IS 灰色兎は高く飛ぶ   作:グラタンサイダー

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47.漸くのスタートライン ①

 望もうと、望むまいと、

 檜舞台に立ったからには、演者はその役を演じきらねばならない。

 寄る辺でもなく、大樹でもなく、

 ただ側に、並び立ちたいと願う、その思いだけを、押し通すとしても。

 檜舞台に、皆縛られる。嘲り笑う観客を前に、果たしてどちらが踊るのか。

 ――だが、ただ一人、

 黒子だけが、自由なのかもしれない。

 自由だからこそ、正さねばならない。

 全ての間違いを、正さねばならない。

 たとえその場に身を晒す事になったとしても。

 否、その時のみが、

 その時のみ、黒子は高く飛べるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園、正門にて。

「じゃあ行こうか」

「あれ? 松葉杖はどうしたんだ?」

「リハビリも兼ねて杖なしで行ってみようかと」

「……無理すんなよ?」

「信用ないなぁ」

『…………』

 

 

 IS学園の最寄り駅にて。

「このモノレールも久しぶりだよ」

「静穂はあまり外出しないのか?」

「学園の購買で事足りるからねぇ」

『…………』

 

 

 最寄り駅から数駅。駅一体型のショッピングモールにて。

「こういう場所でエレベーターって使いにくいよな」

「健康だとそうだね。でも今のわたしなら堂々と乗れる気がしない?」

「そっちの意味じゃなかったけど、むしろ乗らないと駄目だろ。ほら」

『!』

「え、何その手」

「転んだりしたら大変だろ? しっかり掴まれよ」

「――じゃあお願いします」

『…………』

 

 

 …………、と、このように。

 遠くもなく、近くもなく。

 二人が学園を出てからこの方、一夏と静穂の後方に、今は自動販売機の陰に身を潜める少女達の姿があった。

 セシリア、鈴、シャルル、ラウラの四人。箒こそ居ないがいつものメンバーである。

「なによ一夏の奴」と鈴。「静穂にだけは優しいじゃない」

 そこにシャルルが反論。「でも静穂は怪我人だからまだ当然と言えば当然だよ」

 するとセシリアが不満を口にする。「ですがあの紳士振りを普段から発揮してくれていたらと思うと……」

 ああ……、とラウラを除く三人が溜息を吐いた。

 確かに別段の意図はなしにあれくらい軽度且つ適度にスキンシップをとってくれたらどれ程の極楽かと三人は思う。だがボディタッチ即ち愛情表現ではない事に彼女達は気づいていない。

 尾行の真っ最中に対象から目を離している彼女達を他所にラウラがうんうんと頷き、

「流石は嫁と義妹(いもうと)、いい連携だ。では私も合流――」

『!!』

 ――自動販売機から離れた途端、三人から影に連れ戻された。

「? 合流してはいけないのか」

「当たり前でしょうがこのバカ!」

「それではせっかくの尾行が水の泡ですわ!」

 尾行って……、とシャルルは苦笑いを浮かべた。

 

 

 この尾行のそもそもの原因は、先のトーナメント直前に流れた箒と一夏の約束にまで遡る。

 

――トーナメントに優勝したら付き合ってもらう――

 

 当事者間でのみ有効であったはずのこの約束だが、いつしか尾ヒレがついて泳ぎ出し、

 

――トーナメント優勝の賞品は男子との交際権である――

 

 とまで発展していた。

 この噂はクラスを越え学年を越え、学園中に行き渡り、ちょっとした騒ぎにまで発展する。やれ学年別優勝者で最後の一人になるまで戦うのか、やれ優勝インタビューで報告してもいいのか等々。

