これ以上下がらないってぐらいテンションが落ちている今日この頃……
結局荒木が戻ってくることはなく、FCとSCの代表決定戦の日がやってきた。
荒木はこの2週間、練習はもちろん学校にすら姿を見せず、家族によると家からも姿を消したらしい。
(本当に南の島にでもいったのかもな)
「おい、聞いているのか輝也!」
「おっと、悪いマコ」
輝也が荒木のことを考えているうちに試合前の最終ミーティングが始まっていたようだ。
「おいおいしっかりしてくれよー、今日の試合はお前次第なんだから」
「分かってるよ、マコ」
「スタメンは昨日言った通りでいきましょう。歳條君はトップ下でゲームメイクを、左サイドのマコ君はそのサポートを」
「「了解」」
「火野君がサイドに流れた場合は歳條君か駆君が空いたスペースを使っていき、流動的に動いてポジションチェンジを織り交ぜつつ、相手の守備を崩していきましょう」
「「「「はい」」」」
こうして最後の戦術確認を終え、FCの面々は整列のためにピッチに向かった。
『えー、いよいよ今年も夏の総体予選に向けての代表決定戦が始まります』
「うわ、実況までつくのかよこの試合」
輝也は実況がいることに驚きつつ、両チームのスタメンを確認した。
FC
監督:岩城鉄平
11 火野淳平 12 逢沢 駆
⑧ 兵藤 誠 9 歳條輝也 7 的場 薫
6 桜井 学 5 浜 雪蔵
2 三上信二 3 錦織 豊
4 堀川明人
1 紅林礼生
SC
監督:近藤正勝
9 工藤健哉 14 高瀬道郎
7 中村一馬 ⑪ 沢村優司 6 八雲高次
5 坂元修二 10 織田涼真
4 不動健児 2 海王寺豪
3 金森 隼
1 藤堂慎太郎
(隼さんもスタメン入ってるんだよなー。個人的に対戦できるのは嬉しいけどチームとしてはキツイな)
本格的なSCのスタメン紹介と明らかに手抜きなFCのスタメン紹介を聞き流しつつ輝也は考えた。
(駆と薫はマコがいい感じに話しかけてくれて緊張はとれてるな。あとはやれることをやるだけか。まぁ、)
一方SC側では隼がFCのスタメンを確認していた。
(荒木は戻って来なかったか。まぁそれはいいとして、ちょっと予想外なのは輝也のトップ下かな。兵藤がトップ下に入ると思ってたんだけどなぁ。まぁ全く想定してなかったわけではないし何とかなるだろう。まぁ、)
そして、
ピィーーー!
((俺たちが勝つ!!))
江ノ島高校サッカー部伝統の、代表決定戦がキックオフした。
――――――――――――――――
試合はFCボールでキックオフされ、まず輝也のもとにボールが渡った。
(さてさて、どう攻めていくかなぁ。……つかトップ下とか久しぶりだな)
輝也はストライカーではあるが、状況を見て中盤の位置まで下がり攻撃の組み立てに参加することも多かったため、フォワードとしては劣るもののトップ下としても十分な実力を持っていた。
ボールをもってパスを出す選手を探しながらゆっくりとドリブルしていく輝也のもとに、SCのキャプテン沢村がプレスをかけてきた。
「お前がトップ下とはな。荒木は帰って来なかったようだな」
「心配いりませんよ沢村さん。荒木がいなくても、」
輝也は左サイドからフォローに来たマコとのワンツーで沢村を抜く。
「なっ!?」
「ウチの戦力は、これまでとは段違いっすから」
ボールを受け取った輝也は前線の駆へとパスを送るが、パスルートをふさがれる。
しかし、パスルートに入った的場がヒールで方向を変え、左サイドに開いた火野へとパスがつながる。
火野はそのままサイドをドリブルして突破しようとするが、SCのよせは早いため、後ろのマコに下げる。
(さすがにサイドへの寄せは早いな。お、これはちょっとやばそう)
ボールを受け取ったマコはエリア内に飛び込む駆にクロスをあげたが、隼にクリアされ、さらにそのクリアボールはSC10番の織田の足元にこぼれた。
「やべぇ」
織田はそのままクリア――――――と見せかけて前線の高瀬へのローグパスを送った。
「ナイス織田さん」
『織田のローグパスが前線の高瀬に向かっている。SCいきなりチャンスか!?――いや、クリア!クリアです。なんとFCの歳條が189㎝の高瀬との競り合いを制しました!!』
輝也の身長は185㎝とチームトップとなっている。さらには、イギリスのクラブユースでのフィジカルトレーニングを経験したため、空中戦は得意となっている。
輝也がクリアしたボールはSCのボランチが拾い、サイドへ展開される。そのままドリブルで突破されクロスをあげられた。輝也はそのまま高瀬をマークしていたが、クロスは高瀬を超え、走りこんでいた工藤がシュートを打つ。紅林がなんとか反応し、ゴールラインを割る前に戻っていた駆がクリアした。
