Golden Arrow   作:ibura

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待っていてくれた人がいるのなら、お待たせしました。

就活が始まって忙しいのに、なぜかやる気が出てきてます。


初戦

静岡での合宿を終えた一週間後、江ノ島高校サッカー部の面々は、幕を開けた高校総体神奈川予選の初戦当日を迎え、試合会場となる慶早大付属湘南高校のグラウンドへと向かっていた。

 

「よぉ、久しぶりだな輝也、金森」

「お久しぶりです、タカさん」

「あぁ、久しぶり」

 

試合を目前に控えた輝也と瞬は鎌倉学館のキャプテン、鷹匠 瑛(たかじょう あきら)に呼び出されていた。

 

「ったく、日本に帰ってくるんだったら何で鎌倉学館(うち)に来なかったんだ、輝也」

「まぁ…いろいろとありまして」

「いろいろだぁ?」

 

鷹匠は輝也の言葉に含まれる人物に見当をつけ、ため息をついた。

 

「祐介といいお前といい、傑の弟がそんなに気になるのか?」

「別に駆だけが理由じゃないですけど、まぁ気にはかけてますよ」

「……まぁいい。その弟も含めて今日の試合は見させてもらうぜ。情けねぇところ見せるなよ」

「誰に向かって言ってるんですか」

 

そう言って輝也はチームメイトのもとへと向かった。残った隼は黙って鷹匠を見ていた。

 

「お前との決着もつけなくちゃな、金森」

「そうだな、鷹匠」

「俺らと当たるまで転けるんじゃねぇぞ」

「分かってるさ、あいつをそう簡単に負けさせるわけにはいかない」

「………当然だ」

 

待っていた亜理紗とともに歩いていく輝也の後ろ姿を2人は見つめた。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

慶早との試合前、整列している両チーム、主に慶早側に黄色い声援が飛んでいた。その声に慶早の主力2人、中島と島谷が応えさらに応援の声はます。このことに織田といった江ノ高の真面目組は当然怒りを見せていたが、もう1人意外な人物が静かに、しかし確実にキレていた。

 

「お、おい輝也、何イライラしてんだよ」

「……別に」

 

チームの1番端に立つ輝也に向かって、その隣に立つ荒木が声をかける。輝也は口では否定するが、その雰囲気は明らかにイライラしていた。

 

「ただちょっと…昔からあいつらが気に入らないだけだ」

「あいつらって中島と島谷のことか」

「あぁ」

 

輝也はイギリスへ向かう前に、県のトレセンで中島と島谷と面識があった。その時から輝也はこの2人には才能があると感じていたが当時から練習に対するストイックさが足りないと考えていた。

 

「才能があるのに努力しない奴が俺は大っ嫌いなんでね」

「………」

 

試合前の円陣を組み終わり、それぞれのポジションへと向かっていく中、荒木は輝也が呟いた言葉が自分にも向けられているように感じ、その威圧感から冷や汗を流す。

 

「お前もあいつらみたいになって俺を失望させてくれるなよ」

「あぁ分かってるよ」

「まぁまずは痩せないと話になんねーけどな」

「う、うっせー!!これでも痩せてきてはいるんだぞ」

「ならいいけど。まぁとにかくこの試合だ、勝つぞ」

「当たり前だ」

 

そういって2人はお互いのポジションへと移動した。

 

 

 

 

 

江ノ高スターティングメンバ―

 

    歳條 9

火野11    的場 7

 

  兵藤 8 荒木10

沢村 5 織田 4 八雲 6

  金森 ⓷ 海王寺 2

    紅林 1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

輝也はCFの位置に移動すると、慶早ボールのキックオフのため中島と島谷がセンターサークルの中に立っていた。

 

「2人とも、久しぶりですね」

「まさかU-18日本代表にこんなところで会うとはな」

「なんでお前こんな無名校にいるんだよ」

「別に俺がどこのチームに所属しようが勝手でしょう」

 

島谷の言葉に、あっけらかんとした態度で輝也は返答する。その輝也の態度に2人は反応する。

 