 そうして先日、1年の部が終了したのだが、その終わり方に問題があった。

 没収、無効試合だったのである。つまり明確な優勝者が居ないのだ。

 更に今回のトーナメントはタッグ形式で行われた。其処も事態をややこしくさせた。一体どちらがどちらの交際権を取得するのかだ。

 幸いと言って良いのかどうかは定かではないが、決勝進出者のうち二名は男子であり、消去法でその権利を取得できたであろう人物は特定されている。

 要するに問題としてはラウラと静穂、この二人に男子との交際権を授与されたとして良いのかどうか。

 もしも試合が恙無く終わっていればはっきりとしていた。だが試合内容はラウラが機体の暴走、一夏が機体の機能停止、静穂は肉体限界で生徒会長に押さえ込まれ、シャルルが弾切れによる継戦能力の喪失と、散々たる状態で幕を下ろしたのだ。もし続いていたとしても試合の様相を呈するかどうかすら怪しい。

 そんな喧々諤々の状況下でラウラのキスからの嫁宣言などもあったがそれはさておき。

 

 

 汀 静穂は廊下にいた。

 肩に掛けた制服の裾が揺れ、松葉杖でひょこひょこと進む。

 完治にはまだ遠いのだが、PICで浮かんででも授業には出ろという織斑先生からのお達しに従い、静穂は廊下を進んでいた。

 実際のところ松葉杖はオマケだ。静穂は今、耳のない某ネコ型ロボットのように超低空をPICで浮いている。普段から履く長い丈のスカートで足元を隠し、一本の松葉杖に目線を集めて誤魔化している。

 正直、自分の足で歩くよりも辛い。早過ぎず遅過ぎず浮き過ぎず。歩行の際に生じる上下動までPICで再現しなければならない。

(……痛いなぁ)

 傷の事ではない、傷に関しては動けるまでに回復している。PIC無しでは未だ歩けず、痛み止めも必要ではあるが。

 痛いのは視線だ。好奇とも畏怖ともつかぬ視線が、すれ違う度に注がれる。PICがバレてはいないだろうかと冷や汗が流れる。

 見世物ではない、と言えばそれで済むのだろうか。それとも自意識過剰と蔑まれるか。

(?)

 ひそひそと話す女子達の前を通り過ぎる。

「もう動けるなんて」

「聞いた話だと這って試合の続きをしに行ったとか」

「……化物?」

(聞こえているんだけどなぁ)

 今や身体機能の一つとなったハイパーセンサーが内緒話を勝手に聞きつけ音声を拡大して静穂の耳に届けてくる。

 それにしても、

(化物、か)

 内緒話に出てきた単語を、静穂は脳内でくり返した。

 確かに他人が静穂の現状を知れば誰もが化物と言うだろう。

 体内にISコアを有し、一次移行を済ませ、正式にIS、グレイ・ラビットの主となった静穂は、その気になれば小指一本で生身の人間を葬り去るだけの膂力を持余している。

 自身の事でなければあまり近づきたいとは思えない。ラビットが消え、自身で制御できるようになった今でこそ平気を装えるが、それまでの静穂は他者を簡単に傷つけてしまう状態だった。

(師匠やお鈴もそうなのかな?)

 以前に織斑先生は、今の静穂を専用機持ちと同じだと表現した。

 落ち着いた今だからこそ、その意味が分かる。

 人をた易く傷つけられる力を持っていて尚、それを御する精神が必要なのだ。

 御する精神は、それを持つ事自体が義務だ。持たなければならない。持っていなければならない。

 ラビットに振り回され、責任をラビットに転嫁していた自分は、織斑先生の言う通りとても不快に映っていただろう。

 松葉杖を掴む左手に、思いもよらず力が篭る。

 木製のグリップは割れず、指先まで巻かれた包帯が擦れる音がした。

 化物の握力は、完璧に抑えられている。

(うん、大丈夫)

 静穂の中にラビットはもう居らず、代わりに責任が残った。

 彼女の分まで生きていくという責任が。

 ――廊下をひょこひょこと進んでいく。

 病室から教室までは、ほんの少し遠い。

 

 

