Golden Arrow   作:ibura

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合宿

代表決定戦のあと、FCとSCのそれぞれの監督は選手たちにチームを解散することを告げ、正式に江ノ島高校サッカー部が発足した。監督は岩城監督が務めることとなり、近藤先生は顧問として指導していくこととなった。当初は、元SCの数人の選手が岩城監督の考え方ややり方に不満を持つこともあったが、隼や近藤先生の説得によってそれも解消された。また、別の問題として、再び姿を消していた荒木がリバウンドして元のだらしない姿で戻ってきてしまったが、亜理紗・奈々の2人が徹底的に食生活を管理していくことで、この問題もひとまずは落ち着くこととなった。

 

そして、江ノ島高校サッカー部の面々は、公式戦を一週間前に控えてベンチ入りメンバーの発表を兼ねたミーティングを行っていた。

 

「さて、江ノ高サッカー部としての戦略をどうするか、ということは私や近藤先生も頭を悩ませました。何とかして、SCの電光石火のカウンターやFCの左右のポジションチェンジによる攻撃といった長所を活かすことはできないか、案が煮詰まっていた我々教師陣でしたが……そこへ十倉さんが素晴らしいアイデアを出してくれました」

 

岩城監督の言葉に選手達は驚き、一様に亜理紗に視線を移す。亜里沙は一同から注目された恥ずかしさから顔を赤くしながらもぺこりとお辞儀をした。亜理紗のサッカーの知識の豊富さは元SCのメンバーからもすぐに認められた。練習の合間合間に様々な選手に適切なアドバイスを送っていく姿は、マネージャーと言うよりもコーチと言った方がしっくりくると感じた選手は多かった。

 

「十倉さんのアイデアを取り入れて、私と近藤先生、さらには十倉さんも含めて話し合った結論が、このフォーメーションです」

「「「な!?」」」

「なるほどな」

「面白そうじゃん」

「思い切ったね、岩城ちゃん」

「本気ですか!?」

 

輝也に隼、荒木、織田がそれぞれの率直な感想を口にする。彼らだけでなく、その他の部員も、その見たことも無いようなフォーメーションに驚き、周りの選手達と話している。

 

「それでは、このフォーメーションを基にした、公式戦のベンチ入りメンバーを発表します」

 

岩城監督はそう言い、ポジション別にベンチ入りメンバーの名前を発表していった。

 

 

GK

紅林礼央

藤堂慎太郎

李秋俊

 

DF

金森隼 キャプテン

浜雪蔵

海王寺豪

堀川明人

 

MF

沢村優司

織田涼真 副キャプテン

坂元修司

桜井学

荒木竜一

兵藤誠  副キャプテン

八雲高次

中塚公太

 

FW

歳條輝也

火野淳平

的場薫

高瀬道郎

逢沢駆

 

 

 

 

 

 

 

 

メンバー発表から数日後、総体地区予選を目前に控えた江ノ高サッカー部のベンチ入りメンバー20人は1泊2日の合宿のために、静岡を訪れた。

 

「集合ーーーって、おい!!!」

 

到着早々、キャプテンとなった隼の言葉もむなしく各々が自由に行動していた。

怒り狂う織田に、頭を抱える隼と沢村を見て輝也は苦笑した。

 

「おい輝也、いますぐキャプテン変われ」

「嫌っすよ。変わるんなら同じ3年の沢村さんでしょ」

「おい歳條、俺に振るなよ。俺だってやりたくない。こんな個性の強い連中をまとめるのはごめんだ」

「やっぱり隼さんにしかできないですって」

「お前らな……」

 

隼は仕方なく、走って行ったメンバーを追いかけに行った。

この後、連れ戻されてきたメンバーの怯えた表情を見た輝也は、隼は怒らせてはいけない存在であったということを再認識した。

 

 

 

キャプテンの怒りを目の当たりにした江ノ高サッカー部の面々は、その後は団体行動をきちんとこなしながら、合宿1日目の練習試合を消化していった。

 

 

「えーというわけで、今回の合宿に控え組49名と学校に残って彼らの練習を見てくださっている近藤先生のためにも明日の練習試合も精一杯頑張ってください」

 

1日目のメニューを消化した一同は、宿舎に戻り夕食をとっていた。

 

「飯だ飯!!」

「はい輝、普段と同じ量でいいんだよね?」

「お、サンキュー亜理紗。全然大丈夫だ」

 

輝也が亜理紗から受け取った夕食は、丼に山盛りに盛られたご飯に、同じように山盛りのおかずが乗せられたお盆だった。

 

「乗り切らなかったお盆二つあるの。後で取りに来て」

「了解」

 

一つ目のお盆を自分の席に持っていく輝也を見て隼は呆れながら、声をかけた。

 

「昔からよく食うなって思ってたけど……食う量増えてないか?」

イギリス(向こう)に行ってから増やしたんですよ。体デカくしないと競り合い勝てないんで」

「食べた分、体に表れてるんだな。いい意味で」

 

隼はそういいながら、後ろを見た。輝也もつられてそちらを見ると、仏壇のお供えほどの量しかない夕食を渡されて、奈々に向かって文句を言っている荒木(デブ)がいた。

 

「悪い意味で表れてるやつはあそこにいますね」

「あいつは何も考えないで食べるからあぁなるんだ」

「それはありますね。俺は祐子さんがいろいろ考えてくれたメニュー食べてたからよかったです」

 

