半戦の復習をする。
(姫松と永水はとりあえず放っておいてもいい。問題は宮守、姉帯豊音。分かっている能力は二つ。裸単騎まで鳴くと必ずツモ和了りが出来ることが一つ、もう一つは先制リーチ者がいた時に追いかけると、先制リーチ者が必ず一発で振り込むこと)
この事実から分析と推測を進める。
(分かりやすいのは裸単騎の能力。特に「ぼっちじゃないよー」と「お友達が来たよー」の台詞がキーのはず。ぼっちというのは裸単騎のこと、お友達は上がり牌のこと。お友達が来る……麻雀ではお友達をツモる、もしくは引く、か……?)
これに関する知識がないか、考察してみる。
(友達が来る……友達を引く……友達……来る……ツモる……友…………引く…………《友引》か!)
該当項目が見つかった。
このことから次々と謎が解けていく。
(《友引》……つまり《六曜》か。これなら追っかけリーチはきっと《先負》だろう。先んずれば負けるんだから)
《六曜》とは暦注の一つで、六つの曜がある。《先勝》《友引》《先負》《仏滅》《大安》《赤口》の六つで、一般的なカレンダーにもよく記載されているものだ。
各曜ごとに吉凶、運勢が定められており、今日の日本でも少なくない影響がある。『結婚式は大安が良い』や『葬式は友引を避ける』などがその最たる例で、主に冠婚葬祭などの儀式と結びついて使用されている。
また、勝負事に関する内容が多く、「縁起を担ぐ」ことから、元々は賭場の遊び人や勝負師などの間で用いられ出したものではないか、とも考えられている。
(えーと、確か
《先勝》は「先んずれば即ち勝つ」
《友引》は「凶事に友を引く」
《先負》は「先んずれば即ち負ける」
《仏滅》は「仏も滅するような大凶日」
《大安》は「大いに安し」
《赤口》は「赤舌日が元」
だったっけ?)
対局室までの数分間の内に、様々な記憶を巡る。
(なるほど、確かに《友引》と《先負》は分かりやすいね。
ここまでは上手く結びついたが、問題はここからだった。
(んー……でも、他が分からないな。《先勝》と《大安》はなんとなく予想出来るけど、イマイチピンとこないし、《仏滅》と《赤口》に関してはさっぱりだ。この二つはどちらかというと悪いイメージの言葉。でも能力として存在するなら、デメリットはあったとしても、メリットもなきゃ意味ないし……)
《先勝》は万事に急ぐことが良いとされる曜。また、「午前中は吉、午後二時より六時までは凶」と言われる。
《友引》は現在では凶事に友を引くとされる曜。かつては、「勝負なき日と知るべし」と言われ、勝負事で何事も引き分けとなる日、つまり《共引》とも言われていた。また、「朝は吉、昼は凶、夕は大吉。ただし葬式を忌む」と言われる。
《先負》は万事に平静であることが良いとされ、勝負事や急用は避けるべきとされる曜。また、「午前中は凶、午後は吉」と言われる。
《仏滅》は六曜の中で最も凶の日とされる曜。婚礼などの祝儀を忌む習慣がある。また、「何事も遠慮する日、病めば長引く、仏事はよろしい」と言われる。
《大安》は六曜の中で最も吉の日とされる曜。何事においても吉、成功しないことはない日とされ、特に婚礼は《大安》の日に行われることが多い。
《赤口》は陰陽道の「赤舌日」という凶日に由来する曜。この日は「赤」という字が付くため、火の元や刃物に気をつける、つまり「死」を連想される物に注意する日とされている。また、「万事に用いない悪日、ただし法事、正午だけは良い」と言われる。
(うーん……時刻まで関わってくると、今は午後、それも夕方だから《先勝》《赤口》は使えないのかな? でも《先負》から推測すると、先んずればっていうのは先制リーチのことだから、時刻が関係あるとは思えない。《仏滅》はもはやデメリットしか思い浮かばないし。《大安》は漢字から推測すると、沢山和了れるけど点数は低いとかかな? もしくは意味から判断すると、要するに幸運ってことでしょ? 麻雀の役の中で幸運みたいな意味があるのは大三元。でも大三元和了り放題は流石に反則過ぎる、てか使うでしょ。《赤口》に関しては、赤って字から赤ドラが思い浮かぶけど、それだけだと微妙。でも意味的にも麻雀の役で火や刃物、死を連想させるものなんて…………)
