あぁ神様、お願いします   作:猫毛布

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13 イヤーシマッタナー

「やっぱり右手まで延びてるか…」

 

右手を伸ばせば、肩から肘に伸びるように薄い痣が延びている。

‐仕方ないといえば仕方ないのだろう

‐自業自得だ

‐失敗、再度検証

‐薬物消化完了

どうしたものか…。包帯を巻くべきなのだろうが、長袖なら隠せるか…5月半ばだぞ…今から暑くなるって言うのに長袖か。

 

‐変化系の公式でも改悪するか

‐公式展開

‐失敗、再度検証

‐約一年後完治予定

‐向こうの医療がどれだけ進んでるかわからないけど此方よりはいいだろう

‐失敗、再度検証

‐擬装魔法プロトタイプ発動

目の前にあった湯飲みの柄が変わる。数秒後割れた。

‐成功

‐成功じゃねぇよ

‐安全ですらない

‐失敗、再度検証

‐失敗、再度検証

 

この早さだとたぶん、管理局が帰る前に終わりそうにないな。

 

‐全てを捨て置こう

‐1ヶ月もあればいける

‐ならば全てをソレに向けよう

守る為なら仕方なさそうだ。

自室に入り、扉を閉める。周りには本が大量につまれたベッドに横になる。

 

解析魔法展開。

‐失敗、再度検証

‐失敗、再度検証

‐失敗、再度検証

‐失敗

‐失敗

‐失敗

‐失敗

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

「ここが、あの馬鹿の部屋?」

「うん…本当にいるの?」

「居なかったら殺すわ」

「折檻を知る側としては、アイツに同情するよ」

「あはは…」

 

アルフの言葉に苦笑する。

あの子…なのはとの戦いも終わってリンディ提督に少しだけ外出の許可をしてもらった。

母さんは一応犯罪者なのでサーチャーも付いているが、気にはならない。

 

母さんの体調は悪い。お医者さん曰く、もう長くないらしい。

その事を聞いても母さんは顔を歪める事さえしなかった。わかっていたのだろう。

 

そんな母さんの願いで外出し、今現在ユウの部屋の前にいるのだけど。

ユウはあの崩落で死んだ筈だ。少なからず逃げれるとは思えない。

 

 

「さぁ入るわよ」

 

母さんが躊躇なくインターホンを押し暫し待つ。

押す。

待つ。

押す。

 

打打打打打打打打打打打打打打打。

 

「母さん!?」

「……出ないわね。入れということかしら」

「なかなかの傍若無人ぶりだねぇ」

「これでもフェイトやアナタにとって暴君だったのよ」

 

ガチャガチャと扉を弄り、鍵が閉まっていたのか舌打ちをする。

母さんが、普通に怖い。

 

「だ、大丈夫だよ。ここに鍵が入ってるから…」

「開けなさい……いえ、アナタがなぜこの部屋の鍵の場所を?」

「え?ユウが『夕飯より先に来たらここに鍵を置いとくから勝手に』って」

「あの子、人の娘に勝手に手を出して…挙げ句に私を殺すですって?あぁ思い出すと苛苛するってこの事なんでしょうね。あの時は計画の手前抑えたけど今はもう抑えなくていいのよね」

「か、母さん落ち着いて」

「今までが嘘みたいだよ…」

 

今鍵を開けると死ぬかもしれない。私やアルフじゃなくてユウが。

 

「フェイト、開けなさい」

「はい…………あ」

 

今までの癖とは怖いモノだ。

母さんに命令されたら逆らえない。逆らう気も起きない。

 

 

イヤーシマッタナー。

少なからず、生きていれば私もランサーを撃ち込む程度はしてもいいと思う。

勝手に助けて、勝手に守る宣言をし、勝手に死ににいったのだ。

 

「フェ、フェイト?」

「さ、入ろう。アルフ」

「あ、あぁ……生きててもアイツ死ぬんじゃないかなぁ…」

 

 

 

 

相変わらずモノの少ない部屋。私の部屋に比べれば間取りも広くない。

 

「…アレは?」

「えっと…靴はあったけど………」

「寝てるんじゃないかい?」

「なら寝室ね」

 

ガチャガチャと扉を開けて確認していく母さん。

そういえば私も彼の寝室には入ったことはない。入りたいとかそんなモノじゃなくて、風邪を引いた時にソファーで寝かされてた事にそこはかとなく不満があったり……なかったり。

あの時は満足したけど今思えば中々に扱いが悪かったと思う。

 