「お前ほんっと生意気だよな」

「そんなことないですよ」

「…チッ」

 

これ以上反応したら輝也の思うツボだと判断した2人は何も言わなくなった。

 

「まぁお前は昔からそうだからいいとしてだ…」

「お前らのそのフォーメーションはなんだ?俺たちを舐めてるのか」

 

輝也に話しかけられる前から2人で話していたことを輝也に聞く。

 

「別に舐めてないですよ。勝つための戦術です」

「勝つためって言うんなら何でDFが2人しかいねーんだよ!!」

 

江ノ校のスターティングメンバーはDFが2人の2-5-3というフォーメーションだった。客観的に見て異常な超攻撃的フォーメーションに中島と島谷が自分達が舐められていると考えるのはおかしくない。

 

「チッ……試合始まって後悔しても遅いぜ」

「前半で試合きめてやる」

「できるもんならやってみてください」

「「…クソが!!」」

 

再び輝也が舐めた態度を取って、2人のイライラはピークに達している状態で試合は始まっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--おかしい

--どうしてだ

--意味がわからない

 

前半が終わった時、中島と島谷は揃って困惑していた。

格下の馬鹿みたいな超攻撃的なチームと思い臨んだ前半は、予想していなかったようなスコアとなった。

 

「……0-2かよ…クソがっ」

「まぁでもカラクリは分かった」

 

DFが手薄だと思い込み空いているスペースを狙って中央から攻めれば、いつの間にかDFとボランチに囲まれてボールを失い、ならばとサイドを突破しようとすると予想以上に敵がいる。

ボールを失い江ノ校(相手)の攻撃になれば、パスを繋がれあっという間に自陣のゴール前まで攻め込まれ、デブの10番はその身体からは考えられないようなドリブルで突破され、最後は憎たらしい後輩に決められた。

 

「だがあの戦術だと運動量はかなり多くなる」

「両サイドはかなり走ってたしあのデブも前半終わり前にはだいぶバテてた」

「足が止まったところで一気にひっくり返す!!」.

 

 

しかし2人は気づいていなかった。

輝也がまだ本気を出していないということに。

その事に気づいていたのは江ノ校の面々は当然だがもう1人、スタンドで観戦する中にもいた。

 

 

 

 

 

「え、鷹匠さんそれホントですか?」

「あぁ、間違いない。輝也は前半は本気じゃなかった」

 

スタンドで観戦していた鎌倉学館の面々の中で佐伯祐介と鷹匠は話していた。

 

「でも前半ですでに2ゴールですよ」

「あれは両方とも半分は荒木の得点だ。1点目は荒木のスルーパスで決まっていたし、2点目もあいつのミドルのこぼれを輝也が決めただけだ」

「まぁ、確かにそうですね……」

 

鷹匠の言う通りではあるのだが、その2点ともがかなりレベルの高いシュートだったと祐介は感じた。

 

「まぁ、俺は代表での本気のプレーを直に見てるからな。お前もそのうち見れるさ」

 

いつか祐介(こいつ)も代表で輝也にパスを出すのだろうか---

そんなことを考えながら、鷹匠は後半が始まるのを待った。

 

 

 

 

江ノ校ベンチではタオルで汗を拭く輝也に亜里沙がドリンクを渡していた。

 

「前半終わって2-0か」

「早く全力でやりたいって感じだね」

「当たり前だろ亜里沙、鉄さんとお前に頼まれてなかった前半で試合終わらしてた」

 

輝也は試合前、監督と亜里沙から後半途中までは全力は出さずにチームの連携重視でプレーするよう頼まれていた。

 

「本気出してたらあと2点は取れてたな」

「あと1点は取ってあげてもよかったかもね。岩城監督が駆君と公太君に3点目が入ったら試合に出すって言ってたから」

「……だからハーフタイム入った時にあんな必死に頼み込んでたのか」

 

