Golden Arrow   作:ibura

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決着

(くそっ…こいつらの狙いは分かっていたのに……)

 

 

隼は荒木や駆、輝也の狙いには気づいていた。他のDFにも駆のチェックを離さないように指示を出していた。しかし、輝也という存在によってそれどころではなくなってしまった。輝也がエリア外からのシュートも得意としているという情報は当然SCも掴んでいた。だが、分かっていたからこそ隼も含めたSCのDFラインは前へと釣り出されてしまった。結果的に、隼は輝也への対応に追われてしまい、ラインの司令塔を失ったSCは駆の裏への抜け出しと、荒木のスルーパスを許してしまった。

 

「やられたな金森」

「全くだ。輝也の存在感がここまで大きいとは思わなかった…」

「まだ時間はある。気持ちを切り替えよう」

「いや、切り替えるのは気持ちだけでは駄目だ」

「え?」

 

隼は周りにいる選手にも聞こえるように少し声を張り上げて言った。

 

「今までの引いて守るリトリートDFでは、FCの速いパス回しやトリッキーなプレーに対応出来なくなっているんだ。だからこそ3失点して同点に追いつかれてしまった。これまでとは違うサッカーをしなければ、あっという間に逆転されてしまう」

「し、しかしこれが近藤監督のやり方だ。勝手に戦術を変えるわけには……」

 

隼の言葉に沢村は反論するが、そこに織田も言葉を挟む。

 

「俺も隼さんと同じ考えです」

「織田まで!?」

「俺は悔いを残したくない。このままあいつらに負けたくはないです。そうですよね、隼さん」

 

織田の言葉に隼はうなづく。

周りの選手たちも織田と隼の考えを理解し、納得していく。

 

「よし、お前ら。取られたらすぐに守備だ。取り返さなければ、FCの押し込まれる。攻撃陣は前線守備でいこう!!」

「「「おぉぉぉ!!!」」」

 

隼の言葉に全員が返答し、それぞれのポジションに散っていく。

 

(残り10分、悔いは残さねぇ。このまま終わらせはしないぞ、輝也!!)

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

試合は再開し、SCボールで再開するがFCは荒木と輝也が的確な指示を送り、SCのボールを持つ選手のパスコースを限定してボールを奪いマイボールとする。すると、SCは隼や織田の指示によってフォアチェックを仕掛けてきた。それを見た近藤監督は声を荒らげていたが、SCの面々は前線からの積極的な守備を行ってきた。

 

(明らかにサッカーを変えてきたな、そうでなくっちゃな)

 

輝也はいち早くそのことに気付き、冷静に周りの選手へと指示を出した。試合はボールの持ち主が頻繁に入れ替わる、テンポの早い試合となっていた。

 

「よし、マイボールだ」

 

FCの的場がボールをカットしFCボールとすると、すぐさま攻守を切り替えて攻撃陣が攻め上がる。ボールを持った的場はすぐさま中央の荒木にパスを送ると同時に輝也はパスを受けれる位置に動く。的場から荒木、荒木から輝也へとパスがつながり輝也は前を向くがすぐさま隼がプレスをかけてきた。

 

『これは!!!この試合初めてと言って良いでしょう、両チームのエースの一騎打ちだぁ!!!!』

 

「 お前と公式試合で一対一やるのは初めてかもな」

「確かにそうっすね」

 

会話をしながらも、お互いに全く隙がなく対峙していた。

そんな中、均衡状態を破ったのは輝也の仕掛けだった。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ亜理紗ちゃん、輝也さんのドリブルってどんな感じだっけ?あんまり一対一で仕掛けるイメージがないんだけど」

「うーん、輝はねぇ……特に得意な技とかはないんだけど」

「けど?」

 

 

 

 

 

 

輝也はボールを隼との間の中途半端なところに蹴り出した。

 

(クソっ、ラン・ウィズ・ザ・ボールか)

 

隼が反応し足を伸ばすが、輝也のほうが一瞬早く、輝也が抜け出そうとする。しかし、隼も完全に抜かれる訳ではなく輝也からボールを奪おうとする。

 

 

 

 

 

 

 

「輝はドリブルの技は何でも出来るんだよね。輝也の強みを言うのなら、"その場、その状況で最適な行動をとることが出来る"ってことかな。まぁそれはドリブルに限った話じゃなくシュートとかでもそうだけど。だから、輝の強みを一言で言ったら判断力が凄いって感じかな」

 

 

 

 

 

(クソがぁぁ!!)