少し立ち止まって考えたがはっきりしない。何より、分からないものを何時までも考えても仕方が無い。
咲は歩みを進めることにした。
(とりあえず分かったことは一つ。宮守はまだ四つの能力を隠しているということだ。……面倒だな)
勝つこと自体は何も気にしなければ、大した問題なく達成出来るだろう。今対局している三人は、はっきり言って衣以下であることは間違いないのだから。
だが、咲には違う目的がある。それを考えると不確定要素が多い豊音の存在は障害にしかならない。
その点をどうするかを考えた結果、
(……よし。序盤にプレッシャーを掛けて、動きを封じるか)
という結論を出し、辿り着いた対局室の扉を意気揚々と開ける咲であった。
後半戦が始まる。
****
大将・後半戦
〜東一局〜
東 宮守 101200 親
南 姫松 100000
西 清澄 104200
北 永水 94600
八巡目、咲は手牌から一つ掴み、それを横向きに捨てた。
「リーチ」
(リーチ……⁉︎ どうゆうつもりや清澄⁉︎)
咲のリーチに恭子は驚きを禁じ得ない。このままいくと前半戦で自分が陥った状況になると理解出来ているからだ。
豊音もそんな咲を少し訝しんでいた。
(……んー? 宮永さんがリーチ? 私の能力に気付いてない? そんなはずないと思うけど……)
咲の狙いが読めない。もし本当に豊音の能力に気付いていないのなら、想定より下の実力だったという話で済む。
だが、それは一番いけない判断だとも理解していた。
(最大限の警戒をしろって言われてるし、……でも、ここで退くことはないよね)
迷いもあったが、ここで仕掛けない理由もない。
「おっかけるけどー、とおらばー、リーチ」
豊音の予想通りの行動に、恭子はやっぱりと思った。
(宮守が追い掛けた。これは清澄が宮守に振り込むパターン。……まさか、前半戦で私が試すのを見てへんかったんか?)
そして、恭子の想像通り、
「ロン、3900だよー」
「はい」
咲が豊音に振り込んだ。
だというのに、咲には動揺の欠片も見られない。まるで予定通りだ、と言わんばかりの余裕さが伺える。
(普通に振り込んだ……? 何を考えているのかしら?)
霞もこの咲の行動を理解出来ない。
(……はっきり言って不気味ね)
〜東一局・一本場〜
親:豊音
「リーチ」
(またリーチ⁉︎)
(本当に何を考えているのかしら……?)
咲が再びリーチを掛けた。もう、咲の行動が本格的に理解不能になってきた。
リーチしてくれてラッキーなはずなのに、豊音は何故か咲がカモというよりは逆になんか怖いと思えてきた。
(……もう深く考えるのはやめよう!)
「とおらばー、リーチ!」
豊音も再び追い掛けた。
恭子も霞もそれを見守る形になり、咲はそのままツモった牌を捨てる。
「ロン。7700の一本場は8000」
「はい」
また咲が振り込んだ。
これではまるで、前半戦の再現のようだ。ただし、人が恭子から咲に変わっているが。
三人は咲の様子を見てみるも、特に異変があるようには見えない。前半戦と同じく、泰然とした態度のままだ。
(なんだろー……)
(よく分からんけど……)
(嫌な予感しかしないわ……)
三人はこの状況に、前半戦以上の警戒を固めていた。
〜東一局・二本場〜
親:豊音
(でもお陰でトップになれたよー。ただ、結構僅差だし、安心出来ないよねー。宮永さんもなんか怖いし……だから、ここは攻めるよー)
「ポン!」
今度は《友引》を繰り出す豊音。
これを待っていた人物が一人いた。その人物は豊音の対面で、バレないように笑みを浮かべている。
そして、この状況で動き出したのは恭子だ。
(鳴いたっちゅうことは、追っかけリーチは出来んはず。一位陥落しとるから私も攻めなあかん!)
