執筆がリハビリになるとは思わなかった……。
昨晩にまで遡る。
起伏に富んだ、と表現するにはその程度を超えている山々がある。その山肌に生い茂る、決して人の手が入ることの無い広葉樹林の合間から漏れる月明かりの下を潜るように抜けて、楯無は進路を北に向けていた。
元々より隠密に長ける楯無ではあるが、対象、日本海より侵入したという未確認機との接触にはISの機動性は無くてはならない。だがISという存在は見た目からして多分に目立つ。そういった他にも諸々の理由を含めて楯無は、木々の下で乱高下を繰り返しているのだが、
若くして暗部の頭目として勤めに取り組むその胸中はというと、その役に相応しくないものが渦巻いていた。
(…………)
楯無が思うのは先程の事。先程に別れた彼の事。
――大切な妹の友人を傷つけてしまった――
(……仕方ないのかしら)
どのような意図があれど彼は嘘を吐き続けていた。それに間違いはない。
だが楯無が求めたものとはかけ離れる結果になってしまった。
(違うわね)
全て自分のせいだ。あんな筈ではなかったのだ。傷つけるつもりも、妹から遠ざけるつもりもなかった。
ただ素直になって欲しかった。せめて妹の前では、妹の傍に居る限りでは。
嘘を吐き続ける必要はない。妹は口が堅いから。
(……違うわね)
楯無は頭を振る。そうではないのだと断じて捨てる。
妹に嘘を吐いて欲しくなかっただけだ。
妹に対して、更識の闇に触れるような一因を近づけたくない、妹の近くに居るのならば、清廉潔白とまでは言わないが、誠実でいて欲しかったのだ。
詰まる所は、
(私のワガママだったのね)
……そろそろ、山頂を過ぎた辺りで未確認機と接触するかと考え、楯無は思考を切り替えていく。
遠足や修学旅行の道中、目的地に着くまでの交通機関内と到着後のテンションの違いなどが近いだろうか。
山頂にて聳えるように立つ木々の一本に飛び乗り、その開けた視界で、
……見てしまった。
「……何よ、これ」
――現時刻、正午を少し越えた頃。
チーム汀組の自称サブリーダー、永富はぶすっとした表情でパソコン画面を見つめていた。
「…………」
簡素なパーティションで区切られた、熟練した日曜大工によって作られたような薄い壁と、壁と一体化した机の上にのったパソコン本体とディスプレイ、そして今彼女が身を沈めるリラックスチェアのみがその空間の全てだった。
このパーティションの向こうでは、チーム汀組の外部担当班他3名が永富と同じく情報収集に当たっている。
彼女らは今、ネットカフェにいた。
「はあ……」
思わず溜息が漏れる。
「永ちゃん」
声が永富の頭上から呼びかけてくる。パーティションの向こうから首だけを出しているのは、永富のタッグパートナーだった重冨だ。
「ひょっとして退屈してる?」
当然だという意思表示を、永富は無言で、彼女の方すら見ずに示す。
「だって、ねえ……」
正直、拍子抜けしている。
外に出て情報収集と聞いて何をするのかと思えば何の事はない、本当にネット検索をするだけで。
ある程度の方向性は指示されているとはいえ、こんな事の為にチームの半数を割く理由が分からない。わざわざ学園の外まで出てきて、どうしてネットカフェで学食よりも格段に質の落ちるパスタで空腹を落ち着かせなければならないのか。IS学園の学食と比べるのはどうかとも思うが。
――こんな事ならば、
「学園に残った方が有意義だったかもしれない」
「永ちゃん……」
重冨の諭すような声も聞き入れず、口にくわえたストローで左手に持ったアイスティーを弄りながら永富はキーボードを叩く。
正直、期待しすぎていたのかもしれない。それだけ彼女、静穂のここ1か月での働きは目を見張るものがあった。今回も何かあるのではないかと思う程に。
自分達が何をしたとかはこの際置いておく。彼女を前に出せばそんなもの何処かに吹き飛ぶとまでは言わずとも霞んでしまう。彼女がいなければこのチームは理論、青写真、いや空想の時点で分解していただろう。従って、自分の戦績も残せなかっただろう。
だがもしも、彼女が自分たちの側にいなければ、もしも自分達があの機体を壊さなければ、
(こんな気持ちにもならなかったんだろうな……)
「なんすか?