 

輝也はルーレットで追い縋る隼を振り切ろうとするがなおも隼は何とか反応する。

 

(さすが隼さん、まだ付いてくるか。でもこれで…)

「な!?」

「終わりっすよ」

 

輝也はエラシコで今度こそ隼を振り切った。

 

 

 

 

 

輝也は得意な技がないが苦手な技もない。ドリブルで1人で突破もできれば味方とのワンツーで抜け出すこともできる。エリア内からコースを狙った正確なシュートも打てれば、エリア外から強烈なミドルシュートも打てる。その場にあった最適な選択をとるのである。それが輝也が海外で活躍することができた一番の要因であり、輝也が最もサッカーにおいて重要視していることでもあった。

 

 

 

『振り切ったぁぁ!!!エース対決は歳條の勝利、そしてキーパーと一対一になる!!!!』

 

輝也は飛び出してきたキーパーを冷静に躱してシュートを決めた。

 

『決めたぁ!!FCのカウンターから歳條が個人技を魅せてくれました。これで4対3、FCが逆転!!!!そして時間は残り5分とアディショナルタイムです!!』

 

 

「こいつ!!1人で決めちがいやがって」

「ちょっとは俺らにも打たせてやろうとか思わないのかよ」

 

得点を決めた輝也に向かって荒木と火野の前線の2人が不満を言うが、その顔は笑顔だった。

 

「じゃあ次はパス出してやるよ」

「絶対だからな!!忘れんじゃねえぞ!!」

 

 

輝也の答えに、今度は自分が決めてやろうとFCの攻撃陣は散っていった。

一方で、絶対的な存在の隼が輝也に抜かれ経とう事実は、SCの面々には精神的なダメージが大きなものとなっていた。

 

「やっぱり、流石だなあいつは。簡単に持っていかれちまった」

 

その中でも隼はどこか満足そうな、嬉しそうな表情でFCの面々を見ていた。

 

「隼さん、切り替えましょう」

「分かってよ織田。まだ時間は残ってる、あと2点取って勝つぞ」

「もちろんです!」

 

 

 

 

この1点は両チームにとっても大きなものとなり、残り時間が僅かなところで形勢を逆転させるものとなった。SCは残り時間で何とか追いつくために攻め込むが、FCの全員による守備によって崩しきることは出来なかった。そして、アディショナルタイムに入ったとき……

 

 

 

ザシュッッッッ!!!!!

 

『歳條がシュートを突き刺したぁ!!!ゴールから30メートルは離れているかという位置から、強烈なロングシュートが決め、FCがダメ押しとなる追加点をあげました。残り時間わずかというところで試合は5対3となりました!!!ただ今の得点で、FCの歳條はハットトリックとなりました!』

 

輝也がダメ押しとなる5点目を決め、ハットトリックを達成した。

 

 

「輝也てめぇ!!」

「今度はパス出すって言っただろうが!!」

「なんでお前が決めてんだよ!!!」

「いや、悪い…つい、な?」

「「「ついじゃねぇよ!!!」」」

 

輝也に対して荒木や火野、マコが食って掛かるが、駆と的場の1年生2人は輝也の弾丸シュートを目の当たりにして、驚きを隠せなかった。

 

「す、凄かったねさっきのシュート」

「うん、僕も輝兄のあんなシュート生で見たのは初めてだよ」

「今更だけど、凄い人がチームメイトにいるんだね」

「輝兄が味方でよかったって改めて思ったよ」

 

 

一方ベンチでは――

 

 

「やっぱり輝也さん、あのロングシュートが決まらなかったのが悔しかったみたいね」

「……そうだね。普段ならあそこから打つことはそんなにないからね。強引に決めちゃったよ」

「でもそこをきちんと決めるあたりは流石だね」

「まぁね」

 

(本当に輝也がこのチームに来てくれてよかった)

 

岩城監督も輝也の存在感を改めて感じていた。

 

 

 

試合再開後も、SCのメンバーは諦めずに攻め続けてなんとか同点にしようとするも、時間が残されておらず――

 