亜理紗の母親である祐子さんはフードマイスターの資格を取得していて、輝也がイギリスにいた頃は、食生活の面において、栄養のバランスなどを考えた食事を用意してもらっていた。ちなみに輝也の母親と祐子さんはフードマイスターの資格を取得した時に知り合い、それ以来の付き合いとなっている。

 

「ほんと羨ましいよ」

「最近では亜理紗も勉強してるみたいですね。今回のメニューもあいつが考えたみたいですし」

「戦術の話と言い、あいつって何者だよ……」

「本人曰く、”ただのマネージャー”だそうです」

「……」

 

奈々と一緒になって文句を言ってくる荒木をあしらっている敏腕マネージャーを見て、隼は苦笑するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

夕食後、各々自由なことをして過ごす時間、隼はまず風呂に入ってさっぱりした後、自分の部屋へと向かっていた。すると、前から1年マネージャー2人が歩いてきた。

 

「なぁ、輝也見なかったか?」

「輝也さんですか?私は見てないですけど…」

「あぁ、輝ならきっと走りに行ってますよ」

 

亜理紗の言葉に隼は驚いた。

今日は合宿ということもあり、午前午後と数試合の練習試合を行った。さらには輝也と駆、隼にキーパーの李を含めた4人で居残りのシュート練習も行った。さすがの隼もこれだけ動いた1日だったためにそこそこの疲労は感じている。今も風呂に入った後は古傷を中心にかなり念入りにストレッチとマッサージを行ってきたところである。そんな中で輝也は今も外に走りに行っていると聞けば、驚かずにはいられなかった。

 

「おいおい、あいつオーバーワークじゃねぇのか」

「いえ、輝はいつもこのぐらいですよ。本人曰くいつもと同じことをしないと夜眠れないらしいです。前に、”枕が変わったら眠れなくなる”のと同じようなものだって言われました」

 

亜理紗の言葉に隼は呆れて言葉も出ない、横にいる奈々も同じような表情だった。

 

「まぁでもさすがに輝も疲れてるみたいだし、いつもの半分ぐらいで切り上げてくると思います」

「そのストイックさをうちの王様にも見習ってほしいな」

「ほんと、そうですよね。さっきジュースって言って漢方の便秘薬渡したらごくごく飲んでました」

「あいつがギャーギャー騒いでたのはそれでか…」

 

あっさり信じて飲んだ荒木も荒木であれだが、それを分かっていながら便秘薬を渡した1年女子の黒さに隼は言葉が出ずに顔を引きつらせるしかなかった。

この2人を敵に回してはいけないということを、隼は認識した。

 

「じゃあ俺ちょっと様子見てくるわ」

「あ、じゃあこれ輝に渡してもらえませんか?」

 

そういって亜理紗は手に持っていたスポーツドリンクを隼に手渡した。

 

「はいよ。あぁお前ら、この後風呂入るんだったら”除き”気を付けろよ」

「……まさか、ないでしょ」

「そうですよ。子どもじゃあるまいし」

「いや、荒木だったら『さっきの仕返しじゃぁ!!』とか言ってやりそうだ…」

「……確かに」

「……想像できますね」

「まぁ俺からも釘はさしとくから」

「「お願いします」」

 

この後隼の注意も効果がなく、バカな野郎共が実際にやることを三人はまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、いたいた」

 

野郎共に釘をさし終えた隼は、輝也を探しに旅館の外に出た。すると外を走っていた輝也がちょうどいいタイミングで旅館の玄関付近まで走ってきた。

 

「おーい輝也」

「あぁ、隼さん」

「お前明日も1日試合あるんだからそろそろ休め」

「うっす。まぁ俺ももう切り上げようと思ってました」

「まぁそれならいいが…。ほら、亜理紗からだ」

「あざっす」

 

隼は亜理紗から受け取ったドリンクを輝也に差し出し、自分もついでに買ったドリンクを開けて口に運ぶ。

 

「隼さんは、このチームどうなると思います??」

「また突然だな。どうなるってのはインハイでどこまで勝ち上がれるかってことか?」

「まぁそれもですし、選手権も含めてこのチームがどこまで化けるのかってことです」

「それは俺にも分からない。けど…」

「けど?」

「面白いチームになることは確かだろうぜ」

「……」

 

隼の答えにも、輝也の反応はすっきりしたものじゃなかった。しかし、隼は輝也が何を考えているかが分かっていた。

 

 

「お前が一番気にしてるのは蹴球学園だろう」

「あ、隼さんも知ってたんですか」

「この前雑誌で見たんだ。確かにレオナルド・シルバに勝つにはチームの完成度がかなりなもんじゃないと厳しいな。」

「レオだけじゃなく、リッキーとパティもいますからねぇ。全く、とんでもないチームになってくれましたよ」

「そうだな……。でも、俺らは目の前の試合をまずは勝たなくちゃいけないからな。それは忘れるなよ」

「分かってますよ」

「じゃあ俺は部屋に戻る。お前もとっとと風呂入って休めよ」

「うっす。お疲れ様です」

 

この後、走り去っていく野郎共を目撃し、織田の叫びを聞いた隼はその対応をするはめになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いつものことですけど、今回も遅くなりました。

亜理紗は怪我がなく選手として続けられていたら、奈々よりも実力は上です。もう敏腕コーチですね笑



一応はこれからも投稿は続けていくつもりですけど、完全に気まぐれになると思います、すみません。

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