あぁ神様、お願いします   作:猫毛布

51 / 113
34 私が許す

 目が覚めた。

 というよりも、突然意識が戻ったと言ったほうがいいかもしれない。

 

「ふぁ…」

「え?」

 

 私の隣で寝ていたアリシアが目を覚まし、寝ぼけた目をこする。

 ここは、庭園?

 

「おはよー、ふぇいろー」

「うん、おはよう。アリシア」

「まだねむぃー」

 

 布団から顔を出した小さいアルフ。

 そんなアルフを撫でて、扉の開く音に反応する。

 

「フェイト、アリシア、アルフ、朝ですよ」

「リニ、ス?」

「どうかしましたか?」

 

 私の声にリニスは首を傾げて不思議そうにする。

 どうして、リニスが?

 それにアルフも、これは、何?

 

「夢…?」

「怖い夢でもみたんですか?」

「だいじょうぶ?」

「怖い、夢」

 

 どこまでが夢?どこからが夢?これは、現実?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「母さん…」

「あら、どうしたのフェイト」

「どうやら怖い夢を見てしまったみたいで」

「あら…大丈夫なの?」

 

 優しい母さん。

 居なくなったリニス。

 アリシア、アルフ。

 とても幸せ、幸せで、暖かい。

 

「プレシア。少しは抱きしめるとかしてやれよ」

「え?」

 

 聞こえた低い声。聞きなれない声にそちらを向けば黒髪で縁のない眼鏡をした青年。

 そんな青年は私を優しく抱きしめて、なれたようにポンポンと背中を叩いてくれる。暖かい。

 

「もう怖いくないさ。何かあったらお兄ちゃんが守ってやるから」

「お兄…ちゃん…?」

「私のフェイトを離してちょうだい」

「イヤだね。フェイトの為に在る俺に対しての死刑宣告はやめてくれ」

「死ねば?」

「ひどくないか?」

「えっと…ごめんなさい、誰?」

 

 思わず出た言葉に青年はびっくりしたように顔をキョトンとさせて、母さんの方を向いた。

 

「え?何、これ、ドッキリ?」

「残念。現実十割のマジよ」

「あー、わかった。アリシアと一緒に謀ってるんだな?」

「え?ユウちゃん何言ってるの?」

「つまり、本気なのか。ヘコムわ…」

「ゆう、だいじょうぶ?」

「アルフ、いつもの事ですよー」

「そっか!だいじょうぶだ!」

「リニスさんひどくない?俺の扱い酷くない?」

 

 ユウ…?これが、ユウなのだろうか。確かにどことなく印象は残っている。

 少しだけ長くなった髪を後ろで結わえ、ボサボサとした髪を被せれば…確かにユウだ。

 

「ユウ?」

「おうさ、どうしたフェイト」

 

 彼がユウだ。

 でも、どうして彼が?

 

「で、昨日から研究は進んだのかしら?」

「泊まり込みで仕上げろって無茶言われたからな。なんとかなったけど」

「そう、ならいいわ」

 

 そうか、研究の手伝いをしていたのか。

 それならば、納得できる。

 

「ユウ!」

「うわっぷ」

「あー!ずるい!」

 

 とにかく今は、珍しくいる彼に甘えるとしよう。

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 眠い。

 眠い。

 

「ぅん…」

 

 薄く開いた瞼から、女の人が見える。

 銀髪で赤い瞳の、女の人。

 

「そのままお休みを、我が主」

 

 主。そう呼ばれることに違和感が一切感じない。

 寝ぼけた思考でも、どうやら自分はシグナム達のご主人様としての意識があるらしい。

 

「そのまま目を閉じて、心静かに夢を見てください」

 

 夢。とても穏やかな心地。

 まるでこの世界から争いがなくなってるような。

 

「あなたの望みは全て私が叶えます」

 

 望み、そう望みだ。

 目の前で消えてしまったヴィータやそして、夕君。

 どうしようもなく無力な私は、この世界から目を背けた。

 背けて、どうしたんやろう。

 

『守るよ、その約束』

 

 そういった彼はもういない。

 ならば、こんな世界…こんな人生なんて。

 

『誰が鈍感だ。他人に関しては機敏だぞ』

『アッハッハッ、長期休みを先に体験しているお前を心配なんてするか』

『いいタイミングだ、八神。ぬいぐるみをプレゼントしよう』

『はやて様マジ堕天使』

『あー、なんだ車椅子少女。この本が読みたかったのか?』

 

 

 

『はやてを守る為に決まってるだろ』

 

 そうだ。私は、彼に守られた。

 そして、そんな私は彼に守られた人生を捨てて、夢に逃げようとしている。

 