「フェイト、ここだけ開かないわ」

「それは引き戸だよ母さん」

「試したのよ。当然でしょう?」

 

苦笑しながら言えば、母さんは直ぐに私から視線を逸らせて引き戸を開けた。

開けた端から漏れる朱色は確かに彼の魔力光だった。

 

やはり生きていた。よかった。よかった…。

そんな事を思って覗いて見ればソコは異の空間だった。

 

本が部屋の壁に積まれ、床にもところ狭しと乱雑に積まれている。

そんな本の塔達にに囲まれたベッドで眠る彼の下に魔方陣が敷かれ、そこから同色の帯が本に伸びていた。その帯がついた本の数は精々片手で数えれる程度だが、問題は他にある。

 

その魔方陣が彼を中心に球を描くように多重展開されているのだ。片手で数えれた本は既に数えるのさえ億劫になる数になり、帯も同じ数であり、淡い光が互いに強め合い部屋から光が溢れていた。

 

「……化け物ね」

 

母さんの溜め息混じりの言葉が嫌に耳に残った。

 

 

 

 

 

「…………」

 

そこから数分してから展開していた魔方陣が消えてバサバサと本が落ちて音を鳴らす。

 

「ユウ!」

「!?、―――、……」

 

驚いたように目を見開いて、ユウは此方を見てから口をパクパクと動かす。

微かに聞こえる掠れた声。それに眉を寄せてユウは立ち上がりキッチンへ向かった。

 

「あぁ、起きたのかい」

「…、……」

「なんだって?」

 

キッチンにいたアルフを退かしてグラスに水を注ぎ一息に飲み込む。

これほど水道水を美味しそうに飲まれるのは後にも先にもあまり見なさそうだ。

 

数える限り六杯程飲んだユウはようやく口を開いた。

 

「なんでいるんだよ」

 

至極尤もな言葉だった。

 

 

 

 

 

「あー、つまり俺の生存確認か」

「自惚れないで、死亡確認よ」

「はいはい。残念ながら生きてたよ」

 

 

先ほどまで布団に横になっていたからか、アクビを噛み殺して眠そうに目を細めてコーヒーを飲み込んでいくユウ。

 

「でも心配したよ?」

「それは……まぁ悪かったよ」

「娘に色目を使わないでくれるかしら」

「色眼鏡で見てるアンタに言われたくねぇよ」

 

溜め息を吐いた後にユウは真剣な顔つきになる。

 

「アンタの身体は治せるよ、プレシア」

「………そう」

「ホントに!?」

「一応。理論上はな」

 

苦笑しながらユウは答えた。

 

「それで、アリシアはどうなるの?」

「いける。ベルトを着けて変身!と言えば変身も出来る機能付きだ」

「磨り潰すわよ」

「グチャグチャにされるのは勘弁」

 

ユウは少しだけ溜め息を吐いて部屋から紙束を持ってきた。

 

「これは?」

「俺の実験結果な」

「は?」

「そういう装置は見当たらないけど?」

「当たり前だろ。アンタの装置を使えば出来る実験だからな」

 

ユウはコツコツと自分の頭をつつく。

 

「1ミクロまで精巧な誤差まででた資料が何年分もあったんだ。それを元に思考実験してやればいい。失敗すれば検証し、間違いを訂正し、再思考すればいい」

 

言うのは簡単だ。

考えて、どうなるかを演算、さらにそこから先を予測し、更にそれを続ける。

たったそれだけの事なのだ。

 

 

それを…無限に近い可能性の中、ユウは欲しい結論を拾い上げてきた。

 

「……………………………確かに私の実験器具ね」

「一応犯罪っぽいモノもあるから、前まで合法だったモノの代用品も書き上げてる。

蘇らせること自体違法っぽいけど、アリシアが本体は死体だから治癒だとでも言えば法は抜け出せるさ」

 

ユウは笑ってそう言う。この結果が出るまで何度演算したのだろうか……。

いや、ユウが起きてから今までの間で演算などしていなかった。何時したのだ?