「アンタには何からツッコめばいいのよ……」
いきなり引き戸を開けるなとか若頭って何だ汀さんが頭だからかとかその手に持ったパフェとかアンタこそちゃんとやってるのかとかネットカフェを満喫し過ぎだとか。
パーティションの引き戸で仁王立ちの体勢を取る後輩に対し永富は何かを言おうとして、
そして不意にこう思った。
(そういえば、)
授業で使った、静穂の乗る筈だったラファールにトドメを刺したのはこの能天気ではなかっただろうか。
「…………」
「? パフェはあげませんよ?」
「汀さんみたいな事言わないでよ……」
物真似のつもりだったのだろうか。ちょっと似てた。
無言の叱責も彼女には効果が無く。というかよく自分達のリーダーはこんなのを正面から相手に出来るなと感心する。静穂ならば今自分の目の前に立つボケに対しても全てにツッコミを入れているだろう。
永富はパフェを頬張る
「ねえ、アンタは汀さんをどう思う?」
「どうってなんすか?」
「だから、」
どうしてあんな言葉で自分達を動かそうとしたのか。
言ってしまえば、いつもの彼女らしくない。永富はそういう感じ方を、違和感を感じたのだ。
当然といえば当然ではある。チーム発足から一か月も経つが、彼女が自分から何かを言い出す、あるいは提案するという事は一つとしてなかったように思える。そんな彼女をチームは「奥手で自分達に気を遣い過ぎている」と納得し、「彼女からの提案は絶対に呑めるよう努力しよう」と団結もした。
そうして彼女が自分から悩み事を持ってくる日をチームは心待ちにしていて、
いざその時が来てみれば、
「あんなあからさまな嘘で、こんな事をやらされて、アンタはそれでいいの?」
三文芝居の作り話。永富は裏切られたという印象を持っている。対してこの後輩はどうだろうか。
この後輩は静穂に心酔している傾向がある。自分とは異なる意見を聞いてみたいと思った。
「無理してますよね、
「無理?」
「頭って余裕が無くなると何かを凝視したみたいに目線をくれなくなるんですよ。知ってました? あと口調も冷たくなってくるし、談話室の時なんかあからさまに目線が泳いで私達じゃない何かにいってたし、あれはかなり参ってますな」
うん、間違いない、と後輩は一人頷く。
そんな癖など永富は知らない。彼女を知ろうと考える余裕など、トーナメント中の永富にはなかった。
ただ彼女の能力が欲しかった。一を聞いて三から四くらいは察してくれる理解力と、周囲をチームという形で束ねて利用する為の管理能力が。
「……それで、アンタは無理をしてる汀さんをどう思うわけ?」
「助けます」即答だった。「私はこのチームが好きです。そのチームを纏めてくれる頭も好きです。頭がピンチの状況で助けてくれって言うなら、当然助けます」
それに、
「若頭が言う通りあの話が嘘だったとして、そんな嘘を使ってでも手伝って欲しい程の大事件が起こってるって事じゃないんすか?」
「…………」
「あ、ちょ」
気付けば永富は引き戸を一方的に閉めていた。
(なによ、それ)
嘘を吐いてでも働いて欲しい。ただ一時の間、自分の為に。
先の事などどうでも良く、今後の関係が崩れるような真似をしてでも人手が要る事態。
(そんなの、)
そして彼女はそんな事態に自分達を駒に使おうとしている。
(私達の出番じゃないわよ)
「永ちゃん」
頭上にはまだ重冨が顔を出していた。
「やろうよ。お返し、いくらしても足りないくらいじゃない」
「……分かってる」
…………本当に分かっているのだろうか。永富にしても、重冨や後輩にしても。
キーボードを叩き、アイスティーに刺さったストローを噛む。
映し出される画面は、自分達が首を突っ込んでいこうとする事柄の大きさを物語っていた。
「では、これで。楯無様に宜しくね」
「ありがとうございました」
暗色系スーツ姿の女性が席を立つ。その背中を虚は腰を上げずに送り出し、ドリアやクリームソーダと同じく机に置かれた資料を手に取り、A4サイズの紙束をクリップで留めただけのものに目を通していく。
永富らが居るネットカフェの近く、大手系列のファミリーレストランに虚の姿があった。静穂は所用で今は居らず、女性は静穂の居た席に座っている。
資料を捲り、情報を自分のものとしていく度に、虚は自身が置かれている状況に愕然とする。
(まさか、ここまでとはね)
ここまで自分が何も知らなかったとは思わなかった、というのが虚の率直な感想だった。浦島太郎かお上りさんか、常に全世界の注目を集めるIS学園に籍を置いていながらもここまで世事の裏を知らずにいたとは。
(何かあれば報告も来るし、お嬢様のお休みに合わせて実家には良く帰っていたのに……)
だがこうして布仏家の人間に運んでもらった資料は虚の知らぬものばかりだった。虚と同じくIS学園に在籍している楯無もこの情報を掴んでいるとは思えない。
布仏家から送られてきた資料を忙しなく捲り、現在に関連するものを脳内でピックアップしていくうちに、
(っ!)