「リーチ!」
恭子はリーチを掛ける。
一度鳴けばリーチ出来ないのが麻雀のルールである。暗槓は例外だが、恭子にとって上家の豊音は他家の捨て牌をポンしているため、追っかけリーチは出来ない。
そのため、恭子は臆せずリーチを掛けた。
だがその直後、恭子の下家から、咲から、意味深な言葉が発せられた。
「んー、おっかけるけどー」
(…………………………………はっ?)
「とおらばー、リーチ」
咲が恭子を追い掛けた。
この状況には、豊音が一番驚いている。
(嘘……これって……)
(まさか、宮守の……)
同様に霞も、咲のこの行動に注目していた。
もしこれが、今まで散々見ていた展開と同じようになるのなら、別の意味を持つことになる。だけどそれは、最も考えたくない可能性を残すことになるが。
恭子のツモ番。それは和了り牌ではなかった。だから、恭子にはそれを捨てる選択肢しか存在していない。
(……まさか)
知らぬうちに震えている手で、牌を捨てる恭子。
──咲は手牌を倒した。
「ロン。5200の二本場は5800だよー」
「……なっ⁉︎」
(なんやねん、それッ⁉︎)
思わず声を上げ、卓に身体をぶつけながら立ち上がってしまった恭子を攻められる者など、その場にはいなかった。
****
「なっ……⁉︎」
「イマノッ⁉︎」
「嘘、でしょ?」
「豊音の、《先負》……」
大将戦を見ていた豊音のチームメイト──宮守の面々は、今の局の咲の和了りを目の当たりにして驚愕していた。普段面倒くさがりで自分からは滅多に動かない小瀬川白望が立ち上がるほどであったのだから、その驚き具合は相当のものだと分かるだろう。
「先生! 今のは⁉︎」
「……流石に、信じられないわね。想定外過ぎるわ」
ここまで宮守を導いてきた麻雀においてベテラン中のベテラン──熊倉トシですら、今回の咲の所業に驚きを隠せなかった。
「豊音の《先負》を受け流すことや無効化することまでは考えていたけれど、まさかコピーされるだなんて……」
いや、もしかしたら奪われたのかもしれない……と頭を過るが、これ以上みんなを心配させることもないだろうと口を噤んだ。
もしそうなら最悪の展開だが、対処するのは早くてもこの対局後になる。今のトシには豊音に対して何一つ出来ることなどない。そうでないことを願うしかなかった。
「……と、豊音は、大丈夫ですよね?」
心配そうにそう呟いたのは部長である臼沢塞だ。強気な彼女がここまで気弱になることは珍しい。副将戦で無理をしたため身体的に疲労しているのが原因の一端ではあるだろうが、だとしても豊音のことを麻雀の実力の面で心配するなど過去にはなかった。
豊音は宮守の中でも最強だ。初見では誰一人として対応すら出来なかったのだから、その卓越した実力が分かるだろう。
強い理由としては、やはり能力の応用性が高いことが挙げられる。豊音の能力は全部で六つ。《先勝》《友引》《先負》《仏滅》《大安》《赤口》の六つで、《六曜》の特性を其々有している。多種多様な状況に対応できる彼女の力は大会随一と言っても過言ではない。
そんな豊音の利点の一つがコピーされた。この事実は大きなアドバンテージが削られたことだろう。心配にならないわけがない。
他の三人──白望もエイスリン・ウィッシュアートも鹿倉胡桃も同様の想いを抱いていたのか、不安そうな目でトシを見ている。
(……本当に、良いチームになったわね)
彼女たちの絆の深さを垣間見た気がして、トシはそんな場面ではないだろうけど嬉しく感じてしまう。
このような時に支えてあげるのが大人の仕事だ。トシは笑顔を浮かべた。
「当然よ。豊音はこの程度でへこたれるほど、柔な子じゃないわ」
トシの言葉にひとまずは安堵したのか、四人は身体の緊張を解いた。その後すぐに映像に意識を戻し、豊音のことを見守り始める。