 

ピッ 

ピッ

ピーーー

 

『ここでホイッスル、試合終了!!結果は5対3でFCの勝利となりましたが、素晴らしい試合、素晴らしい戦いでした』

 

 

そのまま試合は終了し、5対3というスコアで代表決定戦はFCの勝利で幕を閉じた。試合が終わったあとは荒木が空腹で倒れたことを境に、両チームのメンバーが和んだ雰囲気の中で会話していた。輝也は荒木をからかって満足したあと、隼に話しかけた。

 

「初対決は俺の勝ちっすね、隼さん」

「あぁ、俺の完敗だよ、全く」

「じゃあ試合も終わりましたし、昨日メールした通りお願いします。多分俺よりも隼さんの方がキツいと思うんで」

「分かってるよ。正直俺も考えていたことだからな」

 

2人はそう話して、まだ選手たちが騒いでいるピッチを離れた。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

試合終了後、FCとSCの両監督はグラウンドから少し離れたところにいた。

 

「何だね岩城君、試合が終わったばかりだというのにこんなところに連れてきて話とは?」

「近藤先生、お願いがあるんです」

「…お願い?」

 

そこで岩城監督は、頭を下げていった。

 

「FCの生徒をSCに引き取ってもらえないでしょうか?」

「なに?」

「僕は江ノ高FCを今日限りで解散しようと思います」

 

岩城監督の言葉に近藤先生は驚いていた。

そこへ――

 

「ありゃ、監督に先に言われてしまったみたいっすね」

「みたいだな、まぁ俺たちの仕事が無くなったってことだな」

「お前たち!?」

 

両監督が話しているところに、輝也と隼が合流した。

 

「近藤先生、俺たちも岩城監督の考えには賛成ですよ」

「……どういうことだ、金森?」

「いえ、先日ある情報を輝也に教えてもらいましてね?」

「情報?」

「その話は私も初耳だな。私たちにも教えてもらえるのかな、輝也」

 

近藤先生に続き、岩城監督も輝也と隼へと視線を移す。

 

「まぁ先生方には教えておきますよ。今の江ノ高ではFCでもSCでも全国優勝することはかなり困難です」

「なぜ、そんなことが言える?」

 

近藤先生はあくまでも冷静に輝也へと聞き返した。

 

「簡単な話です。――レオナルド・シルバが日本の高校に入学しました」

「な!?」

「輝也、それは本当か!?」

「えぇ、事実です。本人から宣戦布告されましたしね」

「……」

 

輝也から告げられた衝撃の事実に両監督は驚く。

 

「近藤先生、僕はもう指導者の意地で彼ら選手たちの才能をつぶすような真似はしたくない。だからお願いです。FCの選手たちを引き取ってもらえないでしょうか?」

 

そう言って、岩城監督は再び頭を下げた。

 

「いや、違うな」

「え?」

「SCも今日で解散だ。そして新たなチームが生まれる、江ノ島高校唯一のサッカーチームがな」

「近藤先生…」

「監督は岩城君、君がやれ。……それが君という才能をつまらん指導者の意地で潰してしまったことへの、せめてもの罪滅ぼしだよ」

「あ、ありがとうございます、近藤先生!!」

 

岩城監督は再び頭を下げた。

 

 

「金森、歳條」

「はい?」

「何でしょうか?」

 

近藤先生は輝也と隼のほうに振り返り声をかけた。

 

「お前らもこのことを進言しに来たのか?」

「まぁそうですね」

「それぞれの監督を説得しようということでしたから、必要なかったみたいですけど」

「ならば聞くが、全国優勝できるか?」

 

近藤先生はまるで試すかのように2人に問いかけた。聞かれた2人は顔を見合わせて、笑って答えた。

 

「もちろんです」

「俺たちが組んだら敵なしです」

「頼もしい限りだな」

「えぇ、全くです」

 

 

こうして、江ノ島高校サッカー部が誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ようやく代表決定戦が終わった。
2話くらいにおさめるつもりだったのにどうしてこうなった……

輝也が隼を抜いた時のドリブルはこの前ウィイレで出来たやつですね。
まぁ3人の敵選手に対してですけど。

感想など、待ってます!!



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