その末尾に、息を呑んだ。
――汀 静穂に関する一次報告――
(これは、……)
何故これがここにあるのか。いや情報を欲しいと言ったのは確かに虚自身だが、これを布仏家の手から渡されるとは思わなかった。
何故、どうして、
(…………)
枚数にしてほんの数ページ。捲るかどうか、悩んで、
「お待たせしました」
「っ、――注文、来てるわよ」
当人が来てしまった。
流石に当人の前で事を知るのはどうかと思い、虚はその題目を閉じた。
遅めの昼食。チーム汀組と虚はこの町に来るまで大分の時間を消費していた。
双方共に食べ終わり、腹心地も少し落ち着いたところでの質問である。
「貴方、どっちのトイレに行ったの?」
「へ?」
静穂がトイレに行っている間に虚が布仏の人間と会う事に利用したのだが、
ふと、疑問に思ったのだ。
「トイレって、普通は女子の方しか――」
と静穂はそこまで言って即座に突っ伏した。
「何!?」
「いやその、なんの迷いも躊躇いもなく女子トイレを選んだ事実がですね?」
「……染まってるわね」
女子としての暮らしにどっぷりと。大丈夫だろうか、色々と。もう戻れないのではないだろうか。
(男の子ってみんなこうなのかしら)
彼とて織斑 一夏と同じ男子の筈なのだが、その外見からか何とも思わない。いやべつにさいしょからそんな期待などしてもいなかったのだけれども。
やはり人間、見た目が9割か。いや彼の場合残りの1割にも問題がある。
更識にも見通せない闇が――と考えて、少し改める。
少なくとも今は、虚の手元にはその答えが存在する。
(――止めよう、今はお嬢様が優先だから)
清濁併せ呑む。例え不透明でも戦力になりうるならば。
静穂が起き上がるのを見て本題へ。
「――今しがた布仏からある程度の資料が来たわ」
「さっきのお姉さんですか」
「ええ。公安の外事三課、……見てたの?」
その問いに静穂はクリームソーダに口をつけて、「トイレから戻ったら知らない人が席にいたので」
「貴方って人見知り?」
「知らない人は暗殺者と思えって要人保護プログラムで習いました」
「随分と極端ね……」
分からなくはないが。それだけ暗殺の憂き目に遭ってきたという事だろうか。
「あの話からの教訓?」
先程の談話室での話もその経験の一つなのか。
「ではないですねぇ。というかあの話、半分は嘘ですし」
「やっぱり。でも半分?」
「日本で殺されかけたのは本当。今と同じような状況になったのも本当。
嘘としてはテログループの目的がISではなかった事と、友達が同級生ではなかった事」
「…………」
「目的はストレートにわたしの暗殺で、友達はSPのお兄さんでした」
SPの男性とは仲が良かったそうだ。それこそ一緒になって夜更しに騒ぎ彼の上司にどやされる位には。
「今の話も本当?」
「その資料で答え合わせが出来るんじゃないですか? 黒塗りで潰されていなければ」
「!」
見られていた。いつの間に?