「マコ!!」
輝也は前線に戻りながら近くにいたマコに声をかけた。
「これからシンプルなクロスは極力控えよう、隼さんにヘディングで織田に繋がれてカウンター喰らったらそのうち失点する」
「り、了解」
(なんとか崩していかないとな…)
しかし、その後も攻め込んではボールを奪われ、カウンターを喰らうというパターンが何度も繰り返されるようになる。何とか輝也が高瀬との競り合いを互角の勝負に持ち込むが、セカンドボールを相手に奪われてピンチが続いた。
(コーナーキックも厳しいな。こっちが身長はボロ負けだし)
高瀬のマークは輝也がついているが、それでも100%勝てるわけではなく、さらには他の選手もFCより身長が高い選手が多い。
マークについても身長差は歴然としていた。
「駆!隼さんしっかり見とけよ」
「うん!」
「火野は坂元マーク、沢村さんはマコがつけ!!」
「「おぉ!!」」
『さぁSCのコーナーキックです。織田は誰を使ってくるか』
織田が蹴る瞬間、隼が駆のマークを外してエリアから遠ざかっていくのを輝也は見逃さなかった。
「!?駆!隼さん外すな!!!」
「え!?」
織田が蹴ったボールはゴールとは反対の方向へとカーブしていきそれを隼は体を反転させながらのボレーシュートをゴールへと叩き込んだ。
「くそったれ、完璧なボレーっすよ…隼さん」
「そいつはどうも」
『ゴ、ゴール!!!目の覚めるような強烈なボレーシュートが決まりました!SC先制!!』
試合はその後、駆のボールロストからカウンターを喰らい、輝也が戻り切れずに高瀬にヘディングで追加点を決められ、0-2で前半を終了した。
さらにDFの三上が最後の高瀬との競り合いで肩を負傷してしまった。
「三上さん大丈夫っすか?」
「肩の脱臼ですね。交代するしかないでしょう」
「となると後半は10人でやるしかないか…」
「「「………」」」
(やべぇな、空気がheavy)
海外での経験から場慣れしている輝也を除いた選手達の表情は冴えない。
1人少なくなるというアドバンテージにチームの雰囲気は暗くなる。
特に失点に絡んでしまった駆のテンションは、試合前からかなり落ちてしまっている。
「どうしたよ、みんな。もうギブアップなのか?公式戦でも退場者がでたら10人でやることなんてよくあることだぜ」
「歳條君の言う通りです。前半までで、もう諦めてしまうのですか?そして、FCはそんなに心の弱いチームだったんですか?」
「すいません、俺のせいです。俺のミスで2点も……」
「駆」
駆の言葉に座って聞いていた輝也が立ち上がり、駆に向けて言った。
「言い訳はするな。ミスをしたんなら自分で取り返せ。……答えはゴールで出せよ」
「…っ!?」
輝也の言葉はかつて、傑が駆に向けて言った言葉だった。
(まぁあとは奈々にフォローしといてもらうかな)
「そうだぜ駆。”答えはゴールで出す”って言ってその通りにキメてみせたあの時のお前はどこにいっちまったんだよ!駆!」
輝也がそう思っているときツンツン頭の選手が声をかけてきた。
「公太!?」
「……誰だっけ?」
「……輝ってなんで公太君のことすぐに忘れちゃうの…?」
「…分からん」←(誰かということは思い出したが、苗字は思い出せない)
亜理紗の呆れた言葉に輝也は目をそらし、奈々は苦笑するしかなかった。
「い、いいの公太?SCの先輩たちがすっごいこっち見てるけど」
「やめた」
「え?」
「SCはつまんねーからやめたっ!」
「………」
公太の爆弾発言に駆はもちろん輝也や岩城監督も含めた全員が固まった。
「そんで今からFCに入れてもらう。いいっすよね?岩城センセ」
「えぇもちろん大歓迎ですよ、中塚公太君。ちょうどDFが1人欠けてしまったところでした」
「サイコーだぜお前」
「へへ、よろしくっす」
「あ、そうだ中塚だ」
「…輝、今思い出したんだ」
「あ、あんまりだぁぁぁぁぁ」
輝也のあんまりな言葉に中塚は泣き叫んだ。
好きな選手と聞かれたらイブラヒモビッチと答え、
好きなチームと聞かれたらチェルシーと答えてきました。
チャンピオンズリーグでパリサンジェルマン対チェルシーとかいう組み合わせなった時は本当にどっち応援するか悩んだ…。
……結果はイブラが退場したパリが勝つっていう筆者にとっては一番最悪な結末で一週間テンション下がってました。
イブラがチェルシーに移籍するかもしれなというスポーツニュースを見た瞬間、まだ可能性にもかかわらず飛び跳ねて喜んだりしたし。
まぁ……チェルシーに順位見てまたテンション落とすけどさ……