 

「随分と思考実験を繰り返したのね」

「まぁ最低限生存する事だけの行動だけして、意識と思考を全部実験に持っていったからなぁ……といっても精々55万回程度だ。運はよかったよ」

「は?」

「だってアレだぜ?無限に近い数を漁る予定が55万で終わったんだぜ?運はいいだろ」

「そういう事じゃなくて……アナタ、ホントにバカね」

「誉め言葉として受けとるよマダム」

 

コーヒーを飲み干したユウはやっぱり苦笑をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、ユウのその腕は…」

「あぁ触手か」

 

左手に巻いていた包帯を外し、痛々しい痣と甲に埋まる紅の宝石。

少しだけ疑問だったユウの左手の包帯。

 

「母さんがしたの?」

「それがあるならアナタを危険な目を遇わせずに済んだわ」

「だとさ。これはお前に会う前から俺にあるんだ」

「よかった…母さんがした訳じゃないんだね」

「おい疑われてたぞ」

「黙りなさい、吊るすわよ」

 

おー怖い怖い、と笑いながら言う彼は本当に楽しそうだ。母さんも少しだけ楽しそうに言葉を放ち、ユウのレポートに目を落とした。

 

「これの名前は【アンヘル】。一応ロストロギアらしくて、伝承では人を喰らう化け物だったそうだ…次元震も多発させてたらしいな」

「へぇ…だからアンヘルだったんだね」

「まぁあの時点では俺にとって触手は触手でしかなかったんだがな」

「ライトを圧倒してた時はびっくりしたけどね」

「あの戦いは勝つ気が無かったからな…時間を稼いでれば俺の勝ちだったのさ」

 

つまり、ユウにはまだ余力があったのか。

アレだけされて無傷だったライトもだけど、ユウも中々に化け物染みてる………

 

いや、ユウは自称化け物だったか。

 

 

「フェイト。アレはダメよ。母さんアレだけは許さないわ」

「大丈夫だよ。ライトにそんな感情持てないよ…良くて友達かな」

 

私の心が壊れかけた時に慰めてくれた事には感謝してるけど、本質的に助けてくれたのはやはりユウなのだから。

 

「ありがとう」

「………………」

「ユウのお陰で、私の全部は守られたよ。未来も心も、家族も」

「……」

「………ユウ?」

 

いつもなら軽口の一つでも飛んで来そうなのだが、隣にいるユウを見ようとすれば、此方に凭れてきた。

 

「ふぇぁ!?ユウ!?」

「寝てるだけよ、あの時からさっきまでずっと思考実験を繰り返して眠ってもないんでしょう」

「………そうなんだ」

 

ユウには何の得もない。本当に私を助ける為だけに無理をし続けた結果。

私の膝を枕にしているユウの頭に手をおいて撫でる。

 

ありがとうの意味を精一杯込めながら。

 

 

 

 

 

 

「フェイト、頭を撫でるのは止めなさい。凄く、至極、非常に非情になってソレを壊しそうだわ」

「母さん…落ち着いてよ…」




~変身!
引き続き仮面バッターネタ。彼は悪の組織に改造されたので

~イヤーシマッタナー
ショウガナイヨー

~本の壁と塔
主人公の蔵書。実は無断拝借だったりする。犯罪ではない

~55万程度の思考実験
並列演算を高速で繰り返し、さらにソレを分割された思考全てを投入。三日間飲まず食わずで呼吸のみをしていた結果
主人公の中で当たり前のように語っているのはソレ以上の思考実験を過去にしているから

~【アンヘル】
ようやく書けたロストロギア。触手。ビバ触手。エロの集合体。これを書きたいが為にこの小説は始まったと言っても過言ではない。過言では、ない!
伝承では『人を喰らい世界を破壊する、悪意の塊。宿主には忠実だが、宿主を喰らい続け、宿主を殺す』。
他人に巻き付けたところで侵食はされないが、宿主の命令さえあればソレに従う。
魔力を喰らい、溜め込む性質があり、プレシアが求めたのは此方の能力があったため。
触手全てに触覚があり、女性に巻き付けたり、口の中にいれたりすると宿主が幸せになれる。女性にはトラウマが埋めつけられる。


~アトガキ
戦闘回数一回で無印期終了です。
まぁ戦闘するようなキャラじゃありませんし。仕方ないよね!

ここまで書き上げて、向けられた感想が
『作者厨二病すぎる』

『マルチタスク関係』

『スメラギ殺していいんじゃない?』
です。
スメラギ君にはまだ生きてもらいます。苦痛だって?きっと彼をフルボッコできますよ。



予定では圧縮されたランサーを360°全角度から打ち続けたり、バインドからの収束砲は勿論のこと、彼の能力を解析魔術行使しながら、無力化させて達磨とか。
いやぁ、楽しみですね。四肢を切り落として憐れに逃げる虫を踏み潰して遊ぶのは、非常に楽しそうだ。


結構先の話なんですけどね。

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