(トイレの入り口から? あそこからここまで何メートルあると)
このレストランは入る前から間取りを調べてある。対暗部用暗部の家系に仕えていれば当然の作業だ。
今虚のいる席からトイレまでは直線距離で約3メートル。その間には観葉植物の植木鉢があり、他の客も勿論いる。
人の身体と葉の間を抜けて約3メートル先、フォントサイズにしても20程度の文字を肉眼で見られる訳がない。
「ISね」ハイパーセンサーの望遠機能を利用したのだ。
(やはり彼がISを所持している)
虚の指摘に静穂は否定もせず、ただこう言った。
「誰にも言わないでくださいね。先輩達どころか1組の皆にも内緒にしているので」
静穂の発言に虚は、それもそうか、と納得した。
汀組の魅力は彼女達が徹底して個人の力、専用機ではない練習機の範疇のみでトーナメントの上位に食い込んでいる事にある。
その頭目が実は専用機持ちだったなど、話題としては内外共に望みはしないだろう。実はもっと大きなスキャンダルが彼にはある訳だが。実は女子ではなく男子だという事実が。
(でも彼は専用機の存在すら
何をしたいのか分からない。先刻の職員室での言葉と今の彼の言動とが一致するとは思えない。
「――貴方の専用機で助けてはくれないの? 一人でピューっと飛んで行って」
「…………」
静穂はクリームソーダを飲み干して、
「使えたらいいんですけどねぇ」
「専用機なのに使えないの? 貴方のものなのに」
「――わたしのものじゃないので」
静穂は続ける。椅子の背もたれに体を預けて。
「正確には使っていいのかどうかが分からない。いや現在進行形で使っているのだとしても果たしてそれが正しいのか、許されるのかどうかが分からない」
「許されるって誰に? 国?」
「篠ノ之博士」
とんでもない答えが返ってきた。
虚が静かに仰天しているのを余所に、静穂は物憂げとも言うべき表情を右目だけで表現する。
「博士と、義姉と、ISに、これは良いかと聞いてみたい。それが出来ないって分かっているのに」
篠ノ之博士など顔も見た事もなく、義姉とISに関してはもう会う事も叶わないのだが、と。
「貴方、」
「――随分と逸れましたね。そろそろ本題に入りましょうか」
――敵の規模は。自分達の於かれている状況は――
……紅茶とクリームソーダのおかわりが来て漸く、二人の作戦会議が始まった。
「IS学園包囲網が強固になろうとしている。織斑君の影響なのは間違いないわね」
「?」
……包帯で顔の多くを覆われている彼のきょとんとした顔を見て、彼は汀 静穂になるまでISの事など何も知らなかったのだと虚は気付く。
「IS学園包囲網。国家や民間を問わなければIS学園の機体所有数は世界で上位に位置するわ。アラスカ条約の中にはIS学園所有の機体が各国の有事に出撃する事はないという趣旨の文があるけれど、逆に返せば学園の有事には学園所有の機体全てが学園の外へ牙を剥く危険性があるという意味にもとれる。
それをIS学園は肯定も否定もしていないのだけど、IS学園の発足から前後して日本は自衛隊の装備規模をほんの少しだけど縮小したのが問題になった」
「IS学園があるから自衛隊は要らないって事ですか?」
「実際は装備の刷新があって型落ちになったものを処分したというだけだったけど、当時の世論はそうだったわね」
IS関連技術の一部が自衛隊の為の装備開発にも役立ったというのが内情だが、マスコミ、殊に日本のそれらは自国の不利益になるような情報操作を故意にやっているようにしか思えない。
それはさておき、
「『日本はIS学園を私物化、自国の戦力と計上している』と言うのが当時のマスコミが国内外に作り上げた世論で、それを鵜呑みにこそしなかったけれどIS学園の周囲はその状況を自分達の大義名分に利用した」
――米中露IS学園保護協定――
「通称IS学園包囲網。IS学園を囲む三つの国がIS学園を何人たりとも私物化しないよう監視するという趣旨の協定だけど、実際は日本がこれ以上軍備を強化させない為とアラスカ条約の遵守を強制させる為の暴力装置」