トシも彼女たちの反応から上手く励ますことができたと実感するが、あいにく表情は険しいものになっていた。
(……でも少し厳しいわ。恐らく豊音は萎縮してしまう。この対局で豊音がこれ以上手の内を明かすことはないかもしれないわ)
咲の狙いはきっとこれだろう。豊音の能力を看破した上で、障害となりそうだったから釘を刺した。何とも効果的な一手を打ってきたものである。
(豊音、踏ん張りどころよ)
自分たちに可能なのは祈ることのみ。
仲間の勝利を信じて、見守ることだけであった。
別の場所でも、驚愕の声が上がっていた。
「嘘やろ⁉︎ 今のって……」
「宮守のにそっくりなのよー」
姫松──全国大会常連校の彼女たちでさえ、今の局の咲の和了りには飛び上がる反応を見せた。強い雀士と関わってきた経験が多い彼女たちでも、相手の特性を自身のものとする雀士とは出会ったことがなかったからだ。
眼鏡と大きな胸囲が特徴的な少女──愛宕絹恵は画面を瞠目したまま叫ぶ。
「てか反則やろあんなん! 何なん、あの清澄の大将⁉︎」
「確かに、あれはヤバいっすね……」
「本当に反則なのよー」
他の部員──上重漫、真瀬由子も絹恵と同じ気持ちなのか、咲を怯えの目で見つめていた。
「──三人とも静かにせぇ」
しかし、姫松の部員の中で唯一動揺しなかった者が一人いた。
「お姉ちゃん」
姫松主将にして絶対のエース──愛宕洋榎は静謐な声で三人を落ち付かせた。彼女は強豪である姫松の主将だけあって、実力も格も全員屈指の雀士である。
画面から目を離さない洋榎は咲の和了りにも動じず、ただただ恭子を見つめていた。
「所詮一年坊や。牌の何たらや知らんけど関係あらへん」
洋榎は自信満々に告げる。
「恭子ならやれる」
「で、でも、末原先輩も言ってたように、この大将戦はホンマに化け物揃いやで」
「……恭子は自分のことを凡人凡人言うけど、そんなことあらへん。恭子は強い」
洋榎は恭子の努力を知っている。
例え相手がどんなに格下の相手だろうと恭子は一切手を抜かない。対局するまでに相手のことを調べに調べまくり、下準備を欠かさず、常に自分が負けることを想定して対局に臨む。
だからこそ、恭子は強い。
「全員恭子の実力は知っとるやろ。うちらにできることは、恭子を信じることだけや」
「……そうやね。末原先輩が負けるはずあらへんもん!」
「そうやでー絹!」
そう、出来ることは見守ることだけなのだ。
なら、仲間を信じて待つしかない。
例え対局相手に、想像を超える化け物がいようとも。
****
咲に振り込んだ後、しばらく立ったまま固まっていた恭子だったが、ようやく自身がマナー違反紛いのことをしてるのに気付けた。
「す、すいません」
一言謝りながら席に着くが、未だに頭の中は混乱しまくっている。
(…………はっ? はっ? はっ? どういうことなんや?もう意味分からん。何が起きたんや? ……いや、それは分かっとる。私が清澄に振り込んだんや)
思考することで、段々と落ち着きを取り戻せてきていた。
(でも、今のはまるで前半戦の宮守のような、というよりそっくりや……まさかコイツ──)
恭子はある可能性に辿り着いた。
(コイツ、他人の特性を自分のものに出来るんか⁉︎)
──恭子は知らない。
これは、咲の『槓材を操れる』という能力の応用技というだけで、恭子が思っているようなことは不可能だということを。咲の手牌をよく見ていれば、恭子から直撃を奪ったその捨て牌が槓材でもあると気付けただろうが、残念ながら恭子にそんな余裕はなかったのだ。
このように相手に誤認させることが、咲の思惑通りなのだということを。
豊音も驚きで声が出せず、口が開き、目も見開いたまま固まっていた。
(………………えーーーー、嘘でしょーー。私の《先負》が……。もしかして、さっきまでリーチは必要なことだったとか? 実際に受けた力を手に入れられるとか……?)