 やっと教室までたどり着くと、廊下で代表候補生が団子になっていた。

「ですからタイミングが重要だと思いますわ」

「お昼ご飯に誘う勢いじゃ駄目なの?」

「シャルルは同じ男子だからそう言えるのよ」

「私が行けば」

『それは駄目!』

「おはよう」

 声を掛けると内側から弾けたように広がった。

 セシリア、シャルル、鈴、ラウラ。

 集まるだけで絵になる面々が一斉にこちらを見る。

(うおぅ)とついのけ反りそうになった。

「む。義妹(いもうと)よ、眼帯はどうした」とラウラが静穂の顔を指摘する。

「義妹じゃあないし、包帯を巻いているし。傷口を圧迫しちゃうから着けられないよ」

 勢いに押されながらも静穂は「何の話? もうすぐ(ショート)(ホーム)(ルーム)始まるよ?」と伺ってみる。というかラウラはいつの間に溶け込んだのか。

「オルコットと鳳が嫁に水着を選んで欲しいようでな、私に許可を求めてきた」

「ちょっと待ちなさいよ!」

「わたくし達は認めておりませんわ!」

 三人がISを部分展開し睨み合う。そんな簡単に力を行使していいのか代表候補生。

 仕方がないので静穂はシャルルに続きを促した。

「で、何があったの?」

「あ、えっとね――」

 

――要約。臨海学校の買い物と称してデートがしたい代表候補生達――

 

 成程、と静穂は頷いて、

「つまりシャルルくんも一夏くんとデートがしたい、と」

「ちょっと!?」

「え、違うの?」

「違、ええっ!?」

 いやでも僕は男だし、でも本当は、あれぇ!? と。

(うわぁ)

 三竦みでISを部分展開し睨み合う専用機持ちと、思考の坩堝から帰って来られず頭を抱える専用機持ち。

 これらを見て静穂は(面白いなぁ)と思いつつ気付く。

(わたしもこう見えているんですか? 織斑先生……)

 傍から見ていれば面白くとも、自分もその内に入れられるのは勘弁願いたい。

 せめてここまでではないと思いたく、静穂は行動に移った。

 四人を放っておいて静穂は教室の中、一夏の許へ。

 いつも通りの彼が其処にいた。

「おう、静穂。具合はどうだ?」

「おはよう。ちょっと複雑かな」

 主に廊下のせいで。

 なんだそれ、と一夏は笑う。

「そういえば静穂はカウンセリングをもう受けたのか?」

「え、何それ」

「保健の先生が念のために受けろって言うんだ。俺ってそこまでひ弱に見えるか?」

「……、でも受けた方がいいよ」

 確かに今の彼を見る限りではその心配はなさそうではあるが。

 そんな彼に静穂は切り込んでいく。

「一夏くん、今度の休みは暇?」

 廊下で物音がした。

「暇だけど何だ?」

「師匠とかお鈴とか、いつものメンバーで買い物にいくけど一夏くんもどう?」

「ああいいぞ」

 じゃあ後で、と言って別れ、静穂はもう一度扉へ近づき、そっと覗いていた彼女らに対し一言。

「という訳で、よろしく」

 そう言って静穂は自分の席へ。

 廊下から4回、凄い音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そして現在、彼女達は一夏と静穂に合流する事なく二人を追跡している。その理由とは、

 セシリアが再度確認するように語り出した。

「よろしいですか? この前すんなりと一夏さんをデ、……買い物に誘う行動力からみて、静穂さんは男性との接し方についてわたくし達よりも経験がある様に思われます」

 接し方も何も静穂は男だからだと思うけど、とシャルルは思うが口には出せず。

「静穂さんには後で合流すると伝えてあります。わたくし達の目的は二人を観察し、静穂さんがあの権利を行使したのかどうか、それを見極める事」

 あの権利、トーナメント優勝の賞品であった男子との交際権を、同じ男子の静穂が?