要するに同盟軍だと脂汗を浮かべ始めた静穂に注釈する。
「IS関連技術をアラスカ条約成立よりも早く軍事転用に成功した日本。条約成立した今はEOSという例外などもあるけれどどの国もIS技術を軍事に転用は出来ず、その隣国はISだけでなく日本という脅威にも対処しなくてはならなくなった。――というのが回りくどい大義名分」
「……ISの技術で力をつけた日本をいつでも押さえ込めるように、米中露の三国はアラスカ条約に引っ掛かるIS技術を使わなければいくらでも軍隊を強くしても構わない、と」
――理解が早くて実に助かる。
「実際の所は舌先ばかりで誰もそんなものを守ろうとはしていない。上辺だけは従前技術の発展と言っていてもその中身はIS由来の技術で真っ黒よ」そう言って虚は先程の資料から一部分を抜き取り静穂に手渡した。その資料の中身はとある
静穂が資料の写真を眺めながら、「無いって言い切るんですね」
「その資料は布仏からのものだけど、信用に足るわ」
「わたしの事は知らなかったのに。あんな事までしておいて」
抗議の目線だろうか。静穂は据わった目で訴えてくる。口元を尖らせているいる辺りから責める意図はないのだろうが、
(右目一つでよく物を言う)
「……それは更識のお嬢様がした事でしょう? 言ってしまえば私は布仏よ」
だからだろうか、虚はどうにも彼が男だという主の証言が信じきれないでいる。単に証拠を見ていないだけという話だが。
「同じじゃないんですか」
「似て非なる、かしらね。出来る事柄は似ているけれど、更識のサポートをするのが布仏よ」
虚の説明に静穂は「そうなのかぁ」と納得したのか手元の資料を捲っていく。
「この、重巡洋艦ですか? なんですかねこの筒、EMP?」
「それもIS関連技術の粋よ。数百メートルまで近づいてきたISに対して
「……何の意味もないですよね、これ」
そう、何の意味もない。
今の時代、主力兵器といえばISだ。その特徴としては機動性や同じIS以外では有効打にならない防御性能など多く挙げられる。
そんな中、たとえ電磁パルスがISに効いたとして、それをわざわざ主力から外れた艦艇という存在に搭載する意味があるかといえば、ない。
電磁パルスの有効射程圏内にISが入るかなどそれこそ何戦に一度あるかもわからず、効果にしても、
「実験すらしていないから効果があるかも不明。しかも電磁パルスの発生に膨大な電力を使うから、発電機器ばかりで対空火器すら積んでいないわ」
「不用品の押し売りですか」
よくもまあ中国はこんなものを買ったものだと二人は眉をひそめる。いや他の艦艇に対空火器を積んである分、複数隻で一セットと見るべきか。ロシアが中国に売った艦艇は全5隻。電磁加速砲の一門しか搭載していない艦艇も含め、ロシアとしては作ってみたはいいものの、所在なく腐らせるよりはといったところか。
ロシアはIS発表の初期から研究開発に着手している。噂では第3世代機の研究においてアメリカよりも一歩進んでいるとすら。これらの艦艇にもそういった研究の転用が可能かという実験的意味合いがあるのだろう。まだ詳しく読んではいないが、そういった裏事情も布仏の資料にはある筈だ。
「あの」
「? 何?」
「えと、何の話でしたっけ」
「……私の情報は開示したわ。外敵になりそうな可能性のものを調べた結果がこれよ」
「船が飛んでくるっていうんですか?」
「搭載された電磁加速砲の射程は日本海からIS学園を狙い撃ちできるらしいわよ?」……とはいえ、と虚は軽く息を切り、「来るとしたらISでしょうし、そのISが襲ってくるなんて情報は無いわね」
と、嘘をつく。虚はそこまで彼を信用できなかった。彼が現状を投げ出して
「じゃあ、貴方の番よ」
布仏の家では楯無が音信不通になる程の問題は判明せず、
その口調とは裏腹に、虚は彼に縋るような思いであった。
書き始められたのはいいものの、進めたい所までたどり着かないという。
次回の次回くらいには進めたい所まで行きそうですが、それも仕事と体調次第。
こんな体たらくですが、これからも拙作を宜しくお願い申し上げます。