「それだけは、アカンやろ」

「主?」

 

 健康な身体も、愛すべき家族達も、夢であっては意味がない。

 夢に逃げて、彼が出てきたとしても、それは彼ではない。

 

『セェェェェェカィイイイイイイイ』

 

 甲高い声が何故か頭に響いたが、そんな事なかった。

 そんな彼に馬鹿にされるような人が彼に好かれるはずがない。

 

「私、こんなん望んでないよ。あなたも一緒やろ?」

「私の心は騎士達と深くリンクしています。騎士たちと同じように私もアナタを愛おしく感じます。だからこそ、あなたを殺してしまう自分自身が許せない」

「覚醒した時に今までの事、少しわかったよ」

 

 無茶をしていた騎士も。この子の事も。そして騎士と一緒に無茶をしていた彼の事も。

 だからこそ、私は

 

「私が許す」

「……」

「前の事も、体の事も、今の事も、私が許すよ」

「それでも、私は」

「大丈夫。私があなたに名前をあげる。もう闇の書とか、呪いの魔導書とか呼ばせへん。私が呼ばせへん」

「ムリです。止められません」

「なんや、まだ不安なんか?大丈夫。私が約束する」

 

 暴走しそうな事も、世界が壊されそうな事も、全部、全部止める。

 

「絶対に守るよ、その約束。守らな夕君に針千本飲ませなあかんし」

 

 そんな事、もう出来ないのだから。

 

 

 

 

 

◆◆

 

「ほら、フェイト。お兄様と呼んでくれ」

「……」

 

 何度目かになる彼の要望を否定する。

 彼は非常に落ち込むのだけど、でもすぐに和やか笑う。

 

「アンヘルは…」

「あぁ、アレはもうないさ。俺は至って健康体なのだ!」

「そっ、か」

 

 ダメだ。これ以上はダメだ。

 彼はユウでないのだから、もう甘えられない。

 

「いいぞ、そのまま否定し続けろ」

「うん…」

 

 彼はユウじゃなくても、やっぱりユウだ。

 だからこそ、私を迷わず助けてくれる。私を守ってくれる。

 間違いが起こるのなら、事前に注意を促す。

 

「ここが夢だと気付いたのはいい点だ。あとはお前が思えばいい」

「どうして、私を助けるの?」

「ん?」

「アナタは私がいなくなったら」

「おーっと、お嬢ちゃん。そいつは言っちゃぁいけねぇぜ」

「……」

「ここの夢で幸せでもそれは夢でしかない。はやてを助けたい俺ッチとしては早々に現実に帰ってもらわないと困るんだよ」

「そっか」

「ま、お嬢ちゃんを守るって言ったからな。故に俺はユウとしてお前さんを守るさ」

「うん。ありがとう」

「やめてくれ。現実の俺なら照れて適当に言い逃れしてるさ」

 

 ここのユウは現実のユウよりも正直に言ってくれる。

 それも夢だからなのだろう。

 

「フェイト、俺がこういうのもオカシイんだけどさ」

「ん?」

「ユウを頼むよ」

 

 

 

「大丈夫。私も守るよ、約束する」

「そいつは重畳」

 

 口角を上げて笑う彼。

 そんな彼を見て私の意識がフワリと浮いた。

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 エラーが発生しました。

 夜天プログラムに異常発生。

 エラーを直します。

 

 エラー削除。

 自己防衛機能低下。

 プログラムの書き換え確認。

 受諾。

 

 管理者名・八神はやて

 命令を受諾。

 管理者コードを発行します。

 

 管理者コードの所持には名前を明記する必要があります。

 コード所持・御影夕

 エラー発生しました。

 再度明記してください。

 コード所持・ユウ

 エラー発生しました。

 再度入力してください。

 コード所持・ユウ=エンプティ

 所持者確認しました。

 

 コード所持者より命令受諾。

 ログを消去します。

 

 

 ....

 

 

 




~視点移動
 多くてごめん。でもこうでもしないとここが書けなさそうだった。

~約束
 名前をあげる約束。全部を止める約束。はやてにとって、彼との約束を果たす為の約束であり、彼に影響されてる一端でもある

~エラーが発生しました
 ユウリンがムリをしています

~ユウ=エンプティ
 夕がこちらの世界で御影夕になる前の名前。日本人顔でありながら、エンプティとか呼ばれたくなかったので、俗にいう前世の苗字を拝借している。
 ちなみに、ここから先、彼の実名は知る人物は一切出ない予定なので、いつも通りにユウリンやユウや夕。そして御影として呼んで頂ければ幸い

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。