「なるほど。未知数の敵に対する情報収集のようなものか」

「そんなに上手くいくかなあ?」

 シャルルにしてみれば同性愛などフィクションの産物以外にはないと思うのだが。

 そうシャルルが言うと鈴が、

「アンタ、そんなんでいいの?」

「えっ?」

「しっ!」

 セシリアの号令で伸ばしていた首を急ぎ戻す。

 一夏が後ろ、こちらを向いていた。

 こういう時だけは勘がいいわね、と鈴が毒づく。

「今回は静穂さんを知る為でもありますわ。今日の味方が敵となるなんて、とても許容できませんもの」

 静穂を知る、とはどういう事だろうか。

「じゃあ聞くけどアンタはシズの事をどれくらい知ってる?」

 その問いかけにシャルルは答えられなかった。

 知っているには知っている。だが理由までは分からない。

 どうして女装をしているのか。身体の傷痕は何なのか。

 銃の腕は何処で習ったのか。どうして操られていたのか。

 どうして何も言わないのか。どうして傷だらけになっても笑っていられるのか。

 傷の治りが早すぎないか。あの頼み事は無茶苦茶だとか。

 言いたい事が多すぎる。知っている事は殆どない。

「というか、あたし達全員、静穂について何も知らないのよ」

「私は知っているぞ」

 !? 三人が揃ってラウラを見て、

「義妹は良く食べる」

 膝から崩れた。

「そんな事、ずっと前から知ってますわ……!」

「と、とにかく。これ以上ライバルは要らないのよ」

(本音はそれなんだね)

 一夏争奪戦に静穂が参戦してほしくないのだ、要は。

 それについてシャルルは何の心配もしていない。

(だって静穂は男の子だから)

 だがそれを知っているのはシャルルのみ。そこにシャルルはちょっとした優越感を得た。

 ……とにかく。

「やっぱり良くないよ」

 聞いてみたいとは何度も思った。けれどこの尾行でその答えが得られるとは思えない。

 他人のプライベートを覗き見る真似はあまりしたくなかった。自分が探られると痛い腹を持っているというのもあるが。

「シャルルさん、ここまで来たら一蓮托生ですわ」

「そうだな、訓練の一環だ」

「シャルルだってシズの好きなタイプとか知りたいでしょ?」

「なんで僕が静穂の!?」

「! 見失いますわ!」

 ちょっと!? というシャルルの反論が届く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな珍道中紛いの尾行が行われている事など露知らず、二人は買い物を済ませていく。

「宅配にして本当に良かったのか? 送料がかかるだろ」

 缶コーヒーを手渡しながら一夏はベンチに座る静穂に聞いた。

「別に疚しい物は買ってないし、量も多かったから。一夏くんに到底持たせられる量じゃあないよ」

 缶コーヒーのプルタブを開けられず一夏に開けてから渡し直してもらいつつ、静穂は説明する。

 ――スポーツ用に落ち着いたとはいえ兵器としても扱われるIS、絶対防御があるとはいえその教育機関となれば怪我で運ばれてくる生徒の数も少なくはない。

 だが静穂のように消毒液や生理食塩水を湯水のように消費する患者が現れるのは予想外だったらしく、業者の補充まで余裕が無いという事態に陥った。

 そこで静穂がリハビリと自分の買い物をも兼ねてショッピングモールに買出しに出る事になったという訳だが、其処にどういう訳か職員室の教員陣からも要請が来たと言う。お釣りはいいですから! と職員室代表の山田先生から渡された金額はお釣りの方が多いらしい。ちなみに一夏が手伝った事と言えば宛名書き。

 静穂個人の買い物は全て薬局で事足りるものばかりだった。シャンプーとリンス、石鹸、ガーゼに包帯、消毒液等々。それも一緒に宅配で任せてある。二人が今持っているものは財布と今飲んでいる缶コーヒーくらいだ。

「でもこれって皆で買い物って感じじゃないよな」

「――、そうかな?」

 一夏が顔を覗くと、静穂は澄ました顔で他所を向いた。

(ああ、またか)

 一夏は溜息を吐いた。

 この友人、異性とはいえ学園で最も自分に近い感性を有している彼女は、どうも自分達から一線を引いている気がしてならない。

 どうせセシリア達が用事で遅れずに最初から一緒だったならば、いつの間にか消え何食わぬ顔で買出しを済ませていただろう。

 腕を吊り、普通に歩くのも覚束ない状態でだ。理由はどうせ『自分と一緒だと全部回れなくなるだろうから』といったところか。

「……静穂」

「何、っ?」

 肩を掴んで顔を起こさせた。

「今からお前の行きたい所にいくぞ」

「……遠いかもしれないよ?」

「遠くてもいい。まだ昼前だし少しくらい門限を破っても俺がなんとかする」

 これに対して静穂は、

「……なら、一箇所だけ」

 これくらい強く言わないとこの友人は人を頼りにしないのだと一夏は覚えた。

 後はこれを合流してくる仲間達にも伝えないといけない。

 