前半が終わり、ベンチへと引き上げた際に懇願してきたベンチメンバーの姿を思い出して輝也は苦笑した。

輝也としては正直、簡単に試合を終わらしてしまってもいいが、チームの成長なども考え、監督の指示待ちという状況であった。

 

「まぁチームの成長が優先だからな。鉄さんからの合図が出るまでは我慢するさ」

「うん、期待してる♪」

 

ベンチメンバーの声援を聞きながら、輝也は後半のピッチに向かっていった。

 

(どうせ竜一がすぐにバテるだろう)

 

ハーフタイムが終わったにもかかわらず未だに肩で息をしている王様を見て、輝也は監督からの合図は早いだろうと思っていた。

 

 

――――――――――――――――

 

 

(鉄さん鬼だな……)

 

荒木やサイドの八雲といった前半からかなりの運動量だった選手の疲労が目立ち始めた後半戦は、前半とはうって変わって一進一退の攻防が続いていた。そんな中で、八雲が突破された流れから1点を返されて2-1となった段階で、輝也は荒木・八雲が交代となり、自分に自由が与えられるのだろうと考えていた。

しかし、実際に交代したのは八雲と前線の選手で、荒木はピッチに残った。さらに、輝也の両サイドには得点に飢えている1年生FWが入ってくるという、さらに荒木に負担のかかる状況となった。

 

(まぁ確かに竜一の心肺機能の欠点を克服するっていうのは重要ことだけど)

 

荒木が元々心肺機能の不足を欠点としていることは、輝也は知っていた。その欠点を克服するために現在の太った体のままでプレーさせているということは岩城監督と亜理紗から聞いていた。そのため、荒木を残して攻撃的な選手を3人も投入した意図は分かった。しかし、点差がわずか1点という試合状況で、この選手交代は輝也にも予想外であった。

 

(まぁその分俺がフォローしろってことなんだろうけど)

 

未だに監督からの合図がこないことにストレスを感じながらも、輝也は点を取りたくて仕方がないといった様子の1年FWのフォローにまわった。

 

試合はその後、途中出場の駆が荒木のパスから抜け出してネットを揺らし3-1と江ノ高がリードを広げ、試合時間は残り10分となった。

 

「さて、そろそろ輝也に自由にやってもらうか」

「さっきから輝がベンチしか見てないですしね」

「…何か凄いオーラ出てる」

 

試合終了が近づくにつれ、輝也が纏う雰囲気が変わってきていることに気付いたベンチは、輝也に自由にプレーしてもいいという合図を送る。

 

「…!!」

 

その合図を見た輝也はすぐさまボールをもらい、相手ゴールに向けてドリブルを開始した。

そのまま相手DFを抜き去り、前に飛び出したGKの頭越しにループシュートを決めた。

 

「ヒャッホォォォイィィ!!!」

 

ゴールを決めた輝也は雄叫びを上げ喜びを爆発させ、いつもとのギャップに周りの選手たちは少し引いていた。

それを見ていたベンチも同じように少し引いていて、これまで見たことがない輝也の姿に困惑した奈々は亜理紗に問いかけた。

 

「ねぇ亜理紗ちゃん……輝也さん変なスイッチ入ってない?」

「大丈夫、たまにあぁなるだけだから。あと何点か決めたら元に戻るよ」

「そ、そうなんだ」

 

リスタートし、敵からボールを奪って再び相手ゴールへと突っ込んでいく輝也を見ながら、相手チームが可哀想だと奈々は思った。

 

その後、笑顔を浮かべながら猛然とゴールを目指す輝也(後に狂戦士(バーサーカー)状態(モード)と名付けられた)が2点を奪い、終了間際には冷静になった輝也のお膳立てから高瀬が決めて、試合は6-1で江ノ高が初戦突破を決めた。

試合後岩城監督は、これから試合中は輝也にはできるだけストレスを与えないようにしようと心に決めたのだった。

 

 

 

 

 

 




あれ、中島と島谷って3年で良かったっけ……。

とりあえずこれからも時間見つけて書いていきます。
気長に待っていただけたら幸いです。
感想、評価等待ってます。




コンテ最高!!

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