豊音が推測している事実などは存在しない。これは全て咲がそう思わせるために、態と行ったフェイクなのだから。
だが、そんなこと知らない豊音からすると、咲の行動は全て脅威に映る。
(でも、これじゃ迂闊に能力が使えないよー……)
全て咲の思惑通りに進んでいた。
一方、咲以外で唯一冷静でいられた霞だが、内心では困っていた。
(んー、どうしましょうか……? まさか清澄がこれ程までとは思ってもなかったわ。守るのは得意なんだけど、今回はそれでは駄目そうね。……流石に、いくら清澄でも、私のは真似出来ないだろうし、……苦手分野、いかせてもらおうかしら)
覚悟を決めた。
ついに、霞が動き出す。
大将・後半戦は、まだ始まったばかりだ。
オマケ:クリスマスパーティ
『メリークリスマスッ!!!』
クラッカーが鳴り響き、白糸台と清澄の合同でのパーティが始まった。
沢山のテーブル、沢山のホールケーキ、沢山のチキン、その他沢山の飲食物というかなり豪勢なパーティ。
各々楽しんでいたのだが、その中で悪い笑顔を浮かべている人物が一人いた。
というか、咲だった。
「淡ちゃん!」
「ん?」
名前を呼ばれた淡は振り返る。
その視線の先には、両手にパイを持ち、その一方を投げつけようとしている咲の姿が。
「メリークリスマスッ!!!」
“ようとしている”のではなく、そのまま投げつけた。
数瞬後には、あの悲劇(笑)の淡誕生日パーティの二の舞になるかと思われたが、今回は違った。
淡は成長していたのだ。
「同じ手は喰わないんだよッ!!!」
そこからの淡は超反応を見せつける。
両手でバランスを取るように大きく広げ回し、上半身を思いっきり仰け反らせる。そのお陰で、顔面直撃だったはずのパイを、見事避けてみせたのだ。
完璧にマトリ○クスだった。
これが、淡があの誕生日の日に受けた恨みから目覚めた新たな
ーーー神速○インパルス!
そして淡はそこでは止まらない。
勢いを上手く利用し、左脚を軸として咲に一瞬背を見せるように回転。その際、側にあったテーブル上のホールケーキを皿ごと左手で掬い取る。
「お返しだァッ!!!」
それをそのまま、躊躇いの一つもなく咲へと投げつけた。
だが、利き手ではない左手で投げたためか狙いが甘い。咲の顔面ど真ん中から僅かに逸れていた。
そのため、咲はそれを余裕の笑みを浮かべながら、首を傾ける動作一つだけで躱してみせる。
そして、もう片方の手に持っていたパイを投げつけようとしたが、咲の背後かなりの至近距離からベチャッ!という音が。
床に落ちたにしては早過ぎる。きっと誰かに当たったのだ。
咲と淡の二人は恐る恐る、そちらを振り向く。
そこには、藍色のロングヘアーを靡かせた、顔面真っ白の女性が立っていた。
というか、菫だった。
『………………………………………』
相手が相手だったら、笑うかもと思っていた二人だったが、菫相手では笑えない。二人は一瞬だけ固まる。
そして状況を分析してみた。
原因:咲
やった本人:淡
咲と菫:違う学校
淡と菫:同じ学校
咲:今日逃げ切ればなんとかなる
淡:今日逃げても全くなんとかならない
咲:逃げたい
淡:道連れが欲しい
二人の行動は早かった。
一目散に出口に向かおうとする咲。
それを食い止めようとする淡。
咲は片方に持っていたパイを投げつける。至近距離であったが、それを淡は神速のインパルスで難なく避けた。その一瞬出来た隙で駆け抜けようとする咲だったが、淡が得た超反応速度は伊達ではない。直ぐさま咲の前へと立ち塞がる。力押しで通り抜けようとするが、咲には速力はあっても抜く技術は、デビルバ○トフォースデ○メンションは使えない。
「うおおおおおぉッ!!!」
淡のタックルが決まった。
****
………………………………………
土下座5時間だった。
何の気兼ねもなく書くオマケは楽しい(≧∇≦)
次回から悪ふざけMAXで他作品のクロスでも書こうかな^ ^
候補として考えているのは、咲世界の全ての能力をマジモンの能力に昇華させた魔王咲様が問題児の世界にLet's go!!!
あと因みに、もう一つクリスマスプレゼントということで
ダンジョンに出会いを(ry
と
やはり俺の青春(ry (てかヒッキー)
のクロス(笑)も書いてみました。
興味がある方は是非覗いてみて下さい。