 

 実は後ろにいる仲間達なのだが、

『…………』

「今、キスしようとしてなかった?」

「位置の関係からそう見えただけでしたわね」

「ふむ、嫁はまだ義妹の事を其処まで気に入ってはいないという事か」

「……ねえ、みんな」

 何だと目線で訴える三人にシャルルは提案した。

「とりあえず武器を仕舞おう、ね?」

 セシリアがライフル、鈴が青竜刀を呼び出したのを見て周囲の一般客が引いている。

「シャルル」とラウラ。

「どうかしたの?」

「貴様もその得物をしまえ」

 え? と自分で確認すれば、しっかりと安全装置まで外したアサルトライフルがシャルルの手にあった。

「え、あ、な、なんでだろうね? あははは」

 

 

 ……こうして静穂の行きたい所に行く事になったのだが、別段遠い訳ではなくこのショッピングモール内にあるらしい。

「何処に行くんだ?」

「ランジェリーショップ」

 一夏の足が止まった。

 それを見て静穂はしたり顔で「冗談だよ」

「そ、そうか」

 内心で胸を撫で下ろす。行きたい所とは言ったがそういう場所だけは勘弁願いたい。今のご時勢に男が一人そんな所に居たら即逮捕だ。今の冗談は心臓に悪かった。

 一夏が追いつくのを確認して静穂が話し出した。

「ふと思ったんだけど一夏くん、模擬戦の勝率って今どのくらいかな?」

「勝率か? ……一割もないな」

 静穂の予想以上に酷かったらしく彼女の顔が苦笑いに変わる。

 トーナメントが始まるまでは二割はあった気がするのだが、セシリア達と行っている模擬戦では先日のVT戦で垣間見た剣の冴えが完全に隠れてしまった。

「何か掴んだと思ったんだけどな……」

 なまじその感覚をおぼえている為か、トーナメントが終わって以降模擬戦の結果は今まで以上に振るわなくなっていた。というか静穂以外に勝った例があっただろうか。

「皆の指導は覚えてる?」

「覚えていると言えばいるけど」

 正直まともに頭に入った指導はシャルルくらいのものだ。

「じゃあそれをこれから実践してみようか」

 ショッピングモールでIS戦でもやろうと言うのだろうかこの友人は。

 そう思いつつも二人はある一区画で足を止めた。

 明るいイメージだったこれまでの場所とは違って暗い。だがただ暗いのではなく、明かりが天井ではなく自分の目線に置かれたような印象を受ける場所だった。

 さらにこれまでの道程で聞いていた以上に環境音が大きい。音楽もそうだがとにかくうるさいと一夏は感じる。

「行きたいところってゲームセンターか」

 そう言って思い返す。中学からの友人である五反田 弾とエアホッケー対決で16連勝の記録を打ち立てたのは記憶に新しい。静穂ともそれをやるとしたらどのくらい手加減をしたらいいのだろうか。というか怪我人が身体を動かすようなゲームをしようものならば止めなくては。

 第一に彼女はこれまでの指導を実践すると言っていた。つまりIS関連のゲームでもやらせるつもりだろうか。だとすればIS/VSくらいしかない。最近は弾の家でコンシューマ版をやったばかりだ、アーケードの猛者と対戦するのもいい経験になりそうではある。

 だがその予想は簡単に覆された。

「あ、新作が入ってる」

 そう言って静穂が寄っていく筐体は業務用冷蔵庫程はある代物だった。

 その筐体の手前には大きな拳銃型コントローラーが2丁突き刺さっており、画面ではテロリストが都市ビルを制圧する描写を流し続けている。

「じゃあ、やろうか」

「やるって」

 何をするつもりなのか。

 画面の大爆発を背に静穂は笑って、

「射撃訓練。クリアするまで帰さないよ」




 IS学園の生徒になって練習機を弄繰り回して乗り回すゲームとか出ませんかね。

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